一人の人間にできる事は少ない。



ならば沢山の人が集まればいいのか。



しかし、沢山の人々の動きは遅く、動き出したら止まれない。



どちらの方がいいのだろう?



目的を持つ事と流されて生きる事。



目的を持ち生きる事は人生に張りが出る。



しかし、それが失われた時の後悔は果てしなく大きい。



流されて生きるのは楽でいい、



しかし、最後には何も残らないだろう。



どちらがいいのだろう?



どちらを選んだら間違いという事ではないのかもしれない。



でも、どこかで優劣を付けたがるのが人間。




それだけが間違う事の無い真実なのかもしれない。


光あふるる場所
In a far star of the future



第十八話 「パーティ」



あれからサレナは発信機をたどってミーヤの動きを把握、接触した人物をリスト化してみたが、

挨拶以上の事をしているのは7人ほど、そのうち夜に接触したのは一人だけだった。

しかし、その後は数日夜に誰かに会いに行くような事はない。

どう受け取るかは難しい所だが、ほぼ確定と言っていいのかもしれない。

その夜の接触者はトモエ・マルグリッドだったからだ。


「マスター、彼女の処置はいかがいたしますか?」

「……放っておけ」

「しかし、マスターに危害が加えられる可能性が……」

「監視だけはしておくといい」

「……了解しました」


サレナはどこか不服そうに返事をする、

確かに向こうから仕掛けてきたという証拠があれば方法はないでもないのだろうが、証明する手立てはない。

今の状況ではミーヤは上げられても、トモエまでは届かない。

今回は失敗したのだから警戒心も上がっているだろう、うかつな事をすれば結局こちらが悪い事にされかねない。


「ここで世話になっているうちは、あまり波風を立てたくないしな」

「分かりました、ただ、マスターに危害が及ぶような事態になる場合はその限りではありませんが」

「ああ、とはいえ、トモエとか言う少女の本来の狙いはアリカだろう、そちらの方が心配だな」

「そうとも言い切れません」

「?」

「国の支援を受けていた場合、マスターを自国に呼び込むためあえてガルデローベから出すということも考えられます。十分にご注意を」


ガルデローベと正面からやりあうつもりで俺の拉致まで考えているとは考えにくいが……。

サレナの注意にとりあえず頷いておいた。


「あーっ! いたいた!」

「?」

「アキト、こっちに来て! こっち!」


校舎前でアリカが突然声をかけてくる。

アリカは登場した勢いのまま俺の手を引っつかむと、俺を引っ張って特別教室の一つへと向かう。

教室内に招き入れられた俺は一瞬唖然とした。


「「「「お帰りなさいませ、ご主人様!」」」」

「何事ですか!?」


思わず背後にいたサレナが身構えながら俺を庇う位置に移動する。

いや、危険はないと思うが……。

なんだこりゃ?


「いったいどうしたんだ?」

「ささ、まずはこちらへ。くつろいでくださいまし」


今までのガルデローベの制服もいわゆるエプロンドレスでメイドの変形だったが、今皆が着ているのはメイド服そのものだ。

ここにいるのはガルデローベ星組の半数もいない程度だろうか?

しかし、皆嬉々として走り回っている。

お祭り騒ぎのようだ。

そんな中で俺は中央にしつらえられたテーブルの前に座らされる。

サレナも戸惑っているようだ、いつの間にやら俺の隣に座らされていた。


「ご主人様、昼食は何をご所望ですか?」


ニコニコしながらイリーナが俺に尋ねてくる、眼鏡をかけているのでメイド服には微妙にそぐわないようにも見えるが、

一部の人には需要が高いかもしれない。


「その前に何がやりたいのか教えてくれ」

「えー、もうちょっとノリで理解してくださいよー」

「あはは、駄目だよイリーナちゃん、サプライズなのはいいけど主賓にまで役割を強要しちゃ」


いつもながらほんわりして見えるエルスがイリーナをなだめる。

イリーナは少しすねて唇をとんがらがせているが(汗)


