ランベルト王国の王都、サリュート姫の離宮、静は2カ月以上の生活に苦痛を感じていた。
深層の令嬢として十分整った容姿と、憂いに満ちた瞳、礼儀作法も良く躾けられていて姫と変わらない。
だが、どこか遠くを見て物思いに耽る様は周囲からも浮いていたが、
その容姿と相まって一部の人間には人気が高いのも事実ではあった。
テラスで佇む静の姿はこの離宮の主であるサリュートよりも相応しいと思う人物も多い。

「シズル姫、少々お時間よろしいでしょうか?」
「……タトリケ様、私は姫と呼べるような出自ではありません」
「いいえ、勇者殿の姫なのですから立派に姫君ですとも。
 それに立ち居振る舞いが粗野な一般人とは違います、我ら貴族と同じかそれ以上に」

テラスにあるお茶会用の椅子に腰かけ、物思いに耽っていた静に話しかける声があった。
タトリケ・ロッシュ・ヴェンド。ヴェンド子爵家の次男という話を静は聞いていた。
この離宮へも良く来るため、静も何度か話をした事があった。
静は立ちあがって礼をしようとしたが、タトリケは手で制し、自分は一礼(手を胸の前にして)した。

「実は少々変わった一品を手に入れまして」
「変わった一品、ですか?」

静はおざなりな回答をしつつ、しかし、頭の中は高速て回転していた。
何を持ってきたのかも気にはなったが、彼がどういうつもりで自分に接触してきたのか。
確か、タトリケはサリュート姫、引いては宰相を担ぐ側の貴族であり、王弟側と敵対している。
現状、タトリケが静達と敵対する理由はないが、異分子の排除を行ってくる可能性もある。
その程度の計算を静は一瞬で終えて、タトリケを見る。

「はい、セイシロウ殿が着ていた服と同じ作りの服でございます」
「……ッ!! 本当ですかッ!?」
「興味を持って頂けたようですね」

タトリケは我が意を得たりと言う感じでほほ笑む。
静はその表情に裏があるのかどうか計りかねていた。
彼女が勇者の恋人である事は離宮に来る人、清四郎が出席したパーティに出ていた貴族なら知っている。
タトリケがその事を知らない筈もなく、今までアプローチをかけてきた事もない。
中には変わり種を一度味わってみようと考えた貴族が押し掛けてきた事もあるが、
清四郎や、サリュート姫、勇者のパーティの人達等によって排除され今はもう来る事もない。
だからこそそう言う意図でない事は静にもわかる。
だが、何の見返りもなしに静に取り入ろうとするほど貴族が暇人だとは思えない。
それゆえ、静は動揺し、しかし同時に彼女が取りうる手段は一つしかなかった。

「お見せ頂けますか?」
「残念ながら、この場にはありませぬ。
 貴重な品です故、我が別邸にて埃もつかぬよう管理しております」
「そうですか……」

静は、これは何かの駆け引きなのだと悟る。
しかし、何についての駆け引きなのかは現時点では分からなかった。
だが、この取引を受ければ清四郎か静、もしくは両方に大きな負担がかかる可能性が高いと判断した。

「でしたらきちんと管理しておいてください。
 貴重な物ですので、恐らく失われれば二度と手に入らないでしょうから」
「……なるほど、ご意見ありがとうございます」

タトリケは何事も無かった様に流したが、一瞬顔がひくついたのを静は見逃さなかった。
やはりこれとは別に何か重要な情報があるのだと言う事が分かったが、静は自分からは聞かない。
聞けば付け込まれる、恐らく駆け引きがさほど上手くない静を引き込むためのカードが先ほどの学生服。
だからこそ、自分から聞く訳にはいかないそれが静の出した結論。
しかし、興味がない訳ではない、だからこそ追い出しもせずタトリケが口を開くのを待っている。
少し迷ったのかタトリケは暫く考えるような顔をした後、話を続ける事を選んだようだ。

「実はその服どこから流れてきたのかおおよそ判明しまして」
「本当ですか!?」
「ええ……」

声を上げてから静はしまったと思った。
大いに興味を持っている事がタトリケに知られたからだ。
もう、静は向こうが何の条件を突き付けてくるのか知るしかない。
それに答えるかどうかは別にしても、これからも交渉のカードにされる可能性が高かった。

