銀河英雄伝説 十字の紋章
第九話 十字、飛ばされる。
宇宙暦777年、少尉として俺は任官した。
基本的な社会地位は全てエミーリアに譲り。
俺自身は株券と十字教への影響力だけ残している。
この一年でまた同盟軍の情勢は動いている。
もちろん、悪い方向へだ。
第二回イゼルローン侵攻軍はものの見事に壊滅した。
前回の教訓を活かし、最初のほうこそ善戦していたが、敵艦隊に誘い出され結局トールハンマーの餌食になったようだ。
これにより、大規模な艦隊再編が必要になるダメージを負った同盟軍は守勢に回るしかない。
それも恐らく、数年間はひたすら耐えるしか無いだろうと思われた。
ロボス中将は生き残り英雄ともてはやされたものの、今回は階級の上昇はなかった。
アレクサンドル・ビュコック准将も生き残ったが参加した艦隊は半壊している。
彼は今回の事で前線から外されるという話を聞いた。
なんでも、司令部とやりあったらしく、降格処分にならなかっただけマシらしい。
そんなわけで、彼は遠方で警備艦隊を率いる事になるそうだ。
アンリ・ビュコック先輩は既に大尉となっており、どこぞの巡洋艦の陸戦隊を指揮しているらしい。
個人的には陸戦隊なんて危ない戦いはしてほしくないのだが。
長男のアンドレ・ビュコック氏は既に少佐になっており、現在は駆逐艦の艦長になっているそうだ。
調べてみた範囲でも、彼らは非常に危うい。
アンリ先輩は当然のこと、アンドレ氏も装甲の薄い駆逐艦なんていつ沈んでもおかしくない。
彼らがいつ死んだのかは原作で語られていないので、明日死んでいましたなんてことすらありうるのだ。
とりあえずイゼルローン侵攻軍に入っていなかった事だけは救いだった。
まあ、俺も人の心配をしていられる状況でもないのだが……。
何せここから先20年間なんとしても生き抜く必要がある。
可能なら提督になりたいが、俺の才能では参謀がよっぽど使える奴じゃないと厳しいだろう。
どちらにしろ俺の出来る事は、生き残り、そして同盟を少しでも有利に持っていく事。
そのために有意な人材を可能な限り生き残らせる事だ。
そのためにも……。
俺は、最初の任地で生き残らねばならない……。
俺の最初の任地は、ティアマト星系第三惑星に建造されている補給基地。
次の会戦はほぼ間違いなくティアマト星系になるだろうと言われている事と合わせて考えれば死んでこいという事だろう。
この人事を行ったのが、シドニー・シトレの思惑なのか、地球教系の嫌がらせなのかはわからない。
ただ俺が生き残るためには、ただ漫然と任地に行く訳にはいかない。
可能な限りリスクを減らしておく必要がある。
幸い、着任まではまだ少し時間がある。
今のうちに可能な限りの物を用意しておくとしよう。
個人で出来るレベルだから限度があるが、それでもほんの少しの差が生き残りを分けることもある。
「兄ちゃん、こんなの本気で買うつもりかい?」
「ああ、骨董品と言えなくもないが。使い勝手も良さそうだ」
「まだ野外なら少しは使いようもあるが、ゼッフェル粒子全盛の今じゃむしろお荷物だぜ?」
「備えあれば憂い無しって言うだろ」
「まー買ってくれるならこっちに取っちゃありがたいがね」
ゼッフェル粒子は現状の陸戦において、取り敢えず撒いておくくらいよく使われる。
だが、野外においてはその限りじゃない。
なら一応電磁バリア発生装置くらい持っておいて損はないだろう。
ゼッフェル粒子下では爆発して死ぬ率が跳上るわけだが。
他にも、俺はあまり使われていない特殊装備を買い付けしていく。
「兄ちゃん、本当に変わりもんだね。だが面白そうではあるな」
「まあ、任地がひどい所なので、生き残り工作ですよ」
「ほほー。ならこいつも持っていきな」
「これは……」
