仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事は!
一つ、風子とバットが、イカれた妄想狂人の双角斎に囚われる。
二つ、十神衆の一人の雷覇が、風子とバットを助けた。
三つ、鬼凛は土門の果てしない卑猥妄想の前に完膚なきまでに敗北した。
螺閃と母親と到達
裏麗の一人、鬼凛が性欲の塊とかした土門によって失神させられたことで勝利した火影一向。
重苦しい門が開かれると、その向こうにはグロテスクで趣味の悪い石像が壁に埋め込まれるようにして彫られていた。
あ、ついでにいうと木蓮と命はその場に放置したが、鬼凛は何か情報を知ってるかもしれないので土門に担がせている。
「(この奥に・・・天堂地獄が)―――いくか」
烈火は決意を新たにする。
そんなとき、
「薄汚いのが来ましたね」
と、七実がため息混じりに行った瞬間、刃介と七実以外の者達に頭痛が走った・・・・・・。
そして、周囲が白バックの奇妙な空間に成り果てた。
その空間の空中には、目玉のようなものが幾つも浮かんでいる。
"来た”という言葉を何度も繰り返して皆の精神に直接語りかけてくるそれの正体を、このうちの数人はすぐさま読み取る。
「天堂地獄か」
「意外なヴィジュアルで」
烈火が激情を込めて喋るのとは裏腹にブライはただ単に興味深そうにみるだけだ。
『我が名は天堂地獄・・・・・・!!己の意思を持ち、果て無き力を持つ真の魔導具・・・、この日を幾年も待った!我が力を得るに相応しい資格を持った者の存在を!』
天堂地獄は喋り続ける。
『永き時間我は待ち続けた!そして今、その資格を持った者は来た!!』
(ほう、四季崎の変体刀がそうであったように、貴方も所有者を選ぶというわけですか)
語る天堂地獄に七実は心の中でひとり喋る。
(成る程、天堂地獄・・・・・・となるとテメェを携えるに相応しい奴は、ここにいるバカと、一歩先んじてる中年のどっちかというわけか)
ブライもまた然り。
すると烈火は、空中に”崩”の文字を描く。
「ゴチャゴチャやかましい!いいか?これは宣戦布告だ!――粉々にしてやる」
崩によって発生した弾炎は見事なまでに幻影全てを吹っ飛ばす。
「にゃははははは!!よっしゃ、いくかい野郎ども!!」
烈火は何時もの底抜けに明るい笑顔で呼びかける。
(もっともこのバカなら、例え求められようとも圧し折りそうな気がしてならないぜ)
心の中でまた、ブライは烈火の人格を評価していた。
*****
一方別ルートでこちらに向ってくる三人は、
「なんなんだろ!今の声!?もしかして天堂地獄!?」
「あのドブ川みたいな色した声は、多分そうでしょうね」
風子とバット、そして・・・。
「おそらく・・・彼の封印が解かれるのも近いということを予感させます」
雷覇もまた、天堂地獄の声を聞いていた。。
というか洞窟にいる奴大半が聞いているだろう。
「天堂が誰に興味を示し、求めているかはわからない。ただその人間を天堂は指し示したのでしょう」
「仏教用語で”天堂”は極楽ですから・・・ね」
「だからなんなのさ!?」
バットのもったいぶった言いぶりに風子が詰め寄る。
「所有者によって善にも悪にもなる純粋な力―――あるいは、所有者にとっての極楽で被害者にとっての地獄やもしれません」
バットの予想の後半は見事的中することになる。
