今日もいい天気だ――
いつものように外に出て、晴れ渡った青空の中、青年は背伸びした。
村の朝は早い、村の人々が動き始める時間は、まだ町では人々が寝ているころだろう。
村の青年、アルトはそんな村の人々よりはいくぶん遅い時間に起き出した。
外では既に村の住人達が、畑仕事やリクゥ(家畜だ)の世話をしに、行き交っていた。
アルトは、そんな村人達と朝の挨拶を交わしながら、もう一度背伸びをした。
「ふわ・・・・ねむぃ・・・・・」
アルトは大きなあくびをする。
アルトという青年は、金色の髪に黒目がちの瞳、という辺境の村にはどうしても合わないような容姿をしていた、それゆえに昔は村の子供達からはいじめられた
こともあったが、アルトのその誰にでも気兼ねなく話しかける、明るく活発な性格と、どんなことがあってもくじけない、負けず嫌いな性格もあってか、いつし
かアルトは村の人達から認められるようになっていた。
それから、姉のリディアが村一番の働き者であったことも大きな一因かも知れない。
姉のリディアは、生まれたときはこの村に住んでいたらしい、ある時突然村から姿を消し、数年の後、また消えたときと同じように、ひょっこりと帰ってきたの
だという、しかも、その時まだ8歳だったアルトを連れて、だ。
その子供は一体誰なのか、と問いかける村人に対して、姉は、
「私の弟よ」
といったらしい、が、どう考えても嘘だった、明らかに髪の色が違うし、顔の形も全然似ていなかった。
どうしてリディアがアルトを連れて来て、弟として育てたのかはいまだにわからない。
当のアルトはというと、当時8歳であったから、ちゃんとした意識はあるはずなのだが、どういうわけか、その頃のことをほとんど何も覚えていなかった。
そして、そのあとの7年間、アルトとリディアは普通の姉弟として生活していた。
しばらく、村の人々を眺めていると、
「アールトー!いつまでボーッとしてんのよ!井戸の水汲みお願いー!」
姉からお呼びがかかった。
「わかったよ、姉ちゃん!」
アルトは姉に言われたとおり家の裏手にある井戸に行き、そこから水をくんだ。
それを持って姉がいる台所に向かう、
「姉ちゃん、水持ってきたよ、どうすればいい?」
「あーうん、半分はそこに置いてって、炊事用に使うから、後の半分は洗濯に使うから洗面所の方に持って行って」
「あいよー」
「それから朝ご飯にするから手伝ってー」
「へいへい」
これが二人の日常である、リディアは掃除洗濯といった調理以外の家事全般を担当、アルトはその手伝いと調理を担当する、だがアルトもリディアから教わって
いるためだいたいの家事仕事は出来る。
そしてこの日の朝は、いつものように何事もなく過ぎていった。
朝食を終えて、一息付いた頃、
「さて、それでは今日の予定を発表します」
リディア曰わく作戦会議なのだそうだ、
「私は今から村の学校に行って子供達の相手をしてきます、アルトはいつものようにリクゥの世話と食糧の確保、お願いね、お昼ご飯はある物で済ませてちょー
だい」
「ああ、わかった」
リディアはこの村にある「学校」の先生みたいな仕事をしている。
「学校」とはいっても、王都や、それに並ぶ裕福な町にあるようなちゃんとした意味での
学校ではない、村の子供達が外に出ても、困らない最低限の知識や教養を教える程度の学校だ。
リディアは、頭がよい、少なくともこの村では長老の次くらいに色々なことを知っていて、教師としてかなり重宝がられているらしい、村の子供達は「物知り先
生」と呼んでいる。
その上武術、剣術にも精通していて、アルトは毎日夜に姉から剣を教わっているのだが、16歳のアルトが今まで一度も勝ったことがないほどの腕前だ。
「あとそれから、食糧確保のついででいいんだけど、この前山に仕掛けた罠の方も確認してきてくれない?」
「ああ、いいよ、もし罠になんか獲物が引っ掛かってたら今日の夜はそいつを使ってご馳走にしよう」
「ええ、楽しみにしてる」
