「狂人と鬼」





「へぇ・・・やってくれたわね。これじゃぁ私の面目丸潰れ・・・」

「っけ!だからなんで俺様が付き合わなきゃいけねぇんだよ!」

「報復は無差別殺人よ・・・したいんでしょう?本当は」

「っけ」










 機動六課部隊長の八神はやてのスカウト失敗からしばらくして、時空管理局内で大きな事件がおきる。

 研究者で、裏で人体改造を行っていた人物が管理局の名簿をハッキングして手に入れて失踪したのだ。

 必要なものが全て手に入ったのか、誰にも気付かれずに男は消えていた。

 そして、裏筋の情報ではその男はそれなりの規模の組織に下ったとの事。

 ここでこの男捕獲に難関がいくつも出てくることとなった。

 まず局員名簿を持っていることから、聞き込みをすること自体が危険な事となった。

 また、管理局出身のテロリストとなれば対面も悪い。しかし、捜査を大々的にするわけにもいかない。

 そこで目に留まったのが、期間限定の部隊である機動六課。

 大きな事件を解決してひと段落している所だが、条件に全て合致した。

 しかし、顔が割れていることは変わらない。

 そこで、過去の失敗を使って今回の捜査を成功させようと、部隊長は1つの策を打って出した。

「こんなときこそ、揉め事処理屋。というわけでええな。早速交渉になのはちゃん向かってくれるか?」

「顔を知ってる人が行った方がいいんじゃないの?こういうのって」

「いや、一様用心してってところやね。揉め事処理屋としての依頼といってここまで連れてきてな」

「了解しました。ティアナを連れて行くね。探索とカモフラージュするために」

「おっけいや。場合によったら斬島さんにも依頼してくれてええわ。依頼額の交渉も頼んだから」

 そうして、なのはは部下のティアナ・ランスターを連れて、第102管理外世界に足を運ぶ。












 会ってみたて吃驚。優男として認知しているユーノ・スクライアよりも、争いという言葉が似合わない風体の男が、待ち合わせ場所に現れた。

「というわけなんです。依頼を受けてくれませんか?期間は不明になってしまうのですが、放ってもおけないので後、時間が経てば経つほど危険があがってしまうんです。」

「明日と明々後日に仕事が入っていますので、その間の一日に詳しい説明を聞きましょう。」

 仕事の話になると、そこそこ凛々しくはなるものの、それでも争いという言葉が似合わない。

 聖人君主にでもなるのか?っと勘違いしてしまいそうになる。

 明後日に真九郎を機動六課に連れて行くことに決まると、なのは達はさっさと転送して去っていく。

 そして、真九郎は約束どおりに機動六課の宿舎に連れられてくる。

 やはり、真九郎の戦闘をじかに見ていない者は心配そうに見ていたが、スバルをはじめとする戦闘を見たことある者にはとても頼もしく見えた。

 部隊長室に通されると早速、はやてとフェイトから依頼の詳細を聞く。揉め事処理屋らしく仕事には真剣。

 内容も一通り聞くまで質問を挟まない。質問が必要なところにはメモを入れたりと、かなり丁寧。

 真九郎に依頼した内容は、失踪した研究者スウェート・バルサが潜伏している可能性が高い三つの世界での捜査。

 潜伏している可能性の高い都市を三つずつ回ってもらうとの事。

 まったく知らない世界でわからない事があるだろうと、未だ管理局が知らないフェイトの使い魔であるアルフの子供.verをつけるとの事。

 細心の注意を払う意味で、転送は全て聖王教会で行うとの事。報告は各地にある教会の分署に提出するとの事。



















「ハァ・・・ハァ・・・こないで!・・・ハァ・・・」

 暗い街の裏道。生まれた子供を抱えた女性が辺りを警戒しながら息を整えていた。しかし、争い事に巻き込まれる事の少ない一般人がこんな緊急事態に冷静な判断も息を整える事も上手く出来るわけない。

