トラックはひたすら高速道路を走っていた。
ようやくおとなしくなったモノは腕を組み、黙って下を向いていた。
・・・・。
・・・・。
めずらしいな、モノが黙っているなんて。
・・・。
あまりにも静かなんでモノをよくよく見る。
・・・・グゥ。
・・・・寝てんのかよ、こんな時に。
まあ、俺も不思議と緊張感が沸かないんだがな。
冷静に考えよう。
俺達は誘拐されている。
同意の上の誘拐は誘拐になるのか?
そんなことを思いつつ、バックミラーに目をやる。
深く帽子をかぶった運転手。
俺の前の席・・・助手席にはアイビーが淡々と座っている。
・・・・。
ラジオから陽気なパーソナリティが流行の音楽のタイトルコールをするのが聞こえる。
その後に続く反戦の歌詞をのせたラップ。
・・・やかましいだけでどこが反戦だよ?
あれからアイビーは何も話しかけてこなかった。
ただノートPCを見つめている。
運転手は・・・アイビーと同じく統合軍の制服を着ている。
今気づいたが運転手は俺達とさほど年齢が変わらないように見える。
この歳で2人とも危ない橋を渡っているのか・・・。
事情は人それぞれだろう。
なんていったっけな、さっきの名刺に書いてあったんだが・・・。
反太陽系連合組織・・・全世界の敵ってことか。
スケールがでかい。
そのくらいの組織ならば研究所に侵入するのも容易か。
いや・・・待てよ?
どうやってあのセキュリティを抜けた?
俺達のいた格納庫に来るには最低でも3回のカードキーによる認証と警備員のチェックが入る。
研究所も一応は連合軍の管轄だったはずだ。
カードキーの偽造はできてもどうやって警備員のチェックをすり抜けた?
・・・でもこうやって実際に侵入され、堂々と格納庫からトラックで逃亡されるとどうでもよくなる。
もしかしたらとんでもない組織かもしれないな・・・。
陽気なラジオの音楽をBGMに高速道路をひたすら走っているトラック。
息苦しいわけではなかったが俺は落ち着かなかった。
アイビーに聞きたいことが山ほどある。
できれば一気に話してすべて答えてもらおうと思っていたが、アイビーはずっとノートPCのモニターに釘付けだった。
後ろから見える後頭部がピクリとも動かない。
耐え切れず俺はとなりでイビキをかこうとしているモノを無視して口を開いた。
「なぁ、アイビー。俺達どこに向かってるんだ?」
俺の言葉に続いたのはBGMのギターソロだった。
アイビーの頭が少し動いた。
20秒ほど沈黙が続いた。
その後、アイビーはノートPCをパタンと閉める。
ノートPCを助手席のダッシュボードに入れる。
そして、助手席のシートごしに俺を見つめる。
いつ見ても整った顔だなぁ〜と思っているとアイビーが言った。
「私達の船です」
・・・案外簡単に言ったな。もっと秘密主義だ思ったが。
「船か・・・外国にでも飛ぶのか?」
そう言うとアイビーは首を横に振った。
その仕草がまたなんともいえない魅力がある。
今からでも芸能界入りを考えたらどうだ?
きっと今よりも安全に暮らせるぞ?
アイビーが首を振っている間、俺はそんなことを考えていた。
しかし、アイビーは予想外の言葉を口にした。
「いえ、宇宙です」
へぇ〜。
・・・・。
「「宇宙!?」」
さすがにねむかけしていたモノもびっくりしたのだろう。
俺達の驚きの声はシンクロした。
「おいおい、マジかよ!いきなり宇宙って・・・俺達も一緒に!?」
寝起き1秒で混乱状態に叩き落されたモノの言葉。
はっきり言って・・・動揺して何をいっているのかわからん。
しかし、物静かな美少女は聞き取れたのだろう。
「はい」と、即答してくれた。
俺はモノよりは落ち着いているつもりだった。
しかし、何故かこの状況のときにこんなことを聞いたのだろう?
