私は何がしたいんだろう……。
皆で笑いあって、勉強して、楽しい日々を過ごす。
本当はそれだけあれば十分だったのに。
でも、私は裏切ってしまった。
家族には、この世界の歪みを教えられて育った。
この世界は変革しなければならないのだと……。
私は、いつもそうあるよう育てられた。
ガルデローベは初めての自由な場所。
でも私は命令に逆らえなかった、私の根本はきっと教えに逆らえない。
命を散らす事になっても、それは、私にとって絶対だから……。
だけど……。
本当は……。
光あふるる場所
In a far star of the future
第二十三話 「エルスティン・ホーという少女」
サラは途方にくれていた、とりあえずは全員をガルデローベ諜報員の隠れ家の一つに潜伏させる事ができた物の、
戦力はボロボロ、既に警戒線を張られており、ヴィント市脱出は困難だろうと思われた。
更には、エルスティン・ホーのスレイブの件もある。
正直あの巨体をここまで運び入れるのはかなり無茶だった。
胴体だけになっていたお陰で一応放り込んでみた物の、まさかこんな物を連れて脱出も出来ない。
アキト、サレナの両名は意識不明、エルスティンは拘束している。
アリカとイリーナはアキトやエルスティンの様子を見ている。
特に、エルスティンに対する表情は複雑で、どう対処していいのか迷っているようだ。
マシロ元女王は現状に対する不安で震えており、アオイが必死になだめている。
「このままじゃジリ貧ですね……ガルデローベのほうも連絡がつかないし……。
カードになる可能性のあるアキトとマシロ元女王は兎も角、この際それ以上を抱えるのは……。
でも現状で見捨てるというのも……どうしようかしら、こういう時にマイスターが私だけと言うのはつらいですね」
サラのそれは独り言ではあったが、周囲の人々にも聞こえていた。
というか聞かせたのだ、現状の確認の言う意味も込めて、しかし、それはアオイの激発をよんだ。
「そんな、姫様を物のように言うのはおやめください!」
「でもこのままではそうなりますよ?」
「それは……そうですが」
「待って! ここで仲間割れはやめようよ。一つも得はないよ?」
簡単にいなされた感のあるアオイだったが、目は不満を訴えている。
それを見かねてアリカがわって入った。
更に、イリーナが引き継ぐ。
「あの……一つずつやっていけばいいんじゃないですか?」
「一つずつですか、先ずはどうするんですか?」
「まずはテンカワさんの状態を確認して、可能ならジェムを提供するべきだと思います」
「ジェムの提供ですか、でも、提供したとしても調整は難しいと思いますよ?」
「それは……アタシがやります。きちんとした調整は設備がいるけど、当面でいいのなら私の持っているツールだけでも何とかなると思うし」
「そうですか、ではお願いします」
「はい、じゃあアタシのジェムを……」
アキトの状態確認はサラが行っていた、疲労は大きいが、肉体的な損傷は大した事は無い。
起こすのは難しくなさそうではある、逆にサレナの方の消耗が酷いように見える。
サレナは所々ショートでも起こしているのか火花が散っているように見える、とはいえ、初期よりは随分落ち着いてきたのだが。
脱出時、サラは放置していくかどうか迷ったほどだった。
「じゃあ、私もやりますか」
イリーナは工具を取り出し自分のジェムをいじろうと耳タブにつけてあるピアス状の赤いジェムを取り外そうとする。
しかし、そこで静止の声がかかる。
「ちょっと待って、アタシのを使って」
「え?」
「アタシ一応マシロちゃんと契約したからコーラルのジェムを使わなくてもいいし」
「なるほどね、でもアタシだってジェムだけじゃローブ使えないから一緒だけどね」
「でも、一番いい方法だと思う」
「そうだね、じゃあ遠慮なく使わせてもらうわ」
イリーナはジェム調整用の特殊な工具を持ってきていた、こういう場合は想定していなかったが、
アキトのジェムが破損する可能性はかなり高いと踏んで科学主任のヨーコ・ヘレネから借り受けておいたのだ。
実際この年齢で携帯電話を自己流で作り上げただけはあり、その手の調整もなんなくこなした。
「さてっと、とりあえず調整はこんな感じでいいはず……」
言っているわりには自信なさげにイリーナはそれをアキトの指輪に取り付ける。
割れたジェムは先に取り除いてあるのではめ込むのはさして難しくなかった。