 ゆっくりと近づいてくる足音に息はドンドンと荒くなっていく。

 そして、現れる足音の主。

 どこにでもいるような若者が不気味な笑みを零しながら近づいてくる。

「諦めて・・・ください。」

「ハァ・・・ハァ・・・」

「答えはどっちですか?」

「ハァ・・・い」

 女性が答えを言おうとした瞬間、蒼い光が女性の顔を削ぎ取る。手に抱えた子供に掛かる紅い液体。

 男は子供を抱きかかえると、女性の身体にも蒼い魔法弾を撃ち込んで元が何かわからない物体に変化する。

 男は罪悪感も何もなく、笑みを零しながら子供を連れて去っていく。

 後日、この件はニュースとなって世間に知れ渡る。残虐な殺人事件が発生したと。

 それから何軒も捜査する管理局をあざ笑うかのように起きていく。
























「これで、全部調査は終わったね。アルフちゃん」

「そうだな。ってか!ちゃんはやめろよな!」

「あぁ、ゴメンごめん、アルフちゃん」

「かわらねぇし・・・」

「じゃぁ、教会の分署にいこうか」

 真九郎はアルフを連れて、その都市にある教会に向かう。結局、全ての世界で痕跡すら見つけられなかった。

 テログループもこの所動きが見れないで、不審な事件すら起きていない。

 教会の分署に行き、報告を済ませると真九郎はアルフを連れて機動六課まで帰って来る。

 こちらも一切進展が見られておらず、かなり手詰まりに近くなってきていた。

 捜査が手詰まりとなってしまい、六課としてもこれ以上真九郎を雇っていてもどうにもならないと言う事で、

 一旦契約完了として真九郎に依頼料を支払い帰ってもらった。

 後味悪さを感じつつも、真九郎も了承して帰って行く。

 最後に真九郎はマリエルにいくつか、人体実験について聞いていた。




















「お帰り、ロリコンさん」

「あのな・・・もやしラーメン大盛りね。」

 帰ってきた真九郎は真っ先に銀子のいる楓味亭を訪れていた。

 その後ろにアルフがいるとも知らずに入っていき驚かされての銀子との会話。

 一様、今回の件については一切話さなかった。

 悪字商会に不穏な動きがあるという情報の詳細を買ってから、真九郎は五月雨荘に帰って行く。

 帰ると、環からからかわれながらも、悪字商会の不穏な動きについての資料に目を通していく。

 内容はやはり、胸糞悪くなるものしかなかった。その内容を見ようとアルフが騒ぐが、真九郎は拒否する。

 こんなものを子供に見せるわけにはいかないという、真九郎の心遣いである。

 内容は、女性ばかりが狙われているという内容。それだけなら普段と変わりないのだが、今回は大規模すぎる。

 関連の信憑性が低いものも含めると、既に4桁に届こうかとも思える。それに関連するように、赤ん坊も行方不明となっている。

 一流の情報屋仲間間のルートを使っても一切その行方がわからない。悪字商会と並び立つ裏の組織2つも同様の事件を起こしている。

 その数を合わせると、2000人の赤ん坊が行方不明になっている。そのどれも行方は不明。

 特にそれを解決してくれという依頼もないので、真九郎は記憶の片隅においておく事にした。

 アルフは飽きたのか、さっさと転送して帰っていった。そして、未だ昼の1時。

 これからゴロゴロして過ごしてもいいのだが、しばらくこの世界にいなかったので、崩月家で修行をしている散鶴の相手をしようと思い、準備していく。

 予想通り、散鶴に泣きつかれ、夕乃に色々と話を聞かれ、師匠と他愛ない話をして、夕食をご馳走になる。

 その帰りに、悪字商会の人事部の中枢、ルーシー・メイに出会うまでは真九郎は幸せな時間を過ごしていた。

 落胆しているルーシーが話した内容は真九郎の幸せ気分をぶち壊すのに、十二分の威力を持っていた。 

 急いで、五月雨荘に帰っていくと、早速連絡を入れる。

 




















