後に一週間戦争と呼ばれる戦争は終わった。

開戦からわずか一週間で決着のついた戦争であったが、その犠牲は2億を超えるものとなった。

コロニーにおける核テロ、核ミサイルによる月面グラナダ攻撃、地球周辺での大量昏倒事件と結果起こった無数の事故死。

更にサイド3内での攻防戦においても多数の死者は出ていたが、連邦側の死者の方が圧倒的に多い有様であった。

これに対し、勝利した連邦政府の対応は強硬なものとなる。


だが、最初に起こったのはジオン幹部の処刑ではなかった。

特に連邦議員の一部がギレンやキシリアと繋がっていたという事がメディアにより公開された事が大きい。

連邦政府も事を重く見て、利敵行為を行った者たちの洗い出しと対テロ法による粛清の嵐が巻き起こった。

結果として、議員17名と関係者(連邦軍を含む)52人が死刑となり297人が収監される事となる。


そして、ノゾム・ヤシマ少将のプロパガンダ等の効果もあり連邦の意思統一は進む事となる。

結果として、これらの悪辣な手段による戦争に生ぬるい処置は出来ないと連邦政府も強硬な意見が台頭。

ジオンの政府及び軍の幹部を全て処刑する事となる。

その数は1万人近くに及んだ。


逃亡を図ったジオン軍関係者は多かったが、原作の様な拮抗状態ではなかったために大部分は逃げ出した途端に撃墜された。

一部離れる事に成功した部隊等もあったが、連邦軍は核ミサイルを叩き込んで逃げ場事潰した。

やりすぎな程の対処であったが、億人単位の死者を出すという前代未聞の軍事組織に情けをかける訳には行かなかった。

国民に軍が不甲斐ないと既に思われつつある以上、テロに走るのが目に見えている残党を残す事は出来なかったのだ。


ジオン公国は即日解体され、残されたサイド3住民には反ジオン教育が徹底される事となる。

二度と同じ事が起こらない様に今日の苦しみ全てはジオン公国が悪いという教育がなされる事となった。

連邦はジオン公国に関する全てを消してしまう事に決めたのである。



機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜




エピローグ



戦争が終わり、戦後処理に移ったが、正直戦後処理の方が大変だった。

先ず俺がやった事は自分の独断専行についての釈明だったが、これはゴップ大将による執り成しもあり功績と相殺となった。

だが政府関係者に睨まれていたため、追及の声は止まなかった。


自主退役をする事を考えていた俺だったが、スペースノイドのメディアが擁護し始めた。

そうするとメディアの横のつながりか野火の様に世論が広がり、更に擁護だけでなく追及を始めた議員らの癒着状況が開示された。

そして世論が逆転しそれに軍や軍と繋がりのある議員が追従。


後から聞いたところによると仕掛け人はブレックス議員だった。

メディアが持ち込んできたスキャンダルをブレックス議員が効果的に使うための策略だったらしい。

俺を擁護する意味もあったが、これによって私腹を肥やすためにジオンと組んでいた議員や関係者を排除したそうだ。

地球連邦が始まって以来前代未聞の大粛清となった。

私腹を肥やすなとは言わないが、せめて連邦に迷惑かけない様にやってほしいものだ。


この結果を受けてジオン公国擁護派や軍縮小派等の声高に叫んでいた人たちは迂闊に声を上げられなくなった。

そうして反対派を抑え込んだ主流派はジオン公国の解体と教育の徹底、ジオン公国幹部の粛清を行って行った。

苛烈に見えるが億単位の死者が出た戦争なんて初めてであり、遺族や関係者の中にはサイド3を皆殺しにしろという声すらあった。

実際ジオン公国の人口は1億5千万人なので戦争で死んだ人間の数より少ないため気が済まない人がいるのは当然だった。

幹部1万人の処刑は大規模ではあったが被害者やその関係者にとっては物足りないものであるのは否定できない。

だがガルマも幹部であるため死刑つまりザビ家は全滅、ドズル死亡時はゼナとは結婚をまだしておらずミネバは生まれない。

少なくとも残党が担ぎ上げる神輿は存在しなくなった。

原作を知る俺にとってはこれでも随分被害者が減ったのを理解しているが、この世界においては関係の無い話だ。


兎も角、これらの結果、ジオン公国残党はかなり規模を縮小する事となった。

