機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜





第一話 目覚め



目を覚ますと、そこは病院の一室だった。

いや、何を急にと言われるかもしれないが、実際何故なのか思い出せない。

ただ一つ言える事は、私は死んだはずだという事だ。


そう


俺の名は八島 臨(やしまのぞむ)、五十代で結婚も出来ず死んだ男だ。

死因はある意味不幸な事故だ、事件でもあるが。

どこぞの阿呆の模倣犯がガソリンをまき散らして火をつける自殺をやらかした。

ビルに逃げ場はなく、俺達は上に逃げるか、窓から飛び降りるくらいしか方法がなかった。

火災から逃れるために飛び出たはいいが、7階だったためそのままでは死ぬ。

くぼみに手を突っ込み暫く耐えたが、結局落ちた。

そして、地面に激突すると言った所で記憶が途切れている。



「まさか……そういう事なのか?」



今生の記憶も思い出してきた、どうやら名前は同音らしい。

八洲 希(やしまのぞむ)三十六歳。宇宙世紀風に言うならノゾム・ヤシマとなる。

そう、宇宙世紀だ。

俺の姪っ子の名は八洲未来(やしまみらい)ミライ・ヤシマである。

ミライの父、俺の兄はヤシマ重工の会長であり、ヤシマ金属や周辺企業を含むヤシマグループの総帥を務めている。


つまりは、ガンダムの世界であるという事なのだ。

ここはサイド1(ザーン)のコロニーの一つ、ロンデニオンである。

そう、UC93年ごろにアムロとシャアがくんずほぐれつするコロニーである。

連邦の軍事拠点コロニーで一年戦争後も破壊されずに残る珍しいコロニーだ。

単に、核バズーカでやられたところが致命的な場所じゃなかっただけだろうけどね……。



さて、とりあえず大雑把な事はわかった。

何故俺がこんな所にいるか、というと俺は連邦軍の士官、それも少将だからだ。

そう、もっと言えばサイド1の防衛軍総司令である。

うん、これ凄く不味いよね……ザクに核バズーカ乱射されてコロニー事蒸し焼き……(汗)


それだけならまだいい、いや、良くはないが、それ以外にも俺には責任がある。

最悪俺一人逃げるなら、ルナ2にでも逃げ込む事は可能ではある。

しかし……。


実際サイド1に住んでいる全員が死んだわけじゃないが、大部分が死んでいるのは事実だ。

そもそも、ジオンは人類の半数を一週間戦争で殺した。

コロニーでの被害は26億人と言われている。

サイド1の人口はコロニー事に多少の誤差はあるものの、合計すれば8億人程にはなるだろう。

それだけの命が俺の肩に乗っているという事でもあるのだ。

正直胃が痛い……。


今はUC77年11月か……。

つまり、後一年ちょっとしかないッ!!

後1年と少しの間に防衛可能な状態までもっていかないといけない……。


それと、結構重要な話としてこの世界はオリジンの世界ではないようだ。

オリジンの世界はガンキャノンやガンタンクが既に配備されているからな。

しかし、サイド1防衛軍にはトリアーエズとセイバーフィッシュしか配備されていない。

なのでオリジンではないと考える事ができる。


オリジンの世界ならMS技術をうまく使って対処する何てことも出来たが。

まあ、ないものは仕方ないな。

現状の手札で小細工を仕掛けてくしかない。

だが……一年でどうにかなるのか……?


