Cの預言書/未【みらい】
聖王の器。
ナンバーズがそう呼称していた少女が運び込まれた聖王教会に、ゼロとリインフォースは向かっていた。本来ならばなのはとシグナムが行く予定だったが、ゼロがその代役を買って出たのだ。
イビルホイーラーを運転するゼロと後部座席に座ってゼロにしがみ付くリインフォース。
「あの娘、戦闘機人の連中は聖王の器、と呼んでいたな」
戦闘機人
それは人体に身体能力を強化させる機械などを移植した改造人間。
倫理的・技術的問題さゆえにその開発は禁忌とされているが、現在においても裏世界では着々と研究が進んでいるとされている。
通常の人体に機械を移植させて戦わせるというのは、人体の構造上では実質不可能に近いのだが、スカリエッティの開発した者は改造素体を誕生時から機械部品を受け入れられるように調整した人造魔導師を使うことでそれらの問題点を克服、遂には実用化にまで至らせた。
ゼロは以前リインフォースに次元書庫で検索をおこなわせたことでそれらの情報を得ていた。
「あの娘が起きたら、最低限のことを聞き出しておくとしよう。聖王の器がなんなのか?検索してみる価値がありそうだ」
「………」
ゼロがそう喋るも、リインフォースは全く喋らない。
「どうかしたか?」
「いえ、別に…」
リインフォースは実のところ、そう言った違法研究に関する検策を好まない。
検策して得た情報の中には非人道的すぎるモノが数多かったりするからだ。
心優しい性格をしている彼女は、そういった汚れたものを闇の書管制人格をしていたころから見てきたが、やはり受け付け難いものがあるのだろう。
其の時、モニター通信が開かれた。
「無限ゼロ様とリインフォース様。聖王教会のシャッハ・ヌエラです」
「何かあったか?」
「すいません。こちらの不手際がありまして、検査の間にあの子が姿を消してしまいました」
*****
聖王教会・病棟。
駐車場にイビルホイーラーを停めて降りた二人のところにシャッハが駆けつける。
「申し訳ありません!」
「あの子はどこらへんにいるのか、見当つきますか?」
「特別病棟やその周辺の避難を完了させた後にまだ飛行や転移、侵入者の反応は見つかっていません」
「ということはまだ中をうろついているのか…」
シャッハの報告に、ゼロは手分けして少女を見つけることにした。
「検査の結果はどうだった?」
「魔力量はそれなりに高い数値でしたが、それも普通の子供の範疇でした」
「だが、禁忌なる方法で生まれてきたことに違いはないと?」
「…えぇ。どのような潜在的な危険を持っているか…」
ゼロとシャッハが建物内を探していると、中庭周辺を探していたリインフォースは…。
――ガサガサ!――
「…こんなところにいた」
中庭の木々の茂みから、ウサギのぬいぐるみを抱きしめる例の少女が出てきた。
少女はなんだか警戒心を張っている。
「心配しましたよ」
リインフォースは優しい声でそういうと、少女にゆっくりと近づく。
しかしそれを窓から見たシャッハは、
「あれは!…逆巻け!ヴィンデルシャフト!!」
シャッハはデバイスを起動させてバリアジャケットを展開すると、双剣型で柄の部分はトンファーとなっているヴィンデルシャフトを両手に少女の目前に現れる。
少女はシャッハの気迫に圧されて怯えた表情になると座り込んでしまい、とうとう泣きそうになる。
そこへ、
「いきなり何しとるか?」
――ドガッ!!――
「痛ッ!!?」
いきなり現れたゼロがシャッハの頭を拳骨で殴った。
手加減しているとはいえ相当痛いのか、シャッハはその場に蹲る。
そんなギャグ的場面を見て少女の顔からはいくらか恐怖が消えていた。
「ごめんなさい、怖がらせちゃって。あのお姉さんも悪気があったわけじゃ無いから、許してあげてくださいね?」
リインフォースは少女の落としたぬいぐるみを手渡しながらそう言った。
「あの様子だと、少々手のかかるただの子供程度だな」
「す、すいません。お手数をおかけしてしまって…」
ゼロがそう言うと、シャッハは頭を押さえながら謝った。
「初めまして。私の名前はリインフォース。あちらにいるのは私の主人のゼロです。…貴女の名前、教えくれませんか?」
少女は少し黙った後、
「…ヴィヴィオ…」
自分の名前を口にした。
「ヴィヴィオ…綺麗で良い名前ね。…どこか行きたかったんですか?」
「…ママ、居ないの」
ヴィヴィオの言葉に一瞬リインフォースは気まずい表情をするも、
「…それは大変ですね。それじゃあ、一緒に探しますか?」
「………うん」
******
機動六課。
「臨時査察って?機動六課に?」
「ん〜、地上本部にそういう動きがあるみたいなんよ」
