IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第三十五話
「出し物」
キラと楯無の模擬戦の翌日、朝からIS学園一年の生徒を全員講堂に集めて集会が行われた。内容はもう直ぐ開かれる学園祭の事についてなのだが、キラは朝から嫌な予感がしてならないのだ。
そんなキラの胸の内を余所に、壇上に現れたのは生徒会長である楯無、マイクを前にして今回の集会の概要を話し出した。
『さて、色々と立て込んで挨拶が遅れちゃったね。私は更織楯無、生徒会長だから、君達生徒の長よ。以後よろしく!』
まあ、挨拶もそこそこにして、今回一年全員を集めた理由なのだが、やはり学園祭の事だ。一年は初めての学園祭となる訳だから、説明という理由で集めたのは頷ける話だが、やはりキラは腑に落ちないらしい。
『まぁ、学園祭の説明と言っても普通の高校で行われる学園祭と大差無いから特に語る事も無いんだけど、今年だけ新ルールを導入しました!』
その新ルール、その題名が楯無の後ろにあるスクリーンに投影される。そこに書かれていた文字を見た瞬間、キラは朝からしていた嫌な予感が当たったと目を覆いたくなったのは言うまでも無い。
『名づけて! “各部対抗織斑一夏争奪戦”!! 織斑一夏を一位の部活に強制入部させましょう!!!』
キラには生徒会から干渉禁止を約束されている以上、次に彼女たち生徒会が狙うのは当然、もう一人の男性IS操縦者である一夏だ。キラはその事をすっかり失念していた。
因みに、キラたちの中で部活に所属していないのはキラとラクス、一夏だけ。他の皆はというと、箒は剣道部、セシリアはテニス部、鈴音はラクロス部、シャルロットは料理部、ラウラは茶道部に所属している。
「やってくれたね・・・まさか、僕に手出し出来なくなった途端に一夏に狙いを変える、いや・・・もしくは一夏に狙いを絞ったのかな」
「生徒会として一夏さんに手を出し、更織家かロシア代表としてキラに接触するのでしょうか?」
「可能性は高いかな・・・兎に角、学園祭は一筋縄では終わらなさそうだよ」
一年生全員がハイテンションになっている中、キラとラクスはお互いに顔を見合わせ、神妙な面持ちで壇上の楯無に目を向けた。
どうやったのかキラとラクスの視線に気付いたらしい彼女は、ニヤリという擬音が付きそうな笑みを浮かべ、まるでその表情が「手段は選ばないわよ」とでも言っているかの様に見えるのだった。
集会が終わり、直ぐに一年一組は学園祭の出し物を何にするか話し合っていた。部活の出し物もあるが、クラスの出し物もまた重要なのだ。
「え〜、それでは・・・学園祭で行う一組の出し物を決めたいと思います」
教壇に立った真耶が不安気味な表情をしながら言っている。副担任である彼女ではなく、担任である千冬は如何したのだと思われるが、千冬は現在、暮桜・真打の調整という事で学園の地下へ行っているのだ。
「はい! “織斑一夏とキラ・ヤマトのホストクラブ”!!」
「織斑一夏とキラ・ヤマトとツイスター!」
「織斑一夏とキラ・ヤマトとポッキー遊び!」
「織斑一夏とキラ・ヤマトと王様ゲーム!!」
当然、拒否だ。
キラとしては恋人のいる自分が他の女子とそんな事をする訳にはいかないし、一夏も・・・一夏なら頼まれればやりそうなのは何故だろう?
