第九話
薄桃色を基調とした部屋にヌイグルミや猫型の座布団等あり、部屋の可愛さを演出している。
そんな中、ベッドで寝ていたこの部屋の住人が目を覚ました。
「━━━━う、うぅ〜〜ん、っと……あれ?」
ベッドから上半身だけを起き上がらせ、伸びをすると辺りをチョロチョロと見回す。
「いつ帰ってきたんだろ?
確か昨日は………う〜ん、思い出せない。ま、いっか」
未だ覚醒しきれてない頭を働かせ記憶を辿ってみるが、どうも思い出せない。
そしてふと目に止まった時計は朝の7時を回って25分を示していた。
「うそっ、もうこんな時間!?」
一気に覚醒した少女はベッドから飛び起き、着替を済ませようとパジャマを脱いだ。
しかしタイミング悪く部屋の扉が勢い良く開かれた。
「コラ、菫!!
今日は学校だろ、いつまで寝てるん……ん、なんだ起きてたか。メシは出来てんだから準備できたら早く降りてこい」
部屋の扉を開けた人物は暁だった。
扉の前で立ち尽くし両方の手にお玉と中華鍋をそれぞれ持ち、エプロンを着けているというのはなかなか新鮮な光景だ。
暁は菫に言うだけ言って扉を閉め階下へと向かった。
菫は何が起こったのか理解できずに呆然と固まっていた。
「え、……え〜〜〜〜ッ!!!!!!!」
ここは、白樺大学附属高校がある桜木市。
一年を通して比較的に過ごしやすく、桜の咲く期間が長いことからこの名前が付けられたのだ。
昔これに興味を示した学者達が調査を始めると此処で何かがあったと言うことしか分からずにいた。
やがて調査は難航しこれ以上の調査は無理だと分かると断念せざるを得なかった。
そして桜木市の謎は闇の中に閉まわれたのだ。
しかし桜が長い期間咲き続ける事によって桜木市は花見スポットと言う事で観光客が賑わうことも多々ある。
さて話を戻して、場面は神崎家のリビング。
長方形のテーブルを囲うように、魅緒、可奈、ダンテ、菫、暁の五人が席について朝食をとっていた。
魅緒はメイド服ではなく、白のハイネックにロングスカート、可奈は黒いフリースに紺のジーパン。
ダンテは着替を持って来てないのでズボンは変わらないが、上着は暁の大きめのシャツにベストを重ね着している。
しかしそれでもダンテにとって小さめなのでデパートに買いに行くつもりだ。
食卓の場はそれにふさわしくない雰囲気を纏っている。
原因は暁と菫にあった。
菫はムスッとオカズをとっては口に運んで、一方の暁は赤く染まっている頬を擦りながらムスッとしていた。
「………よお、大将。何があった?」
「なんでもありません!!」
「お、こわ」
ダンテは暁が特別に用意した朝食を食べながら、菫と暁の双方を見て何があったのか想像はつくが一応聞いてはみたものの、一蹴された。
「おい、さっきから謝ってるだろ、まだ怒ってんのかよ」
「別に怒ってなんていませんよ━━━ごちそうさま」
菫は自分が使った食器を重ねて、流台へ持っていく。
「ねぇすみちゃん、暁も謝ってる事だし許してあげたら?」
「まぁ扉を開けたのは起こしに来たと言うことで許してますが、問題はなんで知らない人達が居るのかって事と、久し振りに会った私を見てもなんで無反応なん
ですかって事です!!」
赤面しながら力説する菫に一同は呆然とする。
「……後者の方が本音じゃないのかな?」
「だからダンテは親父の依頼で日本に仕事しに来ている、姉ちゃんはそのサポート。
で、魅緒は俺の職場の同僚」
「私はついでですか?」
「俺と魅緒は今度白樺大附属高校に臨時教師としてオッチャンに招かれたんだ」
「菫ちゃん、よろしく御願いしますね」
「あっ、はい………ってええ〜〜〜〜!?」
「煩いなぁ、近所迷惑だから叫ぶな」
「兄さん教員免許持ってるんですか!?