ぱっと見はインナースーツのようだが。
よく見れば銀色のラインが無数に走っている。
これは……。
「パワードスーツですか?」
「そこまでのもんじゃないが。筋力を補う機構と多少の防刃、防弾能力がある。値も張るがな」
「買います!」
もともと持っているジャケット等は流石に軍服の上に着るのは不味い可能性もあったからな。
これが偽物かどうかの確認は必要だが、この店自体が薔薇の蕾御用達だ。
恐らく、パチモノを掴まされる事はないはず。
ともかく、俺は個人で用意出来る限りの物を用意し。
任地の人員構成を薔薇の蕾に調べてもらい、バグダッシュからも情報を集めた。
少しでも生存率を上げ、上司との諍いをなくし、一刻も早く階級を上げて任地を離れるためだ。
ティアマトはまた戦場になる可能性が高い。
その前にというのは難しいだろうが、少なくとも補給基地が相手に見つかったら終わりだ。
そもそも、あくまで偵察用の補給基地なので人員は100人に届いてない。
偵察用のフリーゲート艦数隻を飛ばすためだけの基地でしかない。
フリーゲート艦は偵察で敵の存在を確認したら逃げる。
そして、可能であれば補給基地の人員も撤収する。
それだけの基地でしかない。
いくら帝国にスパイを入れており、フェザーンからも情報が来ると言っても、それは敵の遠征計画に過ぎない。
実際にどこにいるのかは見て判断するしかない。
光速を越える速度を出せるからこそ、通信よりも直接偵察が重要になってくるわけだ。
ただし、補給基地の存在が帝国にバレた場合、砲撃一発で蒸発しかねないリスクがある。
恐らくはそれをするくらいなら、占領するんだろうが。
それでも可能性がないわけじゃない。
つまり、イゼルローンで敗れ、防衛線をティアマトに敷きたい同盟側としては情報に価値がある。
だが当然この基地はあくまで偵察用であるため、情報さえ届けば蹂躙されてもさほど懐は傷まない。
だから捨て石そのものであるということだ。
「絶対生き残ってやる」
とにかく、俺個人が生き残るために必要なものを揃える。
そして、次に必要なものは可能な限り早く戻ってこれるようにするコネと、現地で孤立しないための情報だ。
情報はバグダッシュや薔薇の蕾を使ったが、コネは士官学校内での仕込みがどの程度役に立つかだ。
取り敢えず、アンリ先輩含め、それなりの数の人間にそれとなくお願いをしておいた。
あんまり露骨でも不味いからな。
後は、シトレ派につなぎをつけるべきかだが。
彼が口出しした可能性は低いと見るべきだが、同時に俺が死んでも気にもとめないだろうとも思う。
興味を持ってもらうにしても、彼らは実力重視だ。
諦めるほうが吉だな。
「じゃあ、行ってくる」
「無茶ばかりして……、無事に帰ってきてね」
「当然だろ、俺はこんな所で死ねない」
「ほんと、バカなんだから」
軽いキスをしてエミーリアと別れる。
フリーゲート艦のタラップに乗り込んでいく俺は、正直後ろ髪を引かれていた。
こんな所で死ぬ気はないが、それでも命の保証があるわけじゃない。
最悪は常に考えておく必要がある。
だが……。
俺に出来ることは全てやった。
これ以上は現地に行ってから確かめるしかない。
それから、艦内では支給品以外の装備等に関して見咎められたが、幾つかを渡す事で目こぼしをしてもらった。
俺にとっては命綱だし、そもそも、俺の着任する場所を知っているなら仕方ないで通った。
それから一週間ほど、ティアマト星系の第三惑星には特に問題もなくついた。
補給基地への持ち込みは、フリーゲート艦に乗り込む時よりまともにチェックされていなかった。
予想通りとはいえ、これでいいのかと思わなくもない。
彼らとて、武器の類はチェックしていたのだろう。