ちなみに、頭もよくて、家事全般をそつなくこなし、剣の腕では村一番で、それに何より村でも一等綺麗な完璧超人すぎる姉の、唯一無二と言っても良い欠点
は、料理が出来ないこと、である。
ただの目玉焼きですらほとんど失敗する、大掛かりな物を作ろうとすると、最悪、台所が吹き飛ぶ。
そんなわけで、この家では、アルトが料理の担当である、朝食も、もちろんアルトが作った。
「それじゃ、私は学校に行ってくるから、食器の後片付けは、アルトがお願いね」
「ああ、いいよ、姉ちゃん行ってらっしゃい」
「いってきま〜す」
そして、リディアは家を出て行った。
アルトは、食器の片付けをしながら、ふと考える。
(姉ちゃんってもういい年だし、そろそろ結婚とかしないのかな・・・・・)
料理が全く出来ないことを除けば、村一番の素敵超人であるリディアには、当然のことながら村の男性から人気がある、いまだに独身であることもあって、リ
ディアが村の男性からプロポーズされたことは一度や二度ではない、というより村の男性でリディアにプロポーズしたことがない者はいないと言われるほどであ
る、いまではリディアの男子100人切りは村の伝説だ。
(なんで結婚しないんだろ・・・・)
噂では、昔リディアが旅に出ていた頃から心に決めた人がいる、という説がある、もしかしたらそうなのかも知れない。
「ま、いいや・・・・・そろそろ仕事に行こう」
一応、山に入るのだから危険に備えて何か必要かな、と思い練習用の剣を手に取る、それを腰に差して、アルトは出発した。
* * *
この村ではリクゥという生き物が村人の生活に大きく関わっている。
リクゥというのは、見た目はトカゲのような頭に、長いしっぽ、強靱な足腰をしている、初めてリクゥを見た人はたいていリクゥを肉食動物だと思うが、実は草
食動物なので、それほど危険性はない。
大人のリクゥは人間や、重い荷物を載せても軽々とそれを運んでしまうほどの体力があるので、辺境の村ではリクゥは物流のために重要な役割を持っている、そ
れから、リクゥの肉は、焼いて食べるとけっこう美味しい、さらに雌のリクゥはお乳を出すので、これまた村の貴重な食料である。
それらの理由から、この村ではリクゥは無くてはならない存在だった。
アルトは、家から少し離れたところにある、小高い丘までやって来た、アルト達が飼っているリクゥはその近くに柵で囲いを作ってそこで飼っているのである。
「よ〜しよし、お前等、元気か〜」
アルトが近づいていくと、数頭のリクゥ達がアルトに寄ってきた、エサを貰えると知っているからだろう。
アルトは、リクゥ達が一等好きな、木の実を与えてやる、するとリクゥ達はくぅと鳴き声を上げアルトにすり寄ってきた。
「よしよし、元気だな、今度少し外まで駆けさせてみるか」
アルトの家では、現在5頭のリクゥを飼っている、雄が2頭に雌が3頭、1頭は子供だ。
アルトは、リクゥ全員にエサを与え、体に不調がないかなどを丹念に調べていく。
「よーし、今日もみんな問題なし、と」
一時間ほど掛けて全てのリクゥを調べ終え、問題がないことを確認すると、アルトは一息付いた。
「ふぅ」
アルトがリクゥ達を飼っている、丘の上からは、村の様子が一望できた。
村の広場では子供達がはしゃいで遊んでいた。
家々からは洗濯物が干してあるのが見える。
村の片隅で近所のおばさん達が井戸端会議をしている。
村の隅にある学校では、今日も姉が頑張っているだろう。
アルトと同じようにリクゥの世話をしている村人も見える。
村に一基だけある風車小屋がゆっくりと回っている。
なんとも平和な風景だった。
―――外に出てみたい。
時々、村の景色を眺めていると、そう思うことがある、
決して、今の生活に不満があるわけではない、姉は優しいし、村の人々は親切だし、リクゥの世話は楽しいし、何の問題もない。
だが、時々思ってしまうのだ、
―――お前はこんなところで一生を終えるのか?
