銀河英雄伝説 十字の紋章
第十二話 十字、真面目と小心を知る。
フェザーンから帰ってきて半年、そういえばもうラインハルトが2歳になってるころじゃないかと思った。
宇宙暦ももう780年、後8年すればヤン・ウェンリーがエル・ファシルの英雄になるわけだ。
そしてその更に8年後にアスターテ会戦となりラインハルトが元帥になる。
はっきり言えば、第一話時点でラインハルトは既に勝っていた。
なにせ上級大将なんだから上には元帥しかいないという有様だ。
しかも皇帝はわざとラインハルトを昇進させ続けている始末。
自分に憎しみを持つ男を育てるという、面白い役どころではある。
ラインハルトにとっては最大の敵が最大の味方だったわけだ。
皇帝がもしラインハルトに関心を寄せなければこれほど出世するわけがない。
18歳で上級大将等笑い話にもならないのだから。
彼は怒っていたが、姉の七光というのは何も間違った評価ではなかったということだ。00
彼の実力がいくら高かろうと、普通は20歳にも満たない人間が将官になれるわけもなく。
貴族のコネ等利用しないというラインハルトの考えそのままなら少佐までいければ相当運がいい。
ましてや彼が実力で将官に上がろうとすれば、居座る貴族の将官を排除しなければならないので早くても30代後半。
その頃にはヤンが40代後半なので中将か大将になっているだろう。
つまり、銀河英雄伝説の全く逆の展開が予想される。
階級の低さに泣かされるラインハルトと潤沢に準備を整えられるヤンという。
それ以前にその頃になれば、もう帝国は斜陽もいいところだろうし、同盟はヤンのおかげで負け無しだろう。
帝国が存在しているかどうかも怪しい、笑い話だったトリューニヒト銀河大統領が爆誕している可能性すらある。
いや、俺も利用する関係上この世界においては現実になる可能性もあるが。
まあ、それくらい宇宙暦796年の時点で同盟は詰んでいたという事だ。
後16年で俺はそれを覆す事が出来るだろうか?
いや、やらなければならない。
可能なら銀河英雄伝説の本編等無かった、にしてやるつもりだ。
間に合うかどうかは微妙だがな。
それで、現在の戦争の情勢だが特に動きはない、ただ帝国がまた艦隊を集めているらしいという噂は聞く。
来年あたり侵攻してきそうだ。
宗教事情もフェザーンに足がかりを作った新興宗教交友会はこれからも関係を持つ事を決めたらしい。
新興宗教交友会というのは最近地球教以外の宗教が連携を組む事が増えたせいらしい。
まー考えてみれば回帰教と十字教という新興宗教の2大派閥が組んだのだからそれ以外も追随するのはおかしくない。
ブルースフィアは独自路線を貫くようだが、総数が1000以上という規模になっている。
まあ、大部分が信者1000人以下とかの小規模なので覚えるのも大変だろうが。
中にはカルトなものもあり、排除して通報なんて事もあるらしい。
どちらにしろ、この新興宗教が地球教を倒してくれれば言うことがないが、そこまでは期待薄だろう。
なにせ、地球教はフェザーンを従えている。
そしてフェザーンは同盟の資産を多数抱えており、結果として同盟はフェザーンの風下にたっている。
それを理解しているのは恐らくある程度世情のわかる人間だけだろう。
テレビもネットも表立ってその事を伝えていないのだから。
同盟も帝国くらい力技でフェザーンの影響力を排除出来ればいいのだが。
俺が思うに普通の状態では不可能だろう、だが、原作では一度それが可能なタイミングがあったと思われる。
原作がなかったになったら必要ないが、出来なければ実行する事になるだろう。
まあ、今そんな先の事を考えても仕方ないと判っているのだが……。
眼の前の書類の山に埋もれながら呻いている俺にはそれくらいしか出来なかった。
「ナカムラ大尉、決済お願いします」
「ムライ中尉……この部署の仕事は何故ここまで貯まっているんですか……」
ここは、ハイネセンポリスから200kmほど南に位置するらしい中規模の都市ヘイノス。
中規模といってもハイネセンにおいてなので都市人口は50万人程度いる。
そこの総務部の一部署である備品整備課。
有り体に言えば、備品に対する雑務及び書類制作及び整理までを管理する部署だ。
都市警備隊の規模は4000人程で、そのうち備品整備課は60人程を抱える部署となる。