「実は……、昨今反乱がおきたというドランブルク領からなのです」
「ドランブルク領……」

静も噂くらいは聞いていた、反乱がおき、砦を一つ落とされたという貴族の話。
春を待って全力で鎮圧する事になっているとか。
静は血の気が引くのを感じた、幼馴染が戦争の真っただ中にいる可能性。
もしかしたら、巻き込まれて既に……。
そこまで考えて静は首を振る。
そして、タトリケを正面から見据えた。

「そこでシズル姫にお願いが……」
「はい」
「私はあの領土に独自のルートを持っています。
 しかし、活用するには金が……ね?」
「……いかほど必要なのですか?」
「そこで……、おお、なんと話が早い助かります」

タトリケは先のセリフを了承の意として取った。
静に金があると思った訳ではないだろう、しかし、静は勇者清四郎の恋人。
清四郎には活動資金として役職付きの貴族並みに給金が支給されていたし、冒険による報酬。
そして、モンスターが持っていた財宝等も幾つか手に入れていた。

「実は……お頼み申したいのは……」

それは、静が断れないだろう事を知って話す者の目であった。



異世界召喚物・戦略ファンタジー
王 国 戦 旗
作者 黒い鳩


第二部 『小さき王国』 第四話 【フィブリノ


フィブリノと名乗った一角獣のような角を持つ魔族の女性は、臣下の礼の如く片膝をつき俺を見上げている。
顔色も人間ではありえないほど紫色で、瞳は妖しい紅の光を湛えている。
ローブはフード部分だけ外し、オレンジ色の髪が肩まで垂れているのが分かる。
姿が人と似ているだけに、これだけの違いがまざまざと見せつけられる。
俺は直接魔族を見た事がある訳ではないが、”王国戦旗”のゲームでこんな種族を見た気がしなくもない。
何せランダム生成が売りのゲームだったので、魔王のような村人Aがいる事もあり微妙だが。
ともあれ、先ずは現状の理解からだ。

「先ほどは失礼した、面識のない者を呼び捨てするのは礼儀に反する行為だな」
「いえ、私達がやっている事の方が礼儀に反する事でしょう。
 ですが、タツヤ殿には通用しない様子、そうなれば我らでは対抗するべき手段もございませぬ」
「そうか? フィブリノ殿はかなりの使い手と思うが、恐らくこの部屋の中では最も強い」
「そんな事をしようとしても、外にいるアル・サンドラ殿に切り捨てられるだけの事。
 あの方の武術の前には我らでは抗する事叶いませぬ」

俺は内心驚嘆していた、このフィブリノという魔族、現在の力関係を正確に分析している。
そして、俺を人質にするという答えに至らない辺り、
俺という男が強者度よりも逃げが旨い事(アイコンによるチート)も確信しているだろう。
正確にかどうかは分からないが、少なくとも俺の事を警戒するべきだとは考えているはず。
でなければ、出てきて俺に片膝をついたりしない。
だから、現在の状態で逆らっても、上手く行って相討ちレベルだと判断したに違いない。
しかし、チート能力もなしにそこまで解るというなら、敵対すればどれほど恐ろしい存在となるかもはっきりしている。

「その上で確認したいが、何故片膝を?」
「私を含めツクモ村は貴方に恭順するという意思表示でございます」
「なっ、フィブリノ様!?」

ラバノーバ村長は、驚愕の表情でフィブリノを見る。
当然だろう、交渉もなく全面降伏するといっているようなものだ。
同じ恭順するにしても条件を先に詰めてからするのが普通だろう。
俺自身、彼女の言葉に何か裏があるのではないかと疑わざるを得ない。

「理由を聞いてもいいか?」
「この村は既に限界に来ています。
 村と言うには大きくなりすぎ、いくら目立たないといっても徴税官を誤魔化しきれないほど栄えています。
 このままいけば、必ず領主と衝突する事になるでしょう。
 その時、自分達だけで対処するのでは勝ち目がありません。
 いずれはどこかの勢力に売り込みをかけねばなりませんでした」
「フィブリノ様! そのような事我らには……」
「お黙りなさい、貴方たちも分かっていたはずです」
「それは……」

