Fate/BattleRoyal
46部分:第四十一幕


長らくお待たせしました…!!
第四十一幕


冬木市警察署の小部屋では正義とモードレッドは何れも重苦しい表情を浮かべたまま沈黙を貫いていた。昨夜からずっとこの調子だ。その様子を美沙は無理もないと嘆息を付いた。彼女や晴男を始め彼らのサーヴァントであるギャラハッドとパーシヴァルも暗い表情を浮かべずにはいられなかった。アージェスやベイリンも掛ける言葉を量りかねている。
昨夜、正義の子供達が誘拐されその探索に向かったが結論から言って空振りだった…。



昨夜の事…。先行していたモードレッドは直感のスキルを頼りに微かに漂う血臭を嗅ぎとり、とある廃工場へと行き着いたのだが…。


ズザザ…!!

「…っ!!正哉、愛歌!!大丈夫か!?」
その掛け声とともに自らの剣『約束された王位の剣(クラレント)』を引き抜いて工場内に踏み込んだが…そこには大量の血痕と微かに漂うサーヴァントの消滅による残光しか残っておらず、子供達の姿は愚か彼らを連れ去った死徒の姿も確認できなかった。
「…っ!!まさか、遅かったのか……!?」
この惨状にモードレッドは半ば絶望的な声音で慄く。すると、そこへマスターの正義を始めとした面々が駆け付けて来た。
「セイバー!!」
「っ!マスター…」
主の姿に気付いたモードレッドは眼前に広がる惨禍を慮って思わずたじろぐ。
「やっと着いたわね…って、これは…!?」
漸く追いついた美沙は息を付こうとした瞬間、眼前に広がる生々しい惨禍の爪痕に言葉を失くす。
「…惨劇」
ギャラハッドはいつもの無感動の声ながら人形のような瞳に滾るものを灯している。パーシヴァルも愕然としながらも憤りを宿した声で惨劇の痕を見る。
「なんと、惨い…!!」
「これは…まさか攫われた子供達は…」
「馬鹿っ!正義さんの前で…!!」
美沙は晴男が最悪の可能性を口にしようとするのを怒声でもって制すが、それも無理からぬ事だった。大量の血痕…それだけでも子供達の生存が絶望視されるのもやむを得なかった…。そこへアージェスとベイリンも駆け付け同じく眉を顰める。それと同時にアージェスはこの場の状況を冷静に観察する。そして徐に口を開いた。
「おかしい…。何故、サーヴァントの消滅の残光が?仲間割れ?それにしたって…」
「確かに…。主よ、何か気になる事でも?」
ベイリンが怪訝な声で問うもアージェスが答える前に正義の携帯が再び鳴った。工場の有り様に半ば呆然としていた正義はハッとなって携帯を手に取る。
「俺だ、どうした…って何だ、棗かよ…」
電話の相手は正義の同僚からだった。一方、正義のぞんざいな応答に同僚は不機嫌な声で唸る。
『何だって何だよ!?こっちじゃ妙な出来事が起こってどうしたものかと頭を悩ませてるってのに!!』
「落ち着けよ!…で、何が起こったんだよ?」
相手の剣幕に辟易しながら問うと返ってきた返答は思ってもみなかったものだった。
『それが…冬木町にある交番の近くに集団失踪事件で行方の知れなかった子供が大量に現れて保護したんだけど…』
途端に正義の心臓は一気に跳ね上がった!
「っ!?そ、そうなのか…!?お前の言い分だと何かあったらしいみたいだが?」
『…それがさ、子供達の中に“サンタクロースさんに助けてもらった”っていう子供がいるんだよ!!しかもそれを聞いた警官、それも交番にいた三人全員が夜空を駆けるサンタクロースのソリを見たって言い出したんだぞ!?とにかくこっちも手伝ってくれよ!?』

ブツッ!!