昇進したのはいいが、宇宙関連から外されたのは痛いかもしれない。
そして、特に備品整備に詳しいわけでもない俺は一応マニュアルと前情報を調べたものの危なっかしい限りと言える。
そんな課長に早速ボイコットという洗礼が突きつけられた。
30人前後が何か理由をつけていなかったり、勝手に休暇を取っていた。
だが、俺は仕事に穴を開ける訳にはいかない。
出世しないといけないからな、経歴に傷をつけられないんだ。
だから必死こいて頑張っているわけだが、隣の中尉さんがどんどん書類を持ち込んでくる。
原作でもムライは苦言を呈するのが役目と自認していたが、単にそういう性格なだけだろうと思えてくる。
しかし、考えてみるとヤン艦隊の人とは縁があるのかもな。
バグダッシュ、パトリチェフに続いてムライか。
ヤンより年上のメンバー全員に会いそうな勢いだな。
「ボイコットによるものもあるでしょうが、暫くは認可する課長がいなかったので」
「それでよく成り立ってたね」
「私が代理で処理可能なものは処理しておりました。処理不能でも緊急案件であれば他の部署に持ち込む事でどうにか」
「……それは凄いね」
「いえ、当然の事をしたまでです」
つまり、ムライ中尉が今まで頑張ってこの部署をもたせてきたって事だ。
厄介な部署に回されたな俺も、だが……無駄飯喰らいをそのままにしておくのもごめんだ。
なんとかしてお仕置きをしてやらねばな。
とはいえ……。
「このペースだと一週間は身動きが取れないな……」
「いえ、これらは優先度の高いものから持ってきています」
「つまり……」
「この3倍はありますので」
「……課長いなくなってどれくらいになるのここ?」
「何度かやってきた新しい課長が除隊するか緊急転属しますので、だいたい2年近くまともに進んでおりません」
「……」
そんな部署よく残ってたな。
いや、ムライ中尉が有能なせいだってことはよく分かるが。
つまりはここにいる連中はムライ中尉にそのままここの課長になって欲しいのかもしれない。
まだ詳しく聞いたわけじゃないが、ムライ中尉の言うことならある程度聞くようだしな。
「とりあえずは大人しく書類整理を続けますか」
「よろしくおねがいします」
実際、やっている書類仕事は緊急でこそ無いものの重要度が高い物が多かった。
特に、この本部と周辺の基地のコンピュータ関連はかなり重要だ。
下手をすればデータが抜かてたりする可能性もある。
それに、あまり旧式を使用していると、ハイネセンポリスとの連携にも響きかねない。
「これ2年も放置して大丈夫だったのか?」
「いえ、コンピュータを改修してごまかしていたようです」
「改修って……違法なんじゃ?」
「一般販売されるものならばそうですが、軍においては軍専用となりますので。
法も当然軍法に規定されているものに準拠されています」
「あーつまり、違反ではないのか」
「他部署の認可はとりつけてあります」
ムライ中尉、それダーティじゃねーの?
とはいえ、ムライ中尉なりに考えた結果なんだろうが。
違反ではないし、そもそも他の課員がやったことに対して責任を取る行為でもある。
ただ、法規と一般見解の鬼という感じではない。
「ムライ中尉結構ギリギリでやってたんですね」
「……ここでの経験が今後生きない事を祈ります」
「それは……」
まあ、こういうのが生きないような人生じゃないかもしれないな彼は。
とはいえ、今はありがたい。
ムライ中尉のおかげでどうにか俺でも仕事が出来ている状況だからだ。
まあ、書類が終わるまでどれくらいかかるかわからないが。
「ん? これは……」
「それは、確か配電設備の更新に関するものですね。
修繕に行ったセイン少尉が問題ないと言っていましたが」
「ムライ中尉もチェックはしたか?」
「はい、特に問題ない様に思いました」
「……」
この書類、実は三枚目なのだ。
もちろんそのことをムライ中尉が知らないわけがない。
チェックしたかと聞いたのはそのせいだ。
「一度、書類の申請者の方に聞いてみたほうがいいかね」
「はい、それが良いかと思います」
「とはいえ、既に調べてはいるんだろ?」
「私が調べた限りにおいては、修繕は上手く行っているとしか」
「わかった」
階級とか職業倫理とかよりも、人間関係の方に問題がありそうだなこの部署。
ともあれ、俺も会いに行かないわけにも行かない。