きっと内心は震度7ぐらい揺れ動いていたのだろう。
「あともうひとつ質問。どうして俺のフルネームを?」
アイビーはダッシュボードを指差して言った。
「個人情報なんてハッキングですぐわかりますから」
・・・簡単に言ってくれるね。
ただ地球統合軍のコンピューターにハッキングするのはそう簡単なもんじゃない。
一応、極秘のプロジェクトのデータだ。
きっとかなりの労力を費やしたのだろう。
でも・・・そこまでして手に入れるようなものか?
さらに余計な人質2人。
全く意図が読めない。
俺がアイビーと見つめあいながら考えを巡らせているとそこに邪魔者が現れた。
ぐぃっとモノが俺の裾を引っ張る。
「どうすんだよ、リョウ。このままじゃ俺達テロリストの捕虜になっちまうぜ?」
ひそひそと言ってくる。
しかし・・・この距離では運転手にもアイビーにも丸聞こえだろう。
俺はわざとらしく普通の声で言う。
「大丈夫・・・俺達の身の安全は保障される。どうやら目的はコクピットだけじゃないらしい」
俺はモノの手をゆっくりと振り払い、アイビーへと視線を戻した。
「君達がすごい組織だって事はわかった。でも・・・ひとつだけどうしても聞きたいことがある」
俺はアイビーの目を見つめる。
・・・・。
その瞳は俺が今まで会った女の中で一番純粋だった。
そう、あの思い出の女の子を除けば・・・。
「さっきの言葉・・・どこで誰が言っていた?」
「さっきの言葉?」
アイビーは首を横に傾けて言った。
意地悪して誤魔化している訳じゃなさそうだ。
彼女にとってあの言葉は特別なものじゃないのか?
「ほら、流されないで。自分を忘れ・・・」
ドォォォン!!!
俺の言葉は爆発音に遮られた。
「くっ・・・追っ手か!?」
運転手の少年が言った。
その声にはまだあどけなさが残っていた。
おいおい、いきなりミサイルかよ。
さすがに統合軍が黙っちゃいないだろうな。
俺はバックミラーごしに後ろを見る。
統合軍・・・いや、警察の特殊戦闘車だ。
きっとフロントガラスは防弾ガラス。
そして光で反射してよくは見えないが運転してる警察は重武装。
えーと・・・俺達、そんなに凶悪犯じゃないんだけど・・・。
「君達はずいぶんと人気者なんだな、ファンが多そうだ」
皮肉交じりに言ってやった。
このくらいは許容範囲だろう。
「ああいうファンは宇宙にも?」
そういうとアイビーは座席を限界までリクライニングさせた。
座席の枕が俺の膝にぶつかる。
アイビーは俺の膝上で頭を抱えてしゃがんだ。
・・・わざとか?
わざとなのかい?
「宇宙にはもっといっぱいいますよ・・・きゃ!」
ドドドドドドドド!!!!!
ガシャァーン・・・。
銃弾によってガラスが砂のようになって風に舞う。
その風は流れるように俺の視界からすぐに消えていった。
きらきらと光る風は高速道路のアスファルトに散らばってただのガラスの屑となった。
「リョウ〜この人達は身の安全を保障してくれそうだけど・・・あいつら手加減なしだぞ!?」
俺はすがりつくモノの頭を肘でガシガシ殴った。
「死にたくなかったらできるだけ小さくなってろっ!!」
俺の一括によってモノは座席の下のスペースに身体を潜り込ませる。
アイビーが膝にいなければ俺もそうしたかったが・・・。
なんとなく彼女を守るという使命感に駆られた俺はアイビーをかばう様にして彼女の身体を抱きしめた。
ふわっと女の子の匂いがした。
大学では鼻が拒絶するほど嗅いでいる。
女子は香水をプンプンさせているからだ。
しかし、アイビーの香りに嫌味はなかった。
安らぐな・・・。
ドドドドドドド!!!!
