IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第六十四話
「複雑な乙女心」
注文も終わり、後は料理を待つだけになったので、雑談をして時間を潰していたキラ達だったが、店の奥から一人の男性が出てきて近づいてきた。
この五反田食堂の店長であり、弾や蘭の祖父でもある五反田厳、一夏もよく知る気さくな親父さんだ。
「よう! 一夏、元気そうじゃねぇか!」
「あ、厳さん。どうも、お邪魔してます」
「おう、それで・・・友達とダブルデートか?」
「違うって。キラ、ラクス、箒、この人は弾と蘭のお祖父さんで厳さんだ」
一夏が厳をキラ達に紹介したので、キラ達も自己紹介をする。
「キラ・ヤマトです」
「ラクス・クラインですわ」
「篠ノ之箒、です」
「おう! 俺は五反田厳、この店の店長やってるぜ! よろしくな!」
なるほど、見た目こそ頑固そうな人だが、笑顔がキラや一夏とは別の意味で男前、別の魅力が感じられる。
「そうだ、おーい! 蘭! おーい!」
何を思ったのか、厳が母屋に通じる廊下に向って大声で呼びかけると、二階からなのだろう、「なにー?」という声が聞こえた。
「店に来い! 今すぐにな!」
『なんでー?』
「いいから来い!」
二分後、蘭が母屋の玄関から出て店の入り口から入ってきた。
「おじいちゃん、何? 私、宿題やってたんだけど・・・・・・って、ええ!? い、一夏さん!?」
「よっ」
孫の登場に事態を面白がっているのか、厳は笑いっぱなし。蘭は今の服装・・・人目は気にしているが間違いなく部屋着である着衣と一夏の顔を見比べて、みるみる顔を真っ赤にして目尻に涙を浮かべると・・・。
「うああああああん!!」
泣きながら出て行った。
「あらあら・・・災難ですわね、蘭さん」
「何ていうか、弾の性格が誰に似たのかを理解した気がするよ」
蘭が泣きながら出て行った事で弾と厳が言い合いをして、一夏が首を傾げ、箒が少し表情を暗くしながらも蘭を心配するかの様な表情をしていた。
蘭が出て行って、入れ替わるように店に一人の女性が出てきた。蘭に似ている所を見るに、弾と蘭の母親だろう。
「あら? あらら? 一夏くん、隣の女の子は彼女?」
「違いますってば」
「あら、そうなの。よかった」
彼女の名は五反田蓮、弾と蘭の母親にして、五反田食堂の自称看板娘とは一夏の談だ。
10分後、お出かけ着にエプロン姿という格好になった蘭が戻ってきて、真の看板娘の登場に店中が歓声に包まれる。
「い、いらっしゃいませ。一夏さん、ヤマト先輩、クライン先輩、篠ノ之先輩」
「あれ? なんだよ蘭、着替えたのかよ」
「ええ、まぁ・・・」
「一夏、あまりその辺は触れないであげなよ」
「ん? 何で?」
ラクスが箒に目伏せで合図をすると、箒が心得たとばかりに頷き、一夏の足を思いっきり踏み付けた。
「いっ!?」
「い、一夏さん!? どうかしたんですか?」
「いや・・・な、なんでもない・・・」
相当、力を込めて踏みつけられたのだろう。涙目になった一夏が無理やり笑顔を作っているが、思いっきり引き攣っていた。
「箒、普通に踏んだ?」
「いや、足の裏に紅椿を部分展開して踏み潰した」
「あらあら」
それは骨に罅が入るレベルだと思うキラだが、一夏なら普段から殴られたり蹴られたりして慣れているだろうからと、スルーしてあげる事にした。
決して、箒の見せた笑顔が怖かったからではない。断じてない。
「おい、蘭! 料理できたから運べ!」
「わ、わかってる! 大声出さないでよ、おじいちゃん!」
丁度キラ達の料理が出来上がったらしく、厳が蘭を呼ぶと、料理を受け取りに来た蘭が四人分の料理が乗ったトレーを受け取ると、ぷいっとそっぽを向いた。
「なんだぁ・・・? おい、弾、お前なんか蘭を怒らせるようなことしただろ!」
「俺じゃねぇよ!」
「ウソつくと為にならんぞ!」
「だぁ! なんで決めつけんだよ! じいちゃんのせいだよ、じいちゃんの!」
厳と弾が喧嘩している。最も、それはこの店にいる人間にとっては日常茶飯事らしく、気にする人間は一人もいない。
キラとラクスも血の繋がった祖父と孫の戯れだと思ってスルーしているが、箒だけは少し心配そうな視線を向けていた。
「い、一夏さん! おまたせしました」
「おう! サンキュ」
テーブルに料理が並べられ始める。
「はい、ヤマト先輩の分です」
「うん、ありがとう」
「それから、クライン先輩の分です」
「はい、ありがとうございます」
そして、最後に箒の分だ。
「お、お待たせしました・・・えと、お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな。ありがとう」
料理を並べ終えたのだが、蘭はその場で立ち尽くして一夏と箒を交互に見ていた。
「(一夏さんと篠ノ之先輩・・・今日はデートなのかな? でもヤマト先輩とクライン先輩もいるし・・・も、もしかしてダブルデートとか・・・? それだと嫌だなぁ・・・)」
「蘭? 如何かしたか?」
「は、はい!? ど、どうもしてないですよ!?」
「蘭ちゃん、そのね・・・見られてると食べ難いんだよ」
「っ!? し、失礼しました・・・!」
キラに指摘されて顔を真っ赤にした蘭はカウンターに戻って行った。
やっと落ち着いたので、四人は割り箸を手に早速だが一夏が勧める五反田食堂の料理を食べ始める。
「あ、美味しい」
「本当に、優しいお味です」
キラとラクスの口に合ったみたいだ。一夏もそれを聞いて我が事の様に喜びながら箸を進めている。
「箒は如何だ? 美味いだろ」
「ああ、これは・・・美味いな、醤油の味付けが良い」
箒も気に入ったらしい。元々、和食が好きな彼女なら、こういう店の料理は好みなのだが、特にこの店の味は彼女の舌を大変満足させた。
「だよなぁ、それ美味いよな」
「た、食べてみるか?」
「いいのか? じゃあ早速・・・」
箸を伸ばして少し貰おうとした一夏だったが、箒が自分の箸で取った分に手を添えて一夏の口元に運ぶ。
「た、食べさせてやろう」
「え・・・? ・・・っ!?」
頬を赤くして食べさせると言って来た箒の言葉、顔を見て、一瞬で一夏の頬が真っ赤に染まった。
その横では、キラとラクスが食べさせ合いっこをしていたが、実は箒を焚きつける為の行為だと気付いた者はいない。
あとがき
風邪ひきました…頭痛い、咳止まらない、息苦しい……タバコが吸い難いです←風邪の時くらい止めろ
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m