ただ、会いに行けば確実にめんどくさそう、何せこの文書の発行印はドーソン大佐だからだ……。
後にじゃがいもという渾名とともに有名になる彼だが、モデルとなった東條英機と同じくみみっちいイメージだ。
東條は大日本帝国の独裁者ではあったが、実際の所ヒトラーやスターリンとは別種の人間だった。
ヒトラーやスターリンが自分の権力をフルに使って派閥を固め従わない者は鏖殺したのとは別に、彼はじゃがいもの事で有名になった。
実際、権力は使っていたし、自派閥で固めてもいたが。
批判的な者は殺さず徴兵した。
同年代も一気に徴兵してごまかしたため、巻き込まれたほうはたまったものではないだろうが。
東條が道で困っていた老婦人を助けたという新聞記事を切り抜いて持っていたという話もある。
彼は小市民のまま独裁者になった人ではないかと言われる所以だ。
つまり、ドーソン大佐はそうなる可能性のある人間だと言える。
何せ、自派閥の人間の言うことは疑わず信じるタイプなのが東條でありドーソンだ。
周りが持ち上げればそうもなるだろう。
だが、それは俺にとっては悪い事ではない。
独裁者になる事ではない、操るのに安いという事がだ。
だからこそ、彼は原作でトリューニヒトの派閥にいたのだろうから。
この世界でも、そうなってくれるとありがたいが……。
何にせよ一度会ってみるか。
「今日の分はあら方仕上がったな。一度ドーソン大佐の元に行ってみる」
「了解しました」
ドーソン大佐は基地司令だが、調べた所によると部下に仕事を任せる事が多いようだ。
自分に出来る事は徹底してやるが、専門外は専門家に頼る、ある意味理想の上司である。
しかし、その性格もあって話すとなると厳しい点もある。
「先日着任したジュージ・ナカムラであります! ドーソン司令への取次をお願いします」
「突然何を言うか! アポイントを入れ、司令へ我らが通達し、その後許可が出たら日程を話す。
その順を守れぬなら、除隊もありうるぞ!!」
「申し訳ありません! ただ、着任した部署にドーソン司令直々の命令書が3通ございまして」
ドーソン大佐はこの基地の司令官だが、なんか国王への謁見みたいな感じだな。
まあ、周りから持ち上げられればこうもなるか。
本人は知っているのかいないのか。
「う、ううむ……わかった、大佐に確認を取ってくる。待っていたまえ」
「はっ!」
門番っぽい事を言っているのは一応少佐の階級章をつけていた。
ドーソンに気に入られて引き上げてもらったのだろうか、忠誠心が凄いな。
そうして10分ほど部屋の前で待っていると、さっきの少佐が出てきた。
「司令の許可が出た、入り給え」
「は!」
ドーソンはどういう感じで彼らを受け止めているのか。
気にならないはずもないが、細かい事に目がつく彼の前にそんな目を向ける気はない。
ともあれ、先ずは第一印象だろう。
「入れ」
「先日この基地に配属されましたジュージ・ナカムラ大尉であります!」
「ほう……その年で大尉とは、かなり優秀なようだ」
「ありがとうございます! お言葉に違わぬ様これからも精進します!」
「ふむ、それで?」
つかみは悪くなかったようだ。
これからの軍の重鎮の一人なのだからお覚えめでたいに越したことはないし、このままだとヤン派閥とは敵対しそうだしな。
出来ればヤンとも仲良くやりたいが、金の力やアジテーションの力を利用する俺では厳しいだろう。
そもそも、艦隊戦で勝てる気がしないしな。
「配電設備の更新についての書類を頂いておりましたので」
「あれかね……こちらに来たばかりの君にはわからんだろうが。
何度も更新しろと言っているのに、修繕で済まそうとする。
そもそも、その修繕で一時的に直っても数ヶ月後にはまた駄目になっているだろう!」
「はい、確かに」
恐らく、ドーソン大佐は自分の言う通りに実行されていない事に怒りを感じているのだろう。
修繕で直ったとしても、自分が更新を命じたものを修繕したという事実は残る。
確かに修繕が年4回くらい必要だとしても、残しておいて問題があるかは費用効果による。
だが、ドーソン大佐に対して敵対と取られる行動である事は事実だ。
「それで君は、どうするつもりかね?」
「はい、更新業者を手配します」
「業者?」
「申し訳ないのですが、着任して早々ボイコットを食らいまして」
「あやつら……」
「懐は多少痛みますが。意趣返しにもなるかと」
「うん?」
