IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第六十話
「夕飯の席で」
模擬戦が終わり、全員で寮の食堂で夕食という事になった。千冬と真耶は流石にまだ仕事が残っているとの事なので、後から参加するという事になり、他は皆揃っている。
「「襲われた!?」」
その夕飯の席で、昨夜の出来事を話すと、一夏の幼馴染コンビが声を揃えて大声を上げる。当然、あの場に居たキラとラウラ、前もって聞いていたラクス以外も一様に驚きを見せていた。
「ああ、昨日の夜にな」
流石に織斑マドカという名は伏せたが、サイレント・ゼフィルスの操縦者だという事は話している。キャノンボール・ファストの時にラウ・ル・クルーゼと共に現れた正体不明の少女、その顔はバイザーに隠れていたので、素顔を知っているのはキラと一夏、ラクス、ラウラ、楯無だけだ。
「サイレント・ゼフィルスの操縦者・・・一体何が目的なんだろう? 一夏、何か心当たりある?」
「いや、無い・・・」
シャルロットの問いに無いと答えた一夏だったが、その胸の内には織斑マドカと名乗った少女の事で渦巻いていた。
一夏の家族は姉一人だけ、妹など居ないし、織斑姉弟を捨てた両親の事に関しては一夏と千冬の間で暗黙のタブーとなっているから聞けない、聞きたくないというのが本音だ。
「一つだけ言えるのは、ISの操縦技術が国家代表クラスという事と、白兵戦も凄腕だという事、かな」
「キラさんがそこまで仰る程ですか・・・」
マドカのIS操縦技術が高いのはこの場に居る誰もが認める所、そこに白兵戦技能の高さをキラが評価した所に、誰もが驚く。
「何を言っている。白兵戦においてキラの方が上だろうに・・・銃弾を銃弾で弾くなど、普通は出来んぞ」
「じゅ、銃弾を銃弾でって・・・キラ、アンタって何処まで規格外なのよ」
「やろうと思えば刀で銃弾を弾く事も出来るけど、これは鍛えれば一夏や箒でも出来ると思うよ?」
「いや、無理だから」
「私も流石に刀で銃弾を弾くのはな・・・」
寧ろ、キラなら銃弾を刀で弾くのではなく、刀で銃弾を斬り裂く位はしそうで困る。
「あの、キラさんと一夏は・・・顔、見なかったんですか?」
「あ、顔? ・・・いや、見てないよ」
「あ、ああ・・・キラの言う通りだ、バイザーグラス掛けてたからな」
此処でキラと一夏は嘘を吐いた。織斑マドカの事を話す訳にいかない以上、顔も見なかった事にするしかない。
ラウラもチラッと二人の顔を見て、話を合わせてくれたので、皆には悪いが上手く騙せた。
「何だ、夕飯時だというのに随分と雰囲気が暗いな」
「皆さん、如何したんですか?」
「あ、千冬姉、山田先生・・・」
「・・・まぁ、今は良いか」
仕事も終わって食事時なので、此処は家族として接するのも問題ない。
「ところで、お前達はいつもこの面子で食事をしているのか?」
「あ、はい。会長と布仏姉妹は初めてですけど、大体は」
「そうか・・・」
「あら? 織斑先生、もしかして気になるんですか〜?」
「山田先生、後で食後の運動に近接格闘戦をやろうか・・・私は暮桜で、山田先生は生身で」
「死んじゃいますぅ!?」
照れ隠しには物騒過ぎる千冬の言葉に涙を流す真耶だったが、誰も慰めなかった。この二人のやり取りは最早慣れたものなのだ。
「それで、何故雰囲気が暗くなっていた?」
「あ、えっと・・・昨日、俺がサイレント・ゼフィルスの操縦者に襲われた事を話したんだよ」
「・・・ああ、そうか・・・昨夜のか」
千冬と真耶も昨夜の事は聞いていた。そして特に千冬はサイレント・ゼフィルスの操縦者の正体、マドカの事を知っているのだ。それ故に思うところがある。
「まぁ、あれは現在調査中だから気にしていても仕方ないだろう。それより貴様ら、もうそろそろ全学年合同タッグマッチがあるのを忘れてはいないだろうな?」
『あ!』
キラとラクス、楯無以外は全員忘れていたらしい。千冬の米神に青筋が浮いてトレーを振り上げたので、三人は目を逸らした。
その瞬間、食堂内に鈍い音が複数響き渡ったのだが、食堂に居た生徒達は誰も気にしなかったと言う。
「さて、全学年合同タッグマッチの事でキラとラクスに話しておきたい事がある」
