IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第五十六話
「織斑マドカ」
サイレント・ゼフィルスとレジェンドプロヴィデンスの襲撃で中止になったキャノンボール・ファストの日の夜、キラ達はＩＳ学園の外、織斑姉弟の家に来ていた。
一夏の誕生日のパーティーをする事になっており、リビングにはキラとラクス、一夏、箒、鈴音、セシリア、シャルロット、ラウラ、簪、楯無、布仏姉妹の他に一夏の友人である五反田弾、五反田蘭、御手洗数馬、そして何故かＩＳ学園新聞部エースの黛 薫子も集まって、リビングがパンク寸前だ。
『一夏、誕生日おめでとう！！』
パァン！ とクラッカーが鳴り響き、集まった皆が拍手をすると、一夏が照れた様に頬を掻いた。
「お、おう、サンキュー」
現在、午後５時、外も大分暗くなり、織斑家の中は大いに盛り上がろうとしている。
一夏は蘭が作ってきたケーキや鈴音の作ったラーメンを食べているし、キラもキラでラクスと共にワイン片手に騒いでいる皆の様子を微笑ましげに眺めて、他もそれぞれ料理を食べ、話をして、本当に盛り上がっていた。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんは皆と話、しないの？」
「あら、シャルさん・・・そうですね、したいとは思うのですが・・・」
「この中で一番年上の僕達が羽目を外しすぎるのは不味いから、ほどほどにね」
まぁ、この後来る事になっている千冬と真耶、束が来たら少しは混ざろうとも思うが、多分、五人で酒を飲んでいるかもしれない。
最も、キラもラクスも、こういう場で騒ぐ様なタイプでもないので、こうして騒いで楽しんでいる面々を見守っている方が性に合っている。
「あ、キラ、ラクス、これサンキューな」
「気に入ってもらえればそれで良いよ」
「ええ、これから必要でしょうから」
キラとラクスの所に一夏と箒が来た。一夏の手にはキラとラクスからの誕生日プレゼントが握られている。
「しかし、一夏の為とは言え・・・誕生日プレゼントに刀と銃というのは如何かと思うぞ？」
「あはは・・・」
「それ以外に良いと思える物がなくて・・・」
「まぁ、これはこれで良いと思うから俺は構わないぜ」
そう、キラからは銃、ラクスからは刀がプレゼントとして贈られたのだ。
キラからのプレゼントである銃はグロッグ１７の第４世代の改造版だ。従来のプラスチック素材のフレームを取り外してカスタムパーツである金属フレームを使っており、キラがパーツ全て、新品の物を探し出して購入後、組み立てた代物である。
ラクスからのプレゼントである刀は一般的な日本刀なのだが、かなりの業物で、無銘ではあるが切れ味は抜群らしい。
「銃は身を守る為に使えるし、刀はＩＳを使わない時に振って練習する事も出来るから、丁度良いと思うけど」
「ああ、助かるよ」
他にもシャルロットからは腕時計、ラウラからは軍事用ナイフ、セシリアからはイギリスから取り寄せたティーセット、箒からは着物、鈴音からは本場の中華包丁、更識姉妹からは万年筆とＩＳ簡易整備セット、布仏姉妹からは最新ゲームと、何故か着グルミを貰っている一夏、なんだろう・・・何名か誕生日プレゼントとしてはおかしい者がいる。
「そういえば一夏・・・あれ」
「ん？ あれって弾と・・・虚さん？」
「あの二人って何か接点でもあった？」
「いや・・・覚えが無い」
「？」
何となく、弾と虚が良い雰囲気になっていた。
まぁ、一夏の話では弾も彼女が欲しいと言っていたし、虚の方も出会いが無いＩＳ学園に通っているので、男性と接する機会も無く、当然だが彼氏が居た事も無い。
なので丁度良いとは思うし、キラとしても青春だなぁと微笑ましげに見ているのだが。
「っと、そうだ・・・そろそろジュースが無くなるし近くの自販機に買いに行くよ」
「僕も行く？ 一人で持つには厳しいだろうから」
「あ、悪いな、頼む」
「うん、じゃあラクス、ちょっと行って来るね」
