IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第四話
「無謀な決闘」
入学二日目の朝、キラとラクスは二人揃って学生寮の食堂に来ていた。
流石は国から資金が出ているIS学園の学生寮内食堂というだけあって、メニューは豪勢かつ豊富で、キラやラクスの好きな料理も数多くある。
キラは和食系朝食メニューの焼鮭定食を、ラクスは洋食系朝食メニューのクロワッサンとサラダ、スープのセットを頼み、座る席を捜していた。
「ん? おーい! キラ! ラクス!」
「あ、一夏?」
「篠ノ之さんもご一緒ですわね」
キラとラクスを見つけた一夏が呼んでいたので、近づけば一夏の隣二つが空いていたので、そこに座ることにした。
「おはよう一夏、篠ノ之さんも」
「おはようございます、お二人とも」
「おう、おはようキラ、ラクス」
「・・・おはよう」
一夏の隣、キラとは反対側には篠ノ之箒が座っており、一夏と箒は先に来て朝食を食べ始めていたらしい。既に二人の朝食は半分ほどが無くなっていた。
「あ、キラ、ラクス、改めて紹介するぜ。俺の幼馴染の篠ノ之箒だ。箒、こっちは昨日友達になったキラ・ヤマトとラクス・クラインな」
「よろしくね篠ノ之さん」
「よろしくお願いいたします」
「よ、よろしく・・・」
箒の事は一夏からもだが、束からも聞いている。それはもう自慢の妹らしく、箒がどう可愛いのかなどを耳にタコが出来るくらい聞いていた。
「キラ、お前の朝食ってそれだけ?」
「うん」
「ラクスは判るけど、お前は大丈夫か? そんな朝食が少なくて」
「キラは小食ですから、朝から沢山食べたら動けなくなってしまうんです」
その事でキラはバルトフェルドからよく注意されていた。MSパイロットが朝から朝食が少なすぎる、もっと食べないと戦いの時に力が入らないだろう、と・・・。
「それより一夏、早く食べないと遅刻するよ?」
先に来て食べていた一夏だが、キラが来たときから減っていない。逆にキラとラクスがもう直ぐ食べ終わりそうになっていた。
「うぉ!? ま、マジかよ!」
見れば箒もそろそろ食べ終わる。慌てて一夏も朝食の残りを食べ終え、そこで寮長でもある千冬が食堂に入ってきた。
「いつまで食べてる! 食事は迅速に摂れ!」
白いジャージ姿ではあるが、朝から変わらず凛とした雰囲気で凛々しいお姿だ。
「あれ? 千冬姉って寮長だったのか」
「らしいよ? 僕とラクスも昨日聞いたんだけど」
まあ、朝食は四人とも食べ終えたので、トレーを片付けて食堂を出た。
朝のHRが始まった。昨日は千冬が職員会議でいなかったので、副担任の山田先生がやっていたが、今日は担任である千冬がHRを進行している。
「これより、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める! クラス代表者とは、対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会の出席などの、まあクラス長と考えて良い。自薦他薦問わない、誰かいないか?」
明らかに面倒な仕事だ。クラス代表対抗戦に出られるのは実戦経験を積めるという意味で魅力を感じるが、生徒会の会議や委員会の出席は流石に誰もが遠慮してしまう。
「はい! 織斑くんを推薦します!」
「あ、私も私も!」
「じゃあ私はヤマトくんを推薦しまぁす!」
「ヤマトくんに私も一票!」
一夏とキラに推薦が入った。しかし、キラがクラス代表になるのは少し不味い。キラは一夏の護衛をやらなければならず、クラス代表になってしまえば一夏の護衛に支障を出す可能性が出てくる。
千冬もそれを理解しているのか、少し困った顔をしていたが、表立ってそれを言う訳にもいかず、かといって自分のやり方ではキラに推薦が入った以上、それを無効にする訳にはいかない。
「納得がいきませんわ!!」
「(助かった?)」
突然叫び、立ち上がったのはセシリアだった。机を思いっきり叩いて立ち上がった為か、手が痛くなったのだろう、少し涙目になっている。
「そのような選出は認められません! 男がクラス代表なんていい恥さらしですわ! このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと仰るのですか!?」
