キ☆チ★ク☆な、ご舎弟さま



本作は、一般投稿させて貰っている『がんばれ、ご舎弟様』
そのいちの表からのIF分岐ルート作品です。

初めての方は、お手数ですがそちらを読んでから、ご賞味下さい。


前編






◇Side:Akinori

 光線級の狙撃を恐れ、地を這うように建物の間を抜けて飛ぶ我がシリウス小隊。
 一直線で飛べず、速度もさほど出せぬ分、普段ならものの数分で着く筈の駅まで、その数倍の時間が掛かってしまいます。

 背後から聞こえていた艦砲射撃の音も既に途絶えて久しく、変わって戦術機の突撃砲であろう発砲音が引っ切り無しに聞こえてきました。
 早くも残敵掃討が始まったようです。
 任務として割り振られているとはいえ、こちらも早めに済ませて本隊に合流すべきなのは確かな状況でした。

 わずかな焦りを感じた私は、着地して主脚走行(ラン)で接近するべき局面を、敢えて匍匐飛行のまま京都駅へと接近します。

 既に接近しつつ、何度か放たれた通信に応答がまるで無いのは確認済み。
 友軍機のシグナルが幾つかありますが、全く動いていない時点で、生存の可能性を切り捨てました。
 九割九分九厘、京都駅は既に陥落していると確信した以上、敵が居る前提で動けば問題ないとの判断からです。
 可能な限り素早く接近し、そしてそのまま翔け抜けながら状況を把握する事にしたのでした。

 ――奪還が可能ならば奪還を。
 ――それが叶わぬなら、状況を記録した上で後退し、報告を。

 そのいずれかを選択肢として脳裏に上げながら、這う様に飛ぶ私達シリウス小隊は、程なくして京都駅前へと辿り着いたのです。

 そして――

 出迎えは巨大な鞭の一閃。

 ビルの谷間から飛び出した私達に向けて放たれたソレを、これあるを予見していた小隊の面々は、苦も無くかわしてみせました。
 流石は斯衛最強を謳われる第十六大隊においても、更に腕利きとして一目置かれる連中です。
 この時ばかりは、兄上の配慮に感謝しつつ、素早く駅前の状況を見て取った私。

 灯火の途絶えた駅舎の前に、デンとばかりに聳え立つ異形――見間違えようもない要塞級とその足元で蠢く影達。
 戦車級と兵士級、或いは闘士級も混じっていたかもしれません。
 唯一、幸いだったのは、要塞級以外の大型種、そして光線級の存在が見当たらない事でした。

 とはいえ、こちらから確認できない位置に居る可能性も否めません。
 確実を期す為に、ここは一旦、退く方が無難かと私が思ったその時、旋回していた武御雷から望める駅舎の天窓の奥に動くモノが見えたのです。
 一瞬だけ見えたソレは、山吹色の人影の様でした。

『生存者かっ!?』

 既に駅舎内の者達は、皆殺しにされたものと思い込んでいた私の脳裏から、撤退の二文字が消えました。

「シリウス1より各機。
 駅舎内に生存者を確認。
 シリウス1は生存者の救助に入る。
 各機は要塞級を撃破せよ」

 その命令を下すと同時に、蒼い機体が加速しました。
 振り回される要塞級の鞭を、最新鋭機の面目躍如とでも言うべき鋭い機動でかわした私の武御雷は、そのまま駅舎の天窓に向けて脚部から突っ込んでいきます。

 鋭い音と共に砕けたガラスが乱舞する中、機体に備えつけられたサーチライトで駅舎内を照らし出すと――― 居ました!

 片手に銃を構えた山吹色の衛士強化装備を付けた少女が、建物に突っ込む形で大破した瑞鶴から少し離れた位置に一人。
 その銃口の向かう先、無残にも倒れた瑞鶴の管制ユニット内にももう一人。

 そしてそんな彼女を喰い殺すべく群がり来る赤い異形達――戦車級が。

 ――居ました。

 その光景を見た瞬間、兄上の調教――もとい、精神修養の壁を越えて煮えたぎる様な激情が湧き上がってきます。

「おおおおおぉぉぉぉっ!」

 自身のものとは思えぬ雄叫びが口を突きました。
 溢れる怒りのままに、照準をつけた突撃砲が火を噴き、瑞鶴周辺の戦車級へと三十六ミリ弾の雨をみまいます。
 更に瑞鶴に取り付いている戦車級を削ぎ落とすべく、抜き放たれた74式近接戦用長刀が唸りを上げて空を切り裂きました。