幸いにして、私の軍内での地位も高いし、マゼランを作ったメーカーであるヤシマ重工とのコネもある。

まあ、マゼランといってもメガ粒子砲の技術はないんだが。

あっちは、エービンやニッコル光器の仕事であるため、タッチできていないのが現状だ。

実体弾兵器は問題なく作れるが、そっちの技術を持っていないためこれからUC100年頃まで低迷する予定だ。

とはいえ、マゼランに関わっているだけでも十分以上にありがたい。


そうして、現状の整理がついた頃、足音が聞こえてきた。

医者だろうかと視線を向けると自動扉が開き、数人の軍人が入って来る。



「ヤシマ少将お加減はいかがでありましょうか?」

「ああ、問題はない。少しばかりここの所の仕事が祟っただけだ」


どうやら、八洲 希(やしまのぞむ)は過労で倒れたらしい。

本来ならそのままぽっくり逝ってたのかもしれない。

そこに俺が憑依したんだろう。


「少将の入院期間は一週間程となっておりますが、書類等はいかが致しましょう?」

「とりあえず一通り持ってきてくれ。緊急のものから片づけて行こう」

「しかし、体調のほうを考えますと……」

「大丈夫だ。それに、やらないでいると貯まっていく一方だしな」

「それはそうですが……」


彼は、副官の一人なので俺の体調を気遣ってくれているのだろう。

ありがたいが、状況を確認するためにも、書類はあったほうがいい。

まあ、今後のために優秀な事務官も欲しい所だが。

サイド1にも事務方はかなりいるが、統括が汚職する事が多く、ちょうど半年ほど前に纏めて木星送りとなった。

木星帝国の市民が増える原因なのかもしれん……。

まあそれはさて置き、人事に頼んで送ってもらった何人かは頑張っているが、人数が足りているとは言い難い。

その結果しわ寄せが俺に来ているのだ。

今はありがたいが、やはり早く席を埋めてもらわないとな。


「分かりました。至急持ってこさせます」

「頼む」

「それと、参謀会議の結果。ジオンが攻めてくるとしても損害は20%までに収まるとの事です」

「相手がどういう戦法を取った場合の結果だね?」

「はい、奇襲戦法によりロンデニオンを攪乱、その後全軍でMSを展開し、攻撃してきた場合です」

「ふむ、敵の武装は?」

「ザクマシンガンとか言う兵器ですね。威力はトリアーエズの機関砲の倍程度と予測しています」


やはり、核バズーカの事は知らないか。

いや、核の存在は知らない事もないだろうが……。


「ジオンが核を保有している事はつかんでいるだろう?」

「確かに、掴んではおりますが。使用される事はないだろうとの考えです」

「理由は?」

「もちろん、報復が怖いからですよ。コロニーに核を打ち込めば壊滅的な被害が出ます。

 報復の核でサイド3は壊滅するでしょう。

 ジオンも流石にそれは望まないでしょう」

「相互破壊保障か」

「はい」


ジオンがそんな考えを持っていたならあんな事にはなっていないよな……。

実際は、ジオンは核バズーカを100発以上ぶち込んでくる。

コロニー一つに1発づつだとしても各サイドにはコロニーは100バンチは存在しているからな。

完全に抵抗戦力を全滅させる事によって反撃不能に追い込むつもりだろう。

とはいえ、今の軍にその事を言ってもおかしくなったと思われるだけだ。

やはり危機感がまるでないな……。


「一応やっておくように言っておいてくれ。万が一という可能性がある」

「ハッ!」


とはいえ、核ミサイルの運用が出来るのはグワジン級とチベ級くらいでザクに出来るとは思っていないだろう。

無難な結果の資料を渡されるだけだろうけどな……。


「では失礼します!」

「ご苦労だった」

「ハッ!」


副官が帰っていくのを見ながら、やはり専門のジオン対策チームと専用兵器の開発が必要だと痛感した。

ある程度はヤシマ系列の企業から引っ張って来る事も考えないといけないな。

となるとだ……。


最初にやるべきは危機感を植え付けられる存在。

すなわち、連邦に亡命してきたミノフスキー博士の確保だ。


ただ、確かにビーム兵器は出来たものの、ジオンで開発したものはそれだけではない。

ミノフスキークラフトや、ミノフスキーイヨネスコ核融合炉、Iフィールド技術等多数の技術を隠している。

