「紫と散鶴の探検記」
九鳳院紫。
表の世界で今尚力を誇示する家の一人娘。
崩月散鶴。
裏の世界で恐怖の代名詞となった家の1つの次女。
2人はそれぞれの家の教えでは接触する事は禁じられていた。
しかし、2人には共通点があった。
揉め事処理屋の紅真九郎と知り合いであるという事。
九鳳院紫。
かつて真九郎によって呪われた九鳳院の仕来りから開放された少女。
崩月散鶴。
生まれた時から世話してもらい、真九郎を実の兄のように慕う少女。
そんな2人は、真九郎に連れられて機動六課の宿舎を訪れていた。
2日間、機動六課の宿舎でホームステイする事となった。
その始まりはこうだった。
「真九郎!何処へ行っておったのだ!?私の護衛の依頼をしようとしたというのに!」
「ゴメンゴメン。仕事だよ。明日の護衛は受けたんだし、許してよ。」
「・・・わかった。っで何処へ行っておったのだ?海外か?」
「んっと・・・そう。海外」
「嘘をつくでない!真九郎は嘘を着く時、不細工な笑顔を作るからな!」
「ぅ・・・ぁあ・・・異世界だよ。この前知り合った人からの依頼でね・・・こっちからは連絡のメールを送るだけしか出来ないよ。
そんな目で見られても、連れて行かないぞ。あっちも忙しいんだから」
「・・・ケチ」
「ほら、湯豆腐が出来たぞ。」
五月雨荘の真九郎の部屋で3人で鍋を突付く。
会話には参加していなかったが、散鶴も真九郎の家に泊まりに来ていたのだ。
千鶴も紫と同様に真九郎が言った“異世界”という言葉に興味を引かれたが、真九郎がダメっと言ったので何も言わない。
結局3人は鍋を食べ終えると3人で銭湯に行き、紫と散鶴は1つの客用布団で眠りに着く。
真九郎は疲れの為か、紫達より早く眠りに着いてしまう。
それを確認したのは紫。既に船を漕ぎ始めた散鶴を静かに起こす。
「千鶴、真九郎の携帯を取るのだ。」
「ん・・人の・・・見ちゃダメ」
「お前も、“異世界”に行きたいのだろう?」
「行きたい・・・でも・・・見ちゃダメって・・・お姉ちゃんが」
「ならば、私だけでいく。」
紫はこっそりと真九郎の携帯を取ると、電話帳の欄を開く。
さすがに散鶴も興味あるのか、携帯を覗いていた。
「どれだかわかるか?」
「ん・・・この人」
散鶴は携帯に示された名前を指差す。そこには、“八神はやて”と表示されていた。
紫は早速はやてに対してメールを送る。
「これで、履歴を消せば・・・っと」
紫はチョコチョコッと携帯を操作すると、元の位置に戻して眠りに着く。
「さてと・・・説明してもらおうか?」
朝、未だ眠い目を擦っている紫と散鶴は怒りマークを浮かべる真九郎に起こされて正座させられていた。
朝早くにはやてから携帯に電話があった事により、紫と散鶴の行為がバレる結果となった。
「散鶴がな・・・異世界に・・・行きたいからと」
紫がシドロモドロしながら言い訳を始める。
散鶴は自分の名前が出た事に驚いて、紫の顔を目を見開いて見る。
「嘘着くな!」
声は小さく強めに言い放つ真九郎。紫と散鶴の頭を軽く握る。
「人の携帯を勝手に見るのは?ちーちゃん」
「だめ・・・」
「うん、そうだね。人の携帯で勝手にメールを送るのは?紫」
「・・・・ダメなのじゃ」
「そうだな。しかも、履歴まで消すなんて・・・ダメだよ。」
「そうは言っても行ってみたいのだ!異世界に」
紫の懇願に、散鶴も無言で乗って真九郎を見つめる。
「それはわかった。相手側も喜んで迎えるってさっき連絡があったよ。」
「っで・・・では!?」
「連れて行ってやる。でも!条件がある。紫はあっちで勝手な行動は取らない事!ちーちゃんはあっちでも一時間だけは修行する事。わかった?」
「約束する!なぁ散鶴?」
「・・・うん」
「来週の金曜の夜から日曜の朝まであっちで過ごす事になるから・・・一様、家には許可を取るからあんまり言いふらさない事。」
「「うん」」