キラや一夏、セシリアが見下す存在が自分の所属するクラスの代表になるなど、セシリアのプライドが許さなかった。
その視線はキラと一夏を捉えており、鋭く睨みつけている。
「そもそも! 文化としても後進的な国で暮らさないといけないこと事態、私には耐え難い苦痛で・・・っ!!」
「イギリスだって大したお国自慢無いだろう」
「そうだね、食事の不味い国ナンバーワンを何年連続で更新してるんだろうね」
「イギリスの見所など、ビックベンくらいでしょうか? それ以外は古いだけの国ですわ」
「っ! あなた方、私の祖国を侮辱しますの!?」
イギリスを侮辱されたと思ったのか、先ほどよりも更に鋭い眼光でキラ、ラクス、一夏を睨みつけるセシリア、その眼光には殺意すら浮かびかけていた。
しかし、若干15歳程度の、本物の戦争を知らない小娘の殺意など、一夏には怯む要因になろうと、キラやラクスにとっては微風にもならない。
「先に日本を侮辱したのはオルコットさんだよ。それにさっきから僕や一夏を見下した態度、それが英国淑女のマナー? なら英国というのは随分と程度の低い国なんだね」
「そうだな、同じお嬢様系でもラクスとは大違いみたいだ。ラクスの方がお淑やかな本物のお嬢様って感じだ」
「な、な・・・っ! よろしいでしょう、そこまで仰るのなら、決闘ですわ!!! キラ・ヤマト、貴方のイギリスを、英国淑女を侮辱したその言葉、後悔させてさしあげますわ!!!」
よりにもよってキラに喧嘩を売ってきた。
キラは決闘という言葉を聞いて、今まで抑えてきた戦士として、軍人としての自分を表に出し始めた。キラの眼光はセシリアの怒りと殺意に燃える鋭さではなく、冷たい殺気を宿し、心臓を鷲掴みされたかのような錯覚を覚えるほど強烈な圧力を全身から放っていた。
「ならば一週間後、ヤマトとオルコット、そして勝った方と織斑の模擬戦を行う。それで勝った者がクラス代表だ、ヤマトとオルコット、織斑はそれぞれ準備をしておく様に」
「上等ですわ!」
千冬が何とか場を仕切ってくれた。
キラとセシリアの決闘は一週間後、第三アリーナを使って行われ、どちらか勝った方が一夏と戦い、そして勝利した方がクラス代表になる。
「それとヤマト、せめて手加減くらいはしてやれ・・・流石にオルコットが哀れだ」
「はぁ!? 織斑先生まで私を侮辱なさるのですか!? 私が男、それもこんなヒョロヒョロしたもやし男に負けると仰る御つもりで!?」
「当然だ。お前ではヤマトの本気には勝てん、瞬殺どころか勝負にすらならん。相手にも障害物にもなりはしない」
これがキラや一夏の言葉なら教室中が笑いに包まれていただろう。だが、千冬は冗談を言うような性格をしていないのは火を見るより明らかだ。
「手加減など無用ですわ! そもそも代表候補生である私が、男に負けるなどありえませんもの!」
「そうか、ならせめて試合まで良い夢でも見ているのだな」
結局、それでHRは締め切った。
ただ、その日から決闘当日までセシリアのキラと一夏を見る目が鋭く、かつ今まで以上に見下した色を秘めていたのは、言うまでも無い。
決闘が決まった後、キラは一夏を連れて千冬の所に来ていた。
「織斑、お前に学園側から専用機を用意する事になった」
「専用機? ってあれだよな、あのセシリアとかみたいな代表候補生が持つ事を許されるってやつ・・・」
「正解、よく覚えてたね」
「キラの説明が上手いからな、結構覚えやすかったぜ」
一夏は時間が余れば暇を見てキラにISの事を教わっていた。
元々キラは束にISの事を習っていたので、知識に関しては束クラス、説明も判りやすいので、一夏も多少の勉強で要点を覚える事が出来たのだ。
「そのISだがな、届くのは一週間後、つまりは決闘の日だ。先にヤマトとオルコットから試合を始めるから、試合の間に初期化(フォーマット)と最適化(フィッティング)をしてもらう事になる」
「えっと、キラの試合中に届いたISを俺に合わせて調整するって事で良いんだよな?」
「そうだ、ちゃんと勉強しているみたいだな」
どうやら一夏のIS・・・束がキラと共に完成させた“白式”が完成したらしい。後は最終調整をして送ってくるだけになっているようだ。