この平和な村の日常が嫌なわけではない。
だがアルトが成長するにつれて、その思いは、日に日に大きくなっていった。
―――世界はこんなちっぽけなもんじゃない
―――世界はもっと大きくて広いんだぜ
―――世界にはお前の知らないことがいっぱいある
―――どうした、それを見たいとは、聞きたいとは知りたいとは思わないのか!?
―――さぁ、外の世界へ、新たな一歩を踏み出すんだ!
アルトの、外の世界に対する羨望に近い思いは、この丘に来るたび現れては消える。
だが、アルトはいまだにその一歩を踏み出すことが出来ないでいた。
それは、姉の存在があるからだ。
血の繋がりはたぶん無いアルトを、弟として今まで育ててくれた大切な姉を、一人にして置いていくことは出来なかった。
だから、アルトのその思いは、今日もどこかへ消えていく。
「っと、いけね、姉ちゃんから罠を見て来いって言われてたの忘れてた」
青年アルトは、また自らの日常に戻っていく、自分の日常が、もうすぐ大きく変わることに気付きもしないで。
* * *
「なんか、変だな」
アルトは、山の中を歩きながら、呟いた。
山の中には、全部で5ヶ所罠を張ってあった、そのうち3ヶ所を見回り終わったあとのことだった。
罠は、とても簡単な物を獣道に設置しており、カーミルという名の小動物が捕まっている事がよくあるのだが、今回はそのどれもがハズレだった。
なにも、全てハズレだったのが珍しいわけではない、簡単な罠なので、自力で脱出されてしまうことはたまにある、アルトが変だと思ったのはそんなことではな
い。
(なんか、罠が、全然変わってないような感じがするんだが・・・・)
アルトが感じた違和感、それは今のところ見てきた3つ全部に言えたことだが、前回罠を設置するために訪れたときと、罠の様子が全く同じだったような気がし
たのだ、
(まさか、罠にカーミルどころか、虫一匹触ってないなんてことは・・・・・無いよなぁ・・・・・・)
それからさらにしばらく歩き、4つめの罠に辿り着いた時、いよいよアルトの疑念は深刻なものになってきた。
(ここも、ハズレか)
罠には獲物がかかっておらず、罠自体が作動した様子もない。
アルトは周囲を注意深く探ってみる、
(いくらなんでも変だ、最低でも罠が作動していたり、動くくらいはしてるはずなのに、それがちっとも無い)
獣道はなにも、小動物ばかりが通るわけではない、中型から大型の動物だって通ることがある、そのため、罠が大型動物にぶつかってひっくり返ったり、罠が作
動したものの簡単に抜けられてしまうことはよくある、さらに、罠に引っ掛かった小動物を他の動物が食べてしまうこともあり得る、だが、今回はそのどれもが
起こっていなかった。
アルトは、自分が持つ疑念をどうにかするため、最後の罠へと向かって歩き始めた。
「なんだよ・・・・これは・・・・!」
そして、最後の罠、他の4つとは違い、中型から大型を狙った物で、巨大な檻を上から落として捕らえる、という物だったが、
そこには、確かに大型の動物が捕らえられていた形跡があった、しかし、既にその大型の動物は、破壊された檻の中で、大量の鮮血のみを残して、派手に食い散
らかしたかのような姿で、死んでいた。
(そんな、馬鹿な、一体何が起こったらこんな事が・・・・・ってよく見たらこれランドベアーじゃないか!山一番の獣がどうすればこんな姿になるっていうん
だ!!)
ランドベアーは山に住む、大型の野生動物で、この山では一番凶暴な肉食動物だった。
それが、見るも無惨な姿で死んでいた。
(マズい、何が何だかわかんないけど、とにかくマズい、一旦村に帰って、このことをみんなに知らせなきゃ)
そして、山を駆け下りようとしたアルトは、あることに気付いた。
(山が、静かすぎないか・・・・・・!?)
いつもなら、山に住む獣たちや、虫たち、鳥たちが、動き、羽ばたき、鳴く声や音が絶対に聞こえるはずなのだ、それが、一切しないだけでなく、風が吹く音す
ら聞こえてこなかった。
(なんだ、何が起こっているんだ・・・・・これじゃまるで山全体が何かに怯えてるみたいじゃないか――――!!)