「実は前々から歓迎会をしようと思っていたんですけど、色々ありましたし、今頃ようやく時間が取れたので。

 普通にやっても面白くないかなって、それで皆で考えてたんです。

 いっその事、昔あったっていうメイドをしてみてはどうかなって。

 サレナさんの事も観察させてもらいながら文献を見つつ何となくマシロ陛下の下で働いているアオイさんのような仕事じゃないかって」

「……参考文献の中にメイド喫茶ってなかったか?」

「ありました! ここの飾りつけとか、料理とか挨拶の仕方はその文献で勉強したんですよ♪」

「はははは(汗)」


いやそれはメイドじゃないんだが……。

まぁ、マシロ女王の元でいるアオイという侍女はメイドそのものだというのは否定しないが。

というか、メイドというのは日本語的には侍女の事のはずなんだがな。


「まっ、硬いことは抜きにして。楽しんでってよ♪」

「はい! 料理は何人かで既に進めていますけど、特に食べたい料理とかないですか?」

「そうだな、じゃあパエリア……」

「パエリアでいいんですか?」

「あっ、いやすまん……お任せで」

「えっ……はい、分かりました」


基本的にここの料理はフランス風なものが多い。

もっとも本来の事を思えばかなりチャンポンではあるが……。

オーダーを受けたエルスが部屋を出て行く。

困らせてしまったかな……。


「既に基本的な料理とかは二ナちゃんが指揮をとってやってくれてるから、半時間もかからないと思う」

「なるほど」


まぁアリカがかかわっていないのは行幸だろう……そういえばアリカも入り口に案内する所までいはいたが今はいないな。

少し気にはかかるが……。


「それじゃ、始めちゃいましょう!」


テーブルの上には所狭しと飲み物やお菓子などが置かれている。

ただし、全てが手作りという事が凄い。

俺に食べさせる料理もこれから作るのだろうが、それで待たせてはいけないと思ったのだろう。


「流石だな、皆十代なんだろう?」

「はい、よほどのことが無い限り14か15くらいが普通です」


笑顔で答えたのはエメラルドブルーの色をした髪をセミロングにした少女。

落ち着いた物腰で、柔和な顔をしているが、目がそれを裏切っている。

目だけは油断なく俺を睨みつけているように感じた。


「マスター、彼女が例の……」

「そうか、君がトモエ・マルグリッドか……話は聞いている」

「嫌ですわ、どのような噂ですの?」

「そうだな、君が優秀だという事をね」

「そう言って頂けると嬉しいです、でも私はコーラルでは二位に過ぎませんもの、本当に凄いのは二ナさんですわ」

「そういう見方もあるが、それぞれ才能の形は違うからな」

「褒め言葉としていただいておきますわ」

「ああ、今後は良好な関係で行きたいものだな」

「はい、お目に留まるように頑張らせていただきます♪」


トモエは終始笑顔で俺に対応していたが、少し眉が動いていた。

しかし、この年齢でここまで出来るなら、政治家などになるのもいいのかもしれない。

多分……悪徳政治家だろうが。


「テンカワ先生! そういえば奥さんいるって事でしたけど」

「あっ、ああ……」


生徒の一人が俺に質問を投げかけてくる、何人かの耳がピクリと動いたような気がしたが、たぶん気のせいだろう。


「その、結婚されてからどれくらいですか?」

「一応3……いやもう4年かな」

「ここに来るまではずっと一緒におられたんですか?」

「いや……結婚後は色々あった……多分披露宴が終わった後から同じ所にいた事もないよ」

「……それって」

「離婚手続きこそしていないが、俺は死亡扱いだろうしな……。少し感謝もしている、この世界に来れた事に」

「そんな……」


この場で語るような事ではなかったな、しかし、不思議と軽い気持ちで話す事が出来た。

多分それだけ俺がこの世界に馴染んでいるという事だろうか。

ほめられた事ではないのだろうが……。


