銀河英雄伝説 十字の紋章
第七話 十字、狼狽する。
俺が士官学校の大学部に入ってもう一年がたつ。
俺の年齢はまだ18歳だが、あと2ヶ月もすれば19歳になるだろう。
ちなみに宇宙暦においては、776年となる。
銀河英雄伝説的にはラインハルトが生まれた年。
つまりは原作開始の20年前ということになる。
戦争は現在イゼルローンからの侵攻軍がティアマトを抜けダゴンに到達しようとしている。
迎撃部隊もどうにか間に合った様子なので、第何次かしらんがダゴン会戦となる可能性が高い。
まーフェザーンの介入もあるはずなので、今回はおそらく負けないんじゃないだろうか。
どちらにしろ疲弊させられる事には変わりないのだが。
地球教に関しては、同盟内における地位はかなり下がった。
何せ、多数ある宗教の一つに過ぎないようになってもう5年。
元祖ではあるが、独自色は薄いと判断されるようになっている。
そのため、現在は新興宗教が乱立しはじめている。
宗教そのものの価値より、独自色という判断ができるようになったからだろう。
そのせいで、新規入信者はほとんどいないらしい。
逆に十字教はニッチな層にやたら受けるらしく、徐々に信徒を伸ばしていた。
以前ほど爆発的ではないものの数は十分に伸び700万を数えるに至っている。
ブルースフィアは地球教となんらかの協定を結んだのか、最近おとなしい。
回帰教は一般的な宗教の基本になりつつある。
それぞれ、安定期に入りつつあるようだ。
俺自身は漫画原作、アニメ会社、映画原作、グッズ版権などで稼いでいた。
1億2千万ディナール(132億円)ほどまでまた儲けている。
ちなみに、毎年十字教に2千万ディナール寄付をしていた。
こういう寄り道をしつつも、情報収集のおかげもあり成績は好調。
順位を上げ、成績の総合で10位までどうにか上がってきた。
これ以上の奴らは基本勉強に全てを捧げた人間か天才しかいないレベルだ。
なにせ、同盟軍に毎年入隊するのが100万単位なのだ大規模な死者が出れば500万くらい一気に増える事もある。
その中で10位以内ということなのだから、ある意味当然だろう。
むしろ俺、よく10位以内なんて入れたな……。
バグダッシュ情報で、戦術による対戦はあらかた相手の情報を得られる上。
士官学校内の力関係や、どういう人物が好まれるかなども調べているし、
ペーパーテストに限れば出題範囲を毎回知っているので100点満点なら98以下は取ったことがない。
運動関連も自主練を怠ったことはないので、上位をキープし続けている。
兵器の扱いも、薔薇の蕾を通じてかなり訓練してきてもいる。
格闘技も同上だ。
心理学の勉強もそれなりに役に立っている。
だが、それでも天才ではないからな。
よくぞここまで行けたと、自分で自分を褒めてやりたい。
後は一気に卒業だと思っていた矢先、俺は学長室に呼び出される事となった。
そう、今年から校長になったシドニー・シトレ元大将閣下にだ。
「ジュージ・ナカムラです」
「入り給え」
校長室はマホガニーの机があるだけのシンプルな部屋だ。
普通はその手前に応接セットなんかがあるものだが、シトレ校長はそういうのは好かないのだろう。
秘書も置いていないようだし、生徒如きに茶も出さない。
質実剛健といえば聞こえはいいが、プレッシャーだけをかけてくる、ある意味めんどくさい親父だ。
「よく来てくれたジュージ・ナカムラ君」
「ハッ!」
返事しないわけにもいかないが、この応答は間違っている気もする。
しかし、軍のいいところはとにかく敬礼をすれば許される点だろう。