そう、アルトが思い、とにかく走り出そうとした、瞬間、
アルトの背後、山の上の方から、大きな影が、アルトに向かって落下してきた。
―――ッズドォン!!
「うわあっ!!」
走り出そうとしていた姿勢のために、大きく前に吹き飛ばされたアルトは、すぐさま体制を立て直し、後ろを振り返って、愕然とした。
「な、なんでこんなところにモンスターがいるんだよ!!」
アルトを吹き飛ばし、今アルトにモンスターと呼称されたモノ。
それは、先ほどのランドベアーを遥かに超える巨体、同じくランドベアーを叩き潰せるほどの巨大な腕、そしてなにより、ランドベアーを一呑みにしてしまえる
ほど大きな口、
―――大喰らい
人間の青年であるアルトを数人まとめて一呑みに出来そうな、そんな化け物だった。
「くそっ、何でこんな人里近くにモンスターがいるんだよ、もっと山奥の秘境にしかいないもんだろうが・・・・!!」
アルトが何を叫んだところで、イーターが退いてくれるわけではない、アルトは腰から剣を抜き放ち構えるが、しかし、
(こんな練習用の模造刀で何が出来るんだ!?)
イーターはアルトをしばらく眺めていたあと、エサであると判断したのか、
「グリュアアアァァァァアアァア!」
雄叫びを上げて猛然と突っ込んできた。
アルトは、これを正面から受けるような馬鹿はせず、右手に向かって飛び、何とか回避する、そして、
「後ろががら空きだぞ!」
背後を見せたイーターに斬りかかるが、
「ギュリアアアアアアァァァァァァア!」
「うわっ!」
回転しながら振り回されたイーターの両腕によって、あえなく吹き飛ばされた。
アルトは何とか体制を立て直し、イーターに向き直り、あることに戸惑う、
(なんだ?アイツ・・・・・土を喰ってる・・・・・・?)
最初にイーターが突進したとき、アルトが避けた先には土の壁があった、イーターは正面からそれに突っ込んだのだが、イーターは今、それを喰らっていた。
(モンスターって土を喰うのか?いや、そんなわけないだろ、まさか?)
案の定、イーターは土を喰らったものの、すぐにそれを吐き出していた、それをし終えたイーターはようやく、アルトに向き直り、再度突っ込んできた。
アルトは再び、これを避ける、そしてその先にあったのは巨大な樹、イーターはこれに正面からぶち当たり、へし折る、そして今度は、その折れた木を喰らおう
としていた。
(やっぱり!こいつはなぜか物凄く腹を減らしている、だから動きも単調なんだ)
「へへ・・・・これなら何とかなるかも・・・・・!」
イーターはしばらくへし折った樹を喰らおうとしていたがやはり不味かったらしく、三度アルトの方を向いた。
(となると、こいつを倒すためには・・・・・・こっちか!)
アルトは、すぐにその場から走り出した、イーターはアルトを追って、木々を叩き折りながら突撃してきた。
アルトは、坂を飛び降り、細い木々の間を走り抜けながら後ろを振り返る、
「ハハッ、やい!この化け物!早く追ってこないとエサが逃げちまうぞ!」
通じるのかどうかはわからないが、挑発をしてみた。
「グリュウウウウオオオアアアアアァァァァアアアアアア!!!」
どうやら効いたらしい、イーターはさらに速度を上げてアルトを追ってくる。
(もう少し、逃げ切れば、何とかなる・・・・・!)
