「これは……一体!?」
「何、難しい話ではない、より効率的に扱うためには丁度いいものだろう?」
フラナガン博士がその場所に来て、最初に驚いたのはその施設の地下が広大である事だ。
コロニーに住んでいると、地上とか地下とかそういうくくりはあまり無いが。
それでも、層が薄い以上地上から外宇宙までの距離は100m有るか無いかと言ったところである。
そんな部分をあまりくりぬいた様な作りにする事は出来ない、何故ならコロニーの強度に関わるからだ。
しかし、地上に降りてギレンと共にやってきた場所には広大な地下区画が存在していた。
そして、その区画は大きく3つの区画に分かれており居住区と研究区、そして特殊なシェルターらしきものがあった。
「元々は核戦争用のシェルターだったものらしいが、その後も拡張され地下都市としての整備をされていた様だ。
もっとも、連邦立ち上げと共に核戦争の脅威は無くなりこれも無用の長物と化していた。
経緯はジャブローも似たようなものだが、あれは連邦発足後も改築を進めた様だがな」
「よくそんなものを手に入れましたな」
「何人かの議員とは懇意にしていてね。その伝手で手に入れたものだ」
ギレンの天才性は策謀だけではない、当然コネ作りといった政治の機微にも聡い。
もっとも、ガンダム世界においては割とよくある事でもあった。
5thルナを地球に落としたシャアが地球連邦政府参謀次長アデナウアー・パラヤからアクシズを購入したとか。
(明らかに外患誘致罪である)
アナハイムが連邦政府の庇護を受けてMS開発をし、デラフリ、ネオ・ジオン、袖付き等にMSを横流ししていたりとか。
(普通に国家反逆罪か最低でも外患誘致罪である)
アナハイムが連邦政府の庇護を受けながら、反連邦組織エゥーゴを支援し幹部(ウォン・リー)が参加したりとか。
(組織として連邦と敵対している事を証明した様なもの)
毒ガスによるコロニー全滅を政府に許可もとらず自国民に対して行う軍とか。
(独断専行の範囲に収まるのかどうかは解釈が分かれる)
解釈の難しいものもあるが、普通の国家ではありえないほどガバガバな危機意識だろう。
それらと比較すればこれもまた普通にあり得てしまう、と言う程度の事だ。
だが地上に拠点を手に入れているというのは、他の人間では早々出来ない事ではある。
ギレンは何のためにこれを手に入れたのか、フラナガン博士は少し考えてみた。
しかし、それにはギレン本人からの答えがあった。
「これは、少々強引ではあるが、半月ほど前から計画し、実際に手に入れたのは3日ほど前だ。
つまり、サイド1での戦いで敗北したその時に購入したという事だよ」
「ッ!」
それは時間もない状態で強引に行ったという事になる。
天文学的資金を投入しなければこんなものを購入はできないだろう。
サイド3の予算の何割かが必要になるはずだ。
つまりは、これは後の無い作戦であるという事なのだとフラナガン博士は理解した。
「これから君に行ってもらう実験は、今までやってきた事の延長線上のものだ。
君なら数日で仕上げる事も可能だろう」
「数日で、ですか……」
こんな場所でやる事が数日で可能になる程簡単なものとは考えにくい。
フラナガンにとってみればそれだけでも恐怖を覚える事だ。
誰もがギレンの様に天才ではないのだと理解してほしかった。
だが、これをやらなければ自身が殺される可能性が高い事も理解していた。
何せ最前線なのだ、利敵行為の拡大解釈で間に合わなければ殺されるとかもありうる話だ。
「身命を賭して頑張る所存です」
「頼んだぞ博士」
そういってギレンは研究所を後にした。
フラナガンは先ずもって、ギレンに渡された計画に関する指示書を確認する。
それを見た、フラナガンは最初こそ好奇心もあったが、一瞬で後悔した。
「最終作戦がこれか……」
フラナガン博士は、読み込みが終了すると離れていく。
どこから始めるべきかは既に分かっている、検証が不十分な箇所等はとんど無い。
