シルフェニア2000万ヒット記念作品小説






 お祝いは、派手に楽しく『計算外?』
 
 機動戦艦ナデシコ×銀河英雄伝説 〜IF STORY〜

挿絵


T


 宇宙暦804年、新帝国暦5年の春も本格化する4月末、首都星ハイネセンにある自由惑星同盟軍統合作戦本部長室では、後世で言う、「学者元帥とアイドル元帥との間に交わされた珍事に至る雑談」が、シロン茶の香気とともに「のほほん」と始まった。


 「うーん、いつ飲んでもユリアンの紅茶は最高だね」

 「本当ですね。私もとても幸せになれますぅ」

 いずれも稀有な出世を遂げた元帥二人は、亜麻色の髪の総参謀長の淹れた紅茶に舌づつみしつつ、重大かつ重要な式典を眼前に控えてもどこかゆったりと構えていた。

 春の日差しに眠気を誘われつつ、ヤン・ウェンリー統合作戦本部長は紅茶の湯気をあごに当てながら目の前に座る穏やかな美女に切り出した。

 「もう、耳に入っていると思うけど、二週間後にフェザーンで開かれる調印式に合わせて、ここハイネセンで記念行事をしようかということに決まったのは知っているよね。歴史的に見ても非常におめでたいことだし、多少は派手にやってもいいかなと思っているんだ」

 ヤンは、そう語るとティーカップを指で軽く弾き、目の前の座る優美な女性元帥に依頼した。

 「そこでミスマル元帥、君にハイネセンでの和平イベントのすべてを任せたいと思っているんだ」

 ちょうど二口目の紅茶を飲もうとしていたミスマル・ユリカ宇宙艦隊司令長官は突然の依頼に驚き、ティーカップを危うく落としそうになる。

 「えっ、私がですか?」

 「そうなんだ。どうせ調印式は私やレベロ議長をはじめとしたほとんどの閣僚もフェザーンに行ってしまうから、ミスマル元帥がハイネセンを預かることになるんだ。どうだい、任せていいかな? 君のナデシコチームはこういう類のお祭り事は得意だし、事実、私はずいぶんみんなのお祭りイベントを楽しませてもらった。ここは一つ、元帥を中心にイベントを盛り上げてもらいたい。レベロ議長やホワン・ルイ国務委員長に許可は取ってあるから好きなようにやってほしい。もちろん、後方勤務本部長と予算の相談はしてね」

 ヤンの口調はどこか世間話をするようだったが、その熱くもない語り口とは裏腹に向かい合う「アイドル元帥」は、やる気のバロメーターを一気に上昇させたようだった。

 「そういうことならお任せください。不肖ミスマル・ユリカ、責任をもって和平イベントを盛り上げて御覧にいれましょう」

 「そうかい、それでは一つ頼むよ。とりあえず元イゼルローン組みのお祭り連中も参加したそうだから、ま、てきとうに手伝わせてやってくれ」

 「はい、承りました。後世に残るイベントにして差し上げます」

 依頼したほうは特に煽ったわけではなかったが、イベントを実行するにしても時間的に余裕がなく、そこそこの規模で催されて平和的に終わるだろうと予想していたのである。

 結果的にヤン・ウェンリーは、彼の周囲に集う「古巣のお祭り連中」と、ミスマル・ユリカ率いる「新規お祭り連中」の精神的趣向と能力的実力を計り間違えることになる。

 「では、ヤン元帥。さっそく準備に取り掛かりますので、今日はこれで失礼します」

 「ああ、そうだね。私もなんだかんだで明後日の朝早くハイネセンを発たなければいけないから後のことは任せたよ。正式な辞令はあとで君のオフィスに届けさせるよ」

 「承知しました。ヤン元帥もお気をつけて」

 ユリカは立ち上がって優美な敬礼をし、白いタイトな制服を身につけた肢体をひるがえして春の惰眠の中に埋没しそうな陽気の中へ軽快に歩を進めたのであった。



U

 ──宇宙暦804年、新帝国暦5年標準暦5月5日──


 自由惑星同盟首都星ハイネセンポリスの中央記念広場では、この瞬間を待ちわびた同盟市民の群れで沸き返っていた。市街地や街路もこの限りではなく、他に軍事宇宙港にも多くの一般市民や同盟兵士が集まり、ついに叶った和平の歴史的イベントを祝おうと、フェザーンの会場を映すメインの超大型二次元スクリーンと二人の偉大な人物を映した三次元スクリーンを交互に見やっていた。