アクシズや茨の園なんかの大規模施設は壊れたか出来ていないので、使いようが無い。

更に南極条約が無いためジオン残党の拠点が出来たら途端に核攻撃による殲滅が行われた。

事実として、これが一番被害が少ない殲滅法なので否定する要素はない。


また、連邦政府は支持率回復のためにジオン公国残党の早期撃滅と共にスペースノイド政策も始めていた。

これは、ブレックス議員を中心に俺やセイラさん等が駆け回って議員達に根回しを行った。

どのみちこの先地球の回復のためにもコロニーは増やしていくわけだから地球より人が増えるのは確実。

力関係の逆転が起こる前にやっておいた方が有利であると説いて回ったわけだ。


結果は滑り出し上々で権力を失うのが嫌な彼らは良く働いてスペースノイド新法を制定。

投票を始めるための準備期間に入った。

実際に参加するようになるのはもう5年ほどかかりそうだが。

実験的にサイド7でやり始めるらしい。


サイド7は既に2バンチ、3バンチの建造が始まっている。

原作においては、サイド1、2、4、5が壊滅しニコイチ等粗製乱造でどうにかスペースノイドの住居を確保していた。

だが、そういう被害の無い現状サイド7は新設のサイドとして発展していく事になるだろう。


それから連邦議会を宇宙に移す話の方は進んでいない。

もっとも、放置しておけばいい事でしかない。

これから人口比が宇宙に傾く以上、いずれは宇宙に上げなければ置いて行かれる事になる。

というか、今後の事を考えるといずれは地球圏の外に置くべきなのかもしれない。


しかし、地球から全ての人類を脱出させて地球を回復させるという点は俺は反対である。

理由は単純、地球が人類に都合のいい自然を維持するためには人類が常に手入れをする必要があるからだ。

何故なら、気候や状況が変われば自然も変わる、恐らく放置すれば人が住みづらい星になるだろう。


正直、1970年代と言えば工場排水等による被害が取沙汰されていた時期でもある。

あの頃は日本も工業化による自然破壊が非常に進んでおり、裁判等も良く起こっていた。

しかし、2000年頃になる頃にはそういった公害病等はほぼ聞かれなくなり、自然もかなり回復していた。

だが勘違いしてはいけないのは、自然が回復したのは自然ではなく人力による植林等によるものだ。

工業廃水等を出さなくなっても、手作業で自然を回復させなければ、回復には数十年かかっただろう。

それと同様に地球環境は人類がいなければ砂漠化が進んだところは広がり続けるだけ、となるだろう。


森等が勝手に回復する環境もなくはない、しかし、元来自然とは人類の管理下にはない。

人類の望む方向に自然が回復すると考えるのは自然に理想を押し付け過ぎだ。


ついでに言えば人類が宇宙に上がれば対立構造が無くなり平和になるというのも幻想にすぎない。

コロニーと月や中立好きのサイド6等異端の側になる可能性のあるサイド等、火種には事欠かない。

結局新たな対立軸が出来て戦争が始まるだけである。

3人寄ば派閥が出来る、なら人口数千万というコロニーならば当たり前の話だ。


平和を維持するには結局の所、主導する政府に力が無くては始まらない。

ミノフスキー粒子とMSは幸いにして、この戦争で有用性を証明できなかった。

いずれはまた出て来る可能性はあるが、既存の兵器の改造でも対応できると証明された。

これからは対ミノフスキー粒子を視野に入れた既存兵器のバージョンアップが行われるだろう。


正直言って、連邦軍が守る範囲は広すぎ、MSと言う兵器は高額というか技術が複雑すぎる。

よくザクの兵器としての安さや量産性が取沙汰されるが、既存兵器である戦闘機と比べれば数倍は高い。

理由はその複雑さだ、兎に角可動範囲が多くその割に十分な耐久性も求められ、それらを駆動させる操作系が高い。

人型にする意味は宇宙での姿勢制御が有利になる点、そして複雑にしても人が感覚的に操作しやすいという点だろう。

だが、ミノフスキー粒子下で使えるミサイルが出来ればわざわざ高額なMSを作る必要は無くなる。


そこでポイントになるのがZ以後のMSや艦船だ。

結構ミサイルが飛び交ってたのを覚えているだろう。

何より、ズサもしくはズサブースターだ。

あれはミサイルの塊と言っていいMSだった。

