インフィニット・ストラトス――通称IS

 私――篠ノ之箒が世界で最も大嫌いなものだ。

 憎んでいるとも言っても過言ではない。

 これまでの通常兵器を無力化し、男女のパワーバランスをひっくり返した1人の天才が生み出したモノだ。

 私の姉『篠之束』が生み出したそれによって私の家族は離れ離れになってしまった。

 だから、私はISが嫌いだ。

 それが私の親友の人生を大きく変える事になったと知った時には更に嫌いになった。

 元々は電子系の技術会社とレスキュー会社を併せたような会社『ゲネラシオン・ブル』の事業すら私が接触したことで変わってしまった。

 その一年後、親友がIS操縦者を目指したと知り、会って話す事を望んだ。

 親友は数年ぶりに再会した私に、今まで向けた事のない憎しみに歪んだ笑顔で嬉しそうにこう言い放った。

『私は父親(あのひと)が一番嫌がる事をしてる』

 背筋がゾクリとしたのを覚えている。

 もうできるならISに関わらずに生きていきたいと望んでいたが、現実は上手く運ばない。

 IS開発者の親族である私の身柄を守りやすくするためにも、IS学園の入学が私の意思とは関係なく決まっていた。

 『重要人物保護プログラム』の一環と考えてしまい、もう絶望も失望もなかった。

 只々、スイスの代表候補生となった親友と再会できる事だけを希望にして何件目か既にわからなくなった家を後にした。

 そんな希望を胸に私は空を見上げている。

 ここはISの操縦を習う為の学園――IS学園のアリーナだ。

 そこでは青いISが2体が高速で飛び交っている。

「なんて楽しそうに飛ぶんだ……フレア・ブラン」

 空中を飛び交う6つのブルーティアーズというBT兵器は、高速で旋回しているフレアへと全方位から容赦なくレーザーを発射している。

 フレアは事もなげに、何度も何度もレーザーを黄緑の粒子を輝かせながらターンで掻い潜っていく。

 フレアが装着しているISは純スイス製のIS“アレルヤ”だ。

 手足は他のISとは一線を画し、小型である。

 後特徴と言えば背中に2つの大きな筒と足の裏に小さなボードを装備している事だ。

 全体を蒼で染め上げた空を思わせる機体だ。

 さすがは電子技術に特化していた『ゲネラシオン・ブル』が開発しただけはある。

 小耳に挟んだが、他と一線を画すシステムとして『アーキタイプ』と呼ばれる補助AIが搭載されているだけはある。

 回避運動の節々に感じる違和感にも、補助AIだからとなんとなしに納得してしまう。

「なぜ……なぜあたりませんの!? それも後進国の“オモリ付き”なんかに!」

 あれは確かイギリスの代表候補生“セシリア・オルコット”か。

 第3世代IS“ブルーティアーズ”を装着し、レーザー砲台を6つも同時に操作する技術には喝采を送りたいとも思う。

 それを避け続けるフレアの“アレルヤ”に搭載されてるAI『ゲオルグ』には何度も助けられたのが懐かしくもある。

 懐かしんでいるとフレアと『ゲオルグ』、政府の職員からかかってくる以外に鳴らない携帯電話が鳴り始める。

 着信に出ると

『「お久しぶりです、ミス箒。

 覚えていますか? 『ゲオルグ』です』

「忘れはしないさ。どうした? 今戦闘中のはずだが……」

「このレベルなら大丈夫です。

 元来、私『ゲオルグ』は組み込まれた複数のISを操作できるように設計されています。

 IS個体毎の容量に依存する事ではありますが、現在はまだ余裕といったところでしょうか」

「そうか……しかし、フレアは気持ちよさそうに空を駆けるんだな」

『ええ、彼女はこの3年間必死に代表候補生となる為に特訓し続けました……たった1人で。

 周辺諸国の研究者や候補生達に“オモリ付き”と蔑まされようと、黙々とたった一人で

 現在アレルヤは機体の性能においても理論値には遠いです。それもそのはずで、製造元の“ゲネラシオン・ブル”がIS開発に乗り出したのはミス・箒、あなたが『重要人物保護プログラム』の一環としてスイスへとやってきて、ミス・フレアと親交を深め日本に帰った後に彼女の方から社長へと提案がありIS開発に乗り出したのが3年前。スイス政府からISを提供してもらえたのが2年半前。徹底的に分解し、構造を理解し、同時期に開発を終えた私、『ゲオルグ』を組み合わせる事。世界に2か所。沖縄と北極圏にある“スカブコーラル”の内部から5年前に発掘された“サードエンジン”を複製し、これも同様にISに取り込みました。これにおいては他企業や政府機関に比べ開発が遅れた我々が選んだのは、他と大きくベクトルを外して走る事でした。また、世間では“アレルヤ”は第2世代に分類されています。それは第3世代思想にそぐわない為です。これから証明されるでしょうが独自進化した強みをお見せする事でしょう。現在の問題点は“サードエンジン”が起動していない事と各部におけるデータ……』

