IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第十話
「始まるクラス対抗戦」
一夏の訓練が終わってからキラとラクスは部屋に戻ってパソコンの前に座っていた。調べているのはキラが中国のホストコンピュータにお馴染みである趣味のハッキングして得た鈴音の情報だ。
「中国代表候補生、鳳 鈴音、15歳・・・・・・使用ISは近接格闘型パワータイプの第三世代機“甲龍”、武装は大型の青龍刀である双天牙月が二本、これは柄の部分を連結する事で投擲武器としても扱える」
「それと中距離用の武器もありますわ・・・龍砲、空間自体に圧縮を掛けて銃身を作り、衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲ですか・・・・・・砲身の限界角度は無く、砲弾や銃身自体が見えないのは厄介ですわね」
幸いとして、甲龍の装備はこれしか無いのだが、どちらとも強力な武装である事に変わりは無い。特に龍砲が厄介と言えるだろう、死角の無い衝撃砲は攻略法を見つけづらいのだから。
「もし一夏が彼女と戦うとしたら・・・やっぱり白式の高速機動と瞬時加速を使用したかく乱の後、一気に懐に飛び込んでの零落白夜しかないかな?」
「そうですわね、甲龍は白式と比べるとスピードは落ちますし・・・それが一番確実な方法かと思いますわ」
だが鈴音とて自身のISの攻略法くらい考えているし、それに対する戦法も用意してあるだろう。後は一夏が如何にその状況で判断して動けるか、だ。
「少し対近接戦用の戦闘訓練に切り替えようか・・・僕達全員が近接戦を一夏に仕掛けて、時々中距離攻撃が飛んでくる様にして・・・」
明日から一夏は別の地獄を味わう事が決定した。
丁度その頃、一夏の部屋では彼の目の前で箒と鈴音が言い争っていたのだが、突然一夏の背筋にゾクリと来るモノがあって、ブルブル震えたのを言い争っていた二人が不思議そうに見ていたのは・・・関係無いだろう。
数日後、クラス対抗戦のトーナメント表が掲示された。それまでの間、キラ達は対近接戦を想定した訓練をメインに一夏を虐め・・・鍛えてきた。
そして運命のトーナメント第一回戦、一夏が代表を務める1組の対戦相手は・・・2組、鈴音だった。
「と、言うわけで・・・早速一夏は鳳さんと戦う事になったから、今日から訓練の密度を更に高くしようと思うんだ」
「・・・おいコラ」
突然笑顔でトンでもない事を言い出したキラに一夏がツッコミを入れたが、当の本人はその程度どこ吹く風、明日から使用出来なくなるアリーナの使用申請を終わらせていた。
「あのさ、キラ・・・流石に俺もこれ以上密度を上げられたら死ねる自信がある」
「何言ってるの? 死ぬ訳ないでしょ・・・生かさず殺さずを維持しながら調整してるんだから」
「今聞き捨てならない事聞いたぞ!?」
今までの地獄の訓練で死ななかった自分は奇跡だと思っていた一夏だが、まさかキラが死なない程度に、しかし生きた心地がしない様に調整していたと言うのだ。
「さあ、セシリア、篠ノ之さん、ラクス、準備は良い?」
「「「勿論(だ)(です)(ですわ)!!」」」
「俺に聞くべき事だろ!?」
一夏を引きずってアリーナに入ったキラ達だが、その時、アリーナの中に人影が見えた。それも小柄なツインテールの人影が。
「一夏!」
「鈴・・・!? お前、俺の事避けてたんじゃ・・・」
何があったのだろう。明らかに一夏に好意を寄せているであろう鈴音が一夏を避けるなど、恥かしいからなんて言って避けるような性格にも見えないし、見れば鈴音の表情は何処か不機嫌そうで、それに関係しているのだろうか。
「じゃあ一夏・・・僕とラクスは向こうで準備してるから、話し合いしておくと良いよ」
「は・・・? あ、ああ、わかった」
キラとラクスが少し離れた所に移動して準備を始めようとすると、セシリアも此方に来た。彼女も特に興味が無かったのだ。
「キラさん、クラインさん、お手伝いしますわ」
「手伝いって言ってもね・・・今日は一夏に瞬時加速の発展系を教えようと思ってるんだけど・・・セシリア、瞬時加速は苦手でしょ?」
「う・・・た、確かに」
セシリアも瞬時加速の理論は理解しているし、発展系も知っているが、そもそも加速系ブースト操作の基礎である瞬時加速が苦手なセシリアでは見本を見せる事が出来ない。
「それにしても、瞬時加速の発展系ですと・・・教えるのは二重瞬時加速ですの? アレは織斑先生とキラさん以外には不可能な芸当ですわよ?」
「今日は連続での瞬時加速と撹乱加速を教えようかと思ってね」
「どちらもキラは出来ますし、丁度良いかと思いまして」