説教が終わると真九郎は、九鳳院家の紫世話役の騎馬と崩月家に許可を取る為に電話をしていく。
特にイザコザもなく許可が下りる。
こうして紫と散鶴はミッドの機動六課宿舎に2日間のホームステイが決定した。
「待ってたでぇ。真九郎さんに、紫ちゃん、散鶴ちゃん」
宿舎のロビーにて、部隊長の八神はやてに笑顔で迎えられた3人。その脇には、ヴィヴィオを連れたなのはと
スバル、エリオとキャロが迎えた。
「2日間、よろしくお願いします。」
真九郎が頭を下げると、散鶴も顔を紅くしながら真九郎の真似をして頭を下げる。
紫は逆に胸を張ってはやて達を見ていた。
そこに容赦なく真九郎の手によって頭を下げさせられる。
「まぁ、この前はホンマ助かりました。」
「いえ、仕事ですから。それよりもすみません、この子達が勝手に・・・」
「ええですって、うちらも大きな事件が片付いてまったりしてるところですから。
教導に参加しますか?真九郎さん」
「はぁ・・・訓練場の一角を少し貸して欲しいです。この子の訓練をしたいんで」
そう言って真九郎は足の後ろに隠れている散鶴を前に出す。
顔を赤らめて下を向く散鶴は、真九郎のズボンを力一杯に握る。
それを見た紫も真九郎のズボンを負けじと握る。
「わかりました。なのはちゃんもええよな?」
「うん。この子達にとてもいい刺激になると思うし・・・見学はしてもいいんですよね?」
「はい。といっても、参考になるとかはわかりませんけど」
真九郎は笑顔で答えると、訓練場のどこを使うかを教導官のなのはと打ち合わせを軽くおこなう。
その間に、紫はなのはの傍らにいた同い年ぐらいのヴィヴィオを見ていた。
自信満々に息を吐くと、堂々とヴィヴィオに近づく。
「私は九鳳院紫である。お前はなんと申す」
「ヴィヴィオ。高町ヴィヴィオだよ。」
「これから2日間、世話になる。よろしく頼む」
「うん。そっちの子は?」
ヴィヴィオは真九郎の後ろに隠れている散鶴を見る。散鶴はより一層真九郎の影に隠れる。
それを見かねて紫が散鶴の腕を掴んでヴィヴィオの前に立たせる。
「ほ・・・うづき・・・ちづる・・・です・・・」
オドオドと答える散鶴。ヴィヴィオは笑顔でよろしくねっと笑顔を向ける。
それに散鶴は遠慮げな笑顔で答える。
「っという感じでお願いします。そういえば、教え子さん達は4人ですよね?」
「はい。この子達ともう1人いるんですけど・・・その、この前の件でですね・・・」
「あぁ、そういう事ですか。大丈夫です。気にはしてませんから・・・部屋って何処になるんですか?」
「案内役や、今回のホームステイの世話役には、フォワード陣をつけますのでなんでも言ってあげてください。」
はやてはフォワード陣を真九郎に紹介すると隊長格は去っていく。フォワード陣とヴィヴィオが真九郎達を
部屋に案内する。紫は早速ヴィヴィオと打ち解けたのか、道中で楽しそうに話していた。
散鶴はチラチラと見てくるエリオ達の視線に目を伏せながら真九郎の手を握っていた。
「それでは、なのはさん。訓練場の一部借りますね。」
胴着に着替えた真九郎と散鶴はなのはに挨拶すると、訓練場の一角で崩月流の修行を開始する。
といっても、崩月の角を生まれつき持つ散鶴がする事は戦いに慣れる事のみ。
崩月流とは、元は内弟子用に伝えられたものであり、直系にはまったくといって良い程必要のないものなのだ。
しかも、崩月流の目的は肉体の徹底改造。
真九郎も弟子となってから8年掛けてなんとか崩月の角を使える身体を手に入れたのだ。
それに至るまでに体中の骨という骨を折られ砕かれ、内臓の位置が変わるほどの肉体改造を行ったのだ。
そうして、ようやく直系と肩を並べられるスタートラインに立ったというだけ・・・
それほど、裏十三家と一般との溝は深い。
「じゃぁ、始めようか。ちーちゃん」
「うん。」
芝生の上で散鶴が真九郎に攻撃を仕掛けていく。