ラバノーバ村長が完全に気おされている、体格では圧倒的に彼の方が上だ。
強者度だけではなく、恐らく村に対する影響力でもフィブリノのほうが大きいと予想させるに十分だ。
そして、フィブリノは俺に向き直ると更に言葉を続ける。

「失礼ながら、タツヤ殿がここに来たのはドランブルク領北部にある村々の意思統一のためと見受けます。
 最初に我らの所に来たのは規模の問題、大規模の村が参加したとなればタツヤ殿の側になびく村も多い」
「その通りだ」
「しかし、タツヤ殿がそういう思考の持ち主でも、周りがどう思っているかまではわからない。
 それに、それだけが目的かどうかも」
「……」

そう、確かに目的は複数存在している。
ここの村が豊かである以上、ある程度他の村へ食料を出してもらったり、この村の作物がうまく行った理由も知りたい。
もちろん、春には戦争再開になる可能性が高いので、すぐさま利用可能かどうかという問題も残るが。
戦力の供出も可能ならしてほしいし、何より首都と呼べる場所のないドランブルク王国にとってこの盆地はいい場所である。
もちろん、モルンカイト侯爵と戦う上でいつまでも使う事は出来ないが、物資流通の中心地はあって損はない。

「それらの思惑の中で、存在感を示していく為にはいかに早く恭順したか、どの程度の手柄があるかが重要でしょう。
 村人達に負担をかけないためにも、無駄な血も時間もありません。
 何より、タツヤ殿は恭順の意を示した相手に無理難題を押し付ける人物ではありませんよ」
「……よく知っているな」

それらの情報を事前に集めていたのだとすれば、フィブリノは有能どころの騒ぎじゃない。
俺なんかよりも数段優秀だろう、出来ればそんな人物に王国の代表を譲ってしまいたい……。
だが、彼女が今まで表立って村の代表についていない事を考えればそれは明らかに無理だ。
魔族が悪というのは単純な解釈だろうが、それでも、人より強い力を持ちその力で犯罪行為をした者もいるだろう。
何より、この世界にいる魔王は人族の排除をしようとしているという噂がある。
勇者だとか、少し眉唾な話も聞こえてきているが、清四郎が関係しているのだろうか?
ともあれ、一般的な魔族の解釈は魔獣を率いて人族を蹂躙する存在のようだ。
つまり、それは彼女がどのくらい特殊かという点でもある。

「恭順を受けるにあたり、一つだけ聞きたい事がある。魔族の貴方が、何故人族の村にいる?」
「魔族とて一枚岩ではありません。政治闘争もやはりあります。私はそれに敗れた、ただそれだけの事」
「……分かった」

話す気はないようだ、実際政治闘争も本当にあるのだろうが、それだけで国を出て人族の中で暮らすとはならないだろう。
恐らく、彼女にとって重要な何かが魔族の生き方と相容れなくなったのではないか。
いや、聞いてもいない事を考えても仕方ないな。
だがある程度は独自調査が必要になる、もっとも任せられるような人員はいないが……。

「……フィブリノ殿が臣下となってくれるなら心強い。だが、村の意見は同じと考えていいのか?」

俺は視線をラバノーバ村長に向ける。
確かに彼女は村に貢献してきたのだろう、しかし、彼ら村人と意見を同じくしているとは思えない。
今の判断は一足飛び過ぎると俺でも考えるのだ、村人がそれを許すかは疑問だった。

「そんなものは決まって!!「待て!」」
「村の意見をまとめてくる、3日ほど時間をくれ」
「……いいだろう」

兵士達の意見を抑え、ラバノーバ村長が俺に視線を向ける3日、少し厳しいが待つ事に決めた。
それに対し、フィブリノのほうが不安そうな視線を俺に向けていた。
そのまま俺は謁見の間のようなこの部屋を退出していく。
その後ろにはフィブリノの姿もあった。

「何故ついてくる?」
「臣下として認めて頂けたと思っておりましたが?」
「……好きにしてくれ」

そうして、城の外に向かって歩き出した時アルテとアル・サンドラが部下の騎士を連れて現れる。
しかし、次の瞬間アル・サンドラが動き出していた。
咄嗟に剣を抜こうとするアル・サンドラを手で制し、俺は声をかける。

