新たなるナイトオブラウンズの任命。 

 この知らせにブリタニア帝国首都ペンドラゴンは賑わっていた。

 新たにナイトオブラウンズに任命された二人の内、一人は帝国最強と名高い
ビスマルク・ヴァルトシュタイン卿の子息であると言う事が賑わいに拍車をかけていた。

 ナイトオブラウンズ叙任式は首都ペンドラゴンにてその圧倒的存在感を知らしめる宮殿内にある
謁見の間にて行われる。

 セグラントとモニカの二人は呼ばれるまで此処で待機しているよう指示されていた。

 二人の服装はいつもの軍服ではなく、儀典用の軍服に加えナイトオブラウンズの証とも言えるマントを
羽織っていた。ナイトオブラウンズのマントは各々、色が違うためモニカは黄緑色。、セグラントは灰色だった。

 二人は呼ばれるまでの間を雑談で過ごしていたのだが、そこで話題が各々のマントの色の話となっていた。

「私が黄緑で貴方が灰色、か。このマントの色って何か意味とかあるのかしら」

「さぁな。だが、親父と似た色ってのは何となく嫌だ」

「あら、それはビスマルク卿の様な騎士になれって言う皇帝陛下からのメッセージじゃない?」

「あの叔父貴がそこまで考えてるのかね」

 セグラントは肩を竦めながらため息ついた。

 そんな彼を見ながらモニカは以前から気になっていた事を聞こうとした時、

「セグラント・ヴァルトシュタイン卿、モニカ・クルシェフスキー卿。時間です。
どうぞ、こちらへ」

 叙任式の開始を告げに来た侍従に遮られた。

 二人は肩を並べ、謁見の間へと入る。

 謁見の間には皇帝の他にも錚々たる顔ぶれが並んでいた。

 その中には当然の事ながらビスマルク卿の顔もあった。

 二人は玉座の前まで礼儀作法に従い進み、跪き、頭を下げた。

 玉座から皇帝シャルル・ジ・ブリタニアが立ち上がり、声をかける。

「セグラント・ヴァルトシュタイン、モニカ・クルシェフスキー。汝ら、ここに騎士の誓約を立て、
我が騎士として戦う事を願うか?」

「「イエス、ユア・マジェスティ」」

「汝ら、私情を捨て、我、シャルル・ジ・ブリタニアの正義を貫く為の剣となり、盾となる事を望むか?」

「「イエス、ユア・マジェスティ」」

 二人は答え、腰にある儀礼用の剣を皇帝に捧げる。
 
 剣を捧げる、すなわち忠誠を誓うという行為を持って、儀式は終了を迎えた。

「よかろう。これより汝ら、セグラント・ヴァルトシュタインをナイトオブツーに、
モニカ・クルシェフスキーをナイトオブトゥエルブとしてナイトオブラウンズに迎える」

 皇帝の宣言が終わると同時に謁見の間が大喝采に包まれる。

 拍手する中には小さくだが、確かに微笑むビスマルク卿の姿もあった。

 

 






 叙任式も終わり、謁見の間には皇帝シャルルとビスマルク。

 そして、セグラントとモニカが残されていた。

「さて、汝らに言っておく事がある。ナイトオブラウンズは各々専用機を作成する際に専門の
開発チームを用意する。開発チームに何か希望があれば言うが良い」

 皇帝の言葉に、モニカは全てを任せると言い、セグラントは、

「それだった、でしたら一人呼んでもらいたい人物がいます」

「ほぅ。その者の名は?」

「クラウン・アーキテクトです」

 ビーストアームを開発した自身と馬の合う人物を要求した。

「良かろう。その者をお前の開発チーム主任とする。これで吾からの話は終わりだ。
さて、セグラントよ。やるのか?」

 皇帝の問いにモニカは首を捻るが、セグラントは獰猛な笑みを浮かべ、
ビスマルクも笑みを浮かべる。

「当然」

「ふっ、貴様がどの程度になったか見てやろう」

「え、あの? 皇帝陛下、何が始まるのですか?」

 モニカは恐る恐る皇帝に尋ねると、

「単なる余興よ」
 
 イマイチ答えになっていない返答が返ってきた。

 しかし、その疑問は直ぐに氷解した。

 なぜなら、

「今度こそ死ねよや、親父ぃぃぃ!」

「10年早い! そしていい加減礼儀を身に付け、私の事を父上と呼ばんか!
馬鹿息子ぉぉぉ!」

 セグラントとビスマルクの拳が交差した。

 両者の拳はお互いの頬に突き刺さっており、そこから一歩も動かない。

「え、えぇぇぇぇぇ」

「はっはっは。拳がついに互角となったか」

 皇帝に至っては既に観戦モードに入っており、止める気は微塵も無いようだった。

「皇帝陛下、止めなくてよろしいのですか?」

「止める? 何を馬鹿な事をいっておるのだ。ただのスキンシップであろう?」

「あれがですか!?」

「うむ。既に我にとっては見慣れた光景よ」

 そう言いながらカラカラと笑う皇帝。

 その皇帝の前では殴り合いを続けるセグラントとビスマルク。

 セグラントがボディを狙えば、それより早くビスマルクのジャブが入り、それを邪魔する。

 またビスマルクが右ストレートを打てば、セグラントも渾身のストレートを返すといった様子で
両者とも一歩も引く気配は無い。

 そんな両者を何処か羨ましそうな表情で見ながら、

「それに、あの様に真正面からぶつかり合えば嘘が入る余地などあるまい……」

 皇帝の最後の呟きはセグラントとビスマルクの叫びでかき消えていった。

 両者のスキンシップという名の殴り合いは10分程続き、勝者はビスマルクとなった。

 決め手となったのは、

「まだまだだな! もっと精進しろ、馬鹿息子」

 というセリフと共に繰り出されたパワーボムだった。





 スキンシップという名の殴りあいを終えたビスマルクは、いまだ倒れているセグラントに告げた。

「後日、お前たちの騎士としての力量を世間に知らせる意味も持った御前試合が行われる。
本来ならば、ナイトオブラウンズの内、誰かが相手を務めるのだが、
あいにく現在のナイトオブラウンズは私を除けば、ナイトオブフォーとナイトオブナイン、
ナイトオブテンしかいない上、彼らは戦場に送られている。そこで御前試合は異例だが、
お前たちでやってもらう」

「それは、私とセグラントが戦うという事ですか?」

「それ以外に何かあるか?」

 ビスマルクから告げられた内容にモニカの額に汗が流れる。

「安心しろ。騎士の力量を示すという意味もあるためコイツの機体に付いている
馬鹿げた腕は通常の物に変更される。存分に戦うといい」

 それだけ告げ、ビスマルクは皇帝は共に、消えていった。

 残されたモニカはセグラントの顔を見ながら、

「コクピットだけは殴り壊さないでね」



 

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