 押し潰され、或いは引き裂かれた赤黒い肉片が、宙を舞い、濁った体液が辺り一面に降り注ぎます。
 我ながら見事と言いたくなる程の剣閃は、瑞鶴に傷一つ着ける事無く貼り着いていた戦車級の悉くを弾き飛ばしていました。

 ですが、まだ終わりではありません。

 武御雷に惹かれて来たのか、周囲からワラワラと戦車級共が集まってきます。
 中には面倒な事に兵士級も混じっている様でした。

「そこの山吹の衛士、瑞鶴の管制ユニットに入れ!」

 戦術機にとって脅威とは言えぬ兵士級。
 ですが、強化装備しか身に着けていない衛士にとっては死神と同義です。
 そんな厄介な化け物を相手に、守るべき対象が分散しているのは不利以外の何ものでもありませんから。

 そんな私の判断が、その一喝で伝わったのでしょう。
 慌てて瑞鶴へと駆け寄った山吹の衛士は、瑞鶴の管制ユニットの破損部から、その中へと潜り込みました。

 パッと見た限り、まだどちらも年端の行かぬ小柄な少女です。
 やや窮屈かもしれませんが、隠れている分には、何とかなるでしょう。

 そう見取った私は、手にしていた74式近接戦用長刀を、瑞鶴の破損部を覆い隠す様に地面へと突き立てます。
 轟音と共に、駅舎の床に突き刺した愛刀が、しっかりと食い込んでいる事を確認した私は、少しだけ安堵の色を浮かべました。

 戦術機の馬力で力一杯突き刺したスーパーカーボン製の刀身は、兵士級如きにどうこうできる代物ではありません。
 これで後は、戦車級の動きに注意を払っていれば、彼女らの身に危害が及ぶ事は無いでしょう。

 後は――

「貴様らを始末するだけだ」

 囁く様な声で呟きます。
 低く、そして静かに。

「シリウス1より各機へ。
 全兵装使用自由(オールウェポンズフリー)、BETA共を殲滅せよ」

 そう命ずると共に、全ての砲口を地上に向けた私は、容赦なく引き金を引き絞り、砲弾の雨を化け物共の頭上へと叩きつけます。
 同時に抜き放った短刀を振るい、或いは脚部のカーボンエッジブレードで蹴り飛ばして、武御雷や瑞鶴に襲いかかろうとする雑魚共を引き裂き続けました。
 醜悪な異形の悉くが砕け飛び散り、背後では要塞級が崩れ落ちる轟音が響きます。
 それでも尚、止む事の無い砲火と血刀の洗礼は、異形どもの全てが肉片と化して大地にブチ撒けられる瞬間まで止む事は無かったのでした。

「ふぅ、ふぅ……」

 数分後、蠢く異形の悉くを粉砕し尽くした私は、やや乱れた呼吸を鎮めながら、ゆっくりと機体を停止させました。
 瑞鶴の前に突き立てた長刀を引き抜き、兵装担架へと戻すと、その傍らで武御雷に駐機姿勢を取らせた私は、小隊各機に周囲の警戒を命ずるやいなや、そのまま管制ユニットを開け、下へと飛び降ります。
 背後のスピーカーから、お目付け役の怒声が聞こえましたが、知った事ではありません。
 そのまま倒れ伏す瑞鶴へと一目散に駆け寄った私は、管制ユニットの亀裂の中を覗き込みました。
 不意に差した影に怯えたのでしょう。
 中に居た二人の少女が、ビクリと身を竦ませていました。

 ……まあ、気持ちは分かるのですが、銃口をこちらに向けるのは止めて欲しいものです。
 流石に少々、心臓に悪いのですから。

 パッと見た限り、山吹の衛士の方は、ほとんど負傷らしい負傷も無い様ですが、白の衛士の方は、やや拙い状況です。
 墜落した際に強打したのでしょうが、歪んだ管制ユニットにより下肢が押し潰されており、更に注視すると手当されたのか、両腕にも添え木を当てて固定がされていました。
 下肢損壊、両腕骨折――これでは逃げる事はおろか、自害する事すら叶わなかったでしょう。
 飛び込んできた際に見た光景は、戦友を救おうとしていたのではない事を、私はこの時悟りました。