「さっき部下にしたフィブリノだ」
「よろしくお願いします」
「なっ、魔族を部下にしたのですか!?」
「そうだ」
「そのような事前代未聞です!!」
「かもしれないが、この件については俺が責任を取る」
「……しかしっ!!」

アル・サンドラの常識において、魔族と仲よくするというのはあり得ないようだ。
エルフのアルテですら、フィブリノに対する警戒が露骨なほどに見てとれる。
部下の騎士達などは当然ながら剣を抜くのをギリギリ思いとどまっていると言う感じだ。

「彼女を全面的に信用しろ等とは言っていない。
 しかし、俺達がまっとうな方法で領主を屈服させられるなんて思ってないだろ?」
「それは……しかし、それとこれとは……」
「現に彼女は俺達に牙をむいていない」
「ですが、何か企んでいる可能性も!!」

アル・サンドラ自身、ほんの2週間ほど前まで俺達と敵対していた訳だが、この忠義ップリは凄まじい。
しかしこうなると、どう納得させたものか、俺自身フィブリノの能力は欲しい。
だが、あまりに反発が強いようなら組織の長としてフィブリノを切り捨てる事を考えねばならない。
そんな事はしたくないし、何より彼女を切り捨てた時の反動の大きさが怖い。

「そろそろ限界なのかもしれないのです」
「え?」
「ちょうどいいので、アルテも正体を明かすのですよ」
「しかし……」
「たつにーさんが国を作るなら、もう人族だけの国とする事はできそうにないのです。
 だったら、どうどうと宣言したほうが後々のためなのですよ」
「……それもそうかもしれないな」
「アルテ殿? 何を……」
「実は、アルテはエルフなのです」

そう言って、アルテは変化の魔法を解く。
その姿は金色の髪とエルフ特有の長耳、透き通る程に白い肌となった。
アル・サンドラや騎士達は驚きを隠せない。
当然だろう、胡散臭いとはおもいつつも子供だと思っていたその少女がエルフだったのだから。
まあ、見た目10歳児程度なのは変わらないが。

「既に妖精族の方を臣下に入れておいでとは、流石ですタツヤ殿」
「アルテもまさか魔族をヘッドハンティングして戻ってくるとは思わなかったのです」

なーんか、嫌な緊張を放つ2人であったが、それよりも問題は呆然とするアル・サンドラ達だろう。
どうやって言い訳をしたものか……。
というか、彼らは俺が助けた人達ではない、あくまでアル・サンドラが降伏した時に付いてきた人達だ。
つまり、俺達の今までの行動から情状酌量を乞うなんて事はできない。
どうするべきか……。

「まさか……エルフの姫君とは……今までの御無礼御容赦ください」
「アルテの事知っているのです?」
「一部の者達は、ある程度知っているかと。
 エルフは殆ど子供が生まれておらず幼い容姿をしたエルフの方は姫君のみであると」
「なるほど、でも別にいいのですよ。今はたつにーさんの相方なので」
「エルフの姫君……なるほど、タツヤ殿は既にそれほどのコネクションをお持ちだったのですね。
 私も手柄を上げねば立場的に不味いですね……」

アル・サンドラ達の驚きはどちらかというとアルテに関しては好意的な方だったらしい。
だからといって、実際砦に帰って全員が支持してくれるかはまだ未知数だが。
アルテは魔族そのものに対してはそれほど嫌悪を抱いていないようで助かったが警戒はしているようだ。
ともあれ、村長の城の前で騒がしくしているのもまずいと、宿に戻る事になった。
宿ではまた残りの護衛騎士達がフィブリノに驚きひと悶着あったがどうにか宿で過ごす事はできた。

彼女はあまり村に出てはいなかったらしい、一部の人達が彼女を保護する代わりに村に貢献していたのだ。
ここ30年近くそれは続き、途中、村長も代替わりしたりして村は発展し続けた。
だが、先ほど言っていた通り数年前から頭打ち状態になりつつあったらしい。
人口が増えすぎ、村の周囲は開拓し尽くされ、盆地の外まで畑にしないとやっていけそうにない。
しかし、勝手に町になる事も、村の一部を別の場所に持っていく事も許されていない。
流石にそこまで派手な事をすればモルンカイト侯爵の知る所となる。
あくまで盆地の中だけでやっているからこそ袖の下で済んでいたが、徴税官とて裁量の限度がある。
そうなれば30年分の追加徴税が行われ村は滅ぶ事となる。
今まで新しく開墾した場所を教えておらず実際の収穫からすれば税は半分以下だったのだ。