だがそれはまだまだ後先のお楽しみだ。
*****
火影一向は進軍を一旦中止した。
広い場所にでた矢先、そこに待ち受けていた男。
服、肌、髪・・・全てが白一色で統一され、その顔も白紙のように無表情だ。
「・・・最期の砦を護るのは、やっぱりてめぇか。螺閃―――」
重々しい雰囲気の中。
「よいッ」
土門が鬼凛を下ろした。
「ふにゃ?」
そうして鬼凛が眼を覚ます。
「あり?私は一体・・・・・・あーーッ!!螺閃んん!!」
「・・・・・・・・・」
涙ながらに螺閃との再会を喜ぶ鬼凛。
何も答えない螺閃の表情は喜怒哀楽のどれをも示さない。
「おい人形野郎。こっちは先を急いでるからそこを退け。それからグラサン、お前奴の代弁やれ」
と、ブライは明け透けな物言いで螺閃にいった。
少しムっとした鬼凛だが、仕方なく螺閃の意思を読み取ると
「さ・・・<サヨウナラ。君達も消えるんだ。僕の母親のように・・・!>」
鬼凛は一字一句間違えず、代弁した。
「テメェの母親のように消えるだと?」
ブライが首を捻っていると、螺閃は伸縮性警棒を取り出す。
今の段階では打撃武器にしかならないその警棒の柄の末端にはなにかがはめ込まれるようなスペースが存在している。
「あっそう。どーしても邪魔してくれちゃう訳か」
烈火は宙に”砕”を描き、右前腕の手甲から炎刃を生やす。
「なら容赦しねぇ。俺たちはなにがなんだって、天堂地獄を・・・・・・天堂地獄を壊さなくちゃいけめえんだよ!!」
烈火は地をけり、炎刃と警棒を衝突させる。
「どけ!!とんでもねえことになっちまうかもしれねえんだぞ!!てめーら!!どんな奴に肩入れしてるのかわかってんのか!!?目ェ覚ませ馬鹿野郎!!」
そう怒鳴り散らして烈火は螺閃をなぐり、彼の頬には切り傷ができて鮮血が流れ出す。
「<初めから正気だよ。森光蘭がどういう人間かもわかっているつもりだ>」
鬼凛が代弁しだした。
「<正直言うと・・・森も天堂地獄にも興味なんてないんだ。僕は自分のために動いている>」
「自分のためというと?」
ブライが質問する。
「<知っているかもしれないが・・・僕は麗の元十神衆。紅麗の下にいたこともあったが、これといった行動を起こした事は皆無に等しいがね>」
語りはまだ続く。
「<僕は、音遠・・・雷覇、磁生。彼らのよに忠義の心を持った者とは違う。幻獣郎や命のように、隙あらば殺そうと考える人間でもなかった>」
次に上げられた者の名前は
「<戒。あの男には少なからず共感を覚えたことがある>」
戒・・・・・・それは誇り高き剣士。
「僕に戦いを挑み、勝利する事を生きる全ての目的とした・・・十神衆の中にいながら”個”の戦いに執着した。君にも、同じように生きる目的があるのか?」
水鏡がそう訊いた際、
「<・・・そんなものはない。戒は・・・君を倒すことに命を燃やし、そして朽ちた>」
螺閃は相も変わらず一切構えずに答える。
「<彼との相違点、僕ははじめから死んでいる。死者は歩くんだ・・・・・・たった一つの探し物の為に>」
螺閃は一個の核をとりだし、
「<見つける場所はどこだって構わない。例え其処が、悪魔の下だとしても・・・>」
警棒にはめ込んだ。
――カァァァァァ!!――
核が警棒にはめ込まれると、凄まじい閃光が放たれる。
それに皆は目を閉じてしまう。
(あれは!!?)