 スイッチが入ったk……うざいくらいに話し続けたか……。

 と呆れかえりつつ、わかった事が一つある。

 ――フレアのISは未完成で稼働しているという事だ。

 そして気になるのは、フレアがターンするたびに黄緑の粒子の光だ。

「ゲオルグ、あの光はなんなんだ?」

『あれは空気中の“トラパー”が、足の裏に装備した反射板によって反発した証拠です。“トラパー”とは“トランサバランス・ライト・パーティクル”の略で……』

「なんで……フレアもブラン社長もISに関わろうとしたんだろうか……」

 嬉しい反面、IS開発の為に私を受け入れたとも思ってしまう。

 だから自然と口を出てしまった。こんなモノ、本人達に聞くしかないのに……

『理由ですか、それは……』

「いい! お前から聞く事ではないから……ありがとう」

『一言でいえば、ISによって1つの兵器がシェアを占めた世界を平和にするためとアナタのためです。』

「な……」

『口が滑りました。それでは失礼します。』

 ブツリと切れた電話をしまい、私は再びフレアへと目を向ける。

 これについては、フレアに直接聞こう。

 自分の中で納得した私は、『ゲオルグ』から電話で安全なルートをナビゲートしてくれたのはいい思い出だなと思い出した。

 機械らしくバカみたいに説明が長いから、「うるさい!」と何度止めた事か……。

 それを差し引いても、“ゲオルグ”は優秀だ。

 だからセシリアが『オモリ(=お守り・錘)付き』と呼んでいるのを聞くたびに何を言っているんだ。と呆れてしまう。

 『ゲオルグ』が本気を出せばあんなものではすまない気がしないでもないが、実の所アレルヤについての詳細は知らない。

 それに、『ゲネラシオン・ブル』はIS事業に手を出したのは、3年前だ。

 アレルヤが完成している事すら賞賛に値すると思う。

 それをああも見事に操作しているのが我が親友だと思うと鼻が高いぞ。

 高速で飛び回る中、私の近くを通った瞬間に必ずフレアと目が合う。

 会社のイメージガールなのも納得してしまうぐらい、笑顔が可愛い。

 フレアの笑顔を見ると、スイスでの半年を思い出す。






IS〈インフィニット・ストラトス〉×エウレカセブンAO
笛吹き男は箒で空を飛ぶ
作者 まぁ





 高校入学までに私は20は居住先を変えさせられた。

 もうどのような家に住んだかなんてほとんど覚えてはいない。

 1つだけ忘れられない家がある。

 8番目に住んだ家。保護プログラムの中で唯一海外に住んだ場所だ。


  ◇

 それは小学6年生の春の事だ。

 日本政府の職員から言われた次の行先は那覇だったはずが、いつの間にかスイスに代わっていた。

 後に聞いた所、私を狙う人達が居場所に感づく間隔が短くなっているそうで、攪乱の為に海外を選んだそうだ。

 スイスに決まったのは情報統制の為のノウハウを日本政府は欲し、スイスのとある企業は日本の市場進出がしたかったからだそうだ。

 互いの益が合致し、今回の海外への転居が可能になったそうだ。

 受け入れ先の『ゲネラシオン・ブル』の社長“クリストフ・ブラン”が空港にて合流した。

 茶髪の髪をボサボサにし、ネクタイはだらしなく緩めている。

 なんならYシャツも若干ヨレている。

 緩んだ表情でハハハと笑っている。

 第一印象は“だらしないダメな大人”だった。

 飛行機に乗ってしまえば私には興味なしと仕事を始める職員と話すでもなく、私はいつも通り窓からの小さな景色を眺めていた。