それで携帯は切れた。電話の音声をオープンにして聞いていた一同は何れも面食らった顔をしている。
「さ、サンタクロースって…」
「あ、アージェスさん。これってまさか…」
美沙と晴男が目を白黒させながらアージェスを見ると彼も肯く。
「ええ…恐らく攫われた子供達の中に魔導の素養を持つ子がいて不可抗力でサーヴァントを召喚したのでしょう。にしても…暗示が不十分な上に第三者の目に留まるような行いをしてしまったようですね…」
嘆息をつくアージェスにベイリンは安堵したような声で言う。
「まあ子供達の安全が確かめられたのであればよいではないか…!」
その中で正義が僅かに眼に灯を灯してアージェスに聞く。
「それって…まさか、正哉達が…!?」
その言葉に全員がハッとなる。アージェスも顎を撫で一考しながら肯く。
「可能性は―――十分に考えられます。魔術師の才は血統によって遺伝します。正義殿の資質は私の目から見てもずば抜けたものです、それがお子さんに受け継がれていたとしても何ら不思議な事はありません」
途端に一同の顔に明るさが灯りモードレッドはすぐさま正義を見て言う。
「マスター、その場所を確認できるか?上手くすれば私の直感で場所を洗い出せるかも知れない!!」
「っ!そうか!!分かった、すぐに確認をしてみる!!」
そう言って再び同僚に電話を掛け子供達を保護した詳細な場所を聞き出し皆でその場所に向かい、そこから直感のスキルを持つモードレッドが先行して子供達の探索を始めたわけだが…結論から言って徒労に終わった。
勿論遺体が出てきたなど致命的な事態に発展したわけではないし無事でないという確証が出たわけでもないが、かと言ってその逆の可能性も然りだった。実際に交番で保護された子供達の中に正哉と愛歌の姿はなかった。これに正義とモードレッドは元より美沙達も落胆の色を隠せずにいた…。











結果、二人共に押し黙ったまま食事も睡眠すら取らず形だけ休息の体を取っているのだった。美沙達はいい加減食事や睡眠を取った方がいいと正義に勧めるが、彼は頑として受け付けなかった。美沙達も事情が事情な為に無理強いできないでいた。
そして結局そのまま朝を迎えたわけだが…。
「正義さん、お願いですから食事くらいしっかり取って下さい。そのままじゃ身体が持たないですよ」
美沙は堪らず正義に市販のおにぎりを手渡して食べるよう促した。
「…すまねえけど、今はそんな気分じゃねえんだ。そうしている内に新しい情報が入るかも知れねえし」
正義がすげなく断るとモードレッドが不意に動いた。
「も、モードレッド卿?」
パーシヴァルが困惑した声を出すとモードレッドは淡々と答える。
「もう一度探索に出る。いつまでもジッとしていられるか。もしかしたらこうしている間にも―――」
「待て、モードレッド!気持ちは分かるが、一人切りでそれは無謀だ!それに闇雲に探せばいいというものではないだろう!?」
ベイリンが待ったの声を掛けるがそれでも彼女はもう止まらず魔力放出のスキルを発動させようとするが―――!

ボスッ!!

「はぐぅっ!?」
突如としてモードレッドは口に何かをぶち込まれ咽せたが、次の瞬間には口の中に程よい甘みが広がっていた。
そして、彼女は自分の真下を見るとそこには、一ピースのショートケーキをフォークで刺し自分の口に放り込んだギャラハッドがいた。
「ちょっ…ギャラハッド、あなた何を?」
美沙が困惑した声を出す中でギャラハッドは相も変わらず無感動な声音でモードレッドに言った。
「モードレッド…少しは落ち着く。心配なのは皆一緒…。昨日あれだけ魔力放出のスキルを酷使したのにこの上無茶をしたら幾ら『約束されし王位の剣(クラレント)』の恩恵があってもこれ以上は現界の維持に障る。それに正義、あなたもちゃんと休んでご飯を食べた方がいい…。イザ正哉と愛歌を助けようという時に倒れちゃ元も子もない」
「「…っ!」」
その言葉に二人共二の句が告げなかった。それを受けアージェスも正義の肩に手を置いて諭す。
「ギャラハッド卿の言う通りです。正義殿、モードレッド卿…貴方々が焦る気持ちはお察し致します。しかし有事に備え休息は必要ですし何の情報も無しに行動は危険です。私も使い魔を冬木市中に総動員して探索させています。どうか今暫く堪えて下さい」
すると、正義は美沙のおにぎりを手に取りモードレッドも近くの椅子に腰掛けた。一同は一先ず大きな息を吐いたが、不意にアージェスの顔が強張る。それをベイリンが察し問い質す。
「主よ、何か動きが?」
「まさか、また死徒とかいう吸血鬼が…!?」
春男が恐る恐る予想を口にするが、一方のアージェスは非常に戸惑った顔で呻くような声を絞り出す。
「いや…これは―――!?」