しかし、それをはめ込んでもアキトに変化は無い、気を失っているようだ。
これでは、調整に問題があるのかどうか確認できない。
「じゃあとりあえずテンカワさんの事は起きてから考えましょう。
イリーナさん、サレナさんはどんな感じですか?」
「見た感じ、少しずつ回復してるとは思うけど、かなり時間がかかりそう」
「兎も角、自己修復してくれるのはいい事です。でもその時間があるのかどうか……」
それでも、アキトとサレナは何れ回復するというだけでも事態は好転した、
後は女王がいじけてしまっている事と、エルスティンの処分だろう。
サラは困った表情でエルスティンを見る。
暫く皆沈黙していたが、サラは説得するように話し始める。
だが、それでも裏切ったエルスティンをただで許すような条件を提示してはいない。
対してエルスティンは半場諦めたようにうつろな表情をしている。
アリカはそれに溜まりかね、なんとかエルスティンの情状酌量を訴えるべく言葉をつむぐ物の……。
「えっ、エルスちゃんは命令されてやっただけなんだよね?
エルスちゃんの意思じゃないよね?」
「……命令は……私の意志です」
「そんな……エルスちゃんはやさしい子だもん、そんな事……」
「私は……私の家は多くのオトメを生み出してきた……けど、時の権力者によって戦争のコマとして殺されたの。
何度も……何度も……残された家族は確かにお金には困らなかったけど、
つまらないプライドのせいで殺される家族を思って、いつも権力者を呪っていた……。
そんな事はもう終わりにしたいの、いっそ王家なんて滅んでしまえばいいと思っている……だから、これは私の意志」
「……」
エルスティンの硬い表情と真剣さを前に、アリカは固まってしまう。
エルスティンがこれだけの闇を抱えていたとは思わなかったのだろう、その溝は深いのかもしれない。
しかし、アリカはガルデローベでの生活を偽者だとは思えなかった、
どういえばいいのか分からないが、エルスティンが本心からそう思っているとは信じられない。
その事をどうにか口にしようとした時、背後から声がかかった。
「それはお前の意思ではないだろう?」
その言葉は、沈黙を打ち破るようにエルスティンの心に響いた……。
北辰とやーの融合形態とでもいえばいいのか、単なるやーの鎧化なのか、よくは分からなかったが、やーは北辰の鎧として現在纏われていた。
その事により、北辰の能力は数十倍、能力によっては100倍以上の増幅がなされている。
アキトとの闘いで試していた融合の形態を取るという事は成功したわけだ。
だが……。
「まだ慣れていない所為か、限界が近いな」
元々ジェムやスレイブというものの特性をまるっきり無視しての変身だ、完全に上手く行くはずも無い。
それでも、体内ナノマシンとジェムのリンクがたまたま上手く行ったからこそこういう風に出来ている。
それに、ローブとスレイブというものは同じ高次物質の塊、種同じ起源であることは明白だった。
だから、スレイブをローブ化する事は不可能ではない。
しかし、それをなす精神力は並では不可能だった。
北辰はソレを無理やり行っていたのだが……、そろそろ限界が来たらしい。
ガルデローベの警戒域直前で融合を解除した。
「ふぅ、ふぅっ、結構大変だねこれ」
「……どれ位可能だ?」
「んー、ほっくんのためなら幾らでも出来るよ? でも、きっちり動けるのは10分が限度かなぁ?」
「ふむ、そうか……お前はそこで休んでいるがいい」
「えっ、ほっくんやーを気遣ってくれるの? 嬉しいな♪ でも、大丈夫だよ?」
「我はガルデローベへの潜入を行わねばならぬ、お前は目立つ」
「え? この赤い服?」
北辰はそのことに答えず、さっさと歩き出していた。
やーにとってみれば難しい事を言われたと考える。
もっとも、北辰の格好も周囲から浮いている事についてはさして変わりは無い。
とはいえ、北辰にとってそうであると言う事はやーにとってもそうであるという事。
やーは、服装の上からマントとフードを被って姿を隠す。
「これでいい?」
「……」
北辰は無言で歩き出した、やーはそれを了承と受け取りついていく。
ガルデローベの外延を回りながらセキュリティの穴を探る、アキトを倒し損ねたとはいえ、約定をたがえるつもりは無いようだった。
得た力を試してみたいという事もあるのだろうが……。
薄ぼんやりとした意識で俺は周囲を見回す……。
俺は一体どうしたんだろう?
