第八話
「━━━━凄い……!!これが悪魔狩人【デビルハンター】ダンテの力か!!」
可奈の目の前で繰り広げられている光景に目を疑った。
数匹の死神に囲まれながらも善戦する……いや、それどころか死神というお手玉で遊ぶ感じであしらっている様に見える。
「ヘイ!!どうした、首はここだぜ!!
腕はここ、腹はここ、足はここ、頭はここ、心臓は…ここだぜ。
しっかり狙いな!!」
ダンテは剣を持ってない反対側の手で各部分に指を押し当て、明らかな挑発を放つ。
「ハッハァ!!
どうしたどうした、オラオラオラァ!!!」
ダンテは空いている手で銃を持ち、シン・シザースに狙いを定め━━━
撃つ━━!!!
黒の猟犬より放たれた牙は、一直線にウィークポイントである顔に襲う。
しかし相手も馬鹿ではない。手持ちの獲物で銃弾を防ぎ、弾く。
ダンテはその隙を利用し近付き、シン・シザースの懐に潜り込んだ。
「ハァアッ!!」
一閃。
ダンテは下からの斬り上げで、依り代である仮面を二つに分ける。
依り代である仮面を破壊されたシン・シザースは鋏を上に投げながら悲鳴を上げ、消滅する。
投げられた鋏が回転しながらダンテに向かっていくが、ダンテはそれを器用に受け、腰を深くし体を引いた。
「んじゃ、親父から教わった技を披露してやろうか」
瞬速の速さで繰り出される鋏は、【ラウンドトリップ】と呼ばれる技で、高速回転しながら残りの死神達に襲い掛る。
死神達は防御することも出来ずに依り代を破壊され、それぞれ悲鳴をあげた。
「あぁ?
なんか足りねぇな。
オイあんた、何処行ったか分かるか?」
「居ないはずよ、見た限りでは全てアナタに倒されたわよ」
「いや確かに足りねぇんだ。
悪魔が逃げるなんて考えないからな」
「きゃあぁああ!!」
『「「!!!!!」」』
女性の悲鳴が夜の闇を切り裂いた。
ダンテ、可奈、フェンはその声の発生原を探した。
『マスター!!
このビルの下の方でシン・サイズの反応が!!』
「なんですって!?」
「ちぃ!!」
可奈は屋上から覗き込み、ダンテは場所を確認すると銃を抜き12階建てのビルから飛び降りた。
下では高校らしき制服を着た少女が腰を抜かし、その場に座り込んで恐怖に縛られていた。
シン・サイズが鎌を振り上げ、今その少女の命のロウソクを消そうとしていた。
「クソ、間に合わねぇ!!」
シン・サイズが鎌を振り下ろした。
しかし振り下ろされたはずの鎌は、上に向かって放られたのだ。
「なんだぁ!?」
シン・サイズの依り代である仮面には一振りの刀が突き刺さっていた。
何が起こったのか、ダンテは刀が飛んで来た方向を見る。
その方向には、幼さの残る青年とメイド服を着た女性がバイクに乗ってこちらに近付いて来ている。
「魅緒!!
あの鎌を狙って撃ちまくれ!!」
「了解です!!」
魅緒は何処からともなくサブマシンガンを二挺取り、空へ放り投げられた鎌に撃ち放った。
暁はその間に被害に遭った少女の近くへバイクを走らせ、その後バイクをおりて駆け寄った。
その後少女の顔を見た暁はゲッとなった。
「うおっスゲェ」
小柄な体に似合わずサブマシンガン二挺を同時に撃つ魅緒にダンテは暫し見入っていた。
「(てか、アイツといいコイツといい……日本の女は皆こうなのか?)」
可奈と魅緒をみて日本の女性の凄さを知ったダンテは『日本の女性はおしとやか』と言う認識を改めざるを得なかった。
やがて蜂の巣にされた鎌と、シン・サイズが消滅するのはほぼ同時だった。
「(ん?
コイツのこの気配は……悪魔か。
てことはコイツが魂の欠片を持つ人間か)」
ダンテは暁の方を向いて近くにいる本人に聞こえないぐらい小さな声で呟いた。
「なんか言ったか?」
「いや別に、お子様はもうオネンネの時間だぜ」
「今日び九時辺りに寝る子供なんて居ないぞ、夜中の三時に風呂にはいる小学生が居るからな。
それに俺はお子様じゃないぞ、成人を迎えたからな」
成人という言葉に反応を示すダンテ。
「それより、アンタ何者なんだい?
明らかに一般人に見えないんだが」
暁はダンテに銃を突きつけた。
それはそうだろう、夜でも映える真紅のコート、抜き身で大剣のリベリオンを背負い、両手にはエボニー&アイボニーを持っているのだ。これを一般人としてみ
たらかなり変な奴だ。
当のダンテは微動だにせず静かに突きつけられた銃を見つめる。
「へぇ、これデザート・イーグルか? 随分と変わってるが」
「そうだ、デザート・イーグルをベースにして独自にカスタマイズした物だ。」
「なに!?
これ自前のカスタマイズか!?」
ダンテの予想外の反応に表情を歪ませ距離を開けた。
「うぉっ、スゲーなぁ!!