しかし、個人装備は誰もが持ってきているようで、俺だけが特別というわけでもないらしい。
末期の酒というべきか、それとも精神安定剤というべきか。
どちらにしろ、この補給基地そのものは防衛力を持たないため。
個人装備には制限をつけていないようだった。
「ジュージ・ナカムラ少尉、ティアマト第二補給基地に着任いたしました!」
「うむ、貴官を歓迎する。私はダーラム・ホド大尉だ。この補給基地の司令官を勤めている」
司令官室というには妙にわびしいその部屋で、俺を待っていたのは中年の黄人男性だ。
歓迎していると口では言っているが、俺のようななりたてを実際に歓迎しているわけもない。
こんな最前線では叩き上げが喜ばれるものだから当然だ。
だが、少なくとも彼からそういったはっきりした意図は感じられなかった。
だが、基地司令が大尉とか普通ではちょっと考えられない話だ。
しかし、この基地は基本的にフリーゲート艦の燃料補給と簡易整備をするたけの基地なので大尉でも務まるのかもしれない。
幸いこの第三惑星では小規模ながら宇宙船の燃料が出るようで、基地もその上にたっている。
艦隊戦ではお呼びじゃないが、フリーゲート数隻くらいなら問題ない程度の産出量らしい。
「君の担当は施設の保全、警備だ。現在は副司令であるバプティスト中尉が兼任している」
「はっ!」
「おっ、ちょうど来たようだね。バプティスト中尉、彼が新任のジュージ少尉だ」
「おー、そうかそうか。わかりました司令官殿。引き継ぎを行っておきますね」
「頼む」
「じゃあ、ジュージ少尉ついて来たまえ」
こちらは比較的若い白人の男だ、しかし、実際やる気が感じられない。
副司令といってもお飾りなのかもしれない。
何せこんな場所だ、やってくる人間はだいたい二極化するはず。
さっさと手柄なり何なり立てて早く出ていきたい派と諦めて出向の期限が来るのを待つ派と。
彼は後者なのだろう。
実際、彼は恐らく俺と同じで士官学校を出てこっちに来た口だろう。
となれば3年たてば大尉昇進とともに配置換えで別の任地に行けるはず。
とはいえ、激戦地であるここに3年居たいとは俺は思えないが。
「君はどこの科の出だね?」
「はい、戦略研究科です」
「それはそれは。畑違いもいいところだね。エリートじゃないか」
「はあ……」
俺が飛ばされたのがどこの差金かは兎も角、確かにエリートに属する。
本来はこんな場所に来る事はない。
戦略研究科出身者は大抵、どこかの参謀の元につけられるか、分隊司令の副官となる。
彼はその事を訝しんだのだろう。
俺が何か問題を抱えていると。
今までの調査結果からすると辞令を出したのは地球教とつながりのある派閥だ。
俺はコネこそ色々取り付けたが、どこかの派閥に属しているわけでもない上士官学校出のペーペーだ。
人事部に繋がりのある将官あたりからやられたら対処はできない。
だから俺は、精一杯の用心をしているつもりだが、この基地内にも地球教徒がいる可能性は十分ある。
警戒してしすぎるという事はないだろう。
「君の部屋はここだ。今はいないが同室の人間が1人いる。
荷物を置いたら仕事内容の説明にうつるから」
「わかりました」
俺は、トランクを置き、念の為防犯のスイッチを入れてから部屋を出た。
このトランクも色々と仕込まれている、盗もうとしたり分解しようとすれば痛い目を見るだろう。
待っていてくれた副司令に礼を言い、後ろについて案内を受ける。
実際ぶっきらぼうだったが、だいたいの施設はわかった。
「仕事内容は基本的に便利屋だな。警備といってもトラブルなんて殆ど起こらない。
それよりも老朽化した部品の交換や修繕といったものが主になるだろう」
「了解しました」