「・・・(紅椿はもう少し掛かるのかな? 白式以上に難しいからね)」
もう一つのIS、白式の兄妹機である紅椿は完成までもう少し掛かるのだろう。
「・・・(後は、束さんから預かってきた“アレ”、いつ織斑先生に渡そうかな)」
キラは一夏と千冬が話している様子を眺めながらポケットに入れてある“ソレ”にそっと手を添えた。
「白式と紅椿のプロトタイプ・・・か」
二人に聞こえない様に呟きながら、キラは職員室の窓から見える空を見上げた。・・・・・・人参型のロケットが見えた気がしたが、気のせいだろうと無視したのは、特に問題は無いだろう。
昼休み、キラ達お馴染みの4人は食堂で昼食を摂っていたのだが、やはり一夏は決闘の事が気掛かりなのか、食事が中々進まないでいた。
「なぁ、キラは決闘如何するんだ? 俺には何か専用機が用意されるみたいだけど、キラは?」
「僕は始めから専用機を持ってるから、問題無いよ」
そう言って袖を捲り、待機状態になっているキラ専用機、ストライクフリーダムを見せた。
「マジかよ・・・あれ? でも専用機って国家代表とか代表候補生みたいな奴じゃないと貰えないんじゃないのか?」
「一夏さん、私達は束さんと一緒に暮らしておりましたから」
「っ! ね、姉さんの所にだと?」
ラクスの言葉に一夏ではなく箒が反応した。そして、箒は急いで食べ終えると、そそくさと立ち去ろうとしてしまう。
「ああ、大丈夫だよ篠ノ之さん・・・別に束さんの話をしたい訳じゃないし」
「・・・・・・ほ、本当なのか? 姉さんの所にいたというのは」
「うん、一年ほどね。ISの知識とかは束さんに教えてもらっていたんだ」
そうか、と言って静かに座りなおした箒は、コップに残っていた麦茶を飲み始める。
「それで、一夏・・・一夏はISの連続稼働時間はどれ位?」
「ん? 入試の時だけだから・・・30分も稼動させてない気がする、20分位か?」
「あら、それだとIS連続稼働時間でセシリアさんに負けていますわね」
「そうなのか?」
代表候補生ともなればIS連続稼働時間が何百時間と多い。
キラも束の下にいた時はISの訓練でストライクフリーダムを何度も稼動させていたので、一年で連続稼働時間が500時間を余裕で超えている。
「キラ、もし良ければISの訓練とかしてくれないか?」
「良いけど・・・一夏の専用機はまだ来てないよ? 学園の訓練機も打鉄やラファール・リヴァイヴがあるけど、一年のこの時期だと貸し出しに時間が掛かるから」
「な、なら私が鍛えてやる!」
如何するかと悩んでいたら、箒が鍛えると言い出した。確か箒は去年の剣道全国大会で優勝していたし、一夏の専用機になる機体の特性はキラも熟知している・・・適任かもしれない。
「良いかも知れませんわね、一夏さんは剣道をやっていらしたらしいですし、箒さんに鍛えなおしてもらうのも一つですわ」
「え、でもISの訓練に剣道って関係あるのか?」
「ISは乗り手の思うとおりに動くから、機体が良くても乗り手が悪ければ性能は極端に落ちる。逆に機体性能が低くても乗り手が良ければ格上の性能の相手に勝てるんだ。だから乗り手自身が生身の肉体を鍛えるのは重要な事だよ」
「ヤマトの言うとおりだ! 早速、今日の放課後に剣道場に来い一夏!」
付け焼刃になるかもしれないが、一夏の専用機の事を考えるのなら一夏の剣の腕を鍛えておくに越したことはない。
何故なら一夏の専用機は彼の姉の嘗ての専用機と全く同じ武装しか積んでいないのだから。
「き、キラは剣道とかやらないか・・・?」
「僕は射撃型メインだからね。接近戦もやるけど、一番のメインはって問われるとやっぱり射撃になるから、剣道は遠慮しておくよ」
「そ、そうか・・・・・・」
せめてキラも巻き込もうと思ったのだろうが、キラが射撃型だと言われ、仲間(生贄)はいなくなった。
ラクスはIS操縦者ではなくオペレーター専攻だと言っていたので、期待は出来ないので、結局放課後の剣道を一緒にやってくれる者は一人もいない。
放課後に待っているだろう地獄に、一夏は今から青褪め、ガックリと肩を落とすのであった。
あとがき
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