色も赤と緑だし、なんかイメージとかあるのか? 魔力も障害なく付加できるようになってるな」
「……一目でこの銃の特徴を分かるとはあんた何者だ?」
「俺は何でも屋でデビルハンターだ、そんでもってこの銃はその都合上自作したものだ。 とある奴からの依頼で日本まで来た。とまぁここまでにしといて、そ
の銃の説明をしてくれ」
「コレは朱色の方はアグニ、翠色の方がルドラ、二つとも神話から取った名前なんだ。両方とも魔力を弾丸にして放つから弾倉はいらない。
この二つは基本的には同じ性能だけど魔力を溜めると違う攻撃ができるんだ。
アグニは威力を高めたチャージショットを放つ、対してルドラは散弾してから敵を追尾するホーミングショット。
他にもいろいろ有るんだ。
例えば━━━━━。」
暁は自分でカスタマイズした銃についてダンテに説明を始めた。
「━━━全く、あの子は変わってないわね」
ある程度回復した可奈はビルから降りて来て、二人のやりとりを見てから、ふと昔を思い出し、懐かしむように呟いた。
「何がですか?」
そしてその呟きを聞いた魅緒はその訳を可奈に聞いた。
すると可奈は魅緒の方を向き、二人は挨拶を交す。
「お久しぶりです、宮雲隊長。二年ぶり……ですね」
「あら魅緒、久しぶり。
元気にしてた?」
「はい、宮雲隊長もお元気そうでなによりです」
「あ〜いや、あのさ私はもう隊長じゃないんだから、普通に名前でいいよ」
「あっ、そうでした。つい」
そう言いながら魅緒は頬をかく。
「所でさっきの話しなんですが……」
「ああ、はいはいあれね。
暁とは従姉弟関係で、昔………まぁ記憶がなくなったあとね、その頃面倒みてたってわけ」
可奈は未だダンテと銃について語り合っている暁を見て、どこか嬉しそうに、或いは呆れそうな表情を顔に表している。
「あの子は何かしら物をいじっては壊すわ投げるわ、果ては妙な物造るわでいろいろ凄かったんだけど、手榴弾を造った時はホント恐かったね。
叔父さんはお腹を抱えて大爆笑して、床転がりまくってたけど」
「あ、暁さん、見掛けによらず凄いことをしてましたね……。
社長も性格から多分朝まで笑ってたんでしょうね」
「えぇ、それで笑いが止まらなくなって、病院にまで行ったからね」
魅緒と可奈は笑い声を挙げた。
『マスター、デス・サイズの反応が強くなってるけど、いいの?』
フェンは談笑している二人に遠慮がちに敵の反応があることを報告する。
「そういえばそうだったわね。
二人とも聞こえる?
デス・サイズがくるわよ」
「姉ちゃん!?
なにやってんのこんなところで!!」
「ん?
お前等知り合いか?」
「私の従姉弟よ。
久しぶりね、貴方が私の後釜なんだってね。
噂は聞いてるわよ、まぁ積もる話は後で、来るわよ」
辺りの気温が急激に下がっていくのを肌を通して感じる。
これは上級悪魔が現世に現れる兆候なのだ。
可奈を含め、その場にいる四人(+一匹)はその気配を感じとり、臨戦体制に入る。
「あ、魅緒。
そいつを安全な場所まで運んでくれ」
「あっはい、分かりました」
魅緒は気絶している少女を抱き上げ、バイクに乗せ少女が落ちないようにロープで自身と結び、その場から離れる。
「さて所でお前さん、悪魔との戦闘経験は」
「下級悪魔は大体、上級はグリフォンぐらい」
「へぇ、あんな阿呆鳥とやったのか。
オーケー、なら大丈夫だ。
お前さん、名前は?」
「暁、神崎 暁」
「俺はダンテだ、特別にファーストネームで呼んでいいぞ。あとこの名前を覚えておいて損はないぞ。
アキラ、奴にとびっきりの一発でもぶちかませ」
「アグニでいいのか?ダンテさん」
「………おい、寒気がするから『さん』はいうな。
歳もそんなに離れてないだろ」
「あ、わかったよダンテ」
「フェン、大規模な戦闘になるわ、貴方は結界強化に集中して。
外部に被害が及ばない様に」
『了解』
ダンテはリベリオンを構え、可奈はグローブをはめ直し、暁は刀を納め、アグニを取り出す。
取り出したアグニに魔力を集中させる。
朱色の猟犬は唸り声を上げながら、その身を光らせる。
『来るよ!!』
寒気が更に強まっていき、皆の視線の先の空間が裂けた。
『ダァンテェ……』
裂けた空間から、先ず骨と皮膚しかないような手が出て来てまるで地面を這いずる様な感じで空間から出てきた。
「こいつ、亜種か……」
現れたデス・サイズは通常ならその身丈程の大鎌を持っているのだが、このデス・サイズはその大鎌には骨があしらわれていた。しかも装飾として人と
思われる頭骨が使われていた。
「━━━アキラ、撃てッ!!」
「ああ!!」
ダンテの合図に暁はアグニを構え、狙いを定める。
そして猟犬は獅子へと目覚め、誕生の勇猛な雄叫びを挙げた。
あとがき
風邪・・・ひきました・・・ズビズビ・・・ Orz