「あっ、そろそろ料理が来る頃だよ! さあさみんな準備しよ!」


イリーナが気を利かせてか話題を変えようとする、料理が出来たというのも本当らしい。

二ナやエルス、いつの間に向こうにいっていたのかトモエも料理を運んでくる。

他にも数人がかりでテーブルを埋め尽くす量の料理が出される。

コース料理ではなくパーティ料理という事か。


「しかし、これだけの料理、揃えるだけでも大変だったんじゃないのか?」

「大丈夫よ、将来マスターに仕える時の予行演習という事で許可は貰ってあるわ」

「二ナか……君は」

「演習である以上、こういったこともポイントにはなるから、気にしないで楽しみなさい」

「ああ……」


二ナは仏頂面をしたままそう言った。

ばさばさの短いツインテールがまるで角のようではある。

ナオから少しばかり事情を聞いたせいで今ではこの反応の意味も分かる。

彼女の表情を和らげる事が出来るのはセルゲイ・ウォン少佐だけという事のようだ。

そう考えている間にも料理は並べられていき、歓迎会の準備は整ったようだ。


「おお、出来ているようだな。まあ公の場でしか殆ど会っていないから仕方ないが私も歓迎しているんだぞ?」

「もう、ナツキは気が多いんやから、でもテンカワはんは男としてはギリギリ合格点をあげてもよろしおす。

 ナツキに手をださへん限り……どすけど」


学園長ナツキ・クルーガーと五柱の一人シズル・ヴィオーラ。

二人ともマイスターオトメであるのだから戦闘力は凄まじいものがある。

しかし、この場では特に警戒しなくてもいいようだ。

とはいえ、シズルは一瞬寒気を催す目で俺を見ていたが(汗)


「おーやってるねー、パーティなんてガラじゃないけど、まぁ料理だけは貰っておこうってね?」

「もう、ナオさんもう少しおしとやかに出来ないんですの?」

「はっはっは、そりゃドリルには負けるって」

「なんですって!?」

「あっ、ごめん、ドリルじゃなくて渦巻きだっけ?」

「ぐぬぬぬぬ!!!」

「もーやめなよ、シホちゃんも、ナオちゃんも」


漫才しながら二人のパール(二年)の子が入ってくる。

ナオともう一人は、ピンク色の髪を4つの尻尾にした少女だ。

ダブルツインテールというか、フォーステイルとでも言うか(汗)

後は、前髪が短くておでこが広く見える。

とはいえ、4つとも渦巻状になっているしっぽの方が印象的だが。

なんにしろ、彼女はナオと張り合っているらしい。

どちらかというとナオに遊ばれているように見えるが。

ナオの赤毛がその少女と比較して目立つというのも二人のバランスを端的にあらわしているだろうか。

そしてその後に続いて入ってきた少女……前に一度会っているな。

名前はアカネ・ソワールだったか、どちらかといえば印象の薄い少女だな。

パールのナンバー1らしいのだが、一番普通に見える。

ソバージュ風にした栗毛のセミロングヘアが特徴といえば特徴だが目の前の二人の印象が濃すぎて殆ど心に残らない。

ナデシコでいうジュンの様なイメージが……。


「おおっと、これはお嬢さん達もここにいたのか、男の歓迎会なんてあまり集まらないかとも思っていたけど、流石はアキトだね。

 こりゃ僕もうかうかしてられないかな?」


そういってウインクを飛ばすのはチエ・ハラード。

男装の麗人のように振舞っているが、実際は男装をしているわけではない。

パールのメイド服の様な制服を着て尚、男装の麗人風に装っているのだ。

何とも変わり者だが、実力は温泉の時に見せてもらっている。

オトメ候補としてはかなりレベルが高いのだろう。

この娘よりアカネという少女の方が成績がいいのは不思議ではあるが。

座学は彼女よりアカネの方が良さそうではある。


「こらー! わらわを無視してこんな楽しそうな事をやるとは何事だ!!?」

「ナオーン」

「内輪ですし。招待されるようなものじゃないんじゃ……」

「そんな事はない! わらわはアキトの雇い主なんじゃぞ! いわば主賓のようなものじゃ!