 真九郎が入れた報告により、事件は思わぬ進展を見せる。

 人体実験に使われているかもしれない人材の入手経路が完全に割れた。

 真九郎の住む世界の裏の組織が人材を提供していたのだ。

 しかし、人材だけを持っていかれ、裏の組織に金は入らなかった。完全にバックれられたのだ。

 その情報により、研究所の所在が掴める結果となった。

 真九郎は機動六課の突入に参加させてくれるように頼み込んで、なんとか参加させてもらう事となった。

 自分の世界の子供が犠牲になっているなら、自分がなんとか助け出そうと必死だったのだ。

 第一弾の突入部隊としては、高町なのは、ヴィータ、シグナムと真九郎。

 第二弾はフェイト、スバル、ティアナ。

 最終として、八神はやて、エリオ、キャロとなっている。

 戦闘態勢となった4人がまず突入するために転送ポートに集合する。

「ほな、揉め事処理屋さん。1人でも救ってあげてな。」

「はい。」

 少し足の震えが見えながらも真九郎は転送されていく。

 やはり、戦闘を見たことない人にとってはかなり不安を抱かずにはいられない。

 自信満々に見送ったはやて、フェイト、スバルは、次の突入に向けて準備を始める。




















「えっと・・・これは・・・嵌められたって事かな?」

 転送された真九郎は苦笑を漏らすしかなかった。

 転送された瞬間、一緒に来たはずの全員がどこかに消えてしまったのだ。

 そして、目の前に現れた研究所に1人で入っていくしかなくなった。

 やはり、何度実戦を踏んでも膝は震えるのをやめない。

 それに慣れているのか、真九郎はゆっくりと研究所が入っていく。

「ようこそ!待っていたよ・・・実験にはちょうどいい。」

 研究所に響き渡る男の声。動き出す異形の影。それも尋常な数ではない。

「君の前にいるのは、君の世界から連れてきた実験体の完成形だ。もう二度と戻る心配もない。完成されたものだ。存分に味わってくれたまえ。」

 男の声と共に、異形の者となってしまった子供達が真九郎に襲い掛かる。

 攻撃できないまでも、攻撃をさばいて凌いでいく真九郎。

 しかし、戦闘に感情を挟んでしまう甘さを持つ真九郎。

 攻撃を一度受けてしまうと、そこからは避ける事も出来なくなる。

 集団によるリンチ。

 常人には耐えれるはずもない暴力を受けて意識を保っているのは、真九郎が受けてきた崩月での修行によるものだった。

「きみ、中々面白い身体をしてるね。子供達よ、頭を潰して連れてきなさい。」

 男の言葉に異形の子供達は攻撃を変えてくる。高く飛び上がっての全体重を掛けて頭を潰しに掛かる。

 4人、5人と攻撃を受け、頭蓋骨が軋みを上げてくる。

「中々、頑丈じゃないか。続けなさい。」

 真九郎が死を間近に感じ始め、全ての者に謝罪を行っていた時。今回の事件で最も怒り狂っている者が表舞台に上がる。




















「シャーリー!トラップを回避して送って!」

「はい。今処理してます。」

 八神はやては送り込めたのが外注の真九郎なだけと、完全に不安な状況を早く打開する為に必死だった。

 真九郎の戦闘力の高さは知っているが、それは生身でっという前置きが付く。

 魔法世界では一切それが通用するとは思えない。

 他の所に飛ばされてしまったメンバーも続々と目的の場所まで独自で進んでいく。

 こちらの処理により、転送されるのとほぼ変わらないぐらいの時間で辿り着ける。