「僕とラクスですか?」
「ああ、学園上層部の決定だが、先ずラクスは今回、強制参加になるらしい」
「あら・・・オペレーター候補生というのは無視ですか」
ラクスの強制参加、それはオペレーター候補生というラクスの立場を完全に無視した決定だった。オペレーター専用とは言え、専用機を持っているのだから操縦者としてタッグマッチに参加しろという事らしいのだ。
「それと、キラとラクスはタッグを組めという事だ。学園側もキラが学園最強である事は承知済みらしいからな、オペレーター専用のISであるオルタナティヴと組ませて他の生徒に勝つチャンスを作ろうとしているみたいだな」
キラがいくら強くとも、パートナーであるラクスが弱ければ他の生徒にも勝つチャンスがあるだろうと睨んだのだろうが、この場に居た誰もが思った。寧ろ勝つチャンスが完全に無くなってしまった、と・・・。
「他は自由にパートナーを決めろ、特に一夏!」
「な、何だよ・・・」
「お前はパートナーを決めるときに騒ぎすぎるなよ?」
「騒がねぇよ!」
「・・・まぁ、言っても無駄だとは思うがな」
一夏のパートナーになろうと箒、鈴音、ラウラ、本音、楯無が騒ぎそうだ。
「なら簪さん、僕と組もうか?」
「シャルロットさん、と・・・? は、はい・・・」
こちらはこちらで凶悪コンビが誕生していた。どちらもキラが関わった機体を使っている、シャルロットはキラが作ったエクレール・リヴァイヴ、簪はキラが造るのを手伝った打鉄・弐式、本当に凶悪なコンビである。
「お嬢様、お嬢様は私とです」
「え〜、虚ちゃん、私は一夏君と・・・」
「・・・」
「・・・はい」
虚が無表情で楯無を睨みつけると、楯無は文句を引っ込めて大人しく従ってしまった。この主従、時々どちらが上なのかが判らなくなる。
「うぇ!? こんなに早くみんなパートナー決めちゃうのかよ!? お、俺はじゃあ・・・」
「一夏! 当然、私だろうな!?」
「あたしよね!?」
「一夏、私の嫁なら選択は決まっているだろう?」
「おりむ〜」
一夏の所は暫く決まりそうになかった。あぶれてしまったセシリアはと言うと、一夏のパートナーになれなかった誰かと組む事にしたらしい。
「本当はキラさんと組みたかったのですが、学園の決定は覆せませんもの・・・」
と、口では納得している様に言っていたが、その後におかわりをした所を見るに、自棄食いなのだろう。
「ねぇお兄ちゃん、一夏と誰が組んだら面白いかなぁ?」
「あの中で?」
「うん」
「そうだね・・・箒とだったらどちらも近接戦型だから相性としては悪いと思われるけど、二人の単一仕様能力を考えれば最も理想的なタッグになると思う」
それに、紅椿も白式も中距離戦の武装も持っているので、組まれれば案外強敵になるだろう。
元々、白式と紅椿は一対二機をコンセプトにしている機体で、二機揃って初めて暮桜・真打に乗る千冬と同じ事が出来る様になるのだ。
「鈴とだったら箒と同じ、どちらも中距離が出来るから動きとしては変則的になるだろうから面白いかな、パワー型の鈴とスピード型の一夏、ちょっと厄介になる」
「へぇ、ラウラは?」
「ラウラだと一夏が前衛、ラウラが後衛で一番バランスの良いペアだろうね。バランスが良いから一夏たちも戦い易いだろうけど、まぁ・・・だからこそ攻略し易いというのもあるかな」
本音だと、まだ本音の実力が未知数なので何とも言えない。
「そっかぁ・・・因みにお兄ちゃんが一夏と組んだら如何戦うの?」
「一夏を前衛に置いて、僕が後方からハイマットフルバースト連射」
「あ、あはは〜・・・だよねぇ」
もしくはドラグーンフルバーストかミーティアフルバーストで殲滅する。
「僕と簪さんだと二人とも全距離対応だからなぁ・・・うん、でも面白い戦法をいくつか思いついたよ」
「そっか、じゃあ試合を楽しみにしてるね」
「うん! 負けないよ?」
とりあえず、今は火花を散らしている箒、鈴音、ラウラ、本音の四人を何とかする為、キラは千冬に視線を送る。
千冬はそれに頷くと再びトレーを振り上げ、食堂内に先ほど以上に鈍い音を響かせるのだった。
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