SUMMON NIGHT
-A black successor -
プロローグ
「サレナ…俺たちは今…どこを漂っている?」
「はい、マスター。今私たちは火星より3,876,900kmほど離れた小惑星郡付近にいます」
北辰を殺し飛び立った俺とサレナはラピスとのリンクを切断し宇宙の放流者として生きていた。
「いいのかアキト…ラピスちゃんを置いて行っても」
「くどいぞアカツキ。俺の復讐は終わったんだ。ラピスはもう俺の復讐の道具でもなく、ましてや体の一部でもない。連れて行く理由が見つからない」
傍らに眠るラピスの髪を指で梳く。それはまるで離れていく我が子を見つめる父親のようなどこか寂しくもあり、喜んでいるような視線を向けながら。
自分から全てを奪い去った北辰を殺し、遺跡からユリカを救い出した俺にはもはや生きている意味はないのだと。
「だがラピスは違う。まだ生きられる。希望がある。何もかもが残っているんだ。俺自身、ラピスには普通の女の子として暮らしてほしいと思っているんだ」
「だがなアキト!ラピスちゃんにはアキトが必要だとわかるだろう!彼女に生きてほしいならまずお前が生き続けろよ!」
「………知っているだろ、アカツキ。俺は生き続けることは出来ないことを」
復讐を遂げるためにはとにかく力が必要だった。
体中を蝕むナノマシンのおかげで今までは体のことを気にすることなく訓練を続けてきた。そのためアキトは人外の力を手にすることが出来た。
しかし限界というものは何者にでもおとずれる。
体に巣食い、蝕んできたナノマシンは20種以上でそのほとんどが試作段階の身体能力強化を計るもの。
能力強化…それは同時に体の細胞という細胞全てを書き換えること。
全てが全てではないがアキトの細胞はボロボロなのだ。今こうして立って話していること、生きていることが奇跡としか言いようのないほどまでに。
命はもって半年という判決がイネス・フレサンジュから苦い顔をして告げられた。
苦虫を噛み潰したような顔は今でもはっきりと思い出せるほどだ。
イネス・フレサンジュは悔しかったのだ。自分を救ってくれた人を救うことが出来ない自分の不甲斐なさが。
「ネルガルにいて、お前やエリナの保護を受けていればきっと自然に笑えるようになる。俺のことなど早く忘れて…」
俺は踵を返す。
「ユーチャリスは置いていく。あそこにはラピスの…ただ1人の友人がいる大切な艦だからな」
「アキト!お前はそれでいいのか!自分を好きでいてくれる奴を放り出して…1人になって!!」
俺の足は止まらない。
徐々に聞こえなくなるアカツキの声。
「………………………………すまない」
最後に漏らした一言は誰へ向けたものだったのだろう。
アキトがブラックサレナでどことも知れぬたびに出て行ってから3日たった日、ラピスはユーチャリスのオペレータ席に来ていた。
そこにいるのは感情がないラピスではなく、ただの死体が動いているように感じた。
アキトがいれば人形になれた。アキトがいないと私は何になるんだろう。ここにいる私は何なのだろう。人形じゃない私は一体ナンナノダロウカ。
『こんにちは、ラピス』
オモイカネ級AIヤタガラスが挨拶をしてくる。
ラピスに感情の起伏はまったくない。アキトとリンクしていたときは挨拶ぐらいは返していたのだが…。本当に私は何?
『マスターから…テンカワアキトから言伝を預かっています…』
ピクッっと肩がゆれ、桃色の髪が震える。
『聞きますか…?』
金色の瞳がじっとウィンドウを見つめる。わずかに揺れる炎が見えた気がした。
『音声を再生します』
『………まずは謝らせてほしい。すまなかった。
ラピス…お前は今俺に対して怒っているのだろうか、悲しんでいるのだろうか、喜んでいるのだろうか…そうならば俺は嬉しい』
わからない…わからないよ、アキト。なんでアキトは嬉しいの?
アキトがいなくなったことを怒る私が嬉しいの?
