仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事!


一つ!火影一同とブライ達は、封印の地より脱出!

二つ!シルフィードの口より、グリード誕生秘話が語られる!

そして三つ!烈火は遂に八竜の長・裂神と会いま見えることになる!

敵陣と育成と裂神


連れ去られた柳。
彼女は今、とある薄暗い一室の寝具の上で眼を覚ました。

「・・・・・・・・・」

そっと目を開いていき、

「!」

ガバっと体を起こした。

「・・・目覚めたか・・・治癒の少女・・・」

そこへ聞こえてくるのは底冷えしたかのような声。
柳は焦点の合わないほど動揺したじょうたいで、その姿をみた。

「今日は誕生日だ・・・貴様と私が交わり・・・生まれる・・・神となる私が生まれる」

その者の名は、

「ようこそ。佐古下柳よ」

森光蘭(天堂地獄)

「いやぁあぁあ!!いやあああああああああ!!」

柳はそのおぞましい姿に対して盛大に泣き叫んだ。

「泣け!!喚け!!誰もここには来ない!!」

森は悪鬼としかいいようのない声音と表情で柳を恐怖させ、身動きを封じる。

「ふはははははははは!!」

高笑いをし、森は柳の体に触れ、その身を喰らい尽くそうとしたとき、

――カァァ!!――

突如、柳の体から神々しい光が溢れ、森を退けた。

「おおおおおおおおあがああああああ!!!」

森は光を浴びると、体中に激痛を感じて床に倒れ伏す。

「体が・・・溶ける!?なんだ!?どういうことだ海魔!?」
(この女子の治癒の力とはすなわち”陽”の力。”陰”の力の我等が普通の女子のように喰らうのは無理というもの・・・・・・焦るでないぞ宿主・・・・・・!)

海魔は己の知識を引き出し、冷静に森に論じる。

(方法ならある!もう暫く待つのじゃ・・・!)
「ぬがあああああああ!!!」

森は海魔の説明をきくとうんざりしたかのように叫んだ。

「よいな、治癒の少女!貴様は既に私のものだ!!喰ってやる!喰らってやる!!私と一つになるのだ!!」

そう言いながら、森は乱暴に扉を開け、そして閉めていった。

「・・・・・・う・・・うっ・・・ふっ・・・」

柳は毛布に包まって泣いていた。

「烈火くん・・・・・・烈火くん・・・・・・烈火くん・・・」

ただひたすらに想い人の名を呼ぶ柳。
しかし次の瞬間、彼女のなかで信じ難い出来事が起こった。

「!?」

烈火に関する記憶が薄れ・・・・・・いや、違う。

(どうして・・・・・・?烈火くんのことが・・・・・・思い出せないことが・・・・・・どうして・・・?)





*****

地平線など見えないほどに存在する砂の山。
砂しかない砂漠の世界。しかし空は夜のように暗い。
これこそが花菱烈火の精神世界。彼の”心象風景”であり、火竜たちの住処でもある。

烈火はかつて虚空の手でこの場所に訪れ、火竜達と今一度戦って火竜の力の有難味を再確認したことがある。

「・・・さて!そんで?裂神のタコはどこじゃい!おーい、出て来いてめぇ!!」
「・・・・・・相も変わらずの礼儀知らずの怖いもの知らずめが。聞いちゃってるかもしれんからダマッとれ!」

烈火の物言いに虚空はイラつきながら制した。
その瞬間、

「!」

何かの気配を察して後ろを振り向くと、そこには五人の男女が居た。

両目の下に斑点方の模様がある美形の青年の正体は、砕羽。
烈火と同年代くらいで長い黒髪を纏め上げた美少女の正体は、崩。
大柄で太っちょな体型をした男の正体は、円。
スキンヘッドで上半身裸の男の正体は、焔群。
着流し一枚だけの妖艶な美女の正体は、塁。
刹那はいないのか?と思う人がいるだろうが、刹那は火竜の中でも特に気性が荒くて残忍獰猛。宿主たる烈火の命を散らそうとしたこともあったので、この場には来させていない。

「おう、おめーら!」

烈火は思わぬ再会に感激した。

「実際・・・大した男と思うぞ、烈火!ついに・・・ついに裂神が会談の席をもうけた」
「力になるとも限らん・・・だが、彼とて今までのお主をその眼で見てきたのは事実!」
「天堂地獄を破壊するには心強い力となるはず。行くのです、烈火」