「いや、やらねぇから!」
「ええええええ!?」
「だいたい、キラみたいなイケメンならともかく、俺なんかとこんな事して誰が嬉しいんだ!?」
「一夏…流石に怒るよ?」
「そうよ! 少なくとも私は嬉しいわ!」
「そうだそうだ! 女子を喜ばせる義務を全うせよ!」
「ヤマト君はラクスさんに売約済みだけど、織斑くんは女子の共有財産である!」
なんなのだろう、本当に。
「山田先生、駄目ですよね? こういう可笑しな企画は」
「え!? わ、私に振るんですかぁ!?」
一夏も酷なことをする。明らかにこういう事態の対処が苦手な真耶に話題を振るなど、無謀を通り越して無茶だ。
「え、えっと〜・・・・・・わ、私はポッキーのなんか良いと思いますよ・・・?」
何故か頬を紅く染めてトチ狂った事をのたまう真耶だった。
「とにかく、もっと普通の意見をだな!」
「メイド喫茶はどうだ?」
「・・・・・・え?」
普通の意見を求める一夏に、まさかの人物からメイド喫茶という案が出てきた。
そのまさかの人物というのは、ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ軍人であり、少し堅物思考のある彼女の口から、まさかメイド喫茶なんて言葉が出てくるなどと、誰が予想出来ようか。
「客受けは良いだろう。それに、飲食店は経費の回収が行える。確か、招待券制で外部からも入れるのだろう? それなら、休憩場としての需要もあるはずだ」
淡々とした口調ではあるが、ラウラの言っている事は正論だ。まぁ、飲食店はという意味で、メイド喫茶にする意味は不明だが。
「あのね、ラウラ・・・メイド喫茶にしたとして、僕と一夏は如何するの? ずっと厨房なら別に良いけど」
暗に女装は勘弁してくれと、キラは言っていた。キラは女装にトラウマがあるのだ、主にカガリやマリュー、エリカ・シモンズの所為で。
「キラと一夏には厨房と、それと執事の姿で接客をしてもらえば客も喜ぶだろう」
キラも一夏も、顔は良い。特にキラは元々の女顔が成長して中性的な超美形なので、執事の姿で接客をすれば学園の殆どの人間が鼻血を垂れ流しながら喜ぶ事請け合いだ。
「うん、良いんじゃないかな? お兄ちゃんと一夏が執事服を着て接客ならみんな喜ぶと思うよ」
「しゃ、シャル・・・・・・」
シャルまでラウラの味方になってしまった。
シャルは夏休み中にキラとラクスが束の所へ行っている間、ラウラと共にバイトをしていたらしく、夏休みを隔てて随分シャルとラウラは仲が良くなった。
まるで姉妹の様に仲が良いので、キラもラクスも微笑ましい気持ちになって見守っていたのだが、まさかこんな所でラウラの味方をしてしまうとは・・・。
「織斑君とヤマト君の執事・・・良い!」
「メイド服と執事服はどうするの? 私、演劇部だから縫えるけど!」
クラスの女子全員が賛同してしまった。
もっとも、キラも女装ではないので一応は安心しているのだが、何とも言えない表情をしている。
「メイド服と執事服に関してはツテがある貸してもらえるか聞いてみよう・・・・・・ごほん、シャルロットが、な」
「え、えっとラウラ・・・それって先月の?」
「うむ」
「き、訊いてみるだけ訊いてみるけど、無理でも怒らないでね?」
『怒りませんとも!』
むしろシャルを怒れる人間がいるのなら見てみたい・・・千冬以外で。
かくして、学園祭でのキラ達1年1組の出し物はメイド&執事喫茶、“ご奉仕喫茶”に決まった。キラは執事の服装で女子達に接客をする事になるのだが、何となくラクスの方を見てみると・・・、背筋が凍った。
ラクスはニコニコと微笑んでキラを見ていた。美しい笑顔だと誰もが口を揃えて言うだろうソレは、彼女の背後にゆらゆら揺れるどす黒い瘴気によって千冬も裸足で逃げ出すであろう恐ろしさを感じさせる。
「キラ」
「・・・はい」
「お話、しますわよね?」
「・・・・・・はい」
今夜は眠れないだろうと、キラは溜息を吐き、遠い目で窓から空を見上げるのだった。
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