なんの教科受け持つんですか!?」
「それは聞いてないが大体の予想はつけどな、それより時間は良いのか?」
「え?」
暁が箸で食卓のの上にある時計を指した、つられて菫が時計を見ると時刻は八時を回って二十四分を示していた。
「ち、遅刻する〜〜〜」
「そうそう、お前の弁当はそこにある黄色の包み布に包んであるからな、持ってけ」
「あ、ありがとう、兄さん」
弁当を鞄に入れてコートを着て、準備が整った菫は学校へと行った。
「いってらっしゃい」
と、菫を見送りに玄関に出てきた暁は再びリビングに戻ってた。
「すみちゃん、昨日のこと覚えていないみたいだね」
「そのようですね」
「まぁ覚えてないならそれで良いし、何より関わらない方がいいさ」
「同感だな、一般人が簡単に足を踏み入れられない領域だ。興味本意で踏み入れたら痛い目に遭うぜ。
ところでアキラ、昨日ほんと何があった?」
「へ?」
「昨夜悪魔化したろ? 俺は《デビル・トリガー》って名付けてるがな、その時何があったんだ?」
「それに守りたい人を守れなかったって……一体その人は誰なんですか?
一体何があったんですか?」
「ん〜……………実は俺もよくわからないんだ・・・いや記憶はあるんだけどな」
「「「はぁ?」」」
四人は昨夜の出来事を振り返った………
「くらえッ!!」
気高き咆哮は獲物を捕えんと標的に襲い掛る。
暁の一撃は死神共通の依り代である仮面に当たり、爆音と共に砂煙が舞った。
「よし!!」
「殺ったか!?」
「いや、まだだ!!」
ダンテの否定の声をあげた瞬間、砂埃ごと切り裂く死の鎌が振るわれた。
「うぉ!!」
三人は紙一重で避けたもののダンテ以外は動揺を隠せないでいる。
デスサイズは砂埃から出てくると、依り代である仮面にはヒビどころか傷一つ入ってはいなかったのだ。
「ダンテ、どういうことなの!?」
「どうやらコイツはデスサイズより上位ランクの死神みたいだな。
魔力が違う」
「なんじゃそりゃ!?」
ダンテの発言に驚愕の色を露にする暁。
「でもグリフォンに比べりゃ、何て事はない。自信もてよ」
「あ、あぁ……!!」
暁はアグニをホルダーにしまい、アネモネを構える。
「アキラ、遅れんなよ!!」
「了解!!」
ダンテと暁は各々獲物を構え、デスサイズに斬り掛る。
二人の攻撃をデスサイズは消えることで回避した、そして放たれた攻撃は見事に空を裂いた。
「消えた!?」
「アキラ、後ろだ!!」
後方に現れたデスサイズは二人を切り裂こうと鎌を振りかぶった。
「姉ちゃん!!」
「はぁああッ!!!」
後方に居た可奈が接近し地面を蹴って、振りかぶった鎌を掴み、更に勢いをつけ仮面めがけ回し蹴りを繰り出した。
可奈の攻撃は見事に決まり、デスサイズは蹴飛ばされた。
「おお〜ナイスシュート!!」
「ナイスアシスト!!」
暁と可奈はしてやったかの様に親指を立てた。
するとバイクの音と共に魅緒が戻ってきた。
「皆さん大丈夫ですか?」
「おかえり魅緒、すみちゃんは怪我とかしてない?」
「えっ、あ、すみちゃんって……?」
「神崎 菫、さっきシン・サイズに襲われた奴。俺の義妹だ」
とっさに固有名詞を出されたので困惑する魅緒に暁は助け船をだす。
「彼女がそうなんですか?
えっと特に外傷は無いので多分ショックにより気絶しているだけだと思います。」
「そぅ…」
可奈は安堵の表情を浮かべた。
「おい、アンタらお喋りはそこまでだ、奴さん本気で来るぞ」
目の前の空間にドス黒い霧が集まってきて、再び暁達の前に姿を表した。
『この匂いは……そうか貴様が我が同胞達を裏切りし者か』
「へっ、生憎だがそんな根暗な奴、同胞には持ってないぜ」
『この匂いは間違いなく裏切りし《スパーダ》そのもの!!』
「こいつ悪魔のくせに嗅覚犬並かよ……。
っつうか裏切りし者ってなんだ? 《スパーダ》ってあの伝説に残る人物か?」
『裏切り者には"死"を!!!!』
「それは追々話すさ、来るぞ!!」
不気味な笑い声が木霊する中、デス・サイズが大鎌を振り上げた。
ダンテもそれに応えるようにリベリオンを構え、攻める。
「ハァアッ!!」
一合目、ダンテとデス・サイズの得物が交差する…ダンテはいくらか余裕があるのか笑みを浮かべている。
二合目、大剣と大鎌が交わり、競り合う。
「どうしたどうした子犬ちゃん、まさかビビったりしてないだろうな?」
『我を愚弄する気か。 いいだろう…我の力、その身に刻みこんでくれるわ!!』
競り合い状態から間合いを開け力を解放するデス・サイズ、その隙を見逃さず暁は銃を抜き引き金を引いた。
『グオッ!!!』
放たれた弾は一直線に仮面へと向かい、直撃した。
「おいアキラ!! 面白くなりそうなときに横槍さすな!!!」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。
いくら結界張ってるからって限度があ━━━」
限度がある。そう言いかけた暁はふと一つの疑問が頭をよぎった。
(まてよ。 結界を張っているなら、元より人が外から結界内に入れるわけがない……。
なんかしら影響がないかぎり侵入は無理なはず。
アイツは魔力は低いからこじ開ける様な真似は出来ない……だったらなぜ?)