 飛行機内の沈黙が静かに私に語りかけているようだった。

『お前はいらない子。荷物なんだ』

 と、思い込んだら視線をあげる事も出来ず只々涙を出さないように必死だった。

「あぁ、箒。すまないね。

 飛行機の中はつまらないよね。これでも見るといい」

 ブラン社長から渡されたのはポータブルプレイヤー。

 モニタには金髪の少女が主人公のアニメだった。

 そういうのを見る程子供だと思われているのか……それよりも出会って一時間もせずに下の名前を呼び捨てか! と力なく睨んだ。

 私の睨みなどどこ吹く風と、ブラン社長は既に資料に視線を向けている。

 アニメの内容は、金髪の少女“ブラン”ちゃんが人々をレスキューする話だ。

 アニメの中に出てくる文字は全て英語表記なので、外国製のものなのだろうなと当たりを付けた。

「それのモデルはね、私の娘なんだ。

 何を好んでかわが社のイメージガールもやっている。仲よくしてやってくれたまえ」

 さらっと言われたが、さすが社長。と謎に納得してしまった箒は、流れるアニメを見続けた。

 金髪の少女は明るく誰にでも優しいし、笑顔が眩しい。

 作り物だがら強調しているのだろうが、モデルとなったブラン社長の娘もこうなんだろうと勝手に想像してしまう。

 どのような子なんだろうと考えている内に飛行機は空港に着き、リムジンに乗ってブラン社長の豪邸にあっという間に着いてしまった。

 日本から付いてきた政府職員は豪邸の近くに住居を確保しているそうで豪邸には入ってきていない。

 ブラン社長は飄々と歩いて家に入ると、箒を連れて豪邸の中を進み、とある部屋へと案内する。

「この部屋が君の部屋だ。我が家だと思って好きに使ってくれたまえ」

 ブラン社長はハハハ! と笑って足軽に歩き始める。

 身体のべとつきが気になった私は、そこを勇気をもって呼び止める。

「あ、あの……お風呂、入って……いいですか?」

「ああ、いいよ」

 軽い返事が返ってきて、ブラン社長は風呂場まで案内してもらう。

 ちょっと図々しいかなと反省しつつ、風呂場へと足を運ぶ。

 長時間の飛行機とリムジンでの移動で、かいた汗を流したかった。

 さすがは社長邸。脱衣所もゴージャスだ。

 などと思いつつ全裸になり、風呂場に入ると先客がいる事に気づいた。

 同い年くらいの女の子の鼻歌が聞こえ、私はあたりをつけた。

『ああ、ブラン社長の娘か』

 と少し緊張しながらも、モデルになったアニメでの印象や父親のブラン社長の態度を思い起こし、勇気を出して声を掛けた。

「初めましてだな、今日からこちらでお世話になる……篠ノ之箒だ。よろしく」

 そういって、バスタブに掛かっているカーテンを開けた。

 そこにはアニメで見たような綺麗な金髪の少女がシャンプーで頭を洗っていた。

 カーテンを開けた瞬間にようやく私に気づいたのか、大きく目を見開いて体をこちらに向けた。

 そこで私は目にしてしまう。

 彼女の綺麗な身体の鳩尾から下腹部に掛けて大きな傷があるのを……。

 あまりに驚いたからか口から洩れてしまったのだ。

「その……傷」

 彼女が言葉を理解した瞬間、顔が嫌悪感に歪み、私の頬に強烈な痛みが走った。

 私の視線がいつの間にか何もない壁を見ている事がわかったと同時に、彼女からビンタされたのだとわかった。

 冷静に考えてみればそうだ。

 あんな大きな傷、自分だって誰にも知られたくない。