 わざわざガルデローベにも貸し出してやろうというのだから感謝せよ!」

「あはははは、そういうわけでマシロ様も加えていただけないでしょうか?」


マシロ女王が額にばってん傷のある黒いブタ猫、名前は確かミコトだったかな。

を抱きしめながら飛び込んできた。

うしろに控えている三つ編みの少女がアオイ。

格好はまるっきりメイドそのものなのだが、過去文献の無い今はメイドというものがよく分かっていないらしい。

マシロ女王は少しだけ紫がかった銀髪で、服装の事もあって印象的ではある。

ちょっと生意気な子供というイメージそのままでもあるが。

そういえば最近はあまり会っていなかったな。

護衛できる状態じゃないから仕方ないのだが。

表向きは……。


「それより、最近あまり顔を出さないようじゃが、あくまでガルデローベはバイトなのじゃという事を忘れておらんじゃろうな?」

「分かっているさ、だが現状では護衛はサレナの方が向いている」

「それでも、今後は一日一度は顔を出せ!」

「……分かった」


マシロ女王は怒っているようなのだが、ついついほほえましいと感じてしまう。

こういうわがままなら別にいい、だが彼女の場合もう少し地に足をつけないと政治というのに飲まれてしまうのではないかと心配だった。

国の状況も芳しくない、俺ができる事はそう多くないが、何とかできればと考える。

しかし、今の所いい方法は思いつかなかった。


「あー、マシロちゃんも来てたんだ! 今日はアタシも腕を振るったんだよ! 食べて食べて♪」

「ちょっと待て! 料理というのはその異次元生物の事か!?」

「えー、異次元生物は酷いなー、見た目は悪いけど美味しいよ?」


アリカ……いなくなったと思っていたらやはり恐怖の料理を作っていたか……。


「ええい、一体どういう材料を使えばそんなピーッな料理が出来るの だ!?」

ピーッは酷いじゃない、もう、ちょっと食べてみれば分かるよ!」

「アキトすら一撃必殺だったときいたぞって、近づけるな! ちょっやめっ、んがんぐっ!?」

「どう?」

「△!★!○?☆■!?」


あっ、泡を吹いて倒れた……。

こういう場合毒殺になるのだろうか?(汗)

