「国王陛下!!」
「陛下!! ご避難ください!!」
「構わん捨て置け。兵も騎士達も控えよ」
「しかし!!」

貴族や騎士、家臣団が俺を諌めようとする。
正直俺自身何故こんなところにいるのかという思いはある。
だが、俺は国王、ここで引くわけには行かない。
この謁見の間に向かって駆けてくる男が一人、金縁の青い鎧と光り輝く剣、大きな宝石のついたサークレット。
その男は、勇者としか思えない格好をしていた。

「来たか、清四郎……」
「ああ……、達也、どうしても……無理なのか?」
「ふっ、まさか王に向かって命令を下す気か?」
「そんなつもりはない! ただ俺達は……」

清四郎の瞳には葛藤が見える。
仮にも俺は友人だからな、思う所はあるのだろう。
だが俺には俺の、清四郎には清四郎の背負う物がある。
個人的には、説得したいという思いもあったが、理解してくれるとも思えない。

「カルサレア進軍は決定事項、軍を引く事などありえん」
「どうしても……なのか?
 あそこには、俺達が落ちてきたあの国には、静もいるんだぞ!?」
「おまえがメルカパにした事を俺は忘れていない」
「ッ!?」
「お前のやった事は正しかっただろう。
 しかし、あの場で、同じ国の人間が俺達4人しかいないあの場でそんな事をよくする事ができたな?」
「それは……あの時は、ああするしかなかった……」

清四郎が動揺している間に俺は合図を出す。
正面から清四郎と戦って勝てると思う程俺は自信家ではない。
臆病で無ければ国王は務まらないとはよく言ったもので、俺も内憂外患あって成長したといえるのかね?

「ならば、俺もこうするしかない事はわかるんじゃないか?」
「だが! そんな事をすればどうなるか。お前も分かっているだろう!」
「分かっている、分かっていてそうするしかないと俺が判断したんだ」

清四郎は俺を見てぽかんとする、俺がこれだけの決意をした事を信じられないのだろう。
仲間を巻き込み殺す事になるかもしれない判断を。
だが、清四郎も伊達に勇者等と呼ばれていない、すぐさま我を取り戻し怒りを宿した表情で俺を睨む。
俺は不敵に笑って返す事が出来ているだろうか、正直怖くて震えだしそうだ。
しかし、表に出す訳にはいかない、俺は国王なのだから。

「……ならば達也、お前はオレの敵だ!!」
「良かろう、ならばかかってくるが良い」
「馬鹿にするな!! 戦闘でお前がオレに敵うわけがないだろう!!」
「ならばやってみる事だ。戦いが力だけで出来るものでは無い事を教えてやろう」
「やってやるさ!! おおおおおっ!!」

20m以上あった謁見の間を数歩で一気に詰め俺に向かって大剣を振り下ろす勇者清四郎。
何でこんな事になったんだろうと、走馬灯のようなものが走る。
そう、あれはもう何年前の事だったか……。



異世界召喚物・戦略ファンタジー
王 国 戦 旗
作者 黒い鳩


プロローグ 【空が黒く染まる事】


俺は、昔から戦略SLGが好きだった。
理由は簡単、他のゲームでは一番上から命令を下すなんて事は殆ど無理だからだ。
だったら俺は傲慢な男なのかと言われれば難しい所だ。
自己分析をする限り、これは多分周りの状況に対する反発の意味合いが大きいのだろう。
では、俺はどういう状況で生きてきたのかというと。
単純に言えばいじめられっ子と言う奴だった。
もっとも、中学くらいまでは苛められていたものの、その後は苛められなくなった。
理由は幾つかあるが、友人のお陰が大きいかもしれない。

「どうしたんだ、わざわざ屋上で黄昏ちゃって」
「うっせ、そう言うお前だって来てるじゃねーか」
「オレがいつも屋上で昼飯食ってるのは知ってるだろ?」
「……まあな」

友人の名は隆堂清四郎(りゅうどうせいしろう)、聞くまでも無く二枚目野郎だ。
気が合うし、頭脳明晰、運動神経も抜群、そしてそれを嫌味に感じさせない柔和な性格とハイスペックなやつだ。
俺がヒャッハーな雑魚ならきっとこいつは北斗神拳伝承者だろう。
正直、それくらい差があるものの、つるむ事が多い。
気を使ってくれているのかそれとも気が合っているだけかは不明だが。
ただ、俺としては最近複雑な心境でもあった。

