第七話
「…………という訳よ。
なにか質問はある?」
ダンテと可奈は、可奈の部屋で話をしている。
時刻は八時を回った所だ。
途中でルームサービスを頼んだのだろうか、可奈は椎茸やマッシュルーム等、茸の入ったピザを、ダンテはサラ ミとチーズがたっぷりと入ったピザを食べていた。
「にわかに信じがたい事だが、そいつらは互いに引き合う性質を持つのか………」
ダンテは手に持っていた500mlのコーラを飲み、ピザを呑み込んだ。
この時500mlのコーラが150円という日本の物価の高さに不満を募らせていた。
「えぇそうよ、例外なく逃れようのない宿命の争いよ。神崎社長の息子も、その一人よ」
この時ダンテは玄との会話に息子がいるという話を聞いたのを思い出した。
「て事はあの男のガキも悪魔か」
「出生とともに魂の欠片を受け継いだ、というのが正確かな。
あの子はハーフだけど得意体質で魔力も高いのよ」
「それは魂の欠片のせいか?」
「それはないわ、覚醒して力に目覚めると魔力が急激に上がるけど、普段はそこまで上がらないもの。
それに魔力は血統、遺伝子情報によって決められているのよ。
だからコレはあくまでも推測だけど、あの子は魂の欠片以外に何かが受け継がれていると、私は考えているわ」
「何かってなんだ?」
そう聞き返したダンテに可奈は溜め息を一つついて口を開いた。
「だから、それが何かはわからないのよ。
けど一つ確なのはその力の影響で覚醒は抑えられているわ」
「そりゃあ、奴のガキが力に目覚める条件を満たしているのか」
「そうね、その条件が三つあって、『魔族と何らかの関係を持っている事』と『魂の欠片を受け継いでいる事』。
残りの一つが『ある一定量以上の魔力を自在に操れる事』。
この詳細は分からないわ。
私が調べたところ欠片は全部で五個あるわ、その内四つは人間に宿っているわ。一人は社長の息子ね」
「(ちっ、魔界と関係している人間が最低でも四人は居るってことかよ)
━━あとの一つはやはり魔界にあるのか?」
「えぇそうよ、だけど魔界は今は開いてない状態だからこの一個は大丈夫ね」
「じゃあ残りの奴らで争奪戦をやるのか、どっかで聞いた話だな」
『ちょっとマスター、妖気が漂い始めたよ!!』
「うぉっ!!
なんだこいつ、喋れるのか!?」
今まで沈黙を守ってきたフェンが主人である可奈に警告を発した。
ダンテはいきなり喋ったフェンに驚きをかくせないでいた。
「わかったわ、このホテルに結界をはってこの部屋に誘き出して。
関係のない人達を巻き込むわけにはいかない」
『了解』
フェンは自分を中心に魔法陣を展開させる。
すると次の瞬間人間と同等の大きさの西洋の人形がなにもない空間から現れた。
「マリオネットか、懐かしいぃねぇ、だが俺の相手を努められる相手じゃ━━うぉッ!!」
ダンテが持参してきた箱から愛用の剣『リベリオン』を取りだし構えた瞬間、可奈に襟を掴まれ引きずられた。
「お、おいアンタ!!
何してんだ!!」
「ここじゃ存分に戦えないから場所を変えるのよ。
向こう側のビルの屋上に、いくわよッッ!!!!」
「うおぉおおおおおぉ!?」
可奈は部屋からバルコニーに出て、ダンテを向かい側のビル(およそ100メートルは離れているであろう)の屋 上に向かって、文字通り力一杯投げた。
そして可奈自身も地を蹴り向かい側のビルに跳び移る。
「ぐあっ!!
痛つッ、おいアンタ酷いじゃないか、俺は野良犬じゃないんだから襟を掴んで投げんなよ!
………まてよ、これはこれでいいかもな、愛情の裏返しってやつか」
ズシャッ、という音と共に無事向かい側のビルにたどり着きこんなことを言っていた。
一瞬遅れて着いた可奈は、このダンテの言葉に怒りマークを浮かばせながらフェンに話した。
「………フェン、この人、凍結永眠したがっているから処置お願い。」
『…………了解、マスター』
「いやマジなのか!?