銃声で恋人気分が一気に台無しだ。
全く・・・警察も空気読んでくれよな。
ぐんぐんとスピードを増しながら左右に車体を揺さぶりながら走るトラック。
もう5分はたったろうか?
視線を上げて前を見ているとゴールらしき宇宙船はどこにもなかった。
「おい、船まではあとどれくらいだ!?」
痺れを切らして俺は運転手に質問した。
後ろを気にしながら運転手はハンドルを切っている。
俺の質問への返答に困っていたのだろう。
少年は舌打ちをした。
まあ、こんな状況だから仕方ないか。
「えっと・・・あ、見えてきました!!」
カーブを曲がりきった瞬間、見えたのは巨大な宇宙船だった。
しかし、宇宙船の横に描かれていたのは太陽系連合軍のマークだった。
「大丈夫です、あれは偽装ですから」
アイビーが搾り出した声で言った。
「あんたら何なんだよ!!こんなことになるんだったら昨日の内にトライアル会場に運んでいればよかったぜ!」
モノはヒステリックに頭を抱え叫んだ。
後悔先に立たず・・・か。
先人のつくった言葉は偉大だね。
できれば体感したくはなかった言葉だな。
トクン・・・トクン・・・。
ドクン!ドクン!
俺は冷静を装っていたが心臓はヘビーメタルのバスドラムくらい鼓動していた。
俺はこの状況を楽しんでいるのか?
人が死ぬかもしれないのに。
俺が死ぬかもしれないのに。
でも、俺の表情は喜びの表情を隠していた。
不謹慎だからな。
俺の心が今の俺を理解できないからだ。
全く・・・人間ってこんなものなのか?
目標の戦艦のターミナルステーションビルから伸びているロープが次々と解かれる。
最後のエネルギーチューブも外れてエンジンが始動した。
低い低音が段々とキーをあげていく。
偽装艦は上昇を始めた。
「おい、どうなってる?俺達をまだ乗せてないぞ?」
把握しきれない状況に俺は運転手にまた質問していた。
少年に聞いても何もわからないことはわかっていたのに。
そんな俺の服の裾が引っ張られる。
「ん?」
しゃがみこんでいたアイビーが俺に通信機を渡す。
「これで・・・」
通信機を掴む。
「おい!こんな女の子置いてどこ行く気だよ!?」
手渡された通信機に向かって俺は言った。
相手が誰かも確認せずに。
ガッガー!!!
『しっかり掴まってろ!妹を頼む、地球人!』
は?
妹?
地球人?
頭の中に一気に流れ込んできた新しいワードが俺の思考を鈍らせた。
次の瞬間、偽装艦の下部からフックショットが出てきた。
まさか・・・。
嫌な予感がした。
この状況で俺達を素早く回収する方法・・・。
それはひとつしかなかった。
『トラックを止めろ!!!』
通信機から聞こえる声。
さっきと同じ声だ。
その声にビクッと反応した少年は思いっきりブレーキを踏んだ。
キ、キィィィーー!!!!
トラックが横転しそうなぐらい引っ張られる感じがした。
少し間を置いて・・・。
フックショットは俺達のトラックめがけて発射された。
「どっかに伏せて掴まれ!!!」
俺はとっさにアイビーの上に覆いかぶさった。
ガキィィ!!
かなりの衝撃と音。
フックショットはトラックの荷台部分に突き刺さった。
正直言って今日はやりすぎだ。
こんなにスリリングな出来事は1週間に2,3回で十分だ。
そうじゃないとおちおち寝てもいられないような体質になるぞ?
俺は少しコンテナの中のコクピットが気になった。
あいつら・・・コクピットが目的ならもう少し丁寧に扱えよ。
きっとフックショットはトラックに刺さったのだろう。
しかしながら酷い回収方法だな。
もしかして・・・。
俺は抱きしめているアイビーに声をかける。
「アイビー」
「・・・なんですか?」
俺の腹の辺りから声が響いた。
「これって最初からこうだったのか?」
腹の辺りがすれる。
首を横に振っているようだ。
「・・・きっとあの人の思い付きです」
・・・。
思わず絶句。
思いつきで思いついたのがこの方法か?