 再び、二人の少女を注視します。

 恐らくは、この非常時に学徒動員された衛士養成校の生徒なのでしょう。
 どちらも顔色の悪さは隠せませんが、まだ幼さを残す美貌の中には、傷ついてなお挫けぬ凛とした意思の強さを感じさせてくれました。

 ――なんともはやだな。

 そう胸中で嘆息した私は、ニート志望者である自分との差に引け目を感じつつ、それを覆い隠す無個性な声で彼女らに話し掛けました。

「無事か――とは言えそうにない状況だな?」

 ここはにっこり笑って励ます局面。
 そうと分かっていても、笑えぬこの身が情けないです。

 その証拠に、再び身を引かれてしまいました。
 なんと言うか、地味に落ち込みます。

「貴官らの姓名・所属・階級は?」

 再び、平坦な声が響きました。
 あ〜〜愛想の一つも出来ない我が身が恨めしいです。

 そんな事を胸中で愚痴っていると、山吹の方の娘が私の質問に答えてくれます。

「あ、嵐山中隊所属、篁唯依少尉であります!
 それとこちらは、同中隊所属の山城上総少尉です」

 そう言いながらピシリと敬礼をして来る少女に、私も答礼を返しながら自身の姓名を名乗りました。

「斯衛第十六大隊所属、シリウス小隊隊長、斑鳩明憲中尉だ」

 ……え〜〜……怯えないで貰いたいのですが。
 そんなに怖いんですかね、私。
 本当に地味に落ち込んでしまいますよ。

 等と、屋敷に帰って部屋に籠ってしまいたい気分になった私に向けて、恐る恐るといった口調で山吹の衛士――いえ、篁少尉が尋ねて来ました。

「あの……斑鳩家所縁の御方ですか?」

 怯えているというよりは、恐縮しているという感じでしょうか?
 どうも強化装備の色から、私が五摂家の人間と知って萎縮している様でした。

 怯えられているのではないと分かって、内心でホッと胸を撫で下ろします。
 良く見直してみれば、どこか慌てた風情が垣間見える彼女の様子に、思わず頬が緩みました。

「「―――っ!?」」

 おや?
 また空気が固くなった様な気が……
 しかし、蒼褪めていた顔付きは、どちらもほんのりと色づいていますし……
 ……なんなんでしょうね、まったく。

 そうやってクルクルと変わる彼女らの様子に、胸中で首を捻りつつ、私は篁少尉の問い掛けに答えました。

「一応、斑鳩家当主の実弟に当たるな」

 その一言に、ビクンッと硬直する二人。
 何と言うか可愛らしいものです。
 あの月詠の鬼娘に比べて、初々しいと言うか、何と言うか……
 本当に同じ武家の娘とは思えませんね。

 BETA侵攻に伴い、悠陽殿の傍仕えから配置転換されて来た月詠真耶の事を思い出しつつ、胸中で毒を吐く私。
 アレは絶対、嫁き遅れるぞと確信しながら、私の口はマルチタスクで動き出し、彼女に問い掛けました。

「嵐山中隊が、京都駅の守備に回っているとは聞いていないが……それに他の中隊員、いや中隊長は何処に居るのだ?」
「「………」」

 その一言で、彼女らの纏う空気がいきなり重くなります。
 まるで通夜の席の様な空気を撒き散らしつつ、互いに顔を見合わせる二人。

 それを見て、私は大体の事情を察しました。
 そして必死の形相で、口を開こうとした篁少尉を手で制します。

「無粋な事を訊いた。 許せ」

 少し考えれば分かる事でした。
 開戦時の嵐山はまだ後方地帯として、学徒動員された二線級の部隊が多く詰めていたところです。
 そして既に落ちている場所でもあります。

 そこまで状況を並べてみれば、自ずと答えは明らかでした。

 いま一度、私は彼女らを見つめます。
 まだ幼く、成長途上のほっそりとした身体は、強く打てばそのまま折れてしまいそうな儚さでした。
 そんな彼女らが、上官や仲間の死を乗り越え、ここまで生き延びたのは誰に対しても誇れる事でしょう。
 私の頬が、再び緩みました。
 意図せぬままに、言葉が私の喉をすり抜けていきます。