それに逆シャアではブライトがラーカイラムで核ミサイルを運用している。

つまりミサイルをミノフスキー粒子下で使うノウハウは存在するという事だ。

もちろん、今後はビームシールド等が出て来るので核ミサイルでも絶対の攻撃とはならないだろうが。


結局何が言いたいかと言うと、既存の安価な兵器で防衛した方が連邦軍にとっては優位な状況を作れるという事だ。

MSに転換しても、あれだけあっさりやられていた連邦軍ではMS運用はエースに任せるしかない。

一般パイロットは戦闘機等の一般兵器でミサイルのロックオンシステムによる恩恵にあやからないと勝利がおぼつかない。


増えた人をどんどん宇宙に上げ、宇宙が地球より力を持つのをにおわせる事で連邦政府を宇宙に上げ不平感を無くす。

そのついでにスペースノイド差別の撤廃を行う。

連邦軍は既存兵器のミノフスキー粒子への適応を急ぎ、特にミサイルをミノフスキー粒子下で使える様にする。

そして、連邦政府は軍の力で平和を維持する。

俺が考える連邦の未来としては、そんな感じである。



ここはゴップ大将の執務室。

俺がこの先やっていきたいと思っている事、そのために必要な事等を話している。

理由としては手が借りたいというのが一つ、もう一つはこれがゴップ大将にとってもプラスになると思うからだ。

何故なら、これを進めていけば世界をある程度安定させられる。


シャアの考える様な完全な平和や平等ではないが、暫定的平和だろうと建前の平等だろうと無いよりはいい。

その結果血を流す人が減り、世界が活気づけば人類は存続していける。

欺瞞だの偽善だの言う人はいるだろう、特権階級が無くなるわけでもない。

だが、人類が生まれて500万年だか800万年だか知らないが、撲滅出来なかったものだ。

それをニュータイプだろうと人間一代でどうにかしようというのが間違いだ。


それに根本問題として人と言うよりあらゆる生命は闘争と無関係でいられない。

何故なら、よりよい種に進化するために争う様に遺伝子に刻まれているからだ。

闘争本能なんて言葉がある様に、生き残るために戦うのは人の本質だ。

ならば仮初でも平和になるには生活に不安を感じる世界にしてはいけないという事。

そのためには、景気を良くして世界の金回りをよくする、それが一番だろう。

だから、景気をよくするためにも宇宙開発を進めていくべきなのだ。

そのためには結局、連邦の中枢を宇宙に上げるのがいいだろう。


「ふむ、面白い構想だね」

「閣下のお役に立てるなら幸いです」

「私は、そこまで先の事を考えている訳ではないが、私が良い生活をするために君の理想を利用させてもらうよ」

「はっ!」


ゴップ大将は緊急時でないなら、半ば昼行燈の様なイメージだ。

大将にまで上りつめたのはいざと言う時の判断力となんだかんだでコネを大事にしたからだろう。

俺も今まで世話になってきたのだから、今後彼が立候補した時は手伝わせてもらうとしよう。


ともあれ今日の仕事はこんな感じで、根回しに費やす事となった。

戦後俺は軍にいる事はいるが、ゴップ大将の元で政治家や財界の人間と顔を繋ぐ事を中心にしている。

恐らくは俺をゴップ大将の後継者の補佐辺りにする気だろう。

そうすれば、議員になった後に世論を動かすコマの一つとして使えるだろうからだ。


そうそう、今回の戦いを持ってイーサン・ライヤーは少将に昇進した。

彼は勝つために手段を択ばないため問題がある人間ではあったが、治安維持等を行うには悪い人材ではない。

その辺含めてゴップ大将には言ってある。

因みに准将のままでジャブローに行くか少将になって俺の後釜としてサイド1に赴任するかと言う選択で昇進を選んだ。

まあ将官が出世する機会は少ないからある意味当然ではあるが。

その結果として今回の戦争で出世する機会が無かったレビル中将との階級が一つ差となりライバル心を燃やしている。

声はそっくりなんだけどねー。


それから、バスク・オムは大佐となりグリーン・ワイアット中将の元で艦長をしている。

闇落ちするような出来事は結局なかったので、強い出世欲や差別的思想はあるものの艦長としては優秀だ。

連邦の艦長の中でも上位の腕を持っていると思われる。


「次はやっぱりあちらだろうな」


俺は護衛と共にチャーターした飛行機に乗り込む。