軽いジョークなんだから流せよ!?」
『…………どうするマスター?』
「……敵も来てるみたいだから今回は見逃してあげてもよくてよ。
今度やったら只じゃおきませんことよ」
「は、はい……」
『……………マスター…口調変わってるよ……』
この二人と一匹は何してんだか……
すると先程のマリオネットがまたもや空間から二人の前に現れた。
「標的を私達に捉えたわね、これでホテルの人達に被害は及ばないわ。
フェン、ホテルの結界を解いて。索敵に専念、少しの空間の歪みも見逃さないでよ」
『了解、マスター』
可奈はベルトに付けていたスーツと同じ色のグローブを装着しながら指示すると、フェンは姿を消した。
「おいアンタ、悪魔との戦闘経験は?」
「シャドウとブレイド位しか無いわね」
「はっ、なら余裕じゃねぇか。コイツ等はブレイドより格下の下級悪魔だ、数が厄介なだけだ」
「数、ねぇ………フェン、やっぱり結界を広範囲ではり直して。
多分物凄い数になると思うから」
『規模はどのくらい?』
「半径50M位は軽く見積もってて、後は自分の判断で行動して」
『了解』
「ははは!!懐かしい野郎共、久々のダンスを踊ろうじゃないか、キスもしてやるぞ」
ダンテが腰の後ろにセットしてある黒と白のハンドガン『エボニー』『アイボニー』を取りだし、ダンスを 踊るかのようにステップを繰り出す。
可奈とダンテが背中合わせになるように陣形を組む。
「おいアンタ、ダンスの準備はいいかい?」
「ええ、行くわよダンテ!!」
それが開始の合図だったのか、マリオネット達は二人に向かって襲い掛った。
エデン内部-所長室-
「━━━━魅緒」
持っていく荷物は段ボール箱につめ、後は荷物を送るだけとなった暁は『アグニ』と『ルドラ』を手つきは優しく、 丁寧に手入れをしつつ魅緒の名前を呼んだ。
「はい、なんですか?」
名を呼ばれた魅緒は掃除の作業を止め、暁の方に顔を向けた。
「なんか悪魔が出てきたみたいだから、チョイと行ってくるよ」
「そうですか。じゃ私も御供します」
「いや、いいよ一人で大丈夫だから」
「いえ、所長である暁さんの身を護るのが私の役目なのでイヤでもついて行きます。
それに方向音痴なんですから道に迷ってしまいますよ」
「うぅ………」
(ヤケに痛いところ突くな、容赦無しで………)
「わかったよ、ならすぐ行こうか」
「分かりました」
暁と魅緒は部屋を出て駐車場へ行き、暁が乗って来たタンテムを改造したカスタムマシンに、魅緒も自分のバイクに乗 り、エンジンに火を入れた。
目的の場所までは遠いが、カスタム化したマシンで行けば、40分足らずで着く。
発砲の音と粉砕する音が夜の街中に響き合う。
しかし、結界をはっている為、この騒動に気付くものは居ない。
そう、普通の一般人ならばなおさら……。
「しつこいわ、ねッ!!」
可奈は正面にいるマリオネットにボディブロゥを放ち、敵を殴り跳ばす。
「イイねぇ、人形の癖にガッツがあるじゃねぇか!!
もっと来いよ、化け物ども!!」
両手に持っていた銃から背中に背負っていたリベリオンを瞬時に持ち替え、マリオネットをまとめて一太刀のもとに伏 させる。
「なかなかいい動きするじゃないか、惚れ々々するぜ」
「冷やかしは止めてくれる?
ソッチは回復が早いからいいけど、私は生身の人間なのよ。
ちょっとの怪我も直ぐ治らないんだか、らッ!!!」
襲い掛って来たマリオネットにソバットを入れた。
『そんな心配は要らないと思うんだけど……』
「なんか言った?」
かなりドスの効いた声でフェンに掛る。
凄い殺気を放ってるのが目に分かる。
『いえ、何でもないです』
ダンテは口笛を吹き、一匹と一人のやりとりを見ていた。
その間もマリオネットによる攻撃が行われていたものの、二人は器用にも応戦し粉砕している。
『━━━━━マスター!!
マリオネット以外の悪魔の出現を確認したよ!!』
「タイミングが良いわね、種族は分かる?」
『シン・サイズとシン・シザーズ!!