といっても、普通のか弱く大人しい女の子のように不器用に拳を振るう。
真九郎はそれを無情に逸らしていく。
腰も入っていないパンチなど受けても痛くもないのだが、そうしては散鶴が育たない。
いかに裏の世界から手を引いたとしても後の世に崩月の力を伝えていかなければならない。
その為に散鶴にも、力の使い方を覚えなければならない。そのためにも、ここは情を挟んではならない。
未だ小学校の低学年の散鶴もその事をわかっている。
だから何度も冷たく逸らされても、向かっていく。
その様子を見学していたフォワード陣一向。
とても信じられなかった。
10歳に満たない女の子が受けるものではなかった。
何度も無情にこかされ地面に叩きつけられる。
先程会った気の弱そうな女の子がいるとは思えなかった。
何度も必死に真九郎に攻撃を入れようと立ち上がって、不器用に拳を振るう。
見ている方が助けを差し伸べたくなるような光景ながら、真九郎の顔は無情なまま動きはしない。
普段はヘラヘラとしている癖に戦闘になったときだけは無情になれるのか。
さすがはあんなに躊躇いなく殺人が行えるのだもの不思議はない。
前回真九郎が関わった事件で見せられた光景。
大量の死体。エリオとキャロははやて達の機転によって見ることはなかった。
が、ティアナははっきりと見た。現場検証にも立ち会った。
子供達がかなり改造され元に戻せる状況ではなかったのはわかっていた。
しかし、それを止めるのに選択したのは全員殺人だった。
紅真九郎は最後まで躊躇はしてはいたが、首謀者を死に至らしめる傷を平気で着けたのだ。
嫌悪感すら沸いてくる。
実の兄が死んだ事も真九郎達を軽蔑するファクターになってはいるが、どうしても受け入れる事は出来ない。
殺人を行う者を止めるのが管理局員の仕事でもある。
それを逸脱しているようにも思える。
「どうして、殺したんですか?」
真九郎達が訓練を終えて、汗を流してから訓練場の一角で紫と散鶴が真九郎の膝枕で眠っているところへティアナが質問を飛ばす。
真九郎は驚きもせずに、クスリと笑う。
「アイツを生かしておくと必ず、ちーちゃんが危険になるから」
「でも、私達が捕まえていたら幽閉100年は固いです!危険は及びません!」
「でも、生きていれば危険が及ぶ可能性があった。」
「だから殺したんですか!?」
「殺すよ・・・俺は俺が生きる世界で大切な人を殺そうとするヤツは迷わない・・・これ以上失いたくはないしね」
「・・・」
「理解してくれ、なんて言わない。でも、俺は・・・そうするしかちーちゃんを守れなかった。それに映像は見たんでしょう?俺の右腕にある角も」
「はい・・・どうやったらあんなものが出来るのかわかりませんでした」
「わからなくてもいい。知らなくてもいい。でも、この角を生まれ持っているちーちゃんに使わせたくはない。例え、使って俺の寿命が縮もうとも構わない。俺が守りたいと思った人たちのおかげで生きて笑えるから」
「なんで・・・戦う事を選んだんですか?」
「憧れだよ。
死にたくて死にたく仕方なかった時に会った人の強さに死への衝動も吹き飛んだ。
こんなに強かったら今とは違う景色が見れると餓鬼の頭ながら思ったんだ。
それから俺は崩月で力を得た。
殺人した俺達に嫌悪感を持ったんでしょう?」
「・・・はい」
「それでいいよ。それでこそ正常。君はそのまま・・・生きて欲しい。俺達の世界は歪んでいる。
だから・・・君みたいな子が眩しいよ。」
真九郎はそれ以上語ろうとはせず、膝で眠る2人を見ていた。
ティアナもそれ以上話そうとはせずに去っていく。
「では、行こうではないか!」
夕食の後、紫は散鶴とヴィヴィオと3人で地図を見ていた。
始まりは夕食時にヴィヴィオが楽しそうに話したミッドの観光話。
六課宿舎へのホームステイの内容にはミッド観光は含まれていなかった。
そこに始めは不満などありはしなかった。
しかし、聞いてしまっては行きたくなる。