「こら! 二人とも私を無視して屋上に行っちゃってさ! お弁当作ってきたんだから食べなさいよ!」
「いや、それは恋人と二人でやってくれ」
「そこにいるのが悪い!」
「ぇー、だって惚気話ばっかするからなー」
「だったらさっさとアンタも彼女作れば? 私はせいちゃんといちゃつくからー♪」
「せいちゃんって……、静すまないけどそれは……」
「なーにせいちゃん?」
「……すんません」

やってきたのはこれまた美少女、聞いての通り清四郎の恋人で姫川静(ひめかわしずる)と言う。
彼女が俺にも分け隔てなく話しかけるのには理由がある。
俺と彼女は幼馴染だからだ。
もっとはっきり言えば、俺は彼女の事が好きだった、もっとも告白も出来なかったが。
3か月前2人が付きあい始めたのは知っていたが、俺にはどうする事もできなかった。
後悔はしたが、仕方ないと諦めてもいる。
横から見る2人は本当にお似合いのカップルだから……。

「所でたっちゃん、今日の模試どうだった?」
「いや、それは先に恋人に聞けよ」
「せいちゃんって、答えが同じだからつまらないんだもん」
「お前な……、清四郎に謝れ!」
「まあまあ、オレは構わないって、いつも似たような点しか取らないのは事実だし」
「事実って……学年10位以内にいつもランクインしているような奴に言われてもな……」
「そうそう、だからせいちゃんは安心できるんだよ♪」
「そっか、ありがと」
「……また惚気やがった」

俺をダシにして盛り上がりやがって……、とはいえ仕方ない話しか。
俺がここにいたのが悪いってことだよな。
っと、俺の名前は言ってなかったな、俺の名は渡辺達也(わたなべたつや)。
野球してそうな名前だと思った奴、前へ出ろ!
いや、実際俺がいじめられていた理由もそれだしな……。
近所に南なんて名前の女の子がいなかったのは幸いだったと言える。

「じゃ、俺先に帰るわ」
「えっ、部活には出ないの?」
「ばっか俺は今帰宅部だよ」
「達也……、お前、本当にいいのか?」
「3年になったら全部やめる事は決めてたからな。
 達也なんて名前だから野球ってのもアレだし」
「そうか……」
「まあ、清四郎は有名大学からスカウトも来てるって話しだし、安泰だろ?
 普通の俺は大学目指して勉強三昧さ」
「わかった、がんばれよ」
「アンタはせいちゃんと違って頭も悪いんだからがんばりなさいよー」
「ちぇ、それでよく静なんて名前……」
「……何か言った?(いい笑顔)」
「イエ、ナンデモアリマセン……」

そうやって俺は屋上から戻っていく。
高校も今年で終わり、もう18歳になったわけだが社会人としてはまだまだだろう。
俺は色々不足している、取りあえず大学に入るため今年は勉強に明け暮れようと思っていた。
まあ、静なんて名前からは想像できないほど凶暴な幼馴染に清四郎も苦労すればいい。
俺としては多少ざわつく気持ちはあるものの、あいつになら安心して任せられると思っている。
まあ、静は諦めたが何も青春を諦めた訳じゃない、大学に行ったら可愛い女の子を恋人にする気まんまんだった。

家に帰って勉強を続ける俺、しかし3時間もすれば集中力も落ちてくる。
一旦休むついでに、SLGをやってみる、今日は■○志11だ。
三○▼は最近戦術の幅を持たせようとしているが、そのせいでバランスが崩れたりしている。
ガン攻めすれば政治関係をあまり頑張らなくても大勢力に勝てたりするのは、戦術が強化されているからではあるが……。
個人的にはあまり好きな仕様ではなかった。
もちろん戦術は大事だが、戦略はもっと大事だ、政治>戦略>戦術、本来国とはこういう形になっている。
しかし、戦略や戦術SLGは基本的に戦争をするための政治であり戦略になっているから戦略の幅が狭いのだ。
殆どの場合ゲーム内においては戦術>戦略>政治となる。
それが最近のゲームに対する不満でもあった、昔はわりと色々な方向性があった。
中には戦術がオマケで戦略がメインというものもあったが……。
最近は数に比して少なくなりすぎているように見える。
一時間かからず弱小国で大国を潰した俺は、なんだか情けなくなってきた。
俺は決っして強いプレイヤーではない、裏技も知らなければ法則性も読めないし、必勝法も知らない。
そんな俺が初見でクリアできてしまうのが物悲しい。
モードを変更すればもっと難易度は上がるんだろうが……、結局戦術のほうばかり頑張るんだろうしな……。
しかたないので、勉強に戻る事にする。