同時刻、凛達は魔力針が示した方角へと慎重に歩みを進めていた。針が示した道はどうも海浜公園がある方角を指しているらしい。それを察した正哉は凛に忠告する。
「凛ちゃん、何かおかしいよ。海浜公園なんて、まだあんな人通りの多い所で…」
それに凛も頷き返した。
「うん…。確かに死徒にしたって無用心過ぎるわね。まさか、罠とか…!?」
(若しくは連中とは別件…だったりしてな)
ナヒも意見を上げる。
「…なんにしても行ってみようよ」
愛歌が勇気を振り絞るような声で促し彼女のサーヴァントも便乗する。
(応よ!まずこの眼で確かめなきゃ始まらねえぜ!)
(ふむ、一理はある…。正哉どうする?)
劉備が意向を尋ねると正哉は暫く黙考した後口を開いた。
「…うん。確かに行ってみないことには何も分からないよ」
「そうね…。死徒だって線も否定できなし…。みんな、行きましょう!」
凛も頷いて歩みを速め皆もそれに続く。



一方、イリヤ達も異変を感じ取り再び海浜公園へと向かっていた。

「海浜公園って…ついさっきまで俺らが居た場所じゃねえか!?」
マックは走りながら驚いた声を上げエイダも難しい表情で言う。
「ええ…。あの時は私達以外の魔力の気配は感じなかったけれど…」
「恐らくはあそこで鳴りを潜めていた何者かが動き出したのだろう」
セイバーがそう推察しイリヤを肩に抱き抱えながら走るヘラクレスも同意する。
「うむ…。しかし、如何に鳴りを潜めていたとは言え、あれだけ近くにいながら我らが全く気づかなかった事を考慮するにその者は極めて隠蔽や気配遮断に長けた者に相違あるまい。アサシンにしろキャスターにしろな…」
「それにしてもまだ陽も落ち切っていない内からどこの馬鹿ですか?」
メドゥーサは呆れるような声音で訝しむ。
「もしかして…昨日のあいつ―――!?」
イリヤは昨日襲撃して来た少年のサーヴァントを思い出していた。ヘラクレスもそれを察して発言する。
「確かにあれはそう言った思慮が欠如しているような印象を受けたが…何れにしてしも即断は禁物だ。まずは現状を視認しなければ…!」
「同感だ」
セイバーも決然とした声で応じ皆も足を速める。



同時刻、星羅と刻羅達もバーを後にし派手な魔力の気配を追って海浜公園へと向かっていた。

「妙ね?死徒にしては活動時間までまだ間があるはずだけれど…」
星羅は解せないと言う顔で疑問を口にする。
「何れにしても気を引き締めねばなりますまい。元よりこの戦争は初めから何もかもがおかしい…!」
長政は聖羅をお姫様だっこで抱えながら走り私見を口にする。一方、義景も刻羅をおんぶしながら走って長政の言に肯く。
「ああ、この地に眠る聖杯の力が絶大なものとしても、これだけ規格外な数の英霊を現世に繋ぎ留めるなど…些か以上に解せぬ…」
「ええ…それに死徒なんて化物がこんな大量に冬木に入り込んでマスターの資格を得るなんて普通に考えてもおかしいわ」
「え?どういうことなの…」
刻羅が首を傾げて尋ねると星羅はいつになく真面目な面持ちで答える。
「考えてもみなさい。ここ冬木市は仮にも聖杯戦争の舞台にして始まりの御三家のお膝元なのよ。にも拘らずそんな輩の侵入をそう易々と許すものかしら。勿論参加者の大幅な増加なんていう端っから予測もしてなかった大事変に紛れて…ってえのもあるでしょうけど、それだけにしちゃ何か準備が整い過ぎてる感があるのよね…。何かカラクリがあるとみたわ」
「カラクリって?」
刻羅がますます分からないという顔で聞くと星羅は即答する。
「予め手引きした連中…強力な後援者(パトロン)がいるって事よ」
「それって…誰?」
「さあ、もしかして御三家の身内か…若しくは戦争の監督者である聖堂教会の人間か?」
星羅はどこかおどけたような声で、それでいて眼は全く笑わずに答える。
「主よ、詮索は後程に…。今は―――」
長政の諫言に星羅も頷く。
「ええ、分かってるわ。急いで」
「「承知!」」
長政と義景が同時に応える。



また、別の場所でも…!