 ──標準時19時01分──

 同盟政府代表レベロ議長に続き、ヤン・ウェンリー統合作戦本部長と新銀河帝国皇帝ラインハルト一世との間で軍部間の和平調印式が執り行われると、集まった人々から爆弾に近い歓声が轟いた。

 「おめでとう! 自由惑星同盟、おめでとう新銀河帝国!」

 「銀河の永遠なる平和に乾杯!」

 「ヤン・ウェンリーとカイザーラインハルトに乾杯!」

 一斉に数十万本という政府支給のシャンパンの栓が抜かれ、光と音のイルミネーションがハイネセンの街中を派手に彩る。花吹雪が舞い、人々は謡い、踊り、川に飛び込むお調子者どもが警備員の隙間をついて続出する。

 この馬鹿騒ぎの始まりを肴にしつつ、後方勤務本部オフィスでささやかな祝杯を挙げる二人の人物がいた。

 「とにかくお疲れさん。実にめでたいことさ」

 後方勤務本部長アレックス・キャゼルヌ大将がシャンパンの満たされたグラスを軽く掲げると、向かい合う次長のプロスペクターが笑顔でそれに倣う。二人は互いのグラスを重ね、めでたい酒を競うように一気に飲み干した。

 「いやあ、大きな仕事を一つやり遂げた後のお酒はやはり最高ですな」

 まったくだ、とキャゼルヌは応じ、ギリギリまでイベントの事務処理にこき使われたことなど忘れたように次々とシャンパンを飲み干していく。

 「とにかく、これで宇宙の平和が成ったわけだ。アムリッツアで大敗したときはどうなるかと悲観したが、君らナデシコチームにはとても感謝しているよ」

 「いえいえ、ナデシコ単艦ではどうにもなりませんでした。今日の和平は同盟の将帥の方々が努力した結果でしょう」

 「では、お互い様ということで」

 キャゼルヌは、470年物のワインを片手に笑い、書類と経費と経理を敵として共に戦ってきた「僚友」とその香りと味を楽しむ。

 プロスペクターは、ワイングラスを片手に持ったままガラス越しに「ばか騒ぎ」を眺めつつ、ある秘密事項をキャゼルヌに尋ねた。

 「本部長、やはりヤン元帥は和平調印式が終わりましたら退役なさるのですかな?」

 「ああ、本人は辞める気満々だ。後任の若者がいるから、自分は悠々自適の年金生活に入っても誰からも後ろ指を差されないと息巻いていたよ」

 「ほほう、和平冥利に尽きるというわけですな」

 プロスペクターは愉快気に笑ったが、ワイングラスを見つめるキャゼルヌの表情は一ミリグラムの感銘も受けていなかった。

 「と言うがな、和平が成ったからと言って軍事の仕事が減るわけじゃない。どちらかというとこれから軍の再編や各星系に駐留する艦隊やらを引き揚げねばならんのだ。あの、のほほん元帥には最低でもあと一年はがんばってもらわんとな。我々だけ苦労させられるのは不公平というもだ」

 グラスをヤンに見立てたのか、キャゼルヌは指でやや強く弾く。プロスペクターは笑いをこらえつつ、だまってそれを見ていた。

 「その再編が一段落すれば、ヤンのヤツは晴れて念願の年金生活へゴールするだろうよ。ミスマル元帥は最年少にして人類史上初の女性としての制服組ナンバーワンに就任し、いずれの歴史も塗り変えるだろう」

 「まことに光栄なことですな。カイザーがわれらの司令長官を無視しえなかったからこそ、ヤン元帥の知略もさえを魅せたとミンツ総参謀長より伺っております」

 キャゼルヌが同意して頷いた直後、様々な炎の形と色彩の芸術が春の夜空にさき乱れはじめる。

 「どうやら、本格的になってきましたな」

 プロスペクターは、次々と夜空に打ち上げられる花火を眺め、それを飾るように天上から放たれた七色のレーザー光線の先に居る「仕事中の戦友達」にむかってワイングラスを掲げ、ねぎらうようにつぶやいた。

 「お疲れ様ですな」



V


 首都星ハイネセンの衛星軌道上には、イベント用の特殊なレーザー光線照射装置を艦首に取り付けた大小あわせて二万隻の艦艇が二隻の戦艦に乗る女性二人によって整然と統制されていた。


