初めての出撃。
それは俺にとって初めての宇宙でもある。
「すげぇ・・・」
見渡す限り黒い。
そんな当たり前の事でさえ俺は感動していた。
「リョウ、モニターと下のアラウンドレーダーに集中してください」
アイビーから注意を受ける。
丸いレーダーには多数の光。
・・・嫌にも緊張するな。
『リョウ、右を見ろ』
通信機から艦長であるカオスの声が聞こえた。
言うとおりに右のモニターを見るとさっきまでいた戦艦が見えた。
「うぉ!?でけぇ・・・」
『どうだ、これが俺たちの戦艦ゼクロスだ』
中型戦艦のくせにこのフォルム・・・最新型戦艦に間違いない。
つい半年前に発表された拡散ビーム砲が・・・おっ、船首部分にあるのは重力砲か!?
おぉ!光子バルカン砲も・・・・!
「リョウ、前!」
「え?」
いきなり目に映ったデブリ。
やばい、つい戦艦に見とれてしまった。
「くっ・・・やろぉぉ!!!」
急降下してデブリを回避する。
ふぅ・・・よかった・・・。
変な汗出てきやがった・・・。
初出撃で死ぬのはさすがに勘弁してくれ。
「リョウ、ゼクロスのデータは後で見せてあげますよ」
アイビーが笑いながら言ってくれた。
・・・なんか恥ずかしくなってきた。
モノなんかもっとすごいだろうな、リアクションが。
ピピピピ!!!!
鳴り響くアラーム。
モニターに表示されるCOUTIONの文字。
「リョウ、3時の方向から敵影・・・Dollよ!」
アイビーの声が後ろからはっきりと聞こえた。
カメラを3時方向に向ける。
Doll。
太陽系連合軍および地球統合軍が主力とする兵器の総称。
人型・・・じゃないな、足がない。
型番は・・・Beeか。
あれらないける。
こいつの性能なら・・・。
「リョウ、Beeの弱点は背部のエネルギーチューブです。あれを斬れば10分も行動できません」
後ろのエネルギーチューブか・・・。
「アイオーン、ウェポンセレクター、レーザーブレイド、ライトオン!」
『了解(ラジャー)』
そう言うとアイオーンは腕に装備された剣を右手に持つ。
音声認識システム・・・感度は良好のようだな。
時間がなくて装備変更システムに手をかける時間がなかったからな。
ドドドッドド!!!!
敵Dollからの銃撃。
まだ距離があるため、ほとんど当たらない。
一気に間合いを詰めて・・・。
ヒュォォォォオオオ・・・・
スロットルを入れる。
コスモス・コア独特の振動音が鳴り響いた。
ドッ!!!
アイオーンのふくらはぎのブースターが青白く光る。
モニターに表示される敵影がどんどん大きくなっていく。
「くっ・・・すごい加速だ・・・」
操縦桿を握る手を強める。
シュミレーターとは大違いだな・・・。
いや、こいつが。
アイオーンが段違いの性能なんだ。
目の前にBeeがいた。
通り過ぎて敵の後ろに回り込み、急停止する。
機体が大きく傾いた。
しかし、すぐ制御用ブースターが作動した。
アイビーが機体制御をしてくれている。
これなら大丈夫だ。
安心して攻撃に専念できる。
「このぉぉぉ!!!」
ガキィィィ!!!
アイオーンのブレイドはBeeを真っ二つにした。
なんて切れ味だ。
メインカメラを壊すつもりだったのに。
「しまった・・・パイロットは・・」
「大丈夫です、この部隊のBeeは全部オートです。存分にやってください」
アイビーのフォローが入る。
いちいちエネルギーチューブを斬らなくても・・・いける。
残りのBeeがアイオーンに向かってミサイルを放つ。
「この程度で・・・落ちるかよっ!」
アイオーンの脚部を振り上げ、左右に揺れながら後退する。
全てのミサイルをブレイドで叩き落す。
すごい。
こいつ・・・思い通りに動いてくれる!
ドドドッドオォオーン!!!
