第五話
ここはアメリカのスラム街、昼の時間帯でまだ太陽はでている筈というのになんだか暗い。
道端にはホームレスが酒を喰らって、酔っぱらって眠っている。
そんな所に一人のしっかりとした体格の大柄な男性が一人たたずんでいた。
「━━━Devil May Cry…………ここか」
男性はそんなスラム街のある一角に『Devil May Cry』と書かれたネオンが光る、建物の扉の前に立ち扉を開けた。
「━━━悪いが今日は閉店だ」
ガチャン
「ちっ、合い言葉もなしかよ。 ろくな依頼がこねぇな」
部屋にはいると銀髪の男が不機嫌そうに受話器を本体に戻した。
多分仕事の依頼だったのだろう。
「失礼、ちょっと良いかな」
「なんだあんた、なんか用かい?
・・・・・ここらじゃ見かけない顔だな」
「あぁ、日本から来たんだ」
「日本から?
へぇ、物好きだなあんた。わざわざこんなヘンピなところを訪ねてくるなんざ」
「何、電話で話すより直接会った方がわかることが多いからね」
銀髪の男は「違いねぇや」と微かに笑い、次の瞬間殺気を含めた視線が訪れた来客に向けられた。
「で、あんたは何者だ?
事と次第によっては、亡骸で帰国する羽目になるぜ」
いつの間にか取り出した銃を構え来客に狙いを定めた。
「さすが、スパーダの息子だな。」
「はんっ! こちらと何度も奴らと戦ってきたんだ。その妖しい気配を纏う奴らと」
「私は仕事の依頼に来たんだがな」
「は?」
予想外の出来事なのか銀髪の男は銃を来客に向けたまま呆気をとられている。
「仕事の依頼だよ。じゃなきゃ、わざわざ来たりする意味がない」
「クク、ハッハッハッハ!!
これはおもしれー、悪魔が俺に依頼かよ!!」
来客の言葉が壷にはまったのか腹を抱えて笑い出す銀髪の男。
その手に持っていた銃を下ろし、口を開いた。
「いいねぇあんた、気に入ったぜ。
話を聞かせてみな、報酬の話は後だ」
来客は銀髪の男に依頼の内容を話した。
「━━━なるほど、つまりアンタが設立した所に魔界の扉がある。と言うわけか」
「早い話がそうなるな」
「だがなんでそんな物騒な所に建てたんだ?」
「君は最近向こうの奴らと接触したのだろう?」
「接触どころか三年前には魔界に行き、一年前は魔帝とまで戦ったぞ」
「多分その影響なんだろうな。私が建てたその場所は少しではあるが魔界との扉が開いていた」
来客はその時の様子を振り返りながら説明する。
「しかし完全に押さえつけられる筈もないから、魔界の扉の進行を遅めるしかできなかった」
「……………。」
「だからこの状況を打破すべく、いろいろと情報を得ていたら、君の存在を知った。と言うわけだ」
銀髪の男は来客の話に静かに耳を傾けていた。
「どうかこの依頼引き受けてくれるだろうか。その分に見合った報酬を用意しよう」
「……………わかった」
数瞬の沈黙の後、開いた口が放ったのは了承の言葉だった。
「だが一つ聞かしてくれ。アンタは何故、魔族でありながら魔界の扉を閉じようとする?」
「理由は簡単だ。魔界の奴らに人間達を虐げられてはなるものか」
人間が好きだから……なのか。
もしかしたら自分の父親も同じ気持ちだったのかもしれない。
銀髪の男は心の中でそう思っていた。
「そうか。ならこの依頼は受けるしかないな」
そう言うと銀髪の男は立ち上がり、壁に飾ってある鍔に頭蓋骨をあしらった不気味な大剣を片手で持ち、器用に振り回す。
「悪魔を倒すのが俺の仕事だ、どんな奴でも斬り裂いてやるぜ」
ヒュッと微かな音をたてながら切っ先を依頼人である来客に向けて、不敵な笑みを浮かべる。
「では私は準備をするので先に失礼する。
君も準備もあるだろうから出来次第日本に発ってくれ」
「おいおい、日本に発つのは良いが俺は日本語が喋れないぞ。日本に着いたらどうすりゃ良いんだ」
「そうか、ならこれを渡しておく」
依頼人は掌サイズの小さな箱を投げ渡す。
銀髪の男はパシッと受け取るとその中身を見た。
「なんだこりゃ」
「息子が開発した自動翻訳機だ、持っているだけで普通に日本人と会話できる。」
「へぇ、アンタガキがいるんだ」
「あぁ、息子といっても本当の息子じゃないがな」
「・・・なに?」
「なにこちらの話だ、それでは失礼する」
「ちょっと待てよ」
部屋から出ようとする依頼人を引き止める銀髪の男。
「なにか?」
「まだお互い名乗ってはなかったよな。アンタは俺の名前を知ってるようだが、俺はアンタの名前は知らないぜ」
「そうだったな。私の名前は玄だ、よろしく頼むよダンテ」
玄と名乗った依頼人は手を振りながらその場を後にした。
玄がアメリカでダンテと会っている時……
「だぁー、もうキリがねぇッ!!」
まだやっていた。
「倒しているにもかかわらず何故数が増えてってるんだぁ!?」
暁さんの書類作業が終わったので様子を見に行くと、未だにシャドウと戦っていました。
始めは20体程出した筈でしたが、倒していくうちに何故か分裂していき、気がつけば40体………約2倍になってしまった様です。
そして余りにも多すぎてまとまって襲ってくるから、回避に専念してるみたいですね。
時たま、反撃に一撃を与えてはいるみたいですが、当たった瞬間に分裂し、また増えていきます。
・・・・・あ、これで50匹の大台突入ですね。
パチンコ店なら盛大なファンファーレが流れてるところでしょう。
「━━━おっと。……っつ」
シャドウの攻撃を回避しきれなかったのか暁さんの右太股の部分に切り傷が出来てしまった。
疲れてきたのでしょうか。
そんな事を考えていると。
ドカッ!!