 その間の時間、真九郎が生きていることを唯願う。 

 そこに本局から連絡が入る。その相手は、提督リンディ・ハラオウン。

 事態の異常性を察知してか、裏から手をまわしていたのだ。

『久しぶりね、はやてさん』

「リンディ提督!」

『開発メンバーのテロリスト化ですからね。魔法関係が排除されるかもしれないっと思ってね。あなた達が買ってる真九郎さんの世界の者を送り込ませてもらいました。』

「・・・え?」

『心配しないで。2人だけでも、戦力は軍隊並だから。それで時間は稼げるはずよ。』

「はい。ありがとうございます。」

































 その登場は、派手。他の言葉を用いれないくらい派手。

 壁がまるで砲撃を受けたように勢いよく崩壊して、子供達に弾丸として襲い掛かる。

「はぁ〜い。絶奈ちゃん登場!」
 
 崩壊した壁から現れたのは、星噛絶奈(ほしがみ ぜな)。

 真九郎の世界で裏の家業で恐怖の代名詞の家柄の1つであり、今現在裏の世界でトップを走る組織・悪宇商会の最高顧問。

 20そこそこの綺麗な女性からは想像もいかない先程の破壊。

 子供達は迷わず絶奈を襲う。人の胴体程もある拳が絶奈に勢いを乗せて打ち抜かれる。

「あらら・・・たったそれだけなんだ。」

 吹き飛びもせず受け止めた絶奈はゆっくりとベルトから9mm弾を右手の義手に装填すると、優雅に振りかぶって子供に撃つ。

 子供は絶奈の動きとは裏腹の威力に唯の肉塊になって転がる。

 そこからの絶奈は優雅な動きで子供達を肉塊にしていく。

「あら・・・紅君じゃない。どうしたの?まさかマゾ?」

「星・・・噛・・・絶奈?」

「あなたはそこでマゾにでもなってなさい。私はここの主に用があるの。

私の顔に泥を塗ったのはこれで二人目・・・一人目のあなたは腑抜けてるし・・・」

「・・・こいつらはあんたらが攫った子供達なんだぞ・・・」

「相も変わらず甘い事・・・私に向かってくるんだから、壊すに決まってるじゃん。

 それに私、ストレス溜まってるの」

 そうして、真九郎を無視して絶奈は子供達を肉塊にしていく。

 絶奈の介入にも関わらず、子供は無尽蔵に出てきては襲ってくる。 

 義手に弾丸を装填する間は無防備に攻撃を受けている。それでもダメージは一切見せはしない。

 それは絶奈の身体のほとんどが人工物に取り替えられている為である。

 しかも、その人工物が普通の物ではない、星噛家で作られるもの。その性能は一線を画している。

 魔法技術が発達したミッド世界でも一級品として勝負できる程の性能を持つ物が身体を構成している。

 真九郎も絶奈の登場により、復活を果たす。攻撃できないまでも少し強めにいなしている。

 しかし、真九郎は絶奈と違い、子供達を退けないので群がる数は異常なものとなっていた。

 しかし、その状況がまた好転する。

 真九郎のすぐ横の壁が、まるで紙のようにスパッと斬り崩される。

 その土煙の中から現れたのは、マフラーと黒いリボン、鋭く鋭利な光を放つ日本刀。

「怪物か・・・殺しやすいじゃねぇか。」

 交戦的な目と笑みで斬島切彦は笑っていた。突然の侵入者にも子供達は襲い始める。

 が、肉切包丁で、剣を30年以上極めていた剣の達人を軽く葬る切彦。

 それが日本刀。それも日本刀の最高品、業物。

 その戦力たるや、既に最強といっても過言ではない。

 生半可な戦闘力な者にとってはその字名通り

 
 “ギロチン”



