「ヴィヴィオちゃん。こっちこっち!」
嬉しそうな声でヴィヴィオを呼ぶエリン。2人は暇を持て余した事もあり、病院を脱走して街へと出ていた。
脱走ルートを熟知しているエリンの先導で、事も無げに脱走に成功したヴィヴィオは初めて通る道に、久しぶりの外の世界にワクワクしてしまう。
教会に来る事は多かったが、付近の街へと行った事はないので、初めての街へと訪れる高揚感は心地いい。
「ヴィヴィオちゃんの身体も良いみたいだし、遠くの可愛いお店に行こうよ」
「うん! でも大丈夫なの? バレたらまずいんじゃ……」
「結構マズイんだよねぇ。でも、大丈夫。私何度もやってるから」
そう……提案してきたのは、今日の朝。
いつもよりも早くバルコニーに行くと、エリンも同じタイミングで訪れた。
いつも、お互いの他愛無い話をするのだが、今日は何故か違う言葉が出てくる。
「暇だね」
その言葉を聞いたエリンは、外へ行こうと持ちかけてくる。
ちょうど身体も完治し、動きたくてウズウズしていたからちょうどいい。っと了承した。
初めて訪れた街は車もそこそこ通っており、出荷場所が近くにあるのか、トラックも多い。
エリンがお勧めしてくる店はどれも可愛いデザインで、女子向けの店ばかり。
扱っている商品も可愛く、あまりそういった商品を見る事がないヴィヴィオも目を奪われて時間を忘れて見て回る。
「あそこだよ! あのお店絶対ヴィヴィオちゃんが気に入るよ」
そう言って、エリンは足早に横断歩道に出る。
ヴィヴィオが笑顔で、危ないよっと言いながら後を追おうと小走りになった瞬間、ヴィヴィオの視界は白くなる。
――高速で走るトラックがエリンと正面衝突して横切ったのだ
呆気に取られながら、トラックが過ぎ去った方向を見ると、40mほど行った所に血だるまになっている物体が見える。
ヴィヴィオは思考が追いつく前に、全力で走り出す。
たどり着くと、そこには四肢がありえない方向へと折れ曲がり、肋骨が肌を突き破り至るところから出る血が道路に血だまりを作り出している死体と言っても過言ではないような傷を負ったエリンが倒れている。
既に意識がないのか、エリンの表情は固まったまま。
呼吸もしにくいのか、ヒューヒューと音を立てていた。
そのあまりにも悲惨な情景に、ヴィヴィオは嗚咽がこみだしてくる。
携帯で救急車を呼ぼうと、ポケットから取り出したのは嗚咽を我慢して数十秒が過ぎた頃である。
ヴィヴィオが震えながらボタンをポチポチっと押していると、『パキッ』っと断続的に音が鳴り始める。
携帯で場所を教え救急車を待っていると、エリンの身体から出ていたはずの折れた肋骨が身体の中へとゆっくりと引っ込んでいくのに気づく。
それだけではなく、エリンの体中が音を立てながら折れた骨は正常な位置へ、突き破られた肌は元の状態へと戻っていく。
理解不能な光景にヴィヴィオは、言葉を失いただ眺めるだけであった。
救急車が着いたのは電話をしてから10分ほど。
その間にエリンの身体は、腕が折られた程度の傷に自己治癒されていた。
道路に出来た血だまりと至るところが突き破られ血がべっとりと着いた服とは対照的に、エリンは自身で立って救急車へと乗る。
ヴィヴィオは無意識にエリンを追うように、車へと乗り込む。
移動中の車内でも、『パキッ』っという音は小さく鳴り続けた。
エリンは音が鳴り止むと、体中を動かし完治を確認する。
数十分前には、即死していてもおかしくない重傷を受けていたはずのエリンの身体は、傷1つなく生き生きとした潤いを持っている。
さも当然のように、その現象に驚く事もない。
そして、言葉も発せずにエリンを見続けるヴィヴィオに寂しげな笑顔を向けると、視線を落とす。
「あぁあ……また死ねなかったなぁ。
――今回はいけると思ったんだけどな」
その言葉にヴィヴィオは恐怖がこみ上げ、エリンから急いで席を離す。
そんな恐怖心どうでもいいと、エリンはヴィヴィオへと笑顔を向け続けた。