連続の瞬時加速なら少し練習すれば出来る芸当なので特に驚く事はなかったが、撹乱加速という言葉には驚いた。それはIS学園の一年生ではまだ教えない加速技術の一つで、何よりそれをキラが出来るという事に驚かされる。
何か言おうと、口を開きかけたセシリアだったが、その途中で背後から轟音が響き渡った事で慌てて口を閉じた。
「〜〜〜〜〜〜っ!?」
が、その所為で舌を噛んだらしい。声にならない悲鳴を上げて涙目になりながら口を押さえてしまった。
キラはセシリアの姿に苦笑しながら音がした方向を見ると、一夏がアリーナの床に座り込んでいて、それを支える箒と、立ち去る鈴音の後姿が見えた。
「・・・・・・何があったの?」
「さあ・・・?」
「・・・しゃあ?」
遂にクラス対抗戦が始まった。会場である第一アリーナの席は既に満員で、一回戦第一試合の一夏VS鈴音の戦いを今か今かと皆、待ちわびている。
選手控え室では試合に出る一夏がISスーツを着て、画面に映る観客席の様子に圧倒されているが、傍に控えていた箒、セシリア、キラ、ラクスのお蔭なのか、比較的落ち着いていると言えるだろう。
「じゃあ一夏、最後のおさらいね・・・鳳さんのISは中国の第三世代機、燃費と安定性を第一に開発された“甲龍”、メイン武装は二本の青龍刀“双天牙月”と二門の衝撃砲“龍砲”、パワー型の中近距離戦用だよ」
「燃費が非常に宜しい機体ですから、試合時間が長引けば白式が不利になりますわ。ですからキラさんが教えた加速を使いながら接近して、短期決戦を挑むのが建設的ですわよ」
キラとセシリアが甲龍のスペックデータを展開して一夏に相手の詳細と戦法の確認を行っていた。一夏も勝つために一切を聞き逃すまいと必死に聞かされた事を頭に叩き込んで行く。
「瞬時加速で近づいて零落白夜を使えば良いんだよな? とにかく攻撃を避けまくってシールドエネルギーの消費を抑えながら」
「そう、作戦の要は一夏の被弾率が10%以下である事と、瞬時加速3回以内に決める事、この二つだけ」
この日の為に一夏には瞬時加速の完全習得を果たさせ、撹乱加速を教えてきたのだ。勝ってもらわないと教えた甲斐がないというもの。
「なあキラ、撹乱加速はどのタイミングで使うべきかな・・・?」
「なるべく序盤では使わない様にして・・・最後の決める直前に使えば零落白夜の命中率も格段に上がると思うよ」
「成る程な・・・」
その為の撹乱なのだから、それが現状ではベストだろう。
そして、遂に試合時間が間近に迫ってきた。ラクスは管制室に向い、一夏と箒、セシリア、キラはピットに入り、準備を進める。
「来い、白式!!」
一夏が白式を展開したのを確認したキラは最後の仕上げとばかりに白式とパソコンを繋ぎ、束クラスのキータッチでOSを弄りだした。
「・・・すっげぇ速ぇ」
「姉さんと同じだ・・・」
「流石はキラさんですわ!!」
三人の声が聞こえないほど集中していたキラだが、最後にenterキーを押して作業を終わらせる。
「これで大丈夫、最高速度を出した時のエネルギー消費量を落とせるだけ落としてみたから、少しは余裕が持てる筈だよ」
「サンキューなキラ!」
「しかし・・・大丈夫なのか? 白式は倉持技研が開発した機体だと聞いている。生徒でしかないヤマトが勝手にOSを弄っても・・・」
「それは問題ないよ、白式の製作者に許可は貰っているから」
勿論、倉持技研ではなく、本当の製作者である束からだ。
「さあ一夏、時間だよ」
「ああ! じゃあ・・・勝ってくる!」
カタパルトに白式を接続させた一夏は深呼吸を一度、更にもう一度して、真っ直ぐ前を見た。
『カタパルトオンライン、進路クリアー、白式・・・発進どうぞ!』
管制をしているラクスの声がピットに響き、それを待ってましたとばかりに一夏は下半身に力を入れる。
「織斑一夏、白式! 行くぜ!!」
気合と共に発進した一夏を見送り、ピットにいるキラ達はアリーナの映像に視線を移した。
その映像には、既にアリーナでスタンバイしていた甲龍を纏う鈴音と、丁度ピットから飛び出した白式を纏う一夏が映し出されている。
「一夏・・・・・・」
心配そうな箒の声だけが響く中、キラとセシリアは静かに映像を見ていた。一夏と鈴音の試合、彼は如何に戦うのか、二人の興味はそれしか無いのだから。
「嫌な予感がするね・・・・・・」
だが、キラは先ほどから妙な胸騒ぎがしていた。何か良くない事態が起こりそうな、軍人としての勘が、アリーナに入った瞬間から危険信号を発している。
「いざという時は・・・使おうかな」
ストライクフリーダムの・・・単一仕様能力を・・・・・・。
あとがき
次回はキラの単一使用能力が出ますが、出番的にはおまけみたいなものですね。
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