IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第二十八話
「海上決戦」
満月が綺麗な夜空で、ステルスモードで浮かぶ福音に向けて砲戦パッケージ“パンツァー・カノニーア”を搭載したシュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンを放った。
放たれた弾丸は真っ直ぐ福音に向かい、着弾と同時に爆発を起こす。福音の姿は煙の中に消えた。
「初弾命中!!」
シュヴァルツェア・レーゲンの後ろにはそれぞれ、強襲用高機動パッケージ“ストライクガンナー”を搭載したブルーティアーズ、機能増幅パッケージ“崩山”を搭載した甲龍、防御パッケージ“ガーデン・カーテン”を搭載したラファール・リヴァイヴ・カスタムUが浮いている。
更に、その上空には高機動で動く紅椿、暮桜・真打が居て、その後ろには空中待機をしているオルタナティヴと、その隣で何かを準備しているストライクフリーダムが浮いていた。
「単一仕様能力発動、ミーティアリフトオフ!!」
【単一使用能力:ミーティア、発動】
ストライクフリーダムの単一仕様能力が発動、その背後にミーティアが現れ、ストライクフリーダムがドッキングされた。
「ミーティアドッキング完了、全システムオールグリーン」
ミーティアのブースターが点火され、加速するのと同時に瞬時加速を超える。
「続けて砲撃を行う!」
煙を掃いながら攻撃準備に入った福音を見て、ラウラは更に砲撃を続けた。だが、その弾丸は尽くがかわされ、ラウラに接近してきたのだが、それをセシリアが突撃して吹き飛ばすと、体勢を整えたセシリアのスターライトmkVからのレーザー、ストライクフリーダムからの大量のミサイルが福音を襲う。
「篠ノ之! 合わせろ!!」
「はい!」
ミサイルとレーザーを回避している福音に、高機動で接近した千冬と箒はそれぞれ、紅椿のメイン武装である雨月と空裂、暮桜・真打のメイン武装である雪片・壱式を振るった。
千冬と箒、同じ道場で剣を学んでいたので、その太刀筋は全く同じ、その三振りの刀からの斬撃が同時に福音を断ち切ろうと迫ってきたのだが、翼の様な非固定浮遊部位によって防がれ、至近距離からの銀の鐘を浴びせられる。
「箒! 千冬さん! このぉっ!!」
二人が弾かれた瞬間、鈴音が連結させた双天牙月を頭上で回転させて、その勢いのまま振り下ろす。
しかし、その大振りな一撃は簡単にかわされ、箒や千冬の様に至近距離からの鈴の鐘を受けそうになったのだが、間一髪の所でシャルロットが両手のライフルを福音へと乱射したので、福音は射撃を中断、一気に加速して距離を取った。
「お兄ちゃん! 今!!」
「了解!」
ストライクフリーダムから放たれたミーティアフルバースト、しかしそれは銀の鐘の乱射によって殆どを相殺された。福音に命中したのはほんの数発程度に留まる。
「っ! まさか、ミーティアフルバーストを防がれるなんて…銀の鐘が厄介だね」
ミーティアフルバーストにはキラも絶対とは言い切れないまでも、かなりの自信があった。
元の世界でもミーティアフルバーストで多くの敵を撃破してきた。だからこそ、ミーティアフルバーストは切り札としての自信が大きかったのに、それを防がれてしまった。
それに若干だが動揺してしまうものの、キラもプロだ。直ぐに切り替えてミサイルやビームを撃って兎に角援護射撃をする。
キラ、セシリア、シャルロット、ラウラの射撃と、千冬、箒、鈴音の近接戦が福音を追い詰めるのだが、中々決定打になりえない。そんな中、千冬は雪片・壱型を握り締め、暮桜・真打との同調を高めた。
【単一使用能力:絢爛・零落白夜、発動】
暮桜・真打の単一仕様能力、絢爛・零落白夜が発動した瞬間、残りシールドエネルギーが150になっていた暮桜・真打が黄金の光に包まれ、一気にシールドエネルギーが満タンになる。
「おおおおおおおおおお!!!」
雪片・弐型と同じ展開装甲を用いた雪片・壱型、桜色のエネルギー刃が現れて発光する。その瞬間、千冬は咆哮を発しながら二重瞬時加速に入り、福音の懐へと飛び込み、バリアー無効化の一撃を放った。
バリアー無効化攻撃である絢爛・零落白夜の直撃を受けた福音はそのまま海へと叩き落され、静かに海底へと沈んでいく。