 それを始めて会った人に無神経に言われたら、手だって出るさ。

「すまなか……」

 ザバーン! と水を頭から被り、シャンプーを流し切る。

 大きな水しぶきを上げて、彼女は私の謝罪など聞こうともせず風呂場を出て行った。

 しばらく立ち尽くしてしまったが、私は汗を軽く流して風呂場を去った。

 夕飯の時にでも謝らないといけないな……などと思いつつ、ブラン社長に案内された部屋へと戻る。

 私が運べない荷物はもう既に部屋に置いていると聞いているので安心して入室した。

 これから半年過ごす部屋に少しの期待と緊張と共に入室した。

 そこには静かな部屋が待っているはずだった。

 まさしく静かな部屋が待っていたのだが、そこにはジト目で私を見据えるブラン社長の娘がベッドに座っている。

「先程はすまない。

 無神経すぎ……」

「あなたがあの人が言ってた“篠ノ之箒”よね?

 あの世界バランスを壊したISを生み出した天才の妹。

 天才の妹は海外でのんびり留学ってわけね。

 あの人が一緒の部屋で過ごせっていうからそうするけど、接待はしないから」

 謝罪する気持ちでいたが、一瞬で沸騰してしまった。

 お互いに話すことなくテリトリーが決まった。

 入り口入って右側が私で左側が彼女のテリトリーとなった。

 そこからはお互いに一言も口を訊かない所か視線を合わせる事もなく背を向けたまま時間を過ごす。

 カチカチとなる時計の音だけが部屋に響く。

 こちらにも許せない事はある。

 ブラン社長が共に取る夕食にも2人とも視線も合わせずに食べた。

 目を合わせたら殴り合うとでも言いたいように視線を合わせる事無く日常生活を過ごした。

 2週間も私はブラン社長の娘と視線を合わせる事もしなかった。

 もう2週間も一緒に生活しているが、下の名前を知らない事に気づきすらしなかった。

 だけど不思議と知りたいとも思わなかった。

 スイスでの生活はまさかの冷戦状態で開始されたのだ。

 そう、後に唯一の親友と言える彼女の第一印象は『絶対的な敵』だった。



  ◇



 同じ家から同じ車で投稿し、同じ学校の同じ教室にて授業を受けているが、私とブラン社長の娘は冷戦が続いていた。

 ブラン社長は私たちの冷戦を目の当たりにしているのに、何も口を挟んでは来なかった。

 彼女は一週間に何度もブラン社長に怒鳴っているのを見た事がある。

 敵の敵は味方というべきか、私はブラン社長と偶にではあるが話をするようになっていた。

 夜も更ければ、ベッドへと入り彼女と背中合わせで眠る。

 そんな日常を過ごして1ヶ月。

 今にしてみればよくそんなにも冷戦を続けられたなと驚き笑ってしまう時もある。

 もう何がきっかけだったのかも忘れて冷戦を続けていたある日、彼女はいつもベッドに着く時間を過ぎても部屋に帰ってくる事なかった。

 特に気にせずに横になって夢の世界へと意識を飛ばそうとした瞬間、荒々しく扉が開かれた。

 耳だけで動きを確認していると、いつもは綺麗に脱いで畳む服を床に脱ぎ捨ててベッドへと入ってきた。

 よほどイライラしているのだろう。と気にする事無く、私はまた眠ろうとしていた。

「ねぇ、あなた……あの人とよく話すよね」

「……」

「あまり信用しない方がいいわよ。あの人は最低だから」

 何を言ってるんだか……と彼女の言葉を受け流した。

 彼女は何もリアクションしない私を無視するかのように話し始めた。

「私があの人を唯親だから意味もなく恨んでると思う?

