仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事は!
一つ!烈火の実父・桜火より、四百年前における柳の前世たる桜姫とリュウギョクとの想い出が語られる!
二つ!リュウギョクの正体は、真庭忍軍十二頭領総補佐の真庭竜王だった!
そして三つ!桜火は息子の烈火に、生前果たせなかった望みを託した!
SODOMとチェリオとCDデータ
とある山奥の片田舎。
そこに建てられた和風の屋敷。
紅麗はそこに訪れていた。育ての親と再会する為。
屋敷のおごそかな和室に、月乃と紅麗は正座して座布団に座っていた。
「よくご御無事で・・・・・・!心より嬉しく思います、母上」
「あなたこそ、紅麗!元気そうで何よりだわ!」
月乃は優しい表情で返した。
「雷覇さん・・・といったわね。あの人が来てくれなければ今頃どうなっていたか。月乃がとても感謝していたと伝えてちょうだい」
「はい」
紅麗は素直に答えると、
「母上、本日は・・・しばしの別れを言いに参りました」
「・・・・・・・・・やはり行くのですね」
予想はしていたが、やはりいざ言われると虚しくもあり寂しくもあった。
「まだ全てが終わったわけではありません。森光蘭だけは・・・・・・この手で討たねばならない!!」
誰になんと言われようと、それだけは譲れなかった。
「そうね・・・・・・もうあの男を父と呼ぶ鎖は切れたわ。私が奴の妻であることの呪縛が解かれた様に・・・・・・」
「・・・・・・最近同じ夢をよくみます」
紅麗が話題の方向を変えてきた。
「幼き頃の夢・・・・・・火影の里、母の麗奈、そして本当の父たる桜火の夢です」
かつて紅麗は呪いの児として子供からも大人からも疎んじられた。
桜火はそれを黙って見ていたわけではないが、頭首ということもあって麗奈と紅麗を連れて抜け忍となることもできない身の上に心から紅麗に詫びた。
麗奈も村八分にされたせいでマトモな衛生的生活もおくれずに病にかかりがちになり、紅麗はそれを看病する日々が続いた。
しかし麗奈は病に蝕まれながらも、烈火と陽炎の陰口を叩こうとも、彼女は紅麗にこういったのだ。
――紅麗、父を・・・・・・桜火様を恨むでない。あの御方は火影の頭首として生きねばならぬ御方なのじゃ・・・・・・――
それを語るときの顔は、実に儚げで美しかった。
元から顔立ちは良かった麗奈だが、愛する夫と息子を想うその気持ちだけは、一切の穢れもない美しさがあった。
――父としてあの御方は、烈火は勿論・・・・・・お前にも愛情をもっておることを忘れるでない・・・・・・――
「・・・良いお母様だったのですね」
「はい」
紅麗は即答した。
「そして貴女も、私にとって良き母でありました」
「嬉しいわ。・・・・・・本当のお父様のことはどう思っているの?」
月乃が聞くと、紅麗は軽く下げていた頭を上げて、仮面の無い綺麗な素顔で胸を張ってこういった。
「尊敬しております。父は火影の為に生き、火影の為に死んだ」
今の顔・・・・・・火影としての純粋な誇りに満ちた綺麗な顔こそ、紅麗の本当の姿。
「・・・それでは失礼致します。母上もお体にはお気をつけくださるように」
――トン――
席を立って外にでようとする紅麗の背に、月乃が抱きついてきた。
「たとえ・・・血の繋がりがなかろうと・・・生まれた時代が違おうと・・・貴方は私の息子でした・・・!!元気でね・・・・・・紅麗・・・!」
涙を大粒でもたりないほど流し、別れの言葉を告げる月乃。
彼女自身わかっているのだ。これがきっと、今生の別れになってしまうことに。
「行ってまいります、母上」
紅麗はまた、愛する者を置いて死地へ赴く。
(そう、これが私の答えなのだ)
かつて刃介に問われた紅麗は、既に答えを出していた。
(私は戦う。ただ・・・守る為に・・・!たとえ傍らに居られなくとも・・・!!)