ミサイルの爆風に紛れてBeeの横へ移動し、斬り捨てる。
続けざまに残りのBeeをブレイドの切っ先でエネルギーチューブの根元をえぐる。
閃光と一緒にBeeは爆風に包まれた。
初めての実践でスロット等の操作に力が入る。
頬を汗がつたった。
「リョウ、大丈夫?」
アイビーが俺を気遣ってくれる。
気づけば息があがっていた。
「はぁ・・・大丈夫・・・ちょっと興奮しただけだ」
力み過ぎだ、もっと力を抜け。
あまりにも素人な俺自身にいらつく。
性能が良くても俺がこれじゃあ・・・。
ピピッ!
新たな敵の反応。
「リョウ、きりがありません。ゼクロスは置いて前方の戦艦を」
前方の戦艦。
ゼクロスよりも大きい。
しかし、航行速度は遅い。
旧式だな。
「わかった!アイオーン、ライトオフ!ライトニングリボルバー、ダブルオン!」
『了解(ラジャー)』
ドッ!!!
加速しながら戦艦に向けて射撃する。
リボルバーから放たれるビームは全弾、エンジン近くにヒットした。
「リョウ、エンジンの横を攻撃してください。そうすれば止まるはずです」
アイビーの的確な指示。
護衛のBeeを無視する。
アイオーンはBeeの射撃をもろともせず、すり抜けに成功した。
『な、なんだあのファミリアは!?聞いてないぞ!?』
『あれがアザミの新型なのかっ!?』
傍受した敵戦艦の艦内通信が聞こえる。
そうか、あいつらはファミリアが存在することさえも知らなかったのか。
可愛そうに・・・。
まとわりつくBeeごしに戦艦へと膝のアンカーショットを打つ。
アンカーはBeeを貫通し、戦艦の壁面に突き刺さった。
「アンカー、巻き取ります」
あっという間に戦艦に取り付いた。
ここから撃墜するのは簡単だが・・・。
「アイビー、敵戦艦に通信送れるか?」
「?ええ、いいですよ。音声はいじっておきますので・・・」
背後にいるBeeは攻撃してこない。
今攻撃すれば戦艦に当たるしな。
「敵戦艦各員に告ぐ、今から動力部を破壊する。早く脱出艇に乗り込め、いいな?」
俺はざわついた敵戦艦の通信を聞きながらお節介にも逃げろと言う俺がなんとなくおかしかった。
アイビーもそう思っているだろう。
「・・・一応な、人が死ぬのに慣れてないんだよ」
3秒の間。
「優しいんですね、リョウは」
優しいじゃなくてずるいんだよ、俺は。
『動力部から総員退避完了しました!』
その言葉と同時に俺は両方のトリガーを引いた。
ドドドドド!!!
むき出しになったパイプをリボルバーで乱射する。
これで・・・どうだ?
取り巻きのBeeの反応が消えた。
「敵戦艦よりエネルギー反応無し。核融合炉沈黙・・・リョウ、作戦成功です」
「ふー・・・・」
安心して身体の力が抜ける。
額に浮いた汗をぬぐう。
この戦闘でわかった。
アイオーン、こいつは化け物だ。
普通のペルソナやDollでは歯が立たない。
もし敵にファミリアでこられたら・・・あまり考えたくないな。
数少ないファミリアのパイロットはきっとエースパイロットだ。
俺に勝ち目はあるのか・・・。
「ゼクロスに戻りましょ・・・!?リョウ、離れて!」
アンカーショットを抜き、戦艦の壁面を蹴って戦艦から離れる。
ピピピピッ!!!
戦艦内部からのエネルギー反応。
アイビーはどうやら音声レーダーも見ているらしい。
レーダーより早いとは・・・。
ドドドドドド!!!