ジャブローから北米はニューヤークに向かう事になっている。

まあ、言っても飛行機もかなり早いので1時間ほどで到着するはずだ。


最近では旅客機もマッハ2とか3とか出すようになっている。

ただ、かなり高度をとってからでないと地上に影響が出かねないため最高速を出すのは上空8000m以上と決まっている。

なので極端な時間短縮とはいかないが前世の半分くらいの時間で世界を行き来できるようになっている。


「お待ちしておりました! ヤシマ少将閣下!」

「済まないね、君も士官学校を卒業したばかりだろうに」

「いえ、任官前でありますが、副官補佐として勤めさせていただきます!」

「うむ、頼んだよ。ブライト・ノア少尉」


実は俺はホワイトベース関係者の事をいろいろと調べていた。

皆まだ一般人だが秘めた実力は確かなので、支援したり身内に引き込んだりできる限りの事はしていた。

例えばコック長のタムラをジャブローに呼んでみたりしている。

それからリュウ・ホセイは士官学校にまだいたのでいずれ任官したら自陣営に引き込みたい。

テム・レイはジオンが使っていたMS解析の指揮を執っているがレビル陣営なので引き込みは遠慮するしかないな。

民間人は流石に取り込みは難しいので一応ヤシマグループの系列店をサイド7にも出して時々どんな状況か見ているだけだ。

操舵士のバンマスや通信使のオスカ・ダブリン、マーカー・クランは正直ホワイトベースでの経験が無いなら普通の兵士だ。

メカニックチーフのオムル・ハングは無茶な整備状況でMS整備を続けた事を考えてヤシマグループで声をかけている。

彼の部下であるカル、ハワド、フムラウ、マクシミリアンも一緒に働ける様に声掛けはしている。

医療系のサンマロやマサキもサイド1の方に送ってある、今後は出世コースに乗せる予定だ。

我ながらよく思い出せたものだというのは嘘で、ペガサス級の建造計画の関係者リストから逆算したのだ。


ペガサス級といってもまだMS搭載型強襲揚陸艦というジャンルが出来ていないのでふわっとしたものだったが。

それでも既に建造に入っており、MSも搭載可能なだけのスペースのある作りとなっている。

まあ、MSを搭載しないなら2段にして戦闘機を4機づつ発進可能にするという手もあるので使い勝手は悪くない。

他にも下段は戦車にする事も可能だろう。


とはいえ、いずれはMSに移行していく可能性は高い。

何故ならどんどん万能化していく兵器だからだ。

とはいえ、研究段階のまま10年押しとどめれば連邦も他の勢力と十分以上に戦える量産機が出来るだろう。


サイド3もMS研究は禁止されている。

何せ核バズーカなんてものを使ってきたからな、正式にMSを生産する様になる時は核兵器搭載を禁止しなければならない。

どこかの2号機みたいに簡単に奪われるガバガバ状態で使えるはずもないが。

普通核ミサイルは国家承認が無いと使用できないはずなのでMSに気軽に搭載できる兵器ではない。

なのに0083では生産がアナハイム製という意味不明っぷり、パイロット登録も発射認証コードもない。

奪われて発射されるのも当然だろう。

こうしてみるとジョン・コーウェンのお花畑思考は戦犯レベルである事がよくわかる。


そんな事を取り留めもなく考えていると旅客機はニューヤークの空港に到着する。

コロニー落としが防がれたおかげでニューヨークだった頃からの街並みはそのままにビルの高さは倍くらいになっている。

未だ北アメリカは世界経済の中心地と言っても過言ではない。

空港から出てワールド・トレード・センタービルに向かう。

かつて7つあったワールド・トレード・センターを統合しその高さは1200mとなっている。

ガンダムで出てきたことは無いが、ニューヤークそのものが被害を受けていたので当然だろう。


「しかし、こちらにどの様な御用なのでしょうか?」

「軍にいるとあまり馴染みはないだろうが、政界や財界との繋がりも重要なものだよ」

「それは……」


ブライトはどうやらお気に召さないらしい、最後の言葉は言ってはいないが、正直言ったも同然である。

とはいえ、まだ士官学校を卒業したばかりなら仕方ない面もあるが。

だが、現実的に政界や財界と距離を置くと戦争や武器の開発なんかの目的が乖離して暴走する事があるからな。