「早速だが、このところ良くわからない金が動いている気がしてね」
あー、確かに俺が使っている金は学生としては規模が大きいからな。
情報料に、プレゼント攻勢、色々な便利グッズや訓練機器、もちろん参考書も。
いろいろと派手に使ってしまっている。
流石に目に留まったのだろう。
だが、全て俺の金だし、情報を買うのもプレゼントもルール違反ではない。
まあ、バグダッシュは真っ黒だが、そこまで責任持てるわけもない。
「知らないかね?」
「ハッ! 寡聞にして聞き及んでおりません」
「だが、色々と聞いて回ると君からもらったとか言うものが多いようだが?」
「はあ、もしや個人的なプレゼントでしょうか? 特に規定上問題ないはずですが」
「確かに君たちは学生だから、まだ軍法は適用されない。しかし、あまり良い事でもない」
まーリベラル代表である彼からすれば俺の行動は見られたものじゃないだろうな。
だが、俺みたいな人間が軍で頭角を現すには相応なコネが必要だ。
このやり方を否定されたら俺はモブキャラとして戦場に散る事になるだろう。
「実力主義大いに結構だと思います。
ただ、校長がその事で悪印象を持っているならそれもまた実力とは無関係かと」
「ふむ、君はその年で老練な政治家のようなことを口にするのだね」
「私にはやらねばならない事がありますので」
下手な事を言ってこれ以上怒らせても仕方ない。
誇大妄想でもぶち上げてみせるしかないな。
実際、それでアンドリュー・フォークが主席だったことを見るに手出しはできないだろう。
「何をかね?」
「帝国に圧倒的打撃を与えるか、同盟が帝国に対し倍以上の有利となるよう動く事です」
「それは帝都オーディンまで侵攻するということかね?」
「そこまでいければいいのですが、現状ではイゼルローンとフェザーンの回廊を抑える事だと思います」
「両方の回廊をかね?」
「は!」
それがもしできれば、帝国は同盟側に攻め込む事ができなくなる。
防衛はヤンとビュコックあたりにしておけば完璧だ。
ただし、アムリッツァ会戦のような事が起これば勝利も霧散するが。
「それができれば間違いなく、同盟は圧倒的有利となるでしょう」
「ほう、理由は何かね?」
「攻め込まれる可能性がぐんと下がります。フェザーンにも要塞を作っておくべきですが」
「ふむ」
「もともと自由惑星同盟は開拓の歴史です。
ハイネセンが脱出してから100年弱で帝国と戦える規模にまで大きくなった経緯を考えれば。
同盟の惑星開拓能力は帝国の比ではありません。
もしも攻め込まれない50年があれば、人口も惑星数も今の1.5倍まで増える事ができるでしょう」
そうなれば、もう帝国は同盟に敵わない。
増えるスピードが段違いであるからだ。
100年を過ぎれば支配惑星があまり増えない帝国では対処できないほどの大差となっている。
3倍近い差だろう。
「それに帝国は同盟と戦えなければ痩せ細る病の中にあると言っていい。貴族政治の弊害です」
「否定はしないが」
「そして、フェザーンが帝国の安い物資を同盟に勝手に売り払うという状況も是正できます」
「それは……」
「同盟も取引相手が現状フェザーンのみなので関税がしっかりしていない。抜け穴になっています」
「関税か、各惑星間では存在しているが」
「はい、ただどうしてもあまりないものは無税に近い。そして、帝国は狙って生産ができます」
「……だがそれと、君の素行とどう関係するのかね?」
煙に巻こうとしたら話題を戻されたでござる。
流石リベラルのインテリは違うぜ。
「有り体に言えば、私は既に金を稼いでいます。会社も持っている。