「アキラ、ボサッとすんな!!」
「ッ!!」
暁の思考を遮ったのはダンテの言葉だった。
気が付くと、デスサイズが目の前まで迫って来て鎌が立ちはだかる輩を排除しようとしていた。
「くそ!!!」
銃でガードしようと鎌の軌道上にあてるが…一瞬の差で暁の方が遅い。
「クッ!!」
「暁さん!!」
暁の体が二つに分かれる寸前で魅緒が飛び付き暁を抱えて倒れこんだ。
上半身と下半身が永久の別れを告げる筈の鎌は二人の上を通りすぎていった。
「あ、ありがとう魅緒助かったよ」
「うぅ……」
魅緒に礼を言うと、苦痛に表情を歪める魅緒の姿があった。
苦痛の原因はすぐわかった。 魅緒の右脇腹の部分の服が裂け、そこから出血していたのだ。
「おい魅緒!?」
「大丈夫です…このくらいなら」
大丈夫…そう言いながら心配かけまいと笑顔をつくる。
しかし言葉とは裏腹に苦痛にうごめく魅緒は大丈夫とは言えない。
怪我した箇所が箇所だ、早目に手当てした方が良いだろう。
『貴様…人間の癖に《魔》を宿すか。 同胞の力を持つとは貴様も裏切りか!?』
デスサイズは魅緒を見ると憤怒したかのような言葉を発した。
「私はれっきとした人間です、欲望と殺戮しか無いあなた方と一緒にしないで下さい!!」
『《ボルヴェルク》と《ダラゴネス》同様の力を持つか』
「ダラゴ…ネス…だと…? ッ!?」
その名を聞いた瞬間、暁は頭を鈍器で殴られたような激痛が走り頭をおさえる。
同時に少しボヤけた映像が脳裏に写し出される。
写し出された映像は、神殿と思われる建物の中、しかも大広間と思われる場所に横たわる血まみれの女性とそれを抱き抱える漆黒に身を包む男性、そしてそんな
二人を見下す五対の羽根を生やした巨大な純白の天使がいた。
男性は女性に声をかけるが女性はピクリともしない…命の燭が消えてしまったのだろう。
男性は真紅の大剣を手に取り、天使に向かうが天使は無表情のまま槍を発現させ男性の左胸に突き刺した。
映像はそこで途切れた。
我にかえった暁は激痛の走る頭をおさえながらデスサイズを睨む。
『しかしその力はまだ使いこなせていないようだな…その男共々仲良く死ね』
デスサイズは再び鎌を振り上げ、二人をめがけて振り下ろす。
魅緒は怪我を負って身動きとれない、暁も頭痛のせいで思うように体が動かない、せいぜい睨むのがやっとの状態だ。
「「暁(アキラ)!!」」
『━━━暁!!』
暁の頭に男の声が響く。 同時に目の前が暗くなっていき、意識が遠のいていく……刹那、漆黒の暗闇の中で暁は気が付いた。
そして目を開けた先には灰の羽根を身に纏う男性が暁が気が付くのを待っていたかのように立っていた。
「……誰、あんた?」
『そんなことはいい。 俺の声、聞こえるな?』
「…あぁ」
『時間がない、手短に言う。 これからお前の《枷》を外すと共に俺の全てを託す』
「《枷》? 《全て》?」
『今までは暴走が起きないように《枷》をつけていたに過ぎない。
だが今のお前は精神的にも体力的にも《枷》を外した状態に充分耐えられる様に成長した。
俺みたいに目の前で自分を大切にしてくれる人を失う様な事はするな』
「大切に……」
『さぁ、目覚めろアムカディムよ。 そしてお前の力を見せてみろ!!