実際アナハイムやサナリィが連邦軍の求めた通りの物を作った事はあまりない。

箱の事もあり、また月の軍需産業を掌握していたという強みもあって軍の言う事を聞かなかったというのが実情だろう。

好きなように作ってジオン残党を含む勢力にばら撒いていた。


よく軍事兵器は儲からないとかいう良くわからない事を言い出す奴もいるが、それは違う。

儲からないのは数を作らないからだ。

軍事兵器は初期投資がバカ高いのが特徴なので数がはけないと利益が出ないのだ。

日本の軍需産業が衰退しているのは当然で、国内でもあまり買えないのに海外にも売れないのだから儲かるわけもない。

海外に軍産複合体なんてものが出来るのは利益が出るからなのだ。


アメリカを見て見れば分かる、銃は銃器メーカーが政治的に強くなので国民に安く売っている。

海外に売るものもあるので年間3970万丁とか売れるのだそりゃ儲かる。

それに、戦闘機等の大型も旧式だが海外に輸出している、同盟国には新型すら売っている。

日本がF35Aに5兆円以上、F35Bに3兆5千億円出している話は有名な所。

つまり、数さえ売れれば利益が出るのが軍需産業なのだ。


そしてMSも当然だが試作機は高く量産機は利益が出る。

特にジムなんて最終的に万単位売れたのだからすさまじい利益になったろう事は言うまでもない。

カスタム化やUへのアップデート等近代化改修でも相当利益を上げただろう。

というか、正直そういった軍需産業の主体が全てアナハイムだったというのは恐ろしい。

戦闘艦は流石に地球の軍需産業が多かったので助かったが、MS関係は独占状態だったからな。

念入りに罪状を掘り起こして再起出来なくして置いて良かったと思う。


「関心が無いのかもしれないが、そういう事を無視すれば政治と軍事の分断が起こりうるからね。

 別に君に政治家とつながりを持てとは言わないが、そういう事もあると理解しておきたまえ」

「はっ」


まだ納得いってないという感じが顔に出ているあたり若いというべきか。

別に思想を変えろという気は無いんだが、それはおいおいかな。

ともあれ、ビルのロビーに来たのだが、こちらの方では迎えが来ているはず。


「叔父さん、こっちです」

「おお、久しぶりだなミライ」

「お久しぶりです。そちらの士官さんも申し訳ありません」

「いえ、任務ですので」


ミライとブライトの邂逅に立ち会えるとは嬉しいね。

とはいえ、この世界ではカムラン・ブルームとまだ破局していないので何とも言えない所だが。

1年戦争が無い以上、ブライトと仲良くなる方法は無いかもしれない。


少し物寂しい気がしたが、ミライの案内を受けてビルの上層にあるフロアに向かう。

といっても、その層と上下の層は全て貸し切りで、先にPMCが入って調査をしたうえで見張りも置いている。

PMCは当然というか、俺の知ってるPMCはそう多くないからな。

そう、ランバラル隊こと戦慄のブルー隊だ。

最初聞いた時はある意味戦慄した。

それ別の青やんけ!と。

まあ、この世界にあの青が現れるかはかなり微妙なので、問題は無いとは思うが。


「そう言えば叔父さん、軍事裁判にかけられたと聞きましたが」

「どこから聞いたのかなんとなくわかるが、口が軽いな……」

「ここに来ている時点で大丈夫なんだとは思いますが」

「まあ、独断専行で降格処分を受けたよ。功績で昇格したから少将のままだがね」

「なんかザルですね」

「世の中そんなもんだ」


信賞必罰と言っても、その罪の重さと功績の大きさは関係してくるから仕方ない。

まあゴップ大将が上役でなければ、死んでた可能性もゼロじゃないだろうが……。

本当にコネは大事ですね……。


「さて、今回は本当に色々あったからね。

 ブライト君には申し訳ないが、巻き込ませてもらうよ」

「私は道案内なのでは?」

「まさか、護衛も道案内もきちんと別にいたさ」


運転してた情報部が道案内、周辺を走ってた車は護衛だった。

まあぱっと見は解らないようになっていたが。


「軍事行動ってのは政治の手段の一つなんだよ。ただ勝てばいいと言う物じゃない。

 そして、政治と言うのは指針だ。

 あまり綺麗なものではないが、誰かがやらねばならないものだ。

 だから、軍から政治家に鞍替えする人間が一定数いるのは当然の帰結となる」