 そのうちの一万隻をたった一人で制御するツインテールの長い髪型をもつ美女は、残りの一万隻を統率する桃色の髪の美少女に通信スクリーン越しに語りかけていた。

 「花火が上がったようですね。ラピス、準備はいいの?」

 「もちろんです、ルリ姉さん。準備万端、いつでもOK!」

 と、ラピス・ラズリが笑顔で応じると、ホシノ・ルリも口元に楽しげな微笑を浮かべて「妹」に指示した。

 「それでは、設定したイベントプログラムに沿ってレーザー照射を開始してください。」

 「了解、お姉さま」

 敬礼してラピスの通信が切れる。それを確認したルリは艦橋にいる二人に言った。

 「ミナトさん、ユキナさん、バックアップお願いしますね」

 「OK! まかせなさい。派手なことは大好きだからね」

 と、ミナトはVサインをする。彼女も平和の訪れを告げるイベントにワクワクしているようだった。その隣では、ヘアバンドをした活発そうな少女も待ちきれないという体で最年少准将の次の指示を待っていた。

 「では始めます。指揮管制掌握システム再起動開始。レーザー発射装置正常起動確認、艦艇状態、リンク率ともにオールグリーン」


 ルリが操る「ナデシコA」のオペレーター席は円形状に改良されており、彼女がシステムを起動すると透明な遮断フィールドが発生する仕組みになっていた。特殊なIFSシートを通して「オモイカネ」と交信を始めるとフィールド内にたくさんのデータースクリーンが出現し、ルリの制御にしたがって左と右回りに激しく回転する。

 「全艦俯角40度艦首設定。左翼部隊プラス20レベル左舷方向に展開・右翼部隊プラス15レベル、下方マイナス15レベルに展開。リンク率異常なし。展開完了まで残り10秒」

 驚くべき速さで艦隊の展開は成されていき、ルリの思い通りに展開は完了する。

 「レーザー照射開始します」

 次の瞬間、数十万本におよぶ七色のイベント用レーザー光線がハイネセンの中心部に向かって一斉に放たれる。夜の色を貫いて降り注いだ光線のシャワーに地上の多くの市民や同盟兵士は驚き、そして歓声を上げた。

 「これはすごいぞ!」

 光と花火の競演が始まった。





 「さあて、こっちもはじめましょう」

 東側の軌道上にある「グランド・ナデシコ」の艦橋では、ラピス・ラズリが特殊なフィールド内でIFSシートにその華奢な肢体を沈めていた。

 ラピスは、彼女が受け持つ一万隻の艦艇がレーザーを照射した際、地平線を横切るように完璧に展開を完了させていた。

 「われながらしびれる速さだわ。ねえアキト、わたしって凄い?」

 ラピスは、傍らで端末を操作するサングラスをかけた青年に話しかける。彼は少女の方向に振り向くと、サングラスを外して穏やかな表情に笑顔をつくった。

 「うん、ラピスは凄いよ。きっとユリカやルリちゃんを越えられると思う。だからしっかり任務を遂行しようね」
 
 「はぁーい、ラピスはしっかり任務を遂行しまーす」

 ちょうど 「第二プログラム開始」の合図が「オモイカネG」より最年少の美少女少佐殿に伝えられる。

 「じゃあ、いっきまーす! レーザー照射開始。目標、ハイネセン上空!」

 またもや目も眩むような数十万本という七色の人工の光が、先のレーザー照射で盛り上がる大勢の市民の頭上を横切って度肝を抜く。

 「すごいぞ! 今度は空が虹で埋め尽くされたようだ。さすがはミスマル元帥、やることがダイナミックだ」

 賞賛とともに新たなどよめきが捲き起こり、ハイネセンの中心部は熱気の度合いを一気に拡げていく。ルリとラピスはプログラムに沿って艦艇を巧みに操り、光の芸術を見事に演出する。


 地上では、これを見計らった総合司会のメグミ・レイナードがハイネセン中心部を流れる河の方向を見るよう全市民に促した。
 
 一筋のレーザー光線を発火点にしたかのように、全長6キロにおよぶ壮麗な仕掛け花火が河の下流から上流を駆け上がり炎の芸術を次々に露にする。

 これで終わらない。

 突如、上空に現れた5機のSGエステバリスが特殊なインクを噴射して空絵や平和のメッセージを七色に染まるキャンバスにアクロバットな操縦で描いていく。

 「ようし、次はゲキガンガーだ。いくぜ、リョーコちゃん!」

 「おう! ポプラン隊長。ヒカル、イズミ、イツキ、どんどんいくぜ!」

 「了解! ×3」

 五機のSGエステバリスが、完璧な呼吸とともに同盟でも人気急上昇のゲキガンガーを夜空のキャンバスに描いていく。

 仕上げはもちろん「ゲキガンビーム」であった。

 そんな最中、戦友たちのはしゃぎようを地上から眺めていたイワン・コーネフは、新たに購入したクロスワードパズルを解きながら達観したように呟いていた。

 「派手だな……」




 「うんうん、順調、順調だね」

 数千光年離れたある宙域では、白地と金色のラインの配されたタイトな軍服を身につけた優美な宇宙艦隊司令長官が工作艦のメインスクリーンに映るハイネセンの様子に満足げに頷いていた。