翌日、学校にて昼休み。
俺は2人に会うのもめんどくさいので、裏庭に来ていた。
幸いにしてこの学校は不良も少ない、裏庭でタバコを吸っているような馬鹿はいないようだ。
しかし、確かにバカップルにも不良にも合わなかったが、頭の痛い奴に出会った。

「おりょ? 達也氏(たつやうじ)! 達也氏ではござらぬか!」
「……ああ、メルカパ久しぶり」
「メルカパはやめてほしいでござる!!」

眼鏡をかけている太った男。
一言で言えばそうなんだが、身長は俺と同じで180ほどある。
横幅が凄いので体重は確実に100kgをオーバーしている。
恐らく120kgくらいだろうと俺は予想していた。
まあどうでもいい話だが、こいつの名前は鳴嘉巴(なりたよしとも)。
メルカパと言う渾名からは想像できないかもしれないが、バリバリの日本人だ。
うざったいロン毛をしており、ある意味清四郎とは対極の存在と言えた。
誰がつけたか、渾名はメルカパ、オタクを隠さない剛の者だ、俺にはまねできない。
しかし、鳴るはメとも読み、嘉はカ、巴はハとも読む。
名前からつけた渾名なんだろうが、なんともはや……。
だが、こいつは俺なんかよりも凄い奴だ、苛められて泣き寝入りしていた頃の俺と違い、
苛められても己を貫き、むしろ相手に怖がられるほどのオタクへと進化したのだ。
もちろん友達はいなくなったが、どこ吹く風と言った感じで、飄々(ひょうひょう)としたものだった。
尊敬できる友達ではある、うざくなければだが……。

「所で達也氏、今日は一体どうしたのでござるか?」
「というよりお前こそどうしたんだ?」
「拙者は当然、表では見せられない物品の検査をしていたでござる」
「なるほど」

こいつは、オタクだがマナーはきちんとしている。
オタクでもない他人の前で同人誌を広げたりはしない、一本筋の通ったオタクだ。
もちろん学校内ではハブにされる事が多いが、その程度でめげないし、くじけない。
いつの間にか、仲間を増やしているという凄さにびっくりしたものだ。
いわゆるカリスマオタクってことかね。

「で、どんなんがあるんだ?」
「そうですなー、達也氏が好きそうなのと言えば……。
 ”人生ガウォーク形態””シャー!のみぞ知る世界””タイガー&バニーブラック”等でござるか」
「最初のは兎も角、それ以外は18禁ですらないんじゃねーの?」
「おお、良くわかりましたな。これはある意味18禁というジャンルです」
「ある意味?」
「シャー!のみぞ知る世界はディープ過ぎて普通の人にはついていけないでござるし、
 ”タイガー&バニーブラック”の主人公は両方食っちまう雑食種でござる」
「うん、理解できない」

やりとりはある意味面白いものだった。
分からないが、何となく楽しさは伝わってくる、一度借りてみるのもいいかなと思った。
そして、色々話しているうちに昼休憩の時間も半ば以上が過ぎていた。

「そういえば達也氏はRPGはしないのでござるか?」
「いや、する事はするんだけどな、最近のはどうにものめり込めなくて」
「分かるで御座る、確かにRPGは昔の作品のほうがのめり込みやすいでござるな」
「F○シリーズも最近は映画に近付けようなんてしすぎたせいでゲーム性を犠牲にしてるように思うんだ」
「確かに、そう言う面はござるな、しかし、グラフィックやキャラクター性は増しているでござるよ」
「グラフィックは兎も角、キャラクター性はむしろ薄くなってる気もするがな……」
「キャラクター性は好き好きがありますから仕方ないでござるが……」
「あーっ! 見つけたー!!」
「えっ!?」
「おお、姫川氏! いかが致したのでござるか?」