受け継がれしリテラエルネルア《躍動の力》を!!━━━』
ドクン――――
「うおぉあああああッ!!」
暁の体から魔力が奔流しデスサイズを跳ね飛ばす。
『こ、この感じは!?』
「・・・・・貴様ごときにここまでやられるとはな・・・・やはり《奴》に倒された影響か・・・」
砂埃の舞う中で立ち上がった暁は先ほどの服装とは違う黒衣の衣装を纏い、腰まで髪が伸び、背後には金の翼を生やし、体に異様な模様を浮かべ自身の手を見つ
めていた。
「暁・・・さん?」
「悪いな魅緒、これが終わったら傷治すから少し待ってろ」
「は、はい」
普段の暁とは別人とも言える威圧感に魅緒は押されてしまっている。
「な!? 奴の魔力が急激に上がった!? それにあの姿、悪魔か?」
「………覚醒、したのね」
ダンテは驚愕の声をあげたのに対し、可奈は絶望的な声をあげた。
《な、なぜ貴様がここにいる!? 貴様はダラゴネスにやられた筈だ!!》
「あぁそうだな、確かに俺は奴に魂を砕かれたさ。だがな――」
一瞬でデスサイズとの間合いを詰める。 デスサイズは大鎌を振るうが暁は易々とかわす。
「大切な人を《奴》から守れなかったんだ、素直にやられてたまるかよ!!」
前に突き出した暁の手から魔力が迸り、デスサイズを弾き飛ばす。
『グァッ!!』
「クラウ・ソナス、起動!!」
〔了解、主〕
空に翳した暁の手からクラウ・ソナスという機械的な大剣が声と共に発現する。
「ダンテ、姉さん伏せろ!!」
咄嗟の言葉に反応し、ダンテと可奈は体を低くした。
「お前に復讐を果たすってなぁあッ!!」
クラウ・ソナスを横に構えると同時に暁の目の前に陣が現れる。
「うおぉおおおおおおッ!!」
魔法陣を斬ると言うより打つと言う表現が正しいだろう。
クラウ・ソナスが魔法陣に当たった瞬間、魔法陣から魔力の咆哮がデスサイズを襲う。
『き、貴様が、貴様がまだ”現存”できるとは!! み、認めんぞぉオッ!!』
「クラウ・ソナス、ブラストモードに移行!!」
〔了解・・・ブラストモード、セットアップ〕
クラウ・ソナスに光が纏い、弾け飛んだ。 クラウ・ソナスは形状を大剣から槍状に変え、先端をデスサイズに向けた。
「〔ダークネス・ブレイカー!!!〕」
クラウ・ソナスの先に蓄積された漆黒の魔力が暴風となり、敵を襲い掛かる。
「Kick off〈くたばれ〉!!」
魔力の暴風が止むのと同時にデスサイズの気配も消えてしまった。
〔・・・・・目標の消滅を確認、周辺に敵反応1あり〕
「それはダンテだ、仲間だから省いてくれ」
〔了解〕
そして、クラウ・ソナスは大剣状に戻り、暁は魅緒の所へ戻る。
「・・・・ダンテ、お願い」
可奈は沈痛な表情でダンテに請う。
「・・・いいんだな?」
ダンテも確認するかのように可奈に問い返した。
「ええ、覚醒した者は本能の赴くまま戦慄と殺戮を繰り返すのよ、親しいものから殺し、同じ魂の欠片を持つ者を探すの。 あの子に親しい者を殺させたくない
の」
「わかった」
ダンテはリベリオンを掴むと暁に向かって走り出した。
「悪いな魅緒、今治すからな」
「あ、はい。 暁さん・・・ですよね」
魅緒はいまだ目の前にいるのが暁本人なのか目を疑った。
「当たり前だろ? なんならエデンに来てから道に迷った回数、及び魅緒に迎えに来てもらった回数、場所と共に言おうか?」
「・・・・・確かに本人ですね」
二人は笑い出した次の瞬間金属同士がぶつかり合う音がした。
「ダンテさん!?」
「ダンテ!? どういうつもりだ!?」
「お前は《覚醒》したんだ。 だから被害が出る前にお前を殺す」
「な!? それはどういう意味だ!?」
暁は信じられないような出来事に声を荒げた。
「そのまんまの意味だ!!」
鍔競り合いの状態から二人は間合いを開けた。