「そういう訳で村を維持するには、人を減らし開墾地を荒らし元の状態に戻すか、
 もしくは、より以上の効率のいい収穫を考えつくか、それとも……」
「モルンカイト侯爵の下から飛び出し、過去の未納分を無かった事にするかと言う事か」
「そうなります」

30年分、今まで払った税の丁度30倍くらいの追加徴税だ、それも罰則による増加分を考えずにである。
確かに見つかれば後がないと言える。
そして、その農法のノウハウを教えたのは彼女なのだという。

ならば俺としては是非ドランバルト王国でも役に立ててほしい所だ。
しかし、王国はちょっとやり過ぎだったかな?
連合国って言うのもおかしいし、共和制なんて知らんだろうし、最初なら王国かと思ったんだが……。

「とぉう!」
「ぐはッ!?」
「お堅い話はそこまでなのです!」

気が付いたら背後から忍び寄っていたアルテが俺の肩に飛び乗っていた。
膨らみの無い真っ平らな身体ではあるが、子供らしくぷにぷに柔らかい。
俺は締め付けられる首に手を入れて引きはがし、アルテの正面を向く。

「いきなりどうしたんだ?」
「どうせ相手が意見をまとめるまで動けないのです。
 どうやら本当に必要な人材の確保はもう終わったのですし、折角ですから温泉行くのです!」
「温泉か……ここはカルデラ盆地なのか?」
「カルデラの意味はわかりませんが、温泉ならでていますよ」
「では、皆で入るのです!」
「えっ!? ちょ……おま!?」
「アルテ殿乱心めされたか!?」

俺とアル・サンドラが驚くがアルテは兎も角、フィブリノも反論はしなかった。
その辺は少し不思議に思ったものの、言うべき事は言わねばならない。

「男女七歳にして席を同じうせずってな!
 性を意識する年齢になったら結婚するまで肌を晒さないのが……」
「ええいうるさいのです! どうせ全員たつにーさんのものにするんだからいいのです!」
「なんでそうなる!?」
「そっ、そうですぞ……女性はもっと慎みをもたねば……」
「剣を振り回して戦う女性に慎みを解かれても……」
「だから!」
「待ってください、このままでは騒ぎになるのです。
 それに男女の混浴なんて風呂は珍しくないのですよ。
 男女が別れて入るのは風呂の数に余裕があるからなのです」
「そっ、そうなのか?」
「私からは何とも……」

最後の砦だったアル・サンドラも尻すぼみになり、結局3人を連れて混浴する事に……。
流石に騎士達は遠慮したようだ。
というか、嬉しいのだがこの男女比では力関係が如実だ……。
割と大きな混浴の浴場、ただ西洋風なせいか石畳で覆ってあり、ちょっとしたプールのような様相だ。
俺は先に入って他のみなが入ってくるのを待つ。
というか、待たないで出たいと言う思いはかなり強いが、そんな事をすれば後が怖い。

「なんでこんな事に……」
「それはもちろん、たつにーさんのためなのですよ」
「うわっ!?」

アルテは湯船を泳ぎながら接近、びっくりした俺を一瞬で捕獲した!?
年齢的に性的魅力は流石に低いが、綺麗な肌と髪それに好奇心に満ちた瞳。
塗れても溌剌としたイメージが強い。
だからだろうか、年齢以上に可愛く見せていた。

「これがどうして俺のためになるんだ?」
「決まってるのです。アルテやサンドラ、フィブりんもドランバルト王国では浮いてるのです」
「……それはそうかもしれないが」
「でも、全員たつにーさんの愛人と言う事になったらどうなるでしょう?」
「愛人!? まさか……」
「はい! アルテ達3人は皆たつにーさんの愛人になるのです!」
「そんな話聞いてないぞ!?」
「ん?」

声がして、そちらの方に目を向けるとアルテを睨むようにしたアル・サンドラが結局素っ裸出で来ている。
タオルで申し訳程度前を隠しているが、健康そうな肌も、大きいバストも隠せるようなものではない。
赤毛と相まって非常に健全ながらエロスのほうも十分漂わせている。
筋肉質なところも魅力を損なうには至っていなかった。