「篁少尉、そして山城少尉、見事であった。
 貴官らは死の八分を乗り越え、そしてその後の死線すらも渡り切ったのだ」

 ああ、随分と偉そうな事を。
 歴戦の勇士が言うなら兎も角、彼女らと同じ初陣の私が言っていい事ではないんですが……

 思わず頭を抱えたくなる思いをしつつ、それでも私の口は止まりません。

「誇れ、そして胸を張れ、そうしてこそ戦友達も浮かばれよう」

 恥ずかしげも無く高らかにそう謳い上げた私。
 嗚呼、穴があったら入りたいです。

 そうやって内心で、悶絶している私の前で、篁少尉と山城少尉が固まっていました。
 余りにもくさ過ぎるセリフに、呆れ果てたのでしょ――

「わぁぁあぁぁぁん―――!」
「あああああぁぁぁあっっ――!」

 盛大な泣き声が響き渡りました。
 それも二つ。

 先程まで、人形の様に固まっていた二人の少女が、いきなり大粒の涙をポロポロと流しながら、身も世も無い風情で泣き出してしまいます。
 いきなりの出来事に、今度は私の方が固まってしまいますが、そんな私を蚊帳の外に、少女達の哀切の籠った泣き声が薄闇の中、響き渡っていきました。

 後々、軍医に聞いたところでは、私の言葉が引き金となって後催眠暗示が崩れ、抑え込まれていた感情が一気に露出したのだろうとの事。

 とはいえ、この時の私には、そんな専門的な事まで分かる筈も無く、ただただ泣き続ける少女達を前に、オロオロとしている事しか出来ぬ始末。
 本当に、私の方が泣きたい気分だったのです。
 そしてそれは増援と共に到着したレスキュー達が来るまで続き、隊員達の白い視線の集中砲火を浴びて、私はひどく肩身の狭い思いをする破目になったのです。





 そしてこれが彼女らとの――後に私の妻となる娘達とのなんとも締らないファーストコンタクトだったのでした。





■□■□■□■□■□■□





 ――そして三年後。





◆Side:Yui

『ハァ♡…ハァ、ハァン♡……』

 荒く熱い呼気を必死に噛み殺しながら、私は姿勢を保ち続けていた。
 否、崩す余裕すら無かったと言うべきだろうか。

 アラスカへと向かう輸送機のキャビン内で、私は備えつけのシートに座ったまま、ジッと耐え続ける。

『ハァ…アッ♡、ハッ…♡……うっ!』

 体奥で高まる熱に浮かされ鈍る思考。
 断続的に背筋を駆け昇って来る刺激が、白い稲妻となってソレを覆い尽くす。

 クラクラとする頭の中に響く、骨を伝って微かに伝わる振動音。
 今の私を責め苛むソレの存在を、嫌というほど意識しながら、私は傍らに座す人を見上げた。

「どうした唯依?」

 いつも通りの静謐な声と共に、静かな眼差しが向けられる。
 それを見て、思わず頬に血を上らせ口籠ってしまう私。

 だが……

「ひぅっ!?」

 短く甘い悲鳴が漏れた。
 思わずキュッと太股を閉じてしまう。
 いきなり勢いを増した振動に、私は眼を瞑り、歯を食い縛って耐えた。

 そんな私の肩を、あの方の腕が抱き寄せる。
 そのわずかな動きだけで、固く閉ざされた瞼の裏で薄桃色の火花が散った。

「どうしたのだ唯依。
 気分でも悪いのか?」

 微塵の揺らぎも感じさせぬ声。
 いつもなら愛おしく慕わしく感じるそれに、私は反感を募らせる。

『…あっ♡……う♡……ふぅんっ!』

 更に高まる振動が、私の鼓動を昂ぶらせる。
 だがそれは、頂点へと至るには到底足りぬモノ。
 ジリジリと弱火で炙られていくのにも似たソレに、私の精神は折れ掛けていたが、その流れに抗う様に、その方を、私の未来の夫たる明憲様を睨む。

「ひんっ!」

 背筋を走る電流に、思わず熱い悲鳴が零れ落ちた。
 とろ火で炙られ続け、熱に浮かされた視界に、何気ない仕草で、何かのリモコンを弄る明憲様の右手が映る。
 思わずソレを奪い取ろうと伸ばされる私の両腕。
 だが、それが届くよりも、リモコンのダイアルを回す動きが数瞬早い。