もうちょっと考えろよ・・・誰かさん。
ドンドン地上を離れていくトラック。
浮いてる感じに何も違和感はなかったが、揺れが酷い。
下から聞こえる銃声。
警察もさすがにミサイルを使うほどバカではないらしい。
この時ほど人権に感謝したことはないな。
偽装艦は俺達を収納後、統合軍の追っ手を振り切って大気圏を脱出した。
重力制御装置が進化したため、大気圏脱出という実感はわかなかった。
ただ聞こえる核融合炉の音をやけに覚えている。
低音と高音が入り混じったあのエンジン音。
モノが元気だったらきっと真っ先にエンジンルームに行っただろう。
しかし、モノは通路にあったベンチに寝転んだまましばらく動かなかった。
そんなモノを強制的に起こしてしばし地球への別れを宇宙船の窓から眺めていた。
しかし・・・青い地球を真下に見ていると話は別だ。
俺たちが住んでいた場所があんなに下に見える。
そう・・・俺達は今、宇宙にいる。
それだけは真実だった。
「なあ、リョウ・・・本当に大丈夫なのか?」
不安げに聞いてくるモノ。
俺は笑顔を返してやった。
「悪いな、つき合わせて。俺は本望だよ、地球から抜け出して」
その言葉は本心だった。
モノは俺の言葉を聞くと少しビックリしたようだった。
しかし、いつものことだ、と言い聞かせるようにため息をついた。
[格納庫]
俺達の製作した複座式コクピットを慎重に解析してる研究者が数人。
他の作業スタッフもいそいそと動き回っている。
彼らの表情を見る限り、俺達のコクピットは期待以上だったらしい。
何回か驚きの表情と歓声が沸いた。
「どうやら新しいスポンサーは気に入ってくれたようだな」
「でもよ〜スポンサーがレジスタンスなんて・・・」
俺は特に気にしないがな。
武器開発企業なんて立派な軍隊じゃないか。
たいして変わらないよ。
俺がそうたしなめるとモノはまたため息をついた。
それと同時に女が紙コップのコーヒーをさしだしてきた。
「レジスタンスでもテロリストでもないよ。私達はアザミさ、地球人」
俺はコーヒーを手に取る。
そっか・・・ここには地球人以外もいるんだよな。
俺達は日本人だ。
だけどここでは地球人なんだ。
スケールがでかいな、と関心してしまった。
女は砂糖とミルクを差し出してきたが俺はブラックなんで断った。
モノは砂糖を2つにミルクを1つ、コーヒーに入れてため息をついた。
そんなにため息つくなよな・・・。
「ありがとう、でも・・・あんたら反太陽系連合組織アザミって感じじゃないよな?」
モノが行きかう人を見ながら言った。
みんな制服を着ているが、中には帽子だけ、IDパスだけの人もいる。
規律は緩そうだ。
たしかに今の時代、制服が絶対ってのも古い。
制服なんて味方の認識にすらなくなってきたからな。
「あれ?それって褒めてんの?ありがと!頭は柔らかそうだね、私はキキョウ・神崎。火星生まれよ」
彼女はそう言うとゴミをゴミ箱に捨てて自分のコーヒーを口にした。
おしゃべりが好きそうな・・・フランクな印象を受ける。
「神崎?日本人で火星生まれなのか〜すごいな」
モノは視線をキキョウの上から下まで往復させる。
行動はいやらしいが目つきはいやらしくない。
モノはそんな男じゃない、はっきり言えば自然体。
だから変な行動しても許せる、それがモノの強みだ。
それを強みと言っていいのかはわからんが・・・。
そんなモノにキキョウはクスッと笑った。
「別に火星で生まれたからって、何かが変わるもんじゃないよ。スタイルは自信あるけどね〜」
ちょっとポーズをとるキキョウ。
モノは笑いながら拍手する。
・・・。
その言葉と2人の行動に俺はなんだか気恥ずかしくなってそっぽを向く。
対してモノはすっかり意気投合したのかキキョウと話に花を咲かしていた。
本当に人と仲良くなるのが早いな・・・モノは。
「君達、本当にあのコクピットすごいもんだね!あれならファミリアに搭載してもいけるんじゃないかな」
キキョウが軽く言い放った言葉を俺達はへぇ〜と聞き流していた。
・・・・。
・・・はい?
