サレナの回復を待って俺達はヴィント市を脱出する事にした。

俺自身もかなり疲労をしていたらしく、数時間眠り続けていたらしい。

今は交代してサラが眠っている。

アリカやイリーナ、エルスティンもひとまず悩みがなくなったせいか眠りについていた。

ただ、マシロとアオイは不安で眠れないのだろう、身を寄せ合って震えている。



「お前が……お前が守ってくれなかったから! こんな事になっておるのだ、なんとかせい! なんとか……」



マシロは俺に向かって吼えるようにまくし立てる。

今までの全てが足物から瓦解したのだ、気持ちは分かる、俺も同じようなめにあってはいるからな。

しかし、今のマシロには甘えている余裕はない。

こういう事をするのは俺のキャラじゃないんだが……。



「マシロ女王、回りを見てそれを言っているのか?」

「うるさい! わらわは……わらわはもっと……」

「どうしたかったかと言うのは今は関係ない。結果として何もしてこなかったツケが今ここに噴出しているという事だ」

「そっ、そなたもわらわを見捨てるのか……?」

「違う、俺達は一蓮托生だ、だからこそ分かって欲しい。思っていても動かなければ伝わらない、表現しなければ伝わらない。

 相手に伝えない思いはないのと同じだ。お前ははまだ何も国民に伝えていない……。

 だから、結果だけを見る。国民は今までの事は全てマシロ女王の責任だと思っている」

「そんな……わらわは……民のためを思って……」

「だから、それを公表し、民の声を聞いたか?」

「いや……」

「ならばこれからは人の話を聞き、自分の思いを伝えろ。それが出来なければ何も出来はしない」

「ならば、そうすればお主はわらわが再び玉座に着くことを認めるというのか?」

「ああ、認める。そしてこれからも仕えるさ」

「そっ……そうなのか」



マシロは泣きはらした目をこすりながら、少しだけ落ち着いたように黒いブタ猫……ミコトだったかを抱える。

隣でアオイが目を見張っているが、とりあえずは視線を合わさないようにしておいた。

するとニコリと笑って一礼をし、マシロを寝かしつけにかかっていった。




光あふるる場所
In a far star of the future



第二十四話 「脱出行その1」



1
約一日その間に戦争はほぼ終結していた、まだ散発的な抵抗はあるらしいが、

それはヴィント市という歴史ある都市にカルデアが進行してきたと解釈したがうえでの内務大臣貴下の貴族の兵士ばかりだ。

もっとも、その貴族達は殆ど逃げ出しており、兵士達が残っているのみだが。

どちらにせよ、カルデアの御輿に乗った新しいマシロ姫が玉座に座るまでの時間は残り少ない、

玉座に座って宣誓すれば抵抗するものもいなくなり俺達の脱出はほぼ不可能となる。

だから、全員が起きたのを見計らい計画を練ることにした。



「だから、今すぐ行動しなければ間に合わない。それも表通りは封鎖されているし、裏通りは直接港まで繋がっている道はない」

「八方塞がりねー」

「そして、難民の脱出は昨日の内にほぼ終了している、今も少数脱出しているようだが、そんな集団に紛れ込んでもとてもカモフラージュできない」

「どうしようもないではないか!」



現状を俺が説明していくと、周囲からブーイングがあがる。

主にマシロだが、アリカやイリーナも不満顔だ。

しかし、策を使うにはそれなりに現状を把握していなければならない。



「さて、それを踏まえたうえでどう脱出するかだが、結局の所二つくらいしかない」

「なんじゃそれは?」

「一つは市民に偽装し、市内で潜伏する」

「このメンツでか? それは……」

「もう一つは敵兵に紛れ込んで市を出る」

「敵兵に紛れ込むじゃと……」

「どちらにしても変装が必須ですね」

「ああ、正直俺達だけではかなり難しいだろう」



俺は一度話を区切って皆を見回す。



「しかし、サラは姿を消す事が出来る。追いはぎのようだが服装を奪うくらい可能なんじゃないのか?」