「あぁぁぁぁぁっ!!」

 これまでの比ではない振動に、抑え切れぬ啼き声が甘く熱く響き渡る。
 情欲に溺れ切った女の声、そしてまごう事無き私の声が、鼓膜を陰々と震わせる中、私の身体も激しく揺れた。
 そんな私を蔑むように、或いは嘲笑う様に、明憲様が呟く。

「お行儀の悪い事だ」

 クスリと笑う声が、耳奥に響く。
 不吉で、そして、そして……

「アゥッ♡」

 肩口から私の背に沿って滑り落ちた明憲様の手。
 背筋を撫でるその動きが、ゾクゾクとした快感を産み、その余韻に震える私のお尻に、明憲様の手が添えられた。
 広げられた五指が、微妙な動きを繰り返し、私のお尻の上を動いていく。
 微妙、且つ、絶妙なまでのその動きは、私の肢体を知り尽くした者――明憲様だけに可能な技で、蕩ける様な官能を引き出し、刻み込んでいった。

「……あぁぁ…あっ♡……あき……の♡…り様……」

 喘ぎ混じりのはしたない声が、私の意思を裏切り滑り落ちていった。

 羞恥に頬が染まる。
 だがそれを誤魔化す暇すら、与えては下さる気は無かった様だ。

「はぁぁぁぁっん!?」

 意識が一瞬、飛びかける。
 それまでの優しくも悩ましい愛撫から、一転、強く私の尻肉が握り締められ、同時に圧迫された胎内で、一際激しい震動が起こった。
 眼の中で連続して火花が飛び散り、力の抜けた太股の間から、トロリと淫らな蜜が滴り落ちていく。

 早鐘の様に打たれる鼓動。
 荒れる吐息は、熱く湿っていた。
 最早、隠しようも無い痴態を示す私。

 だがそれに気付かぬかの様な平静さで、明憲様が囁いてくる。

「どうしたのかと訊いているのだがな?」
「……な…な……なんでもあ…りませ…ん……」

 揶揄する様な、嘲笑う様な、そして愛おしむ様な声。
 それに抗う様に、私は首を振りながら、途切れ途切れに答えを返す。

 明憲様が、また、クスリと笑った。

 思わず身構える私、だが……

「えっ?」

 明憲様の手が離され、そしてあれ程までに執拗に、私のお尻を内側から嬲っていた振動も消え失せた。
 思わず呆気に取られる私を他所に、明憲様は変わらぬ声で呟かれる。

「それは残念。
 かなり期待していたのだがな……」

 そう言いながら視線を下へと俯かせる。
 釣られる様に、私の視線も動き――

「――ッ!?」

 一気に顔に血が昇る。
 先程とは異なる羞恥で。

 だが視線を逸らせない。
 まるで呪縛されたかの様に、私の視線は一点に囚われたままだった。
 軍服のズボンを破らんばかりに盛り上がった明憲様の股間に、だ。

 この身を幾度となく侵略し、蹂躙し、征服し、そして気も狂わんばかりの悦楽と共に、己のモノであるとの烙印を刻み込んでいった明憲様の『男』。
 昨晩も、気を失うまで私のお尻を攻め立て、何度となく絶頂へと突き上げたソレが、いま再び、雄々しく力を漲らせている姿に、はしたなくもゴクリと喉が鳴った。
 先程まで執拗に嬲られていたお尻が、無意識の内にモゾモゾと動き出し、その奥へと戯れに仕込まれた淫具の存在が、これまで以上にはっきりと感じ取れる。

 喉が急速に渇きを覚えていった。
 淫らな期待が私の鼓動を早くする。

 いま求められたならきっと、きっと私は拒めないだろう。
 軍務中である事すら忘れ果て、淫らに燃え狂ってしまうかもしれない。
 そうと分かっていても、私は……

 無理矢理引き剥がした視線が、明憲様を見る。
 餓え乾いたソレを、面白がるように見返す明憲様。
 自分の貪欲さを鏡映しで見せられる錯覚をおぼえ、思わず頬が熱くなった。

「本当に残念だ。 唯依」

 悪戯っぽい笑いを含んだ声。
 嗚呼、これは――

「上総、鎮めてくれ」

 ――私を焦らし、嬲る時の声だ。

 そう察していても、自然ときつくなる視線が、明憲様を挟んで反対側に座っていたもう一人の同乗者へと突き刺さるのを止められなかった。
 そんな二対の視線に晒された上総は、どこか熱に浮かされたような表情のまま、要領を得ぬ答えを返す。

「あっ?
 ……はい」

 チラリと私を見る上総。
 その視線が、明憲様へと向かった。

 ――宜しいのですか?

