それは、愛ゆえの戦い
それは、乙女達の哀しき悲恋の戦い
時の流れは風に流れる煙のように、ゆらゆらと揺れ動いて定まらない
たゆたう時の流れの中、人間は多くある選択肢から一つを選び、己が進む道を見出す。
進む道を見出した者の中には
憧れる者に近づく為に励む者――
自らの夢を叶える為に突き進む者――
いずれも『時』を積み重ねていき、達成するもの
だが、そんな『時』を破壊することを最大の目的とする者がいる……その名は《イマジン》
《お前の望みを言え、どんな望みも叶えてやろう……お前の払うべき代償はたった一つ》
純粋なる願いを自らの邪悪なる目的の為に利用する未来からの侵略者《イマジン》
どこからともなく現れた砂の怪人達は望みを叶える代償として、契約者の『過去』を奪っていく。
しかし、時の破壊者から『時刻』の運行を守る一人の戦士がいた。その名は――
ミルクディッパー。
軽くレトロの入った外装を持つ喫茶店は、穏やかな雰囲気を醸し出し、老若男女を問わずに好まれている。
店の片隅には望遠鏡と星の絵が飾れて、更に店の雰囲気を和やかにしてくれる。
こんな店で午後の一息していこうと、偶然に通り掛かった人間が喫茶店のドアを開くことも珍しくはない――だがそれは、いつもならばの話だった。
――カラン♪コロン♪
店内に入店の知らせを教えるベルの音が鳴り響く。
「いらっしゃいませ〜」
来客の知らせにコーヒーを淹れていた女店主が挨拶を述べた。
「こちらに……野上良太郎君はいらっしゃいますか」
足下まで隠れる黒い学生服のような服と首から下がっているロザリオが特徴的な中老の男はミルクディッパーの入り口でそう言った。
「あの、僕に何のご用で…?」
カウンター席から離れた――窓際に配置されたテーブルに愛理が淹れたコーヒーを置き、向かい合わせに座った良太郎は男に問い掛けた。
男は淹れたてのコーヒーを一口啜り、カップを静かにソーサーに置いた。
「野上 良太郎君…君は天河 諭という人物をご存知だね?」
「え?」
男――ジョセフ・グリーアのこの一言が良太郎をある戦いへ導くなどと誰が予想したのだろうか……
――時は流れるモノ――
「天河教授はある研究の際に、ある日忽然と姿を消し、そのまま現在も行方不明となっています」
「先生が……そんな」
「君にお願いしたいことあります」
かつての恩師が研究していたもの、それは悲しき物語、哀しき戦いの物語。その名は
「君に…『媛伝説』の研究をしばらくの間、引き継いで貰いたいのです」
――時は揺蕩うモノ――
数日後、良太郎は風華学園に赴くことになったが……不幸体質の良太郎は早速ドタバタにまきこれることになる。
「こぉんの!痴漢!」
出会ったばかりの少女『鴇羽 舞衣』の胸を触ってしまうというハプニングを起してしまう。強烈な平手打ちを食らう羽目になった良太郎は、誤解を解く暇もなく舞衣に最悪の印象をもたれ……
「この学園は恋愛禁止だ!」
銃口を突きつけ睨みつけてくる少女『玖我なつき』は、思わず両手を挙げる良太郎に対してそう告げて不機嫌そうに眉根を寄せる。
「良……ちゃん?」
「まさか、朔夜ちゃん……?」
風華学園敷設の教会にいるグリーア神父に挨拶を済ませた良太郎があてがわれた寮へ向かうため学園を出ようとした時、後ろから呼び止める声があった。
振り向いた先にいた彼女は、良太郎の恩師・天河諭の娘であり、幼い頃一緒に遊んでいたこともある『天河朔夜』だった。
「おまえ、いい奴だな!」
次の日、寝坊をしてしまった良太郎は風華学園への坂道を登る途中、足取りが急に重くなり不振に思って振り返ると空腹に目を回しているらしい少女が足にへばりついていた。
朝食代わりに渡されたイチゴ大福を差し出すと、満足そうに食べ終えた少女『美袋命』は良太郎のことを気に入り、すっかり懐かれてしまうのだった……
――踏み込んだのは、悲しき戦いの『舞台』――