「はい、それくらいなら何着でも追いはぎしてきますよ?」



しれっと言うサラ、抵抗を予想していたんだがそれなりに肝が据わっているらしい。

しかし、問題点はこれからだ。



「だが、この条件では兵士に偽装する場合女性が多いのは不味い」

「軍隊って男ばっかりだもんねー」

「まったくムサイのう、しかもオトメには全く敵わんし」

「それで、マシロ女王。どちらにする?」

「国内に潜伏する場合はわらわの顔がさらされればアウトじゃ。それは嫌じゃから仕方なかろう?」

「では、敵軍にまぎれて国外脱出でいいな?」

「ああ、それで構わぬ」




マシロは少しだけ気力が回復しているように見えた、いい傾向だな。

俺は話を受けて続きを語る。



「では、敵軍に紛れ込むために軍服の調達が必要だな。サラ調達頼む、それと、敵に年少の兵がいないか調べてくれるか?」

「人使いが荒いですね、でも背に腹は変えられませんし、貸し一つで手を打ってあげます」

「頼む」



サラはニッコリ微笑むと姿を消す。

とりあえず現状で打てる手は後一つか、とはいえ、賭けになるな……。



「サレナ、ここの守りを頼めるか?」

「マスターが望むのであれば」

「そうか、俺は一度市街に出るその間宜しく頼む」

「待ってくださいマスター」

「どうした?」

「私の存在意義はマスターを守る事にあります。マスターから離れる事は出来ません」

「だが、戦力が分散するとここの守りが薄くなる」

「ならば、私が……」

「話を付けられるならな」

「ねえアキトそれってどこに行くの?」

「ああ、ちょっとダウンタウンにいる知り合いから詳しい情報を聞こうと思ってな」



アリカが興味を持ったらしく、俺に聞いてくる。

実際ダウンタウンには情報が飛び交っているはずだ、知り合いも何人かいるから一番情報を得やすい。



「じゃあアタシも一緒に行く、そうすればアキトを護衛できるでしょ?」

「だが戦力が……」

「大丈夫、サレナさんもいるし、それにエリスちゃんも新しい力を手に入れたんでしょ?」

「それでも駄目だ」

「なんでー!?」


アリカがぶうとほほをふくらます。

手伝ってくれるのはありがたいが……。



「お前はマシロ女王と契約しただろう? 女王がいなければマテリアライズできないじゃないか」

「あ!?」

「あじゃないだろ、オトメだったらきちんと覚えておかないと、な?」

「うっうん、でも……」

「なら、私に行かせてください」



アリカが力なく引き下がるとそれを引き継ぐようにエルスティンが俺に詰め寄ってくる。

表情の真剣さに俺は頷きを与えていた。


とりあえず、悪目立ちしないように、普通の服装に着替える、幸いサラの用意してくれた隠れ家には色々と服も用意してあった。

俺は昔に戻ったつもりで暖色系のシャツに既に色が抜け落ちかけているジーパン髪の毛をセットして七三にしてみた。

指輪さえしていればバイザーなど必要ないので助かる。

エルスティンは黒髪で三つ編みのウィッグを被り、眼鏡をつけて文学少女風にしあげていた。

もともとおとなしい性格だったためかある意味では違和感がない、ただバランス的に一部目立つのは仕方ない事なのだろう。

鎧は圧縮されて今はペンダント風に首からさげている。

検問にでも引っかからなければこれで見つかる事はないだろう。



「さて、行くか」

「はい」



俺達は裏路地を抜けてダウンタウン方面に向かう、実質裏路地は入り組んでいるので、兵士もまばらだ。

だが全くいないわけではないので、できるだけみつから無いように、見つかった場合は少しおどおどしつつもゆっくりと。

そういう感じで抜けていった、そうすれば地理的にもそれほど離れていないダウンタウンへはすぐにたどり着く。



「あの……私を連れてきても良かったんですか?」

「ん? 自分が説得した人間を信用できないのでは何のために説得したのか分からないからな」