「アーチャー、その…どこに行くんですか?」
和樹は怪訝な顔で本来なら従えるはずのサーヴァントに敬語で尋ねた。それに対し彼のサーヴァントであるアーチャーこと織田弾正忠信長は鬼のような真紅の瞳に何時にない憂いのようなものを浮かべて答える。
「知れた事…我らが征くは戦場(いくさば)以外に何が在ろうか。ただ…少々キナ臭さも感ずるが、是非も無しよ」
「キナ臭さ…ですか?」
和樹が首を傾げると信長は「然り」と頷いてこう続ける。
「そもこの戦は全てが妙よ…。こうして英霊が大量に現世に招かれてる事からしてもそうだが、それ以上に禍々しい奸がこの戦の裏側で這いずり回っておるのをヒシヒシと感ずる。そして今、その奸が大きく蠢いておる…そう俺の直感が言うておるのよ…」
「アーチャー…」
そこで和樹が深刻そうな顔で信長に声を掛け信長も厳かな声で応じる。
「うむ。何だ?」
「…その、それはそうと幾ら陽が落ち始めてるからって、そのままの格好は流石に目立ち過ぎじゃ…」
そう、信長はここが街中にも拘らず召喚された当初と同じ装束…英霊としての出で立ちで実体化していた。当然ながら街の人々は何事かと振り返っては信長を凝視しある者は眼を逸していた。
「む?何を言うか。これぞ戦に向かうべき装束ではないか?」
その言葉に和樹は信長の格好を改めて見る。銀の南蛮甲冑に漆黒の南蛮外套…更に腰に差した二本差しに肩に背負う形で持っている火縄銃。確かに戦いに赴くのには相応しい格好であろう。そう()()()()()()()()。だが、ここは仮にも銃刀法違反が布かれている現代日本である。彼の出で立ちと装備は下手をしたら警察沙汰に成りかねない…!そんな和樹の心境を察したのか不敵に笑ってのたまう。
「ああ、周囲の一般人を気にしておるのか?であれば気に病むな。この時代には“こすぷれいやー”なる者がおるのだろう?多方はそんな輩と思ってくれるだろうさ」
「そんな無茶苦茶な…!パトロール中の警官に捕まって職質でも受けたら面倒ですよ?タダでさえ昨今の誘拐事件で向こうも一層警戒してるって言うのに…」
一樹が頭を抱えて言うと信長はあっけらかんと笑い捨てる。
「ふははははははははっ!案ずる事などあるまい?その時は貴様ら魔術師お得意の暗示でも使えば万事解決であろうが?」
「幾ら何でも限度があります!!と言うか、これだけの人間に既に見られちゃっているのに収取が付くわけないでしょう!?そもそも俺の暗示だってまだ師匠に比べたら全然、完全じゃないんだ!!」
思わず和樹は大声で突っ込みを入れる。
「…そう言う貴様もそのような大声を出して良いのか?」
今度は信長に指摘され和樹もハッとなって口を噤んだ。
それから和樹は諦めたような嘆息を付く。どうもこのサーヴァントに出会ってからこちらが振り回されてばかりだ。史実の逸話から破天荒な人物だろう事は覚悟していたが、まさかこれ程に常軌を無視する人物とは…。召喚当初からこちらの目的を“小さい”と一蹴された挙句に自分の夢に付き合えと一方的に引きずり回されているわけだが、自分でも不思議な事に和樹は抱いて然るべきな不愉快さや苛立ちを微塵も感じてはいなかった。寧ろ、我が儘に道を行く彼の背中を追う事に熱い高揚と憧憬すら抱き始めているのだった。
「さあ、何はともあれ征くぞ我が臣下(マスター)よ」
信長はそう言うと悠然と歩き出し、和樹はもう一度大きなため息を付いてその後を負った。