孤独な仮面の死神、紅麗。
再びその暖かき素顔を隠し、冷血なる仮面を被る。
*****
トライブ財閥の会長室。
そこに刃介と七実はいた。
「ご苦労様。お陰様で助かったわ」
「・・・あぁ・・・」
シルフィードのお礼に対し、妙に低いテンションな刃介。
「・・・・・・ごめんなさいね。私たちの失敗が原因して、貴方には迷惑かけちゃって」
「気に病むな。あの暗黒騎士王のことも、尾張城で殺した連中のことも、お前が謝ることではない。それに、報酬はキチンと貰った事だしな。それにコンボの多用で体内に宿るコアも六枚にまで増えた。コイツらを含めれば九枚だがな」
刃介の手には金色のコアメダルが三枚握られていた。
「そう、ありがとう。・・・それに七実ちゃんにも感謝するわ。セルメダル五千枚はありがたく受け取るわ」
「どういたしまして」
七実は軽く頭を下げて礼儀を返す。
「指定した物全てを回収してくれたもう一つの報酬として、森の潜伏先を教えるわ。多分火影メンバーも向ってる筈よ」
「すぐ教えろ。早急に出発する」
「まった。その前に一つ、こっちからの要求を一つ言うわ」
「お前言ってる事矛盾してないか?」
「気にしないの!別に大層なことじゃないわ」
と、シルフィードは言った。
「では一体どんな要求なのでしょうか?」
七実は問いかけると、この後シルフィードはとんでもないことを言い出した。
「はぁぁ!?お前らも森の要塞にいくだと!?」
「そうよ。正確には私とバットと吹雪君。それからあと一人」
「ん?誰だよそれ?」
「それは目的地までのお楽しみ♪」
シルフィードは指先を唇に乗せて妖艶に笑って見せた。
「私たちは色々と準備があるから、貴方達は先に行ってて頂戴。絶対においつくから」
「・・・・・・わかった」
「ではまた御会いしましょう」
そうして刃介と七実は会長室から出て行った。
「いよいよ我々も本格的に出陣ですか」
「腕がなるっすね〜!」
そこへ入れ替わるようにバットと吹雪が登場してきた。
「どう二人共?新しい武器の具合は?」
「問題ありません」
「俺っちはちょっと小細工ありきっすけど、どうにかなりますぜ」
「そう・・・それは良かった」
シルフィードは静かに口を開く。
「Wとイーヴィル・・・このダブルライダーの先にあるオーズとブライ。・・・そのブライが円滑に行動できるよう、私たちも頑張るとしましょう」
「そうですね。コア&クラスト戦の時のように、黙って眺めるだけというのはもう飽きました」
「体ってのは思い切り動かさないといけないっすよ」
吹雪とバットは賛同の言葉をだした。
「えぇ、そうね」
そしてシルフィードは、その返事に大変満足したように、安からかな微笑みを浮かべた。
*****
その頃、柳はというと・・・・・・。
竜王の歌声を自室で聞かせて貰っていた。
竜王の声は実に綺麗で、歌声を邪魔させる気さえ消失させるものがあった
そして歌は山場に突入。
そして終局。
和風なこの歌に相応しい締めを見せりと、聞かせてもらっている観客二人は同時に大きく拍手する。
――パチパチパチパチ!!――
「すっごぉぉい!素敵で綺麗な歌声!」
「本当にそうだね」
観客は柳と葵の二人だけだ。
「それはどうも」
簡単な返事を返し、竜王は座る。
「化物だの言っても、やっぱりリュウギョクさんはこんなに綺麗な歌ができるんだから、不必要な存在なんて誰一人いないんだよ。それを奪う権利もね」
柳は嬉しそうに言った。
「私はリュウギョクさんに比べて、16年しか生きて無いから偉そうには言えないけど、誰かが死ぬと・・・きっと誰かが悲しむんだよね。親だったり、子供だったり・・・友達・・・恋人とかね」
柳は表情をめまぐるしく変えていく。
「自分よりも大切な命だってある。自分が犠牲になっても守りたいくらい、重い事だってあるんだよ」
柳の言葉に葵は納得した。
何故柳を強制的に拉致するのではなく、火影の死を流せ、などという幻覚を見せて誘導的に拉致するように命令が下されたかを。
精神操作。
葵の魔導具は左腕にしてある三つの核からなる”神慮思考”。
他者の思考や記憶をある程度操作することができる魔導具。
ただし、その記憶を術者も知っていなければならないし、操作許容に限界値が存在する上、距離的な能力範囲限定・・・・・といった弱点が存在している。
学校に潜入した際に火影メンバーが神楽葵に警戒しなかったのは、一重にこの魔導具の力といっていい。もっともその効果は火影メンバーには効力がとっくに切れているだろう。
距離的に離れたせいでもあるが、もう一つにして最大の要因は、柳一人に神慮思考の力を集中させることで、彼女の思考を根本から捻じ曲げていく為でもある。
結果として柳からはある人物に関する記憶が消去されようとしている。
「そのような考え故に、お前は葵に付いてきたというわけか。自分がどうなるか、ある程度は覚悟した上で。しかしそれだと、火影の連中の命は守れても心は傷つけてしまう」
「・・・・・・そうだよね。私、言ってること矛盾してるね・・・・・・」
竜王の言葉にうつむく柳。
本来こんな言葉をかけるのは葵の役だが、今日に限っては竜王がしていた。
二人は「またね」と言って外にでた。
(不思議だ、わからない、人間ってなんだ?)