真剣な顔で聞いてくるエルスティンに俺は少しおどけて返す。

エルスティンは少し不思議そうな顔をするものの口元に手を当ててクスリと笑う。



「まあ悪いがお前の力は半分俺が握っている、今あのスレイブを暴れさせようとしても上手くはいかないはずだ」

「そう、ですね……でも私、今でも両親が悪いとは思えないんです」

「別に悪いとは言っていない、考え方の問題だ」

「考え方?」

「お前の一族は殺された家族のことを痛み、ある意味で復讐を果たしたいと考えるようになったんだろう。

 俺自身復讐を果たすまではそれ以外考えられなかったくらいだ、今になってこそ考えられる事も多い。

 ただ、お前の一族はその復讐を果たすために自分で動くのではなくシュバルツの宗教にはまってしまった」

「それは……」

「シュバルツの理念が全て悪いとは言わない、便利な世の中を作りたいというのは誰もが思う欲求だからな」

「はい」

「だが、自分でそれを手に入れようとするのではなく、思考をやめてシュバルツの理念で動くようになった時、

 それは復讐から、他人のコマに成り下がったという事だな」

「でも、だったら私はどうしたらよかったんですか!?」

「別にエルスちゃんは悪くないさ、環境というのは容易に人を洗脳……」

「えっ!? エルスちゃんって……私ですか!?」

「ああ……すまん、昔の口癖がつい……な」

「口癖ですか?」

「年下の女の子にはちゃん付けで呼ぶくせがあったんだが、最近大分マシになってたと思ったんだが」

「ふふ、そうですがテンカワさんそんな口癖があったんですね」

「忘れてくれ」

「いーえ、忘れてあげません。これからも私の事エルスちゃんって呼んでくださいね♪」

「いや……あの、な?」

「テンカワさんってギャップのある人だなって思ってましたけど、やっぱり昔は強面じゃなかったんですね」

「ああ……兎に角考えるのをやめてはいけないという事だ」

「テンカワさんを見ていると何となくわかるような気がします。だって、それだけ変われる人って少ないですよね」



言っている自分の変わりように気付いているだろうか、エルスは俺に明るく微笑みかける。

俺が目を白黒させているうちに、ダウンタウンの通りから見知った店を見つける。

カウンター式のテーブルとごついオーク材で出来たそのバーはそれなりに人が残っているようだった。

やはり一般にはあまり手を出していないんだな、それはある意味ありがたい。

避難民にまぎれるには少し辛くなるが潜伏は楽になる。

それもあくまで政権が交代してしまうまでだが。


店内を見回しどんな客がいるのか観察する。

どうやら一般客が大半のようだが中にそうではない雰囲気の人間もいる。

シマシマの囚人風ルックに身を固めた人間がいないか探しては見たがいないようだ。

ナオも色々動いているという事か。



「そんなにキョロキョロしてちゃ怪しまれますぜ?」



カウンター席についた俺とエルスに話しかけてくる声。

ターバンを巻いて小さめの眼鏡をした胡散臭そうな男だ。



「情報屋だったか、確か名前は……」

「おっとそれはご勘弁。因みにジュリエットはいないですぜ」

「なるほど、よく分かってるじゃないか」

「そりゃ、情報屋なんて職業やってれば当然でさ」

「じゃあ俺達の事も知っているわけだな」

「ある程度と言っておきましょう。ウチはこれで商いをしていますんで」

「わかった、まあ丁度いい。ナオに聞かされていた情報屋の特徴と一致してはいるようだしな」

「そりゃどうも、それで何をお聞きしたいんで?」

「カルデア軍の内情と軍勢の配置、できるだけ詳しくわかればそれに越した事は無いが?」

「高くつきますぜ、旦那」



ニヤリと笑う情報屋を前にどこまで信用できるのか胡散臭いとは感じたが今はそれを云々できる状況でもない。

俺はかなりの高額で情報を買い取った、本来アリカの在学費用として当てていた金の一部だったが、本人が出てきた以上仕方ない。

ある意味渡りに船だが、後ろめたくもあった。