そうしてそれぞれが海浜公園を目指す中、当のその場に二組の男女が到達していた。

「…ここか?」
紅い外套を羽織った褐色の青年―――エミヤが険しい顔で魔力の気配が漂っている水族館を睨む。その横で彼のマスターであるフランが相も変わらず緊張感の欠片もないまったりとした声で頷く。
「ええ〜、みたいですねえ〜。それにしてもエミヤさん、まるでこの街を勝手知ったるみたいに歩いてましたねえ〜。お陰でここまで迷わずに済みました〜」
それに対しエミヤは皮肉げな笑みを浮かべる。
「まったく…こんな時でも緊張感と言うものが欠如しているな、マスター。私は時々ある意味で君が頼もしく思えるよ」
「どうもです〜」
だが、フランはそんな皮肉も通じないのかいつも通りの気の抜けた声で的外れな返答をする。エミヤはやれやれと言う仕草で改めて目の前の水族館を見る。
「しかし…まだ開館時間も終わっていない内から大胆な事だ。ただ…それにしては大した騒ぎにはまだ至っていないようだな」
「単に魔力を発して誘いを掛けているんでしょうか〜?」
フランの意見にエミヤは「ふむ」と顎を撫でる。
「だとしてもここはあらゆる意味で戦いには不都合だ。言うまでもなく時刻的にもな。まさか…」
エミヤは瞬時にその理由を推察して歩を進めた。
「え、エミヤさん?」
フランが戸惑った声を上げるが、エミヤは歩を進めながらマスターに言う。
「話は後だマスター。もしかしたら…一刻を争うどころか我々は間に合わなかったかも知れん」



そして、当の水族館内では…!


未だ開館時間であるはずの水族館内には客どころかスッタフも含め人っ子一人の影すら見られなかった。たった数人を除いては―――!
「ぐっ…!」
ドレッドヘアーが特徴的なラテン系の青年が満身創痍という出で立ちで首を締め上げられていた。
「詰まらねえ…詰まらねえ詰まらねえ詰まらねえ詰まらねえ詰まらねえ詰まらねえ詰まらねえ詰まらねえ…ッ!ああッ!詰まらねえったら詰まらねえッ!!!」
その首を締め上げている主は苛立ちも顕に怒鳴り散らす。その主…黒のコートに赤紫のメッシュを入れた黒髪とサングラスが特徴的な男性―――迅鷹山は自らが締め上げている男、アレックス・マリオンを心底詰まらなそうに眺めて毒を吐く。
「たくっよー。大将からのオーダーでこの水族館を丸ごと根城にしたのはいいが、やる事なんて殆どなくて退屈で飽き飽きしてた所に久々に獲物が掛かったと思ったらまた雑魚だしよー。いい加減にやんなっちまうぜ。それよか兄ちゃん、こんな所へノコノコと何用で来やがったんだ?一般人ならともかく一廉の魔術を齧ってるなら一目でヤバ気だって分かりそうなもんだがなあ?」
鷹山はそう言いながら首を締め上げる力を徐々に強くする。だが、そこへアレックスのサーヴァントであるランサーこと呂布も黙ってはいない『軍神五兵(ゴッドフォース)』を以て切り掛かるが…!?
「バーサーカー」
鷹山の一声で黒甲冑の凶獣が呂布の斬撃を双剣でクロスさせて塞き止める。
「ぐぅッ!!」
さしもの呂布も冷や汗を流す。
それを見やると鷹山は再び視線をアレックスに戻し詰問した。
「それはそうと質問に答えて貰おうかい。テメエ、何の用でこんな所なんぞに来やがった?」
「…ッ!!」
だが、アレックスは何も言わずに睨み据えるだけだった。それを鷹山は鼻で嗤いそのまま彼を顔面から壁に叩き付ける!
「あがぁッ!!?」
「おい、あんま舐めんなよ。これでも温情をかけてやってる方なんだぜ?」
そう言いながらも鷹山の顔には嗜虐に満ちた笑みが張り付いていた。そんな彼を諌める声が飛ぶ。
「控えられよ、鷹山殿。その者は貴重な情報源…殺してしまっては元も子もない」
その人物は大柄で筋骨隆々な体格の僧侶だが、その手には盃があり傍には酒壺がある。
「へいへい、分かってんよ…ってか仮にも戦闘の真っ最中に余裕だなあ、あんた」
鷹山が呆れる傍で彼のバーサーカーと呂布は激しい鍔迫り合いを繰り広げていた。