葵は困惑していた。
(少し前まではこんなこと考えたこともなかった・・・・・・ボクが普通の人間じゃないから?欠落した部分があるから?)
葵のこの疑問は少々お門違いだ。
(・・・そうか・・・・・・ボクがよくここに来る理由、柳ちゃんと話していると今まで考えられなかった事が植えつけられていく感覚を覚えるんだ。欲しかったものが・・・足りなかったものが埋められていく心地よさ・・・・・・けど、逆にボクは彼女から奪っている)
その奪いつつあるもの、それは・・・!
(少しずつ消えている彼女の中の、花菱烈火の記憶・・・・・・!!)
*****
今更ながら紹介しよう。
ここは、あらゆる者の侵入を許すこと無き山岳地帯の奥深く。
C-COM財団の中心部。
忍者集団”裏麗”を統括する森光蘭の最期の砦。
要塞都市
通称―――SODOM。
そのD-2地区のバイオノイドドーム内部。
「・・・キリト、今日はまた随分違うイメージ」
「んー・・・まぁね」
奇妙な民族衣装に奇妙な仮面をした男は、小学低学年あたりの少女に声をかけた。
「しかし・・・よく見るこれ!この化物たち、すごい数!!」
二人の目の前には数多くのカプセルが設置されており、その中身はというと
「光蘭の遺伝子組み込まれた人間!もう人間じゃない、怪物!どうしてこんなものつくる理由ある?どうして思う?」
巨漢は幼稚な喋り方で語る。
「イヒャヒャヒャ!!光蘭、この世界の生態系変える、言ってた!光蘭を中心にする世界に造り変える、言ってた!」
狂ったように狂った事を眺め続ける。
「すごい!笑わないかキリト?まるで子供の考え!まるで映画!絵に描いたような悪者!!イヒャヒャ!!恐竜滅んで人間、この世界の中心になった!これからは光蘭が人間に代わり、頂点に立つと夢みたいなこと言ってる!クレイジー!!イカれてる!!」
「あのね、あまり自分の主人を笑っちゃダメだよ門都ぅ。だいだいどーして君はここにいるのさ?」
「面白いからに決まってる!俺もクレイジー!!」
*****
一方その頃、柳は場所を移されていた。
そこには以前の部屋のような豪華さなど一欠けらもなく、ただただ不気味な薄暗さしかない。
あるものと言えば、柳自身の自由を束縛している樹木くらいだった。
「「・・・・・・・・・」」
柳の手足と自由を縛りつけるその部屋に、竜王と葵はきていた。
「精神衰弱レベルCまで達した。これからは食事も睡眠もとらせないらしい」
「融合の時は刻々と・・・か。天堂地獄も繭状態といったところか」
そしてもう一人は、蛭湖。
「佐古下柳の治癒の力と森光蘭の天堂地獄は全く持って対極に位置している。陽と陰、水と油が一つとなるには下準備が居る」
「その為に彼女の”生きる力”と精神力を極限まで削り取る!そして森様は繭状態の幼体から成体に生まれ変わる。それによって治癒の力を受け入れる受け皿をつくるのだ」
竜王と蛭湖が話していると、さっきから黙っていた葵が口をひらいてこういった。
「融合・・・ってさ、やっぱり・・・このこ・・・死んじゃうってことだよね?」
「・・・・・・恐らくな。可哀想だが、これも命令。仕方がないか・・・・・・そういえばお前は・・・彼女の精神力を衰弱させる為、彼女の最も大切な記憶を奪いつつあったな」
葵の素朴な疑問に蛭湖が冷静に受け答えする。
「・・・・・・命令だったから・・・でも・・・なんだろう・・・変な気持ちだ。気分が悪いような、苦しい気分・・・」
「・・・・・・驚いた。葵の口からそんな言葉がでるとはな」
蛭湖は些か瞳を動かした。驚いた、とはいうものの表情にはまったく出ていないが。
すると突然、
――エリア内に侵入者を確認!!迎撃態勢に備えよ!!繰り返す!侵入者を確認!!――
「遂に嗅ぎ付けて来たか。新生火影・・・ブライ・・・!」
竜王は期待するような表情と声音で言葉を紡いだ。
こんな要塞都市に挑んでくる理由がある侵入者など、彼らを良く知る者なら一瞬で判断できただろう。
警報とアナウンスが鳴る前よりも、竜王を初めとする多くの裏麗がこの状況を予測していただろう。
*****
SODOMの周囲にある樹海。
それを越えた先にある断崖絶壁の崖の上に、彼らは居た。