帰りに躊躇いがちにエルスが尋ねてくる。



「あの……さっきの人お知り合いなんですか?」

「いや、直接会うのは初めてだな」

「それで大丈夫なんでしょうか?」

「どうだろうな、実際の所完全に信じるには少し胡散臭いが、一応ナオのお勧め情報屋だからな」

「ナオ先輩の?」

「ああ、ナオはこの辺りでギャングの真似事をしているからな、実際顔役と言ってもいいだろう」

「そうなんですか……」



エルスは驚いているようだ、そりゃガルデローベは表向きにしろ品行方正を求める場所だ。

そんな場所の、それも厳しい選抜の中で生き残った上級生がそんな事をしているとはあまり思わないだろう。



「……?」

「どうかしましたか?」

「ちっ、付けられたか」

「……足音?」

「ああ、数は……6か」

「私が!」

「いや、待て……」



騒動は不味い、この辺りは既に敵軍が押さえている。

一般兵なら6人倒す程度問題ないだろうが、それでも増援を呼ばれる可能性が高い。

下手に応戦の意思を見せればアジトが見つかる危険すらあった。



「私に任せてもらえませんか?」

「……だが、応戦すれば」

「はい、だから応戦せずになんとかします」

「?」

「だからスレイブ使わせてもらいますね」

「ああ」



応戦せずに何とかするというのは、俺としても望む所だが、スレイブを出すと聞いて一抹の不安はあった。

結局騒ぎになったら不味いのだ、しかし、エルスのやり方は俺の想像の斜め上を行っていた。


なんと、スレイブを変形させたのだ、いや俺がやったことがきっかけだったのだろうが、

俺自身あのやーとかいう人間にしか見えないスレイブを相手しているのでスレイブの形が実はある程度融通が利くものだと分かっていたが。

まさか、バイオリンの形に変えてしまうとは……。


そして、おもむろにバイオリンを弾き始めるエルス、路上でそんな事をすれば注目を引く事になるが、

幸いというか軍事行動のせいであまり一般人の目がないので兵士が不思議そうな顔で集まってくる。

兵士達はエルスが異常な行動をしているのは分かるようだが、それでも攻撃を加えようとはしない。


心が安らぐ曲……そうか、子守唄か、クラシックの知識など壊滅的な俺だが、曲調には覚えがある。

だんだんと眠くなるような感覚があるが、それも所詮曲調がそうだというだけで……。

いや、兵士達がだんだんと目をトロンとさせていく、同じリズムを刻んでいるだけのように思えるが……。

数分で兵士達が全て路上で眠りに落ちた。

これは……。



「何となくですが、確信があったんです。

 高次物質化って言い回しだとただの物のように思えますけど、ナオさんの爪とか、あの人にしか見えないスレイブとか。

 生物そのものに干渉するような部分があるんじゃないかって、だから音楽にもってちょっととっぴですけど」

「いや、それを実行し成功させている以上その考え方は間違っていないのだろうな」



恐らく、あの音楽はスレイブマスターには効果が無いのだろう。

俺も共有と言う形になっていたお陰でどうにか巻き込まれずに済んだようだが、凄まじい効果だ。

もっとも、効果すらあくまで予測してみせるという事でしかない。

今まで見てきたどんなオトメやスレイブとも違う、魔法の様な使い方。

エルスにこれだけの資質があったとは。

戦慄せざるを得ないな……。


その事実には動揺したものの、時間も無い。

眠りに落ちた兵士達を置いて、俺達はアジトへと戻った。










「そうか、なるほどな」

「ええ、私の見た限りその情報は正しいと思います」



俺は先ほど情報屋から聞いてきた情報とサラの偵察結果を突きつけあっていた。

基本的にはサラの確認できた情報のほうが重要だが、情報屋が間違っていないなら攻め所はほぼ決まっている。



「やはり、アルタイは遠巻きに軍を置いているだけか、ならば俺達はこの第六軍に情報伝達係として入り込み、そのまま通過する。

