鴻上
「HAPPY BIRTH DAY TO YOU
 HAPPY BIRTH DAY TO YOU
 HAPPY BIRTH DAY DEAR・・・・・・」

ラージ
「なにケーキ作ってんだ鴻上?しかも二つ」

鴻上
「勿論、今日を持って誕生するブライの物語と!」

ラージ
「ブライと?もう一つは?」

鴻上
「LARGE(ラージ)・・・・・・HAPPY BIRTH DAY TO YOU!」

ラージ
「・・・鴻上・・・」

鴻上
「16年めの誕生日おめでとうラージ君!!」

(本当に今日=12月9日は作者の誕生日です)

ラージ
「ありがとよ。・・・・・・では新連載、仮面ライダーブライ!開幕です!!」

転生と出逢いと変身


「欲望」

それは人間・・・・・・いや、地球上に生命が誕生した時から存在している。
原始生命達の「生きたい」という生存本能から始まり、それは次第に進化へと繋がった。

進化した生物達はより効率的な存在となるべく、進化を続けた。
生きていたいが故、子孫を多く残すため。

だが、地上を人間達が支配し、人間が文明を築いて現代に至るまで進化を果たし、その「欲望」は急激に増殖し、肥大化の一途を辿ったのだ。

「あぁしたい」
「こうしたい」
「何かが欲しい」

そんな欲望に満ち溢れる、混沌なる世界。
しかし、人間達はその欲望を抑圧すべく、世界に法を創ったのだ。
しかしそれは、逆に人々の欲望を心の影で増長させる場合もあれば、その増長した欲望を糧に何かの成功を果たすこともあり、欲望を叶える。

でも時として、人間には叶うことのない欲望はどうしても現れてしまう。
そういった種類の欲望は途中で潰えるケースが多い。
なぜなら、世界そのものが定めた法則と、人間そのものに定められた限界が、その欲望を拒絶するからだ。

しかし人間の欲望には底が無い。
そして、その欲望はやがて・・・・・・。



強欲(メダル)の怪人となる。






*****

とある山中の洞窟の最奥。

そこには、ある一個の石棺が後生大事そうに安置されており、周囲の壁には古い文字が刻まれ、何かと何かが戦っている絵までが記されている。

その静寂な場所で、

――チャリン、チャリン、チャリン、チャリン――

洞窟の天井とでも言うべき場所から、何から不気味な色をした空間の歪みが出現し、数百枚の銀色のメダルと九枚の血錆色のメダルが落ちてきた。

そして、そのメダルの山は、九枚の血錆色のメダルを中心に集まり、結合したことで、一体の怪人の姿となったのだ。

『・・・・・・・・・・・・』

血錆色の体色をした怪人は、まじまじと不思議そうに自分の身体を見る。
幸いなことに、地下水が溜まっていた上、光がある程度は差し込んでいたので、水鏡で自分の全貌を見渡せた。

龍の如き頭部と翼、肩には龍の手が宝玉を掴んでいるかのようである。
鬼の如き屈強な胴体と豪腕。
天馬のように精錬された脚部。
そして、本来の色を失い、バックルに嵌っているべきな物さえ消え失せたベルト。

『・・・・・・・・・ふーん』

怪人は自分に置かれた状況を、見て理解した。
そうすると、その姿を微量の光を放ちながらその姿を変貌させる。

それは意外にも女の姿であった。

死装束のような白い小袖を着て、長い黒髪をしている小柄で清楚な女だ。
もっとも、骨が浮き出てきそうなまでに筋肉の見えない細い腕や、長期間陽光にあたっていないかのような青白過ぎる肌。

見るからに不健康そうな外見だが、それが彼女の美しさに拍車をかけていたのやもしれない。

「まあ、いいでしょう・・・・・・いえ、悪いのかしら?」

女は邪悪な微笑をする。

「せっかく七花(しちか)に殺してもらったのに、これじゃあ意味がないもの。おまけに正真正銘の化物になったみたいね」

まるで他人事のように独り言を呟く女。
すると女の注意は、石棺と周囲にある文字と絵に向いた。

「・・・・・・・・・・・・」

女は文字と絵を並列して見始めた。
まるでその文字の意味を最初から知っているかのように。
あらかじめ誰かから聞いていたかのように。

壁に描かれていた絵には、二人の戦士が幾体もの異形と戦っている姿が描かれていた。

一人の戦士は、赤い鷹の頭、黄色い虎の腕、緑色の飛蝗の脚といった鎧と仮面を身につけていて、腹部には赤・黄・緑のメダルが嵌め込まれたベルトを装着している。

もう一人の戦士は、血錆色の龍の頭、血錆色の鬼の腕、血錆色の天馬の脚といったように、全身が血錆色に染まり果てた凶悪な姿であり、腹部には三枚のメダルが嵌め込まれたベルトを装着していた。