言わずもがなだが、火影忍軍の烈火・風子・土門・水鏡・小金井・陽炎の六人と、
シェードフォーゼに乗った刃介と七実だ。
「イェーイ!!発見!!」
風子がノリノリな様子で声を上げる。
「この中に柳が・・・!」
「よーし!」
土門が気合を入れて入れると、
「あのー・・・それなーに?」
導火線に火がついた玉でお手玉する烈火。
「宣戦布告じゃああぁぁ!!行くぞぉぉお!!」
気合MAXで玉を思い切り空中に放り投げる。
――ッパァァァァン!!――
夜空に美しい花火が咲いた。
「たーまやー!!」
烈火は満足げな表情でそう言った。
「あら、随分粋なことするじゃない」
と、女の声がした。
「遅かったな、シルフィード」
「だから言ったでしょ、準備してくるって」
しかしその声に対し、刃介は冷静だった。
そうして、姿を見せた三人の男女。
「あ、バット!」
「また会いましたね、霧沢風子」
その内のバットは何気ない口調で風子に軽く会釈する。
しかし、この場におけるバットの服装は以前と大きく違っていた。
簡単に言うと、胸元が大きく開いたコンバットスーツを着用していたのだ。
そして敢て開かれていた胸元の中央には、
「悪刀『鐚』」
七実はバットの胸に挿し込まれている物の名を口にする。
四季崎記紀が鍛え上げし完成形変体刀十二本が一本、悪刀『鐚』。
かつては七実も胸元の奥深くに挿し込んで使用し、生命力を無理矢理活性化させていた最も凶悪な変体刀。
「それにそっちは、賊刀『鎧』に双刀『鎚』・・・・・・凍空か。お前も伊賀忍法筋肉騙しが使えたのか?」
「ははっ!その通りっすよ。一目で見破るとは流石っすね」
全長は2mを優に越えた上に全身銀色の露出度零の西洋甲冑と海洋生物を模したであろう甲冑姿で、上下の区別が曖昧な分厚くて無骨で何物よりも重い石刀を持っているのは凍空吹雪。
しかし、規格外なまでに巨大なサイズをしている賊刀を着こなすには2m余りモノ身長が要る。185cmの吹雪では些か無理ではないかと思われたが、刃介は大方シルフィードの魔術かなにかで身長に細工したのだろうと自己解釈した。流石に吹雪が伊賀忍法を使うなど考えにくいから。
「俺が盗って来た物を早速運用してくるとはな」
「こうでもしなければ裏麗の連中とは渡り合えないわ」
と言って来たのは何故か礼服姿のシルフィード。とてもこれから戦いに行くようには見えないが、もしかしたら彼女なりの何かがあるのやもしれない。
しかし刃介にとって着目すべき点はそこではなかった。
「お前なんかさ、胸がコンパクトになってないか?」
そう、バストサイズ100を誇るシルフィードの爆乳が目立たなくなっていたのだ。
「あぁこれ?流石に戦闘場面じゃ邪魔になるから、晒し布をキツく巻いてね」
とシルフィードは説明した。
「あの、もしかしてこの方達は・・・?」
「一応助っ人ってことになるな」
「一応って酷くないかしら?」
陽炎の疑問に粗雑に答える刃介に対し、シルフィードは少々不服な様子。
「あの、ところでさ・・・・・・」
そこで小金井が心配するように尋ねる。
「大丈夫なのかな?胸に刺さってるソレ・・・・・・?」
バットの胸元に刺さり、血管を浮かび上がらせている悪刀を指差す。
「問題ありませんよ。用事が終わったら然るべき処置をして抜きます」
バット本人はいたって冷静に受け答えをする。
「ちなみに、俺っちのことも心配無用っすよ。一見重そうで暑そうに見えても、実は「誰もお前の意見は聞いてねぇんだけど」・・・・・・そうっすか」
刃介にバッサリと言い切られ、『鎧』の中で吹雪はしょんぼりとした表情になっていたが、見えない為に誰からも労わられなかった。
「ところで、あと一人は?」
「それならもう直ぐ来るから大丈夫。早く行きましょう」
その言葉を聞き、烈火はハッとなった。
そして気合を入れなおし、こう言った。
「・・・・・・よし!」
眼を少し閉じ、心を落ち着ける。
「行くぜ!!火影!!」
快進撃が始まった。
*****
SODOMの入り口・・・・・・とさえ言えない場所、第一防衛ラインといったところか。
故にここを警備する者はあくまで人間だった。
勿論常人相手に彼らが苦戦するわけないのだが。
すると、