すると、烈火にしか聞こえない声が。
「あちゃッ!!」
烈火の右手の甲には”虚”の文字が浮かび上がり、虚空が人間形態で外に出てきた。
「あの男・・・・・・!!あんなモンを使っておったのか!」
「おいセクハラジジイ!なんだあの魔導具は?」
ブライが虚空に問うてみた。
「あの”光”と書かれたモンの名は――――」
次の瞬間、ブライは虚空を突き飛ばした。
そうして螺閃の警棒攻撃をさけて反撃する。
――バチバチバチバチ!!――
カブトホーンから放たれる緑色の雷撃。
それは見事命中すると思われた。
しかし、
次の瞬間には、雷撃は消え去っていた。
ただ螺閃が魔導具こみの警棒を振るっただけで。
「ん・・・!?」
「電気を壊した!?」
「いや・・・・・・違う!!」
目の前の現象・・・・・・それは、
「消したんじゃよ。文字通りな・・・」
単純な消滅だった。
「光界玉!」
虚空はその魔導具の名を告げる。
「光界玉?」
「数多の魔導具の中でも珍品中の珍品でな。その昔、火影の民も誰一人として使い手になろうとする者さえ現れんかった、最悪の魔導具じゃ!!」
((ああ、成る程))
ブライと七実は理解した。
彼らだからこそ理解できた。
「その魔導具・・・光界玉っていうのは、正しく呪われた両刃の剣というわけか」
刃介は理解した。規模が違うとはいえ、ある意味同属ともいえるような力を今正に身に纏っている彼だからこそだ。
「初対面から気になってたその人形ぶりもまた然り「やめてよ!!」
ブライの言葉を鬼凛が遮った。
エグい過去を無理に詮索されたように。
「やっぱな」
「・・・やはりな」
「おいお前ら!何自分たちだけで納得してんだよ!どんなふうに珍品なんだありゃぁ?」
「うむ―――」
虚空が説明しだした。
「光界玉・・・・・・ある意味コイツほど、術者の真価が問われる物はない。影を生み出す影界玉と対となる魔導具でな―――この世の万物全てを消し去る事ができる」
「全てを、消す・・・?」
余りに抽象的だが、直接的かつわかりやすい言葉に、烈火は本気になって問うてしまった。
「簡潔に言ってしまうと、紙に描いた絵を消しゴムで消すように消失させる。物理的に殺すわけでも魂を抜く訳でも何処か異次元へ幽閉するのとも違います。完全なる消滅なんですよ」
七実が捕捉した。
ちなみに、ここにいたる直前、土門がわざと「柳の胸も?」などと消滅対象範囲を聞いていたが、勿論ソレは悪ふざけだ。でもそれは遠回しに柳を貧乳呼ばわりしている事であり、柳を涙目にさせて烈火が土門をモロにボコるトリガーにもなってたりしたが、あまりに見苦しいので皆スルーした。
「では念のため、もう一回だけ確認するか」
ブライは遊び混じりのような動作でメダルを換えた。
≪HAYABUSA・HOUOU・INAGO≫
メダルチェンジによって、ブライは亜種形態の”ハヤオウナ”となる。
――パンパンパンパン!!――
二本の鳥刀『鏃』の銃口から発射された四発は、
――カァ・・・――
光界玉の光と共に消え去る。
『炎の弾丸まで消されやした!あれもう反則じゃありやせんかい?』
カッパヤミー、この場において漸く口を開く。
「虚空、全てを消す、といったな?ブライや八竜なども消せるのか?」
水鏡が最悪のシナリオを口にした。
「・・・・・・・・・形無き物とて例外の範疇には入らん。記憶でも、病魔でも欲望でも打ち消す力があるはずじゃ!結論、八竜やブライも消せよう!」
「無敵だぁぁあああ!!」
虚空の説明に土門が叫んでいると、
「ただ―――螺閃は消さないよ。八竜も、ブライもね」
『ん、意外とフェアな奴?』
「<違う>」
鬼凛は代弁した。
「・・・・・・う・・・・・・それ・・・言っていいのね、螺閃・・・?わかった・・・」
そこから代弁再開だ。
「<彼らを消す事に躊躇は無い。ただ・・・原因があるのさ。光界玉の本当の恐ろしさはそれだけじゃない。何かを消した後に術者に起こる、反作用こそが真の恐怖>」
その光界玉の致命的な欠点は、
「<消すたびに己の大切なものも消えるのさ。僕はそうして声を・・・感情を・・・そして、母を消してしまったんだ>」
螺閃の告白は予想以上にショッキングなものだった。
「<・・・・・・僕の顔を見てくれないか?さっき烈火に斬られた傷。あれほどの傷の血がもう止まっている。これは止血じゃない。先ほどの雷撃と弾丸を消した代償に血を少し消されたんだ>」
螺閃は血を蹴り、警棒をブライに叩きつけるも、ブライの装甲はビクともしない。
「<消すものに比例して・・・・・・僕もそれ相応のモノを奪われていく。ブライの言うとおり、究極の諸刃の剣なんだよ>」
説明がひとしきりおわると、
「・・・・・・なんでだよ・・・・・・なんでだ、螺閃・・・!?」
烈火が身体を震わせていた。
恐怖とは全く持って違う震え。
「自分の母ちゃん消しちまったんだろ!?悲しくねえのかよ!!」
「<・・・・・・・・・・・・感情も消えている>」
「憎くねぇのかよ!!その魔導具は、お前の母ちゃんも・・・心も消しやがったんだぞ!!」
「<・・・・・・呪いを吐く声も消えている・・・>」
いたちごっこのような遣り取り。
「なんでだ・・・・・・なんで・・・!!」
烈火は地をけり、拳を構え、
「なんでそんなモンまだ持ってやがる!!!」
――ガゴッッ!!!――
螺閃を思い切り殴り飛ばした。
勢いよく吹っ飛んだ螺閃は声一つだすことなく、壁に激突した。
(なんだ、この力・・・この男・・・急に―――)
螺閃は疑問する。
「この局面、俺と七実が手を貸す必要は無いな」
とブライが口にした。
本来なら烈火の言葉に「じゃあ俺のブライはなんなんだよ?」と皮肉を言ってやりたがったが止めておくことにした。
「立てよ」
烈火のピンとした言葉に、螺閃はゆらりと立ち上がる。
その瞬間、
――ドゴッ――
烈火が螺閃を殴る。
(・・・なんだ・・・?この力は・・・・・・なんだ?)