ドーソン大佐は何を言っているのか分からないという風に俺を見る。
確かに普通はそこまでしない、だがやる以上やってしまったほうがいいだろう。
「私のお金で買ってしまおうかと」
「安いと言っても一万ディナール(110万円)はするぞ?」
「少しは貯蓄もありますので」
「ふむ……」
ドーソン大佐は考え込んでいるようだ。
俺の考え自体が気に入らないというよりは、心配している風でもある。
懐に入り込んだ人間には甘いというのは本当のようだ。
「少し待ち給え、本来なら備品整備課の予算の内で行う事案だ。
個人の資産を使って補うのは前例として良くないだろう」
「しかし、予算の計上に関してもゴタゴタがあったらしく。
数年、課長になった人間が長続きしないため、まともに計上出来ていないらしいのです」
「なんと……、確かに課長がよく変わっているとは聞いていたが」
ドーソン大佐は黙り込む、このまま行くと自分で調査すると言い出しかねない。
俺は別にそれでも良いのだが、ドーソン派閥はああいう人間ばかりだとするとまずい。
流石にここで大きな騒ぎを起こしたい訳でもない。
「そこで、私に詳しく調査する時間を頂きたいのです。
やはり、正確な判断を下すには正確な情報が必要ですから」
「時間か……どのくらいほしい?」
「前任者の残した書類も多数ありますので、申し訳ないですが一週間ほどお願いできないでしょうか?」
「一週間……少し長いが仕方あるまい。因みに前任のやり残しはどれくらいになる?」
「後半年分くらいでしょうか……、課長代理のムライ中尉が優秀ですので、課長印の必要なもの以外はほぼ処理されています」
「ふむ、確かにムライ中尉は堅物だが相応に優秀らしいな。だが、あまりいい噂も聞かんぞ?」
「司令官殿の言う通りかと、しかし、課内で一番仕事をしていますし、私としても使いやすいですので」
「処分はおいておいたほうが良いと?」
「はっ、引き継ぎの結果次第でいいのではないかと」
「ふむ、確かに君にも部下は必要だな」
もう既に俺が身内であるかのように言っている。
俺も否定していないが、というかまあこのままの方が色々うまく行く。
ドーソン派閥にどっぷりというわけにも行かないから、バランス感覚は必須だが。
「お時間頂けますでしょうか?」
「……わかった、一週間後報告に来なさい」
「ありがとうございます!」
「当然の事をしたまでだ。秩序や順序を守る事こそが正しい軍隊というものだからな」
「はっ!」
とまあ、ドーソン大佐には許可をもらい、俺はムライ中尉のいる執務室に戻ってきた。
俺が課長を引き継いだ以上、この課が何故ボイコットを繰り返しているのか知る必要がある。
ムライ中尉に確認してみたが、彼も来たのは1年ほど前だそうで原因があるらしい2年前はわからないそうだ。
「ただ、噂ですが。二年前辞めた課長も、一年前来た課長もドーソン司令の派閥と聞いています。
この課は、現場を回る人間が多いので、ドーソン司令ではなくロボス少将の派閥にいるのです」
「ロボス司令ですか、確か艦隊司令で今一番勢いのある人ですね」
「そうです。まだ分艦隊司令にすぎませんが。それでも一番活躍の多い人ではあります」
「なるほど」
この当時、ラザール・ロボスにはまだ陰りが見られない。
そのため派閥も単独で作っており、その上でハイネセンに対する影響力も大きい。
勤勉で成果主義なロボス派と、軍法を重んじ規律を大事にするドーソンは水と油である。
ロボスはボケかけていたからこそ、それでも元帥になりたかったからこそ、トリューニヒト派閥に行ったのだろう。
逆にドーソンは丸め込まれただけっぽいが。
ともあれ、ドーソンは現在大きく言えばフレデリック・ジャスパーの愛弟子とされるロイザー大将の閥にいる。
ジャスパーは10年前に統合作戦本部長を辞しておりその翌年奥さんとの旅行中に事故でなくなっている。
そのため求心力は低下し始めており、成果主義のロボス閥とリベラルのシトレ閥が少しづつ大きくなっている最中であった。
因みに少しだけ言うとリベラル(自由主義)というものだが。
権力や金銭等におもねる事なく国民の利益を体現するというような意味だ。
ようは個人主義と考えてもらっても良い。
他者におもねらず、自らの判断で決めよという事だ。
そういう意味ではドーソンの身内主義もロボスの英雄思想も歓迎されないだろう。