自分の命綱だから出さないのかもしれないが、そのせいで人類の半数を殺す事になるのだ。

その後、V作戦においては隠していた技術を解放している。

流石にあまりの死者に良心が咎めたのではないか、と一部では言われている。

だが俺がいる以上、そんな事はさせない。

兎に角、先ずはミノフスキー博士の居場所を特定する所からだな。


となると、やはりコネの出番だろう。

ロンデニオンの医療施設には、秘匿回線をいくつか引いていたはず。

地下部分といってもコロニーなので外壁に近いという程度のものだが、一般には解放されていない部屋に向かう。

メンテナンス通路の上にコロニーのミラー調整用の部屋やその予備等といったごちゃごちゃした施設がある。

その一角に向かい、指紋とDNAと網膜の3つの認証を行って入る。

この部屋は、少なくとも軍では将官以上、または連邦議員かコロニーの重役以上にしか入れない。

穴がないわけではないだろうが、電波を飛ばす以上完全にというのは難しいだろう。


部屋に入った途端部屋の電源が入りスクリーンが表示される。

その後、システムチェックや周囲の状況等の精査、といった個人情報保護のための機能が動き出す。

こういう凝った作りは、古いコロニー程頑張っている傾向にある、新しいコロニーでは無駄として省かれる傾向が強い。

まあ、いちいち表示しなくても問題あったらその時教えてくれればいいという人は多い。


「秘匿回線Bの6269につないでくれ」

<少々お待ちください……>


この番号、実は意味なかったりする。

いわゆる合言葉に過ぎない、暗号だと思って解析する人間がいた場合時間稼ぎになるという寸法だ。


<ロード中>


ロード中の画面が出たら、指穴と思しき部分を見つけたので昔の黒電話風にダイヤルを回して電話回線をつなげた。

秘匿回線な事もあって、一応直通ではある。

流石に部屋に本人がいなければお手上げだが、この人は事務方なのでここにいる事が多い事をよく知っている。

やがて、画面がグリーンになり通話可能になる。


『おや、珍しいね。君が秘匿回線を使ってかけてくるとは』

「ゴップ大将、お久しぶりです。お陰でどうにかやっています」

『大過なく過ごしているようだね、私も推薦した甲斐があるというものだ』


そう、ゴップ大将。

彼と八州家は縁が深い、まあ兵器開発と政治家とのパイプ役という仕事柄そうなるのは当然だが。

後々地球連邦議会の議長にもなる人なのでこれからも長く付き合っていきたいものだ。



「少しばかり緊急事態に陥りまして」

『緊急事態ね、どういった?』

「ジオンのモビルスーツなんですが、核融合炉を搭載しているそうです」

『は?』

「以前からわかっていた事ですがミノフスキー博士の連邦に渡した技術は一部だけのようでして」

『そういう噂もあるね』

「ミノフスキー粒子には電波阻害の特性やX線等の可視光以外の光を阻害する事も確認されているらしいです」

『ふむ』

「つまり、被爆の可能性をほぼゼロにしつつ核融合炉を小型化出来る。

 ミノフスキーイヨネスコ核融合炉というものを開発しているという情報が入りました」

『それが本当だとして、モビルスーツがどうなる?』

「出力だけでもはっきりと検証したわけではありませんが、10倍は確実に。

 推進剤に出来るヘリウム3さえあればレーザー核融合パルス推進も可能です」

『つまり何かね、永続的に現在検証しているザクの10倍出力で戦えると』

「そうなりますね。流石に摩耗や推進剤の問題もありますし、弾薬に限りはありますが」

『それでも、我々が検討していた戦力とはまるで違うというわけか、バッテリータイプは欺瞞工作という事だな?』

「はい、間違いなく」


近しい俺のいう事だからか一定の理解をしてくれた様ではある。

だが、彼がそれだけで全面肯定するはずもない。


『しかし、確証があるわけではないからな。今の所は』

「そこで、ミノフスキー博士に直接聞けないものかと」

『ふむ、申し訳ないが。私は彼の居所は知らない』

「そうですか……」

『だが、知っている人間ならおおよそ検討はつく』

「知っている人間ですか?」

『彼はジオンに狙われているからね、彼の居場所は一部の人間しか知らされていない。

 彼の居所を知るのは、受け入れを決めた大統領と彼の側近。