「成る程、理解したわ」

女は絵と文字の意味を容易く看破した。

「・・・・・・これですね」

女は石棺のさらに向こう側の祭壇に祭られていた奇妙な石版を手に取る。
そして、小袖の内に仕舞いこんだ。。

――チャリン――

「あら?」

石版を取って洞窟から出ようとすると、足の爪が何かを弾いたらしい。
少し身を屈ませてみると、それはメダルだった。

赤が三枚、黄色が三枚、緑が三枚、白が三枚、青が三枚。
合計十五枚のメダル。

「面白そうですね。貰っておくとしましょう」

女は拾った十五枚のメダルも、小袖の中に仕舞い込んだ。
そして、何事も無かったかのように、洞窟から出て行った。



――ガタガタガタガタ・・・・・・!!――



女が洞窟から出て行くと、タイミングを計ったかのように、石棺が音を立てて揺れ動き始めた。
妖しい光を放ち始め、それは次第に大きくなっていき、洞窟全体を照らすにまで至ると、



――ジャリィィィィィィィン!!――



石棺自体が数百枚のメダルとなっていく。
そして、赤が二枚・黄色が二枚・緑が二枚・白が二枚・青が二枚。
合計で十枚の(コア)を中心に細胞(セル)が集まっていく。

そうして、一体の異形が覚醒した。





*****

同時刻。
とある巨大企業の本社ビル。

「会長、例のグリードが復活した模様です」
「そう」

山奥における、一体の怪人の覚醒を知るものが居た。

ダークブルーでセミロングの髪をした上、生真面目そうで女物のビジネススーツを着こなした美人秘書は、会長席に座っている女に報告していた。

そして会長と呼ばれた女は膝にまで届く長い金髪をしていて、瞳には緑色の輝きがある。そしてなにより、彼女の美貌は一言では語りつくせず、見るもの全てを虜にするような妖艶さといやらしさを含んだ絶世の美貌を振りまいていた。

「また始まるのね。欲望の渦巻く戦いが」

金髪の女はグラスに注がれた、血液を彷彿とさせる赤ワインを飲み干す。

「それより会長。その服装は・・・・・・」
「ん、なにか?」

秘書は言葉を躊躇う。
だったら語り部が代わりに勝手に言う事にしよう。

一言で言うと、会長と呼ばれた金髪の女の服装は”チャイナドレス”だった。

しかも生地が薄いせいか、彼女の豊満極まる爆乳と括れたウエストと淡く実ったヒップといったグラマラスなボディラインがクッキリハッキリと表れている上、スカートのスリットも腰の部分にまで及んでいる為に穿くべき物を穿いていないのが丸分かりである。

もしこの服装で突風が吹き、スカートが・・・・・・・・・などということになれば、現場にいるであろう男性陣は鼻血の海に沈むであろう。

「いいじゃない。減るもんじゃないし♪」
「いや、そういう問題じゃ・・・・・・というか、仮にも一大企業の会長がコスプレマニアっていうのは・・・」
「公の場ではちゃんとした服装になるわよ。御堅いこというもんじゃないわよ、バット・ダーク」