「ちょっと待て!今ファミリアって言ったか?」
モノはキキョウに言い寄った。
キキョウは不思議そうに言った。
「う、うん。そうよ、発掘したファミリアのコクピットが必要だからあなた達を連れてきたってアイビーが言ってたけど」
「・・・ファミリア、本当に実在していたのか」
俺は飲み干したコーヒーの紙コップを握り潰した。
久しぶりに興味が沸いてきた・・・ファミリアか。
ファミリア。
現在、運用されているペルソナの原点とでもいうべき存在。
失われたテクノロジーで創られたファミリアは永遠に稼動すると言われている。
しかし、その存在自体が稀で稼動しているファミリアは数えるほどしかない。
大破したファミリアは各惑星で遺跡として残っている。
・・・俺がわかっているのはこれだけだ。
しかし、「発掘した」と言ったな?
大破したファミリアを修復したのか?
・・・まずは実物を見て見なければ話にならないな。
「なぁ、キキョウさん。そのファミリア・・・見せてくれないか?」
「私はそっちに関しては聞いただけだからね〜。あ、丁度いいからアイビーに聞いてみるね」
近寄ってきたアイビーにキキョウが話を取り次いでくれている。
俺はその様子をただじっと見ていた。
キキョウの話を聞きながらも彼女は俺をずっと見つめていた。
・・・いったいなんなんだ?
1分もたたないうちにキキョウは俺たちの方を向いてウインクした後、格納庫を出て行った。
アイビーが近寄ってくる。
「リョウ、モノ、お待たせしました。これならあの子も喜んでくれるはずです」
あの子?
「なぁ、アイビー。見せてくれないか?あのコクピットを積むペルソナ・・・いや、ファミリアを」
うなずくアイビー。
そのまま俺の手首を掴んで半ば強引に引っ張る。
「お、おい」
「リョウなら・・・きっと」
戸惑う俺、しかし、もっと戸惑っていたのはモノだった。
「お、おい!待ってくれよ〜」
モノそっちのけってのが少し気の毒な気もするが・・・まあ、いいだろう。
アイビーに連れられた俺達は格納庫をひたすら歩いている。
気がつくと一番奥のブロックの前まで来ていた。
彼女はパネルの前に立つ。
IDカードを端末に差し込んでパスコードを打ち込んでいる。
「モノ・・・」
俺は少し小声でモノに尋ねた。
「ん?何だ?」
「俺達・・・もしかしたらとんでもない事に首突っ込んでるかもしれない。いいのか?」
いまさらだが一応、言っておかなければと思い言った。
しかし、心配しなくてもよかったな。
モノはため息をついて、俺の肩に腕を回してきた。
「こうなりゃトコトン付き合ってやるよ!死にたくはないがな」
笑いあう。
こういうのを親友っていうのか?
