IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第五十八話
「亡国の天帝」
某国某都市の地下深くにある明かりの無い部屋では、二人の男女が産まれたままの姿でベッドに腰掛けていた。
男は金髪の髪に奇妙な仮面で顔半分を覆っており、女・・・いや、少女の方は整った顔立ちで、かのブリュンヒルデと瓜二つの顔だ。
「マドカ、今日は会ってきたのかね? 君自身に」
「ああ、ついでにラウ、貴方の宿敵ともね」
「ほう? 彼にも会ってきたのか」
男はレジェンドプロヴィデンス操縦者のラウ・ル・クルーゼ、少女はサイレント・ゼフィルス操縦者のM・・・織斑マドカだった。
この二人、初めて会った時はお互いに何の関心も無い仕事だけでのパートナーだったのだが、お互いの秘密を知ってからはこうして男女の関係にまで発展して、公私共にパートナーとして動いている。
「ラウ、薬の時間だ」
「ああ、ありがとう」
マドカが差し出したのは錠剤、それはクルーゼが元の世界で飲んでいた薬と同じ物、この世界に来たときに持っていた予備を解析して、亡国機業の科学力にて同じ物を作ったのだ。
これが無ければ今頃クルーゼは生きていない。この世界で薬を作れるのは亡国機業だけ、だからクルーゼは亡国機業に従わざるを得ない。
勿論、クルーゼも目的があって、その為に従っているというのもあるのだが。
「ラウ、もう少し待ってろ。必ず私が、見つけてみせるから・・・テロメア治療の方法を」
「ハハハ・・・そうだな、楽しみに待っているとしよう」
抱きついてきたマドカの頭を撫でたクルーゼの口元は、キラが見たら驚愕するだろう。そして、今は亡きレイ・ザ・バレルが見たら懐かしむだろう。クルーゼは・・・優しい笑みを浮かべていたのだから。
その時、二人がいる部屋をノックする音が聞こえた。クルーゼが入室許可を出すとマドカはシーツを身体に纏い、クルーゼの隣に座り直す。
「入るわよ、ラウ、エム」
「おや、スコールか。何か御用かな?」
「ええ、エムに少しね」
入ってきたのは金髪が豊かな女性、亡国機業の幹部でもある女性で、名をスコールと言う。
「昨日の無断接触の件だけど、説明してもらえる? 織斑マドカさん」
「・・・別に、ただ見ておきたかっただけだ。ラウが危惧する男と、私自身を」
「そう、でもね。あまり勝手な真似は謹んで欲しいわ。こちらとしても困るのよ、無軌道に動かれるとね」
「・・・わかっている」
「貴方の任務はラウと共に各国のISの強奪よ。それ以外の事に、あまりISを使わないようにね。只でさえ、サイレント・ゼフィルスはダメージレベルB、危なかったんですもの」
キラのブリリアントフリーダムに落とされたサイレント・ゼフィルスのダメージレベルはB、レジェンドプロヴィデンスはCと、少し危険な状態だったので、現在はラボにて修復中だ。
「ラウ、貴方も少しはこの子の手綱を握っていて貰わないと困るわ」
「フ、善処しよう」
「ええ、お願いね」
それから、スコールはもう一つ言っておきたい事があるとマドカを見た。
「ねぇエム、あなたが織斑マドカであろうとなかろうと、私には関係無いわ。けれど、ラウの前以外ではなるべくエムでいて頂戴ね。亡国機業の一人、エムとしてね」
「・・・決着を着けるまではそのつもりだ」
「決着・・・織斑一夏との?」
「ふっ・・・・・・。あれは敵ではない。殺そうと思えば、いつでもできる」
「となると・・・織斑千冬との決着、かしらね」
千冬の名が出ると、今までスコールが来てから無表情だったマドカの口元に歪んだ笑みが浮かぶ。
「織斑千冬ねぇ・・・何か何時の間にかISを再入手していたみたいだけど、現役引退して長いから、それほど手こずる相手にも思えないけど」
その瞬間、スコールはマドカの掌打を受け流して後ろに飛び、蹴りを避けた。
見ればマドカは激しい怒りの表情を浮かべ、スコールに殺意の篭った瞳を向けている。
「侮るな・・・貴様など、ねえさんの足元にも及ばない」
「はいはい、わかったわよ。でもその投げナイフは止めなさい。壁紙に傷が付くから」
「これは元から投げるつもりは無い。ラウとの部屋を、私が傷つけるものか」
「あ〜はいはい、ごちそうさま」
マドカはナイフをホルダーに戻してサイドテーブルに投げ置くと、再びクルーゼの隣に座って、クルーゼの膝を枕に寝転んだ。
「まったく、見せ付けてくれるわ」
「君もオータムとしたら如何なのかね?」
「あ〜・・・あの子にね・・・考えておくわ」
そんな事よりも、スコールは懐から資料を取り出すと、其処に書かれていた内容をクルーゼとマドカに伝えた。
「レジェンドプロヴィデンスとサイレント・ゼフィルスの修理はまだ少し掛かるわ。まぁ、修理中に任務は入らない・・・というより、暫く任務は無いから安心しなさい」
「そうか、それでは私も少しはのんびりさせてもらうとしよう」
「そうね、エムと一緒に何処かに出かけたら?」
「なっ! す、スコール!」
「それも良いな」
「ラウ!?」
顔を真っ赤にしながらクルーゼの膝に顔を埋めたマドカの頭に手を置きながら、クルーゼはスコールの方を向いた。
「ああ、そういう事・・・なら私も戻るわ。一眠りしたいし・・・ごゆっくり〜」
スコールが去って、クルーゼはマドカの頭を膝から退けて立ち上がると近くにあったデスクの引き出しを開ける。
中を少し漁ると目的の物を見つけたのか、口元に笑みを浮かべて取り出し、引き出しを閉めた。
「マドカ」
「何だ?」
「確か、前に行きたいと言っていた映画があったね。そのチケットをオータムから譲ってもらったのだが、明日は空いているか?」
「・・・っ! も、勿論だ!」
「ふむ、私もこういうSF物は好きなのでね。丁度良いと思っていたのだよ」
「そ、そうか」
明日、クルーゼとのデートになったので、ご機嫌なマドカはベッドの上で座りなおすと足をブラブラさせる。
「では明日、行くとしようか。夜はディナーでも奢ろう」
「む、高い店じゃないと許さんぞ?」
「何、その辺はスコールから聞いて把握してある。安心すると良い」
「そうか・・・まぁ、奴のセンスは信用に値するから、楽しみにしておく」
「そうしてくれ」
チケットをデスクの上に置いたクルーゼは振り向いてマドカの前に立つと、そのままベッドに押し倒した。二人の夜は、まだまだ終わりそうにない。
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