「ええいッ!退けえええええええええええええええええッ!!!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!」
呂布の咆哮と共に戟が豪快にされどもより鋭く薙ぎ、突き、斬り付ける。対する凶獣も言語は愚か生き物の鳴き声の体すら失った轟音を発しながら、それとは不相応な洗練されどこまでも冴え渡る剣技を繰り出し互角に渡り合う。
「…ッ!意思は愚か、己すら分からなくなった凶獣如きがこの呂奉先の前に立とうと言うのか?自惚れるでないわあああああああああああああッ!!」
呂布は『軍神五兵(ゴッドフォース)』を弓の形態へと移行させる。
「天下無双を誇る武は我唯一人也…!!誰一人として我に並ぶ事など赦さぬッ!!!」
大弓から大砲に等しい一撃が至近距離で凶獣に放たれる!だが、凶獣はそれすらも絶妙なバランスとタイミングで避けきり外れた砲撃はそのまま水槽を穿ち中から水と魚が溢れ出す。無論凶獣はそのような事は気にも留めず一気に呂布へと肉迫し再び激しい鍔迫り合いを繰り広げ新たな破壊の惨禍を築いていく…!!


一方、鷹山は溢れ出た水から逃れる為に天井へと飛び上がり張り付く(因みに僧侶は不可視の結界のようなものを己の周囲に張り巡らして水を防いだ)が、必然的にアレックスを拘束から解いてしまう。アレックスはこれ幸いに距離を取り呂布に向かって命じる。
「撤退だ、ランサー!!」
「させると思うか…っぅ!?」
鷹山はすぐさま追おうとするもアレックスは火の魔術で溢れ出た水を一気に気化蒸発し霧を発生させ姿を眩ます。おまけにほぼ同時で呂布も霧の中に姿を隠した。
「チッ!小細工を…!」
鷹山は舌打ちしながらも追跡を開始しようとするが、またも僧侶に窘められる。
「落ち着かれい。慌てずともここは既に我らの工房…簡単に抜け出せはしない。何より間もなく新手も来るようだ」
その言葉に加え鷹山も自らの使い魔で視認したのかニンマリとした笑みを満面に広げる。。
「へえ…あのアインツベルンのメスガキ、ちゃんと約束通り追って来やがったか…!感心♪感心♪おまけに…!!」
鷹山は舌舐めずりをして水族館の全入口に配備した使い魔の眼を通して次々と集まって来るマスターとサーヴァント達を爛々と輝く瞳で見る。
「なんだあ?アインツベルンのメスガキばかりか随分とガキが多いじゃねえか?けど…連れてるサーヴァント共は中々目星いのが揃ってんなあ…!!いいね、戦争って言うからにゃこうでなくちゃならねえ」
「ようやく…貴殿の望み得る展開となりましたかな」
僧侶も盃を投げ捨て徐に立ち上がる。それと同時に豪快なそれでいて嘲り笑いが多分に混じった傲岸な声が館内で反響するように響く。
『ククククク…クッアハハハハハハハハハハハッ!!!全くよ!ようやっと()()()なって来たではないかッ!!それでこそ古今東西…まさしく出会うはずのない、あらゆる時代と国々で名を轟かせた雄共が覇を競う狂宴らしくなぁ…!この(おれ)も久しき躍動を確と感ずるわ!!』
その声を聞いて僧侶も破顔する。
「やれやれ彼の王も奔放で在らせられる事よ…。王よ、ここは我らの一先ずの拠点…どうか今少しご自重願おうか?」
『ククククク…胤王(いんおう)よ、汝とて真は疼いておるのであろう?血湧き肉躍っておるのであろう?脳髄が爆ぜておるのであろう!?(おれ)の前で虚偽は止せ止せ!汝も(おれ)やそこの小僧と同じ戦好きの眼をしておるぞ』
声は愉快そうに声を弾める。それに僧侶―――胤王もその相貌に凄絶な笑みを浮かべ眼には暗い炎を静かに灯す。
「然り…!我もまた多分に鷹山殿や貴方と同類に属する人間であろう」
『うむ…!では参ろうか、我が契約者よ』