「まあ気楽にやることだ。ここはあくまでフリーゲート艦の補給をするためだけの基地だからな。
補給時以外は基本生活の維持に使われる、つまり生きている事が仕事だ」
「なるほど」
生きている事が仕事とは、本気で閑職なんだな……。
まあ、基本的に手柄を立てようもないから仕方ないが。
唯一手柄といえる敵軍襲来の報告ですらフリーゲート艦が行う。
つまり、基地にいる限り手柄が立てられないという事だ。
俺の場合、最長でも一年半勤めれば中尉に昇進して抜けられるが。
そんなに長い間ここにいる訳にはいかない。
それ以前に次の戦場である可能性が高い以上、3ヶ月以内に呼び戻してもらえなければ敵軍の手柄になりかねない。
「一通り回ってみてわかるとは思うが、この基地は1km四方程度の広さしかない。
採掘施設の上に補給基地がそのまま立っている構造だから、生活区画はその辺の学校施設レベルだ」
「そんなので50人も生活しているのですか」
「まあ、生活といっても仕事場はそれなりの広さがあるが。
地下の採掘施設も地上の補給基地も予圧されているわけじゃないからな、宇宙服必須だ」
空気のある空間は3階建て100m四方の区画だけということか。
それも、色々な生活に必須の施設がごった煮で放り込まれているので、歩き回れる区域は半分もない。
有り体に言えば、ジョギングすら厳しいだろう。
スポーツなんぞ出来る空間はないと見ていい。
「ああ、それからこの部署には2名下士官がいる。紹介するのでついてきたまえ」
「はっ!」
そうして案内されたのは詰め所のような所。
宇宙服を着込み、案内されたその詰め所までの間は予圧されていなかったが、詰め所内だけは予圧されていた。
空間的にはほんの10m四方程度、予圧室を除き2部屋に別れた詰め所は、3人の人員がダベっていた。
一人多い……。
「あーガエタン少尉、また来ているのかね」
「はい、お邪魔しております副司令殿」
「休憩時間は過ぎていたと思うが」
「実はフリーゲート艦が早々に出ていってしまってやることがないので」
「全く、知らんぞ司令にバレても」
「気をつけます!」
その言葉だけ元気に受け答えるガエタン少尉。
まーこんな所だからサボりも多いんだろうな。
「ゴーティエ軍曹とユルシュル曹長だ。
こちらはジュージ少尉。これからはこの部署の長になる」
「よろしく頼む、ゴーティエ軍曹、ユルシュル曹長。それからガエタン少尉」
「ガエタン少尉はフリーゲート艦に対する補給の指揮を取っている。
そのうち分かると思うが、整備担当は別にいる。
それから、地下資源の採掘担当、生活の担当、備品管理、修繕担当と別れる」
たかだか50人程度とはいえ、それぞれ担当の部署がある。
まあ、メインはやはりフリーゲート艦の補給と整備、地下資源の採掘なんだろうが。
その割に補給担当の指揮をしている叩き上げと思しき少尉はここでダベっていたりするようだ。
いちいち生活区画まで戻るのが面倒くさいのかもしれないが。
「こちらとは別に修繕担当がいるんですね」
「修繕といっても、こっちは警備のついでに細かな補修をするだけだ。
修繕担当は掘削機械や各種の機器を修理するような場合が多い」
「なるほど」
一通りの説明を終えた副司令は俺を置いて帰っていく。
ガエタン少尉も自分の担当部署へと戻っていったようだ。
俺は当然ながら残った2人に色々聞かねばならない。
ゴーティエ軍曹とユルシュル曹長は俺の事を観察している。
俺も2人を見たが、ゴーティエ軍曹は褐色系の体格のいい男で30手前くらいだろうか。
この歳で軍曹という事はそのまま叩き上げであることを示している。
幹部課程に進まずとも、下士官にはなれるので多分その口だろう。
対してユルシュル曹長は二十代の中盤くらいだろうか。