会長はこの時、秘書の名を呼んだ。

「それに・・・・・・ノーパンノーブラのほうが、興奮するわよ//////」
「淫乱ですね」

バットは直接的に言った。

「どうとでも言って頂戴。でもね、これで私達”トライブ財閥”も漸く大見得きって動き出せるわ」

先ほどの淫乱で妖艶な表情とは打って変わり、一気に何かを企んでいるかのような顔になる。

「確かに。これでセルメダルの生産量は格段に跳ね上がるでしょう」
「フフフ♪楽しみね、これからが。・・・あ、念のため、吹雪君に連絡しといてね♪」
「わかりました」

ルナイト・ブラッドレイン・シルフィード。
世界有数の巨大企業・トライブ財閥会長。
妖艶さと淫乱さを絵に描いたようなグラマー美女だった。





*****

時間は流れ、グリード覚醒から三日後。
とある街中を歩く一人の男が居た。

その男は実に目立つ容姿をしていた。
頭には染めたわけでも脱色したわけでもない天然モノの白髪。
服装は黒い着流しに黒いズボンといったものだ。

「もう一息だ」
「いや、流石にねぇ・・・」

白髪男はなにやら刃物店の男と話しこんでいた。
どうやら包丁を買いに来たらしい。

「そう言うなって。どの道この包丁、倉庫でホコリ被りだろ?買ってやるから砥石もつけてくれ」
「いや、言ってることメチャクチャ!」

なにやら交渉をしている。
十分後、白髪男は満足そうな表情で店を出て、店長と思われる男は疲れた顔をしていた。

「高級包丁一本に高級砥石一個で二千円か。あの類の店にしては安目にしたほうだな」

この白髪男の名前は(はがね)刃介(じんすけ)

「これだから値切り云々は止められない」

がめつい男だった。
両手に包丁と砥石を包んだ袋を片手に帰路についていると、



♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜



美しい歌声が聞こえてきた。

刃介は気になって歌声のする方向に足取りを変えた。
三分と経たぬ内に、刃介が辿り付いていたのは、自宅からしても近所にある公園。
その公園のベンチに座り、美しい歌を歌う一人の女が居た。

その歌はまるで、自らの脆弱さと儚さを物語るような、哀しい歌。
彼女自身を現しているとしか思えない歌詞と曲だった。

余分な贅肉も筋肉などまるでついていない、か細く小柄な体躯。
死装束のような白い小袖を着ていて、黒くて長い髪を伸ばしている。
血液が通っているかどうかさえわからない青白い肌。
それが歌い手の女の特徴だった。

「綺麗だ」

刃介は無意識にそういった。
あれほど美しい女は見たことすらないと思うほどに。

だがそれはそれで奇妙な何かを感じた。
歌い手の女は・・・・・・死人のようだ。死人というより死体。死体というより物体のようである。
そんな無機物的美しさだった。真夜中に出会えば生霊にでも見えそうである。

しかし刃介は、そんな彼女を一目見ただけで、あっけなく心を奪われてしまった。
一目惚れである。

あれで手が血まみれで顔に血が飛び散っていて、邪悪でいやらしい笑顔をしてくれたら最高だ!と、刃介の歪んだ何かが叫んでいた。

「・・・・・・何か御用でしょうか?」
「ッ!」

唐突に歌い手の女が話しかけて来た。

「歌・・・、上手いな」

刃介は咄嗟に女の歌を褒めた。

「それはどうも。・・・・・・えーっと、貴方は?」

女は平然と頭を下げる。
そして尋ねてきたのだ。

「俺の名前は鋼刃介」
「私は(やすり)七実(ななみ)と申します」

これが、刃介と七実の最初の出会いだった。





*****

とある某所。

「山から降りて三日ほど経つが、数百年で随分と変わったものだな」

電柱の天辺に立つ女は町並みを見てはそういった。
正直いって電柱の天辺に登って立つなど、常識はずれもいいところだが、生憎彼女は普通ではなかった。

まずは容姿から説明すると、かなりの美人だ。
170に及ぶ身長、キリリと引き締められた凛々しい顔立ち、髪型は流麗の如き黒髪をロングポニーテールにしている。さらには衣服の上からでもボンッ!キュ!ボン!なボディスタイルが伺える。
もし彼女が現役女子高生だったら「お姉さま」と呼ばれても違和感がない。

だが、彼女の服装はこの時代・・・・・・否、この世界ではかなり異質だ。

首・両腕・腹部・両脚といった五体に鎖を巻きつけた上、袖を切り落とし、覆面すらない忍び装束で、装束のあちらこちらには龍の刻印がされていて、忍者刀を腰の左右に一本ずつ帯刀している。
おまけに装束の上半分は和風だが、下半分は両脚の付け根にまでスリットが入ったロングスカートのようになっていて、長くて綺麗な脚が惜しげもなく晒されている。もっとも本人は動きやすさ故にこの服装をしているのだろうが。