 そしてレビル中将とレビル派の技術将校ジョン・コーウェン少将あたりだろうね』

「なるほど……」

『ジョン・コーウェンは恐らく直接言っても無駄だろう。レビル中将を説得するしかないだろうね』

「レビル中将をですか、今言った事だけではやはり弱いと思いますか?」

『そうだね、実証が取れていないからな』

「そうですか……、仕方ありませんね。可能な限りこちらで実証を行ってみます」

『頼むよ』


ゴップ大将のいう事は事実だろう。

実際、俺が大将なら受け入れられるかもしれないが、少将ごとき、それも他派閥では厳しいだろう。

だが、俺はただの少将ではない。

コネ持ちの強みを活かすべきだろう。

というか、そうでもしなけりゃジオンの大虐殺が現実のものとなってしまう。

スマホ時代より進んでいるはずの世界で次の番号を回してダイヤルする。

なんというか、ちょっとおかしな感覚である。


『どうしたノゾム?』

「兄さん、済まないがサイド1の工場のいくつかと支部を貸してもらえないか?」

『最近過労で倒れたという話を聞いたがその件か?』

「耳が早いね。否定はしないよ」

『……お前が倒れる手伝いはできないな。条件として、3日は休暇を取ってもらうぞ、そして一日8時間労働厳守だ』

「うっ……」

『出来ないなら引き受けられないな』

「……わかったよ兄さん。

 その代わり人材が必要だ。スケジュール管理を行う人間や雑事書類仕事の処理する人間。

 有能なのをよこしてもらう事はできるかい?」

『ちゃっかりしてるな。わかった、見繕っておく』

「頼むよ。代わりに入院中は大人しくしてるからさ」

『当たり前だ! 手続きはやっておく、切るぞ』

「ありがとう兄さん」


とりあえず今日出来る折衝はこんな所か。

これ以上は、病院から脱走したとか言われそうだ。

そろそろ戻るかね。


通路を通って、地下部分から出ていくとそこでは医者と副官が出待ちをしていた……。

おいおい、すんごい表情してやがる……ちょっと待ってくれよ……。


「あー、お待たせしました」

「はい、お待たせされましたね」


副官と医者の表情が変わらない。

のっぺりとしてて、なんというか感情が……ニュータイプじゃないけどわかるよプレッシャー……。

俺自身は疲れたつもりもない、というか俺が入ったせいで恐らく活性化してるはずで……。


「そんなに時間経ってたか?」

「はい。2時間近く。そろそろ脱走扱いにしようかと思ってましたよ」


無表情のまま言ってくる医者。

俺は思わずあとずさりする。


「そっそれは勘弁してほしいなぁ……」

「とりあえず3日は絶対安静にしてください。部屋から出しませんので」

「えっ……」

「仕事も可能な限りこちらで処理しておきます。新しい部署長達もヤル気をだしておりますので」

「は、はぁ……」

「「大人しく寝ててください!!」」

「わっかりましたぁ!!」


というわけで、その後俺は3日間缶詰状態にされてしまった……。

とりあえず、人材確保のために色々と募集やら移動やらの書類を作ったが。

サイド1攻撃まで1年と1ヶ月。

こんな事でどうにかなるのだろうか……?







あとがき

17周年記念として送らせていただきます。

短くて申し訳ない(汗)

続きものですが、どれくらい続くのか不明&不定期更新になります。

前回のアムロのSSではスペックを調べきれないミスが……。

でも、その失態もあってこちらの話を思いつきました。


元々私は、ガンダムの多数ある矛盾の中でもジオンの罪がまるで扱われていないのが気になっていました。

人類の半数を殺したら、その後お題目をいくら掲げでも誰も賛同しないと思うんだけどね……。

特に、サイドを4つも壊滅させたのにスペースノイドの代表ってどういうことなの?

そういう部分をどうにか表せないかと思ってSSを作っていましたので、こちらのほうがいいのではと思います。

アムロでは表現し辛いですし……。

オリキャラは控えめで行きたいと思いますが、どうしても主人公と数人は必要かもしれません。

とりあえず、致命的なミスをしない限りゆっくりやっていきたいと思います。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.