既存の技術の集合体で作れる代物に過ぎないからだ。
だが、すぐに開発してしまうのも問題だった。
お役御免になったとたん殺される可能性も否定できないからだ。
機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜
第三十二話 ニュータイプ兵器
地球に向かってくる巨大質量を迎撃するために連邦艦隊が出撃して迎撃にあたっている。
しかし、絶対的有利にあるかと言えばそうでもない。
ジオン艦隊、ドズル艦隊が半壊した以上、恐らく親衛隊を中心とした艦隊だろう。
キシリア艦隊に関しては、ギレンが出撃した以上、ジオン公国の防衛は彼女の仕切りだろう。
そして、サイド2からの嫌がらせを含んだ攻撃に対して対策を練っている最中だろうと思われる。
他に艦隊があるとすればアクシズ駐留艦隊があるだろう。
アクシズはサイド1に運ばれたため実際にはアステロイドベルトの別の隕石を拠点としているのだろうが。
とはいえダイクン派であるマハラジャ・カーンの率いる艦隊がどこまでギレンに協力するのかはわからないが。
少なくとも、今地球に迫っている隕石に関しては彼らの手によるものだろう。
「ギレンの本命が読めないな」
近くに来れば分かると思っていたが、当てが外れた。
今わかる範囲では、戦闘区域外とはいえ地球に向かったシャトルがあるという点のみ。
艦隊戦をやろうかと言う時期に呑気なものだととらえる事も出来るが、そんな偶然ありえないだろう。
かなりの確率でジオンの工作員が乗り込んでいたはずだ。
「シャトルに乗り込んでいた可能性が高いなら、地球に向かったという事だろう?」
「そうですね、ブレックス議員はどうみますか?」
「会えて聞くまでもないだろう? ギレンの目標は最初からジャブローの破壊だ」
確かに、ギレンにとって一番厄介なのがジャブロー。
連邦軍司令部があるのに、場所が正確には解らない様に何十にも偽装が施されている。
あそこが落ちない限り、連邦軍は何度でも立ち直る事が出来るのだ。
何せ、連邦軍の高官はほぼそこに詰めているにも拘らず、出入りの痕跡すらたどれないのだ。
そしてジャブローには宇宙艦隊を作り出すのに十分な工廠が存在する。
連邦軍が壊滅しても再建が可能なほど万能な基地と言ってよかった。
「つまりは、南アメリカもしくはその周辺に何らかの施設を作って隠れていると考えられる」
「絞り込んだと言ってもそれでは、まだまだ調べるには広範囲過ぎるな」
「残念ながらそういう事だ、ついでに言えば現時点でジャブローに通信するのは不味いだろうな」
「敵に塩を送る事になりかねない……か、それに恐らくミノフスキー粒子を広範囲に撒いている頃だろう」
「その通りだ」
既に南米付近に対する電波は拡散して使い物にならない。
恐らくギレンは南米周辺に複数の拠点を持っていて、それらからミノフスキー粒子を撒いているのだろう。
南米を覆うには10個前後は拠点が必要になるだろうに、いつに間に手に入れたのか……。
ギレンがどのくらい天才なのかがよくわかるな。
ただ、ミノフスキー粒子が散布されたという事は通信妨害を狙って行ったという事。
ミノフスキー粒子そのものは1時間も放置すれば消滅する。
追加で撒き続けるのは厳しいものがあるし、そもそもそれだけの量の粒子を持ち込むのも無理がある。
なら答えは簡単だ、何かしているのだ。
今ギレンはジャブローに対する攻撃をしているのだろう。
そう考えた時、一瞬空気が変わった。
その違和感は俺にはわからなかったが、皆が行動を停止し、一部の人間が崩れ落ちた。
その唐突さに何かがあったという事だけは理解できた。
「セイラ嬢!? ブレックス議員も!?」
近くではこの2人が崩れ落ちていた。
いや、正確にはブレックス准将は片膝をついて座り込んでいる。
セイラ嬢は倒れ込んできたのでとりあえず抱き留めた。
よく見ると気絶している様だった、ブレックスとセイラの違いと言えばNTかどうかか?