確か、俺達は戦場となるヴィント市から……そうか、確か俺は無茶な融合物質化のツケで……。
サレナ! そういえば、サレナは大丈夫だろうか?
俺は次第にはっきりとしてきた意識で隣のベッドに寝ているサレナを見る。
とりあえずは目に見えた破損は無いようだが……俺は立ち上がるとサレナに手を伸ばした。
「申し訳……ありません……」
「何を……」
「あの時、私はマスターをサポートできなかった……」
「それは違う、あの時の俺は頭の中が真っ白になっていた。そのせいで融合物質化を無理やり行う事になってしまった」
「大丈夫です……マスターが望む時が、私の使い時、私はマスターの剣であり盾……使い潰すのはむしろ当然です」
「そうじゃない、それは違うんだ……」
「私には遠慮しないでくださいマスター……私は人ではないのですから……」
「それは……」
俺は一瞬息が詰まる。
サレナは元々そういう思考なのだろう、俺は確かに元々サレナが本物かどうかすら疑い、完全に信用していない所があった。
しかし、文句を言うでもなく、俺にひたすら仕えてくれるサレナ……。
俺はこの忠実な存在に、何を返す事が出来るのだろう?
「お前は大事な戦力だ、だから……壊れるな」
「はい……マスター、お望みのままに」
「早く回復しろよ」
「はい」
サレナは背を向けようとする俺に微笑みかけたように見えた。
一瞬てれくさくなり、俺はその姿が目に入らないように振り返る。
この建物はさして大きいものではないのだろう、仕切りの様なものはされているが、全体を見ることが出来る。
建物内には二つの集団がいた。
一つは嘆くマシロとそれを必死でなだめるアオイ。
もう一つは大きなダルマ……いや、手足のもげたスレイブを中心にしてオトメ達が集まっている。
スレイブは以前より小さくなっている、3mはあった胴体が今は1m程度だ。
スレイブはある程度大きさを増減できると言う事だろうか?
俺は、スレイブに近づいていく。
スレイブは何か脈動をしているようだ、エルスティンが生きているのだからある意味当然ではあるのだろうが。
スレイブのリンクは肉体を傷つける、エルスティンも手足からかなりの出血をしている、実際に切れてはいないようだがそれでも重傷だろう。
血は止まっているようだが、ナノマシンの働きのお陰に過ぎない、まだ回復にはかなりの時間がかかる。
そんな状況下でもエルスティンは何とか意識を保ちそして、警戒をしているようだった。
いや……怯えているのか?