 襲い掛かった子供達は絶奈とは違った肉塊にされていく。

「お前はまたかよ。相も変わらずショボイエンジンしてるな。」

「切彦ちゃん!なんでココに」

「仕事だよ。裏十三家の当主としてな。雪姫の件もあるからな。それにコイツら戻れないだろうが!それを生かしてても惨めなだけだろうが」

「・・・・そうだね。俺も・・・揉め事処理屋としての仕事をしよう。」

 覚悟を決めた真九郎。心の底に施した封印を解く。

 右腕から師匠から託された崩月家の称号、戦鬼の角が現れる。 

 そして、真九郎の中に流れる血液が入れ替わるように熱くたぎってくる。

 その身に宿した強力が解放される。

 真九郎は子供達を殲滅する事を優先せず、奥に進む為の道を作るために子供達を吹き飛ばしていく。

「紅君!殺さないでね。首謀者を」

「殺しませんよ。俺は揉め事処理屋です。」

「殺す時は殺すんだぞ!真九郎。」

 切彦と絶奈の言葉を受けながら、真九郎は奥に進んでいく。

























「いい素材だな。欲しいなぁ」

 研究所の奥の部屋で、男はモニターに写る3人を見て怪しく笑う。

 そして、子供達に施した最後のスイッチを起動させる。

 それはすぐに子供達に現れだす。

「今回は、2体としようか。白兵戦と刃かな。」

 男の入力により子供達は二体の肉塊に固まっていく。

 対峙していた絶奈と切彦はそれを妨害しようともせずに唯見ていた。

 それは裏十三家に生まれた者の本性。絶対者として君臨してきた一族としてが持つ余裕。

 そうして、肉塊となった二つが形を成し、異常なまでの密度を持った筋肉を持った5mはある身長の化け物。

 もう一体は、ギロチンのような怪しい光を放つ大鎌を二本生やした化け物が二人の前に現れる。
 
「ねぇ、ギロチン。どっちとやりたい?」

「刃をもってる方とやっても面白さなんてねぇ。」

「あら、意外と気が合うわね。私は刃とやってみたかったの。」

 2人は余裕の笑みを浮かべながら、それぞれの相手と対峙し始める。

 2人とも、戦闘の殺気は纏っていても構えなどは一切取りはしない。自然体。それが2人に共通する構え。




















 真九郎は遂に辿り着く。奥の奥にようやく辿り着く。

 今回の事件の首謀者、スウェート・バルサが椅子に座って優雅にモニターを見ていた。

 真九郎は目の前のモニターに写る二体の化け物に目を奪われていた。

「君、面白い物を身体に入れてるね。人工物じゃない。人体の中で自然に出てきたモノ・・・そう、君でない誰かの身体で生成したもの。君の世界はすばらしい素材が多いな・・・興味がでてきたよ。