崩、砕羽、塁はそういうと、ある場所を指差す。

「裂神はあそこで、貴方を待っています」

それは、この砂漠の風景には馴染まないようで馴染んでいる屋敷だった。





*****

ここは森の本室。
そこにあるキングサイズも真っ青な大きさのベッドに、森と煉華が腰かけていた。
そして部屋の壁にはリュウギョクが背を預けていた。

「・・・・・・お前はいい子だな、煉華。これから・・・私が数多の女どもを喰い尽くしていこうとする中で、お前だけ喰わずにおく理由がわかるか?」
「ううん」

煉華は素直に答えた。

「お前が私にとって必要だからだよ、わかるか?」
「うん」
「何も考えず・・・ただ私の力となれ、煉華」

(ふん、こういうのを、エゴイズム・・・というのであったな)

リュウギョクは、純白な煉華の心、何も知らない心に深く何かをじっくりと刻み込んでいる森に嫌悪していた。とはいうものの、そういう人間こそがリュウギョク達グリードには必要なんだが。

「リュウギョク君」
「・・・・・・なんだ?」
「煉華と一緒に部屋に行っていてくれ」
「あぁ」

とりあえず森の言う事には従うことにした。

――ギィィ――

なんだか嫌な音を立てながら開くドア。
リュウギョクは煉華をつれて廊下を歩いていく。

しかし、そんなときに廊下でバッタリ出会ったのは、

「葵か」
「リュウギョクさん」
「あ!葵ちゃん!」
「・・・・・・」

リュウギョクの言葉には応じるも、煉華の言葉には無反応な葵。

「元気ー?」
「近づくな」

葵は自分に歩み寄ろうとする煉華に冷たく言い放った。

「はぁぁ・・・大変ですよね、リュウギョクさんも。こんなお子様のお守させられるだなんて」
「コアの為なら安いものだ」

リュウギョクはドライに言い切る。

「葵ちゃん、煉華は子供じゃないよ!大人だよ!」
「図体だけはそうだけど、頭の中はお子様でしょ?」
「むぅ〜〜」

頬を膨らませる煉華。
やっぱり子供っぽいとしか言いようがない。

「ところでリュウギョクさん。煉華と一緒にどちらへ?」
「雇い主のところでちょっとした会議」

リュウギョクは面倒そうに答えた。

「ねー、聞いてよ葵ちゃん!私ね、パパに褒められたんだよ。”お前はいい子だな”って!」

煉華がいきなり会話に割り込んだ。

「パパは私が必要なんだって!悪い事を考えないお前が必「煉華、その辺にしろ」・・・え?」

空気を余りにもよめていない煉華の言葉を遮るリュウギョク。

「ホント、その辺で自慢話を止めて欲しいんだよね、成功作さん」

葵は口と目を三日月のようにして不気味に笑い、煉華がコクコクと頷くと、機嫌を悪くしてある部屋に向かって行った。

「ねぇ?私なんか拙いこと言ったかな?」

――ズドッ!――

言葉の代わりに拳骨がおちた。

「いった〜〜い!」
「煉華、少しは空気を読め」

リュウギョクは呆れ果て、片手を顔に当てる。

「お前と一緒にいると実に疲れるな」

リュウギョクが何故煉華を叱ったのか、それは葵もまたクローンだからだ。
正確に言うと紅麗と紅の遺伝子情報で生み出されたクローン。煉華と同じ出自なのだ。

しかし、炎術師の才覚を得た煉華に比べると、葵の扱いは・・・・・・。

――葵には炎の資質がありません――
――そのうえ・・・人間としてあまりに欠落部分が多く危険といえます――
――失敗作か・・・――

他のクローンたちはマトモな容姿も知性も出来上がらなかった。
人間としての体裁を保ったのは、

炎術師であり戦闘能力には特化しているが、幼稚で単調な行動しかできないうえに、誰かに縋らなければどうしようもない煉華。
残忍で狡猾だが、その分紅麗ゆずりの高い知能を備え、作戦行動には向いている。しかし、少々精神面では不安定な葵。

この二人だけだ。

(ボクは煉華(あいつ)に劣ってなんかいない!何故それを認めてくれない!?)