「はい、いってらっしゃいませ」
キラと一夏、二人揃って外に出ると、もう真っ暗になっていた。直ぐに最寄の自販機まで移動すると足りなくなった分のジュースを購入して、一夏とキラの二人で分けながら持つと戻ろうと踵を返したその時だった。
自販機の明かりが届かないギリギリの所に人影が見える。背格好から少女だと思われるその人影が一歩前に出たとき、自販機の明かりによってその顔が鮮明に見える様になったのだ。
普通の少女・・・ではなかった。何故ならその顔は・・・・・・。
「ち、千冬姉・・・・・・？」
「っ！ （不味い、こんな時に！）」
そう、少女の顔は間違いなく一夏の姉、織斑千冬の顔だった。だが本人ではない、背格好が全く違うのだから彼女が千冬である筈がない。
「いや、私はお前だ、織斑一夏」
「な、何・・・？」
「今日は世話になったな・・・それに、キラ・ヤマト、貴様にもな」
「・・・君が、亡国機業のＭ・・・いや、サイレント・ゼフィルスの操縦者」
「ああ、そうさ。私の名は・・・織斑マドカだ」
少女、マドカが名乗ったその時、キラはジュースの缶を投げ捨てて懐から銃・・・この世界に来てから愛用しているコルトＭ１９９１Ａ１を取り出して発砲、数瞬早く発砲したマドカの銃弾に銃弾を命中させて弾き飛ばした。
「っ！ くそ、銃弾に銃弾を命中させるなど、非常識だな・・・流石は最高のコーディネイターという奴か」
「クルーゼから聞いたのか」
「貴様があの人の名を軽々しく口にするな！！」
「・・・やっぱり」
キラがクルーゼの名を出した途端、マドカの表情が嘲笑いから憤怒に変わる。
「ちょ、ちょっと待て！ なんでお前、千冬姉と同じ顔なんだよ！？」
「ふん、貴様が知る必要は無い。何故なら、貴様も、キラ・ヤマトも、此処で死ぬのだからな」
「それは如何かな？」
突如、ラウラの声が聞こえてキラと一夏、マドカの間にシュヴァルツェア・レーゲンが降り立った。
「ラウラ！」
「すまん、発砲音が聞こえて駆けつけたのだが・・・」
「ナイスタイミングだったよ」
「そうか、それで・・・貴様は亡国機業の人間と考えて良いのだな？ 教官と同じ顔・・・大体は想像出来る」
「ふん、ドイツの出来損ないか」
「っ！ 貴様！！」
ラウラが怒りを露わにしてマドカを捕らえようとしたのだが、既にボロボロのサイレント・ゼフィルスを展開し終えたマドカは飛び去ってしまった。
追おうにも市街地戦をする訳にもいかず、見逃す他に無いので、シュヴァルツェア・レーゲンを解除したラウラはキラが投げ捨てた缶を拾い集めると一夏とキラの傍に寄って来る。
「すまん、取り逃がした」
「いや、いいよ。流石にこんな時間から市街地戦をするのは不味いからね」
「ああ、だがキラが一緒で良かった。そうでなければ一夏は今頃・・・」
「あ・・・脳天に風穴が空いてたな、俺」
そうだ、キラが居なければ今頃一夏は死んでいた。
「ていうか、キラってスゲェな！ 銃弾を銃弾で弾くなんて」
「何？ そんな芸当が出来るのか？」
「殺気は感じてたし、銃は持ってるって予想してたからね。動きを見ていれば一瞬で銃口の向き、トリガーに掛かった指の動きからタイミングを計れるよ」
「ラウラ・・・出来るか？」
「いや、流石に私でもそれは不可能だ」
その辺り、流石はスーパーコーディネイターと言うべきか。何にしてもキラのおかげで一夏は命拾いした訳だ。
「ラウラ・・・今回の事、みんなに話すのは月曜日にしよう」
「良いのか？」
「ま、俺もキラに賛成かな。あそこには一般人も居るんだから、下手な話はできねぇさ」
「それもそうか」
先ほどの銃声は近くで打ち上げ花火をしている馬鹿がいたという事で誤魔化す事にして、三人は皆が待つ織斑家に戻る事になった。
だが、一夏の胸の内では、先ほどの少女、マドカの事で不安が渦巻いていたのは、言うまでも無いだろう。
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