私が士官学校内で使っているのは私のポケットマネーです」
「なるほど」
「私の作戦が日の目を見るかどうかは、私の軍内部の地位によって決まる」
「つまり、金で地位を買う気かね?」
「軍はそんな甘いところですか?」
そう、そのまま金を積んでも軍で出世できるわけではない。
だが、多少なりとも補正は効かせる事ができる。
その補正を最大限利用するために俺は金を使っている。
結局、それを不快に思われるのは痛し痒しではあるが。
「いいや、君にとって不利になる事もある」
「はい、ですが足がかりにするために、出し惜しみをする気はありません」
「……わかった、今回は引こう、ただし余り目立つようなら士官学校から出ていってもらう」
「ハッ!」
俺は敬礼を返して、校長室を出ていく。
シドニー・シトレ、侮れないおっさんではある。
だが流石に、証拠もないのに退学なんぞにしたらこちらも黙ってないつもりだが。
ただまあ、できる限り目立たなくする必要はあるかもしれない。
現金の使用は控えるしかないな。
卒業優先だ。
「大丈夫だったか?」
「バグダッシュ」
バグダッシュは俺の懐刀として4年間一緒につるむことが多かった。
だからか、最近は金だけのつながりというわけでもないように思える。
まあ、円に換算して5億くらい儲けさせてやったからというのもあるが。
「まー暫くおとなしくしておくしかないな」
「へぇ、それでどうにかなるのかい?」
「卒業だけならな。コネはかなり作ったし。
問題があるとすれば、任官先を選べなくなるくらいか」
「まーここを卒業すりゃ、相応にエリートなんだから気にするこたあねぇさ」
「だな」
バグダッシュは気楽に構えている風を装っていたが、急に真剣な表情になる。
そして、そのまま俺を先導し言った。
「しかし、お前さんの目標。本気で出来ると思ってんのかい?」
「まだ何もかも足りないさ」
「へぇ、何が足りないっていうんだ?」
「先ず金が足りない」
「金ね、漫画王、アニメの先駆者なんて呼ばれてるあんたが。かい?
同盟長者番付で1000番代まで来てるって噂だぜ?」
「まあ、せめて10番代まで行かないとな」
「そこまで行くともう財閥の総帥とか、軍産複合体の会長レベルだぜ?」
「同盟の政治に口出しするならそれくらい必要だろ」
「……なるほどな」
まあ、簡単に出来るとは思っていない。
というか、そのための2の矢、3の矢も用意はしている。
「金が駄目なら、人を動かすものでもいい」
「それが宗教ってわけか。聞いてるぜ十字教ってのはあんたの名前から取ってるんだってな」
「だがまだ小さすぎる、地球教への牽制くらいにしか使えない」
「全く、贅沢だな」
だからゲーム会社と同時にもう一つ考えている事がある。
事業が成功するかどうかはわからないが、現状を考えれば一番成功率が高い方法だ。
それも、卒業後ということになっているから任官後の副業というかあくまで株主としてだが。
役職は軍に入ってからは使えないので、それまでに退陣しておく必要がある。
「だからバグダッシュ。あんたにはこれからもサポート頼みたいんだが」
「わーってるよ。任官後も金さえ融通してくれりゃ情報は出す」
「それもだが、人材発掘も期待してる」
「へぇ、それは今からでもありかい?」
「もちろんだ、だが払いは卒業後につけておいてくれ」
「了解した、あんたは金払いがいいからな。信用するよ」
そうしてバグダッシュについていくと、そこには角刈りにした金髪兄ちゃんがいた。
あーこれはわかる。
バグダッシュの知り合いでこの姿だもの、間違いないな。
しかし、堅物で俺とは反りが合わなそうなのに、なんでまた?