部隊長室ではやてとフェイトが話し合っていた。
「地上本部の査察は、かなり厳しいって…」
「うちはただでさえ、ツッコミどころ満載の部隊やしな〜」
「今配置やシフトの変更命令が出たりしたら、正直致命的だよ」
「何とか乗り切らな」
難しい話と表情をする二人。
「…ねえ。これ査察対策にも関係してくるんだけど。六課設立の本当の理由、そろそろ聞いてもいいかな?」
「そやね。まあ良いタイミングかな?…これから聖王教会本部、カリムのところに報告に行くんよ。クロノ君も来る」
「クロノも?」
義理の兄の名に反応するフェイト。
「なのはちゃんとゼロさんと一緒に来てくれるかな?そこで纏めて話すから」
「うん。…ゼロさんとリインフォースさん、戻ってるかな?」
フェイトがモニターを開くと…。
「うわあああああああああん!!」
「あ〜そんなに泣かないで。良い子だから、ね?」
「………はぁ〜」
泣きわめいてゼロとリインフォースにしがみ付くヴィヴィオ。
リインフォースだけでなく、なのはやフォワード達すらもヴィヴィオを泣きやまそうと必死だ。
「あの、なんの騒ぎ?」
「あ、フェイトにはやて。実はですね…」
フェイトがモニター越しで質問すると、リインフォースが答えようとするが、途中ヴィヴィオが「行っちゃヤダー!」だの「一緒に居て!」とか言って、泣き喚いてくる。
それを見たフェイトとはやては状況を一発で理解した。
はやてとフェイトはその部屋の中に入った。
「八神部隊長」
「フェイトさん」
「祝福の風と魔人にも勝てへん相手はおるんやね♪」
能天気に言ってくれるな。
とでも言うような表情をゼロはしていた。
(二人とも…助けて下さい…)
リインフォースは念話で少々泣きが入った感じで頼んだ。
だけど、
「いい加減、泣きやめヴィヴィオ」
ゼロが高圧的にそう言った。
皆は心の中で焦った。
「いいか?世の中において一番放逐されやすいのは力のないもの。あるいは他人に縋ろうとしかしない者だ。今の貴様の歳ならそうやって泣きわめくことも仕方ないと思う輩もいるだろう。
だが私は違うぞ、ヴィヴィオ。…貴様は何で私達についてきた?ここで泣きわめくためか?」
ゼロの言葉に、ヴィヴィオは首を横に振った。
「そうだろう。それなら、私達の言うことはきちんと聞けるな?」
「……うん」
ヴィヴィオは首を縦に振った。
「…良し、良い子だ。褒美に、リインフォースが今日一緒に居てくれるぞ♪」
「え、ちょっとゼロ「本当!」……そうですね」
リインフォースはいきなりヴィヴィオの遊び相手に抜擢され、ヴィヴィオは彼女の台詞途中に断ることのできない純粋無垢な明るい声で質問してきた。それによってリインフォースは問答無用なまでにヴィヴィオと一緒にお留守番役と化した。
隊長陣・フォワード陣はヴィヴィオを説得しきったゼロに感心を覚えるのであった。
こうしてゼロ・なのは・フェイト・はやての三人は聖王教会に出かけて行った。
*****
聖王教会。
――コンコン!――
「どうぞ」
ノックの音がすると、聖王教会の騎士であるカリム・グラシアが返事をする。
「失礼します。高町なのは一等空尉であります」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官です」
「…無限ゼロだ」
なのは・フェイトは敬礼しながら挨拶したが、局員ではないゼロが無愛想に挨拶する。
「いらっしゃい、初めまして。聖王教会教会騎士団騎士のカリム・グラシアと申します。どうぞ、こちらへ」
ゼロ達は丸いテーブルの前にまで移動する。
その内の一つの席には、ゼロに機動六課への協力依頼をしてきたクロノ・ハラオウン提督の姿があった。はやてとゼロが何食わぬ表情で席に座ると、なのはは「失礼します」と堅苦しく敬礼して席に着く。
「クロノ提督。少し、お久しぶりです」
「あぁ、フェイト執務官」
義理の兄弟であるにもかかわらず、この堅苦しさ。
「フフフ♪お二人とも、そう堅くならないで。私達は個人的にも友人だから、いつも通りで平気ですよ」
「と、騎士カリムの仰せだ。普段と同じで…」
「平気や♪」
一人友人じゃない人物がいるが。
「じゃあ、クロノ君、久し振り」
「お兄ちゃん、元気だった?」
お兄ちゃんと呼ばれるとクロノは若干顔を赤くする。
「それは止せ。お互いもうイイ歳だぞ」
そこへゼロが、
「…シスコン」
「む、無限君。それは僕に対する冒とくか?」
質問されたゼロは、「ハッ?」と鼻で笑った。しかもドS顔で。
その後数分間、クロノはゼロに色々と弱味をネタに言葉責め食らったりしたが、今は置いておこう。
そして、はやてがわざとらしく咳をすると、