魔法少女リリカルなのは×紅×電波的な彼女
電波的なヴィヴィオ
第二章 偽りの祈り
その二 「賢者の石を持つ者」
作者 まぁ
病院脱走後、ヴィヴィオはバルコニーに行く事が出来ないでいる。
あれほどの重傷を数十分かそこらで完治させてしまう体質異常、死ななかった事に残念そうにしていたエリンに会うのが恐ろしい。……その感情が支配している。
病室の扉が空く音にさえ、ビクビクと反応し部屋から出る事も少なくなっている。
脱走した事を注意しに来たシャマルに自分が見た事をそのまま話すと、シャマルは当然のように頷いて肯定する。
「あの子はね……特殊なのよ、ヴィヴィオちゃん。
あの子の身体はね、恒常性維持機能超促進状態な身体なの」
恒常性維持機能、それは身体を常に最も健全な状態に復元しようとする身体に備わっている機能。
エリンはその機能が暴走したのか、例え骨が粉々に砕かれようと復元する。
神経が切れようと元の状態へと復元する。
言うなれば、錬金術が辿り着く究極の成果、『賢者の石』を体内に生成したようなモノ。
身体は歳を取らず、疲れ知らずに動き続ける事すら可能。
「元々はね、エリンちゃんには先天性技能として治癒能力があったの。それがご家族全てを亡くしてしまった事故の際にどういうわけか暴走してしまったの。それ以来どんな傷も私達が処置する前に完治してしまうの」
「なんで……なんでエリンは死にたがってるんですか」
「両親がいないから……かな。私も何回も聞いてるんだけど、教えてくれないの」
シャマルは少し悲しげな表情で笑顔を作る。その医師として、人としての無力さを突きつけられたような感覚に、シャマルは静かに笑う事しか出来なかい。
少し気まずい雰囲気の中、来訪者がノックもなく病室へと来訪者が現れる。
夏というのに、見れば高級品だと一目で分かる白いファーのついた黒のコートに革の手袋をした胸が大きな女性、星噛絶奈がそこに立っていた。
手には純正アルコールが入った一升瓶。胸元を大胆に空け、セクシーさが嫌でも目に付いてくる。
気まずい雰囲気の中にいて
「ハァロ〜。異世界の子供ちゃん、少しは大きくなったようね」
絶奈はヴィヴィオをいつも“異世界の子供”っと冗談半分に呼ぶ。始めは名前で呼ぶように催促するも、変わる事はなかった。
数年に一回会うか会わないかの程度しか会わないが、そのインパクトが絶大で忘れたくても忘れられない。
「絶……奈さん、どうしてここに?」
「私の神経を揺さぶれる逸材の娘が入院なんて聞いたらこないわけにはいかないじゃない。思ったよりも元気そうなのね、ざぁんねん」
静かに入ってきた絶奈から強烈な血の匂いと焼け焦げた肉の匂いが2人の鼻へと届く。
ヴィヴィオはバッと視線を絶奈の拳へと視線を送る。
光の加減か、薄っすらと黒の革手袋がテカっている。
それが血であるのかっと考えただけで、ヴィヴィオはゾクッと背中に悪寒が走り、身体が硬直し始める。
「絶奈さん、それって……」
「あぁ、これね。さっき雑魚をプチッとね」
絶奈は人差し指と親指で蟲をプチっと潰すジェスチャーを、ふざけた笑顔と共にヴィヴィオへと送る。
そのふざけた言動にヴィヴィオは絶奈が命を奪った相手に対して虫程度にしか思っていない事を再認識させられる。
先ほどまで笑顔だったシャマルは笑顔を凍りつかせながら、絶奈へと睨む様に視線を送る。
「絶奈さん……どこでそんなこと?」
「安心していいわよ、シャマル。下の街で10……20……っとちょっとかな。これでようやく順番が回ってきたわ」
「順番?」
「あぁ、こっちの話よ。金塊探しのね」
絶奈はなんでもないと手を振りケラケラっと軽く笑い、ゆっくりと優雅にヴィヴィオの元へと歩み寄る。
ヴィヴィオのベットの傍へと近づくと、コートの中から手袋の血が薄っすらと着いた肉厚の厚い小さな封筒がヴィヴィオへと放り投げえられる。
