IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第五十三話
「キャノンボール・ファスト開幕、再来する恐怖」



 キャノンボール・ファスト当日、見事な秋晴れの空に花火が上がり、会場となるIS学園は外来からの来場者でアリーナが満員になっていた。
 キャノンボール・ファストの日程は最初に二年生のレースから始まり、その次に一年生の専用機持ち組のレース、その次は一年生の訓練機組のレースが行われ、最後に三年生によるエキシビジョン・レースが行われる事になっている。

「良い天気・・・だけど」

 空を見上げて、綺麗な澄み渡った青空を眺めていたキラの胸の内には、言い知れぬ不安が渦巻いていた。
 朝、目が覚めてからというもの、ずっと胸の内にあった不安は、今日・・・このキャノンボール・ファストの日に何か良くない事が起きるのではという予感だ。

「キラ、そろそろ会場に行きませんと」
「うん・・・・・・(今日のレース、優勝を捨ててでも皆と並んで飛んだ方が良いかな)」

 それから、本来はリミッターを掛けておかなければならないのだが、今日のキャノンボール・ファストだけは、リミッター無しにしておく事にする。皆には悪いが手加減をする事になってしまうけど、この嫌な予感が拭い去れない以上、必要な事なのだ。


 キラとラクスが一夏たちの居るピットに行くと、既に二年生のレースが始まっていた。二年生は皆、抜きつ抜かれつの大混戦を繰り広げ、誰が優勝してもおかしくない状況だ。

「みんな、遅くなってごめん」
「お、キラか、遅いぜ」
「我々は既に準備を終えている。お前も早く準備をしておけ」

 確かに、既に一夏たちはISを展開して自分達のレースがいつ始まっても良いように準備を整えていた。
 キラもストライクフリーダムを展開すると、VPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲をONにして簪の横に並ぶ。

「どうかしたんですか?」
「え?」
「あの、何だか顔色が優れませんけど・・・」
「・・・ちょっと、ね」

 簪に心配されてしまうものの、何とか笑って誤魔化し、一夏たちのISを見渡した。
 一夏と箒、簪はスラスターの出力調整のみなので、特に見た目が変わった部分は無い。だが、シャルロットとラウラはそれぞれ三つの増設スラスターを装備して、セシリアはストライクガンナーを、鈴音は中国から届いたばかりの高速機動パッケージ『(フェン)』を装備している。

「そういえば、一夏・・・新しいISスーツ似合ってるよ」
「そ、そうか? サンキュー。それにしても、本当に着やすいよなぁ」
「気に入ったなら何よりだよ」

 一夏は束から貰ったISスーツを早速だが着ていた。キラの蒼いISスーツと色違いで、白地に青いラインの入ったスーツだ。

「あ、二年生のレースが終わったよ!」
「それでは、いよいよ私たちの出番ですわね」
「そうね、負けないんだから!」

 シャルロットの声にアリーナを見ると、二年生のレースが丁度終わった所だった。いよいよ、一年生の専用機持ち組のレースが始まる時間だ。

『みなさーん、準備は良いですかー? スタートポイントまで移動しますよー』

 放送から真耶の間延びした声が聞こえてきた。その指示に従ってキラ達はスタートポイントまでマーカー誘導の案内で移動を開始する。

『それでは、一年生の専用機持ち組のレースを開催します!』

 各自、スタート位置にスタンバイすると、スラスターを点火する。シグナルが光り、赤いランプが一つ、二つ、三つと消えて・・・青になった。

「「「「「「「「っ!」」」」」」」」

 一斉にスタートした。最初にトップに出たのはキラ・・・ではなくセシリアだった。第一コーナーを過ぎた頃には綺麗な一列が出来上がっていたが、ここで皆一様に仕掛ける。

「なっ! 鈴さん!?」
「へっへーん! おそ〜い!」
「全くその通り、甘いな」
「「なっ!?」」

 トップ争いをしていたセシリアと鈴音を、ラウラが一気に抜き去り、リボルバー・キャノンを発射した。ラウラはずっと鈴音の後ろをスリップ・ストリームを利用して飛んでいて、機を窺っていたのだ。
 また、後ろでも動きがあった。鈴音とラウラに抜かれた一夏がシャルロットとキラと簪にも抜かれ、最後尾の箒とのバトルレースに突入している。