「・・・・開きます」
ガッーー・・・
巨大な扉が開いた。
真っ暗な格納庫に次々と明かりが灯る。
「・・・・!」
「すげぇ・・・」
俺とモノは驚愕した。
生ける伝説・・・そう呼んでも全くおかしくなかった。
真っ白で丸みを帯びた装甲。
頭は騎士を思わせるようなフォルム。
そう、騎士型のファミリア。
兵器とは思えないような芸術的圧倒的な存在感。
「これが・・・ファミリアか」
「いいえ」
アイビーは俺の手に自分の手をのせた。
「この子はアイオーン・・・あなたをずっと待っていた。私も・・・待っていた」
ふと頭の中に流れ込んできた言葉があった。
「流されないで。自分を忘れないで」
そうか・・・ここからが俺の道の始まりか。
俺はアイビーの手を握り、白騎士に向かって言った。
「よろしくな、アイオーン・・・」
っと、忘れちゃいけないよな。
アイビーを見つめる。
「よろしく、アイビー」
「・・・はい」
「はいはい!今はそこまでにしとけよ〜」
モノが割り込んできた瞬間、アラームが鳴った。
ビービービービー!!!!
『各員に告ぐ!地球統合軍の防衛ラインを突破する、配置につけ!!』
「急がないと・・・早くアイオーンへ」
アイビーがまた俺の手首を引っ張る。
俺はアイオーンに近寄ってコンソールパネルでベルトコンベアを移動させる。
「見たところ、コクピットを入れるだけで動きそうだな」
モノがアイオーンの身体の空洞を覗きながら言う。
「いいえ、まだコクピットだけでは完成ではありません」
「・・・こいつには動力、エンジンが積まれてないのか?」
アイビーはうなずいた。
エンジンがないって・・・それじゃあただの人形じゃないか。
・・・!
そうか!
「・・・コスモス・コアの搭載がまだなんだな?」
「やっぱり・・・あなたならわかると思いました」
「コスモス・コア?リョウ、なんだそりゃ?」
え・・・?
俺、なんで知ってたんだ?
戸惑う俺にアイビーが助け舟を出してくれた。
「仕方ありません、あなたは知っているだけで理解してるわけじゃありませんから」
・・・どういう意味だ?
知ってるだけで理解してない?
「コスモス・コア・・・超小型の核融合炉のことです」
核融合炉・・・発電や戦艦の動力に使われている。
アイオーン自体あまり大型ではないから本当に小さいんだろうな。
アイオーンを乗せたデッキごと動き出した。
ベルトコンベアか・・良いシステムだな。
なびく彼女の髪は綺麗だった。
あの女の子とは明らかに別人だ。
しかし、髪の毛の色くらいならいくらでも染められる。
「アイビー、君はもしかして・・・」
ヒュゥン!!
ベルトコンベアがいきなり停止した。
「うぉ!?」
ドスン!
俺は対応しきれず転んだ。
「いてぇ・・・」
そんな俺を無視して作業員がいっせいに組み立て作業を開始した。
モノもすっかり馴染んでコクピットの取り付け作業に参加していた。
俺も自分の仕事をしないとな・・・・。
俺はPCの前に立ち、P のインストール作業を開始した。
「モノ、コクピットのドッキングと調整はわかってるな?」
「はいはい、任せとけって!」
てきぱきと動く作業員。
もしかしたら研究所の奴らよりいい仕事かもな・・・。
感心しながら俺は指を動かした。
ドォォォン!!!
響く爆発音。
戦闘が始まったらしい。
しかし、みんな全く動じない。
慣れてるのか?
それとも鈍感なだけか?
『こちらブリッジ!アイビー、アイオーンの発進まであとどれくらいかかる?』
艦内放送でキキョウが言った。
アイビーは俺に通信機を渡してきた。
まあ、たしかに時間は俺の方がわかってるしな。
通信機にインカムをさして言った。
「まだ30分はかかる!作業自体は15分程度で終わるが調整とAIのインストールでさらに時間を食う!それまで耐えれるか?」
思ったことを言った。
やはり少し急いでいるのか俺らしくない荒々しい声だった。
『了解しました!リョウ、モノ、あんた達が頼りなんだからね!』
そう言って艦内放送は終わった。
「モノ、頼りにしてるってよ!」
「そりゃあ〜がんばんないとな!」
ドォォォーーン!!!