そう、裏庭に怒鳴りこんできたのは静だった。
正直びっくりである、何せ屋上で2人だけなら当然あーんとかしていたはずだからだ。
普通ギリギリまで一緒にいるもんだろ。

「どうした静?」
「どうしたじゃないわよ! 折角3人分作った弁当余っちゃったじゃない!どうしれくれるのよ!」
「ぇー……」
「達也氏、このような可愛い女性にお弁当を作って頂けるというのにその反応はないでござるよ」
「だってさ、砂吐くような甘々トークを横で聞かされながら食うんだぜ?」
「うわぁ……それは拷問でござるな……」
「だから、さっさとアンタも彼女作ればいいじゃない」
「出来るなら作ってるよ! 俺は大学にかけてんの!!」
「ふーん、大学行ったくらいで彼女出来るかしらねぇ?」
「ぐはっ!?」

俺は心に255のダメージを負った!
つーか、彼女がいないのは色々複雑な事情があるってのに……。
静の奴痛い所ばっかり突いてきやがって。

「達也氏成仏するでござる……」
「は……薄情な……」

その日はそれを口実にして早めに帰る事にした。
幸いにして、受験勉強が今はメインなので部活もなければホームルーム等を飛ばしても怒られない。
それに俺は、そこそこいい国立大学を狙っていた。
滑り止めもいくつか受けるが、やはり国立大学に行くのは最低限親のためにも必要だ。
私立の大学は学費がやたら高いらしいからな……。
幸い、流石に清四郎ほどじゃないにしろ、俺もA判定が出ている。
このまま行けば合格出来るだろうと予想している。

そしてまた勉強を3時間ほどした後、息抜きにゲームをする。
今日はRPGをしてみた、しかし、グラフィックは綺麗でも今一のめりこめない。
俺はそこそこ値落ちしたゲームを良く買い込んできてやっているだが新作に近いものほど微妙な事が多かった。
一部ハマるゲームもあるんだが、今はそういうのはないようだ。
仕方ないので、押し入れを探って古いゲーム機を持ちだしてくる。
”王国戦旗(おうこくせんき)”古いRPGとSLGを合わせたゲームだ。
シナリオはルナティック・○ーンにあやかって自動生成するタイプになっている。
毎回違うシナリオを楽しめるのが売りだったんだが。
シナリオもキャラも自動生成のため当りと外れの差が激しすぎる仕様だった。
国王の顔をした農民や、幼児にしか見えない長老等、色々いた。
シナリオに出て来る敵のレベルは自分達のレベル平均を依頼を受ける段階で判断するシステムになっているため、
魔王城にスライムしかいなかったり、最初の洞窟にドラゴンがいたりと酷い事もよくあった。
更には自由度も高く、乞食をして食いつなぐ事も、勇者となって魔王退治する事も、国王になって世界征服する事も自由だ。
もちろん、その分グラフィックは酷く、シナリオも大味、ゲームバランスもバラバラ。
だが一部のユーザーには大ウケだった。
無駄に高い自由度のお陰でプレイスタイルは自由自在なのだ。
このゲームは、苛められていて友人がいなかった頃の慰めの意味も込めてかなりやりこんでいた。
毎回違うのでシステムに飽きる事はあっても話しに飽きる事はあまりない。
6千ものシナリオを用意したとかいうのは嘘ではない。
ルナティッ○ドーンですら、そのほとんどは簡単な物だったが、
このゲームは、どれもこれも一癖あるシナリオばかりだったからだ。
だからこそ今でもたまにこのゲームをする。
最も、今のゲームと比べれば、音も、グラフィックも、操作性も酷いものだ。
コメントのスキップも出来ない仕様なのでイライラさせられる事も多い。
ただ、何十回とやってもまだ新たなシナリオがあるゲームというのはそうないだろう。
気がつくと2時間ほどたっていた。
セーブをしてゲームを終えて勉強を再開する。