周囲の自分に対する評価。ある意味葵を捻じ曲げた要因の一つといえよう。

(柳ちゃんをちゃんと攫って来たボクを・・・森様は一言も褒めてくれなかった・・・・・・)

その時、葵はふと思った。

(・・・柳ちゃん・・・)





*****

柳は現在、ベッドの上に腰かけていた。
森の一件で恐怖していた表情もどうにかこうにか安定し、表面上では平静そのものだ。
服装も施設の人間から支給された、生地の薄い簡素な白いワンピースに着替えている。

――ガコン・・・――

「!あ・・・あ・・・」

しかし扉が開きそうになると、恐ろしい森の記憶が蘇って恐怖の顔となる。

――ギィィ・・・――

扉が開くと、そこにいたのは葵。
柳は涙混じりにとぼけた表情になると、

「よかったーー♪」
「?」

などといって、葵に疑問を抱かせた。

「ああ〜〜、安心したら泣けてきちゃった!ちょっと待ってね、神楽さん!」
「う、うん・・・(汗)」

柳の予想外の言葉に戸惑う葵。

「柳ちゃん・・・・・・怒ってないの?ボクは敵で、君をここに連れてきたんだよ?」
「んーーーっ・・・確かにそんなこともあったけど・・・思いっきり憎めない。友達だから」

「ッッ!!?」

それを聞いた瞬間、葵は一瞬停止した。

「同じ学校にいって・・・同じ制服を着て・・・お話いっぱいして、一緒に遊んだ友達!」
「柳ちゃん・・・・・・君・・・こんな状況で・・・・・・まだ友達なんて言ってるの・・・!?」

実に爽快な笑顔でいる柳の言葉に、葵は現実味さえも味わえなかった。

「うん。神楽さんは学校で、すごく生き生きしてたよ。皆とも楽しそうに接してた。自分が烈火くん達の敵だってことは誤魔化してたけど、あの時間を楽しく過ごしてた神楽さんは嘘じゃない!」
「・・・・・・・・・」

凛とした確かな言葉、確固たる意志。

(・・・・・・いつからだ・・・こんなことを考え始めたのは。他人が羨ましい、周りが妬ましい・・・と)

葵は呆気とられた表情から、薄らと自嘲気味に笑った。

「また来るよ、柳ちゃん。じゃあね・・・(ボクには足りないものが一杯あるってボクを造った博士たちが言っていた。足りないから・・・欲しがってる・・・?)」

葵は部屋を出て行き、扉を閉める。

(ずーーーっとボクが持ってないモノを持ってる奴が羨ましくて憎らしくて・・・・・・それを少しでも埋めようとしたいって考えて・・・出来ずに絶望してみたり・・・・・・いつも嫉妬感に塗れてスキマを感じてた)

しかしそこで、

――友達だから――

思い出す言葉。

(でも、なんだろう・・・この感じ・・・・・・?)

きっとそれは、人間なら誰しもが持ち、葵が失敗作ではないと後々胸を張って言える感情だった。





*****

煉華の部屋。

「ぐす、ふん・・・ぐす・・・ぐす・・・」
「あーよしよし」

幼児向けの遊具が散乱するこの部屋で、煉華は泣きじゃくり、それをリュウギョクが慰めていた。

「ひどいよね!ひどいよね、リュウギョクさん!葵ちゃん私のこと嫌いなんだよ!だからあんな言い方するんだ!」
「いや、あの場合ではお前にも非があると思うぞ」
「でもでも、だからって・・・・・・」

しょんぼりする煉華。

(あぁぁ、全国のお父さんお母さん。私は今あなた方の苦労を身をもって知りました・・・・・)

リュウギョクは中々機嫌をなおしてくれない煉華の世話をやいているうちに、なんだか内なる世界に逃避し始めた。

「あ、そうだ!」
「ん・・・?」

何時の間にか気分を変えていた煉華が部屋の隅にあるタンスの引き出しからある物を取り出してきた。

「これ私が作ったんだ!リュウギョクさんにプレゼント!」
「私にか?」

子供の喜怒哀楽は移ろいやすいなと思いながら、リュウギョクは煉華が差し出した物に手を伸ばした。

それは不恰好なマフラーだった。
煉華は自分で作ったと言ったが手編みというわけではなさそうだ。
単に五色の異なる長い布を刺繍して作っただけだの簡素なマフラー。

色はリュウギョクが司る五系統のコアのそれに準じたもので、色と色の境目には煉華が施したと思われる未熟な刺繍糸が出鱈目に這っている。お世辞にも上手とは言いがたい、素人丸出しの代物だった。