好奇心旺盛な子供だもの仕方ない。
世話役のエリオに何気なくミッドへの行き方を聞き出した。
こういう事には異常に頭の回る紫は、この世界の移動方法はなんだ?っという質問から入って、ミッドへの電車の便の多さを聞く。
なんの疑いもなく教えたエリオはなのは達に報告すらしなかった。
唯、好奇心旺盛だなっと思っていた。
このエリオの何気ない事が事件となって最終日に一波乱が起こる。
始まりは一番朝の早いなのはの発見からだった。
いつもは気持ち良さそうに眠っているはずのヴィヴィオがいなかったのだ。
トイレかな?っとトイレを見てみてもいない。
パジャマも探してみたが、ない。
心配になってきたが、仕事があるために同室のフェイトに捜索を頼む。
フェイトが捜索を始めた頃、客室から真九郎が大慌てで走ってきたのだ。
どうやら、真九郎も同じ状況らしい。
目覚めると紫と散鶴が消えていたのだ。パジャマもなく、不可解だった。
自分の体の件で、散鶴が誘拐されたのかもっと思った。
「ちーちゃん見てませんか?紫もいないんです」
「こっちもヴィヴィオがいないんです。」
フェイトと真九郎はお互いの状況を話して、冷静になろうとしていた。
「どうやら・・・誘拐って感じではないですよね。ちーちゃんはともかく紫とヴィヴィオちゃんは・・・」
「いえ、ヴィヴィオも少し特殊ですから、可能性はあります。」
フェイトは理解できないとは思ったが、真九郎にヴィヴィオの事を話す。
理解はしていなかったが、真九郎はヴィヴィオが少し特別な存在であるという事は理解していた。
それからは局員に聞きながら3人の捜索が始まった。
「これは可能性でしかないんですけど・・・スウェート・バルサのデータバンクが一部ハッキングされてました。もしかすると、崩月の情報も入っていたのかもしれません。今、技術部の子が調べてますけど・・・すみません。こちらの不備ばかりみせてしまって」
「いえ、報せてくれただけでもありがたいです。」
そうは言ってもフェイトには気になる事があった。
ハッキングの後を発見してから今日で丸2日。
ハッキングされた情報か、ハッキング先は出てもおかしくない。
考えたくはないが、もしかしたら管理局の一部の腐敗した上層部が関わっているのかもしれない。
技術部から口が閉ざされている。
嫌な考えが頭を離れない。
「フフフ!伊達に電車とやらにはのってはおらん」
紫は自慢げに後ろを歩く2人を見ていた。2人は年長者となる紫についていく形となっている。
駅を出ると、ヴィヴィオが言っていた観光名所に向かって歩を進める。
しかし、なのはに連れられていたときとは違い、自分で進むとなるとやはり迷う。
街をウロチョロとして迷いに迷う。
暗い路地に迷い込んでしまい、ヴィヴィオと散鶴が泣き出す始末。
そもそも、ミッドに出たのには少しワケがあったのだ。
無理やり決めさせたホームステイの為に色々と骨を折ってもらったし、いつも世話になっている。
いつも笑顔で受けてくれる真九郎に恩返しのつもりで、ミッドでヴィヴィオが見つけた綺麗な石のアクセサリを探しに来たのだ。
ホームステイに持ってきたお金を総動員してなんとか買おうとしたのだ。
しかし、目的の店の場所が見つからなかった。
さすがにいつもは強気な紫も弱気になってくる。
何の根拠もなく2人を励まして足を進めさせていく。
そうしていると、泣いているヴィヴィオがフト見つける。目的の店を・・・
「ほら!ついたであろう?もう泣くな、なぁ?散鶴」
「・・・うん」
「では、真九郎への土産を買おうではないか」
3人はそれから必死で真九郎への贈り物を探した。
もう既に今まで泣いていた事など忘れていた。
土産を渡したら真九郎が笑ってくれると思うと、笑みしか出てこない。
この瞬間は幸せだっただろう。
朝早く、日も昇らない頃から出てきた3人。
店がわからずに迷っていた事が丁度よくいい時間となったのだ。