――パチパチパチ!――
一人分の拍手が聞こえてきた。
「よォ〜〜こそおいでくださいました!まさかこの要塞都市SODOMまでいらっしゃるとは思いませんでしたよ」
市販の眼鏡に短髪の黒スーツのSP。
「お前・・・」
「森の側近の八神・・・って・・・あれ?」
一つの矛盾が生じた。
「質問。俺様の記憶が確かならあいつ・・・・・・」
「死んだ男だ」
八神のあの時、天堂地獄とかした森によって殺されたはず。
――ガパァァ!――
なんの前触れもなく、八神の口部左半分が裂けた。
しかも筋肉や皮膚を無理矢理引き裂いたかのように血液がドバっとでた。
それと同時に、八神の背後に現れる無数の異形たち。
「死んだんじゃねーんだな。生まれたんだ!理解できまい!?無知で無学な必要なしのゴミ共が!死ぬ事で懺悔しな!!」
「たとえそうであっても、テメェにだけは言われたくないぞ三下眼鏡」
刃介は八神に余裕で言って見せた。
というより、ここにいる八神は恐らく本元の細胞から作り出したクローンである線のほうが強い。もっとも森の遺伝子が多少入ってくることもあって化物じみているが。
「さて、肩慣らしだ。たまには未変身でも戦えるようにしないとな」
「貴様こそ嘗めるな!!」
刃介の余裕満ち溢れる言葉に八神が憤慨し、異形らをけしかける。
刃介が『無花果』の構えで迎え撃とうとすると、
――シャリィィィン――
背後に突然、編み笠を深く被り、手には錫杖をもった四人の男が居た。
男の一人は異形の一体を豪快に殴り飛ばすと、編み笠をとってみせた。
「どうやら、間に合ったようだな」
その正体は、首に大数珠をかけたスキンヘッドの巨漢僧侶。
「久しいな、火影!!それに見新しい顔もいるな」
「空海(くうかい)のおっさん!!」
裏武闘殺陣において烈火たちと第一試合を行ったチーム空の主将である空海だった。
「それに・・・・・・大黒!南尾!藤丸!」
長い棒を武器とした生真面目そうな男、大黒。
体の異常な柔軟さによってトリッキーな動きを得意とする猫目の男、南尾。
眼つきがなんか悪くて如何にも小悪党面な男、藤丸。
そして、
「千鶴!!」
魔導具・式紙によって幾重もの紙鶴を異形らにぶつけて攻撃する中性的な少年、最澄。
「行ってください、皆さん!ここは僕たちが食い止めます!!」
「陽炎殿からカラスを使った書状を頂いてな!おぬし達の力となりに参った!」
「他の”空”の仲間たちも呼んである」
「見たいテレビがあったんだぞ。感謝しろよ」
上から最澄、大黒、南尾、藤丸の台詞だ。
「行け!!あの娘を助けに!!」
「おう!!」
「よく分からんが、感謝するぜ坊さん!」
烈火も刃介も空海らの好意を素直に受け取る。
「逃がすんじゃねーーーっ!!ゴミが増えただけだ!まとめて処理しろ、兄弟たち!!」
八神が怒号まじりに指令を下すと、異形らが烈火たちの進行を阻もうとする。
が、
――斬ッ!!――
その異形は切り裂かれた。
「ゴミねぇ・・・・・・気高く気品ある美しい僕の心はブレイクさ。君、死刑決定」
「ここは任せていくでゴザル!!」
新たな助っ人。
元裏麗所属にして裏武闘殺陣でチーム麗(魔)として出場していた二人。
口に薔薇をくわえたナルシストの月白に、魔導具の偽火を扱う忍者の火車丸。
「月白!火車丸!」
風子が次々と現れる予期せぬ増援たちに感激していると、その隙に異形の一体が、
――ズシャアアァァァン!!――
2m半ばはあるであろう巨体をし、その巨体をゴツい鎧で武装をした男が両腕による万力で潰した。
「行け!!火影!!」
彼の名は餓紗喰。月白や火車丸たちと同じく、裏麗の抜け忍。
チェーンつきのモーニングスターを振り回して異形たちを粉砕していく。
「ありがとっ!じゃあお先に失礼するわ!」
「皆さん、御武運を」
「頼んだっすよ!」
そんな彼らのおもいに、シルフィードたちも素直に受け取り、先へと前進していく。
「くくく・・・・・・あいつらよぉ、ここで殺されてたほうが楽だったと思うぜ。テメーらもな・・・カッコつけて出て来やがって。ムカつくからぶっ殺す」
刃介も火影もシルフィードらも居なくなると、あっと言う間に元気を取り戻す八神。
すると、今度は八神の後ろからは異形は異形でも、
