西暦3031年、人類は生息域を月と宇宙まで拡大させていた。
人類は火星、木星へと調査部隊を向かわせた。
さらなる繁栄を得るために。
しかし火星、木星に行った調査部隊が行方不明になった。
1ヵ月後、調査部隊は大型宇宙船と共に帰ってきた。
人類は初めて自分と対等・・・いや、それ以上の知的生命体と出会ったのだ。
木星、火星そして・・・太陽系の星に住む生命は種族や形は違えど太陽系連合として属していた。
地球は技術提供を条件に連合に加入し、地球には多くの種族が移住した。
外見はほとんど地球人と変わりない彼ら。
しかし、習慣や思想の違いが様々な事件が起きた。
もう2000年前の話だ。


「はい、リョウ君そこまで。続きは明日にします」

そう言うと教師は講義室を出て行った。
生徒は次の講義の準備をしながら談笑している。
俺はバックに電子ノートを投げ込み、駆け足で廊下に出た。
最近は午前の講義のみ出て帰ることが多い。
それもこれも大学の授業よりも大事で楽しい目標ができたからだ。
「あれ?リョウは今日も早退かい?」
偶然、1年先輩のアキラさんに声をかけられた。
「すいません!用事なんです!」
有無をいわせず俺は廊下を走り、先輩をかわした。
「お〜い・・・って何なんだ?」
首をかしげて先輩は自分の教室へと向かった。

「オイオイ、待てよ〜!」

後ろを振り返るとモノが走ってきた。
バックも持っていないモノ。
まあ、いつものことだが・・・。
「お前・・・さっきの講義で何してたんだ?」
そういうとモノは携帯電話を取り出した。
「見ろよ、俺たちの開発してるコクピットが取り上げられたんだぞ」
画像には確かに作業中の俺たちが映っていた。

これは・・・先月取材しに来たやつのか。
「ならさっさと調整しに行くぞ。軍への受け渡しは今日なんだからな」
バイク乗り場には俺達しかいなかった。
当たり前か、本来ならば講義に出なければいけない。
俺たちはそれぞれのバイクに乗りこんだ。
大学に隣接している研究所へ向かった。

[研究所・第3格納庫]

・・・。

・・・・なんだ?

・・・・またこの夢か。

振り返る少女。

なびく長い金髪。

そう、そして必ず言うあの台詞。

そこでこの夢は終わる。


「流されないで。自分を忘れないで」


ハッと、目を覚ます。
調整中のコクピットの中で眠っていたらしい。
モノも床に大の字で寝ていた。
最近、全然寝てないもんな・・・。

夢の内容を思い出そうとするが全然思い出せない。
この夢は飽きるほど見た気もするが例によって思い出せない。
ただひとつ、覚えているのが長い金髪の少女とあの言葉。
「流されないで。自分を忘れないで」
意味があるのかないのか・・・本当にわからん。
ただわかるのは彼女にはもう一度会わなきゃいけない。
それだけだ。

だから俺はモノのバイトに乗ってみた。
モノのバイトはチャンスだった。
「地球統合軍の新型ペルソナのコクピットを設計しないか?」
俺は大学でプログラムを専攻していたから少し戸惑った。
そこで俺は設計の段階である提案をした。
それは学習型戦闘用AIを搭載することだ。
現在、地球製のペルソナは数えるほどしか存在していない。
今回の複座式コクピットは統合軍製ペルソナに搭載される予定のものだ。
もちろんこれが正式採用されるわけではない。
他の研究所や業者も製造している。
明日の午後、トライアル会場で初めてフレームに搭載される。
俺達のコクピットが正式採用される自信はある。
シュミレーションでは現在統合軍で使用されているペルソナを10機撃破した。
ただ、11機目でエネルギーが切れてゲームオーバーになってしまったが。
それは設定でエネルギーを一般に使われている内臓エネルギーパックにしていただけだ。
もし、試験段階のエネルギーパックにしていれば30機はいけたはずだ。

それにしてもいきなりDollではなくペルソナのコクピットか。
Dollの設計なら簡単だ。
コクピットはないからスペースがある。
さらにエネルギーは戦艦からのエネルギーチューブで事足りる。
ならば武装とブースターを適当に配置すればいい。
そして、軍関係者が気にするコストを下げてやれば完成だ。
一方、ペルソナはかなり難しい。
まず人が乗り込む為にコクピットが必要だ。
さらに有人機となれば操縦システムもだ。
有人機なら行動範囲も広げなければいけない。
そうなると内臓エネルギーもなるべく大容量にしなければいけない。
・・・・考えると頭が痛くなる。
形にするのにかなりの苦労があった。
まあ、俺達に課せられた仕様はコストとシステム、寸法のみだったからまだ楽だった。
多少、コスト面でオーバーしているが操縦システムが万人向けになっている。
それが俺達のシステムの目玉だ。
さらにシステムの簡易化によって開いたスペースにもう1人乗せることができる。
これによってさらにペルソナの武装バリエーションに対応できる。
俺達はコクピットの開発のみだから実際、そこまで参加できないんだがな。

空を見上げる。
研究所の天井には換気用のファンが回っている。
格納庫は俺達の貸切だ。
どうせトライアルは明日の昼からだ。
今日はこの辺で切り上げるか・・・。
「もう俺も18か・・・・」
あの事件から11年たったのか。
時間は待ってくれないな。