その頃、水族館の入口前では緊迫した状況が構成されていた。それもそのはず…凛達、イリヤ達、星羅・刻羅の姉弟の三竦みが鉢合わせし互いに警戒が強まっているのだ。無論霊体化していたナヒ達はサーヴァントの姿を視認した事で実体化しそれぞれ警戒している。

その中でコトネは不安気に凛に尋ねる。
「ねえ、凛ちゃん…あの子達やこの人達って誰?」
「分かんないけど…サーヴァントを使役してるってことは…敵?」
「で、でも、わたし達と同じくらいの子もいるよ?」
愛歌がイリヤや星羅に刻羅は見て言う。
「うん…だけど警戒するに越した事はないよ」
正哉の言葉にナヒ達も頷く。
「そう言うこったな…!下がってろ、マスター」
「うむ。ここからは我ら英霊の領分だ」
「そういう事!」
「さあ、皆は儂の後ろへ…」
ナヒが拳を構え劉備と孫策も宝具でもある得物を抜く。ニコラウスは子供達の前に立ち後衛を務める。

「お、お姉ちゃん…!?」
刻羅が怯えた顔で呻くと星羅はすぐさま叱咤する。
「しゃっきとしなさい!そして一々物怖じしないっ!敵か味方かも分からない連中の前なのよ…」
「然り…!殊にあの巨漢の戦者と銀髪の男は、恐らく…否、間違いなく我らより遥かに格上の英霊と心得まする…ッ!!」
長政はヘラクレスとエイダのセイバーを見て戦慄に慄える。
「うむ…。正直言ってまともな交戦など論外であろう…」
一方で義景は冷静に事実を述べるが、星羅は喰らいつく。
「ちょっと!なに初めから諦観なんぞを口にしてんのよ!?やってみなきゃ分かんないでしょうが!!」
「いや、主よ…。拙者とて本来なら同じ気持ちに御座るが…こればかりは義景殿に同意致す。主とて本当はお分かりにござろう?他の者達も相当な英霊と心得まするが、この二人は特に別格…!!例え、我が最強の宝具を開帳した所でそれが通じる予感(ビジョン)がとても想像できませぬ…」
長政にもそう諭され星羅もグウの根が出なかった。

「ヘラクレス…!」
イリヤは不安気な顔でヘラクレスの足にギュッとしがみついている。
「イリヤ、心配はいらぬ。下がっていてくれ」
「イリヤのような子供がこんなに参加してるなんてなあ…」
マックはあんぐりと口を開けて凛達を見てメドゥーサも頷く。
「ええ。正直驚きを隠せませんね」
「恐らくこの子達が件のニュースの…」
エイダはニコラウスの出で立ちを見て冷静に推察しセイバーも「みたいだな…」と私服からプラチナの甲冑に黄金の柄に真紅の刀身の大剣を背負った英霊としての姿に早変わりする。それに対しエイダは静かな声で念を押す。
「セイバー、分かっているとは思うけれど、相手はまだ子供よ。決して早まらないで」
セイバーは静かに頷く。

とは言え、誰もがこの状況を量りかねていた。なにせ互いにマスターは殆ど年端もいかない子供ばかりで大人など英霊を除いてはマックとエイダの二名しかいない。英霊達はマスターの指示を待っているが、その当のマスター達が敵か味方かという判断を決めかねている。正に八方塞がりな膠着状態が形成されていた。
だが、その膠着状態を崩す一団が現れた。

「まあ諸君、落ち着き給え」
『!?』
突如として割り込んだ第三者の声に全員が驚いてそちらを振り向くとそこにはアッシュブロンドの短髪の紳士が太陽のように輝く金髪の白騎士を従えて歩いてきた。更にその後ろには紫の長髪にケロイドの後がある少年と長い黒髪を三つ編みにした少年が獰猛な眼付きをした若武者と黄金の甲冑と一体化したような青年を従えて紳士に随行する形で歩いて来る。
当然の事ながら全員は警戒の体勢を取る。だが、紳士は苦笑して言う。
「まあ、そう殺気立たないでくれ。無理からぬ事ではあるが…。私はアンシェル・ジルヴェスター。突然に現れて何なのだが、ここは協力関係を結ばないかね?」
そう言ってアンシェルはどこか得体の知れない笑みを浮かべた。



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