「さてと、ヤミーを生むに相応しい人間は・・・・・・」

女忍者は周囲を見渡すが人通りが少ない。
だが、グッドタイミングなことに、そこへ一人の中年男が複数の護衛を連れた状態で現れた。

「ほう、これは中々・・・!」

女忍者は標的を定めると、己の姿形を変貌させていく。

鳥類の如き赤い頭、大型生物のように頑強な銀色の胴体、昆虫のような緑色の右腕、猫科のような黄色の左腕、水棲生物の如き青い下半身といったキメラチックな異形に。

ただし、首・腹部・二の腕・太腿から腰にかけてが不完全だった。

『予備に作った十枚は兎も角、あとの五枚だけは必ず取り戻さなければ』

異形の怪人はそういって、中年男の前に立った。

「ひ、ヒィ!」

男は悲鳴を出す。
それと同時に周囲の黒服は拳銃を怪人に向けて発砲する。

――パンパンパンパンパンパンパン!!――

四人の黒服はそれぞれ二発ずつ発砲するも、

『・・・・・・・・・うせろ』

怪人は気にも留めず、両腕から雷と風を引き起こして黒服達をブロック塀などに吹き飛ばす。

「あ、あ・・・あ・・・」

中年男は恐怖で何もいえないでいる。
怪人は三枚の銀色の円盤=セルメダルを持ってこういった。

『その欲望、解き放て』

その言葉と共に、中年男の額に現れた投入口にメダルを入れると、
中年男の背中からはズルズルと一体の白いミイラが姿を現していた。

『素晴らしいな。本来亜種合成型は、投入先の欲望が相当でないと、屑ヤミーになってしまうのだがな』

怪人が褒めて称えると、ミイラ・・・・・・・・・白ヤミーは生れ落ちた瞬間に成長した。
鷹の頭・虎の腕・飛蝗の脚をした”タトバヤミー”にだ。

『私のコアメダルを探索し、回収せよ』
『リュウギョク様の仰せのままに』

命令の聞いたタトバヤミーは凄まじい跳躍力で移動し、それの親玉であるグリード=リュウギョクも無言で其の場を離れた。

「・・・・・・も、森様・・・」
「大丈夫、ですか・・・?」

ブロック塀に吹き飛ばされて叩きつけられた黒服たちが、雇い主に声をかける。

「グリード」

中年男は確かにそういった。
永遠の欲望を秘める男、森光蘭が刃介と合間見えるまで、もう少しの時間を要する。





*****

鋼家。
それはハッキリ言って、町外れにあるだけの普通の雑貨屋だった。
先ほど刃介がしていた買出しも、ここの商品を揃えるためのものだったらしい。
といっても刃介と七実が今いるのは、雑貨屋兼自宅ではなく、その裏隣で繋がっている鋼家所有の道場だった。

公園で七実が宿無しだと聴き、刃介は自分好みの美女をこのまま野に置いておくのは非常に勿体無いと思い、思い切って彼女を居候させることにしたのだ。
七実も行くところが無かった上、この異世界ともいえる此処において、自分は戸籍上で存在しない存在。下手にうろついて役人(警察)の御用になると後々が面倒だと考え、刃介の好意に甘えることにしたのだ。

そして、二人が今居る道場の表札には”我刀流(がとうりゅう)道場”と書かれていた。

「んじゃ、改めて名乗らせてもらうぜ。俺は我刀流二十代目当主・鋼刃介だ」
「鑢家家長、鑢七実です」


刃介の家系に伝わる我刀流は、八百年前における先祖にして開祖の(はがね)一刀(かずと)が興した流派で、規則云々を徹底的に無視した流派だった。敵の技を常に盗みとっていき、それを遠慮会釈なく、反則モノの技だろうと平然と使う。
要するに勝てれば何でもいいという、ケンカ紛いな流派なのだ。我刀流における独自の奥義を編み出したのも、四百年前における十代目当主だけなほどである。
それ故に認知度は全くの無名で門下生など一人も居ない。もっとも、有名であろうとも、刃介なら「メンドくせ」の一言でバッサリ切り捨てるだろう。


一方、七実の血族に伝わる虚刀流は、先祖にして開祖の(やすり)一根(かずね)が興した流派で、初代は勿論のこと、子孫達が刀剣を扱うを一切持たなかったが故、己が肉体を一本の日本刀として鍛え上げることで成立する流派だ。
拳法ではなく剣法であり、列記とした殺人剣術である。