「ほんと、現実もこれくらい自由にいろんな事が出来ればな……」

まあ、だからと言って無法者になりたい訳でも、殺し殺されるような殺伐な世界に行きたい訳でもないが。
ただ、自分にもっと向いている事があるんじゃないか、とは思う。
それに静の事もあるから出来る限り遠くへ行きたいという思いもあった。
勉強を再開したのはいいが、あまり集中力が続かず1時間ほどで諦めその日は寝る事にした。

翌日、授業を終えて今日も帰るかとメルカパを誘った。
まあ、うざい奴ではあるが、言っている事が楽しい事も多い。
オタク仲間というのはそれなりに間違いではないので、もっともライトとヘビーの差は大きいが。
時々交流を持っているのは事実だった。

「あー! また先に帰る気ね!」
「げっ……静!?」
「おおう、相変わらず凄い剣幕でござるな」
「まあ、待ってやってくれ。今日は俺達も早く帰る事になったから」
「清四郎もか、部活はないのか?」
「ああ、流石に3年はレギュラー引退になるしな」
「なるほど」

とはいえ、後進の指導などもある、清四郎は剣道部のエースだ。
部長の座は2年に譲ったものの、実力においては群を抜いている、多対一でも負けないほどに強い。
正直俺では逆立ちしたって敵わないが、どちらにしろそうそう暇にはならないと思うが。
デートのためっていうならともかく、理由が今一わからなかった。

「いやさ、オレ大学は聖秀院に行く事になりそうなんだ」
「聖秀院って九州じゃねえか!?」
「そう言う事なのよ、別に東京あたりでもいいのにね」
「清四郎、お前浮気する気じゃねーだろうな?」
「ちっ、違うに決まってるだろ!
 あっちのほうには今度大型ハドロン粒子加速機が出来るって言う話だからな」
「そいや、ちょっと前にヒッグス粒子だかが発見されたとかやってたもんな。ミーハーか?」
「違う! オレは本気で研究者目指してるんだ」
「まあそう言う事なのよ」

初耳だな、清四郎は剣道で食っていけるんだからそうするもんだと思ってた。
って事は何か、お別れ会のような事でもやろうって話しか?

「推薦入学だからもう決まってるんだろうけど、まだお別れには時間があるんじゃないか?」
「まあそうなんだけどね。でもちょっと早めに向こうにいくらしいのよ」
「準備期間がいるからな」
「恋人といちゃつくのを放棄してもか?」
「ああ」
「……」

ひでぇ話だな、本人らはそれでいいんだろうが、俺にとっては辛い。
これからも静が俺の事を構ってくる事がわかっているからだ。
あいつにとって俺は弟のようなものなのかもしれない、生まれは俺の方が早いんだが、
世話焼き体質なせいかな、今でも俺に弁当なんかを作るくらいだからな。
清四郎もそんなことされたら気が気じゃないんじゃないかと思ってたが、
あいつに言ったら遠慮するなと言われる始末。
正直余計めんどくさい。

「というわけで、オレがいない間、静の事を頼みたいんだが……」
「まあ、元々幼馴染だから大学行くまでは構わないが、俺も行くのは青森だしなー」
「そうだったな、だったらそれまででもいい。よろしく頼む」
「分かったよ」

全く、幼馴染の俺が恋人によろしく頼まれるってどういう状況だよ。
もうちょっと警戒しろよ! 俺がちょっかい出すんじゃないかと思えよ!
そうすりゃ連れていくなり、大学諦めるなりできるだろうに……。
はぁ……家に帰ったら”王国戦旗”でもやってストレス解消するかね……。
そんな事を考えていたら、突然回りが真っ暗になった。
いや、正確にはそれほど暗くはない、せいぜい夜の暗さ。
しかし問題なのは、周りにいた人達が殆どいなくなったと言う事。

「なっ!?」
「何っ、なんなの!?」
「もしや拙者達は異次元に潜り込んでしまったのでは!?」
「それはない……とはいいきれないかもな……」

本当に人っ子ひとりいない、町の風景はそのままだが、どこか作り物めいている。
早く脱出しないと、何か危険な物が近づいてくるような幻想に俺は囚われる。
しかし、俺が叫び出すより前に静が叫んだ。