黒髪だが白人系の容姿をしている少しキツめの女性に見える。
恐らくは幹部課程に進んで士官を目指しているのではないだろうか。
どちらも士官学校出のペーペーである俺に良い感情があるとは思えない。
「それで、ジュージ少尉。貴方が警備部の主任って訳ですかい?」
「そうなるな」
「こう言っちゃなんだけど、何が出来るの?」
「正直、ここに必要なスキルがわからない」
2人は俺との会話を通して、信用出来るのか、能力があるのかを探っているんだろうが。
正直現状ではペーペーなのは否定できない。
前世の社畜スキルでも、いきなり上司に収まった場合ってのはあまりないからな。
転勤で別の支部へ行った場合も普通引き継ぎ期間は二週間はあった。
だが、いきなりだし、上司として入っては部下に仕事を聞きづらい。
普通の会社なら頭を下げるのも手なんだが、軍でそれをするのはかなり不味い事も知っている。
「仕事内容については、警備及び補修としか聞いていない」
「副司令も大雑把な事してくれてる様だな」
「やることはそれでいいけど、担当区域について説明されてないわね」
「そうだ」
「私達がやるのは宇宙港及び周辺区域の警備、機密の怪しくなった壁や設備の補修ってところね」
「宇宙港とその周辺、なるほど外回りという事だな」
「ああ、内回り。つまり生活区画や掘削区画は別の担当がいる。
俺達は警備部だが、生活区画は治安部、掘削区画は保安部となってたはずだぜ」
「まあ、警備部以外は武装に制限があるから、銃器はスタンブラスターだけだけどね」
「外部からの侵入がある場合は警備部が担当するということか」
「そうなる。だから、いざというときは治安部も保安部も警備部の指揮下における。
今までは副司令の担当だったのもその関係だな」
割と複雑な構造になっているな、警備部は一つで十分じゃないのか?
わざわざ分けているのにはどういう理由がある?
面倒くさいことになりそうな予感があるな。
「わかった、基本は補給施設及び外周の警邏と気がついた箇所の補修という事だな」
「ああ、基本は2時間ごと2人一組で一日6回、監視カメラもあるから夜時間は交代で寝る」
「なるほど」
つまり、ここにいる間も監視カメラで確認するのだから休憩をしているわけでもないということか。
だが、さっきは何故補給の主任が来ていたのか。
仲がいいだけにしてはおかしい。
よっぽどサボりぐせがあるのか、それとも何かを見に来ていたのか。
「で、最初だから少尉には2回続けて出てもらうってことでいいか?」
「そうだな、仕事を覚えるためにはそれもいいか」
「じゃあ、最初はアタシとだ。行こうか」
「わかった」
ユルシュル曹長が宇宙服のバイザーを降ろし、予圧室へと向かう。
俺もその後に続いた。
外に出てみると、基本的には荒野が続いていてその中で基地だけぽっかり浮いている感じだ。
広さは1km四方なので歩き回ると1時間ほどかかる。
まあ、まるまる外側を回っているわけじゃないので4kmも歩いてはいないが。
施設の外周を見回るだけでも結構歩く事になる。
ただし、重力が0.6G程度なので装備をつけてもさほど重くないのが幸いだ。
『で、あんたは何で飛ばされてきたんだい?』
「分かるか、やはり」
『決まってるだろ、ここに来るのは上司に睨まれたか、低い階級のまま定年間近になったかどっちかさ』
「隠すことでもない、地球教に睨まれたんだ」
『地球教? あー最近は軍部の中にも支持者がいるっていうけど、人事までかい』
「らしいな」
口に出して言う必要もないことだが、どうせここにも地球教徒はいる。
そして奴らは俺を殺す機会を伺っている可能性がある。
なら、秘密にしておく意味はない。
むしろ、言っておけば牽制くらいにはなるだろう。
『しかし、地球教に睨まれるって一体何をしたんだい?』