どっちにしろ、これは不味いな。

出来るだけ穏便にすまさないと……。


「大丈夫か?」


俺はマシロ女王に近寄ると抱き起こしながら状態を見る。

どうやら気絶しただけのようだ。

俺は謝った後、気絶したマシロ女王をアオイに引渡した。

その後アリカに向き直り、音が出るくらいアリカの頬をぶった。


「アリカ、どうしてマシロ陛下に食べさせた?」

「えっ……だって……」

「今日お前がやった事は毒殺と疑われても仕方が無い事だ。それは分かっているな?」

「そんなつもりじゃ……」

「お前は料理を作る時に味見をしているか?」

「うっ……」

「料理は愛情などとはよく言うが、それに甘えて味の研鑽を怠るのは問題外だ。

 愛情とは、研鑽の深さ、食べる人を思ってどれ位研鑽したのかという事だ。

 勢いだけで作った料理が他人にも受け入れられると思うな!」

「……ごめんなさい」


場内がシーンと静まり返る。

アリカは居たたまれなくなったのか、会場からとぼとぼと出て行った。

だが、俺が嫌われ役になる事で、どうにか実質的な罰は誰も言い出さなかったようだ。

それでよしとしよう。


「あの、料理が冷めちゃいますから……」

「あっ、すまないな」

「いえ、アリカちゃんの事は任せてください」

「頼む」


エルスが場の雰囲気を直すために声をかけてくれた。

俺はエルスの方に向き直り少し表情を和らげる。

エルスの方は少しだけ間を空け、アリカのフォローを言い出した。

確かに、気分を落ち着ける間は必要だろう。

俺はこのままその場に残り、エルス達にアリカを任せることにした。


途中そういうことがあった割には、その後何事も無くパーティは終わりを迎える。

途中マシロ女王の気がつき暴れだしたり。

チエが女の子達を誘惑していたり、学園長のナツキと話していてシズルに絶対零度の目で見られたり。

サレナが過剰反応して一瞬会場が吹き飛びそうな事態に陥ったりと色々あったが、それもいつもの事。

パーティが終わり、俺は生徒達に礼を言ってから会場を離れる事にした……。


















「やあ、どんな調子だい?」


14歳という年齢にはふさわしくないほど背が低く、白髪赤目の不健康そうな少年、ナギ・ダイ・アルタイ。

謀略を以ってアルタイ公国大公の座についたと噂されるその少年は、自分の城の地下室にやってきている。

ナギが声をかけたのは、白衣を着た研究員。

城の地下で発掘されたあるものを研究しているものたちだ。


「そうか、あれは役に立ったんだね?」

「はっ、資料を基に研究した結果、大体の原理が分かりました。

 この装置では現象を起こす事は出来ないようですが、その条件下で起こされた現象を引き寄せる事が出来るようです」

「んー、それほど便利な物じゃないね……」

「いえ、あれと同種のものを引き寄せる事ができれば……」

「そういう使い方もあるか、なら頑張ってくれたまえ。上手く行けば君を新設される科学技術庁の長官にすえてあげよう」

「ありがとうございます!」


ナギは人材活用に血筋を重んじない、貴族勢力はそれを良く思っていないが、

今まで実力で刺客を退け、逆に他の公子達を全て殺して成り上がった虐殺公子として名が知れている。

つまり、表立ってナギに逆らう事がどういう事か皆知っているという事だ。


「さーて、僕はまたヴィントに行かなくちゃ。仕込みも最終段階に入るし、後はカルデアがどう動くかだね」


ニコニコしながら出て行くナギ、彼は来るべき戦争が楽しくて仕方ないという表情で地下から上がっていった。

残された研究員は、栄達を約束されたうれしさからその異常を感知することは出来なかった。





















「ほっくん、ほっくん? 一体どこにいくの?」


組み傘の男に話しかける赤い髪の少女。

少女はポニーテールを揺らしながら、組み傘の男の周りを跳ね回っていた。

組み傘の男は痩せてはいるが、どこか鬼気迫る表情で歩き続けている。

とはいえ、体の半分近くをメタリックな機械部品が露出している。

もっとも普段は外套に隠れて見えないのだが、それでも奇異の目で見られる事になる可能性は高かった。

もっとも隣を歩く赤い少女ほどではないが、服装も含めて全てが赤いというのは目立つ事この上ない。


「夜天光……」

「はーい! 久々に話しかけてくれて嬉しい♪」

「宿を取るが貴様はどうする?」

「一緒に泊まる〜♪」

「……」


北辰は気まぐれでやーに質問を投げかけた。

スレイブというのは普通出たら出しっぱなしである、だが、アズワドで与えられたものは出し入れ自由のはずだった。

