想い出
時を走る列車・コクライナー。
その外観は一言でいえば漆黒のデンライナーと言うべきだろう。
だが、今この列車を駆り、時空を守護する戦士は己が何を失ってまで戦っていることさえ忘れている。
救済者一行は彼を救えるのか?
「ねえ、錬紀君。ちょっと外に出ない?」
「ん?何故だい?」
「いや…アタシがバイトしてる喫茶店のコーヒーでもどうかなって…」
「へ〜、いいじゃん♪」
流姫は錬紀を”MEMORY"に連れていくことになった。
『大丈夫なの?』
『本当にこれで主は記憶を』
「…今は流姫を信じてみるしかない」
イマジン達は不安げだったが、廻が何とかして宥めた。
(上手くやれよ、流姫)
『記憶が戻っても、錬紀は私達の傍に居てくれるのだろうか』
耳に聞こえてきた小さな声。
それをきいたとき廻はすこし複雑な気分になった。
***
「ここよ、アタシのバイトしてるとこ」
「ふ〜ん、結構いい雰囲気だな」
「(やっぱり、店のことも忘れてる)…まあ、入って」
流姫はドアを開けて錬紀と共に店内に入った。
「あら、流姫さん。今日はお休み……」
愁子の目の色は一瞬で劇的に変化した。
「錬紀…錬紀なの!?」
「え?何?どういうこと?」
記憶がないため愁子のことがわからなくなっている錬紀は混乱する。
「今までどこでなにやってたのよ!」
「いや…貴女誰ですか?」
「え…?」
恋人であった男から誰ですかなどという言葉を吐かれ、愁子は絶句する。
「錬紀君。貴方はね、半年前までこの人と恋人だったのよ」
「は?…何言ってるんだよ?俺は今までイマジンと戦ってきたんだぞ」
「刻王に変身し続けているからこそ、忘れているのよ。自分の過去をねだから…思い出して!彼女のことを!」
「俺はそんな人のこと知らないって!」
憤慨した錬紀は店から出て行ってしまった。
「……流姫さん。どういうことなの?なんで…錬紀は…」
「…これから話すこと、信じられますか?」
流姫は錬紀が今まで仮面ライダーとしてイマジンから人々の時間を守って来たこと、そしてそのために大切なものを失ってきたことも話した。
「そんなに錬紀は…つらい思いを一杯してきたのね…」
「愁子さん」
「あの人の記憶が戻ってくれるかどうかは、私にはわからない。でも、信じることはできる。望み…希望さえあれば、きっと」
世界の救済者、ディロード。九つの世界を巡り、その心は何を映す?
一方、コクライナーのコックピット=一号車である”月光”に錬紀は一人佇んでいた。
「本当に俺の過去は…」
流姫から告げられた真実に対して彼は未だに半信半疑であった。
そして、それを解消する為。
「過去に行けば」
錬紀はカードをコクライナーの運転操縦にも用いられる刻王のバイク”マシンコクレイド”に挿入して過去に行こうとする。
『錬紀』
その時に聞こえてきたのは男の声。
「ゴイル」
『お前、いくら運転と運行資格持っていたってコクライナーで時間を好き放題に移動すればどうなるかくらいはわかってるだろ』
コクライナー・二号車”疾風”で休眠していた筈のダークブルーの悪魔を連想させるイマジン”ゴイル”はそう忠告する。
「しかし、俺の過去を知りたいんだ!」
『俺達三人と契約したとき、お前はこう言った。”全てを失っても、全ての人の刻んだ時間を守る”………面倒くさくするなよ。俺はそういうのが嫌だからな』
ゴイルはそう言って二号車に戻り、それを聞いた錬紀はバイクからゆっくりと降りてしまう。
(どうすればいいんだ…どうすれば…)
***
さてここは現実空間。
「信彦さん。大丈夫ですかね?」
「…わからない」
「俺はあまり期待しないがな」
コクライナーから降りていた三人は流姫の帰りを待っていた。
「ただいま」
しぼんだ声で流姫が帰って来た。
「流姫!どうだった?」
信彦が聞いた際、流姫は首を横に振った。
「やはりダメか」
予想していた廻はこのような返事をする。
「どうするんですか?」
最も有力と思われていた方法が潰えた今、彼の記憶を呼び戻す方法は皆無に等しい。
「………この際、奴の記憶に関しては放っておこう」
「「「はぁ!?」」」
廻のとんでもない発言に三人は声を揃えた。
「何言ってんの!?」
「ここまで来てそりゃないですよ!」
「何でそう言う考えになるの!」
ブーイング勃発。
「黙れ。まだ方法は一つだけある。…今はそれができるタイミングを待つんだ」
「信じていいの?」
「当たり前だ」
その直後、