アルトは、さらに速度を上げ、木々の合間を走り抜ける。
そして、視界が開けた先にあったのは、行き止まりだった。
正確には少し違う、先に広がるのは、絶壁の谷間、要するに崖の上だった。
そして、アルトはその崖の先端部分で立ち止まる、イーターも獲物がこれ以上逃げられないことを知ったのかその直前で止まる、
「さぁ、来いよ化け物!腹が減ってるんだろう!?」
「グリャァァァアァアァァァアアアアアアアアア!」
イーターが突進してくる、アルトは動かない。
イーターの口がアルトの目前まで迫ったとき、ようやくアルトは動いた、
―――真後ろに向かって、
当然後ろには崖しかないから、体は下に自由落下を開始する、それを追うようにイーターもアルトを追って、崖から飛び降りる、そしてその直後、
「うらぁぁぁああああああ!!!」
アルトは、目の前の、崖に向かって、模造刀を突き刺した、
―――ギャリギャリギャリリリ・・・・・・
アルトは何とか体を崖に縫い止め、それに対してイーターはそのまま落下していき、
―――ギュラアアアアアアアァァアアアアアアアアァァァァァァァァァ・・・・・・グシャッ。
「ハァ・・・・ハァッ・・・・・・・・・なんとか・・・・・・なったな・・・・・」
ようやく、崖からはい上がったアルトは、一息付こうとしていた。
「へへへ・・・・・一人でモンスターを倒したぞ・・・・・・メチャクチャ疲れたけど・・・・・・姉ちゃんに自慢が出来るな・・・・・」
アルトはしばらくそこで休んだあと、立ち上がり、村へと戻ろうとして、ふとある事に気付いた。
(そういえば、ランドベアーは食い殺されてたんだよな・・・・・いくらビッグイーターでも普通、ランドベアーを丸ごと食ったら、腹がふくれるん
じゃ・・・・・・・?)
―――ドシィーン!!
その直後だった、アルトがさっき走ってきた森の中で、さっきまで以上の大きな影が動いているのが見えたのは。
(やっぱり・・・・・・!!アイツは一匹じゃない、仲間がいたんだ!!!)
「くそっ、こんなところで休んでる場合じゃない!!急いで村に戻らなきゃ!!」
アルトは、痛む体を押さえて、無理矢理走り出した。
* * *
アルトがようやく村まで走り戻ったとき、既に村の各地で火が上がっていた。
「クソッ、みんなは無事なのか・・・・!?」
走りながら村の様子を見る限り、村では2体のイーターが暴れていた。
「ちくしょう!村が・・・・・・!」
アルトが村を一望できる丘まできたとき、
「ギュリュアアアアァァァァァァァァァ!!」
アルトの後方から、新たなイーターがもう一匹現れた。
「こいつら、何体いるんだよ!!」
アルトに向かって一気に突撃してくるイーターに対し、アルトが迷っていると、
「クゥ〜〜〜〜〜!!」
「ッ!リクゥ!」
アルトが飼っているリクゥ達のうちの一頭が、アルトに向かって駆けてきたのだ、リクゥ達の柵の方を見ると、イーターによるものだろう、柵の一部が破壊され
ていた。
「こっちだ!」
アルトは、すれ違いざまにリクゥに飛び乗り、丘を一気に乗り下る、後ろを振り返ると、さすがのイーターもリクゥには追いつけないのか、少しずつ離れていっ
た。
アルトがそのまま後方を見ていると、山の一角が揺れ動いていた。
「また、別のイーターか・・・・・!!」
そして、山の木々を踏みつぶしながら村に向かって突撃し始めたのは、確かにイーターだった、しかし、そいつは、イーターの中でももっともでかい、最悪の
イーターだった。
―――怪物喰らい『
そいつはどのイーターよりもでかかった。
先ほど、アルトが倒した一体、それの体長がアルトの身長の倍ほどで、モンスターイーターは、普通のイーターのさらに倍ぐらいあった。
「は・・・・・・はは・・・・・・・・・・なんだそりゃ・・・・・・・!!」
モンスターイーターなんてものは、昔話の中にしか出てこないような、そんな怪物である。
(こんなの・・・・・どうしろっていうんだよ・・・・!!)
そして、アルトはさらに最悪な事態に気がつく、
「あいつ、アイツが向かってるのは・・・・・・学校じゃないか・・・・!!!」
(学校には、姉ちゃんや村の子供達がいるんだぞ・・・・・!!)