 ――あの人は大好きなママンを私の目の前で殺したの」

 憎しみの篭った静かな声に、私は思わず身を起こして彼女の方を見た。

 一か月ぶりに見た彼女もこちらを向き、憎しみに頬を緩めて見ていた。

「私とママンはね、昔交通事故にあったの。

 お互いの臓器を融通したらどちらか一方は助けられるって選択肢を投げかけられてあの人は

 ――迷わず私を選んだの。私は大好きなママンを選んでほしかった。それで死んでもよかったの。

 ママンに生きてほしかった!」

 彼女はおもむろに、ブラウスをめくり傷を私に向ける。

「これはあの人が大好きなママンを殺した証。そんな証を刻み込んだあの人が私は憎いの」

 傷をさする彼女は小刻みに震えているのがわかる。

 いつしか、下を向いた彼女から水滴がポタポタと落ちていた。

 彼女が泣いている。そうわかった瞬間、口が自然と言葉を紡いだ。

「私はISが嫌いだ。これからも好きになれるとも思えない。

 小さいころからなんでも出来た姉が作ったISが嫌いだ。憎いとも思っている

 政府の人は世紀の大発明だと嬉しそうだったけど、その性で私達家族は離れ離れだ。

 ISを認めた世界も私は嫌いだ」

 私は頭で考える事無く話していた。

 その事に気づいた瞬間、冷戦の発端はこれだったんだな。と思いだし、笑みがこぼれた。

「私は何もいらなかった。父に習っていた剣道ができて、皆で食卓を囲めればそれでよかったんだ。

 私には理解できない姉の言動に振り回されても、何もない日常が変わらずあってほしかった」

 そこからは漏れ出る鬱憤を吐き出し続けた。

 お互いに鬱憤を晴らし合い、私達は初めて起きたまま日の出を迎えた。

「そういえば、自己紹介をしていなかったな。

 余計なモノを開発したバカな姉を持つ、篠ノ之箒だ」

「フフ、そういえばそうね……。

 バカな父親を持つ、フレア・ブランよ」

 互いに一か月遅れの自己紹介を終えると、互いに腹から、心から声を大にして笑いあった。

 この瞬間、私とフレアは心の底から友達と……いや親友になれたのだ。

 私達は親友の存在を確定するように掌を合わせる。

 安心できたのか、掌を合わせたと同時に刺した直射日光で、私達は一瞬で眠りに落ちた。

 向かい合い、手を合わせながら……。



 それから私達は、常に一緒に行動し続けた。

 学校でも常に一緒。剣道の鍛錬もフレアと一緒にし行った。

 フレアの芸能活動にも私は着いていった。

 お風呂に入るのも、宿題をするのも、ショッピングに行くのも一緒だ。

 お互いの痛みを知り、ぶつかり、理解しあった私達は隠し事もせず過ごした。

 あっという間にスイス滞在を終え、別れる時には泣き続け、空港で一時間も抱き合ったのは今となってはいい思い出だ。





――――




 2つの蒼いISが飛び交うIS学園のアリーナ。

 圧倒的優位に戦闘を進めているセシリアは焦っていた。

 IS適性とBT適性共に『A』を出した自負と、貴族としてのプライドがある。

 ヨーロッパ周辺においても自分がトップであるという自負がある。

 だからこそIS開発において後進のスイスの代表候補生に手を焼くのはいただけない。

 それも『オモリ付き』とバカにしたISに一撃も当てていない。

 回避ルートの癖も読めてきているが、必ず想像を超える動きをする。

 イグニッションブーストでもない、空中を滑るように変な加速をする。

 変な加速をする時は決まって黄色と緑の光を撒き散らす。

 まるで波に乗るように滑って加速するのだ。

 フレアのISの足元にボードのようなものが両足にそれぞれ着いているからさらにそう思わせる。

 それ以外にも、フレアのIS“アレルヤ”は異形である。