「まあ、お互いに名乗りあったところでアレだが・・・・・・一ついいか?」
「なんでしょうか?」
「お前一体何者だ?」

刃介は初歩的なことを聴いた。

「多分、もう直ぐわかりますよ」
「なんでだ?」
「それよりも・・・・・・」

七実は刃介が座っている向こう側、
丁度道場の一番奥に奉ってあるものを指差す。

「あぁ、あれか」

刃介は神棚に奉ってある物をおもむろに自分の手で握ってきた。

「こいつは初代の頃から我が家に受け継がれてきた家宝だ。なんに使うかは知らんが」

家宝といわれた物、それは・・・血錆色に染まった龍と鬼と天馬のメダルだった。

「・・・・・・・・・・・・」

七実はまじまじと見ていた。
なにしろそれは、自分の核(コア)なのだから。

――ドンドン!――

いきなり道場の扉を叩く音がした。

「誰だ?」

刃介が出迎えようとすると、

――バギィィィン!――

「うわッ!?」

扉が破壊された。

『匂うぞ。コアメダルが・・・』

扉を破壊して不法侵入してきたのは、タトバヤミーだった。

「なんだよこの化物!?」
「ヤミー」

刃介が困惑していると、七実がすんなりと言った。

「ヤミー?」
「欲望の塊です」
『お喋りしてる暇があるのか?』

タトバヤミーが会話の隙をつき、七実に攻撃しようと、両腕の鉤爪を彼女に突き立てようとする。

「甘いです」

その瞬間、

――ガシッ!――

「な、七実・・・!?」

七実は、グリードとなった。それも刃介の目の前でだ。

『虚刀流、蒲公英(たんぽぽ)
『ハッッ』

七実は一切の予備動作もなく、構えですらない構えから、タトバヤミーに対して貫手を行った。
異常な危険を察知し、タトバヤミーは片腕で七実の腕を叩き、貫手が皮一枚スレスレのところで外すことに成功した。

(や、ヤバすぎる・・・!)

タトバヤミーは危険を察知する本能が警報をならしまくっていることを感じ取っていた。
下手な動きをすれば後は無いと。

「おい、七実・・・だよな?」
『その通りですよ、刃介さん』
「人って気がしなかったが、本当に人外とはな」
『・・・・・・御気になさらずに。この家畜を毟ったら、出て行きます』
「こら待て」

”出て行きます”という部分に、刃介は待ったをかけた。

「七実。俺は何故お前を此処に居候させたかわかるか?」
『はい?』

そして、刃介は胸を張って、堂々と言って見せた。

「俺はお前に惚れてるからな。だから俺は、お前が欲しい」

実に一直線な告白だった。

「例えお前が化物でも」
『・・・・・・・・・・・・うふふ』

すると、七実は笑った。
そして、人間の姿に戻った。

「面白い方ですね、気に入りました」

七実はその時、この世界における生きがいを見つけた。
そして、彼を試すべく、ある物を使わせることにした。

『ま、まさか!それは・・・!?』

洞窟で回収し、小袖から取り出された石版。
タトバヤミーが驚くのも構わず、七実はそれを刃介の腹部に押し当てる。
すると、石版は邪悪な光を漏らし始め、

――バチンッ!――

石の部分が砕け、本来の姿を取り戻し、ベルトとなって装着された。

「うおぉ!?」
「刃介さん。本気で私に惚れたと仰るなら、ヤミーを倒してください」
「あの化物を?」
「今持ってるメダルを三枚、バックルに嵌め込んで下さい。力が得られます」

七実は”ブライドライバー”を装着させて、刃介の持っている三枚のコアを使わせようとする。

『待て人間!その女の言う通りにすれば、貴様は・・・!』

タトバヤミーは最悪の状況を避けるべく、刃介を説得しようとするも、

化物(テメー)の意見なんか聞いちゃいないな。こんな血化粧の似合いそうな美人と同棲できるってんなら、幾らでも代償を払ってやる」

刃介は迷わずに、メダルをブライドライバーのバックル=ローグレイターの装填口に投入し、斜めに傾ける。
すると七実は、ベルトの右サイドにぶら提げられているローグスキャナーを手に取り、刃介に渡す。

「最後はこれで読み込んで、変身ください」
「あぁ」

そして刃介は、ローグレイターのコンダクターを滑走路のようにして、ローグスキャナーで三枚の妖魔系コアメダルをスキャンした。

「変身!」

RYU(リュウ)ONI(オニ)TENBA(テンバ)

刃介の周囲には複数枚のメダルが出現し、彼の周りを飛び交い、

RI()O()TE()RIOTE(リオテ)RI()O()TE()!≫

血錆色のそれが一つの円形(サークル)をつくり、刃介の胸に張り付くと同時に、彼の姿は激変する。

小太刀の刃を取って付けたような角を額から生やした龍の如き頭、
裃袴を模した肩パーツに銀色の飾布を巻きつけて腰部分にまで垂らした鬼のような腕、
走力に特化したであろう天馬のような脚。
そのどれもこれもが血錆色だ。漆黒の複眼・リュウアイがタトバヤミーを睨む。

数百年の時を経て、己が我欲の為に存在する戦士、仮面ライダーブライ復活の瞬間である!