『キシャアアア!!』
『ガァルルルル!!』
『シュシュシュ!!』
ヤミーだった。
正確にいうと、ウツボヤミーとイカヤミーとパンサーヤミーの三体だ。
「な、なんだコイツら!?」
「へへへ・・・!そいつはリュウギョクさんから賜ったヤミーって言う名の家畜さ!さっきまで相手にしていたのとは格が違う!やっちまえ!」
『シュシュシュ!!』
八神が命令を飛ばすと、イカヤミーは口から溶解性のイカ墨を吐き出した。
一同は全員避けたが、地面に落ちたイカ墨は地面を腐食させている。
『キシャアアアア!!』
今度はウツボヤミーが両腕を伸縮自在に伸ばして鞭のように振るう。
バチンバチンという音を立てて、人間の肌に傷を作って行く。
『ガァルルルルル!!』
そしてパンサーヤミーが鋭い爪で彼らの肉に切り傷をつくっていく。
「く、くそ・・・!こいつら、桁が違うぞ・・・!」
「ヒャハハハ!当然だろ?さあ、ゴミクズは消えな!」
八神は心底愉快そうに空海らを侮辱する。
しかし、その減らず口もそれまでだった。
「不閉・・・黙ることを知らない口ですね」
「ん?」
突然聞こえてきた謎の声。
――ビュンビュン!!――
――ザクザクッ!!――
「ひ、ひ・・・ひぎゃあああああ!!」
それと同時に、暗い夜の死角より、二つの刃が蛇のような連結刃となって、八神の体を削った。
「一体誰が?」
周囲を見渡すと、そいつは暗闇からゆっくりと歩み現れた。
「不外」
と、一言呟く謎の戦士。
黒いアーマーに銀色のスーツを着込み、体中にはガチャポンカプセルのようなものが付いていて、頭部にも巨大なカプセル型ヘルメットと額金型のバイザーが青く輝いてはその明かりを落として黒くなっており、その容姿は何処となく忍者を連想させた。
腰には奇妙な金色のバックルのあるベルトをしていて、サイドバックルの左右には二振りの刀剣を収めるホルスターがあった。そして、その両手には先ほどの攻撃で使ったと思われる二本の忍者刀が握られていた――もっともその形状は従来の物とは異なっているが。
――ガチャ!――
――チャリン!――
謎の戦士はバックル中央で上下に開かれたトランサーシールドを閉じると、一枚のセルメダルをバイスロットに投入し、
――キリキリ・・・!――
――パカン!――
銀色のグラップアクセラレーターを二回ほど回してトランサーシールドを開き、内部にあるセルリアクターを解放する。
≪ENTOU・JUU≫
無機質な電子音が響き、胸部装甲のリセプタクルオーブが開いたかと思えば、奇妙な光球が現れ、それはあっと言う間に精密で細々とした機械の部品となり、組み立てられた状態で両手に収まった。
それは、現代人なら誰しもがわかる武器だった。
「二丁の拳銃か?」
「正確に言えば、一対の刀です。歪ながらもね」
餓紗喰の言葉が聞こえたのか、謎の戦士は訂正の意をとなえる。
そして肝心の一対の刀だが、種類的にいうと自動式連発拳銃と回転式連発拳銃。
もしこの場に刃介がいたら、それの名を言い当てただろう。
炎刀『銃』・・・・・・と。
――ガチャ!――
――チャリンチャリン!――
――キリキリ・・・!――
――パカン!――
今度はセルメダルを二枚投入した。
≪CELL BURST≫
「断罪炎刀」
謎の戦士は技名を口にし、セルメダルのエネルギーが充填された『銃』を両手に持ったまま、パンサーヤミーの真正面に移動して炎刀を振るった。
結果、
『ギニャアアアアアアアア!!!』
パンサーヤミーは体中に刀傷を受けて爆発四散し、あたりには何十枚ものセルメダルが散らばった。
謎の戦士はそれを何枚か拾って、
――ガチャ!――
――チャリン!――
――キリキリ・・・!――
――パカン!――
≪TOUTOU・NAMARI≫
同じ手順を踏み、炎刀『銃』の代わりに、左前腕部にある装備を身につけた。
腕の外側にスキマが空いていて、そこからは二十に及ぶ手裏剣や苦無が見え隠れする武装。
その名は投刀『鉛』。
――ガチャ!――
――チャリンチャリン!――
――キリキリ・・・!――
――パカン!――
≪CELL BURST≫
同じ手順で発動するセルバースト。
それによって熱量と光量を帯びていく暗器たち。