しかし、夜天光がやーになってからは戻す事が出来ず、目立つ事この上ない。

トラブルに巻き込まれることも多いため、ついそういう部分が気になったのだろう。


ここはヴィントとの国境に近いカルデアの都市<ネブカドネザル>。

砂船の寄港地でもあり、貿易港として栄えている。

そこにやってきた二人はかなり目を引いていた。

大体の視線は富豪の娘を誘拐したマフィアの鉄砲玉というイメージで一致していたが、それだけに近づこうとする人もいなかった。

あまりの不審さに治安警官隊(警察のようなもの)が動いたときもあったが、娘一人に倒される始末、

上層部に報告も出来ない危険人物として指定されていた。


場末の宿にたどり着いた北辰は躊躇なく中へ入り込む。

宿代は安いかもしれないが、泥棒宿の可能性もあるような所である、普通地元のゴロツキくらいしか集まっていない。

そんな場所を選んで泊まっているのは、北辰にとってもそういうことが感心に無いということと同時に、

どこかで闘いを求めているからかもしれない。


「……」

「やーとーちゃくだよ!」


こういう宿屋の常として一回は酒場を兼ねている。

喧騒に満ちていた周囲の空気が凍りついたのを無視して北辰はカウンターに座る。


「焼酎はあるか?」

「やーはプリンパフェ♪」


結果から言うと二人の注文は受け入れられることは無かった。

メニューに無いのだから仕方ない、ここまでは別に宿のせいというわけでもない。


「お子様連れでこんな所に来るんじゃねーよ」

「でも、結構可愛いぜ、服装はイカレてるがこれなら……ジュルリ」

「ケッ、ロリコンが、しかし、あの男一体何なんだ?」

「どっちにしろここに来たときの礼儀を叩き込んでやら無きゃな」


客席の酔っ払いどもが騒ぎ出す。

もともとチンピラの溜まり場なのだ、客の質もとことん悪かった。


「ねぇねぇ、ほっくん」

「……」


仕方なく安ワインを口にする北辰に向けてわくわくして問いかけるやー。

周囲からは奇異に見える光景だったが酔っ払いにそれを分かるだけの理性は残っていなかった。


「好きにしろ」

「やったー!」


北辰に許可をもらったやーはニコニコしながらチンピラたちに向き直る。

流石に少しその異常性に気付いて距離をとろうとするものもいたが、既に遅かった。


「無視してんじゃねぇ!」


じれて北辰に殴りかかろうとしたチンピラの動きが合図になった。

チンピラのパンチは北辰に向けて突き出される。

しかし、その直前何かによって阻まれた。


「いけないよ、ほっくんはゆっくりお酒を飲むんだから、邪魔したりしちゃ……めっ!」


筋骨隆々のチンピラの拳を片手で受け止めながら、もう一方の手でデコピンを繰り出すやー。

その一発でチンピラは数メートルも吹っ飛んで気絶した。

あまりの出来事に一瞬チンピラたちは無言になる。


「こっ、この化け物!!」

「もう、女の子を化け物よばわりなんて、いけないんだよ?」


やーは破れかぶれになって突撃してきたチンピラBの腕を取りボキリッという音が出るまで捻じ曲げた。


「おしおき♪」

「グギャァ!!!」

「くそ、全員でかかれ!!」

「「「「「「おう!」」」」」」


焦りながらもナイフを出したりビール瓶を構えたり、それぞれ武装をしてから残っているチンピラは一斉にかかってきた。

やーはそれを見て少し失望したようにため息をつく。


「もう終わり? なんだか早いね」


そう言うとやーは目視できないほどの素早い動きで7人を2秒とかからずにノックアウトした。

後に残ったのは死屍累々と出も言った方がいいような気絶した男の山である。


「ほっくんほっくん♪ うまくやったよ? ほめてほめて♪」

「……殺さなかったのか?」

「うん♪」

「そうか……」


視線をめぐらし北辰は不思議に思う、手加減など教えた覚えは無い、にも拘らず殺さなかった。

確かに、無駄な殺しは敵を増やすだけで意味はない。

しかし、なぜやーがそのような事をしたのか理由が知りたいとも少し思っていた。


「部屋に行くぞ」

「ちょうめん書かなくていいの?」

「構わないな?」

「はっひぃ!」


北辰が酒場のマスターに聞いたが悲鳴に近い返事が返ってきただけだった。

こういう宿は大抵酒場のマスターが宿屋の主人も兼ねているのであえてそれ以上を問わない。

やーは部屋の鍵を一つつかむととてとてと北辰についていった。

酒場のマスターの前に残されたのは惨憺たる惨状と、酒代には多いが破壊されたものを弁償するには足りない程度のお金だけだった。
















その日の夜、俺の部屋の前でノックをする人物がいた。

大体は予想がついていたが、俺自身少し心の準備が必要な事でもある。