「ねぇねぇ!」
「・・・・・・・・・」

少し苦い表情をしかけたが、期待に満ち溢れた煉華の純粋無垢な瞳には逆らえず、渋々マフラーを首に巻いてみる。まあ煉華の意志を無碍にしてまたグズられては困るというのもあったが。

「わー!似合う似合うぅぅ!!」
「そう、か・・・?」

パチパチと手を叩いて褒める煉華。
それに対して少し戸惑うリュウギョク。
マフラーは使いようによっては覆面代わりになるので、真庭人軍の自分がこれを身に付けることに対して抵抗があるのやもしれない。

(・・・まあ、悪くはないか・・・)

リュウギュクはそれから、基本的にその五色のマフラーを常に首に巻いておくようになった。





*****

トライブ財閥。
その本社ビルのとある一室に、幾人もの社員が呼びだされていた。

「あのダークさん。我々をここに呼びつけたのは何故なんですか?」
「なんの連絡もなしに呼び出されるなんて初めてなんですが」

社員らは部屋の中に入ってきたバットに聞いた。

「実は今から三日後。貴方方に昇格の機会となる試験をしようかと思っています」
「「「「「えッ!?」」」」」

社員らは驚く。
いきなり財閥の重臣中の重臣に呼ばれたかと思えば、それは出世話だったのだから。

「み、三日後ですか!?」
「そうです。貴方方は絶え間ぬ努力を惜しまないストイックな人材だと聞いています。故に三日間でどれだけの努力を行い、どれだけの成果を上げられるかを見せていただきます」
「それで、試験に合格した際はどのように?」

バットの説明に社員が質問した。

「合格すれば勿論成果に合わせて階級を上げて給料も以前よりアップさせます。不合格だったら別になにかのデメリットがあるわけじゃありません。今まで通り頑張っていけば一歩ずつ上に行けます」

バットの説明が終わり、彼女が部屋を出ると、残された社員らは。

(((((やるしかない!!)))))

やるき満々だった。
しかしそんな二人をドア越しに見るものが居た。

――ジャリィィィィン!――

するとドアの隙間から大量のメダルが入り込み、二人の背後で一体の異形に結合した。
そう、七実だ。
先ほどの昇格試験の話も、七実がヤミー=セル量産の為に作ってもらった機会だったのだ。

「「「「「うわぁぁぁああ!!」」」」」

怯える社員らに、七実は幾枚ものセルメダルを持って

『貴方の欲望(ねがい)、叶えましょう』

――チャリーン!――

セルメダルを同時に社員たちの頭部に発生した投入口に投げ入れた。

『『『『『うぅぅぅ・・・・・・!』』』』』
「「「「「ひぃぃ・・・・・・!!」」」」」

すると白ヤミーが生れ落ちた。

『『『『『うぁぁぁ・・・・・・』』』』』

そして白ヤミーは親となった社員たちに掴みかかり、妙な音を立てながら同化していく。
寄生ではなく、同化していく。

「「「「「あ・・・あ・・・」」」」」

社員たちは一斉に気絶していく。
七実は再び姿をメダルに変えて部屋から出ると、また一つに結合して人間態となる。

「首尾はどうでしたか?」
「えぇ、上々ですね」

部屋の外で待機していたバットは七実に声をかけ、七実は答えた。

「私のヤミーはメダルを投入された瞬間に生れ落ち、親となる人間と一時的に完全同化して、苗床の欲望を強めます。しかし理性を失うわけじゃないし、寧ろ欲望を叶えるべく、努力しようとする想念が何時も以上に膨れ上がる上にヤミーと同化したこともあって、隠された潜在能力が全解放される」

七実は語り始めた。自らのヤミーについて。

「欲望を叶えようと努力する間にもセルが貯まりますし、その努力が実を結んだ時に発生する充足感や満足感によって一気に大量のセルメダルが生産され、ヤミーは成長体の状態で出現する。ヤミーが出てきたら、親の能力値は元通りになりますけど、使う人間を間違えなければ一番安全な方法だと我ながら自負しております」