「ハッ!」
謎の戦士が叫んで左腕を振るうと、仕込まれていた暗器の類は全てイカヤミーに飛んでいき、その全てが命中した。
『シュ、シシュ・・・ゲソォォ!!』
二度目の爆発と飛び散るセルメダル。
だが謎の戦士は気に求めずに同じ手順を踏んで武装を換装していく。
≪SETTOU・ROU≫
切刀『鏤』。
一言で言えば、右前腕部(アームフレーム)に装備するチェーンソー型アタッチメントだ。
「フッ」
謎の戦士はペースを崩さずにウツボヤミーに近づく。
『き、キシャーーー!!』
ウツボヤミーは危機感を感じ取ったのか、腕を伸ばして攻撃しようとするも、
――ギュイイィィィィン!!――
『鏤』を振り回す謎の戦士によってそれらを切断されて意味を成さない。
そして接近を許してしまい、
「フン」
――ギジュウゥゥゥゥゥ!!――
嫌な音を立てて削られていくセルメダル。
切刀はそのセルメダルを磁石のように引っ付けている。
ウツボヤミーは何とか逃げ出そうとするが、謎の戦士によってアイアンクローをかまされて逃げるに逃げられない。
『キ、ギ・・・ギシャアアアアアアア!!』
断末魔を遺し、ウツボヤミーもまた、爆発してただのセルメダルとなった。
≪ANTOU・KAMA≫
謎の戦士は右腕全体にアタッチメントを装備する。
イメージとしてはバースのクレーンアームの先端部分が、三つの鎌の刃によって龍の爪っぽく見えていて、ワイヤーが三重の鎖に挿げ代わっていると言ったところだろうか。
暗刀『鎌』・・・・・・それがこの武装の名称だ。
「さてと」
謎の戦士は暗刀『鎌』の先端部分を飛ばし、磁石のように散らばるセルメダルを一枚残さず回収した。
そして、暗がりの中に置いてあった大型のアタッシュケースの中に詰め込んだのだ。
セルメダルの量は軽く二百枚はあったが、それでもアタッシュケースはあと三倍くらいはどうにかなりそうなスペースを余らせていた。
「不解・・・・・・なんてわけにはいきませんね」
独り言をいった謎の戦士は、バックルのブランクケージにあるセルメダルを取り出し、それが消滅すると同時に変身を解いた。
「くノ一の・・・仮面ライダー・・・?」
八神は震える体で無理矢理言葉を紡いだ。
そう、謎の戦士の正体は女だったのだ。
それも、首から上は額金に覆面によって両目と茶髪のミニポニーテール以外を隠し、服の内に鎖帷子を着込んでいるが、袖は切り落としている上に中途半端な丈をした焦茶色の忍装束姿の女忍者。
「不名乗・・・・・・なんてことは忍者にとっては日常茶飯事ですが、今回は特別です。私はトライブ財閥会長から『仮面ライダーチェリオ』変身者としてブライの戦闘補助を依頼された『鋼(はがね)金女(かなめ)』と申します」
と、女忍者は自らの素性を丁寧に教えてくれた。
「まあここまで名乗った以上、敵である貴方がどうなるか分かっていますよね?ヤミーも異形も、さっきの戦いで全滅しましたから」
「あ、あ、あ・・・あ・・・あ・・・」
八神はもう言葉を出せなかった。
「では、さようなら。・・・忍法生殺し」
その時、その様子を見ていた空海も餓紗喰も、他の連中も皆全て、彼女の行動を目撃はしたが止めようとすら思えなかったのだ。邪魔したらこちらの身が危険だと判断したからだ。
金女は返り血すら浴びずに八神を始末すると、空海達にはなにも言わずに立ち去ってしまった。
手に持った大型のアタッシュケースからセルメダルの音を漏らしながら。
「兄さんは、私が私ってことをわかってくれるでしょうか?」
そして、独り言を漏らしながら。
*****
同時刻、刃介らはSODOMの入り口と思われる建物の中に入っていた。
建物の中は静まり返っていて、不気味なまでに人気がなかった。
唯一、巨大な液晶画面の真正面に立つ、全身をマントとフードで隠す人物がいたりしたが。
「敵!?」
「イヤ・・・」
マントの人物は首を横に振った。
「ようこそ、要塞都市SODOMへ。このような間柄ではあるが、我等は紳士的に君達を迎えよう。ついてはこの都市での君達の動き方をお教えしよう」
マント男はリモコンを取り出してスイッチをおし、液晶画面にSODOMの見取り図を映した。