螺閃は困惑する。
「オイ・・・戦況が変わったな。さっきまでの”ヤベェ”って感じがしねぇ。寧ろ”勝てる”ペースだ」
「うん・・・烈火くん、怒ってる」
「何かを消す事の見返りに自分も何かを失う魔導具・・・・・・」
「自分の母も消してしまったと言ったな。それでもなお奴はその魔導具を使い続けている」
土門、柳、小金井、水鏡はシリアスにそういった。
「正気とは思え「おっす!!やってるねーーー!!」
土門の声を遮る元気のいい声。
「ちゃース♪」
「漸く合流できました」
「ふ・・・」
「風子ちゃん!!」
「・・・・・・」
「バット・・・お前も来てたのか」
霧島風子とバット・ダーク。
火影本陣に合流。
「風子!!」
「風子ちゅわぁぁぁん!!」
土門と虚空が風子に駆け寄ると
――バギッ!!――
「ああああああああ!!!!」
虚空にはアッパーカット。
「元気だったかどもーーん!!」
――バチン!!――
土門には見事なビンタ。
「なーんか皆久しぶりだねぇ!イェイ!ちゃんと全員生きていて良かったよ!」
そのうち二人が軽く死にかけだ。
(・・・風子だ・・・)
土門は起き上がる。
自分たちの知っている、いつもどおりの霧島風子が今ここにいる。
「おかえり風子様!!!」
敬礼する土門に、風子も敬礼で返した。
「鋼さんに鑢さん」
「「ん・・・?」」
バットがブライと七実に声をかける。
彼女の手にはカマイタチとカブハチナ、二体分のセルメダルが入った袋。
「このセルメダルは、取引でのお約束どおり、トライブ財閥のほうで頂かせてもらいます」
「やっぱそうなっちゃう?」
「あなた方はもう一体のヤミーがいることですし、セル不足にはならないでしょう?」
そう、カマイタチとカブハチナのセルは持っていかれても、まだコチラにはカッパヤミーがいる。
セルメダルを数十枚手に入ることは確実だ。
「フン、持ってけ泥棒」
「では確かに頂戴いたしました」
といってバットは袋を懐にしまった。
こういうところはシッカリしている。
まあ、横道はこれくらいにして本筋に戻ろう。
と言いたいところだが、まずここで回想場面にいくとしよう。
*****
それはある日烈火が小学校の頃、喧嘩をして帰った日。
「どーした烈火!まーたケンカしたんかい?」
「父ちゃん」
「ん?」
腫れのある顔で烈火がこう聞いてきた。
「俺には母ちゃんがなんでいないの?」
「・・・・・・・・・」
茂男は少し黙り、
「おやつでも食うか!」
「”さいこん”ってのしないの?寂しくないの?」
――ポンッ――
茂男は烈火の頭に手を乗せて、優しい笑顔で言った。
「さびしかねぇぞ!お前がいる!」
「・・・・・・花火作ってるときにタバコ吸うなよ」
「お前、今照れただろ。照れたよな?」
ぎゃはは、という下町風な笑い声が響いた。
そして其処からさらに時は流れる。
ある日のこと、珍しく風子の家に遊びに行ったときだ。
「あら、いらっしゃい烈火くん!」
「おばさんウッス!!」
烈火が大声で挨拶した。
「トランプ?いいわね、おばさんも入っていい?」
「おう!入れ入れ!」
「ダメ!」
そこで風子が待ったをかけた。
今思えば、これは烈火に対する好意ゆえか、それとも別のなにかか。
「私たちで遊んでるの!ママは邪魔!」
「はいはい。じゃ、お買い物にでも行くわ♪」
――ゴンッ――
烈火が風子の頭に拳骨をくらわせて、
「邪魔なんて言うな!母ちゃん大事にしやがれ!!」
*****
「その後は何時も通り大喧嘩。懐かしいな。あいつは・・・ちっちゃい頃からお母さんがいなかった。他のお母さん見て”いいなぁ”と思っても僻むってことはなかったな。いねーとつまんねぇぞって、いるんなら大事にしろって感じだった」