「な……何……!?」
「じ、地震かな……オ、オヨヨヨ〜〜!」
天河教授の調査の跡を探す良太郎は風華学園の裏山に入り込み、途中に建てられた神社でどこか必死にお参りをする鴇羽 舞衣の姿を見つける。
何を祀っているのかが気になり、社殿の中を覗こうとした刹那、山が揺れた。
揺れが長く、立っていられなくなり、思いっきり顔面からコケる良太郎。
「や、やっと治まった……!?」
「は、はいーーーーーーーーーーーーーー!!?」
地震が治まり、顔を上げる二人の前には異形の怪人。怪人の姿に舞衣の悲鳴が響き渡る。
「ぐ……っ!!」
「の、野上君!」
舞衣を逃そうとする良太郎に怪人の一撃が襲い掛かる
「こ、来ないで……」
重く歩み寄ってくる怪人に舞衣は腰を抜かして後ずさるしかできなかった。
歪ながらも力強さを感じさせる腕を振り下ろす、恐怖のあまり目を瞑ってしまう舞衣。しかし、それが彼女に直撃することはなかった。
「よぉ……随分とやってくれるじゃねぇか」
そこにあったのは、逆立った髪に軽く赤メッシュが入り、瞳までもが赤くなった良太郎の姿が腕を交差させて怪人の一撃を受け止めた姿。
「見せてやるぜ!俺の最高にカッコイイ変身をな!変身ッ!」
淡い光と共に現れたベルトを手に良太郎は嬉々として腰に巻きつけ、ベルトの赤いボタン―――フォームスイッチを押した。
すると音楽が流れ、赤くなったターミナルバックルへとライダーパスを接触させる良太郎。
Sword Form
接触したターミナルバックルの輝きが増し、良太郎はライダースーツを思わせる容姿へと変化、更に六つの装甲が現れる。装甲が装着され、桃を思わせるような仮面を持つ戦士へと変身を遂げた。
「俺……参上!!」
戦士の名は――仮面ライダー電王
『媛星』
『星詠みの舞』
『HiME』
『チャイルド』
『オーファン』
個々のキーワードが一本の線として繋がる時、媛伝説に隠された秘密が明かされる
――告げられるは、乙女達の運命――
「HiMEが闘わなくてはならない相手、それは―――だよ」
冷たく降りしきる雨が周りの音を遮断する。だが、その中で紡がれる凪の声はよく聞こえた。
「嘘……?」
「ふざけたことをぬかしてんじゃねぇぞ、このガキ!!」
<モモタロス!?>
凪の紡いだ言葉に対して我慢ができなかったモモタロスが良太郎に憑依し、シャツを掴んで凪の首を揺らす。
「ふざけてないよ。残念ながらこれは真実だ」
首を思いっきり揺らされてもなお冷静に言葉を紡ぐ凪。その態度が先程の言葉が真実であると裏付けていた。
闘わなければ、全てが終わる
――決断の瞬間は迫る――
「ここから先のことは関わらないほうがいいよ。野上良太郎……でなけりゃ、本当にキツイよ」
「凪、キミの目的は何なの?それにキミは一体……」
「残念だけど、それは言えないな。言っちゃうと、僕が怒られちゃう」
まるで子どものようにへらっと笑う凪。だが、次の瞬間には年相応という言葉が消え失せるほどの真剣な顔つきで言った。
「退く気が無いなら、それでも構わないけど………選ぶことになるよ」
一を捨てて十を救うか
十を捨てても一を救うか
「そんなの選べない……僕は全てを助けたい」
「無理だよ。選べずとも君は選ばなければならない」
氷の冷たさも敵わない凪の言葉が良太郎を追い詰める
どちらを選ぶか
全てを失うか……
「どうしても…捨てなきゃならない“一”なら、僕が……僕が残りを補う」
――決められし運命、抗うことは――
「大切な人が消える、そんな悲しいことは続かせたら駄目なんだ…!」
「テメェは女々しいんだよ!こんなモンはよぉ、ガキに背負わせるもんじゃねぇんだッ!!」
「「消えろおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」
――是か、否か――
【時刻の守護者 運命ノ乙女】
そして、時は動き出す