御親切なことに現在地である建物は勿論、重要な施設にはなにやらマークが施されている。
「これがSODOMだ。中央のタワーを囲うように、幾つ物ドームと施設が設置されている。そして中央のタワーの中に、佐古下柳がいるわけだ」
そのタワーの名は、
「HELLorHEAVEN―――我等が神、森光蘭様の居城だ」
「それで、どうやって入れば良いのでしょうか?」
「どうせ何かキーアイテムが要るんだろ?」
「ククク、流石は我刀流に虚刀流。理解が早いな」
「え、どういう意味?」
三人の会話に小金井はついていけてないようだ。
「つーか、タワーに姫がいるなら、周りの湖泳げばいいじゃねえかよ」
「んだんだ」
いや、烈火も土門も理解していなかった。
「それは僕が説明する。・・・まず最初にあのタワー周辺の水質はコールタールのように粘っていた。とても人間が泳げる状態じゃないし、僕が閻水で水面を凍らせてもセキュリティシステムが働いたり、鋼と鑢が忍法足軽で行こうとしても高圧電流が流れる可能性がある」
水鏡は事細かに説明した。
タワー周辺の湖は、日本の古城における堀といっていい。
「その通りだ、流石は水鏡凍季也!そう、物事には順序というものがある。それではルールを説明しよう」
マント男は懐からあるものを取り出した。
「CDデータ、これが要塞には五枚ある!それをお前らが二人五組と一人で探さねばならない」
なんか初っ端から面倒なことになってきた。
「同じ人間が立ち上げるとウイルスが流れるようにプログラムされている。おっと、ちなみにコイツは見本で空っぽのCDだ。・・・そして五枚のディスクデータを合わせると・・・HELLorHEAVENの入り口への進入方法たる電子キーアクセスNo.!全てがわかるだろう!」
マント男は得意げになってきた。
「つまり・・・個別バトルオリエンテーリング!それぞれが施設に向かいディスクを探す!当然ディスクの無い所だってあるやもしれん」
「ハッ・・・ゲームの司会進行役なだけあって、よく喋るじゃねーかよ」
「ククク、何事もルールがなければゲームは始まらないし面白くもないからね」
マントの男は心底面白そうに笑う。
「数多の施設の中には裏麗の人間達が存在する。君達と戦いたがってる者が何人も待っているだろう。データ自体を消去するのが障害としては一番簡単だが、そんなことしてもそこの化物カップルは容易に障害をクリアしてくるだろう。ゲームを面白くするにはそれではダメだ。なにより・・・森様がもう一度・・・できれば君達に会いたいと仰っている」
「ほう、あの蛆虫馬鹿が随分と調子付いてくれたものね」
と、シルフィードが悪態をつきながらあざ笑う。
「森様はこう言われた。治癒の少女と同化した・・・完全体の私を見せたい・・・・・・とな」
――ギリ・・・!――
血走るような眼つきをした烈火。
爆発寸前のところで、
「そうだなぁ」
風子が制した。
「集団でいられるより、分断させたほうが狙いやすいもんね。おまけにその内の一人は余るから、あんたらにも十分にメリットがあるわけだ。上等!のってやろうじゃん!」
「餌ぶら下げて個別化すれば、俺たちに勝てるってか?なめんな!」
「余裕丸出しなの、絶対後悔させてやるよ!」
それから、風子と土門と小金井は意気込みを口にする。
「一介の高校生達が此処まで決心するとは」
「こりゃ・・・俺っち達も踏ん張り時っすねぇ」
そのようすを見守るバットと吹雪。
そして、
――ガッッ!――
皆は円形に並んで拳を互いにぶつけあった。
(クク・・・・・・来い・・・死にに来い・・・一人一人狩ってくれようぞ、火影!個人的には貴様等には償いをしてもらわねばな・・・・・・復讐だ・・・・・・!)
マント男は邪悪な意思を漂わせまくりの状態で姿を消した。
(地獄へ堕ちろ・・・!)
新生火影忍軍。
敵軍の本城たるSODOMに侵入成功。
天守閣への活路を切り開く為の死闘遊戯が開始された!
次回、仮面ライダーブライ
怪力コンビと音遠の愛情と再来するオカマ
凍空吹雪
所有刀:賊刀『鎧』と双刀『鎚』
バットダーク
所有刀:悪刀『鐚』
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