 背中には左右に一つずつフレアの身長はあろうかという大きさの蒼い筒がある。

 それが稼働する事もなく、ただ装備されているだけだ。

 量子変換で武装を収納展開をこなしているISにおいてはかなり異例と言わざる負えない。

 ハイパーセンサーが標準装備されているISにおいては『ゲネラシオン・ブル』の強みは生かせないはずである。

「チョロチョロと逃げ回って!」

「当ててみなさいよ。

 ――『ゲオルグ』、準備出来てるわよね?」

『ええ。しかしこのシステムについてはまだ社長からGOのサインは出ておりませんが、よろしいので?』

「いいわよ、あんな人。それよりも貴重なデータよ、しっかりと取りなさいよ!」

 フレアが『ゲオルグ』に言い放つと、腰に設置された青い筒を起動させる。

 筒の外装5つが開き、簡易レーダーが顔を出す。

「まったくナンセンスですわね。ハイパーセンサーを搭載しているISにそんなモノは必要ない事もわかりませんの?」

「ホント無駄にうるさいな」

 フレアは小さくつぶやくと展開した筒の先をBTへと向ける。

 筒から微弱な放電を帯電する。

『それではミス・フレア、これより私は容量いっぱい計算に入りますので、フォローに入れない事だけは覚えておいてください』

「わかってるわよ。『ゲオルグ』、あなたもミスしないでよね!」

 これを転機にフレアは回避一択ではなくなった。

 ペッケージに収納していた両腕に取り付けるガトリンガンを展開する。

 肘周辺に展開した二丁のガトリンガンは銃身が回転を始め、金属音を鳴り響かせる。

「ようやく攻撃ですわね。後進国の攻撃なんて当たるわけはないですわ!!」

「後でほえ面書かない事ね!」

 フレアは照準を飛び回るセシリアへ追って向けて放つ。

 実弾を発射したフレアはキックバックを抑えつつ、動き回るセシリアを追いかける。

 縦横無尽に飛び周るセシリアは危なげなく飛んでくる実弾を避けていく。

 フレアの隙を突きセシリアはブルーティアーズを操作し、フレアへと向けて撃つ。

 ギリギリでレーザーを避けたフレアへと追撃を放とうとしたセシリアへ、力が2つ襲う。

 大きくよろけたセシリアへと逆にフレアからの追撃が襲ってくる。

 セシリアは追撃から逃れる為に大きく旋回して体制を立て直し、ブルーティアーズを再び放つ。

 フレアは急旋回し、レーザーを避けてすぐさま照準をセシリアへと向けている。

 セシリアには意識の外から再び力が2つ襲ってくる。

「またですの!」

 セシリアは力が来たと思われる方向に視線をやると、そこには自機のブルーティアーズが二機こちらに銃口を向けていた。

 あまりにも理解不能な光景にセシリアの頭は混乱する。

 ブルーティアーズはまだ試験機の域は出ない段階ではあるが、このような誤作動は開発段階でも起きなかった。

 操作ミスなんてものは適性Aの自分にはありえないと、混乱が収まらない。

「あぁら、どうしたのかしら……貴族様?」

「ふん! 煩いですわね」

 フレアの余裕ある言動を目の当たりにし、セシリアは混乱しつつもとある仮説を立てる。

 ――操作権を奪われた?
 勝手に撃ってこない所を見ると、偽装しているのか、発射権までは奪えていないのか……ここは1つ溜めさせていただきますわ

 セシリアは操作権を奪われたと思われるブルーティアーズ以外の1基だけをフレアへと発射する。

 発射していないブルーティアーズは同じくセシリアへと銃口を向けている。

 ――やはりですわね。
 操作と言っても、銃口の方向展開くらいしかできないようですわね。
 やはり後進国のIS、相手から強奪する事を考えるとは……

 ――いける!
 『ゲオルグ』と腰のレーダーをフル回転させて、BT兵器の操作権を奪えた。
 初実戦でもいけるじゃない!