また爆発音がした。
この悪状況でよく作業できるな。
モノが爆発の衝撃でスパナを落とした。
「簡単に言ってくれるな〜キキョウも!」
モノのスパナがボルトを締める音が聞こえる
まったくだな。
少しはこっちのことも考えてくれよな。
さて・・・俺もやらないとな。
Pの入ったインストールディスクをPCに入れる。
俺はデータを解凍し、別のメモリに移し変える。
ざっと間違いはないか確認する。
・・・大丈夫だ、何回も確認したんだ。
信じろ、自分を。
「リョウ、セット完了!あとはOSとAIのインストールのみだ!」
俺はメモリを抜き出し、コクピットに乗る。
アイビーも俺に続けて後部座席に座る。
「アイビー、そっちの計器の確認を頼む」
「はい」
俺はメモリをコクピットに差し込む。
画面に表示されたのは俺のプログラム。
順調にセットアップが開始される。
思っていたより作業が早い。
これなら5分は短縮できそうだな。
しかし・・・
ヒュゥゥ・・・・ン・・・・
インストールが50%になった瞬間、電源が落ちた。
「なっ・・・・こんな時に!」
俺はスイッチを動かすが操作を受け付けてくれない。
するとアイビーは俺の首に手を回していった。
「大丈夫・・・」
「え?」
「・・・目覚めるよ、アイオーンが・・・」
キュィィィーーン、ガシュン!!
そういった途端、コクピットのハッチが閉じた。
ブィィーン。
なっ・・・!?
表示されたのは俺が設定していない画面。
「ア・・・イオー・・ン?」
画面には[Aion]と表示され、真っ赤になった。
『おいリョウ!どうしたんだ!?』
通信機からモノの声が聞こえた。
「わからん!ただエンジンを積んでないのに・・・起動してる!外部電源だけで・・・こんなはずは」
アイビーが顔をずいっと出して通信機に向かって言った。
「モノさん、赤いコンテナのロックを解除してください。パスは3471916です」
コンテナ・・・あのアイオーンの横にあった奴か。
サイズは2メートルくらいの正方形。
厳重にロックしてあったな。
「アイビー、もしかしてアレが?」
「はい、復元したコスモス・コアです。私達の技術をもってしても複製できなかったロストテクノロジーのひとつです」
モノがコンテナを開けた。
中にあったのは赤い直系1mくらいの球体だった。
「あれが・・・コスモス・コア?」
ギュィィィーン!
コスモス・コアを目にしたと同時だった。
アイオーンは勝手に動き始めた。
「なっ・・・こいつ・・・」
アイオーンの右手がコンテナの中に突っ込まれる。
わしづかみにしたコスモス・コア。
ゆっくりとアイオーンは自分の腹の辺りに持っていった。
「・・・求めているのか?自分の心臓を」
ガシュン!!!
アイオーンの腹部が開き、コスモス・コアをその中に導いた。
ガシュ!
腹部が閉じて、また視界がブラックアウトする。
コクピットの中を照らしていたのは薄暗い非常灯だけだ。
それでもアイビーの顔ははっきりと見えた。
「アイオーンの自我が復活した・・・やはりあなたは本物のようですね、リョウ」
アイビーが微笑んだ。
しかし、俺はまだ状況がつかめてなかった。
「俺は・・・なんなんだ?」
アイビーに問う。
彼女は言った。
「11年前の約束・・・私はそれを果たすお手伝いがしたいんです」
アイビーの言葉に一瞬頭の中が白くなった。
ガコン!キュイィィィーン・・・!!!
衝撃によって我に戻った。
キュィィィーーン!!!