七実はそう言いきった。

「あんなミイラの一件のあとで、本当に努力しようとするのでしょうか?」
「心配御無用です。ヤミーが誕生して同化する際の記憶は自動的に消去されますので」

なんとも都合の良い育成方法だ。

「・・・・・・次は経理課です。その次は総務課になります」
「相わかりました」

ちなみにさっきの社員たちは営業部。
こうして着々と七実とトライブ財閥のセルメダル大量生産は進行していくのであった。





*****

精神世界の和風屋敷の前。
烈火は心構えをするかのように、屋敷の前に立っていた。

屋敷の門を開けていく。

(この中に・・・・・・この中に、裂神がいる!)

気合たっぷりで臨み、玄関先に入る。
そこには胡坐をかいて座る人影がある。

「よくぞ参った!火影忍軍七代目頭首、花菱烈火!」

黒い忍び装束を着込んではいるが、体型は三頭身で幼児レベルの身長で、ギャグマンガみたいに丸い顔をした人物だった。

(なんてこった!こいつが・・・こいつが裂神の人間の姿!!意外だ!!)

先に言っておくが、これが裂神の本性ではないので、あしからず。

「おい裂神!話ってのは一体・・・・・・ん!?」

完全に目の前の三頭身を裂神と勘違いしている烈火。
三頭身は火の灯った蝋燭を手にこういった。

「今更ではあるが・・・ここで主を試させてもらおうか。この館の奥に会談の席がある。そこまで案内するので追って来てもらう。ただし、この蝋燭が燃え尽きても辿りつけぬ場合・・・主と話をする視覚は無しということにしよう」

と言ってきた。

「ゆくぞ」
「おいまて!追うってなにを・・・・・・」

聞いてる間に、三頭身は部屋から消えていた。

「にゃろ!!」

烈火はヤケクソぎみに障子をあけて進んでいく。

「ぬ!入り口が二つ!・・・・・・右!」

右の戸を開けて進むと、



「オオオオオオオおおおおおおおおおお!!!!」



竹やりが待ち受ける奈落の罠が。

――ガリガリガリガリ!!――

とっさに炎刃をだして難を逃れた。

「なるほど・・・・・・そーいうことかい!」

烈火は半ば宙吊りの状態で納得した。

「燃えてきた。やってやろうじゃねーか!」

烈火は素早く穴から脱出し、さっきとは違って左の戸を開けて進んだ。
進んだ先には穏やかな茶室があった。
一応戸はあるのだが・・・・

(・・・・・・罠だな。・・・入り口は・・・)

一瞬で罠を見破り、手に持った苦無で茶室にある掛け軸の紐を投げ切った。

「む!やるな!」

するとそこには三頭身と隠し通路が現れる。

「またんかコラぁぁああ!!」

烈火は猛火の如く三頭身を追った。
すると三頭身は廊下の途中で不自然なジャンプをした。
そしてジャンプせず走りまくる烈火は、三頭身の踏まなかった罠を踏んで、


――サググググッ!!――


床からせり出した刃達の餌食に・・・・・・


――ボォウウ!――


ならなかった。
串刺しの烈火は炎となって消えた。

「なに!?塁の幻炎か!」
「正解」

本物は三頭身のすぐ横。
しかし三頭身は、

――くるっ――

背中をくっつけていた壁に仕込まれた回転式隠し扉で逃げる。

(・・・思ったよりやるのォ!正直驚いたわ!七代目!仲間を守りたい一念がこの者を強くしたのか・・・!はたまた・・・・・・)

三頭身は烈火に追われながら考えた。

(卓越した忍の動き!この確かな才能!火影の血を引きし者・・・頭首としての器量か!)

そして遂に、

「どうした?もう鬼ごっこはお終いか?」

追い詰められた。

(息一つ・・・乱さず!強い!心も力も!・・・蝋燭も・・・半分も溶けておらぬ・・・)

答えは決まった。

「合格じゃ、烈火!あの中にて裂神がまっておる!愉快な一時であったぞ!」

向こう側の障子を指し示し、三頭身は煙に包まれて木の葉一枚となった。
一片の簡素な木の葉に。やはり使い魔の類だったのだろう。

(今度こそ奴が居る・・・来てやったぜ・・・)

烈火は大障子の前に立ち、心に思う者はただ一人。
障子の向こう側にいるもの。



―――裂神(れっしん)!!