以前は自己嫌悪に潰れそうになったソレを相手に示すというのは……。

それでも、俺は数秒後には扉を開けていた。


「来たのか」

「うん、お昼はごめんなさい」

「いや、俺もカッとなった部分があったかもしれない。気にするな」

「ううん、アタシ、料理はばっちゃに教われなかったから、不味いのはどこかで分かってた。

 自分一人で砂漠とか抜けていくときは食材なんて殆ど無かったし、調理って言っても火を通すだけだったから。

 食材が多いとつい必要が無くても沢山入れちゃうんだ、だから……」

「理由はわかったが、オトメとやらになったら主の衣食住も考えなければいけないんだろう?」

「……うん、だから!」


アリカは決意の表情で俺を見ている。

真剣な目を見れば何がしたいのかは判る。

俺はゆっくり続きの言葉を待った。


「だから……アタシに料理を教えて! アキトは地球で料理屋をやっていたことがあるんでしょ?」

「……」


言われた俺は、その言葉を反芻するかのように言葉を出さずに腕を組み続ける。

気構えという部分もあったが、何のことは無い料理に携わるのにまだためらいがあるのだ。

それでも、アリカの真剣な表情を見ていると、俺も何とかしなければと思えてくる。

俺はゆっくりと首を縦に振った。


「いいだろう、ただし、俺は手加減はしない。それに俺の料理は大衆料理が中心だ、王侯貴族のお上品な舌に合うかどうかは分からん」

「それでもいい! それに他の人は教えてもらえるだけの時間が無いし」

「……」


俺が暇人だといいたいのか、否定はしないが(汗)

多分それだけマシロ女王を見返したいのだろう、それにお詫びの意味もあるのかもしれない。

しかし、こういう部分を見ていると普通の子供なのだと思えてくる。

この子達がいずれ戦争の切り札となり、核に匹敵する兵器として見られることになるとは信じられなかった。

俺は矛盾しているのだろうか……俺自身は一体何がしたいのか。

アリカのまっすぐな目を見ながら俺は自分が酷く中途半端なのだと自覚させられた。



本当はこんな子供達に戦争をさせる世界というのはいびつなのだろう。

しかし、俺はルリちゃんやラピスを見てきている、いびつでない時代というのはあったのだろうか。

彼女達に戦争をさせないというのは、国家の仕事であって、

戦争のシステムそのものを変えようとするのは結局ひずみを生む可能性を否定できない。

21世紀の核による軍事バランスと同じなのだとすればなお更だ。

俺にできる事はただ少しでも彼女らが生き延びる事の出来るように気を配ると言う程度の事だろう……。

それすら間違っているのかもしれないが……。







あとがき


えらい間が空いてしまってすいません。

仕事が忙しかったのも、ちょっと鬱だったのも事実ですが、

正直普通の話というのが難しくて(汗)

私個人としてはそろそろ話を進めたいと思ってしまうんですが。

キャラを出し切れていない上に、緩急でいえば山場を一つ終えた所である今は緩であるため、ゆったりと行かねばという思いもありまして。

もうシホとアカネは細かい所省こうかしらん(汗)

でもアカネはカズヤのほうもあるしなー。

一応一回は紹介しておかないといけないか……。

五柱は適当でいいかなぁってちょっと甘い事を考えてます。

サラは多分結構活躍すると思うけどマーヤは微妙かな(爆)

それとは別に早い事少年(名前募集中)の方もなんとかしないといけないし。

当然勢力的にそろそろカルデアも紹介していかないといけないわけで……。

後は、トキハ姉弟の弟の方はマシロの失恋相手ですが、今回それはあまり必要ないから、どんな役割を与えるべきか。

国の動向は色々はさんで行きたいですしね、迷ってますー。

今回、本来北辰&やーの出番は無かったのですがちょっと感想に煽られて入れて見ました!(爆)

今後もこのような事があるかもしれません。

気分屋ですのでー(爆死)

そういうわけで、こんな私ですが見捨てないでやってくだされば幸いです。


拍手頂きいつも感謝しております!
コメントには勇気付けられてもいます。

ただ、今回申し訳ないのですが、初日である5月30日分を紛失させてしまいお返事する事が出来ません。
大変申し訳なく思います。すみませんでした。
大変あつかましくはありますが、出来れば今後も書いていただける事を期待しております。

それでは、5月31日分以後のお返事をさせていただきます。

5月31日
0:39 帰ってきましたか!次回が楽しみです!!
ありがとうございます! 遅れに遅れましたがどうにか書ききる事が出来ました。
今後ともよろしくです!
 