「それは……」

「だから、政治家になる軍人と繋がりの強い軍人が軍政のトップになる。

 軍政のトップを補佐するのが今後の私の仕事でね。

 君は更にその補佐と言う事になるんだよ」

「私は……」

「まあ、向いていないと思ったら辞めてもいい、行きたい所に推薦書を書いてあげるよ」

「わかり……ました」

「叔父さんはいつもそうね、他人に丸投げして。

 彼はまだ新任なんでしょ? あまりいじめないであげて!」

「おお、そうだったな。すまない」

「いえ」


ま、本編でも彼は政治に関わろうとしなかった。

だが、そのせいでマフティー動乱の悲劇が起こったという点もある。

シャアにしろハサウェイにしろ夢想家の傾向がある。

革命家よりも数段酷い。


何故なら、革命家は滅ぼした政権の次を自分達で行うが、彼らは腐敗政治を終わらせてもその先の責任を取らない。

だから、成功したとしても待っているのは戦国時代の様な戦いの絶えない世界だろう。

誰だって楽をしたいし、敬われたい、責任は取りたくないし、贅沢をしたい。

だから、自分が上に立って部下をこき使い利益をかすめ取ろうとする。


しかし、革命はそうはいかない。

全てをゼロやマイナスにしてしまうからだ。

その状態からよりよい世界にするにはそれなりに時間がかる。

破壊より創造の方が大変なのは間違いないし時間だってすごくかかる。


そういった大変な部分を全て他人に丸投げし、断罪のみを行う。

そりゃ楽に決まっている、その時だけ全力を出せばいいのだから。

原作でシャアやハサウェイがやった事はまさにそれだ。


シャアもハサウェイも他人を断罪する癖にその後の事は他人任せにしようとしていた。

そのせいかその後の世界でも割合、責任を取らない主人公やライバルが出がちだ。

一番大変な所である復興は物語的に言えば一番見た目が地味だからだろう。


「さて、入るとするか」


扉を開けて入った先にいたのは、ブレックス議員とセイラ・マス嬢。それから護衛の戦慄のブルー隊。

そして、ブルーのカツラを被ったシャアだった。


「帰っていいか?」


俺は早速踵を返そうとした。

だが、ミライが背後にいるため逃げられない。

ちっ、まさか堂々と会いに来るとはな。


「何故この男がそこにいる?」

「……知っているのね、兄さんの事」

「シャア・アズナブル元中尉だろう?」

「いいえ、エドワウ・マスです」

「キャスバル・レム・ダイクンでエドワウ・マスでシャア・アズナブルだろ?」


セイラ嬢が庇おうとするが、俺は青いヅラを引っぺがしてそいつを睨みつける。

正直生き残っているだろうとは思っていた、こいつならドズルを殺した後、直ぐにジオン軍を抜けただろうから。

だが、懐に入っていたことを理解するのは遅れた。

今から考えると一番逃げ込みやすいのがランバ・ラルの元である事は当然の帰結だ。


「……知っているのか」

「うっ、動くな!」


俺の反応からシャア・アズナブルの事を理解したブライトが銃を抜いてシャアに向ける。

まあ、命中させられる気はしないが、と言うか俺に当てないでくれよ。


「シャア・アズナブル。お前はジオンの虐殺を見逃しただろう?」

「どういう意味だ?」

「クラナダ攻略戦において民間人200万人の虐殺、そしてコロニーに対する核ミサイルでの攻撃。

 更にコロニーへの核テロでの6000万人虐殺だ。知らないとは言わせんぞ」


死者の数が減ったからかなり少ない話になってはいるが、サイド1で出た6000万人の民間人虐殺には関与しているのだ。

クラナダ攻撃には当然参加しているだろうし、原作においてはサイド壊滅作戦もコロニー落としも参加していた。

その上で、連邦政府を断罪する彼の精神は明らかにおかしい。


「本来なら他のジオン公国幹部と同様に死刑だろうが、セイラ嬢の兄なのだから逃げるなら追わない。

 だが、ここにいるべき人物ではないな」

「……その通りだ」

「兄さんは……」


セイラ嬢がまたフォローしようとしているが、俺は言わせるわけにはいかない。

目的がザビ家への復讐である事は知っているが、そのために見殺しにされた人間、何な彼に殺された人間もいる。

俺が出来るのは見逃すまでだ、それ以上となれば正直言って進退に関わる。


「セイラ嬢、わかっているのか?