「後輩のルグランジュだ。彼は堅物だが出来る人材だと思うぜ」
「始めましてジュウジ先輩。ルグランジュといいます」
「ああ知っている。確か二つ名は狂い獅子だっけ?」
「お恥ずかしい……」
そう、この時点で既に彼は有名人だった。
何せ成績は常にトップでシミュレーション戦績は同年では負け無し。
土をつけたのは俺を含め3人ほどだったはず。
残る2人はもう卒業しているので、実質今は俺だけということになる。
ただし、俺はバグダッシュの情報をもとに徹底的に研究した結果でしかないが。
あえて言えば、ライオネル・モートンと比べれば少しだけ戦いやすかった。
「それと、貴方の作品は欠かさず見ています!」
「えッ?」
「特に宇宙戦士ガソバル等は素晴らしい!」
あーある程度強硬派に媚びるためにガン○ム系とかのロボットものをアレンジしたのを作ってたっけ。
いかにもパチもんな上に丸パクリなんだが、ここまで版権は追ってこれないからな。
他にも数点そういう系統のを作ってある。
そのうちスパロボとか作れればと思ってるから余計に。
「しかし、人形巨大兵器というのはいいものですな。今度軍に申請してみたいと考えております」
「うまくいくといいですな」
「はい!」
まあ、ガ○ダムはともかく、この時代に揚陸艇に乗って来るのがノーマルスーツというのはおかしいと思ってはいた。
パワードスーツくらい作ればいいとは思っている。
だからまあ、俺が偉くなったら提案してみたいものだ。
しかしあれだな、彼。
純粋過ぎたんだろう……オタク化してやがる。
「歌で文化をわからせるという超時空戦艦マーダスのコンセプトもいいのですが。
帝国はああは簡単に理解してくれないでしょうからな」
「そうだねえ、現実には難しいね」
「しかし、音波兵器というものもいいのではないでしょうか?」
「ああ、そういう使い方もあるかもね」
「はい! 実は改修案等考えているのですが。流石にまだ軍人ではないので……」
うん、立派にオタクしてるな。
それも、技術系にこだわってらっしゃる。
この分だと十字教に入信しかねん……。
こんな所で原作ブレイクしてしまうとは……。
「実に有意義な時間でした、ジュージ先生。今後も作品を期待しておりますぞ!」
「あ、ああ……頑張ります」
「では、ジュージ先生がゆっくり作品を作られるよう、手早く帝国を倒さねばなりませんな!」
「お互い頑張りましょう」
「はっ、必ずやこの手で帝国を撃滅してご覧に入れます!」
ルグランジュはそう言って去っていった。
心強いというか、ある意味心配というか。
救国軍事会議大丈夫か? のレベルが上がったというか。
まあ、俺の手がどれかでもうまく行けば救国軍事会議は生まれないはずだが。
というか、救国軍事会議が生まれたら同盟は詰んでるということだから、俺は逃げる。
じょうぎ腕(キグナス腕:ペルセウス腕より更に外にある銀河腕)まで行けば逃げ切れるだろう。
何人連れていけるかはわからないが、そのためにも金は必要だ。
とはいえ、戦艦一隻で30億ディナール(3300億円)くらいはするだろう。
これは、アメリカの原子力空母の量産型1隻の値段をもとにしたものだが、そう変わらない自信がある。
この世界の宇宙戦艦や空母は当時のそれの値段で買えるくらいに安価ではあるということだ。
もっともそれを何万隻と揃えているわけだからその金額は推して知るべしだが。
移民船となると、やはり同じくらいはするはずで今俺の全資産を使っても1隻の値段の30分の1にしか届かない。
中に積むものも考えると50億ディナール(5500億円)はほしい。
つまり、最低限今の50倍になるまで稼がないと、脱出も満足にできないということだ。
他人から見れば俺は既に大金持ちの部類のはずなんだがな……。
最悪、現状の一人株主会社の上場も考えないといけないな。
その日の授業はおおよそ予習通りの内容だったが、授業態度が悪いとやはり成績に響くのできっちり受ける。
大学部に入ってから体術系の教練はほとんどないので、楽といえば楽だが、今後の事も考えると念の為鍛えないと。
少なくとも士官学校で習う戦術、戦略はおおよそ学び終えた俺だが。
実際、俺が強くなったかと言われると微妙なラインだろうか。
心理学のほうが役に立っている気がする。