「大したことじゃない、単に分派する手伝いをしてやっただけさ」
『分派……そういえば最近、地球教が分裂してるって話を聞くね。あれに関わってるのかい』
「少しだけな」
『ふーん、あんた面白いね。物怖じしないっていうかさ』
「ビクビクしても助かる訳じゃないからな」
『ハハハッ! 確かにそうだね!』
そうして、パイプ等の空気漏れや、一分機器に問題がないかチェックして回る。
外部からの侵入は建前としては警戒しているものの、人が住んでいるわけでもないので実際はほとんど気にしていない。
一応レーダーもあるので、流石に船サイズのものが近づけばわかる。
それ以外で敵が来る可能性があるとすれば、むしろ味方の中に潜んでだろう。
そうして、俺が着任してから数日は何事もなく過ぎた。
仕事内容は正直言って、補修するにしてもそうそうすぐに必要になることでもない。
それに、簡単に直せないものは修繕の担当に回すだけだ。
だから、実際は警邏とカメラチェックだけ。
閑職にふさわしく、仕事にやりがいはなかった。
「しかし、ガエタン少尉よく来ますね」
「まー、生活区画より気楽だからなー」
「気楽?」
「あっちの人間は真面目なのが何人かいるから、休憩しても気が休まらん」
「そんなもんですかね」
「まーそんなもんだ」
ガエタン少尉は本当によく来る、そして一通り話てから去っていく。
補給作業も慣れれば短縮できるものらしい、フリーゲート艦も整備を毎回するわけでもないようだ。
チェックだけして出ていく事もザラで、この補給基地でゆっくりする事はまれだった。
娯楽らしい娯楽もないし、スペースも決して広くもない。
艦から出るほどのこともないのかもしれない。
そうして、半ば機械的な作業とダベるガエタン少尉に慣れてきた頃、事は起こった。
そう、ティアマト星系に敵軍の先遣隊と思しき艦影を捕らえたのだ。
フリーゲート艦はさっさと転進し、脱出準備に入ったそうで、補給基地に残っている脱出艇も準備された。
このまま逃げる事が出来れば任務完了として大手を振って帰る事ができるが……。
「やっぱそうなるよな」
そう、俺が帰還用の脱出艇に行こうとしたら銃撃された。
やはり、ここで死ねという事なんだろう。
問題は誰が、いや、何人なのかという事になるな。
「へぇ、やっぱりか」
俺の行手を阻んでいるのはガエタン少尉。
ただし一人ではない、ゴーティエ軍曹とユルシュル曹長もいるようだ。
流石地球教というべきか、知られていない末端の数はどのくらいいるのか。
『流石に予想していたかい?』
「ああ」
『だが、3対1だおとなしくここで死んでくれたまえ』
『あんたは嫌いじゃないけどさ。こっちも事情があるんでね』
『そういう事だ』
事情なんて誰にだってあるに決まっている。
俺だって死ぬ訳にはいかない。
後は、俺と奴らのどちらが用心深かったのか、その差だけだ。
「誰が死んでなんてやるものか!!」
俺は、早速奴らに向かって突進した……。
あとがき
ようやく任官したと思ったら、また地球教徒相手にドンパチと相成りました。
この話、帝国相手よりも地球教相手の方が多くなるんじゃないかと戦々恐々しております。
だって、今まで地球教に色々やりすぎてしまい目をつけられておりますので。
ただ出世街道に乗るというのが、そもそも難しい様になりつつあります。
ただ、地球教がジュージに手を出せば出すほど同盟内部での地球教の地位が下がる構図になるのも事実で。
悪くない循環なのか、復讐され続ける悪循環なのか。
現状、判断つかないですね……。
ともあれ、今回は続くという事で。
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