戦艦越しの射撃。
予想外の攻撃に防御姿勢をとる。
「くっ・・・・なんなんだ?」
「どうして統合軍がペルソナを・・・気をつけて!今までのとは違います!」
ピピッガッガガ・・
敵からの通信が入る。
『ほう・・・それが噂のファミリアか・・・どれほどの力だと思えば・・・たいしたことないな?』
敵ペルソナが戦艦の破損部から姿を現した。
ノーマルな人型2脚。
肩には大型ガトリング砲が2門。
ところどころに見えるミサイルパック。
見るからに隊長機と思わせる青いカラーリング。
『パイロットがだめなんだろうな』
笑いながら言ってきた。
「リョウ、流してください。ただの挑発です」
アイビーはそういったが・・・俺はこういう奴があまり好きではない。
こういう奴の対処法は心がけている。
「いるんだよな〜口だけ達者で5秒も経たずに死ぬ脇役って」
俺の勘が正しければ・・・。
『き、貴様ァ!?ふざけるなぁぁ!!!』
ほら、怒った。
大概こういう奴は逆ギレするんだよな〜。
一斉に撃ってきたミサイル。
俺はバックステップしながらリボルバーで打ち落とす。
ついでに敵ペルソナの腕も片方撃つ。
『くっ・・・なんて早さだ!しかもこんな大容量のエネルギー弾を連射できるとは・・・』
そうだろうな。
アイオーンは戦艦並みの動力のコスモス・コアを搭載している。
並みのペルソナと比べたら桁違いのエネルギー量だ。
だから大抵のペルソナにエネルギー兵器は搭載されてない。
搭載されていたとしたらそれは最後の手段だろう。
ドドッドドドドドド!!!
敵のガトリング。
しかし、アイオーンの装甲には全く効かない。
『なっ・・・これが・・・アザミのファミリアだというのかっ!?』
俺はスロットルを大きめに入れて、一気に詰め寄る。
「アイオーン、ライトオフ、レーザーブレイド、ライトオン」
『了解』
剣で敵の両肩を斬った。
『そ、そんなバカな!こいつ・・・化け物か!?』
さらに下半身と上半身を斬り離す。
俺は剣を敵のメインカメラに向ける。
「・・・悪いが・・・斬らせてもらうぞ!!」
『ひ、ひあぁぁぁ!!?』
ドッ!!!
俺は敵の首を横斬りした後、背中のバルカン砲を引っこ抜いて何もできないコクピットを持った。
そして、レーダーで仲間の戦艦の方向を確認し、コクピットをその方向に投げてやった。
「私の思ったとおりです」
俺の肩をちょんと叩いた、アイビーが言った。
「別に。俺は君の兄さんの命令を聞いただけさ。足止めだからな、あくまでも」
俺はアイビーの方を向いて笑う。
アイビーはクスッと笑い返してくれた。
「そうですね。あ、このバルカン砲、どうします?」
アイオーンの左腕に抱えられたバルカン砲。
接合部分が壊れただけでまだ使えそうだ。
「モノが喜びそうだから持って帰るか」
遠くにはゆっくりと逃げる脱出艇と廃棄されたペルソナのボディがあった。
あのペルソナ・・・データベースにない?
確かにインストールしたデータの中にはない。
おかしいな・・・最新のデータのはずなのに。
ピピピッ!
ゼクロスより通信が入った。
「こちらゼクロス。本艦は予定ポイントを通過しました、ご苦労様、リョウ、アイビー、すぐ帰還してね」
キキョウの明るい声がコクピット内に響いた。
「了解、すぐに帰還します」
アイビーはそう言うと自動帰還プログラムを実行した。
ゼクロスに帰る間、俺はアイビーにあることを確認した。
「なあ、アイビー。君は・・・11年前俺に何があったか知っているんだよな?」
アイビーは俺の問いにうなずいた。
「じゃあ君は・・・11年前の女の子じゃないってことか?」
そう言うとアイビーは少し戸惑った様子で言った。
「なんて言えばいいのかな・・・ごめんなさい、わからない。でも、私があなたが知ってる事を知ってるのは本当」
・・・実際どうなんだろうか?
彼女が嘘をついているようには見えない。
でも彼女は知っている、あの言葉を。
「流されないで。自分を忘れないで」
・・・アイビーは間違いなく俺の知らない記憶を知っている。
でも言おうとはしないし、言うと戸惑う。
これは・・・。
「・・・君は誰かに11年前の事を話す行為を禁止されているのか?」
・・・・。
「えと・・・はい、正確にはその人が直接話したいからと言われています・・・」
アイビーが困ったように、また、少し確認しながら注意深く言った。
なるほど。
アイビーはあの子ではない。
ならば・・・・禁止しているのは彼女なのか?
でも彼女はなぜアイビーに言った?
そもそも彼女はなぜ俺を?
・・・。
今考えても仕方ないか。
いつか会える日が来るんだ。
その日までこの疑問はしまっておこう。
思い出が現実に変わる日まで。
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masaki
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