「何! なんなのよもう!!」
「落ち着け静、お前には清四郎がいるだろう!」
「えっ、あ……うん」
「静、大丈夫だからオレから離れないで」
「うん、わかった。せいちゃん」

静は大人しくなってしまう。
緊張というか恐怖があるのだろう、清四郎の服を掴む手は固く握りしめられ、体が震えている。
俺はむしろそのお陰で冷静さを取り戻していた、誰かが叫ぶと自分が落ち着くの法則だ。
メルカパは元々それほど驚いていないのか、周辺を色々調べているようだ。

「あっ、これは……」
「どうしたメルカパ?」
「達也氏、こう言う時は真面目に呼んでほしいでござるよ」
「お前がうじとござるを辞めたらな」
「それは拙者に死ねと言う事でござるか!?」
「筋金入りだな、メルカパ……」
「……もういいでござる。それよりもあそこに黒い穴のようなものがあるでござるよ」
「ああ、あるな……」
「あれがだんだん大きくなっているような気がするのでござるが、どうでござろう?」
「……大きくなってるな……」

メルカパの示した先は、明らかに異常だった。
そこまでは確かに作り物めいてはいても俺達の町なんだが、その部分が歪み、黒い穴に吸い込まれている。
そして穴はだんだんと大きくなっており、
この夜の世界とでもいうものが全てあの穴に吸い込まれるのも時間の問題に見えた。
何せ、穴の大きさは既に十階建てのビルよりも大きくなっていたからだ……。

「メルカパ、あの中に吸い込まれたら、俺達どうなると思う……」
「そりゃあもう粉々でござろうな……、もしくは圧縮されて1mmくらいになるでござろう……」
「死ぬなそれ……」
「はいでござる……」
「呑気に言ってる場合じゃないでしょ!! 逃げるわよ!!」

呆然としていた俺達を励まし、静は清四郎と手を繋ぎながら走りだす。
清四郎はこういう状況だというのに、あまり声を上げる訳でもなく、錯乱もしていない。
流石は剣道三段、試合で負けた事なし、はっきり言って学生じゃありえないレベルである。
それに、本物の日本刀を使っての修行とやらも通っている古流剣術の道場でしているらしい。
明らかに、清四郎が主人公で静がヒロインのファンタジーになっている気がするのは気のせいか?
まあ、俺やメルカパが主役じゃ誰も買わないだろうからそれでいいんだろうが。
ともあれ、逃げると言っても俺達の足じゃ限界があった。
段々と大きくなってくる穴に対し、俺達も引っ張られ始める。

「くっ、これは……流石に限界か!?
 清四郎! お前なら静を連れてもっと遠くに行けるはずだ!!
 俺とメルカパは限界だ! 先に行け!!」
「……わかった!」
「拙者も道連れでござるかー!?」
「普通にお前へたり込んでるだろ!!」
「そうでござったー!?」

俺より先にメルカパが黒い穴に落下していく、俺も腕が限界なので手がずるりと滑って穴に落下していく。
まあ、俺達の人生はこんなもんだったのだと諦めるしかないのかもしれない。
出来れば彼女作りたかったなーと考えながら落下を始めると、いつの間にか静と清四郎が俺の近くにいた。

「なっなんで……」
「この街自体がのみこまれだしたみたい」
「抵抗できなかったよ」
「そりゃー仕方ないな」
「だよね」
「ああ」

俺達は内心恐怖しながら、それでもどうしようもない事に怒りを覚えても仕方ないと、互いに笑みをこぼした。
もちろん、そんなの一瞬の事で、俺達は大きな穴の中に吸い込まれていったんだ……。


あとがき
8周年記念作品として連載開始させていただくことになりました!
めでたい時なので何かやりたいというのもあったのですが、魔王日記が詰まってしまったのでこっちに逃げたとも言いますorz
この作品は、魔王日記とよく似た異世界召喚物ですw
ただ、今回は最初から最後に向かって突き進むため、寄り道は短めにする予定。
それでも100話近くかかるかもしれないのですが(汗)
端折る所はきっちり端折っていいシーンを連ねていきたいですね♪
ではでは皆様、9年目も宜しくお願いします!



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