「━━━━イテテテ………」
目が覚めた俺は、首に走る痛みを手で押さえつつ、着替えをする。
今日は「エデン」に来て最初の日、今のところ何をするのかはわからないので、とりあえずスーツに着替える。
着替えを終わるのとほぼ同時に、いつの間にか修理されたドアを叩く音がした。
「隊長、起きてますか?」
「あ、はい。
ちょっと待ってて」
俺はドアへ向かい訪問者を迎えた。
ドアの向こう側に立ってたのはメイド服を身に纏う魅緒の姿があった。
「おはよう御座います、隊長。
朝食の準備が出来ましたので食堂の方へお越し下さい」
「……………」
「隊長?」
「なんて言うかさ、その『隊長』って呼ぶのは止めてくれないかな?」
「え、どうしてですか?」
「隊長、隊長って言うけど実際には俺はまだ何もやってないからさ。ほら、今日は初日だし何をやったらいいのかわからないから、こうやってスーツ着てるし」
「でも隊長は隊長ですし、名前で呼ぶのも些か失礼な気がしますので……」
人差し指の先でもじもじするような仕草をする魅緒。健全なる男児なら撃沈間違いなし。
「別に名前で呼んでもらっても構わないよ?
年も近いし」
「そうですか、では暁さんで呼んでもよろしいですか?」
「ん、別にかまわないよ」
「では暁さん、朝食の方が冷めてしまいますので食堂へ参りましょう。
あと仕事でしたら担当の方がお越しになりますのでその時に分かりますよ」
「担当?」
「えぇ、けど簡単な仕事ですよ」
「?」
首を傾げつつ魅緒の案内に従いつつ食堂へと向かった。
食堂に着くと既に何人かの人達が朝食を取っていた。
その日のメニューはトースト、ハムエッグ、サラダ、コーンのポタージュスープ。
多くの人たちはジャムを塗って食べるが、俺はバター派なのでバターを塗って食べる。
「お、このトースト美味いな。」
一口食べてみて驚いた、モチモチしていることと、パン自体に味がついてるという事。
今までは市販品を買ってきて食べてたから、この味のついてるパンを食べるのは新感覚と言うか何というか。
「━━━あっ、そうだ。
暁さん、ちょっといいですか?」
魅緒が何かを思い出したのか、話を切り出してきた。
「モグモグ──ゴクン…ん、どうかしたの?」
「昨日、施設の者が貴方の免許証を拾ったので私の方で預かってました。」
魅緒はそう言いながらポケットの中に手を入れ、お目当ての物を取り出す。
「免許証? ………あれ、ないや」
「はい、これです」
両手を使って俺の免許証を差し出す。
「あ、ありがとう。
えと、それで拾ってくれた人は? 一応礼を言っとかないと」
「今日はお勤めにでているので今は居られません、なんでも学校の教師だとか」
「そういや、『学校』といえば、あの娘(ガキ)は?」
「はい?」
「あ〜と、確か天音 有希だったような」
「ガキって……(汗)。
彼女も学校に行かれましたよ」
「凡に聞くけど、どんな学校?」
「魔術系統の学校です」
……………すっげぇ嫌な予感。
「それってもしかして」
「白樺大付属高校です」
ぐあっ、的中……
よりによって、あのガキが俺の後輩かよ。
「━━━━おっと、もうこんな時間か、さっさと飯食っちまわないと」
なんだこんなで魅緒達(上部の会話に出てないが)と話をしていたら仕事の時間が迫ってきてるので、急いで残りのモノを口に運び、返却口に食器を戻す。
そして
「━━━━━はい?」
「ですから、社長不在の為、溜まりに溜まった書類作業の引き継ぎをお願いします」
仕事の時間になったので指定の場所に向かうと、今日(当分の間)の仕事は書類作業という事になった。
「━━━━あの糞親父、だから俺をここに寄越させたんだな」
にわかに肉親に憎しみを持つ今日この頃だった。
慣れない書類作業にヘトヘトで机に突っ伏している………
少し作業から離れようと思い、一時中断し部屋から出てエデンの中を歩き回る。
「ふわぁ〜〜」
間抜けなほど大口を開けて欠伸する俺に擦れ違う社員達はクスクスと笑う。