しかし、福音が落ちた水面が突然盛り上がり、大きな水柱を立てながら中から光に包まれた福音が現れた。それも明らかに尋常じゃない様子でだ。
「ま、さか・・・」
「まずい、二次移行だ!」
光の中で福音が傷を修復して、非固定浮遊部位から白い翼の様な物が生えてきた。福音が危機的状況の今、ここで二次移行をしたのだ。
「ヤマト! ミーティアをパージしろ!! 先ほどよりも速度が上がっている筈だ!!!」
「っ! ミーティアパージ!!」
確かに、一時形態でも速度が驚異的だったのに、それが二次移行をしてしまったら、更に速度が脅威になる。
厄介だったスピードが更に増してしまうその状況ではかえっててミーティアが邪魔になってしまう。
「来るわ!!」
鈴音の声、それが聞こえた時には既に福音の姿はこの場にいる誰よりも高い所に移動していた。
「速っ!?」
上空の福音から、先ほど以上の数の銀の鐘が放たれた。その数はキラのミーティアフルバーストを超えている。
「総員回避! 無理なら防御だ!!」
千冬の声が聞こえた。同時に全員が防御の姿勢を取り、キラとラクスもビームシールドを展開して迫り来るエネルギー弾の雨を見た。
空を覆いつくさんとばかりに迫り、降り注ぐエネルギー弾が次々と仲間達のシールドエネルギーを削り取り、着弾した海は水柱が絶えずに立ち上る。
「しまった! 今ので散り散りになったか!」
見れば全員、防御だけでは間に合わないと思ったのか、避けられる物は避けて何とか耐え切ったのだろうが、その所為でセシリアと鈴音が一緒に、シャルロットとラウラが一緒に、千冬とキラ、ラクスが一緒になっていたが、それでも距離が離れてしまった。そして何より、箒が一人、一番離れた所にいる。
箒が一人になってしまって好機と見たのか、福音は白い翼を頭上に掲げると、巨大なエネルギー砲を一瞬でチャージして、放った。
「箒!」
「箒さん!」
鈴音とセシリアが叫ぶが、遅い。
砲撃に気付いて避けようとした箒だったが、数瞬遅く、エネルギー砲の直撃を受けて海へと向って落ちていく。
それを追おうと飛び出したセシリアだったが、いつの間にかセシリアの背後に福音が迫っており、何とか振り切ろうとしたのだが、翼を大きく広げてセシリアを覆い尽くし、その逃げ場の無い翼の内部で四方八方から放たれた銀の鐘によってシールドエネルギーの殆どを失い、セシリア自身も意識を失って落ちてしまった。
「セシリア!」
助けに行こうとしたシャルロットもまた、それに気付いた福音の砲撃が放たれ、ガーデン・カーテンで防いだものの、威力が高すぎて弾かれてしまう。
そして、福音は一番の脅威と認識したキラと千冬を排除する為に飛び出し、途中で邪魔をしてくる鈴音とラウラを銀の鐘で威嚇しながら一直線に二人へと迫った。
「舐めるな!!」
絢爛・零落白夜によってシールドエネルギーが回復した千冬は迎え撃とうと雪片・壱型を構えて瞬時加速に入り、ビームサーベルを二刀流で構えて同じく瞬時加速に入ったキラと共に高機動近接戦を仕掛けるのだが・・・。
「クソッ! なんて速さだ!!」
「っ! はぁっ!」
正直、福音のスピードはストライクフリーダムに迫るモノがある。第三世代ではあるが、二次移行をした機体の力とは脅威としか良い様が無い。
「ならこれで!!」
ドラグーンもパージして射撃と近接戦の同時攻撃、ヴォワチュールリュミエールシステムをフルに活用して更なる速度を叩き出したキラは、何とか福音を超えるスピードに達する。
「もう一度行くぞ!!」
【単一使用能力:絢爛・零落白夜、発動】
千冬もまた、再び絢爛・零落白夜を発動、そして切り札を切った。
瞬時加速に入った千冬が福音の手前で分身をした。瞬時加速の中から撹乱加速に入る瞬時撹乱加速、これで福音も混乱をする筈だ。
「決まれぇ!!」
バリアー無効化、その効果を持った斬撃を放ち、今度こそ福音を撃破する・・・筈だった。しかし、福音は千冬が分身をした瞬間に撹乱加速を使って逃げており、千冬が切ったのは幻影だったのだ。
「まだだ!」
だけど、福音が逃げた先にはキラがいる。キラが振るうビームサーベルを光り輝く翼で弾いたのだが、キラの腹部、カリドゥス複相ビーム砲が福音の胴体を捕らえ、直撃した。