シトレの主義を考えればヤンのように英雄である事に溺れない英雄を欲していたのも分かる。
だが、こう思想ごとに派閥を作ってガチガチやっていては全体としてまとまらないのも仕方ない。
内外両方で戦っているようなものなのだから。
同盟が負ける理由の一つだろう。
帝国の様に皇帝が号令すりゃ派閥関係ねーとか言えるなら楽なんだが。
そう、民主主義の欠点はまとまるために熱を必要とすること。
だからこそアジテーターが活躍し、民衆の意識を操作するのだ。
これが困ったことに他国のアジテーターのほうが国に対して遠慮がないから優秀であることが多い。
それに騙されないのがリベラル派閥という事だが。
逆に言えば彼らはまとまりがないとも言える。
アジに乗らない以上常に、他者を冷たい目でみているという事でもあるのだ。
結論から言えば、どちらが良い、悪いはない。
その場面において、何が国のためになるか、ただそれだけだ。
だからこそ、正しい英雄思想、正しいアジテーションが必要となる。
今のそれは他国に毒されすぎていて、国のためにならないから。
トリューニヒトもドーソンもそのためのコマとして優秀なのだ。
縁が出来た以上、利用し尽す。
「つまり、この基地内において、ロボス派とロイザー派が争っていると?」
「ロイザー派というよりはドーソン派でしょうな。この基地内においてドーソン司令は絶大な人気を誇っております」
「ふむ……身内には甘いからな。彼は細かい性格と、身内に対する庇護心の強さと優秀さの3つが同居した人間だ」
「よくご存知ですね」
「まあ、俺も出世したい人間だからね。上司の事はある程度調べている」
「なるほど」
ともあれ、今回の派閥争い。
恐らく、ロボスが乗り出してくる可能性は低いだろう。
彼は分艦隊司令だから宇宙でいる事のほうが多く、基地の人間のために動く可能性は低い。
成果主義である事もあり、自分たちで努力しろと言ってくるだろう。
対して、ドーソン側もロイザー大将が出てくる可能性はほぼゼロだ。
しかし、ドーソン大佐自身が基地で最高位の権力者であるし、圧倒的優位にある。
だが今まで放置されていた所を見るに彼にとっては目についてもわざわざ罰を下すほどではなかったということ。
だが一応だが俺が訴え出た事で動く気になっている。
「とりあえずは、きちんと結果を出していくしかないな」
「結果ですか?」
「ああ、先ずその修理を行った男を呼び出してくれ」
「いえ、男ではありません」
「ん?」
「女です」
「そうなのか?」
「はい」
「……まあいい、よろしく」
「わかりました」
呼び出しに応じるならとりあえずは穏便に済ませるよう努力するが。
応じないなら、相応の対処をしなければならない。
さて……。
「なんでしょうか課長?」
セイン・ティトリー少尉だったか。
確かに女性だ、それも若い、しかしあれだな……なんか、どっかで見たことがあるよーな。
気の所為に違いない、何せ銀英伝の同盟女性キャラなんて数えるほどしかいないんだから。
その中で見たことがあるなら誰か特定するのは簡単だ。
「配電設備の件についてだが」
「はい、修繕したのは私ですが」
「それは課長がいなかったから予算が下りず、という事でいいかな?」
「いえ、別にそこまでヘタってはいませんでしたし」
「ふむ、君の見立てでどの程度のペースで修繕すれば使える?」
「半年に一回程度でしょうか?」
半年に一回修繕しないと使えないか、微妙なラインだな……。
ただ、彼女が派閥の意向でやってるのか心の底からそうだと思ってやっているのかがわからない。
前者なら相応の罰を与えればいいんだが、後者であるなら納得させるのも手か。
「では一つ、話をしようじゃないか」
どちらになるにしろ、今の俺に必要なものが手に入る可能性もある。
一つ仕掛けてみるか。
俺は、多分悪い顔をしていたと思う……。
あとがき
今回はちょっと尻切れトンボ的な感じもする終わり方になってしまいました。
しかし、今回もオリキャラがまた増えて面倒な事にw
まーとはいえ今回のような話も必要かと思いまして。
最近ピリピリしたのばかりでしたからね。
それに、なかなか時間が進まないのも問題なんですがね(汗)
これが終わったら少佐ですし、少し時間を開けるのもいいかな?
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m