1:07 更新お疲れ様です。続き待ってました!!
1:09 ワルキューレ部隊の性悪女ことトモエ嬢が登場しましたね〜 
1:11 ココで電波な入れ知恵・・・トモエの声優さんは「プリキュアマックスハートのルミナス」と同じ人・・・
1:12 つまり、マテリアライズの際に・・・(邪笑) 
1:12 ではでは、次回も楽しみにしています。 
そう言っていただけると嬉しいです♪ トモエはまあ序盤にはいい悪役なんですがね、実際はあまり活躍の場を用意できるか自信は無いです(汗)
でも、ネタは貰っておきますよ♪ キャラが壊れないか心配ですが(汗)

1:12 「北辰が縦ロール……面白そうだ(ニヤリ)」マズイコト言っちまった!? 
はっはっは、ネタはストックしておくものですよ。ただどういう使い方になるかはまだ不明ですが(ニヤリ)

1:43 やったー:^^: 
喜んでくれてなによりです♪ ですが今回時間がかかって申し訳ないです。

1:52 まさか教師とは、驚きました。 
1:52 北辰とやーの組合せが面白いです、外道は認めるが変態ではないと否定するところがいいです。 
ははは、ネタな部分ですからねー、でもはじけるのって難しいので中途半端になっていないか心配です。

1:53 待ってましたーーーーーーーーーーー!! 
ありりですーーーーーーー!! でも今回遅くてごめんなさい...............orz

18:26 前回から気になってしょうがなかった続きが見れた!更新お疲れ様です。今回も面白かったです 
18:28 鳩さんの描かれる北辰やーちゃんコンビ、スゲー好きですw 
はっはっは、言わなくても大体だれたか分かるようなコメントですな♪(爆死)
今回も大サービスでほく&やー増量中です♪

6月4日

21:17 これはオフレコにしといた方が良いと思って前回直接書かなかった訳ですんで勘弁を 
21:18 実は乙Z3でマシロ姫が風花学園を釣り上げるというシーンがありまして、 
21:19 TVでミユが導きの星を光らせる際にも風花学園の内部に入っている事を考えると、 
21:21 最終巻の4でその辺の、「見逃すには美味しすぎるネタ」を逃してしまうかもと懸念した訳でして。 
21:22 まあ、乙Zはようつべでも見れる様ですんで、まあ、一度確認したってください。(美味しいネタ大杉ですんで 
21:22 以上、まだ見てない人のためオフレコにてお願いします。 
21:25 あとこれもオフレコで。CDドラマによれば、トモエ シズル ナツキの3人はほぼ同時期(ナツキ入学直後) 
21:28 (トモエは無断進入で遭遇、その頃は清純なカンジ)に出会ってる。 というのを 報告しておきます。
色々ありがとうございますー。
幸い3までは見ることが出来ました、あれが本当に風花学園なのかどうかは分かりませんが、
一つだけこのSSで決っている事があります、それはこの星は地球ではないと言う事です。
そのためもし舞乙Zと矛盾する事になってもそこだけは通す事になると思います。
どんでん返しのための仕掛けを無くすわけにもいきませんし……(汗)
結構終盤の要ですのでその設定は。
(多分私の作品は舞乙Zと同じように根幹を表そうとしているので矛盾する可能性が高いです)

6月10日
1:48 更新久しぶりですね!お疲れ様です 
ありがとうございます、今回遅れましたが次回も頑張りますのでお許しを(汗)

6月19日
16:27 やーちゃんのイメージボイスやりたいです! 
おおーー、嬉しい事を言ってくれてます♪
もし、本気でやってくださるのでしたらメールを下さい。
お手数ですがTOPページ下のやつでお願いします......................orz
私はいつでも大歓迎です! 1


それでは、みなさん今まで遅れましたが今後もがんばって行きます!


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