アキトがいなくなったことを悲しむ私が嬉しいの?
アキトがいなくなったことを喜ぶ私が嬉しいの?
アキトが喜ぶことをすれば私に笑いかけてくれるの?
だったら私は怒るよ?悲しむよ?喜ぶよ?だから…だから………
「帰ってきてよ…アキト…」
何なのだろう、頬を伝う透明な水は。
雨は降っていないのに。ここはユーチャリスの中なのに。
私の瞳から流れてる。
ラピスは理解した。これは涙だということを。
ラピスは理解した。私はとても悲しいのだと。
そこから先の内容はまったく覚えていない。
ラピスの流した涙は、一体何を洗い流してくれたのだろう…。
ラピスは決めた。それは1人の少女が決めるにはあまりにも大きく、背負うにしてもあまりにも大きい決断を。
「会長っ!!」
珍しくあわてた様子で僕の部屋に駆け込んできた。
「そんなに急いでどうしたんだい?もう少しのんびりしないとしわが増えちゃうよ?」
「別にいいわよ!しわの2、30本で事態の収拾がつくならね!」
これは驚いた。この手のジョークをエリナ君に飛ばすと大抵は僕が返り討ちにあっちゃうんだけど。
「いいから早くドックに来て!」
「ラピスちゃんがユーチャリスを出させろって聞かないのよ!!」
ドックではウリバタケが整備班を代表してユーチャリスにコンタクトを取っていた。
だが、ラピスのほうは聞く耳を持っていないようで何の反応も示さない。
ただ一点『ユーチャリスの発進を許可して』というウィンドウが表示されるだけだった。
「やれやれ…これは困ったものだねぇまったく」
「そう思うなら会長も一言言ってください。現段階では一番発言力があるんですから」
「………どうなっても知らないよ」
コツコツと甲高い音がドック内に響く。
ネルガル現会長アカツキナガレ。
アキトとの友人関係(本人は親友だといっている)にあり、アキトがいなくなった今ラピスの保護者として、言うべきことはきちんと言おうと決意する。
「ラピスちゃん…君はアキトに会いに行きたいんだよね?」
沈黙がドックを支配する。
ユーチャリスを囲んでいたウィンドウもいつの間にか消えている。
『そう』
短く、はっきりとした返事が返される。
それは、「あの」ラピスからは考えることも出来ないほど強い意志を感じる。
「なら…行けば良い。アキトを探しに宇宙を駆け回れば良い」
アカツキの言葉から発せられるのは了承。
ドックのメンバー、ラピスが息を呑むのがわかる。
だが、そんなことはかまわない。僕も男だからね。言うことははっきり口に出さなきゃね。
………伝えたいことが伝わらないのさ。そうだろう、アキト。お前は不器用だったからな。
「僕自身、今回のアキトの行動にはまったく納得いかないからね」
さよならぐらいは言いたいじゃないか、友人に。
「ただし条件がある。それはルリちゃんとイネス博士、僕。この3人は絶対に連れて行くこと。他に艦に乗りたいという人がいたらその人達も乗せること。ナデシコCで行くこと。この三つの条件を満たすなら僕はアキト探しを認めよう」
『………わかった』
結局ナデシコに乗り込んだのがナデシコA(ユリカ、ジュンを除く)からのメンバーになったのは言うまでもない。
「ブラックサレナには前回遭遇したときに発信機をつけてきたので座標ははっきりしていますのでいつでも跳べます」
「それじゃ、アキトの面でも拝みに行くとしますかね」
『マスター座標H−36−f7にボース粒子反応有り。質量計測…粒子の集束速度、質量から計測するにナデシコ級戦艦ナデシコCです』
「……」
ブラックサレナのコックピット内、まるで眠りについたかのように静だった。
実際、彼は眠っていたのかもしれない。否、眠りに尽きたかったのだろう。
仲間に囲まれて、愛する人と笑いあい、好きな料理を好きなだけ出来ていたあのころに…
それでもまだ眠るわけにはいかない。