「別に今すぐ行為に及べなんていってないのです。
 こうして、裸のお付き合いをしてれば傍目からはそう見えるのですよ♪」
「はっ……裸……」

今の自分の姿に思い至ったのだろう、アル・サンドラは顔を真っ赤にしてその場にしゃがみこんだ。
とはいえ、そんな事をすると逆に又下が良く見えるようになってやばい。
俺は思わず目をそらしたが、そこのはにんまり笑ったアルテの顔があった。

「お前な……」
「まあまあ役得なのですよー♪
 その内アルテもああなりますから、大丈夫なのです!」
「それはありえない」
「むっ、その声は!?」

俺とアルテの間にあるお湯の下から角が出現その下から明らかに人ではない肌の色をした女性が浮き上がる。
アルテと違って年齢的には少し華奢な15歳位に見える。
肌は紫系で、瞳は紅く、髪はオレンジ、人とは完全に配色を違えているが、
その姿は確かに女性のもので、何よりそれらを加味しても可愛い。
もちろん、彼女だってアルテと同じく見た目通りの年齢じゃないだろう。
30年はこの村にいて、その前は魔族間で政治闘争をしていたのだから最低でも60歳は越えるはず。
つまりまー最年長であらせられるわけだ。

「タツヤ殿、今失礼な事を考えませんでしたか?」
「いや、何も……」
「そうですか、それならいいのですが。
 こうして誰かと肌を合わせるのも久しぶりです……」

正面からぴっとりとフィブリノが俺に密着する。
流石に15歳くらいの見た目となればそれなりのボリュームがあったりする訳で……。
更には潤んだ目と上目遣いという強力なコンボをかましてくれた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。流石にそれはまずい」
「どうしてですか?
 子供の事でしたら心配ありません。これでも子育ての経験はそれなりにあります」
「子育て!?」

どこまで話が飛んでるんだ、もしかして既に明るい家族計画か!?
アルテの方も流石に戸惑っているようだが、なにやら覚悟を決めたような表情になった。
え、マッテ……俺そんなキャラじゃないよ!?
今まで一度もモテた事もないのに!!
そういうのはきっと清四郎の仕事だから!?
どっちかっていうと俺はその隣で嫉妬の炎を燃やす友人Aだから!!
とか動揺しつつもしっかり目の保養は視界がキャッチしてしまっていて……。
まずい……。

「あっ、もしかして反応しました?」
「えっ、たつにーさんの息子が息子を作る準備が出来たのです?」
「そっ、そんなはず無いじゃないか……はははやだな……」

俺は額から滝のように汗を流しつつ助けを探す、流石にこんな所でそういう世界に踏み込むわけにはいかない。
といっても既にかなり充填率が上がってきているウェポンが問題だ。
静まれい! 俺のファイナルウェポンよ! 今発動したら人生終了だ!!
血がどこかに集まろうとするのを必死で止めないといけない状況になった。
俺は思わず助けを探して視線を彷徨わせた……。

「こら! 魔族! 主殿に触れるな!! 我らはっ!?」
「あ!?」

俺の危機的状況を見てか、
アル・サンドラは今まで団子のようになっていたとは思えない瞬発力で突撃してきた。
しかし、湯船の近くで走ったりしたものだから、見事に滑りルパンダイブのように空を舞った。
そして、落下地点は俺の……直上だった……。
結論から言おう、柔らかかったです。

「にゃぁぁぁぁぁっぁぁぁ!?!!?」

彼女の暴走により15HITCOMBOの後星になるほど打ち上げられ、気絶、治療にまる1日かかったのは言うまでもない。
よって、その日の記憶は色々さだかではないのですが……。
アル・サンドラはその日以後暫く俺の顔を見るたび顔を真っ赤にし、
騎士達の間で、俺の事を絶倫王という渾名で呼び始めたらしいという噂を聞いた……。




あとがき
たまにはラブコメをきちんとやろうとw
正直うまくいってるのか自信ないですがww
ともあれ、ようやく軍師が一人入ってきたので展開がしやすくなったかな?
前半戦で軍師を入れるのはよくないかもですがw



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