「お兄ちゃん、如何したの? リミッター掛けてるにしては遅いけど」
「そうですね・・・やはり何かあったのですか?」
「シャル、簪さん、今日のレース・・・油断しないで。朝から嫌な予感がしているんだ」
「それって・・・」
「まさか・・・」
「今年のIS学園の行事は尽くが中止になっている。クラス代表リーグ、タッグマッチ、学園祭。今回も何か起きる可能性が無い訳ではないんだ」

 先頭と後方でバトルレースが繰り広げられている中、中間を飛ぶキラとシャルロット、簪はレースをしながらも周囲に気を配り、何が起きても良いように警戒を始める。
 そして、レースが二週目に差し掛かったその時、キラの嫌な予感は当たってしまう。突然降り注いできたレーザーとビーム、咄嗟にキラが前に出てビームシールドで防いだから誰も被弾はしなかったので問題無かったが、襲撃者が二人・・・二人ともISを身に纏っており、そのISは忘れる筈も無い、サイレント・ゼフィルスと・・・・・・レジェンド・プロヴィデンスが静かに見下ろしている。

「キラ!」
「ラクス!?」

 サイレント・ゼフィルスとレジェンドプロヴィデンスが襲撃してきた時、ラクスがオルタナティヴを展開して飛んできた。
 クルーゼがいるというのに、ラクスがこの場に来てしまっては不味い。クルーゼの事だ、キラを殺す為なら平気でラクスを殺す。

「皆はサイレント・ゼフィルスの相手を!! ラクスは後方に行って、決して近づいちゃ駄目だ! レジェンドプロヴィデンスの相手は・・・僕がする」
「キラ! 無茶だ! お前、ストライクフリーダムが・・・俺も一緒に!」
「止めろ一夏! お前ではキラの足を引っ張るだけだ」
「けどラウラ! キラは!」
「その今のキラの相手にもならない私達に何が出来る!!」
「・・・くそっ!」

 仕方なく、一夏はサイレント・ゼフィルスの相手をする事になり、キラは一人でクルーゼの相手をする事となった。
 予めリミッターを切っていた事に安堵しつつ、ビームライフルを構え、クルーゼを見上げた。クルーゼはキラを見下ろしながら口元が喜びという感情に歪んでいる。

「久しぶりだねキラ君・・・どうやらフリーダムの修理も終わったみたいだ」
「世界中で、随分と好き勝手していたらしいですね」
「ほう? どうやら知っていたみたいだね。そうさ、私はこれでも亡国機業の一員なのだから、上からの命令には従わざるを得んのだよ」
「・・・黙って従ってるような人間ではないのに」
「ククク・・・確かにな」

 そこで会話は止んだ。お互いにビームライフルを構え、静かににらみ合っている。サイレント・ゼフィルスと一夏たちの戦いの音を背景に、因縁の戦いが始まるその瞬間を見極めていた。

「「っ!!」」

 その瞬間、キラとクルーゼはその場を移動して、その場所にビームが過ぎ去った。
 キラもクルーゼも高速機動で動きながらビームサーベルとビームジャベリンに持ち替え、切り掛かって鍔迫り合いになっては離れ、また切り掛かり、瞬時加速(イグニッションブースト)を連発しての亜音速戦闘を繰り広げる。

「はははははは!! 遅い、遅いぞキラ君! やはりこの世界では修理してもその程度か!!」
「くっ! このぉ!!」

 キラが切り掛かっても簡単に避けられ、逸らされるが、逆にクルーゼが切り掛かるとキラはギリギリで防ぐのが精一杯だった。
 今度はキラとクルーゼが同時にビームライフルに持ち替え、中距離からの射撃戦が始まる。
 お互いに全てのドラグーンをパージして、レジェンドプロヴィデンスの一斉射撃にストライクフリーダムのドラグーンが落とされない様に回避しながら、ヴォワチュールリュミエールシステムが起動した事で速度の上昇したストライクフリーダムで高速機動をしながら飛び回り、レジェンドプロヴィデンスのドラグーンを一機一機確実に落とそうとした。

「ほう、機能低下した今のフリーダムでも、此処まで出来るか・・・ふ、流石はキラ君だ、流石・・・人類の夢の形、人類の業の集大成!!」
「違う! 僕は、それだけが僕の全てじゃない!! 僕は、悲しみもすれば喜びもする・・・キラ・ヤマトという、一人の人間だ!!」

 キラとクルーゼ、合わせて56基のドラグーンが飛び交い、その中を高速機動で飛びながらビームライフルを連射するストライクフリーダムとレジェンドプロヴィデンス、その光景は人の動体視力に映ることは無く、だからこそ、その戦闘を行う二人に畏怖の感情を向ける者が、多かった。



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