 本国への伝令という事なら問題ないだろう。

 とはいえ、この方法で出られるのは2名ないし3名が限度。あまり派手に動くわけにも行かないしな。

 やはり低年齢で参加している人間はオトメくらいのものだから俺とサラ、サレナ辺りが妥当か、後は悪いが荷物にまぎれてもらう」

「なんじゃと!? わらわに荷物になれと申すか!?」

「もちろん、空気穴も空けるし、内部にクッションを入れて衝撃を緩和する。

 腹が減った時のために食料も詰め込んでおくか?」

「そういう問題ではないわ!!」

「だが、恥をかくことを恐れていては生き残るのもおぼつかないのが今の俺達だ」

「じゃが、わらわは……そうじゃわらわを捕まえたという事にするのはどうじゃ?」



マシロはさも名案という表情をしているが隣のアオイは額に手を当てている。

マシロは頭が悪いわけではないが、頭に血が上りやすいのが欠点といえる。

我慢がきかないのも育ちのせいもあるが、その性格のせいもあるのだろう。



「その前提で話をするなら、一体その後どうなるかを考えたほうがいいぞ」

「えーっと……そうじゃな、わらわを捕まえたと持っていけば奴らは勝どきを上げるじゃろうが、

 わらわは良くて拘禁、悪ければその日のうちに……駄目じゃ!!」

「その通り、先に考えるくせをつければもっといいと思うぞ」

「うるさい! それでも一日中は無理じゃ! ほらっ、その……あるじゃろうが!」

「分かってる、俺達が6軍を通過し小型艇で出るまでの2〜3時間程度だ。その後は国境まで問題なく通過できるはずだ」

「うぅ……」

「これには女王自身の命がかかっている、分かっていると思うが」

「うう……分かっておるわ! おとなしくしておればよいのじゃろう!?」

「そうだ、ここでもし見つかるような事があれば皆死ぬ。それだけは分かってくれ」

「……」



俺は昔やったように諭すような物言いでマシロに言い含める。

正直、今回失敗すれば本当に後が無い。

もしかしたら、暴れまわれば混乱の中で逃げられる可能性もあるが、そんな事をすればマシロは本当にこの国に戻れなくなる。

それでは意味が無いし、その方法でも逃げられる可能性は五分五分いや、ガルデローベも敵に回す事になるから、成功率は2割を切るだろう。

そんな策を披露するわけにも行かない、もっとも今回割合情報の精度が高いことを入れても潜入作戦の成功率はやはり3割程度だろうな。

それを底上げするには、軍内部の事情と現在の行軍状況を把握していないといけない。

だが、流石に軍の事情は大雑把なところまでしか把握できなかった。

行軍状況に関してはほぼ確実に今日が最後だろう、明日になれば新しい統治者がこの国に即位する事は間違いない。

だから、直に行動を開始しなければならない。


半時間後、俺達は着替えを済ませ、本来の伝令役達が現れる場所で待ち伏せする。

こういう時間の流れまで分かるというのはあの情報屋かなり軍部に食い込んでいるという事になる。

正直他国の軍部まで情報を集められるというのは、凄まじい人脈ということになるな。


「来た、バイクに乗っているアレだね」

「ああ、お前達は動くなよ」

「うー、アタシ達も出来るのに」

「私が眠らせてもいいですけど」

「駄目だ、こんな港に近い場所で音を出せば気付かれる可能性がある」

「わかりました……」



確かにエルスの子守唄は強力だが、効果範囲がわからない事、

またピンポイントで聞かせる事が出来る訳ではない事がネックだろう。

俺達はタイミングを合わせて、バイクに飛び移り伝令兵ごとバイクを止める。

こけたりしないように気を使ったが、何とかうまくいったようだ。

まあ身体能力はナノマシンで強化されている俺達と一般兵では違いすぎる、むしろ目立たないようにするのが大変だった。



「こいつらのネームプレートを拝借して、後は直属の上官に当たらないように祈るだけだな」

「声色ならお任せください、幸い女性兵も混じっているようですし。おあつらえ向きかと」