その雄々しくも恐ろしい姿は正しく火竜を束ねるに相応しい威厳と風格があった。

(な・・・んて・・・圧迫感だ!)
『久しぶり・・・というべきか・・・・・・よくぞ参ったな、烈火!』

裂神は高らかに烈火を招きいれた。

『褒美に我が人間の姿を見せよう!』

火竜とは、想いを成し遂げられなかった炎術士の魂が、浄化されず炎の化身となる火影の呪い。
そして、この者も・・・またその一人。

白い忍び装束を着こなし、長い黒髪を後ろで纏め上げて無精髭を生やした壮年の男。顔の右半分を縦に走る大きな傷跡。
それが裂神の正体・・・・・・その真なる名は――――

「火影忍軍六代目頭首、桜火(おうか)。お前と紅麗の父親だ」

彼は、桜火は名乗った。息子の前で堂々と。

「・・・そして今はお前の中を塒とする、炎の源として存在する八竜の長。裂神・・・・・・それが今の名だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ん?状況にかなり困惑しているようだな?無理もない・・・が、久方ぶりの親子の対面だ!」

桜火は両手を大きく広げ、

「来い、烈火!この父の胸に飛び込んで来い!」
「・・・・・・・・・」

烈火はもはやなにがなんだが解らぬまま、桜火のもとに歩み寄っていく。
すると、

「戯けぇーーーーっ!!」

なんか意味不明なアッパーカットが飛来した。

「例えどのようなときも心を空にするでない!それは油断じゃ!油断は死に直結する!常に心に己を入れよ!わはははははは!!」

桜火は豪快に笑い飛ばした。

「・・・へへ!なんかあんたオヤジ(茂男)に似てるぜ!緊張も解けちまった!」

烈火は明るく笑った。

「やれやれ、涙の再会とは程遠い親子じゃのぉ・・・」
「あ、ジジィ!!」

虚空登場。

「・・・・・・ついに息子と会う気になったのだな裂神。いや、桜火殿。このような時くらい、父としての顔をしてもかまわんのだぞ?」
「いや、赤子のときより会っていないワシはこやつにとっては他人も同然・・・なんぞてれくさくての!こういうのが楽でよい!」

虚空の笑顔な呼びかけに、桜火は笑顔で答えた。

「それにこいつの馬鹿ぶりは中からずーーっと見とった!情けのーて父の顔もできん!」
「もっぺん言ってみろクソ親父ィィ!!」
(センチメンタルの欠片もない親子よのぉ・・・)


「ところでよぉ・・・・・・親父!・・・俺はいいんだ。今俺にはもう一人親父がいるからさ。今更しんみりとはなんねぇから。でもよ・・・・・・」
「陽炎の事か?」

烈火の考えを桜火は言い当てた。

「なあ、一回くらい会ってやってくれよ!あんた初めて俺から出てきた時、母ちゃん居るの知ってただろ?」
「あぁ」
「じゃあ・・・」
「会えぬ」

桜火はキッパリといった。

「なんで!?」
「ワシは虚空のようにお前の外に軽々しく出れぬ。それに、もうワシは人間ではない・・・・・・」

その声には絶望が混じっていた。

「言ってみれば妖怪・・・・・・化物の類じゃ。このような姿で陽炎に会えると思うか?この手に抱く事すら叶わぬ・・・あいつを苦しませるだけだ。・・・ワシは鋼殿のように、自身が異形となって尚、想い人を抱き寄せる自信が無いのじゃ・・・・・・」

己をあざ笑うかのように桜火は語る。

「寧ろあれの幸せを願うならワシを忘れ、違う男と一緒になってほしいと思う。例えば茂男殿とかな!あれは良い御仁じゃ!」

日本中探してもここまでの心意気をした男は何人いるのだろうか?