店が開いてからずっと昼を過ぎるまで3人ともずっと夢中で探していたのだ。
そうして、ようやく決めれたのは2時を回ってからだった。
それから駅に向かって3人は歩き出した。
しかし、行きと同じように迷ってしまう。
通り過ぎていく人に聞ければよかったのだが、さすがは街。
誰も少女3人に目も向けない。
忙しそうに歩いていくだけだった。
「大丈夫なのじゃ!ここまで来れたのだがら、帰ることも出来る!」
「・・・お腹すいた・・」
「ヴィヴィオも・・・お腹すいた」
そういわれてみれば、お腹がすいている。
朝飯もいつものオヤツで済ませたので、既に限界までお腹がすいていた。
紫は、真九郎といるときの事を思い出して、まずは財布の中身を確認した。
生まれが大財閥で、お小遣いすら既に軽く一般のサラリーマンレベルの年収とほぼ同額を持っているながら、紫たちの世界でしか通用しない通貨であるし、何よりカードであった。
今ある使えるお金では、電車賃を除くと全員分のお菓子すら買えない。
「仕方が・・なかろう」
紫は、意を決して、コンビニに入ってなるべく2人が好きそうな物を選ぶ。
買ったのは、ドラ焼きだった。
それを2つに別けると、お腹を擦っていた2人に渡す。
「2人は既にお腹ぺこぺこであろう?それでも食べるのだ。」
2人は紫の言葉に笑顔を漏らしながら、受け取る。
そして、口をつけようとした瞬間に何かを訴えたそうに紫に目を向ける。
「私は大丈夫なのだ。お主たちと違って大人だからな!」
育ち盛りの紫が空腹を我慢出来る訳ない。しかし、自分よりも年下の者がいる前で泣き言など言えない。
紫の言葉を受けて、二人は勢いよくドラ焼きを食べる。
「食べ終えたな!?では行くとしよう。」
紫は自身の空腹がばれないように、空元気を見せながら歩を進める。
「さすがに、中にはいないようですね。」
「ええ。3人が揃っていないとなると」
「「街に出た?」」
機動六課の宿舎の中を数時間探し回ったフェイトと真九郎は残された可能性で捜索する事にした。
ミッドの街へ出て行った可能性を。
しかし、行くとしてなんの目的もなく出て行くものだろうか?
このホームステイでの約束として、要求はちゃんと伝える。
出来ない事には、ちゃんと納得するように言うから。
っと約束したのに。
そういう子達でない事はわかっている。
特に散鶴はダメと言われれば、しない子である。
大人しく引っ込み思案なので、活発に動くとは思えない。
紫も、約束はちゃんと守る子だ。
好奇心旺盛で散鶴とはまったく正反対の性格だ。
しかし、そこがしっくり来たのか仲良くしている。
ヴィヴィオちゃんもそんな人が困るような事をするとは思えない。
なにか共通の目的があったのだろう。
それも大人たちに知られたくなかった。
「街でヴィヴィオちゃんが知っているところを探しますか・・・」
「そうですね。車で行きましょう。」
2人はもう、急ぐ事を止めて、デパートではぐれた子供を探すようなテンションになっていた。
午後には帰るというのに、出てくる様子もない。
「お互い、腕白な子供を世話してますね・・・」
「そうですね。私は後継人ですけど」
車の中で、2人は執りとめもない話を続けていた。
そんな中、六課の技術屋。シャーリーが通信を入れてくる。
『フェイトさん。やっぱり、情報は上層部に流れたようです。』
「そう・・・どの情報が流れたの?情報自体は完全に破棄したけど」
『映像情報が数分ですね。上からの圧力で揉み消されそうになってたのをなんとか拾えました。他にもあるかもしれませんが、握りつぶされました』
「どんな映像だったの?」
『はい、リンディ提督が雇った星噛絶奈と斬島切彦の戦闘の映像です。』
「真九郎さんのあの角の映像はないんだよね?」
『私が握れた中には・・・ですけど』
「そう・・・今はヴィヴィオ達を捜索してくれない?」