幸いというか確かに、三人の伝令兵の内一人は女性兵のようだ、

元々前線に出るより後方に回されることが多い女性兵だから珍しくは無いのかもしれないが。

オトメという逆転の存在がいなければ確かにこんなものだろう。



「幸いカルデアは混成民族のようですし、それほどおかしくは見えないでしょう」

「だが一応アラブ系が多いだろうから俺はあまり話さない方がよさそうだな」

「サラも話さないようにしてください。出来うる限り私が何とかしてみます」

「へー、自発的にそういうことするんだねサレナさんって。もうちょっと受動的かと思ってた」

「否定はしません、元々私は戦闘用AI、戦場の方がやりやすいというだけの事でもあります」

「機動計算用だったはずなんだが……」

「幸い無駄にスペックが良かったので、知識は多く詰め込んでいます」

「無駄に……」


イネスさんの仕業だな、機動計算を目的にしているのに、恐らくオモイカネに近いレベルのAIを積み込んでいたのだろう。

それでようやく納得がいった、これまでの状況全てにというわけではないが、

少なくとも感情の芽生える余地は最初からあったと言う事か。


そんな事を考えつつも、俺達は伝令兵を使われていないビルの一室に押し込むと、一日がかりでも縄が解けないようにして転がしておく。

殺すという選択肢もあるが、それは子供達の前では酷だろう、一日あれば国境までくらいたどり着く。

通信を使うにしても、そのタイミングでは間に合わないはずだ。



「兎に角、サレナ。合流前にコンテナの運び込みを頼む」

「わかりました」



俺達が伝令兵から奪った文書をさも伝令兵でございといった感じでバイクに跨り港に入る。

港には先にいっていたサレナがコンテナに細工をしている所のようだ。

俺達のバイクにはサイドカーがついており今はそこにマシロ達5人が潜んでいる。

マシロとアリカ、エルスとイリーナ、アオイがそれぞれ分かれて三台のバイクに乗っている形ではある。

とはいえ、サイド部分には幌をかぶせてある、一応は見えないはずだ。

しかし、バイクをそのまま快速船に持ち込むわけにもいかない、船に入れる時チェックを受けるからだ。

そこでサレナにコンテナを動かしてもらい、港のコンテナを一つ失敬しておく。

コンテナに仕込みをした後チェックの終わったコンテナのある場所に移し変え、運び込むという寸法だ。

第六軍に報告に行く際にはサレナが俺達に合流するという寸法となっている。



「しかし、なかなか綱渡りですねー」

「分かってはいるがな、潜入の専門家じゃないんだ、サラお前ならもっと上手くやるのか?」

「駄目駄目、私のは参考にならないと思いますよ」

「透明になれるからか」

「その通り、私にとって潜入方法を考えるなんて殆ど必要ない作業ですし」

「となれば、やはりこういう案でいくしかないだろう」

「そうですね」



バイクで港に入っていく、快速船は見えているが、さて上手くいくのかどうか。


しかし、上手くいかなければ最悪暴れてなんとかするしかない。


そんな不安を抱えつつ、長い脱出行がはじまったのだった……。








あとがき


なんか書いていて先が長いなーというのがいつもの印象ですね。

というか、私いつも話を膨らませすぎてドツボにはまってますorz

脱出して再起を図り、戦いを経てラストまでというのをざっと計算してみたんですが……。

軽い見積もりでも脱出に2〜3話程度、再起に数話、戦いに十話以上、ラストのどんでん返しでもう数話は必要かな。

とはいえ、それも予定の所まで毎回書けてですし、それが出来なければ100話近い作品になる可能性も否定できません。

まあ出来うる限り50話までには終わりたい所ですが……それでも先は長そうですねorz


WEB拍手ありがとうございます!
感想いつも力を頂いております♪
↑とはいえエンスト気味
これからもっと感想をいただけるような作品を作れるように頑張っていきます。