「私は……私の家は多くのオトメを生み出してきた……けど、時の権力者によって戦争のコマとして殺されたの。
何度も……何度も……残された家族は確かにお金には困らなかったけど、
つまらないプライドのせいで殺される家族を思って、いつも権力者を呪っていた……。
そんな事はもう終わりにしたいの、いっそ王家なんて滅んでしまえばいいと思っている……だから、これは私の意志」
「……」
「それはお前の意思ではないだろう?」
俺は会話に割り込むようにエルスティンの言葉に反論する。
見ていれば分かる、今までの教えと今の心が合っていない、だからこそ悪ぶって見せているに過ぎない。
エルスティンは真面目な少女だ、先ほど言った事とあわせれば経緯は想像がつく。
「テンカワさん……」
「アキト!?」
「おきたんですか!?」
俺の言葉にアリカやサラが驚く、それだけ会話に集中していたということだろう。
エルスティンは俺を見て一瞬悲しそうな瞳をし、それを振り払うように睨みつける。
「今の話を聞いていれば、お前の話が本物ではない事がわかる」
「何をいっているんですか! 私の家は「そこだ」!?」
「お前の家はそうだろう、しかし、聞いたところではここ何十年か大きな戦争は起こっていない。お前の家族は戦争で死んだか?」
「……いいえ」
「お前は家でそのように教育されたんだろう、しかし、お前の悲しみはそこにない。それは使命感だけだ」
「それは……でも、私は間違った事は……」
「間違っていると思っていないなら、今までじっとしている必要は無い。
逃げるなり、人質を取るなり、自殺するなりしてでも信念を貫けばいい」
「……」
「お前には迷いがある、だから中途半端な事しか出来ない……」
それは挑発の言葉、エルスティンは俺の言葉に息を呑み、そして睨み返す。
彼女は優しいのだろう、そして同時に愚かなのだ、親の教育に全面的に従うという従順さはあまり褒められた物ではない。
だが、それだけではないのかもしれない。
もっと根源的に何か……。
「でも、それでも私は……」
「だが、おかしいとは思わないのか?」
「……?」
「既に権力を追われ、権力への影響が薄い女王を殺すより、新たな戦争の火種となるカルデアを叩くべきだろう?」
「そんな事は……それに黒い手紙は絶対なんです」
「なるほど……」
そういうことか、ターゲットすら自分で決めたものではない。
指令が来たなら即実行、それはいわゆる自爆テロという代物だ。
宗教がその原因になる事が多いのだが、この場合確かにシュバルツは宗教といっていい。
彼女の唱えていた知識と知恵の神というのが、それだろう。
だが、宗教家を説得するのは難しい。
テロを起こすような排他的宗教は他の価値観を認めていない。
つまり、入り込む余地が無い。
だが……見た限りエルスティンはガルデローベに愛着を持っていてアリカやイリーナ、二ナ等とはかなり親しく付き合っていた。
もちろん、表面上だけという可能性はあるが、しかしそんな腹芸が出来るほどエルスティンの年齢は高くない。
それにもしそうなら、もっとうまく立ち回っているはずだ。
「お前の本当の望みはなんだ?」
「世界の不条理をなくし、科学によって平和な世界を実現する事です」
「それがお前の望みなのか?」
「はい……」
「だが、科学が発達している最中だった俺の世界でも争いは絶えなかった、結局戦争を起こすのは人であって武器じゃない」
「……」
「もう一度聞く、お前の本当の望みはなんだ?」
「私は……」
やはり、迷いがある……。
宗教の事を信じながらも、ガルデローベにいた頃の自分を否定できないのだろう。
「それに、私はもう駄目です。あのスレイブと同じように、私は両手両足が動かない……もう、駄目なんです」
「そんな!? エルスちゃん……」
「サラさんどうにかならないんですか?」
「ええ、今までスレイブを生きたまま捕らえた事はないから、スレイブマスターとの関わりもよくは分からないの。
多分、オトメのマスターとの関係と同じような物だとは思うけど……」
「そうか……」
ならば、彼女の持つ黒い宝石がジェム代わりという事か、ならば、介入できる可能性はゼロじゃない……。
高次物質を介在させるという事は異世界の法則を取り込むと言う事に他ならない。
つまり、ナノマシンでジェムのシステムに介入さえ出来れば物理的に可能かどうかはさして意味がない。
だから、俺は賭けに出てみる事にした……。