戦の歴史とかオーディンを主神とした宗教はギリギリ残っているようだが色々と失われたこの世界。
その差を使い俺は儲けを得てきた。
洒落っ気男爵の残したカードを調べて見た事もあったが。
正直ただのネタ集みたいなものだったが、示唆されたことは理解した。
すなわち、やるだけやってみなけりゃ損だということだ。
その日、翌日が休日になるため俺はセーフハウスへと戻る。
いつもの通りバーリさんに迎えられ、各種報告を聞く。
基本的に俺を注目している人間は漫画関係か財界の下っ端くらいだ。
詐欺師やスパイ、泥棒なんかは基本護衛やバーリさんが対処してくれるので楽だ。
「という状況になっております」
「問題が起きてないならいい。それと……」
「ジュージ!!」
「おおっと」
突然襲撃してきたのは、エミーリアだった。
俺はしっかり抱きとめてから、きっちり下ろす。
特に決めたわけでもないが、半ば公然と恋人っぽい事をするようになってきた。
外堀も埋められてるし、秒読み段階かもしれん……。
そういえば、大学部に入ってから、実家に帰ったの長期休みだけだからな。
チャットで時々話してたが、疎遠になってた気がしなくもない。
「冬の長期休み依頼だから3ヶ月ぶりだな」
「ほんとよ、もっと頻繁に帰ってくればいいのに」
「そうもいかないさ。いろいろ仕事溜め込んでしまってるからな」
「ほんと、ジュージはワーカーホリックよね」
社畜時代から時間が余ると色々やってしまう貧乏性な所はあったが。
確かにワーカーホリック気味かもしれんな。
しかし、彼女を見ているとしっかりしなければとも思う。
「どうせ、この後軍に入るなら、そのままハイネセン暮らしになるんでしょ?」
「なんとも言えないが、ある程度階級が上がったらそうなるかな」
「なら私もこっちで住む事にする」
「こっちって……、このセーフハウスに?」
「ええ、少なくとも最後の1年くらいは一緒できるし。
ある程度階級が上がったら定住するんでしょ?」
「まあ、そうなるかな」
「ならお願い!」
俺は少し顎に手をあてて考える。
俺にはメリットしかないが、彼女にとってはどうなんだろう?
リスクが上がることだけは事実だろう。
俺はバーリさんの方を見る。
「バーリさん、エミーリアの護衛何人います?」
「表立って2人、裏にも何人かいます」
「そうか、それなら問題ないかな」
「やったー! ってえ? そんなにいるの?」
「はい」
まあ、薔薇の蕾という組織の中で長であるエミーリアパパに次ぐ護衛対象だろうしな。
裏のほうはおそらく10人単位でいるはずだ。
はっきりした数はわからないが、最低限根を張った組織である以上1000人規模のはずだしな。
連絡員含めれば万単位でいてもおかしくない。
「それじゃ、明日は色々案内するよ」
「うん!」
俺は、この時既に色々と考えてしまっていた。
彼女が一緒にいるということの意味、おそらくエミーリアパパも後ろにいる。
だが、利用しない手はないと。
個人的にもこの純真な女性(やたら用意がいいのでどこまで純真かは微妙)がいる事で救われる。
だが、疎遠になっていたのには理由もあった。
俺は色々と汚い仕事もしている、彼女が染まってしまうのが怖い。
もともと、彼女の家のことを考えれば奇跡的なくらい純真なのだ。
バーリさんのようにスイッチが切り替わるように他人を殺せる人間になってほしくはない。
ひどく矛盾しているが、今の俺の素直な気持ちでもあった。
その日はバーリさんには現状の事業の進め方を相談し、それ以外の時間は基本エミーリアと過ごした。
美人というよりは可愛く、元気に育ったエミーリアのスキンシップは俺をドギマギさせる。
中身はおっさんなので、表情には出さないが、彼女は魅力的な女性になっていた。
「その、ここまでお膳立てされてから言うのも恥ずかしいが、結婚を前提に付き合ってくれるか?」
「うん。その……これからもよろしくね!」
翌日街を案内し、ベタベタながら海の見える公園で告白する。
遅すぎただろうか。だが、待たせてしまった自覚はある。
だが、これから彼女にも俺の負担を背負わせる事になるのは不安でもあった。
だからその日はデートと割り切って思い切り楽しむ。
「ねぇねぇ。ここって」
「ああ、漫画喫茶か。ちょっと始めてみたんだが今日は用がないし別の所に行こう」