「ワシが陽炎にできるのはあいつの呪いを解こうとするお前のシリを叩く事!わかるな烈火?」

さらに一言。

「・・・問題は・・・紅麗だ」

口調が一気に重くなった。
父親として紅麗のしてきたことは・・・・・・流石に褒められたものではない。

「あれも御主の子であったな桜火殿。随分と烈火とは違う道を歩んではおるようじゃが・・・・・・・・・それなりに心配か?」
「当然であろう!!」

殺気を総動員したかのような凄まじい形相をする桜火。
その今にも血涙を出さん勢いの表情に流石の虚空もたじろぐ。

「うっ・・・これは失言!許されよ・・・!」
「・・・いや・・・よい・・・・・・烈火もそうだが、奴には本当に辛い思いをさせた」



話を些かまたぐが、火影忍軍頭首の血筋には代々ある掟がある。
戦国時代や江戸時代における、里や国の頂点が正室の他に側室や妾を娶る事は珍しい事ではない。
実際のところ、烈火は正室たる陽炎から、紅麗は側室たる麗奈から産まれた。

しかし、火影忍軍頭首最大の証たる炎術士の才を受け継ぐのは原則として一人だけとされている。
もし継承者が二人いた場合、生まれたどちらかは火影に災いを齎す”呪いの子”として処断されることとなっていた。

麗奈は烈火が呪いの子だと主張したが、里の大ジジは紅麗の心の中に邪悪な闇があるとして、紅麗のほうが呪いの子と判断し、紅麗は危うく殺されかけた。しかし、陽炎の決死な呼びかけもあってか、紅麗が処断されることはなくなった。

でも、それと引き換えに麗奈と紅麗は次期頭首と次期頭首の実母としての地位を剥奪され、完全に村八分にされてしまい、それがきっかけで真っ白な紅麗の心は歪んでいき、”烈火がいなければ自分も母も苦しまずにすむ”という考えのもと、四歳の頃に赤子だった烈火の頬を小刀で刺したのだ。

その小刀による傷はかなり深く、今尚傷跡となっている為に烈火は絆創膏でそれを隠している。



「・・・確かに紅麗は呪われし炎に取り付かれていたかもしれん。だが邪悪な心などありはしなかった!もしそれが生まれたとすれば、紅麗を呪いの子として扱い続けた火影の民が!救う事ができなかったこの父が!奴を育てた森光蘭が!運命が紅麗を捻じ曲げていったのだ!」

勿論それが理由で紅麗の罪がどうこうなるわけではない。

「境遇で人間はいくらでも変わる・・・ワシもあれをただの悪人とは思っておらん」

虚空はそういった。そう、人は境遇で簡単に変わる。
刃介がその最たる例ではないか。

「初めてお前の前に裂神として現れたとき・・・目の前にはあまりに心の荒んだ紅麗がいた。あの時は父としての戒めのつもりで奴を打った。・・・当然、殺さぬ程度に力を抑えてな」

あの時、とは紅麗の館の際の話だ。

「それにああでもせねば、お前は確実に殺されていた。あの頃はほんっっっとに弱かったからな」
「ぬぐ・・・(い、言い返せねぇ・・・!)」

まったくもってその通りだ。

「・・・・・・だからお前ら兄弟が戦っているのを見るのは実に虚しかった・・・鋼殿の仲介有りとはいえ、もっと素直に歩幅をあわせてくれていたらな」

桜火は寂しそうにいった。

「で、でもよ・・・・・・あいつ俺が何言ってもシカトだしよ・・・・・・」
「親子三人頑固者じゃしな」
「「(ワシ)は違う!!」」
「そっくりではないか」

また一瞬シリアスがコミカルになり、またシリアスに戻る。

「ところで呪われた炎ってなんなんだよ親父!よくそれ聞くけどよ、俺と紅麗の炎のどこが違うんだ?」
「・・・・・・奴の力がどういうものかはお前らもとっくに聞き及んでいるだろうが、あれは死者の魂を炎とする力を持っている」

正しくソレは魔性の炎。

「つまり・・・志なかばに倒れた我等炎術士の魂が火竜となったお前の炎とは違い、奴の炎は死者を無限に自らの炎として造っていくことができる。炎術士のそれぞれに異なる炎の型・・・紅麗の呪われし炎の型の正体は――――」

それは、尽きる事を知らない不老不死の代名詞であり、炎という点については竜に匹敵するであろう架空の存在。

「不死鳥!!」

次回、仮面ライダーブライ

戦国時代と真庭忍者と託す望み


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