11月6日
21:20 エルスの心の闇を見たアリカ達・・・・・・・ そしてスレイブの進化? 
21:21 急ごしらえのジャムでアキトは何とか戦える状態へと・・・・・・ 
21:21 再び仲間になったエルス そして少し忘れられてるお姫様 
21:22 ロリコンも長時間変身は出来ないことが判明した 
21:23 アキトの本当のジャムの格好は翼が生えたらかっこいーですねw「白と黒の翼」 
21:23 更新お疲れ様ですw 次回の更新を楽しみにしてます 
エルスのスレイブもー無茶苦茶かも?(汗)
でも、別に意味で楽しくなってきた私……orz
アキトの融合物質化についてはまだまだ毎回出来るほどじゃないんで、これから少しづつ強化を図っていきますね。
翼も面白そうw
次回も頑張りますのでよろしくです!

11月7日
0:28 おお〜こんなシリアスな話があると物語りも引き締まりますな。面白かったです 
ありがとうです! 暫くシリアスっぽく続きます。
逃亡中ギャグばっかりというのもアレですし、でも今後うまくいったらまたギャグも考えますね。

4:11 エルスちゃんが死なない!!それだけでも救われた気がします(w しかもスレイブのローブ化(?)まで♪ 
4:12 これでこの先までエルスちゃんはがんばれますね。あとはマシロのフォローがどうなるかですが(w 
4:15 祝! エルス生存フラグ!! 毎回楽しく読んでます。エルスのスレイブが鎧化とは・・・アキトよ・・・ 
4:17 北辰&やーちゃんに影響されたか?ww というか、「縦ロールポニー」が使いづらそうで良かった・・・ 
4:17 提案した者としては見たかった気もしますがwww 
4:17 ではでは、次回も楽しみに待ってます。 
時代はドリルらしいので、もしかしたらそういう技が出るかも?(爆)
エルスは今回ちょっと方向性を変えてみました、漫画版は巨乳で売っていましたが、アニメ版は名家ゆえの悲哀で死んでおります。
これを逆手にとってちょっとそれらしい武器にw(爆死)
次回もがんばりますのでみすてないでやってくだされorz

14:44 毎回楽しみにしてます。 ファイトで素 
ありがとうございます! 感想を下さる方は私にとってかけがえの無いものであります。

16:13 ふと思ったのですが、アキトのこの世界での目的や願いなどは、北辰以外にありますか? 
16:15 次回も、楽しみにしています(^−^)Y 
ううむー、全く無いわけではないですね、今まで知り合った人たちに幸せになって欲しいと思い始めているのも事実。
マシロとかほっとけないようですしねw

16:33 スレイブのローブ化漫画版のミドリと同じだからあり!!! 
ありがとうです! でも今回更に変形を(爆死)

11月9日
15:53 光あふれる場所面白かったです。世界観を損なわずに話を組み込む手腕に感激しました。
あうあうあー最近壊れてきていて申し訳ないですorz
ちょっと暴走気味ですが、今後もお付き合いくだされば幸いです。

11月10日
23:36 エルスティン・・・君の復活を待っているよ!! 
ふっかーつっす! 今後ともよろしくお願いします♪

11月15日
2:13 巨乳万歳!エルスちゃん死なせないで(T−T)   
はいな、巨乳は前面にあまり出さないかもですが、ってあれ……そういえば、スレイブ使いになったエルスは……。
HもOKってことになったりするかもしれない……いや、どうなんだろう?
少なくともスレイブは男でも操れる代物だから……やはり。
これは別の意味でフラグになりうるのか!?(爆死)

12月15日
16:10 忘年会前にまとめて閲覧★北辰の技で、頭部がドリル(巻)になるとかどうでしょう?時代はドリルですよ 
もしや、193さんですかw
こではどうもです♪
今後ともよろしくお願いします!
ドリルの件考えておきますねw



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