 と目線で明憲様に問い掛けるのが分かった。
 そう問う位なら……そんな思いが、私の胸中に満ちるが、それを冷たく否定する声が響く。

「昨晩は、唯依の尻を存分に堪能させて貰ったのでな……今日は、別の『肉』を味わいたい」

 そう言いながら、一瞬だけ私を見る明憲様。
 だがそれに応ずるよりも早く、再び、視線を上総に戻すと、軽く肩を竦めつつ告げられる。

「……とはいえだ。
 我が許嫁殿との約束で、婚礼を終えるまでは、純潔に手を出さない事になっているのでな」

 そうだ。
 その約束の代償に、私は明憲様に、お……お…お尻を捧げたのだから。

 衆道などでは、その部位を使うとは聞いた事があったが、まさか自分がそうする破目になろうとは夢にも思っていなかった。
 当初はただ痛いだけだろうと想像し、それでも私の我儘を訊いて下さった明憲様を、お慰めする為に耐えようといった思いだけだったのだが、そんな浅はかな考えは完全に裏切られる。

 丁寧に、そして慎重に、明憲様は私を……その…開発していかれた。
 数日掛かりで、ゆっくりと解きほぐされた菊座を貫かれた瞬間、私の口をついたのは苦悶の呻きではなく、背徳の快楽に震える悦びの声だったのだから。

 そのまま優しく、そして時に激しく、荒々しく私の胎内を征服していく明憲様に、私は翻弄され続けた。
 貫かれる度に、引き抜かれる毎に、淫らに濡れた喘ぎを絞り取られ続けた私は、体奥で弾け、注ぎ込まれる熱い精を感じながら、生まれて初めて、気をやり、果てるというモノを味わい、そしてこの身に覚え込まされたのである。

 その日から、明憲様は幾度となく私を抱いた。

 ――時に、互いの屋敷の一室で私を組み敷き、空が白むまで啼かせ続けた。
 ――時に、いつ誰が来るとも知れぬ野外で、羞恥に震える私を優しく愛でた。
 ――時に、軍務の合間に情事に耽る事を苦悩する私を、馬鹿になるまで激しく犯した。

 そうやって数え切れぬ程、愛でられ続けた乳房は、いつしか一回り近く大きくなり、何度となく精を注がれ続けた尻は、ふっくらとボリュームを増しながら女の艶を帯びていく。
 この身の全てを知り尽くし、貪り味わい尽くすかの如く、明憲様は私を抱き続け、私を自分の女へと作り変えていったのだ。

 嗚呼、それなのに……

 恨めし気な視線で、明憲様を見上げる私。
 だがそんな私を、意に掛ける事すら無く、再び上総を促す明憲様。
 上総の双眸にすまなそうな色が浮かぶ……だが……

「はい、それでは……」

 その瞬間、私の胸の奥に嫉妬の焔が灯った。
 視線が更にきつさを増すが、こちらから意識を逸らした上総には届かない。

 軍服の上着を脱ぎ、前を肌蹴た上総が、大人っっぽい黒いレースのブラを押し上げると、私には及ばないものの豊かな膨らみが、ポロリと零れ落ちた。
 そのまま明憲様の前に跪くと、ズボンの戒めを解く。
 同時に跳ね上がる明憲様の『男』。
 雄々しく屹立するその姿に、思わず喉が鳴る。
 だが、いまそれに触れ、奉仕するのは私ではない。
 その事がどうしようもないほどに、悲しく、苦しく、そして妬ましたかった。
 そうやって嫉妬に身悶える私の前で、ゆっくりと上総が、明憲様の股間へと覆い被さっていく。

「………」

 私が耐えられたのは、そこまで。
 自身が認めた事とは言え、やはり辛い。
 耐え切れなくなった私は、上総と明憲様から、そっと視線を逸らせたのだった。








〜後編に続く〜


 後書き

冬コミの唯依姫本を読んで、ピピピッと来たインスピレーションのまま書き殴った問題作(笑)。

テーマは、口はばったいですが、愛ある調教という事で

前半はシリアス、後半はエロ全開です。

姫始めのお伴に、ひとつ。

ちなみに、ご舎弟様キ☆チ★ク☆化のくだりは、後編をお待ち下さい。





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