風子は思い吹けるように言い出す。
「母ちゃんいなくても切ないって思う暇ないだろ!あそこは親父さんおもしれぇから!」
「うん、面白いよ!”シゲちゃんのダンス見やがれ”って言って踊るし」
なんかシリアスを崩すギャグ顔で話す土門と小金井。
「・・・烈火くん、螺閃さんを・・・・・・自分と照らし合わせてるのかな?」
「そうかもね。烈火は柳を守るってこと以外に、陽炎さんの呪いを解くって目的がある。自分の知らないところで苦しんでいた母親を、楽にしてやりたいって思ってる。だから納得できない。自分の母親を消してしまった魔導具を未だ手にして、戦ってる螺閃のことが」
柳の言葉に風子はそう長々と答えた。
それは烈火と10年ちかく悪友をしていた彼女ならではの言葉だった。
そして螺閃は荒く息をつきながら必死に体力を回復させようとおもう最中にこう思う。
(なぜ・・・ここまで戦える!?体力に限界は無いのか?化け物か・・・!?)
今思うと、烈火も紅麗も、裏武闘決勝戦での際、お互いに火の粉さえ出せないほどに全てを絞りつくし、挙句の果てドームを全壊させて尚、原始的な殴り合いでその勝負を続けたのだ。
「・・・・・・・・・・・・」
「烈火さんの気持ちを読み取って、螺閃に教えてあげてください。鬼凛さん」
「・・・・・・雷覇・・・・・・」
沈黙する鬼凛に、雷覇はそういった。
ただただ静かなる表情で。
「俺は守りてえって気持ちで戦える!あの紅麗だって・・・・・・死んだ母ちゃんが愛した火影を誇ってる!守れなかった人達に詫びながら・・・それでも踏ん張って戦ってる!!」
烈火は荒息混じりにそう告げる。
「・・・うまく言えねえけどよ、お前にはその魔導具を持って戦ってほしくねぇ!お前の母ちゃんもきっとそう言う。母ちゃんの気持ち、大事にしやがれ」
それはウソ偽りのない言葉。
「<・・・・・・君と紅麗が何度も立ち上がった訳・・・・・・わかったような気がするよ。背負っているんだ。僕にはたった一つの探し物があると言ったよね。自分の消えるときを探しているんだ>」
螺閃の言葉にも嘘偽りはなかった。
「<母さんを戦いの中で消してしまった罪・・・・・・己自身を消す事を罰と定めていた。ただし中途半端な消え方じゃない。意味ある消滅を求めた。他に望みはない・・・消え場を探す歩く死体さ。僕は・・・背負ったものを捨てようとしていたんだ>」
螺閃は語り続ける。本音の言葉を。
「<これでは・・・・・・勝てる筈もないか・・・・・・(僕には感情が無い・・・でも、なんだろうこの気持ち?)>」
螺閃の代弁者である鬼凛は、それを代弁できることに嬉しく思い、涙した。
「<僕の負けだ>」
ただ螺閃は、探し物を見つけた気がした。
「・・・・・・はぁ」
「どうかしました?」
「いや、ただ・・・」
「ただ?」
刃介(ブライ)は心底面倒くさそうに言った。
「甘ったるいと思っただけだ。・・・・・・それよりも」
ブライはある人物を指差す。
「そこの忍装束で黒いロン毛、誰だお前?」
「彼は雷覇。紅麗の腹心といえる十神衆の一人で、私と風子さんを助けてくれた人です」
「へー・・・ってお前に聞いてないぞバット」
バットが何気に説明し、ブライが小さくツッコむ。
まあ脇道はさておき、
「ホントもうすぐだぜ、天堂地獄!」
烈火の締まるような声に、一同は洞窟に入ってからのことを思い出す。
なお、
「確かに・・・いろいろあったよ・・・・・・」
『あー、そうでやんしたねぇ』
小金井とカッパヤミーは何気にオカマサイボーグを思い出して、泣きっ面だったり呆けた面してたりしていた。
(凄く嫌なことあったんだね、薫くん・・・・・・)