「お前の黒い石、少し借りるぞ」
「なっ!?」
俺は彼女が大事に抱える黒い宝石の先端に自分の指を押し付けて少し指先を切った。
エルスティンが驚いて引っ込めようとするが既に遅い、俺は黒い宝石をそのまま握りしめる。
黒い宝石が光りを放ち、スレイブを具現化しようと光を収束し始める。
その光を意思の介在で無理やり押さえ込み、逆流させてエルスティンのスレイブに送り込んでいった。
その事によって、ダルマ状態になっていたエルスティンのスレイブはビクリと反応すると、のた打ち回るように動き始める。
「何っ!? テンカワ……さん、一体!?」
「お前のスレイブに介入させてもらう」
エルスティンの内部でも違和感が起っているのだろう。
当然だ、感覚がリンクしているなら無理やり変革させられようとしているスレイブの悲鳴が伝わってくるはず。
それでも俺はやめようとせず、エルスティンのスレイブに自分のスレイブとなるはずの高次物質を送り込んでいく。
元々一つの石には一体のスレイブしか出現させられないはず。
ならば、逃げる事は出来ない。
徐々にスレイブは形を変えて最終的にはほぼ人型といっていいものに変わっていった。
「ふう……こんなものか」
「一体、わたしのスレイブをどうしたんですか?」
「俺のナノマシンで介入してスレイブを作り上げた」
「……じゃあ、私のスレイブは?」
「同化したはずだ、だから手足も動くはず……だが?」
「えっ!?」
「本当だ、エルスちゃん直ってる!」
「なるほど、考えたわねぇ……でも、無茶苦茶だわ」
エルスティンは両手両足を動かし確認をとる、どうやらうまくいったようだ。
アリカもイリーナも驚きを隠せないようだが、今までの経験上、融通が利くはずだとは思っていた。
確かオトメの場合、マスターがオトメ2人以上と契約している場合、オトメの死に対しては全員死ぬまで死なないらしい。
その事を考えれば十分考えられる事だ。
「でも、それじゃあ……あのスレイブは……」
「君と俺の兼用になるかな、ただ、それだけというわけでもない」
「え?」
そう言うと、俺はその人型をエルスティンの前へと移動させた。
手足を使うのではなく、空を移動させて……。
その姿は鎧といっていい形となっている。
つまりは。
「高次物質の鎧という形にした」
「じゃあ纏うことも出来るんですか?」
「そのはずだ、一応俺とサレナの融合物質化をイメージして作ったものだ。だから強くはなれるはずだ」
「そうなんですか」
「嘘、あれと同じなの? じゃあアタシも強くなれるかな?」
「多分ナノマシンの質が違ったのが良く働いているんじゃないかな? ローブとじゃ相性が悪そうだけど……」
「そっかー、両方は無理か」
興味津々といった感じでアリカとイリーナが覗き込む中、エルスティンは俺に視線を向ける。
「どうしてこんな事をしたんですか? 私……また貴方達を襲うかもしれないんですよ?」
俺は、エルスティンを覗き込むように顔を近づける。
エルスティンはいきなりの事にどうして良いのか分からず硬直しているようだった。
俺は、エルスティンの持っている黒い宝石のペンダントを取り上げる。
「あっ!?」
「お前にできる事は3つある、
一つは全てを忘れてガルデローベに帰る事、このスレイブが消えた時どうなるかは分からんが、一番安全だろう。
一つは自殺する事、そうすれば俺を道連れに出来る、少なくともマシロの戦力低下は狙えるはずだ。
一つは俺達を受け入れて共に行く事。与えられた命令には反する事になるがな。
もちろん、それ以外に無いとは言わないが」
「私は……私は……」
「お前はどうしたいんだ?」
「私の……したい事……」
「アキト追い詰めちゃ駄目だよ!!」
「もうちょっと穏便に……」
アリカとイリーナが俺にしがみついて、エルスティンから引き離そうとするが、俺はエルスティンの目を見つめて離さなかった。
エルスティンは一瞬目をそらそうとするが、何かを思い出したのか、俺を見つめ返す。
「私は……命令されると嫌といえなかった……」
「エルスちゃん!?」
「待って、アリカちゃん。最後まで聞いてくれる?」
「うっ……うん」
「私きっと自分の家族が間違ってるって思いたくなかったんだと思う。
だって、アンナンでは有数の名家で町の人たちからも尊敬されてて……。
ホー家を悪く言う人なんていなかった……、殆ど屋敷から出た事も無かったけど、それでも分かった。
