IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第八十三話
「戦う決意をした天才」
モニターに映し出された機体データ、第6世代型IS“樂兎(ラクト)”、未だに世界中が第3世代の開発、実験、量産化に苦労している中、遂に束とキラは第4世代、第5世代を更に超えて第6世代の開発に着手してしまった。
それはつまり、世界に対して真正面から喧嘩を売る行為であり、世界中で行われている第3世代開発を無意味にしている行為でもある。
「これは…誰が乗るんですの?」
セシリアの問いは至極当然のものだ。この場のIS操縦者の中で専用機も持っていないのは元日本の代表候補生である真耶だけ、その他は全員専用機を持っているのだから、樂兎の操縦は誰がするというのか。
「これはだな…」
「はいは〜い! これはなんと!! 天才束さんの専用機なんだよ〜!」
「ね、姉さんの専用機、だと?」
「そだよ〜」
まだ機体自体の作成に着手はしていないものの、設計自体は終わって、予定スペックのデータは完成しているので、それも並べて展開すると、当然だが高スペック過ぎる機体であり、それにもまた、驚きの声が上がった。
名称:樂兎
世代:第6世代
装甲:VPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲
推進システム:ヴォワチュールリュミエール
動力:ハイパーデュートリオンエンジン
武装:高エネルギービームライフル
ラケルタビームサーベル
ビームシールド
イーゲルシュテルン
遠距離プラズマビームライフル“大和”
中遠距離広域殲滅用ブラスターライフル“星光”
自立行動ユニット“アリス・イン・ワンダーランド”
第5世代の基本装備に加え、第6世代のコンセプトである自立行動兵器であるアリス・イン・ワンダーランドを搭載した第6世代機、樂兎は中遠距離戦闘に主眼を置いた機体になっている。
更に特筆すべきは機体自体に掛かっているリミッター機能だ。それもただのリミッターではなく、そのリミッターを外す事で樂兎は本来の性能の何倍もの力を引き出す事が出来る様になる…が、代償として機体に掛かる負担、操縦者に掛かる負担が大きすぎて、三段階にリミッターが分けられ、三段階目のリミッターを外した時は操縦者も機体自体も、自壊しかねない程の出力を発揮するのだ。
「これがもう一つの第6世代型ISのコンセプト、リミットブレイク機構だよ〜」
「リミットブレイク機構…そのリミッターを外した時の性能はVTシステムで暴走したISの比ではなさそうだな」
「そう・・・だね、乗る、の…怖そう」
束はこのリミットブレイク機構にブラスターシステムと名付けた。このシステムは云わば諸刃の剣、使えば絶大な力を得るが、代わりに自身も傷つく危険なシステムでもあり、これを操縦する束の決意の証でもあった。
「まぁ、第6世代の技術に関しては束さんとも相談して世界にはまだ広めない事にしたんだけどね。ブラスターシステムはまだ安全性が確立されてないから、正直に言えば束さんが使うのだって反対なんだけど」
キラの言う事は最もだ。このような危険なシステムを積んだ機体に乗るなど、束が決意の証として使うにしても正気の沙汰ではない。
「束さん、マジでこの機体、使うのか?」
「姉さん、私は正直反対だ。これは人が乗って良い機体じゃない」
「いっくんも箒ちゃんも心配性〜、大丈夫だよ〜。このブラスターシステムはあくまで予備、本命はアリス・イン・ワンダーランドの方なんだから」
アリス・イン・ワンダーランド、見た目は小型のIS…否、MSに似ている。ユニット自体は5機あって、それぞれの見た目はストライク、イージス、バスター、デュエルAS、ブリッツ、キラもよく知るGシリーズ初期の5機だ。
それぞれの名称、性能も見た目どおり、ストライク型はストライクで、性能としては汎用性に優れているユニット。イージス型はイージス、変形機構を持ち、全距離対応で戦えるユニット。バスターは遠距離からの射撃、砲撃専用のユニットで、デュエルASは中近距離専用のユニット、ブリッツは中近距離だがミラージュコロイドを搭載しているので、姿を隠した電撃戦を可能としている。
ユニットにも当然だがVPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲を搭載していて、ビームライフルやビームサーベルも持っている。それぞれが独立したAIによって束の脳波をキャッチしながら独自の判断で動く兵器なのだ。
「ユニット一つ一つが通常のIS一機分に匹敵する性能ですか…さすがはヤマト君と篠ノ之博士でなんですかねぇ」
「ああ、まったく馬鹿げている。樂兎は一機でありながら六機分の戦力を持っているのだからな、しかもユニットはあくまで樂兎の武装の一つとしてカウントされるから、一対一でも反則にはならない」