 2人が思い思いの事を考えていると、フレアの腰のレーダーが突如放電が始まり、爆発する。

 甲高い悲鳴と黒鉛を上げながらフレアは地面へと落ちる。

「一体どうしたの! 『ゲオルグ』!?」

『負荷に耐えられず、本体自体がバーストしてしまったようですね。やはり急増とはいえ内燃燃料での稼働には限界があったようですね。やはりアレルヤのスペックを発揮するためには3rdエンジンの稼働が必須としか言えませんね』

 どうしろっていうのよ! っと叫びつつ、フレアは滑空を再開する。

 滑空し飛べば飛ぶほど、アレルヤは各所から煙を出し、放電が各所に現れる。

『拙いですね、ミス・フレア。急造ゆえの不具合が出始めましたね。
 内燃燃料での稼働を調整するためにすべての回路を繋いでいる事が現状を引き起こしたようです。
 ここについては検討課題として本国に送信しておきます』

 さすが機械、淡々としてるわ……と呆れながらフレアは不具合でうまく飛べなくなったアレルヤで飛び続ける。

 そこを容赦なくセシリアはブルーティアーズをフレアへと放つ。

 数発をなんとか避けるも残りがヒットし、フレアは一気に窮地へと追い込まれる。

 シールドバリアも残数が少ない。

 次の攻撃を受けたら0になる、

 不具合によってではあるが、これも実力か……とフレアは歯ぎしりしながらも懸命に縦横無尽に飛ぶ。

「後進国のISにしてはよくやりましたわね

 でも、これで終わりですわね」

 セシリアは余裕をもって、ブルーティアーズを全弾同時に放つ。

 負けた! っと目を瞑ったフレアに振ってきたのは、レーザーではなかった。

「ううぅうおあおあああああ!!」

 という少年の声と衝撃だった。

「なんなんだよ、あの兎耳……突然拉致したかと思ったら突然放り出しやがって!

 胸はすごく大きかったけどさ……ってそれよりもこの娘って」

 フレアが目を開けるとそこには、風に靡く水色の綺麗な髪の少年だった。

 見つめ合った瞳はピンクでこの世のモノとは思えなく、フレアは見惚れてしまった。

「フレ……ア」

 少年が零した言葉に驚きつつも、フレアはそれ以上に驚くべき現象が目の前で展開しているのだ。

 男がISを起動させているのだ。

 灰色とクリアグリーンの機体に、ボードに乗っている。

 ISの特徴ともなっている手足が巨大になっているのも見受けられない。

 系統としてはアレルヤに似ている。

「あ……あなたは、誰?」

「アオ。

 ――フカイ・アオ」

 彼は真っ直ぐな視線をフレアへと送り、ニッコリと笑う。

 フレアはアオを見た瞬間に謎のフラッシュバックが巻き起こり、追撃の質問をするに至らない。

 ただ焦点の合っていない瞳でアオを見つめ、ギュッと握った手は離すことはない。

 ――この手を離してはいけない気がする。

 フレアは只々瞳から涙を流し、崩壊していくアレルヤの腕でアオに抱きついた。

 無意識に抱きついたフレアは、何も考えれずただ身を初めて会った男アオに任せた。

 アオのISのボードに足を置き、全てを任せたフレアは涙を流しながら瞼を下ろす。




   ◇



 そう、突然の空からの乱入者『フカイ・アオ』。

 彼とフレアの関係はまだ見えてこないが、ここが始まりだった。

 彼を含め、私達のIS学園での3年間が始まったのだ。



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