尊敬されているんだって、だから家族の言う事は間違いなんて無いと思っていたの」
「いい人たちなんだね……」
「うん、きっとみんな悪くないんだと思う、でも、崇めている神は間違っていたのかもしれない……。
確かに、昔戦争で死んだのが殆どホー家の人間だったのは間違いじゃない。
でも、私がやろうとしていたのは……」
「そうだ、同じ境遇の人間を作り出す事だ」
「うん、だけど、それも科学の力で平和がやってくるならそれでも良いと思っていたの」
「それは、違うよ。犠牲になる人がいるなんて間違ってる!」
その言葉にエルスティンは一つ頷いて話を続けようとする。
犠牲か……確かに、俺もそうされた人間の一人だ。
だが、犠牲の無い平和などあるのか、俺にはなんとも言えない……だが……。
「でも、科学の力が復活したって平和になるわけじゃないよね……。
ただ、戦争でオトメが死ぬ代わりに普通の人たちが死ぬようになるんだよね……。
分かってた、本当は分かっていたの……」
エルスティンは、いつの間にか涙を流していた……。
頬から一粒、それは自分というものを持っていなかったことに対する謝罪か、それとも今の境遇を思ってか……。
「でも、止まれなかった……だってお父様やお母様を否定してしまう事になるんだもの……。私は……ホー家の人間だから……」
それは、今までのエルスティン・ホーという人間の全てだったのかもしれない。
ガルデローベに来るまでの……。
「だけど、私はどうしていいのか分からなくなっちゃった……もう同じ事は出来ないよ。
こんな怖い事もう出来ないよ……うっ……うっ……」
エルスティンは声を上げて泣き始めた……。
それは、初めて本当の自分をさらけ出す事が出来た産声とも言うべきものだったのかもしれない。
今まで心の奥にしまってきた全てを開放して、泣き続けるエルスティンはアリカやイリーナに慰められても暫くは泣きやむ様子は無かった。
これから彼女がどうなろうとももうシュバルツに操られる事は無いだろう。
これ以上は自分で答えを出すことだ。
それよりも今は早くヴィント市を脱出しなければ、もう殆どの軍勢が上陸したのだろう、かなりの規模の軍隊が外を動いていた。
今はまだ政府中枢施設を狙って動いているようだが、いずれは一般宅まで捜索の手は及ぶ。
一両日中に何とかしなければ非常線を張られてしまって動けなくなる。
周囲の状況はどんどん悪くなっていた……。
あとがき
はっはっは、人気が低下してくるのにあわせ展開も鬱っぽい感じにorz
実質的にはエルスティンのお話を聞く会みたくなってますw
まぁ、彼女は箱入り娘で親の教育が絶対というような形だったと聞いていますので再現できる限りやってみました。
その上でこれから活躍できる形にと色々考えたんですが、うまくいったかな?
出来れば巻き返しのきっかけになれば良いんだけど……無理かなorz
感想を下さった方ありがとうございます。
現在はなんとか続けております。
とはいえギリギリでして、場合によっては……。
あはははは……orz
10月8日
21:49 なんか登場人物の中途半端な正義感や甘さが、凄くシリアスでシビアな展開と合っていない気が……
すんません、私はその辺りの調整が上手くないんでしょうね、もう少し気をつけてみます。
22:09 アキトは三人組の助言に従いエアリーズへ逃げようとしたが 北襲来!
22:11 エルスは負傷しサレナも倒れアキトもジェムを失った
22:12 果たしてこの後はどうなる? やっぱり赤い鎧なんですね
22:12 次回の更新をたのしみにしてます お疲れ様です
どうもです、今でも感想を下さる貴方に乾杯!
状況は前回よりもマシになったでしょうか?
頑張りますのでよろしくお願いします。
10月9日
:08 アキトの、性格や認識がずいぶん甘くなってない?
なるほど、否定はしません。
まぁほだされた部分は多いんですが、目的意識の部分もありまして、甘くなっている所は否定できないですね。
10月10日
3:02 まってましたーーーーーーーー!
3:09 良かった… ホクシンが「縦ロールポニー」にならなくて…
3:10 でも、アキト達は大ピンチ! 続き待っています!
縦ロールはなんというか、使いづらそうなんで簡略化しましたw
とはいえ現状兎に角逃げるのみですし、アキト達の絆や目的意識を少しずつ育てていきたいですね。
そのためにもピンチは続くかとw
感想を下さった皆様ありがとうございます!