柳はそんな小金井に同情していた。
「いっちょ暴れてやるか!!クソ魔導具に泣き入れさせてやろうぜ!!」
そうして一同はリレー形式にハイタッチしあい、そして全員がタッチし終えて拳で円形をつくるようにして前に差し出し
「火影忍軍、出陣!!」
*****
一方、螺閃と鬼凛は。
「・・・・・・螺閃、私たち・・・外出よっか!ホラ、いい空気吸いに行こう?」
と鬼凛がいっていると、螺閃はふと視線を脇にずらした。
そこにはベレー帽を被り、顔には十字型のペイント、女物を服装をした人物がいた。
もっともボロボロなんだが。
「お互いに負けちゃって残念無念ですね、螺閃さん」
「なんだ、葵・・・・・・あんたまだこの中にいたんだ」
「ふふぅ、確かめたいことがありまして。お二人に質問があります」
葵はボロボロの身体を引きずるようにして、無理矢理貼り付けていた笑顔の仮面を一瞬だけ剥いだかのようにいった。
「今後、彼らと戦う意思はありますか?」
それはつまり、これからも裏麗でいるか?という質問だった。
「<無い。僕は探し物を見つけた。その真意を確かめる事が今後の中心活動。敵に回るつもりでも裏切ったわけでもないが、これからは好きなように動く>」
「・・・・・・あらま・・・」
確固たる決意の言葉だった。
「相変わらず我侭なんだね」
葵が急速に身を乗り出して接近してきた。
「君、一応裏麗の首領なんだよ?責任感皆無じゃないか。ムカツクなぁ」
「<関係ない。ムカついたらどうする?ケンカでも売るのか?>」
狂気の笑顔たる葵に対し、とことん無表情な螺閃。
「売りませんよぉ、クスクス。君ほどの人間が素直に彼らを通しちゃったことで、答えはもうわかってましたから♪・・・・・・そこで君の首領としての最後のお仕事なわけさ」
葵は再び偽りの笑顔をはりつける。
「綺理斗、蛭湖、門都・・・そしてボク、葵の死四天を、新たな首領として引継ぎをしてもらう」
「<結構。森にもそう伝えてくれ>」
「ハイハイ、ゴクロー様ぁーーっ♪バイビー螺閃ちゃん♪」
そうして、葵は消えていった。
すると、螺閃はなにかを思考したらしく、それを鬼凛が読み取った。
「・・・ううん。私はずーっと貴方の側にいる。なにがあってもそれだけは変わらないよ。貴方の意思は、私そのものだよ」
鬼凛の想い。それは紛れも無く、本物だった。
*****
火影一向たちは、天堂地獄を封印した場所の手前部分。
火影の紋章の直情に歪な髑髏が掘られた門の前にきていた。
「・・・よいか・・・もう後戻りはできん。最後の選択は生か死かじゃ!」
虚空は魔導具の核を掲げた。
すると、光が髑髏の目に入り込んでいく。
『・・・・・・火影魔導具・・・・・・火影所縁の者と認める・・・・・・封印の扉・・・・・・解放・・・・・・』
扉にある髑髏の機械的な声が冷たく響き、門は大仰な音を立てて開いていった。
「出発進行だな。強欲中年の顔でも拝んでいくかねぇ」
ブライはその後、「ついでに殴って顔変形させるか」
などと危ない発言をしていたが、スルーの方向で。
*****
彼は子供の頃からそうだった。
食べ物が欲しい女が欲しい金が欲しい家が欲しい絵画が欲しい。
何かが手に入れば次の物次の物。
満たされることなど味わったことがない。
永遠に尽きない、欲望。
そして考える。どれだけ金を集めても宝石を集めても、死んだら意味を成さない。
それゆえに、彼は思い至った。実に夢物語臭い子供じみた発想に。
そう、永遠の命が欲しいと。
そして彼はたどり着く。
その眼前に、目と鼻の先にある物、それこそが彼が求めていた物。
歪な空間において、様々な柱や刃物が突き立てられ、それらには幾重もの呪符付きの鉄線が張り巡らせてある。