「がッ……!!」
シャドウの体当たりが見事に暁さんに命中し、飛ばされました。
場外ホームランですね。
持っていた二振りの武器で防いだようですが、流石に今のは効いたようですね。
「仕方がありません、解除しますか」
と召喚解除の術を紡ぐとなにやら妙な気配がするので行動を中断しました。
「ブラストインパクトォッ!!」
異常な冷気と激しい突風がシャドウの群に襲いかかった………という表現が妥当でしょうか。
風が吹いたかと思えば、見る見るうちにシャドウを護る魔力が崩れ、核が現れます。
我流二刀術 猛虎舞吼剣
雷系と肉体強化の術を合わせたのでしょうか……音速と言っていいほどの速さを出し、シャドウ約40体に斬り掛かって行
きました。
「はぁッ!!ふッ!!せいッ!!ダリャァッ!!」
一体、二体、三体、四体………次々にシャドウの核を破壊していきます。
核を失ったシャドウはその身を維持することが出来ないため、消滅していきます。
そして…
「お前で終りだぁーッ!!」
最後の一匹となったシャドウに渾身の一撃を加えます。
奥義 虚空無影衝
暁さんが左足で踏み込み、真下から核を斬り上げました。
見た感じでは暁さんが斬り上げるのと同時に真空波を発生させて敵を斬り刻むのでしょう。
その消滅したシャドウを最後に、此処での戦闘は終りを迎えました。
ですが、少しおかしな点がありますね。
私が召喚したとはいえ、あそこまで強くすることは出来ないです。
私が召喚できるシャドウは暁さんより少し弱いぐらいです。
それなのに今のは暁さんと同等……いえ、下手したら一枚上手の強さを持っていたと思います。
「…………まさか、魔界の影響………ですか」
少しの間その場でそんなことを考えていたら……
━━━めろ…。
「えっ?」
━━…覚めろ!
不意に声が頭に響きました。
━目覚めよ……我が力を受ける者よ!
「いや! 何この声!?」
どこかで聞いたことのある声、男性でも女性でもない声、不気味な声が頭の中に届く。
━奴を殺せ!!
「誰なの!?奴って誰!?」
━━奴を……ルシファーを殺せ!!
「ルシファー!?」
━━今の奴の力はまだ目覚めるどころか欠片も感じさせん、しかし、いずれ目覚める。
そうなる前に消せ!!
殺せ、という言葉で私は金槌で頭を叩かれる思いになりました。
「いやぁあっ!!
あなた、誰なの、私に話かけないで!」
……緒!!
━━!!
誰かが私を呼ぶのと同時に体に電流が走り、意識がクリアになっていく。
……魅緒!!
「あき…ら、さん」
「大丈夫か!?様子がおかしいぞ!!」
ふと視線を落とすと暁さんの手が電気を放っている。
これで正気に戻してくれたんだ。
━━ちぃ、ルシファーめが!!
「ルシー…ファー……」
「ルシファー?
ルシファーがどうかしたのか?」
「いえ、……何でもありません。
ちょっと悪い夢を見ていたようです」
「それにしては随分顔色悪いぞ」
「ちょっと休めば大丈夫です」
「そうか?」
私は顔を伏せ、自分自身にいい聞かせる。
そうですねちょっと休めば大丈夫ですよね。
だけど暁さんがルシファー?
どういう事なんでしょうか……。
「ほら魅緒」
「はい!?」
暁さんに呼ばれて伏せていた顔をあげると……。
「えっと…暁さん?」
「そんなに顔色悪い人に歩かせる事は出来ないよ、ホラ乗って」
背中をこちらに向けてしゃがんでいます。
これってもしかして……(赤)
「いや、でも…」
「大丈夫大丈夫、これでも力はある方なんだから」
暁さんは有無を言わさない目を私に向けています。
いつもと立場が違いますね……
仕方がなく、そしてちょっと恥ずかしい気持ちで暁さんに乗っかりました。
暁さんが立ち上がりエデンに向け足を動かし始めました。
その道中で先程の声が原因なのか私の何かが反応しているような感じがしました。