『今のところはミッドの街中をウロチョロしてます。』
「お嬢さんたち、迷子かい?」
管理局の内勤用の制服を着た男が、未だ路地を迷っている紫たちに声を掛ける。
管理局員と接して慣れているヴィヴィオは救われたような顔で近づこうとする。
「おぬしは誰だ!」
しかし、誘拐といった事が日常茶飯事の世界で暮らす紫と散鶴は警戒心丸出しで聞き返していた。
「迷子なら家まで連れて行ってあげるよ?」
「いらぬ。探検しておるだけだ!」
「そうなの?ヴィヴィオちゃんだよね?ママには言って出てきたの?」
「・・ううん。黙って」
「ママからも連れて帰るように言われているんだ」
「嘘を着くでない!」
「嘘ではないよ、ママとも知り合いだよ」
「嘘だな。お前、名前は?」
「マルス・エイだよ、お嬢さん」
「嘘だな。幾つだ?」
「23だっ」
「嘘だな。管理局員というのも嘘ではあるまいな?」
紫の有無を言わさぬ、相手の発言の嘘を見破る力に、男は表情を何時しか崩していた。
初めの方は嘘を言い当てられたとしても平然と受け流しは出来る。
しかし、全てをああも自身満々に言い当てられると表情など簡単に崩れる。
「どうせ、私達を誘拐しようとでも思ったのであろう。さっさと消えるが良い」
完全なまでに言い負かされたマルス。言葉で騙して誘拐する事に失敗した者がとる行動など数知れている。
力での誘拐。子供3人とはいえ、大の男が力で来て逃げ切れるはずもない。
「逃げるのだ!」
紫の言葉にヴィヴィオと散鶴は逆方向に駆け出す。
紫も最後に走り出したが、長く美しい黒髪がマルスに捕まる。
「いたい!離せ!」
その声に反応したのは、散鶴。
引っ込み思案で、学校でも人と話すことはほぼない散鶴。
話すのは、親族と真九郎。
最近、ようやく紫と話すようになった。
っと言っても、昔から少し一方的に言葉を投げてはいた。
心を開く人が少ないからこそ、その人を大事に思っている。
そんな散鶴が必死になって紫の救出に向かう。
「っん!」
狙ったのは、紫の髪を掴んでいる手の親指と人差し指の間。
真九郎から、護身術程度に人の急所は教えてもらっている。
それが生きた。
というよりも、必死な散鶴が届く限界だったのだ。
しかし、散鶴の頑張り虚しくマルスの空いている方の手で叩かれて、壁に吹き飛ばされる。
「散鶴!っく、ヴィヴィオ!逃げるのだ!逃げて・・・真九郎を呼んで来るのだ!」
「で・・・でm」
「黙ってでてきたのだ!誰かが報せねばなるまい!!行くのだ!」
紫の言葉にヴィヴィオは全力で走り出す。手元に残ったわずかなお金を握り締めて人ごみに向かって飛び込む。
「散鶴・・・大丈夫か?」
「・・・はなして・・・紫さんをはなして!」
散鶴は涙を流しながら、立ち上がってマルスに向けてまた拳を振り上げる。
も、マルスは興味を失ったように軽く足蹴にして吹き飛ばし、こけた所を踏みつけ電話を掛ける。
「・・ええ、捕獲しましたよ。実験素材。別働隊も捕獲に向かったそうですし、これから隊の宿舎に連れて行きます。」
「何の事を言っておる!」
紫の強気の言葉に、完全に表情が消えうせた顔で紫を見下ろしていた。
その表情は、かつて紫を子供を生む人形としか見なかった九鳳院の男達と似ていた。
その表情に一瞬怯んだ紫。
「黙ってろよ。近親相姦でしか子をなせない欠陥品が・・・」
「・・な・・・んで・・・」
「色々と調べたんだよ。お前はオマケだったがな。本命はこっちだよ。角を生まれつき持つ化け物。」
マルスの言葉に散鶴も紫もショックで黙り込んでしまった。
「化け物は化け物らしく実験に付き合って死ねよ。」
「っ!黙れ貴様!それ以上しゃべるな!許さぬぞ!散鶴を!真九郎を化け物というなど!」
「黙れっていっただろうが!」
マルスの非情の蹴りを腹で受けた紫は涙と胃液が流れ出て強制的に黙らされる。
「ハァ・・・ハァ・・・」
ヴィヴィオは必死に走っていた。