 虐殺された人間の家族や知人がこれを見たら、君も彼の仲間だと思われる。

 そうすれば命を狙われる事になるぞ?」

「それは!?」

「政治家を進めたのは俺だ、だから政治に関わらせたのは俺が悪い。恨んでくれて構わない。

 だが、シャアをかくまうなら政治の世界からは足を洗いたまえ」

「スペースノイドの投票権はどうするの?」

「10年か20年遅れるかもしれないが、そのうちスペースノイドの人口はアースノイドを大幅に上回る。

 その頃になればもう、アースノイドが威張っても相手にされないだろう。

 それに、戦争のどさくさにいろいろスペースノイドの台頭を妨げる要素を削ったからな。

 いずれは目的は達成されるだろう」


仕方ない事とはいえ、この辺の倫理観がガバガバなのが宇宙世紀だなと思ってしまう。

もっと取り繕えよ、シャアも妹の所にいたら不味い事くらいわかれ。

一般人に見られたり聞かれたりすれば一気にゴシップにすっぱ抜かれる。

そうしたら、これから結成するリベラル(左翼ではなくどの党とも距離を取るという意味で)政党が早速瓦解する。

虐殺者をかばっているとなれば、ジオン公国に与していたというネガティブキャンペーンが張られるだろう。

至極単純な結果だ、俺が煽り立て、ほぼ役立たずだったメディアが活性化した影響だ。

人これを自滅と言う。

いや、こんな事になるとは思わんて。


「私には……」

「アルテイシアすまなかった。私は出ていこう」

「兄さん……」


青いヅラを被りなおしたシャアは部屋を出ていく。

セイラ嬢は思わず手を伸ばすが、それ以上は動かなかった。

ブライトが射撃体勢を取るが、銃を抑えて止める。

きちんと話をしないといけないな。


「追いかけるといい、スペースノイドの事はこちらで進める」

「……いえ、一度やろうとした事を投げ出す様な真似はできません。

 それにきっと兄さんも望まないでしょう。

 私はスペースノイドの混乱を見ました、テロリストを見ました。

 スペースノイドの死を見ました。

 兄さんはあの人たちに加勢していたのだと、今になって理解しました。

 私は、止まる事はもうできない」


正直セイラ嬢は気丈ではあるが、思い詰めて潰れてほしくはない。

というか、原作では一年戦争以後隠れ潜むというより株か事業で成功して成金化してたからイメージ変わったが。

さて、今度はブライトの方をなんとかしないとな。


「なぜ止めたのですか!?」

「彼を殺すのは不味いからだよ。

 確かに、軍功にはなるかもしれないが。その代わり新しい火種になるぞ?」

「火種……ですか?」

「彼はキャスバル・レム・ダイクン元連邦議員ジオン・ズム・ダイクンの遺児だ」

「ジオンの!?」

「まあ、ジオン公国の中枢にいたのはザビ家だからそういう意味では関係無いが。

 彼は赤い彗星のシャアでもある」

「っ!?」

「彼を殺したり追い詰めれば、サイド3ばかりか他のサイドにも飛び火しかねん」

「それはどういう意味ですか?」

「ジオン・ズム・ダイクンの唱えたコリントズムはスペースノイド全体の希望だからだ。

 彼がジオン公国に従軍してザビ家に復讐をしようとしていたのは間違いないだろう。

 だが確かに戦争に加担した存在でもある。

 つまり、スペースノイドにとっても戦争被害者にとっても彼は火種だ」

「ならばなおさら捕えておくべきでは?」

「連邦軍内部にもスペースノイドや戦争被害者はいるんだよ。内部に抱え込むのもリスクだ」

「それは……」

「結局彼を火種で無くすには、スペースノイドの選挙権や被選挙権の成立、連邦議会を宇宙に出す。

 この辺りの事を先に終わらせねばならない」

「そこに帰結するという事ですか」

「軍人としては納得できないかもしれないが。戦争の引き金になりたくはないだろ?」

「……はい」


ブライトも一応は納得してくれたようだ。

正直シャアはどこかに引きこもって出てこないで欲しい。

この世界においては火種にしかならないし、彼の極端な理想で政治を語ってほしくはない。

人間どころかあらゆる生物に最初から生存競争がプログラムされている以上、争いを無くすのは不可能だ。

それに近い事をするなら、全員の生活を裕福にするしかない。

それにしたって堕落の温床となり結局革命が起こる未来しか見えない。


一番大事なのは戦争で虐殺をしないルールを作る事だ。

民間人と軍人を完全に分け、戦争は民間人を巻き込まない事を徹底し、テロリストは見つけ次第殲滅する。

それ以上の方法なんて現状では存在しない。

ギレンはそのタブーを犯し民間人を巻き込むどころか標的にすらした。

宇宙世紀が虐殺で彩られるのはタブーが存在しなくなったせいだ。

それはこれからの政治やメディアがどうにかしていかなければならない。

虐殺を悪い事だと残し続けるのは国家事業だ。


「それで、どうするかね?」

「ブレックス議員、いたのですか」

「おいおい、それはないだろう。ずっといたとも」

「本来ならアレは貴方の仕事でしょうに」

「それを言われると耳が痛いな……だが彼は政治家に向いていると思ったのだがね」


ああ、原作でもシャアを迎え入れるだけではなくナンバー2にして最後は己の後を継がせようとしたからな。

シャアが虐殺に加担した人間であるという点は富野御大の中では完全に消えていたんだろう。

だが、あえて言わせてもらえばシャアはジオンの象徴的存在だ。

当然一年戦争被害者やその関係者にとっては恨み骨髄なのは間違いないのだ。

そうでなくても彼の気質はゼロか100かと言う様な極端な思想を持つから政治家には全く向いていない。