こびりついた血に驚きつつも、中身を確認しろっという絶奈の視線に押され、封筒の口をゆっくりとあける。
中からは束になった札が姿を見せる。
意味がわからずに動揺しつつ、ヴィヴィオは固まってしまう。
「祝儀よ、異世界の子供ちゃん。初めての人殺しのね」
絶奈の言葉に、ヴィヴィオは愕然としてしまう。
目覚めてから一度も考えた事はない、頭をよぎった事すらなかった。
爆弾魔は死んだ。
目を閉じ、身を固めていた自分には、炎を上げていた光景だけが記憶に残っている。
爆弾魔が生き残ったのか、死んでしまったのか、確認できないで真九郎にミッドへと連れ去られてしまった。
その後の真九郎との二度の模擬戦が強烈過ぎて失念していたのか。
絶奈に言われた瞬間、心が凍ってしまったかのように凍り付いてしまう。
身体の芯からブルブルと震えが込み上げ、ショックのあまり声が声にならない。
「ヴィヴィオちゃんは殺してません!」
「殺したわよ、あの子はまだ死ぬ気はなかったのに……あなたが見つけちゃうから」
「あの爆弾魔はヴィヴィオちゃんが依頼を受けなかったら、真九郎さんか紅香さんが受けていた案件です! だからヴィヴィオちゃんがしなくても……それにヴィヴィオちゃんは手を出してないのよ!」
「 引き金を引かせたんだから、殺したものよ。まぁ、私はそんな議論するつもりはないのよ。ただ、お祝いを兼ねてね」
絶奈は、シャマルの反論もヴィヴィオの困惑した視線も気にも留めない。
見舞いにもらった林檎を豪快に1つ掴むと、2人に目配せもせずに去っていく。
絶奈がドアを静かに閉めると、先程とは異質な沈黙が病室を支配する。
ヴィヴィオは今だ混乱がはれず、シャマルは困惑するヴィヴィオに何と言葉を掛ければいいかと沈黙してしまう。
「……気に、気にしちゃだめよ。ヴィヴィオちゃんは誰も殺してないんだから」
「で、でも、爆弾魔は私に会わなければ死んで……」
「だとしても、真九郎さんか紅香さんにやられてたわよ」
同じような会話がヴィヴィオとシャマルの間で何度も何度も繰り返される。
無限ループになってしまった2人の会話を遮るように、着信音が鳴り響く。、
助かったとばかりに通信に出ると、受付の職員がひどく慌てていた。
『シャマル医師! あの子が……エリン・ギウムが……』
「エリンちゃんがどうしたの!? また脱走したの?」
『黒いコートを着た女の人に連れられて……止めたんですけど、警備員が全員なぎ払われてしまって』
「エリンちゃんは強引に連れてかれたの? ついていったの?」
『着いていってました。後、“お葬式の用意しておいて”って……あの子まさか』
「ありがとう、こっちでも急いで探すわ。早く連絡を入れて対応してくださいね」
シャマルは慣れているはずのエリンの脱走。絶奈と思われる人物に連れられるように出て行ったという報告で、焦りが生まれる。
人を殺してしまったかもしれないと震えるヴィヴィオをおいて出て行かざるを得ない。
静寂に包まれた病室には、小刻みに震えるヴィヴィオのみが残される。
メール着信を知らせるランプの点滅もヴィヴィオの目には移らない。
プログラムが施されていたのか、数分の後にメールに添付されていた映像ファイルが再生される。
『……今までありがとうね、ヴィヴィオちゃん。
出会ってから日はあんまり経ってないけど、私にとっては大事な大事な親友よ。
もう会わないと思うけど、ありがとうね。
ようやく聖王様が課していた条件が揃ったんだもの……』
映像ファイルには笑顔のエリンが映し出されていた。
――TO BE CONTINUED
あとがき
どうもまぁです。
しばらく止まってしまっていた電波的なヴィヴィオ第二章その2を更新します。
最近は更新がどれも止まり気味で申し訳ない限りです。でも、完結させるつもりでいますので、どうかお付き合いください。
まぁ!
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