その中心には数百年の年月をおもわせる古い鎧甲冑が安置されていた。
「ひゃはははははは!!天堂地獄だァぁあ!!」
森は一目散に駆け寄っていく。
こいつが手に入れば恐れる物など消える。
火影も殺す、紅麗も殺す、メダルの戦士も殺す。
そして治癒の少女を我が物にした私は・・・・・・と。
しかし現実は甘くない。
――バキャアァァァン!!――
なにかが森を弾き飛ばし、激痛を味合わせる。
「ぐ・・・ぐぎゃあああああああぁぁあぁぁちくしょう!!!」
「森様!!」
「パパ!?」
八神と煉華は森に近寄るも、リュウギョクだけは違った。
「成る程、四百年前における全ての技術を用いた大結界による封印か。これは生半可な力では壊せそうに無いな」
などと冷静に分析している。
「じゃあ私の炎でもダメかな?」
「やってみればわかる」
といわれると、煉華は物は試しにと高出力の火炎を結界に放射した。
けたましい音がたちこめ、森達ももしやと考えたが、結果は変わらなかった。
「では今度は私の番だな」
とリュウギョクが腰の鞘に収めてある二振りの忍者刀を勢いよく抜刀して逆手に持って構えた。
刀の刃が結界に届く寸前に、
――ガコォォン――
門が開いていく音がして、リュウギョクが刀をピタリと止めた。
結界は壊すのは、グリードたる彼女なら決して不可能ではない。
しかし、邪魔者が来たというなら話は別だ。
≪KABUTO・HACHI・INAGO≫
男声の電子音声が聞こえてくる。
≪KABU・KABUKABUHACHINA!KABUHACHINA!≫
そして奇妙な歌声を聴いたとき、四人は確信した。
そして門が完全に開ききり、彼らに初めて声をかけるものが、一言いった。
「初めまして、強欲中年の森光蘭」
頭部には雄々しく立ったカブト虫の角に橙色の複眼。
両腕には凶暴な蜂の如き毒々しい毒針が生えている。
そして両脚にはギザギザとしたイナゴのソレがあった。
上・中・下の全てが緑一色で統一されている。
「ブ・・・ブライ・・・火影・・・」
仮面ライダーブライ・カブハチナコンボ。
その姿を目にした森は腰を抜かして座り込んでしまう。
そして思い出すのは、自信たっぷりだった螺閃たち。
「あの・・・あの・・・役立たずどもがぁあぁーーーっ!!!」
全ての怒りを吐き出すように、森は叫んだ。
「他人を怨み呪うのはテメーの勝手だが、ちったぁ自分の置かれた状況を確認したらどうだ?」
ブライは見下すようにしていった。
「どうやらあの古ぼけた鎧が天堂地獄らしいですね」
『となればやることは一つでさぁ』
七実とカッパヤミーがそういうと、烈火は天堂地獄に呪われた哀れな盗賊たちを思い出して、
「やるぜ」
一言だけそういった。
「させるか!!八神ィ!!煉華!!リュウギョク!!殺せぇ!!!」
森は叫びに叫び、それに反応して三人が向っていく。
「無駄だよ。そこのくノ一ならいざ知らず、そんな人間如きでどうにかできはしない」
そういった瞬間、
――ビュンビュンビュンビュンビュンビュンビュン!!!――
ブライは分身した。
空間スペースのことを考えると、最大100体は無理だったので、精々20体くらいだ。
しかしそれでも八神と煉華を組み伏せるには十分だった。
「きゃう!!」
「ぐはっ!!」
壁や地面に叩きつけられ、身動きを封じられる八神と煉華。
残るはリュウギョクのみ。
「流石はブライのコンボだ。やはり人間程度でどうにかできるわけもないな」
と、薄らと笑いながら言った。
「その初っ端からコンボを使ってくる心意気に敬意を表して、私もソレ相応の力でお相手しよう」
そうして、チャリンチャリンという音を立てながら、リュウギョクは怪人形態になっていく。