「《覚醒》した奴は親しい者から殺し、魂の欠片を持つ者を探す。 欠片を集めて魔界に行くためにな」
「なんだそれ!? 親しい者を殺す!? 俺が誰を!?」
「お前がそこの女を殺す」
ダンテの発言に暁は激しく頭を振った。
「ちょ、ちょっと待て!! 何で俺が魅緒殺さなければならないんだ!?」
〔あなたがダンテか。 主は大丈夫だ、訳は私が話す。 取りあえずは剣を収めてくれないか?〕
「剣がしゃべった!?」
〔主は前主の影響でそのような覚醒は無い、いや元から無かったと言うほうが正しい〕
「? どういうことだ?」
警戒しつつもダンテはクラウ・ソナスの話に耳を傾けた。
「親しい者を殺すのは他の魂の欠片を持つ者だ。 その者の精神力と体力が例え覚醒に耐え切れたとしても衝動には打ち勝つことはできず心が破壊されてしまう
のだ。そのような覚醒を《虚なる覚醒》と言う」
「じゃあ、アキラは?」
〔主の場合、前主の《リテラエルネルア》を受け継いでいるので《真なる覚醒》と言う。 だが魂の欠片は集めなければならないがな〕
「そうか・・・」
ダンテは息をついてリベリオンを背負った。
「おい、あんた聞こえたか?」
「え、ええ、どういうことかわからないけど暁は大丈夫ってことよね?」
〔そうなる〕
「よかった・・・」
「なんなら姉ちゃん子どもの頃に造った奴の性能、全て言おうか?」
「・・・・・・思い出したくないからやめて」
よほど酷い目に遭ったのだろう、身を震わせて停止を求めた。
「じゃクラウ・ソナス、魅緒の傷治せるか?」
〔程度にもよるが、ある程度なら大丈夫だ。 それと主の魔力が必要だ〕
「そうか、なら頼む。回復系は専門外だし」
〔了解〕
暁は魅緒の元に行き、クラウ・ソナスを魅緒の患部へ近づけた。 クラウ・ソナスから淡い光が漏れ出し魅緒の傷に集まり始めた。
出来事は一瞬だった、傷に光が集中し瞬く間に傷を癒していったのだ。
職業柄いろんな医療術を見てきた可奈や魅緒もその治癒速度に驚かされた。
〔治癒完了〕
「お疲れ、クラウ・ソナス。 戻っていいよ」
〔了解〕
クラウ・ソナスは声と共に光に包まれ、十字架を模したペンダントになり暁の首に掛かった。 それと同時に暁の衣服が黒衣の衣装からいつもどおりのに戻っ
た。
「それじゃ、帰るか、俺ん家はこっちだから付いて来な」
暁は先導して帰路に着こうとする。
「・・・・暁さん、妹さん、忘れてません?」
「・・・・・・あ」
((この天然ッぷりはやっぱり暁(さん)だね(ですね)。))
ふたりは暁の行動を見て本物だと再認識した。
〔・・・・・・ここが前主と似てるんだ〕
クラウ・ソナスはこれを口に出さず自身に留めた。
そして、菫は暁に背負われ一向は暁の家へと向かった。
あとがき
「さて、ここで兄さんの力が発現しましたぁ〜、意外と早いですね」
「俺が初めて覚醒したときは兄弟に胸貫かれた後だから、それに比べりゃ結構早いほうだな」
「え゙!?」
「ダンテさん、菫さんはこういう血なまぐさい話慣れてな
いんですから控えてください。 でも、暁さん悪魔だったんですねぇ」
「まぁ悪魔って言ってもハーフだね、おじさんが悪魔だから。それに関してはダンテと同じかな」
「で、当の本人がいませんが・・・・・どこに行ったんですかね」
「奴なら裏の山に行くって言ってたぜ」
「修行ですね」
「そういえば兄さん在学時代も裏山行ってましたねぇ、時々ボロボロに
なって帰ってきてましたが」
「それは・・・・」
「アレね・・・」
「((遭難したとしか・・・・))」
「ところであなた誰ですか?」
「・・・・は?」
「ダンテさんですよ? 今朝御紹介したはずなんですけど・・・」
「ん〜〜〜・・・・覚えてない」
「「「ひどいな」」」