『ば、バカな・・・!』
「えぇ。少しばかり、胸をときめかせてくれる御馬鹿さんです」

タトバヤミーの言葉に七実はそう返した。

「これが、俺の体なのか・・・?」

ブライは道場にあった鏡で己の姿を確認する。

「そう、それの名はブライ。どれだけの力かは、実戦でわかります」
「らしいな」

すると、ブライの胸にあるローグラングサークルの中央にある鬼の紋章が輝くと、それはラインドライブを伝わってオニアームに伝達し、篭手状の鞘に収められていた二振りの鍔無しの日本刀、魔刀(まとう)(こがね)』を装備した。

「お、こいつはいいな。・・・さて、ここで暴れると修理代がかかるので、とっとと表でやがれぇぇ!」

そう叫ぶや否や、ブライはタトバヤミーに刃を突っ込み、そのまま破壊された扉から一気に屋外に飛び出した。
そして屋外に出たのをいいことに、ブライはさらに追撃する。

ローグラングサークル上部の龍の紋章が輝き、ラインドライブからリュウヘッドに伝わると、

「ッハアアァァァァアアア!!」

口から盛大にコアメダルの生命エネルギーを吐き出す”龍之息吹(リュウノイブキ)”を発動する。

『うおあぁぁ!!』

タトバヤミーは思わず、無理矢理刀身から逃れて仰け反った。
すると、彼の体からは何枚かのメダルがチャンリンチャリンという音を立てて零れ落ちる。
その間にローグラングサークル下部の天馬の紋章が輝き、エネルギーがテンバレッグに伝達される。

「いいぜコレ!力が漲ってきやがる!」

ブライはそこから一気に助走をつけ、一気に低くジャンプすると、そのままタトバヤミーに連続キックをかました。

またもやメダルがチャリンチャリンと零れ落ちる。

『図に乗るな!』

タトバヤミーはお返しとでもいわんばかりに、飛蝗の脚で高くジャンプし、自由落下にまかせて虎の爪でブライを切り裂いた。

「いって・・・!」
「刃介さん。中央にこれを」

七実は観戦しながら、ブライに赤いメダルを投げ渡す。

「鳥か?」

ブライはとりあえずメダルを換装し、再スキャンする。

RYU(リュウ)HOUOU(ホウオウ)TENBA(テンバ)

鬼の腕は、赤き鳳凰の翼となった。
ブライは基本形態のリオテコンボから亜種形態のリュウオウテンとなったのだ。
ホウオウアームのホルスターに収まっている二丁の拳銃、鳥刀(ちょうとう)(やじり)』を手に持っている。

「今度は銃か」

ブライはなんとなく自身の使っているものの機構がわかってきた。

(もう一度スキャンしたらどうなるんだ?)

そう思い、なんとなく再スキャンする。

≪SCANNING CHARGE≫

スキャニングチャージされた生命エネルギーは、鳥刀『鏃』に送られた。

「そんじゃいくか・・・!」

引き金に手をかけ、

「チェストォォォ!!」

掛け声をあげながら、銃口より二つの巨大な炎弾を発射した。
結果として、

『う、うおおおあああああああ!!!』


――ジャリィィィィィン!!――


タトバヤミーはブライのリュウオウテンブラストを直撃で喰らい、爆発した。
あたり一面には彼を構成していたセルメダルが大量に撒き散らされる。

「メダルで構成された身体だったのか?」

ブライは周囲に散らばるセルメダルを見る。



「・・・・・・・・・・・・」

そんなブライの戦いを陰で見るものが一人居た。
黒いヘルメットに白いライダースーツを着込んだ青年は、奇妙なバイク・ライドベンダーに跨っている。

「こちら凍空(いてぞら)。ブライが戦闘を行い、ヤミーを倒したっす。会長、指示を頼むっす」

バイクのカウルに乗っている緑色の飛蝗型ロボットに向ってそういっていると、

『それじゃー、タカちゃんを一杯使って頂戴、吹雪(ふぶき)君。まあ、無駄になるだろうけどね』
「了解っす」

凍空吹雪と呼ばれた青年は、手に持っていた赤いジュース缶のプルトッブをあけると、そのジュース缶は鷹型のロボットとなり、他にも大量に配置されていたジュース缶も一斉に変形し、セルメダルを回収しようとする。