『フッハハハハハハハ!!契約…成立♪』
近くに居た男の目前にいる神話に登場したケルベロスをイメージとしたイマジン。
どうやら、男の願いをかなえたらしい。男の手には指輪があった。
上機嫌のままケルベロスイマジンは過去へと飛んだ。
そこへ錬紀がやって来てライダーチケットを翳してイマジンの向かった時間を特定した。
「おい!2007年5月6日…覚えはあるか?」
「…俺と妻が結婚した日…」
「…わかった。……変身」
≪HAMMER FORM≫
聞き出し終えると、錬紀は変身する。
そこへ、
≪KAMEN RIDE…DEROAD≫
「俺も連れてってもらうぜ」
「あんたは……好きにしてくれ」
「そうさせてもらう」
そうしてディロードは仲間のライダーを刻王一人として過去に向かった。
***
2007年5月6日。
「おめでとう!」
「幸せにね!」
とある教会で多くの親族や友人に祝われる二人の男女。
「!!?」
新郎が突然苦しみ出し、砂が身体から零れ出したかと思うと、ケルベロスイマジンが姿を完全に現す。
「キャアァァァ!!あなたァー!!」
いきなりのことに新婦はパニック状態。
それは結婚式の出席者も同じことだった。
『うるせぇな、静かにしろってんだ!』
ケルベロスイマジンは地団太を踏む。
その間に人々は皆逃げてしまったが。
そして、教会の外では時を越えてコクライナーが到着する。
「ついたな…ゴイル。頼むぞ」
(嫌だ。面倒くせえ)
「いつも寝てるくせして、こういうときにまでメンドくさがるな!」
(…ったく、仕方ねえなぁ)
「物臭なイマジンだな」
念話に近いやりとりであったのに、何故かその内容を理解しているディロード。
刻王の身体からは砂が零れ、ゴイルとなって実体化する。
さらにゴイルはその身を変形させて”ガーゴイルブレード”となって刻王の手に収まった。
「ほ〜」
「行くぞ!」
教会内に突入する二人のライダー。
『おや?誰も居なくなったかと思えば、刻王の出番か。しかも噂で評判の魔王様までいらっしゃるとはなぁ。フフフフフ』
「へ〜、ここにまで俺の話が持ち上がっていたか」
『あぁ、その噂を運んできたやつが良いものをくれたよ』
「どういうことだ?」
その問いにケルベロスイマジンは指を鳴らすと、上空から天井を突き破って幾体もの怪人が現れた。
しかも、その怪人等は…。
『蜘蛛男ォ!』
『ザンジオー!』
『ギリザメスゥ!』
『ウツボガメス!』
ショッカー・ゲルショッカーの怪人だった。
「イマジンじゃない!?」
「こいつらは改造人間タイプの怪人だ」
「な!?…そんな奴らを操っている奴が居ると言うのか」
「今はそんなこと考えるな!俺は改造体の方を殺る。お前はイマジンを」
「…わかった」
ディロード一人に四体の怪人を任せることに少々戸惑いがあったようだが、好意に甘えてディロードに怪人たちを任せた。
「さて、一気に行くぜ!」
≪ATTACK RIDE…ILLUSION≫
≪ATTACK RIDE…EXTRA SLASH≫
四人に分身すると、ライドセイバーの刃を構え、流れ込むように四体の怪人相手に斬りこんでいく。
「とどめ!」
≪FINAL ATTACKRIDE…DE・DE・DE・DEROAD≫
「ゼアァァァアァァァ!!」
必殺のディメンションエクストラスラッシュによって怪人たちは一掃される。
「タァ!」
『ハァ!』
一方刻王とケルベロスイマジンは激戦を繰り広げていた。
ガーゴイルブレードとイマジンが両腕に持つ刃は激しくぶつかり合い、その度に火花が散った。
「タリャアァ!」
『無駄だ!』
――バガッ!!――
「グッ!」
思いっきり殴られ、刻王は後退りしてしまう。
「諦めるか…!」
≪FULL CHARGE≫
フリーエネルギーは刀身に宿り、青く輝いていく。
『無駄と言うのがわからないのか?』
「黙れ!やってみなければわからない!」
『全くお前の無鉄砲さには少し呆れるぜ、錬紀』
上からケルベロスイマジン、刻王、ガーゴイルブレードのセリフ。
「オリャアァァァ!」
――ガシャアァァァァァン!!――
一撃必殺の”フィールドスリッター”剣撃はケルベロスイマジンの刃を砕いた。
でも…。
『甘いな♪』
「!!?」
――ザシュン!!――
「グァァァ!!」
砕いたばかりの刃は再び現れ、刻王のアーマーを切り裂いた。
『おい錬紀!しっかりしろ!!』
ブレードは主人に呼びかけるも刻王は受けたダメージの影響で立つのもつらい状態だった。