「そういや裏山に平地みたいな場所があったよな……」
記憶を巡らせ、この辺りの地域に思いっきり身体を動かせそうな場所を探す。
あそこなら大分暴れても周りに被害はなさそうだな。
まぁ迷惑かけるとしたら此処の地主である、親父ぐらいだろうがな。
と言うわけで、早速部屋に行き着替え、準備を開始する。
黒のTシャツに蒼のジーンズを着て、小太刀と言うには多少長めな剣「アネモネ」を二振り持つ。
「おっと、アレを忘れるところだった」
部屋を出ようとしたところで、忘れ物を思い出す。
机の引き出しから、朱と翠の拳銃「アグニ&ルドラ」を取り出し、ホルダーに入れる。
「これでよし。
じゃ、行きますか」
と意気込みながら、部屋を出た。
「━━━━で、なんで魅緒がいるのかな」
「なんでって、付いて着たからに決まってるじゃないですか」
「そんな当たり前のように言われても………」
なんというか……魅緒の前世は忍者だったんではないかと思う今日この頃である。
「それで、そんな物もって何をしようと言うのですか?」
「いや別に仕事をサボってる訳じゃないよ、ただ最近身体動かしてなかったからちょっとトレーニングをと思って」
「そうですか。
ならこの子たちを置いておきますね」
「は?」
魅緒が手を合わせ、なにやら呟くと魔法陣が広範囲に現れ、その中から黒い靄(モヤ)が発生し、一つの物体となる。
その黒い物体を筆頭に次々に同じ物体が出現する。
見かけと言えば犬に黒い布を掛けたような感じかな。
ザッと見回したところ二十体ぐらいは居そうだな。
「確か「シャドウ」とか言ったっけ」
「えぇ、では私は社に戻りますので頑張って下さい」
「…………あのさ、これだけの数倒すのに苦労するんだけど」
今は午後の一時を過ぎている、コイツ等を倒すとなると時間もかかる。
まぁコイツ等の攻撃パターンは分かるから怪我しなくても済みそうだが。
「あっこの子たちは普通のシャドウじゃないので気を付けてください」
前言撤回、大怪我しそう。
コイツ等が束になって襲ってきたらかなわんぞ!!
「そうだ、今日私はもう暇ですから作業の引き継ぎやってますから存分に鍛えて下さいね」
「そりゃ有り難い、もう残業の心配しなくてすむ………って駄目じゃないのか、それは俺がやんないと?」
「大丈夫です、三十分で終わらせます」
その言葉を聞いて俺は転けた。
あの机を覆い尽くすほど詰まれた書類を僅か三十分でやる、というのか!?
「えぇいエデンの使用人は化け物か!?」
「言葉が違いますよ?
連邦のモ○ルスーツですよ」
おっ、てことはかなり○○○か?
「とまぁそんなこと言ってる場合じゃないでしょね」
そんなこんなしていると、既に臨戦体制に入ってるシャドウ達の一匹が飛びかかってきた。
このくらいなら余裕で回避出来る。
そう思い、体を捻らせ紙一重で避ける。が
ヒュッ──
ガキィッ─
「なっ!?」
とっさに持っている獲物で防御したから良いものの、シャドウから繰り出された攻撃は、全身から針の様な鋭い物体を放つものだった。
俺はその予想外の出来事から後ろに跳び、間合いを取る。
「───………そういや、普通のじゃなかったんだよな。
あれ?」
ふと魅緒の方を見たがそこには既に魅緒の姿は無かった。
「………行動がお早いことで」
取りあえずこのくらいだったら良い訓練になりそうだな。
手に持っている刀を鞘に納め、腰のガンホルダーから朱と翠の装飾銃を取り出し、近くのシャドウに狙いを定める。
狙いを定めた朱と翠の猟犬は獲物を捕らえるべく、銃声という名の砲吼を上げながら牙を放つ。
放たれた牙はシャドウに向かいその身(身……なのか?)を抉る。
「■□☆%×◎▲♯!!」
音にもならない悲鳴を上げながら崩れ落ちるがそれでもまだ撃鉄を引き続ける。
シャドウがその身に纏っている黒いヴェールが剥がされ核となる物体が外界に晒す。
そこで素早くアネモネに持ち変え、シャドウに突っ込む。
我流剣術二刀流 疾風
外界に晒したシャドウの核に魔力を込めた剣撃を与える。