「「「「「「っっっ!!?」」」」」」
これには火影のメンバーも驚くしかない。
本物のグリードといえば、七実くらいしか知らないのだから。
そんなリュウギョクに近づく者が一人いた。
「お久しぶりですな、”真庭殿”」
『あの時の火竜か』
虚空だった。
彼はリュウギョクに恐れる様子も無く彼女に話しかけていた。
おまけにリュウギョクも虚空を知っていたのか、妙に落ち着いた口調で返答している。
「何故そのような男に手を貸す?確かあんたは、ああいう人種が一番嫌いだったのでは?」
『四百年前と今現在においては事情が違う。コアを生産するには、森の欲望が必要不可欠』
リュウギョクはそう言いきり、虚空も諦めたかのように彼女を素通りして天堂地獄へと歩いていく。
「おい、とっとと始めようぜ」
『そう急かすな。女と酒は同じだ。ゆっくり熟さずにガッツいても大して美味くはないぞ』
ブライとリュウギョクは構えた。
「我刀流二十代目当主、鋼刃介、推して参る!」
『あぁ来い。私も、貴様に飽きられぬよう多彩な忍法を見せてやるとしよう』
そして、戦いは始まる。
*****
一方、洞窟の外―――丁度封印の地への入り口付近。
「食い止めろ!!ここを突破されたら後がない!!」
「こいつを封印の地に入れるな!!」
裏麗の防衛陣が、招かれざる者を跳ね除けようと躍起になる。
――ボォォォアアアァァァ!!――
しかし、全ては消し炭にされた。
紅蓮の炎の恐ろしさを直視した一人は
「うっ・・・わぁあぁあ!!」
生存本能に従い逃げようとする。
しかし、
――ビシッ!!――
誰かの手刀が、ソイツの首をうち気絶させたのだ。
「ここから先の案内役は任しといてください」
気軽な口調で話すのは、ジョーカー。
「・・・・・・うれしいやないですか!やっぱりあんたは生きとった!」
そして彼が話しかけるのは、
「紅麗さん!」
黒衣を纏いし炎の死神だった。
だがそこへ、
――ブォォオオォォォン!!――
バイクのエンジン音がしてきた。
二人はその方向を見てみると、向こうからはライドベンダーに乗った一人の若者の姿が見えてきた。
「ん?」
若者はライドベンダーを止めて紅麗たちの前に止まった。
「あんたは、確か・・・紅麗さんっすか?」
怪力一族の生き残りが一人、凍空吹雪。
元麗首領・紅麗と遭遇。
次回、仮面ライダーブライ!
資格者とバケモノと再会
カブハチナコンボ
キック力:18トン パンチ力:9トン ジャンプ力:200m 走力:100mを4.8秒
身長:210cm 体重:90kg 固有能力:多重分身 属性:雷
必殺技:カブハチナスタッブ カラー:緑色
カブトヘッド
複眼の色は橙。カブトホーンによって強烈な頭突きが可能にある上、雷撃を行うこともできる。カブハチナコンボでは全分身体の制御を担う。
ハチアーム
前腕部に毒蜂を模した虫刀『釘』によってパンチに刺突力の追加をする上に、毒針自体の発射も可能である。
イナゴレッグ
ジャンプ力に特化していて、両足全体にギザギザとした刺が生えている。
我刀流
800年前より始まり、鋼家に代々伝わる流派。開祖の名前は鋼一刀。
「我欲」「我流」といった二重の意味が込められており、その名の通りに我欲のままに戦い、対峙した相手の技を盗み学んでは自分の技としてきた流派。そんな矜持故に我刀流独自の奥義を編み出したのも十代目当主だけである。
刃介はその二十代目当主であり、「技を盗む」という行為に必要なスキルが一族の中でも最も大きく成長し、七実の見稽古と同等の観察眼を得ている。
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