数、数匹』
その悪魔の名をフェンが口にすると、ダンテは顔を歪めた。
「奴らか。
アンタは確か死神との戦闘経験はなかったよな?」
「ええ、全くないわ。
攻略法はあるかしら?」
「奴らの弱点は仮面だ、そこを砕けば姿を維持できない。
だが奴らは名前から分かるように巨大なハサミと鎌をもっているからな、容易にゃ近付けないぞ。
それに死神が出て来るなら奴も現れるな」
「奴って?」
「死神の親玉だ、大体の行動を共にしているんだ。
警戒しておいた方がいいぞ」
「フェン聞いた?特に強い妖気には注意して、直ぐにあぶり出して」
可奈がフェンに命令を下すのと同時に、可奈は魔法の詠晶を始める。
「おいアンタ、何する気だ」
「ダンテ、マリオネットが私の詠唱を邪魔しないように蹴散らしてくれる」
「お姫様を護る騎士ってか、いいシチュエーションだな。
いいぜ、アンタはそっちに専念しな」
ダンテはリベリオンから再び銃に持ち変え、戦闘スタイルをガンスリンガーに変えた。
一撃、二撃、三撃と一瞬のうちに繰り出される銃弾の嵐がマリオネットに襲いかかる。
「漆黒の闇に落ちたるは一筋
の光、光は強かなりて闇を照らす。
そして光は闇を射抜く巨大な槍とならん」
可奈の魔力が腕に集まり、魔法陣が形成され、それに連動して空にも同じ魔法陣が現れる。
「ダンテ!!」
その言葉の意味が分かったのか、ダンテはマリオネットから距離を開けた。
「プリズム・ランサァーッッッ!!!!」
可奈が手を掲げると、空に形成された魔法陣から光の槍が無数にマリオネットに向けられて降り注がれた。
激しい音と共に射抜かれたマリオネットは本体を破壊され、次々と消えていった。
「スゲーな、っておい、大丈夫か!?」
ダンテがその光景を見入った後、後ろの方を振り向いたら片膝を着いて、苦しそうに息をしている可奈の姿があった。
「大、丈夫……ハアッ…クッ…ちょっと、無茶、……ハアッ……しただけだから」
『マスターは元々魔力の総量が少ないんだ、だから魔法を使ったら一気に魔力が空になっちゃうんだ』
近寄るダンテにフェンは説明をする。
「………アンタはもう休んでろ、後は俺がやる」
「私はまだやれるわ……と言いたいところだけど、このままじゃ単なる足手まといにしかならないわね。
けど一人で大丈夫なの?」
「なにマレッタ島に比べりゃ少なすぎる数だ、アソコは島全体が悪魔の巣窟だったからな」
マレッタ島とは一年前、ダンテが魔帝ムンドゥスと死闘を繰り広げた地である。
今はその島は魔界封印の際、その膨大なエネルギーによって消滅している。
「そう、じゃ少しの時間だけ休ませて頂くわ。
私の分もとっておいてよ」
「それは難儀な注文だな」
ダンテと可奈が笑うと、どこからともなく不気味な笑い声が響いてきた。
「さて、薄汚いゴミ共の掃除をしてやるか」
そう言い放った瞬間、空間が割れ鎌と鋏をもった死の使いが姿を表した。
「━━━━どうなってるんだ?
悪魔の数が次々と消えてってるぞ」
「悪魔の出現も倒す速度以上です。
今のところマリオネットだけのようですが、別の悪魔がでる確率高いですね」
「いやそうじゃなくて、何で倒されているってことだよ」
「あれ、ご存じなかったのですか?
うちのメンバーがここの担当しておりますのが『DEVIL'S BREAKERS』の前隊長です。
書類をお渡ししましたが……まさか見てないのですか?」
いきなりかなりの怒気のはいった声に一瞬怯んだ。
「(あぁ!!あれか!!
確かメンバーと担当地区が書いてあったな………。
面倒だったから後で読もうとして、引き出しのなかに閉まったままだ)━━━━━━!!」
「どうかしましたか……━━━!!」
二人はなにかを感じた瞬間、頭を下げた。
すると次の瞬間、先程まで頭のあった位置を黒光りする何かが通った。
「死神!?」
顔をあげ後ろを振り向くと、鎌と鋏を持つ黒衣の衣装を身に纏う死神が、二人を襲ってきた。
「シン・サイズとシン・シザースか!?
こんな時に!!」
「暁さん!!
停まらずに走ってください!!」
スピードを落とし、応戦しようとした暁を魅緒は制止した。
するとスカートの中に手を入れあるものを取り出した。
暁は赤面するものの一瞬で顔は青ざめていく。
「これを使ってください」
魅緒に投げ渡された物はショットガンだった。
「……………その中身はどうなってるんだ?」
至極当然な意見を持ちかけると、今度は魅緒が赤面する。
「企業秘密です。
てか細かいことは気にしないで下さいよ。ハゲますよ」
「(でた!!お得意の些細な事防御!!
こうなると何言っても駄目だな)」
「取り合えず何でショットガンなんだ?
それならアグニでもぶちこめばいいんだけど」
暁が独自にカスタマイズした二丁銃「アグニ」と「ルドラ」は、魔力を込めて撃ち放つため銃弾は必要ないし、並
の銃器よりは威力は高いはずだ。
少なくともショットガンよりかは遥かに上回る威力はある。
「それは対悪魔用の符術が施されたショットガンです。
防御ごと吹き飛ばす威力はありますが、耐久度が低いため数初しか撃てません。
死神には丁度良いかと」
「言われてみれば、ちょっと違和感があるな。
なんか俺の魔力が吸われてるみたいだ」
「え、そんな効果はないはずですけど……!!」
(━━━まさか、暁さんは!?)
「どうかした?」
「い、いえ何でもありません。
取り合えず、ソレで攻撃してください」
「そうだな」
暁は後ろを向き、向かってくるシン・シザースに狙いをつけ、………トリガーを引く。
「当たれ!!!」
談話
「あぁーー早くしないと俺の分も取られてしまう!!」
「わるいな、お前の分はもうないぞ、俺がすべて奴らを狩るからな」
「くっそー!!」
「せめてもう少し近めの場所がよかったかもな」
「うぅーーー!!」
「この子、ストレス相当溜まっているわね、どうしたの?」
「最近書類作業だけでしたから久々に暴れられると思われたのですね」
「こうなりゃシャドウで思う存分暴れてりゃよかった!!」