コスモス・コアの音が間近で聞こえる。
すごい・・・こいつはとんでもない化け物だな。
『起動確認・・・コスモス・コア稼働率30%・・・通常戦闘に問題なし。パイロット、名を名乗れ』
P・・・じゃない。
俺のプログラムしたPにこんな機能はついていない。
でも・・・もうこれ以上驚くことはない。
俺は見つけたんだ。
失われた記憶への道を。
「モノ、総員を退避させろ・・・」
『はぁ!?・・・わかったよ!みんな、無茶な奴が出るぞ!!』
作業員が2階へと非難するのを確認する。
操縦桿を手に取る。
シュミレーターと操縦方法は同じだ。
落ち着け・・・落ち着け。
『パイロット、名を名乗れ』
「俺は・・・」
アイビーが操縦桿を握る手に自分の手を重ねた。
「流されないで。自分を忘れないで」
これは・・・誰かに頼まれたわけじゃない。
自分で・・・自分が決めたんだ。
流されるな。自分を忘れるな。
俺は・・・。
「俺はリョウ・アベリア・真崎。お前の名は・・・Pでいいのか?それともアイオーンか?」
『・・・好きにしろ、悪いがPには損失した部分を補わせてもらった。良いAIだな』
「お世辞でもうれしいよ。アイビーは登録しないのか?」
「私は・・・アイオーンの封印を解くときに登録ずみですから」
封印・・・?
「アイオーン、内臓武器は使えるのか?」
そう言うとモニターに表示されたアイオーンの詳細。
『現在、内臓武器は使いものにならない。使えるのは膝のアンカーショットくらいだ』
俺はタッチパネルを操作し、検索した。
『モノ、他のペルソナの武装を1番カタパルトに移してくれ』
さすがのファミリアも丸腰では意味がない。
ゆっくりとベルトコンベアが動き出す。
1番カタパルトにアイオーンの背部にドッキングするメンテアーム。
左右の壁が開き、武器が出てくる。
アサルトライフルやマシンガンなどが見える。
「アイオーンは理論上、無限のエネルギーを引き出せます。エネルギー武器はエネルギー残量を気にしないで戦えます」
アイビーのアドバイス通り、俺はリボルバータイプのエネルギーガンを2丁腰に装備した。
リボルバータイプといっても弾が必要なわけではなく、コンデサーを6個配置して連続射撃による熱暴走を防ぐ機構だ。
確か地球製だったような・・・・ま、細かいことは気にするな。
最後に目に見えたのはエネルギーチューブのついた剣。
アイオーンの腕のコネクターに装備して使うタイプだ。
俺はなんとなくその剣を手に取り、コネクターにチューブをつないで腕に装着した。
『リョウ!妹を頼む!』
「あんた・・・誰だ?」
俺はモニターに映る30代の男に問いかけた。
「俺はカオス・アーティチョーク。艦長だ、アイビーは俺の妹・・・責任は重大だぞ!?」
・・・さっきの総員配置につけ!の人か・・・。
俺はなんとなくアイビーの方を向いた。
彼女はクスッと笑って俺に言った。
「すいません、兄は心配性なんです」
「・・・大変だな、君も」
『リョウ!アイビー!ハッチを開けます、統合軍の戦艦を足止めしてくれれば十分です。あまり無理しないで!』
・・・相変わらず軽く言ってくれるね。
でも・・・硬いのよりはだいぶマシか!!
心臓が高ぶるのを感じた。
・・・死ぬなよ?俺。
「リョウ・アベリア・真崎!アイオーン、出る!」
グリフォンの代理感想
こんばんわです。今回、氏名されましたグリフォンです。
なんとも、戦争でしかも色々とあるようですね…
地球、月や木星…そして太陽系連合ですか…
なんか楽しそうな世界観ですね、しかも紛争中(笑
主人公たちも、反太陽系連合組織っていうだけあって、色々な連合のあつまりなんでしょうか?
それにしても、こういう紛争がある世界って、大概政治家がバカに見えますけど
実際のところ、戦争するぐらいの危機的状況の政治家って、有能な人間が多いんですよね。歴史では(笑
とにかく、主人公たちの活躍に好期待といったところでしょうか…
追伸
なお、感想が遅れてしまい、ご迷惑をかけてしまいました。すみませんでした。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
masaki
改さんへの感想はこちらの方へ!
掲示板でも歓迎です♪