 君、崩月流という武術を学んでるんだって?崩月・・・その家系の者がこれを生成しているのかな?その身体の中で・・・違う?」

 真九郎は恐ろしくなっていた。目の前の男は異常だ。

 自身の興味の対象に対しては異常なまでの頭の回転を見せる。

 それも的確に・・・

 そして、コイツは必ず実行に移してくる。

 崩月が持つ戦鬼の角を狙って・・・夕乃を、散鶴を、冥理を、師匠の法泉を狙ってくる。

 そして、子供達みたいに滅茶苦茶にしてしまうだろう。自分の欲を満たす為に・・・

 それだけはさせない。

 目の前にいるのは、かつての絶奈。人である前に唯の敵。

 いや、それ以上の存在。自身の知る世界に生かしていてはいけない物。

 こいつを生かす事は、自身をここまで育ててくれた崩月家を危険に晒す事と同じ。

 自身が持つ全てでこの存在を滅殺する。

 自身に掛けていた封印をもう一度解く。その引き金は絶対的な怒り。

 そこに一切の情はない。いや、情は存在していた。唯、その前に“温”“恩”ではなく“非”の文字が付く。

 自身の角に付いていた亀裂から自身の中の異常な高温を逃がすように湯気が立ち込める。

 腰を捻り、完全な戦闘に入っていく。

 角を開放して沸騰したかと思うくらい熱を持った血液が、また一層熱くたぎってくる。

「崩月流甲一種第二級戦鬼・紅真九郎!」

「君さぁ。崩月を捕まえるまで僕の実験に付き合ってくれよ。」

 真九郎の変化を目の当りにしようと、変わらないスウェート。

 自身にも改造を掛けている上に魔法技術もある。

 どれだけ真九郎が強くなろうとも勝ちしかないと確信している。そんな余裕を持っていた。

 しかし、真九郎の跳ね上がった戦闘力は異常を通り越していた。

 一瞬にして、20mはあった2人の距離はなくなる。完全に物理を無視した加速で距離を縮めている。

 そして、放たれるローキック。魔法を使うものに備わっている緊急用の物理防壁が展開するも。

 真九郎のローキックの速さに追いつけず防壁を構成しきる前に真九郎の足が通り抜ける。

 そして、音もなくスウェートの太ももをまるで達磨崩しの達磨の一部のように、地面に叩きつける。

 そして、真九郎の足の幅だけ削り取られた足は無残にその機能を停止させる。

 そして、また、物理を無視した初速を持った拳がスウェートの下っ腹を突き抜ける。


 
 魔法対人体。完全に勝敗は見えていたはずだった。




















「「「・・・」」」

 なんとかトラップを通り抜けて侵入したなのは達管理局メンバーは信じられない光景を目の当りにする事となった。

 大量に詰まれた二山の肉塊。その奥に響く轟音。それが戦闘の凄まじさと未だ継続している事を表していた。

 そして、微かに聞こえてくる女の人の笑い声。完全に楽しんでいる。

 進んでみると、紅い髪をなびかせながら華麗に大鎌を避ける女性と、巨大な拳を避ける黒いリボンで髪を結んだ少女。絶奈と切彦は笑いながら戦闘を楽しんでいた。

 そして、2人ともなのは達に気づくと、揃って溜息をついて、より一層リラックスしたようにダランと自然体になる。

 完全に選手交代と思ったなのは達が前に出ようとした瞬間、目の前の2人が攻撃に移った。

 魔法で強化された化け物と人体の力のみの人間、それも女性。

 しかし、戦局は女性に一方的に傾いていた。

 鋭い刃を軽く腕で受け止めると、ベルトから9mm弾を右手に装填する。

 そして、優雅に腰を捻り、腕を振りかぶる。そして、全体を使った完全全力な一撃。

 それまでも要塞砲と言われるに等しい威力を持っていたが、今回の一撃はそれの更に上を逝っていた。

 要塞の主砲といっても過言ではない。

 まずは右足。物理法則をギリギリ保ったような捻りによってグチャグチャと肉塊になる。次に左足。

 胴体。頭部。4発の全力の右正拳によって20mはある化け物を完全な肉塊にした絶奈は切彦に興味も示さずに、奥に進んでいく。

 一方の切彦は攻撃してきた拳をなます切りにしていく。

 どんな攻撃をして来たとしても必ず斬って相手にダメージを与えていく。

 防御すら完全な攻撃となっていた。

 一撃も受ける事無く化け物を完全な肉塊にしてしまうと、持っていた日本刀を読み終えた雑誌を床に捨てるように興味なさげに捨てる。

 そして、ダウナーな状態になり省エネモードな切彦になる。と身を縮める。

 なのは達は切彦の護衛を兼ねてシグナムを置いて、奥に進んでいく。その通路に絶奈は存在していなかった。

 そして、奥の部屋に入ると、そこには優雅に振りかぶる絶奈。

 真九郎は既に興味を無くして壁に持たれて座っている。

 勢いよく振り下ろされた拳によって今回の首謀者スウェートは肉塊とも呼べない何かに変わってします。

「ふぅ・・・悪宇商会をコケにするなんておバカさん。絶奈ちゃん、ストレス発散完了!依頼も終えたし、帰ろうかな」

 絶奈は入ってきたなのは達に目も暮れずに去っていく。

 途中で切彦と合流すると、切彦が捨てた日本刀を回収して去っていく。

 さすがに経費を考えての事なのかはわからないが、そこら辺は組織の最高顧問。というところか。













「お疲れさん、揉め事処理屋さん。」

「はい。俺も帰ります。」

「やっぱりこっちに来る気はないですか?」

「はい。俺はあの世界で生きていきます。」

 真九郎は振り返りもせずに去っていく。研究所を出た所で転送されて世界に帰って行く。こうして、今回の事件は集結を迎える。








 完





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