『じゃあな、刻王。先に逝って、魔王様を待ってろ!』
「行くのはテメ―だ」
≪ATTACK RIDE…EXTRA SLASH≫
「ウラアァ!」
『グゥッッ!』
ディロードが割って入り、窮地を救った。
「錬紀。立てるか?」
「ちょっと厳しいかな?」
「そうか、ならば俺の手を掴め」
ディロードが手を差し伸べ、刻王はそれに応じて立ち上がった。
『だーかーらー、無駄っつってんのがなんでわかんないの?』
「お前にとっては無駄でもこいつにとっては無駄じゃあない!こいつは人がほんの少しずつ刻んで紡ぎ上げていく大切な時間を守るためにすべてを犠牲にしてきた。忘れてはいけないものまで忘れて。俺から言わせれば馬鹿げていることだが、こいつはそれでも止まらない。忘れたとしても…それでも…大切な人の時間を守りたいのだからな!」
その言葉に場の空気が一瞬静まる。
『偉そうに言う奴…何者なんだ?』
「最強最悪の仮面ライダーだ。くたばっても覚えてろ!」
宣言が終わると同時に力を取り戻したカード達が飛び出してディロードの手に収まる。
「錬紀、行くぜ」
「あぁ」
≪FINAL FORMRIDE…KO・KO・KO・KOKU‐O≫
「堪えろよ」
「???…ダガァ!!」
ディロードは強引に刻王のアーマーを抉じ開ける様の触ると、そこを起点に彼の身体は変形していく。
その際、ガーゴイルブレードといつの間にか引き寄せられてきたルフとメイドも変形に加わっていた。
結果、刻王は彼のFFR形態”コクオウセイバー”となった。
鍔(つば)の部分にはそれぞれ、ハンマーフォーム・スピアフォーム・アローフォームの電仮面が取り付けられていた。
「なんか、ごちゃごちゃした剣だな」
『確かにこれなんか気持ち悪い…』
『窮屈です…(苦)』
『私は良いかも♪』
『さあ、派手に暴れるぜ!クライマックスにな!』
各々の感想を述べるとコクオウセイバーはディロードの手中に。
「オオオォォォォォォォ!!」
ディロードは叫びながら走り、ケルベロスイマジンを吹っ飛ばす。
『な、何だこの力は!?』
今更誘ったところで時すでに遅し、ディロードは最期の一撃を与えようとしていた。
≪FINAL ATTACKRIDE…KO・KO・KO・KOKU‐O≫
刀身は黒・銀・金・ダークブルーの四色の光を纏う。
「ゼアァァァアァァァアァァァ!!」
剣は振り下ろされ、途方もないフリーエネルギーがケルベロスイマジンへと向かう。
『グガアァァァァァァ!!』
必殺の一撃”ディロードライン”は跡形もなくケルベロスイマジンを消滅させた。
ディロードはコクオウセイバーを投げると、それは元の刻王・ゴイル・メイド・ルフとなった。
四人はうまく着地…できずにコケた。
それをディロードは仮面の下で笑っていた。
***
現代。
――ガチャン…!――
「いらっしゃ…錬紀…」
客が来たと思い、愁子は愛想よく言うが、店に来たのは錬紀だった。
「ただいま、愁子」
「錬紀…貴方もしかして?」
その言葉に錬紀は何も言わず両手を広げた。
「錬紀……錬紀ィイイイ!!」
愁子は涙しながら錬紀に抱きついた。
錬紀は自分の最も愛する者を抱きしめ返した。
「よかったね」
「ええ、本当によかった」
『ありがとうございます。皆様がたには感謝しきれません』
『錬紀ったら、良い笑顔してる』
『………』
「これで私達の役割も終わりですね」
「そのようだな。…にしても今回は賭けだった」
廻は通例の写真を見ている。
そこにはブレながら錬紀・愁子・イマジン達の様子が一緒に映し出されていた。
「全くよ!FFRの力で記憶取り戻そうだなんて、滅茶苦茶な考えだわ」
「ま、いいじゃないか。終わりよければすべて良し」
***
家に戻った一行。
「それじゃ、行くぜ!最後の仕上げだ」
「「「オー!」」」
そうして次元の壁が現れる。
***
その頃。
一人の仮面ライダーはステンドガラスによって彩られた美しい光に照らされながら、静かに玉座へと座っていた。まるで何かを待つか様に…。
最後の使命の場となるこの世界では、何が救済者を待ち受ける…?
次回、仮面ライダーディロード
「とうとう九つ目…最後の世界だ」
「私に気安く触れるな無礼者」
「ファンガイアの王様ってことか」
「婚礼?」
”最終楽章・光の鎧”
全てを救い、全てを砕け!
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