完全に競技用ではなく実践用の機体であるのは間違いない。当然だが、こんな機体のデータは世界に流せる筈も無いだろう。
「因みに、AIのプログラミングはキー君がやってるんだよねぇ」
「ええ、僕がストライクを使っていた時のデータ、アスランやイザーク、ディアッカ、ムウさん、カガリ、インパルスに乗っていた頃のシンやニコル君の仮想データが組み込まれてますので、性能としては高水準のものになってます」
C.E.でも最高、最強クラスのパイロットのデータが使われているのだ。これで並のIS操縦者がユニットに勝てる可能性は完全に消えたと考えて良い。
「ふぅん、そのデータに使われた人のことは知らないけど、でも篠ノ之博士が乗る機体ならこれくらいは必要じゃないかしら? 正直な話をさせてもらうけど、博士はISの開発者であって操縦者じゃない。当然だけどISを使った戦闘なんて行ったことが無い筈だし、本体である樂兎を扱う博士の自身の実力は代表候補生に劣るでしょうから」
楯無の言葉も最もだ。確かに、束は操縦者ではないから、ISに乗っての戦闘など未経験で、それをカバーするのが自立行動ユニットでもあり、ブラスターシステムなのだから。
「それで束、キラ、樂兎自体の組み立ては何時ごろから始める予定なんだ?」
「う〜ん…実を言うとまだ未定」
「……何?」
「僕も束さんも、設計したのは良いのですが、まだ技術が若干ですけど追いついていなくて、パーツも足りないですし、組み立て所か、部品造りすら始めてないんですよ」
つまり、まだ机上の空論状態なのだ。まだ技術的に完全な再現が出来ていないVPS装甲やハイパーデュートリオンエンジンを完全再現させられるまで、造るのは待っている状態で、部品を造る為の資材については束の隠れ家から送ってもらう予定だ。
「送ってもらう? 誰にだ?」
「くーちゃんだよ〜」
「…何者だ?」
「本名はクロエ・クロニクルさん、束さんが拾った孤児でして、戸籍上は束さんの義理の娘ですわ」
「近々学園に合流する予定ですが、今は束さんの隠れ家で色々と後処理を行っているんです」
もう驚く声も出てこなかった。いや、箒だけは顔一杯に驚愕の表情を浮かべて、いつの間にか義理の姪が出来ていた事に驚きや、複雑な感情を胸の内に渦巻いている。
「はぁ…まあ、もういい。とりあえずお披露目はこれでお終いだ。お前達はアリーナにでも行って新型機のテストでもやって来い」
千冬の言葉で我に返った一夏たちはそれもそうだとばかりに駆け足でアリーナに向かった。残されたキラ、ラクス、束、千冬、真耶の大人たちは一夏たちには見せなかった…否、見つからない様に隠蔽していたデータを開き、真剣な表情でそれを見ている。
「束、結局のところ如何だった?」
「このMって子? まぁ、クローンではないのは確かかな〜」
「やはりか…」
最初はクローンの可能性を考えていた織斑マドカという少女、千冬と瓜二つの顔で、一夏より年下と思しき背格好、クローンにしては技術が確立してからの年数とマドカの年齢が合わない。
「僕も独自に調べましたが、まず間違いなく織斑秋奈と織斑春文は生きてます。最後の目撃情報は千冬さんが第一回モンドグロッソで優勝した翌日、モンドグロッソの会場です」
「生きていたのか・・・しかもあの会場に居たとはな」
織斑秋奈と織斑春文、名前から判る通り、千冬と一夏の両親の名であり、一夏が生まれてすぐに失踪した二人だ。
「では考えられる可能性としては一つだな」
「織斑先生…」
「いや、気にする必要はない。私の家族は弟である一夏だけだ、それ以外の人間など誰であろうと家族だなどと認めるつもりはない…箒以外はな」
本人の目の前では絶対に言わないが、千冬も箒の事は妹の様に見ている。まぁ、一夏の幼馴染なのだから、当然だが鈴音の事も、少なからず妹分の様に見ている事も否定しない。
だから千冬としては一夏と付き合うのであれば、箒か鈴音なら許せた。千冬は千冬なりに箒と鈴音の事を可愛がっているのだ。第三者には絶対に判り難いだろうが。
「千冬さん、一つだけお尋ねします。今後、織斑マドカさんが現れたときは、戦えますか?」
「…ラクス、私を見くびるなよ? 相手が誰であろうと、敵として目の前に立つのであれば切り捨てる。一夏の障害になるのであれば問答無用で私が一夏を守る。それが幼い頃、あの二人に捨てられた時の自身へ誓いだ」
「それを聞いて安心しましたわ」
そう、相手が例え両親であろうと、血を分けた“妹”であろうと、絶対に容赦はしない。千冬は改めて暮桜を握り締めながら己と、己が手の中にある相棒に誓うのだった。
あとがき
大変お待たせしました。最新話一気に修正完了しましたので投稿です。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m