「さて、昨日の動きについてのまとめと、改めて機動六課設立の裏表について。それから、今後の話や」
はやての言葉を境に、皆はシリアス顔になる。
さらに、外部にこのメンバーの話が少しでも漏れないよう、カーテンが閉められて部屋の中は薄暗くなる。
「六課設立の表向きの理由は、ロストロギア・レリックの対策と、独立性の高い少数部隊の実験例。知っての通り、六課の後見人は僕と騎士カリム、そして僕とフェイトの母親で上官のリンディ・ハラオウンだ。…それに加えて非公式ではあるが、彼の三提督も六課設立を認めて協力の約束をしてくれている」
「よくもまあ、ここまで協力者を掻き集めたものだな」
ゼロは御苦労さまとでも言いたげな表情だ。
「その理由は、私の能力と関係しています。私の能力、プロフェイティン・シュリフティ。
これは最短で半年、最長で数年先の未来。それを詩文形式で書きだした、預言書の作成を行うことができます。二つの月の魔力が上手く揃わないと発動できませんから、預言書の作成は年に一度しかできません。預言の中身も古代ベルカ語で、解釈によって意味も異なってくる難解な文章。世界に起こる事件をランダムに書き出すだけで…解釈ミスを含めれば、的中率や実用性は、割と良く当たる占い程度。…つまりはあまり便利な能力ではないんですが」
カリムがそう言っているとゼロは預言書に書かれた古代ベルカをを深々と呼んでいた。
「あれ?ゼロさん、それ読めるの?」
「…簡単なことだ。そんな事言う暇があるのなら貴様らの無いに等しい脳ミソで読んでみるか?」
はやての些細な一言から始まったゼロの言葉に、カリムは機動六課の運用期間が終わったら是非とも依頼として預言書の解読をしてもらうよう、予約依頼するのであった。
話を戻そう。
「聖王教会は勿論、次元航行部隊のトップもこの予言には目を通す。信用するかどうかは別にして、有指揮者による予想情報の一つとしてな」
「ちなみに、地上部隊はこの予言がお嫌いや。実質のトップがこの手のレアスキルとかお嫌いやからな」
「レジアス・ゲイズ中将、だね」
「ま、あの男なら…な」
ゼロはレジアスの頑固さに呆れ果てた。
「そんな騎士カリムの予言能力に、数年前から少しずつある事件が書きだされている」
クロノの言葉にカリムはある一ページを目前に解読内容を朗読する。
「古い結晶と無限の欲望が集い交わる地。
死せる王のもと、聖地より彼の翼が蘇る。
使者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち、
それを先駆けに数多の海を守る法の船も砕け落ちる」
「それって…」
「まさか…」
「ロストロギアをきっかけに始まる。管理局地上本部の壊滅と…そして、管理局システムの崩壊」
預言の具体的な内容によって空気が重くなる中、カリムは再びを口をあける。
「それから、一年前。丁度無限さんが管理局と手を組み始めた時期に新しい予言が書き上げられたんです」
その言葉にゼロは眉をピクッと動かして反応する。
「無限の欲望と使者達敗れし時、
虚無の記憶を宿した諸悪の根源は現れる。
彼の者に器と力は、留まる事を知らず。
三つの記憶を宿した魔人戦士が倒れる時、
その片割れは暗黒の記憶をその身に刻まん。
虚無の者去り逝く際、冥界への扉開きて、魔の者がそれを閉じる」
先程の預言比べると随分長い文章だった。
「なんだが、さっきの予言とは正反対?」
なのはの言う通り、
先程読まれた預言書には無限の欲望=スカリエッティが管理局を滅亡に追いやるということを意味している。だが、こちらの預言書はスカリエッティは敗れたことを前提に書かれている。
ゼロはその予言を聞いて、なにやら考え込んでいる。
そして、この予言書と地上本部における話が纏まると…。
「勿論、皆さんに任務外のご迷惑はおかけいたしません」
「あぁ、それは大丈夫です」
「部隊員達への配慮は八神二佐からも、確約して頂いてますから」
カリムの台詞になのはとフェイトはそう返事する。
「改めて、聖王教会教会騎士団カリム・グラシアがお願い致します。華々しくもなく、危険をも伴う任務ですが、協力して頂けますか?」
「非才の身ですが、全力にて」
「承ります」
「…依頼を受けたからには、機動六課の戦い、最後まで付き合おう」
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次回、仮面ライダーイーヴィル
Dとの連携/絆【きずな】
「この『欲望』はもう、私の手中にある…」
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