そのまま海に叩きつけるはずだったのだが、やはりそう上手くは行かない様で、福音は持ち直して再び上空へと昇る。
「お兄ちゃん・・・」
いつの間にか、セシリアを回収したシャルロットとラウラ、鈴音がキラの傍に来ていた。正直、これ以上となると福音を止める手段が見当たらないのだが、そこでキラに、皆にラクスから通信が来たのだ。
『キラ! 白式の反応です! 白式が高速で此方に!!』
「白式・・・一夏!?」
「そんな! 一夏は怪我して意識不明だったのに!?」
無茶だ。意識が戻ったのだろうが、ダメージも抜け切らない状態で今の福音と戦ったところで勝てる筈が無い。
だけど、追いついてきた一夏の姿を見た時、誰もが言葉を失った。白式の姿が、今までと大きく変わっていたのだから。
「よ、キラ・・・それと皆」
「一夏・・・それは」
「ん? ああ・・・夢の中でさ、力が欲しいか? って誰かに聞かれて、それで頷いたんだ。それで目が覚めて起動させてみたらもうこうなってた」
つまり、白式が二次移行を果たしたという事だ。
「一夏、アンタ・・・怪我は大丈夫なの?」
「そうだよ! 一夏、さっきまで意識を失ってたんだよ?」
鈴音とシャルロットが心配するが、当の本人はピンピンしている。本当に大丈夫そうだった。
「い、ちかさん・・・」
セシリアも丁度、目が覚めたみたいで、二次移行(セカンドシフト)を果たした白式を見て驚いている。
「・・・一夏」
「千冬姉・・・」
「遅刻だ、馬鹿者」
「うん、ごめん」
千冬はそれだけ言うと背を向けてしまう。だが、一夏にはそれだけで充分だったのだろう、これ以上は千冬の泣き顔を見てしまう事になるのだから、一夏本人としても遠慮したかった。
「さて、じゃあ反撃開始だぜ!!」
白式が加わって戦闘が再開された。
今まで以上のスピードで動く白式を操り、一夏はキラの援護の下、福音に接近する。途中で放たれた銀の鐘は・・・。
「雪羅、シールドモードへ切り替え!」
白式の第二形態、雪羅が一夏の指示に従ってシールドモードへ移行、翳した掌から深緑のシールド、零落白夜に使われているシールドが展開され、銀の鐘を完全に防ぎ切って見せた。
「あれは、零落白夜のシールド・・・!」
復活した箒が雪羅のシールドを見て、一夏が使っていた零落白夜を思い出した。雪羅は零落白夜の力をシールドとしても使えるらしい。
「っ!」
今度は箒に向けて放たれた銀の鐘だが、二刀で弾きながら何とかかわし、高機動で避けながら飛ぶ。
「箒!」
「私は大丈夫だ! 構うな!!」
箒と一夏が奮戦しているのを見ながら、キラ達はラクスの周りに集まっていた。
「さあ、オルタナティヴ・・・皆さんへの癒しの歌を届ける出番が参りました」
【単一使用能力:歌姫、発動】
オルタナティヴの単一仕様能力“歌姫”、それが発動した瞬間、ラクスは歌い始めた。
元の世界で何度も歌ったラクスの持ち歌、そして・・・“彼女”も歌っていたラクスにとって思い入れの深いあの歌、“静かな夜に”を。
「これは・・・」
ラクスが歌い始めた瞬間、オルタナティヴを中心とした特殊なフィールドが展開され、ラクスの周りにいる全てのISを包み込む。
フィールド内は多くのナノマシンで溢れており、そのナノマシンによってフィールド内全てのISの傷が癒え、シールドエネルギーすら満タンにしてしまった。
「これが、オルタナティヴの単一仕様能力・・・」
「良い歌、ですわね」
「ああ、何故だろう、心が癒される」
ISの事もそうだが、ラクスの歌は皆の心も癒してくれた。セシリアとラウラ、それに何も言わないがシャルロットや鈴音、千冬も、キラも・・・、全員の心を癒してくれたのだ。
「よし、これで全員戦えるな? なら行くぞ!」
「よし来た!」
「今度こそ蜂の巣にしてさしあげますわ!」
「絶対に負けないよ!」
「これ以上、嫁の前で不甲斐ない所を見せる訳にはいかん!」
千冬の確認の言葉に、皆が気合を入れたのを見て、キラはそっと、ラクスの方を振り向いた。
「入ってくるね」
「はい、お気をつけて・・・必ず、帰ってきて下さいね、私の下に」
「うん」
福音との戦い、その最終ラウンド、その最後の戦いが幕を開ける。
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