結局、なんだったのだろう。
俺に残されたのは断片的な記憶。
少女とあの言葉しかない。

いや、もしかしたらあの言葉が今の俺をここまで・・・。
・・・バカバカしい。
俺は自分の実力でここまできた、そう思いたい。


キュィィーーン。

後ろの自動ドアが開いた。
もう軍の輸送部隊が来たのか?
さすがに寝ていたモノも起き上がった。
しかし、明らかに反応がおかしい。
「おい、リョウ」
モノが俺に見ろというから仕方なくコクピットから出る。

「・・・へ?」

そこには銀髪の可愛らしい女の子が立っていた。
「・・・ずいぶんと可愛らしいお客さんだな」
と、少しボケをかましてみる。
服装はフリフリのスカートだが上は太陽系連合軍の制服。
今、こんなのが流行ってるのか?
「おい、どうする?一応・・・」
少女は俺と同じか少し年下。
キョロキョロと辺りを見回す。
服装を正して床に落ちていたファイルを手に取る。
歩み寄って俺は彼女にファイルを渡した。
コクピットとAIの詳細を書いたレポートだ。
本当に統合軍の関係者なら俺の質問に答えれるはずだ。
「コクピットの規格はSLTにしましたが・・・」
そう言うと彼女は即答した。
「良い判断です。ORSでは拡張性に欠けますから」
淡々とページをめくる彼女。
その仕草はいたって真剣。

俺とモノは顔を見合す。

「どうやら、本物のようだな」
「じゃあコンテナに積みますか」

そう言うとモノはクレーンを操作しにいった。
俺は下がってきたクレーンのフックをコクピットに通す。
モノはゆっくりとクレーンを上げてコンテナの中にコクピットを入れる。
俺は床に散らばった機材を片付ける。
ここの研究所はモノの知り合いだがさすがに片付けておかないとかっこがつかない。
丁度、ツールボックスに最後のスパナを入れた時だった。
彼女が俺の服を引っ張った。
「何か質問でも?」
そう言うと彼女はうなずいた。
「この学習型戦闘用AIはもうインストールしているの?」
俺はコンソールからディスクを取り出し、ケースに入れる。
「これがAIのP。インストールはトライアル会場に行ってからを予定してます」
そう言うと彼女は納得したようで搬入口に向かって歩き出した。
俺がボタンを押す。
ゆっくりと搬入口のシャッターが開きだす。

すると既にトラックが停まっていた。
コンテナ1個を積むのに丁度良いが少し小さめのトラックだった。
トラックの横には地球統合軍のマークがペイントしてあった。
「ずいぶんと準備がいいんですね」
「・・・・」
彼女はファイルにかぶりついて全く聞いてなかった。
少しムッときたが・・・まずい。
ここで機嫌をとっておかないと全部パーになるかもしれん。
俺は落ち着いて自己紹介することにした。
「俺はプログラマーのリョウ。あっちはメカニックモノ。あんたの名前は?」
彼女はファイルを片手に持って自由になった片方の手であるものを俺に差し出してきた。

[反太陽系連合組織アザミ アイビー・アーティチョーク]

「へぇ〜・・・アイビーって言うのか。よろ・・・」
俺はもう一度名刺を見る。

[反太陽系連合組織アザミ アイビー・アーティチョーク]

・・・反?

「まさか・・・君っ!?」

彼女はもういなかった。
コンテナを積んでいたモノもいなかった。
くっ・・・どこいった!?
「リョウ〜〜〜助けてぇぇ〜!!!」
トラックの窓からモノが手を振っていた。
顔の表情を見ると泣きながら笑っているように見える。
・・・楽しんでるのか本気で助けを求めているのかわからん。
助手席から顔を出していた少女は俺をずっと見つめていた。
・・・いったいなんなんだよ、君は。
とにかくモノの誘拐だけは避けたい。
俺はモノを助けようとドアの取っ手に触る瞬間、少女は言った。

「流されないで。自分を忘れないで」

「なっ・・・」
なぜその言葉を・・・そう言おうとした瞬間、彼女の言葉は続いた。

「これがあなたがここにいる理由。私が迎えに来た理由はあなたの助けが必要だからです」
初めて彼女が女の子らしく喋った。

「・・・・」
黙り込んでしまう。
反太陽系連合組織の少女。
奪われたコクピット。
本来ならば抵抗して逃げるべきなのだろう。

しかし・・・。

あの言葉はどこかのドラマで使われた言葉じゃない。
誰かの書いた本にも書いてない。
なら・・・彼女は知っているはず。
あの金髪の少女の事を・・・。

「・・・わかった、君たちに従おう。アーティチョークさん」
「なっ・・・!?リョウ本気か!?」
俺は暴れるリョウの頭を中に押し込んだ
さらに暴れるモノを羽交い絞めにして後部座席に座った。
「あの・・・」
後ろを向いて少女が話しかけてきた。
「なんだい?アーティチョークさん」
「アイビーって読んでください、リョウ・アベリア・真崎さん」

アイビー・・・か。

俺の夢の女の子と同じ言葉を言う少女。

動き出す、やっと。これで11年前の事件の謎がわかる。

7歳の夏休みの1ヶ月間。
行方不明になった俺と失った記憶。
走り出すトラック。
高揚した気持ちを抑えながら俺は走るトラックから景色を眺めていた。

・・・あれ?

俺、フルネーム言ったっけ?






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