握り締めたお金が汗で滲もうが、必死で探していた。
激減して見つからない公衆電話を。
そして、頭の中で何回も唱え続けていた。
自身の母親、高町なのはへの直接通信の番号を・・・
人ごみに逆らって走っているので、何人にぶつかってこけようとも、紫の為、散鶴の為に必死に立ち上がる。
「見つけた!ハァハァ・・・」
十分経っただろうか、既に肩で息をしているヴィヴィオが震える手で番号を押していく。
コールが始まると、遂に安心の溜息が自然と零れる。
「っあ!なのはm」
『ヴィヴィオ!今何処にいるの!?』
「あのね・・・紫ちゃんと」
『何処にいるの!』
「ミッド・・・紫ちゃんたちが危ないの!」
『どうしたの?』
「管理局のせいふk」
必死で紫の危険を話そうとした瞬間、口を押さえられ、通信が強制的に切られる。
そして、首に怪しげな注射を打たれると、意識を失う。
「さて、ゆりかごを失ったとはいえ聖王。使いようはいくらでもある。」
管理局の制服を着た男は意識を失ったヴィヴィオを担ぐと人気のない所に行き、転送する。
「は?」
『多分、ヴィヴィオは誘拐されたんだ。さっき電話が途中で切られたんだけど、最後の一瞬出てきたのは管理局の制服だった。それに、ヴィヴィオは紫ちゃん達が危険だって、それに管理局の制服って言ってた』
「つまり、レジアス一派が崩壊して暴走した古き妄執とも取れる腐った一派が起こしたものって事だよね、なのは」
『うん。紫ちゃん達が誘拐されたのを見ると、相手は真九郎さんの角の映像を見たんだと思う。』
「・・・俺の・・・せいですね」
なのはからの通信を受け、フェイトと真九郎は一足遅かったことを知る。
そして、一気に色を失う2人。
「教えてください。紫たちを誘拐した一派の事を」
『・・・はい。一度こっちに戻ってきてもらえませんか?詳しく説明します。内部の事ですけど、真九郎さんも関係者ではありますし』
2人はなのはの言葉どおり、機動六課の宿舎に戻っていく。
「始めに言っておきます。これは管理局の崩壊にも繋がる事です。
管理局が人体実験用に誘拐するなんて事はあってはならないんです。」
「御託はいいです。必要な情報を早く」
「はい・・・まず、スウェート・バルサはこの一派のエースでした。でも、唯所属していただけでした。
彼等の目的は戦闘機人の更に高位への推移させる事。
崩月散鶴ちゃんはこれのデータ取りに誘拐されたんだと思います。
それにヴィヴィオも何か目的があったのかもしれません。
唯、誘拐した人物の情報を漏らさない為だったかもしれません」
「その一派の場所は?」
「待って下さい。こちらも技術部と知り合いのツテを使って情報を得ているところです。
それが出るまで待って下さい」
既に説明しているはやて達にすら、睨む事をやめない真九郎。
いつ飛び掛っても不思議ではない雰囲気ながら、はやても引き下がれはしない。
そんな緊迫状況の中、真九郎の携帯が鳴る。
すっと出ると、相手は斬島切彦。
いつものようなダウナーな感じではない、刃物を持った時の荒々しい口調だった。
しかし、いつもと1つだけ違うものはあった。
「雪姫が消えたんだ!光の円に吸い込まれるように!!」
焦っていたのだ、理解できない事が起きたように。
結局、雪姫が吸い込まれた光の円は転送魔法。
こうも連続して、裏十三家の者が誘拐されたとあっては確定したといっていい。
管理局の一部が暴走を始めたのだ。
紫、散鶴、ヴィヴィオ、雪姫を誘拐。
既に夕暮れ時となり、崩月の家からも連絡が来ていた。
真九郎はありのままを散鶴の姉である、夕乃に話す。
おっとりとした口調で受けられる電話を終えると、真九郎とフェイトは真九郎の世界に飛ぶ。
こうして、散鶴と紫のホームステイは管理局の暴走の引き金となってしまった。
完
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