「ううん、ちょっと入っていこうよ!」
「いやいや、こういう所は一人で楽しむ所だから」
「まあまあ、もともと私達の趣味ってそういうのじゃない?」
「否定はせんが」
そう、漫画喫茶。
俺が始めた新商売の一つだ。
お一人さまの暇つぶし、もともと喫茶店で売れ行きが低下した所等を使ってチェーン展開している。
コンビニも始めたかったが、流石に流通規模が大きくなりすぎるので現状では手が出せない。
ゲーム企業が軌道に乗ったらゲーセン等もありうるが、そちらもまだまだ準備段階だ。
現状唯一のジュージグループの店舗展開と言える。
「へぇ、ずいぶん増えたんだね」
「漫画はもう、俺の原案だけじゃないからな。そういえば、エミーリアも幾つか手がけたって聞いたが?」
「原案っていっても、私の場合きっちりプロット組んだわけじゃないからね。
単にこういうのどうかな〜? って言ったらそれを元に作ってくれただけよ?」
「なるほどな、だがそれで漫画家が描く気になったなら十分原案だよ」
「そうかな?」
「ああ」
まあ、エミーリアパパあたりの差金の可能性はあるが、どちらにしろ多様化が進むのは歓迎だ。
漫画は色々な所で活用して更に広がっていくのが楽しい面もある。
メディアミックスも捗るというものだ。
それから、漫画喫茶で暫くだべり、レストランで食事を取ってから映画館へ。
その看板を見て、ちょっと引いた。
「あー、これってジュージ君の原案だよね?」
「まあそうなんだが、できればこれ以外にしないか?」
「えー、いいじゃん。ジュージ君の作品見たいよ、私」
「くっ!」
可愛くおねだりされると弱い。
しかし、今回のアニメ映画はとLOVERU。
そう某有名エチエチ系漫画のパチものだ。
まあ、流石に現状の同盟でまんまやるわけにもいかず少し抑え気味だが。
それにしたって妄想爆発系ハーレムものには違いない。
そんな作品を俺が考えたと思われるのは辛いものがあるので、彼女と見たい訳もなかった。
「でっ、できればあっちにしないか?」
「えー、もうチケット買っちゃったよ?」
そう言ってチケットをひらひらさせるエミーリア俺が見せたくない理由をだいたい察しているのだろう。
今日は一日彼女に遊ばれる覚悟をしなければならないな……。
結局あの作品に関してかなりネチネチからかわれる事となった……。
「まーったく、ジュージ君があんなにHな事考えてるなんて知らなかったよ」
「まあ、はい、男ですから」
「それを言われるとそれまでだけど。ハーレムなんて帝国貴族じゃないんだからね?」
「いや、実際にやるつもりはないよ」
「どうだか?」
「本当だって!」
「ふふっ、許してあげない!」
「そこはあげるところだろ!」
「あげないも〜ん♪」
とまあ、一日そんな感じだった。
結局謀略等は完全に止まってしまったが、駆け足で勧めすぎた気もしたのでこれでいいのかもしれない。
翌日からまた寮生活に戻る、結局彼女とは週に2日しか会えない格好だが、今までよりは格段に会える。
逆に裏向きの話は少ししづらくなるが、士官学校内でも可能な事なので段取りはフロリモンに伝える事にした。
「頼む」
「了解しました!」
一応寮内での会話は盗聴されないよう色々と仕込みはしてあるが。
あまり、深い話をするわけに行かないから結局セーフハウスも使わざるを得ないな。
エミーリアが寝てからにするか。
そうして、二重生活からさらにややこしい生活になって二ヶ月ほど、ようやく慣れてきた頃だ。
俺は油断していたのかもしれない。
バーリさんとのぶつかり合い以後、大きな賭けに出る場面もなかったせいか。
それは、唐突だった。
「すいません、若様! 緊急事態です!」
「どうしたバーリさん!?」
「お嬢様が、エミーリアお嬢様が誘拐されました!!」
「なっ!?」
俺は頭が真っ白になるのを感じた。
あとがき
なかなか士官学校を卒業できないw
本来は6話で卒業予定だったんですが。
書いてるとエミーリア空気すぎることに気づき。
少しエピソードつけてたらこうなりました。
次回には流石に卒業と任官まで持っていけると思いますのでご容赦を。
次回は2月2日になると思います。
ストックをためながらがんばりますね。
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