政治家というのはバランス感覚が大事なのだ、全ての人間を満足させる政治なんてありえないのだから。


「彼が、ですか? ブレックス議員やめてくださいね、アレはそんないいものじゃないですよ」

「そうかね?」

「彼はカリスマはありますし、実行力もある。

 ですが彼の思想は極端で危うい、ジオン公国に潜り込んでザビ家に復讐しようとしながら戦争に加担している。

 つまり、彼はザビ家に復讐する上で連邦市民が受ける被害を視野に入れていない。

 連邦の政治に思う所があるのは事実でしょうが民間人の事を考えているとはとても言えないでしょう?」

「それは、そうだな……」

「彼もまた追い詰められれば父の様に反乱の引き金を引きますよ」

「……確かに否定はできないな」


シャアはキャラクターとしては魅力的なんだが現実にいて楽しい人間では決してない。

彼がアクシズ落としをしたのは地球にいる人類に絶望したかららしいが、セイラ嬢すら巻き込もうとしたしな。

アクシズを落として地上が無人と化したとしてもコロニーや月・火星等で争うのは目に見えている。

唯一の解決手段なんかではありえないのにやらかした彼の精神性は正直気狂いの類だ。


「君の兄を悪く言って申し訳ない、だがいろんな意味で彼は危ないのは理解してくれ」

「それは……事実ですから否定はしません」


セイラ嬢に一応謝罪をしておく。

シャアをボロクソに言ってるのは事実なので。


「折角の政党立ち上げの場で荒らす様な事をして申し訳ない。

 ただ、リスクを残しておくのは私には看過できなかった」

「そうだな、君のやった事は正しいのだろうが、派手にやりすぎだ」

「叔父さん……」

「そうですね、兄妹の仲を引き裂いてくれましたし」


3人にギロリとした顔で詰め寄られる。

恨まれたかな? まあ、それでも最悪は防げた。

なら俺のやるべき事はほぼ終わりだろう。

後はのんびりやらせてもらうかな?


「ドロップアウトしようとしていませんか?

 貴方には兄さん以上に働いてもらわないと、私を政治の世界に引き込んだのですから」

「い、いや」

「逃げられると思わない事ですね」

「そうだな」

「叔父さんも苦労してくださいね」


なるほど、世界をゆがめた結果が自分に襲い掛かってくると。

戦争が終わったからってそれで終わりじゃないって事ですな。

正直、今回の戦争でも人が死に過ぎた、俺はもう戦争したくはない。

どうにか防ぐ方法を探すしかないな……。


「分かった、今後もせいぜい頑張らせてもらう事にするよ」


ため息をつきながら言う。

確かにシャアだけではなく、まだまだこの世界には火種がある。

それだけでも取り除かないと安心して引退も出来ないな。


とはいえ流石に、一休みしたいものだが。





















あとがき


えーっと、エピローグは思ってたよりもボリュームが大きくなりました。

正直シャアと対面させて一波乱なんて考えてなかったんですが、書いてたら勝手に(汗

おかげでいつのまにかボリュームが40kb超える事に。

だいたいいつも20〜25kbくらいにしてたんですがね。


ともあれ、これにてこのお話は終わりとなります。

正直言って、ガンダム世界に対する不満をぶつけるためだけに書いた作品です。

ガンダムが好きだからこそどうしても納得できない部分が出て来るんですよね。

背景や技術はまあ置くとしても、やった虐殺が無かったかのように扱われるのはちょっと……。

シャアなんてあれだけの事をやらかしてるのに、ずっと宇宙世紀の一番の英雄ですからね。


それで、私が一番おかしいと感じたのは、ジオン以外の勢力の主張がほとんど表に出ない事なんですよ。

連邦なんてあれだけボコボコにされて言われっぱなしで、公的には何にも言い返してないんです。

これが、作中では表現されていないだけならコロニーの市民がジオン残党に走る何てことはありえないです。

だってサイド1,2,4,5を壊滅させているって事はコロニー市民にとってジオン以上の大敵はいないはずなんですよ。

なのにそれよりも連邦を批判し、ジオン残党をスペースノイドの代表のように扱う、これは言い返してないなとなりました。


この話はもしも言い返したらどうなるかと言う考えのもとに書いています。

連邦は正義ではないという人がいると思います、連邦による圧制が戦争の原因なのだからと。

否定はしません、それはその通り。

アニメの序盤に何度も語られているので、連邦の圧制と一週間戦争で人類が半分になった事は間違いないのですから。

ただ、ジオンが1億5千万しか人口がない以上、人類を半分にしたなら全ての国民が平均して30人以上殺したという事になります。

これで恨まないなら何を恨めばいいのでしょうか?


それが恨まないならそもそも知らないという事。

つまりコロニー市民はジオンがコロニーに核攻撃をした事を知らないのでしょう。

メディアが全く仕事をしていないとはそういう事です。


とまあ、まとめても長いですね。

ともあれ言いたい事は本編の方で語ったと思います。

これにてこのお話は終了します。

ここまで読んでいただいた方には感謝です。

この話が完結出来たのは皆さまのお陰です。

元々、感想を読んでテンションを維持してるような承認欲求強めな人間なので(汗

ではまた、今後がありましたら読んでいただけると嬉しいです。



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