何時までも自分という亡霊のことを第一に考えようとする優しすぎる人たちに今一度別れを告げるためにも
『こちらナデシコC艦長ホシノルです。……アキトさん応答してください』
『マスター、いかが致しますか?』
「SOUND ONLYでつないでくれ…」
『了解しました』
『いまさら死人になんのようだ』
それはとても暗く、擦れたような声でした。
コロニーで通信したときのような、何かを無理やり押さえ込んでいる…そんな印象を感じる声でした。
『さしずめ地球連合のほうで「A級テロリストテンカワアキトを連れて来い。生死は問わない」とでも命令されたんだろうがな』
「そうじゃありませんアキトさん。お願いですから顔を見せてください」
フッと嘲笑うような息遣いが感じられました。
『これからお前たちは俺を捕まえようとし、俺はお前たちから逃げる。決められたプロセスどおり進めばいいんだ。顔を見せて何になる』
「とか何とか言って、こっちの映像はちゃっかり見ているんだろう?アキト」
『?なぜアカツキがナデシコに乗っている。お前は何時から軍人志望になったんだ』
ナデシコにはいつものメンバーしか乗っていないと思っていたらしく少し動揺しているみたいです。
「アキト…これはネルガル会長の言葉ではなく、アカツキナガレ、君の親友であり、現段階でのラピスちゃんの保護者として言わせてくれ」
ナデシコ艦内、おそらくブラックサレナも静寂が支配します。
誰でもないアカツキナガレという人物がテンカワアキトに向けて放つ最後の言葉を、一言も聞き逃すことがないようにと。
ふぅ〜っと息を吐く動作一つが空気を震わせます。
「アキト………行ってこい」
『アキト………行ってこい』
聴いた瞬間俺は驚愕した。
なぜ自分を捕らえるはずのアカツキが俺を促すのか、まったくわからなかった。
『まったくわからないって感じだな…顔が見えないからわからないけど』
悔しいがアカツキの言うとおりだ。
少なくともルリちゃんは向こうに、ナデシコに乗っているのだ。
ルリちゃんは間違いなく俺を捕らえようとすると思っていたが、同じ艦に乗っているアカツキが真逆のことを言うのか今の俺には理解し得なかった。
『僕からは以上だ。ただ…ルリちゃんやラピスちゃんとは少しぐらい話してやれ』
アカツキからの通信が切れる。
それと同時に別のウィンドウが開きそこからルリちゃんの顔が見れる。
そこからうかがえる顔は今にも泣きそうな、怒っているようなさまざまな感情が入り混じっていた。
おそらく、アカツキかイネスさんから俺のことを聞いたんだろう。
………ルリちゃんは優しいからな。
「やぁ…ルリちゃん。こうやって話すのは久しぶりだね」
『……で…さい』
震える声で、小さい声で言葉をつむぐ。
「ルリちゃん…耳が良く聞こえなくてね…もう少し大きな声で言ってくれるかな?」
『行かないでください、アキトさん!!』
ルリちゃんの目から綺麗なものが流れ出す。
ごめんねルリちゃん…君の流す涙を見ると俺は嬉しくてたまらないんだ。
数年前まで本当に笑わなかったルリちゃんがここまで感情を見せるようになって、俺を慕ってくれて。
「それは無理だよ、ルリちゃん。アカツキかイネスさんから聞いたんだろ、俺の現状を…さ」
『………聞きました。後半年しか生きられないことも。今の技術じゃ治療法がないことも』
やはりな…と俺は思う。
「だったらわかるだろう?目の前で親しい人がいなくなる悲しみを…。親しい人を残して逝かなきゃいけない悲しみを…」
『はい…いままで散々好きな人に逃げられてきましたから』
それは俺のことなのかな…と苦笑する。
『私、少女ですから我侭です。大人は汚いからなりたくありませんでした。でも私は…ホシノルリは今このときだけ大人になります』
「………うん」
『ホリノルリは世界の誰よりも、ユリカさんよりもテンカワアキトを愛しています。』