ブレックスもボーダーラインくらいにはいそうだが……。
いや、だからこそか。
「ブレックス議員、無事か!?」
「っ、グゥゥ!! っつ、あまり良いとは言えないが……とりあえずは」
「一つだけ聞かせてくれ! 何があった!?」
「……不気味な……声、だろうな……。さっきから頭に響いて仕方ない」
「なるほどそういう兵器か。医療班! 倒れた人たちは全て任せる!
精神性のものだ、全員サイド1に戻し治療を始めてくれ!」
これはほぼ確定だな、つまりこれはニュータイプ能力を増幅して打ち出したのだろう。
Xガンダムのエンジェルハィロウは洗脳するための色々なものを積んでいたが、声を拡散するだけならそう難しくない。
それも、ただひたすら巨大な声が聞こえる様にするために、恐らく振動の強化、拡散をやっているだろう。
悲鳴はつまりニュータイプに拷問でも行ってその時の思考波を増幅し、今地球に向かっている俺達まで届いた。
そう、巨大な装置を使ってニュータイプの悲鳴を周辺に響かせる実験を行っていたのだろう。
「被害を受けなかった者たちは私と共に、ジャブローへと向かう!
向こうの方も恐らくかなりの被害が出ているだろう、襲撃がある可能性がある!
コロンブスで強硬着陸を狙うぞ!」
この兵器は確かに凶悪だが、共感性の欠片もない純正オールドタイプには効きづらいだろう。
もっと強力なサイコウェーブを作り出せる様になる可能性はあるが、急造ではそうもいくまい。
となればMSや核兵器と言った直接的な戦闘が起こる可能性は高い。
「バスク艦長!」
「八ッ! 現在乗組員の入れ替え作業を行っております!
10分で仕上げて地球へ向かいましょう!」
「頼んだ!」
流石はバスク・オム、共感性なんぞ欠片もない。
当然俺もだが、そんな事は解り切っていた事だ。
未だにこの世界の人間との間に多少の壁はあるだろうしな。
それが今回は+に働いただけの事、本当に何が幸いするかわからない。
「北米のニューヤーク基地へ通信をつなげ!」
「はっ!」
一番近い大規模基地であるキャリフォルニアに先ず連絡を入れてみる事にした。
既に混乱している可能性は高いが、ミノフスキー粒子は及んでいないだろう。
対応してくれたのはヨゼフ・トラバートン中将だった。
「連邦宇宙軍少将ノゾム・ヤシマであります!」
『うむ、キャリフォルニアベース司令官のヨゼフ・トラバートン中将だ』
「早速ですが、被害はどの程度出ていますか?」
『やはりあれは攻撃なのか?』
「ええ、あれは特殊な波長の波を周辺に飛ばしている様です」
『そうなのか……キャリフォルニアベースの3割が現状行動不能、2割が体調不良になっている』
彼自身、顔色は良くないもしかしたら多少は影響を受けているのかもしれない。
地球出身者がオールドタイプとは限らないのがガンダム世界だしな……。
だって、アムロは地球出身だし……。
「混乱の中申し訳ないのですが、ジャブローとの通信は可能ですか?」
『……どういう意味だ?』
「ミノフスキー粒子が南米大陸全体に展開されています。
恐らくは、ジャブローを襲撃するつもりでいるのではないかと」
『っ! あれはジャブローに対するけん制なのか……ジオンめ!!』
「恐らく無差別攻撃による混乱が明ける前に襲撃があると見込んでいます」
『どの程度の時間を想定している?』
「遅くとも半日以内、早ければもう動いている可能性があります」
『これからと言う時に……』
実際、ジオンの動きは速い、理由は言うまでもなく独裁体制の強みだ。
連邦はどうしても、決める事に関しては遅くなる。
被害があってからようやく動き出す事になるのだ。
「私はこれからジャブローに向けて降下を行います。
敵が核兵器等を使うとしてもおそらく致命的ダメージを与えられる所まで潜入するまでは控えるでしょう。
なので、起動兵器を搭載したままコロンブスで強行したいと考えています」
『わかった、こちらとしても可能な限りの部隊をジャブローに送ろう』
「よろしくお願いします」
通信を閉じた後、無事な乗組員を伴いコロンブスに移乗する。
コロンブスに乗り換えるのは、大気圏に戦闘機を持ち込むためだ。
幸いにして、ヤザンが倒れていなかったので連れていく事にした。