だがしかし、

「ん、なんだあれ?」

ブライは反射的に銃口を鷹のロボットに向けて、

――パンパンパンパンパンパン!!――

とりあえず連射した。
そして、メダルを口に銜えて持ち去ろうとした鷹型ロボットを全て撃墜した。

「・・・・・・・・・・・・」

それを見た吹雪は、無言でライドベンダーを走らせ、其の場を後にした。



「合格ですね」

七実がそう言いながら近づき、ローグレイターの傾きを直して、ブライの変身を解いた。
その瞬間、

「うっ!!・・・う、あ、アアあああああああああああ!!!!」

刃介は右腕をおさえながら絶叫した。
突如右腕に激痛が走ったからだ。
まるで子供の頃にあった、骨が成長する際に起こる成長痛を何十倍にもしたような痛みが、右腕に集中している。

「くうううぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「・・・・・・・・・・・・」

必死になって耐え続ける刃介。
それを冷淡に、平然と見ているだけの七実。

一分もすると、痛みも大分和らいできた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・!!」

必死になって息を整えようとする刃介。

「貴方は先ほど、こういいましたよね。幾らでも代償を払ってやる、とね」

七実はそんな彼を見てこういい続ける。

「常人との触れ合いと、人間であることを捨ててもらいます」
「・・・・・・・・・!」

刃介の異形となった腕を見て・・・・・・そういったのだ。

刃介の右前腕部は、まるで刀をイメージさせる漆黒の腕だった。
指の部分は刃物そのもので、右前腕部そのものが刃物で組み上げられたかのようにすら見える。

「こいつは、キツい・・・ぜ」

激痛に耐えつつも、体力の限界を超えてしまい、刃介は倒れた。
薄れいく意識の中、自分は七実にこういわれていた。

しかも膝枕されながらで

「鋼刃介。私に惚れていいですよ」

それは奇しくも、七実の弟の所有者となった奇策士と同じ萌え台詞だった。



急展開に次ぐ急展開で始まった物語。
これが欲望の物語の、第一節なのである。

次回、仮面ライダーブライ

説明とヤミーと空間破砕





登場人物紹介

(はがね)刃介(じんすけ)
主人公兼仮面ライダーブライ変身者。
白髪頭に黒い着流しと黒いズボンといった風貌をしている。
鋼家に代々伝わる我刀流二十代目当主。普段は雑貨屋を営んでいる。
自分の欲望にとことん正直な男で、買い物の際は大抵値切り交渉を行っている。
公園で見かけた七実に一目惚れしたのをきっかけに、戦いの運命に巻き込まれていく。
そして何故か彼の一族には、七実が宿すべき妖魔系コアが三枚、家宝として受け継がれていた。

年齢:二十五
職業:戦士/雑貨商
所属:我刀流/鋼雑貨店
身分:当主/店主
所有刀:???
身長:180cm
体重:60kg
趣味:値切り交渉



(やすり)七実(ななみ)
「刀語の世界」において絶対的な強さと天才性を持っていた女性。
前世=人間の頃に実弟の七花に殺してもらう道を選び、死を迎えた筈だが、何の因果か妖魔系グリードとして転生してしまう(記憶も前世のそれを引き継いでいる)。
自分に堂々とプロポーズしてきた刃介のことを気に入り、彼にブライドライバーを譲渡した。秘技・見稽古によって一度見れば大抵、二度見れば磐石に他の技を使いこなせるようになるといった、規格外の強さを誇る。
コアメダルが九枚あるにも関わらずベルトだけが不完全(セルメン)だが、本人は大して気にしているわけではないようで、オーメダルそのものにもあまり関心がないという、グリードにしては無欲な性質である。
グリードとしての能力については追々説明することにする。因みに極度の方向音痴だったりする。

年齢:二十七(人間時の享年)
職業:無職
所属:虚刀流
身分:家長
所有刀:なし
身長:四尺九寸(148cm)/怪人体:200cm
体重:七貫六斤(29.8kg)/怪人体:90kg
趣味:草むしり


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