迷いは一瞬だった、
「リクゥ、こっちだ!アイツの先回りをする!」
アルトは、リクゥの首先を変え、学校に向かって走らせた。
「みんな!逃げろ!!もうすぐここにモンスターイーターが来るぞ!!」
学校前の広場に着くなり、アルトは大声を張り上げた、そこには、イーターの襲来から逃れるために、女子供や老人といったたくさんの村人が集まっていた。
「アルト兄ちゃん・・・!?」
「なんじゃい、何事じゃい」
「モンスターイーターって、なにを馬鹿な」
口々に騒ぎまくる村人達に、アルトはとにかくそこから逃れるように大声を上げる。
「とにかく、ここから逃げるんだ!今、村を襲ってる奴どころの話じゃない、それ以上の化け物がここに向かってるんだ!速く逃げないと、みんな喰われちま
う!!」
アルトの必死の呼びかけに、村の人達が動き始めたとき、村の人々から、次々と悲鳴が上がっていった、何が起こったのかは確認するまでもない。
ついにモンスターイーターが現れたのだ、アルトは後ろを振り返る、すでにモンスターイーターは学校の手前まで来ていた。
(そんな、早すぎる・・・・!!)
そんなとき、さらに別の一角から悲鳴が上がった。
「んなっ・・・・ッ!もう一匹・・・・・!!」
最初に村に襲いかかった2匹なのか、あとから新たにやって来たのか、今ではもうわからないが、ともかく、さらに一匹のイーターが現れ、村人達に襲いかかり
始める、村人達はてんでバラバラな方向へ逃げ始め、結果パニックが発生する。
そして、今村人達に襲いかかっている方のイーターの目の前で、一人の女の子が大人に突き飛ばされ転んでいるのが見えた。
「ッ、リクゥ!走れ!!」
リクゥを全力で走らせるが、このまま行ったのでは、イーターの拳が女の子に襲いかかる方が速い、ならば、
「リクゥ!突っ込め!!」
「クゥ〜!」
リクゥは、さらに加速し、イーターに向かって跳び蹴りをかました。
「グゲリュゥァァァアアァアアアアアアア!!!」
イーターが怒りの咆吼を上げて吹き飛ぶが、その隙に女の子の救出には成功する。
「アルトお兄ちゃん・・・!ありがとう!」
「まだだ、とにかくこの場を離れなきゃ・・・・!」
その直後、学校前の広場にいよいよ到達したモンスターイーターがその家ほどもある大きさの両腕を振り上げ、地面に叩きつけた。
―――ドゴン!!
その衝撃は、まるで地震が起こったかのようだった、さらにその衝撃によって、地面が破壊され、いくつもの岩塊や土塊が吹き飛ぶ。
「あ、やば・・・・!」
その石の欠片の一つが、アルトが抱きかかえる女の子に向かって飛んでいた。
アルトは、とっさに女の子をかばい、体制を変えようとして、
(しまった・・・!)
リクゥから落下してしまう。
女の子を抱きかかえたままの姿勢で、見上げた先には、先ほどリクゥで蹴り飛ばし、怒り狂っているイーターの姿、
イーターはゆっくりと拳を振り上げ、その拳をアルトに叩きつけようとして、
「俺は・・・・・こんなところで・・・・・負けてたまるか!!!」
アルトは、必死に模造刀でその拳を受け止めようとして、
「よく言った!それでこそ我が弟!!」
瞬間、拳を振り上げたイーターは、そのままの姿で、4つに割れた。
そこにいたのは、腰に、今まで見たこともない剣を差した姉のリディアだった。
「へへへ、ごめんねアルト、村の方に来た2体を先に倒してたら、こっちに来るのが遅れちゃった」
「ごめんね、ってそんなことより!モンスターイーターが!!」
「ああ、あれなら大丈夫だよ」
「大丈夫って、何が?」
「3分あれば終わる」
姉は、その場で剣を構え、モンスターイーターに突っ込み、
本当に3分で勝負を終えた。
姉の異常な強さは、今まで何度も目にしていたはずだったが、今度ばかりは本当に度肝を抜かれたとしか言いようがなかった。
あの人間を遥かに超える大きさを持つモンスターイーターを、またたく間に倒したのだ。
アルトが、そんな姉を眺めていると、姉は、唐突にこんな事を言い出した、
「ねえ、アルト」
「何?」
「旅に、出てみない?」
「へ?」
姉は、そうしてニヤリ、と笑った。
青年アルトの冒険の旅は、こうして始まろうとしていた。
序章1<了>
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
パー
スさんへの感想はこちらの方に
掲示板でも歓迎です♪