彼はニュータイプの素養はあるんだが、自分でそれを閉じたという実績を持っている。
恐らく悲鳴等は聞き流すだろうし、嫌なら回線を閉じるくらいはやりそうだ。
「コロンブスの底面強化は可能か?」
「突貫で行っています。と言っても耐熱コーティングの噴射をする程度ですが。
それなりに厚めにやっておけば、大丈夫でしょう。
こいつらも、大気圏の離脱は経験している訳ですからね」
「確かに、細かい調整は任せる」
コロンブスの大気圏突入用改修はわずか1時間程で完了した。
そしてジャブロー上空に向け動き出したところで、通信が送られてきた。
「情報部か、どうした?」
『はっ! ジャブローに向け加速していた2つの隕石は地球からそらす事が成功しました』
「それは重畳、後顧の憂いが無くなるのはありがたい」
『いえ、申し訳ないのですが南極側から隕石とやや軌道の異なる隕石がもう一つやってきています』
「小賢しい手を使う……隕石に対して核攻撃はできないか?」
『残念ながら戦力をコロニー落とし、南北方面の隕石と3つに分けているため向かえる艦隊がありません!』
「地上は地上で混乱しているからな、仕方ない……」
幸いマゼランには核ミサイルを10発程乗せている。
そもそも、巨大質量を止めに行くんだから、その程度の物は用意していて当然だ。
コロンブスの乗組員からある程度人を割けば対処は不可能ではないはず。
あちらも、隕石の護衛なんぞしている余裕が無い知っているから、問題は起こらないはず。
「人員を分けるぞ!」
『待ってくれないか』
「ブレックス議員?」
『そちらの迎撃は私達にやらせてほしい』
「しかし……」
『無論、セイラ君の様に意識を失った者は後送するが、我々は少々酔った程度だ。
それに、隕石の迎撃位置も地球からは離れる事になる、恐らく届いても多少不快になる程度だろう』
「……わかりました。では、動かせる人員の数に応じて連れて行ってください」
『ありがとう、私もこのままでは単なるアナハイムの使いっぱしりで終わってしまうからね、何とかして見せるとも』
「お願いします」
こうして、ブレックス議員率いる5隻程の部隊は新しく接近してくる隕石に対する迎撃を行う事となった。
そしてコロンブスは底面に耐熱強化を可能とするペンキを塗っただけだが、大気圏突入が可能な強度を持っているとの事。
なのでそのまま大気圏突入にかかる事となった。
現状、地球とその周辺のニュータイプ素養のある人間は大抵が気絶や昏睡になってしまったろう。
ニュータイプの素養が低くとも影響が結構出ていたようなのでかなりの数の被害が出ていると言っていい。
恐らくは億に届く人間に影響が出たはず。
一刻も早く、敵の迎撃とアジトの確保を行わねばならない。
先の事が全く読めない現状自信をもってこうであるとは言えないが、何としても死者を減らさねばならない。
戦争をゆがめた俺の唯一の償いとして。
あとがき
サイコミュを元にしてギレンが考えた装置はいわゆる拷問装置です。
拷問で得た精神の悲鳴を大量のサイコミュで増幅して周囲に放つ、それだけの装置。
エンジェルハィロウと比べると、彼らの装置は原始的ですが効率的なものであると言えます。
それでも、現状離れた場所に死者が出るほどの被害は出せていませんが、原因不明のまま大量の昏睡を引き起こしています。
もちろん、状況によっては倒れた事で死ぬ人もいます。
例えば移動中であった場合、自動車なら交通事故を起こしますし、飛行機なら墜落します。
例えば病院に入院中の患者等の場合はショック死もありえますし、肉体が衰えていた場合も同様です。
そうした、コロニー落としと比べれば軽度ではあるものの前代未聞の被害が発生しています。
そして、ギレンはこの攻撃が意図した効果を発揮しえない(ジャブローの無力化)事を知っています。
それでも大混乱に陥っているはずなので、チャンスを生かさないギレンではないでしょう。
終盤の展開はほぼ決まったので、後は流れていくだけになるかもしれません。
最後までお付き合い頂ける様にネタを考えてはいますがはてさて……。
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