それは初めて聞くルリちゃんの告白。
その告白は何かに区切りをつけるためのものなのか、本心なのか、今の俺には判断することはできない。
ただ………嬉しかった。
『だから…行ってらっしゃい、アキトさん』
「さぁ…次はラピスの番ですよ」
『アキト!!』
画面いっぱいに見慣れたはずの金色の瞳、桃色の髪、幼い顔立ち…。
俺が復讐のため道具として利用したラピスの姿があった。
『アキト!私…私……アキトがいなくなって怒ったんだよ!悲しかったんだよ!泣いたんだよ!』
初めてだった。
ラピスがここまで直線的で感情を出してくるのは。
だかだろうか。ラピスが普通の女の子として生きている姿を簡単に想像できる。
『私はアキトの嬉しいことをしたんだよ!だから褒めてよ、すごいなって言ってよ、そばにいてよ!』
「ラピス…」
『私からアキトをとったら何が残るの…私は人形にもなれないよ』
おそらくラピスを説得し納得させるのは不可能だろう。
リンクしている期間が長すぎたんだろう。
俺は卑怯だからかな………嘘しか思いつかないんだ。
なら、最高の嘘をついてやろう。気付いたら思い切り怒るような、感情があふれ出てより女の子に近づけるように。
「ラピス………俺は必ず帰ってくる」
『っ!』
「しっかり笑って、泣いて、怒って、楽しんで…そうしたらすぐに帰ってきて褒めてやる。抱きしめて頭を撫でてやる」
ラピスが顔を上げる。
思いっきり開かれた金色の双眸が俺を見つめてくる。
ああ…やはり嘘はつらいな。
『約束だから…』
「………ああ、約束だ。俺とラピスの二人だけの」
「俺はこれからランダムジャンプを行う」
憮然として言い放つ。
ナデシコクルーは静かに耳を傾ける。
『マスター…よろしいのですね?』
「ああ。一度言った手前後戻りは出来んさ。…もっともするつもりもないがな」
『それでも私はマスターと共に…』
「わかっているさ。始めようか、サレナ」
『ジャンプフィールド展開。ジャンプ開始まであと10』
『9』
『8』
『7』
『6』
『5』
『本当に会う機会があれば一発殴らせてくれよ、アキト』
「痛いのは嫌なんだがな…甘んじて受け入れよう、アカツキ」
『4』
『またね、お兄ちゃん。話しかけると私まで泣いちゃいそうだから静かにしてたわ。…ラピスに会いに来たら挨拶ぐらいはしてよ』
「わかったよ、アイちゃん…」
『3』
『何時までも待ってますからね。私は…諦めませんから。きっとアキトさんを救う方法を探して見せます』
「ありがとう………ルリちゃん」
『2』
『またねアキト。私はすぐに笑えるようになるから…アキトも早く会いにきてね!!』
「約束だよ…ラピス」
『1』
「本当にありがとう、みんな。今日という今日を俺は絶対に忘れない。俺を思ってくれる場所…ナデシコ。俺はきっと忘れない。俺自身が幸せだったと。だけど決して忘れない。この世界に俺の居場所がないことを…」
『0…ジャンプ開始』
あとがきのようなもの
ぐだぐだですねorz
どうもはじめまして愚か者です
シルフェニアの作家さんに影響されまくりです
AIの名前がヤタガラスだったり、サレナのAIにわずかな感情を持たせるとかetcetc...
おそらくこの先も他の作家さんの作品中で出た表現や台詞が無意識なうちに入ってしまうかもしれません
見逃してくれると嬉しいです(苦笑
サモナ3はクリア済みですが長らくやっていないので話を良く憶えていません(汗
ところどころオリジナル要素を含むと思いますがそこもまた見逃していただけたら嬉しいです(汗々
そもそもサモナ3のシナリオ通りに進まないかもしれません。というかこちらのほうが高確率だったり(汗々々
この量でもかなり時間がかかってしまったので更新とかすごく遅いペースになると思います
最後まで読んでいただけたら幸いです