 ヤンより全てをまかされたミスマル・ユリカは、だいたいの準備を整えると後はイネス・フレサンジュ実行副委員長に託し、ハイネセンの模様を全銀河に配信すべく、工作艦三隻を自ら率いて巨大な中継用通信衛星を運用していたのである。

 「うん、われながら上出来、上出来! きっとフェザーンにいるヤン元帥も喜んでいるに違いないわ」

 残念だが違っていた。

 そのヤン・ウェンリーは、フェザーンの調印式会場にて、配信され首都星の「ばか騒ぎ」を「やられたな」と言いたげな表情で見ていた。

 「まさかたったの二週間でこれほどのことをやってのけるなんて…キャゼルヌ先輩もポプランも薔薇の騎士連隊の連中もいくらなんでも張り切りすぎだろう」

 ヤンは舌打ちしたが、これは「和平イベント実行委員会」のメンバーに向けたものではなく、彼らの実力を測り間違えた己に向けたものだった。

 ヤンの近くの席では、彼の随員として「委員会」に落選した将帥二人が悔しそうに配信された映像を見やっていた。一人はハイネセン防衛司令官ワルター・フォン・シェーンコップ大将。いま一人は次期宇宙艦隊司令長官職が確実視されている「自称青年革命家」ことダスティー・アッテンボロー大将であった。

 「さすがはミスマル元帥、大胆にして華麗であるが無駄のない運用だ。そうおもわないか、ヤン元帥」

 傍らのカイザーラインハルトがやや興奮気味にヤンに話しかける。美貌の皇帝は通常なら派手ごとは好まないが、ユリカの手腕を高く評価しているだけに偏見も混ざるのか、正直なくらいの圧倒的なパワーで運用される「記念イベント」に賞賛を惜しまない。

 「はあ、まあ元気なことで」

 いささかずれた感想を口にしたヤン・ウェンリーは、すぐその後にカイザーから思わぬことを告げられていた。



W

 「ミスマル元帥、ハイネセンからウリバタケさんより通信が入っています」

 薄く淹れた紅茶色の髪をなびかせ、カリンことカーテローゼ・フォン・クロイツェル大尉がユリカに知らせる。

 「ウリバタケさんからですか?」

 なんだろう、と思いつつ、ユリカは回線を転送するようカリンに頼む。

 「よう、われらがアイドル元帥殿、遠路おつかれさん」

 通信スクリーンに映ったのは、四角い眼鏡を掛け、浅黒い肌をした、なぜかムダに気合の入った同盟軍技術開発局本部長だった。

 「どうしましたウリバタケさん、何か問題でも起こりましたか?」

 ユリカの問いに、ウリバタケは楽しそうな顔をして言った。

 「いや、そういうわけじゃあねえんだが、我らの一番の出世頭たる元帥に一言ねぎらいの挨拶をと思ってね」

 「何をおっしゃいますか、ウリバタケさん。ウリバタケさんこそ出世頭でしょう。それに急な要請にもかかわらずイベント用レーザー装置のアタッチメントや花火の現場指揮とか本当にありがとうございます。」

 ユリカは頭を下げる。ヤンより依頼を受け4時間で計画を立てた後、すぐにウリバタケに案を持ち込んだのだが、彼はいやな顔一つせず張り切って設計図を描き製作に当たってくれたのだった。

 その代わり、条件として自分を「実行委員会」のメンバーに加えることと、花火打ち上げの現場指揮総監督に任命することだった。

 「花火ってのはでっかい夢を打ち上げるんだよ! それは男の夢そのものなのさ。俺がやらずに誰がやるんだ!」

 という理由だった。ウリバタケは鼻息も荒く、ゴーと・ホーリー率いるナデシコチームやカスパー・リンツ率いる薔薇の騎士連隊(ローゼンリッター)の協力を得て、計画に従って花火の設置も担当したのだった。

 ちなみに、「和平イベント」に携わったスタッフは延べ20000人に及んでいた。

 「…にしても元帥、さすがというか3日間で200万発の花火を打ち上げるなんてまたまた豪快なことをやる気になったよなぁ…恐れいったぜ。まさに今回のイベントはあんたにしかできないだろうぜ」

 照れるユリカだったが、ウリバタケの次の言葉に全身を凍りつかせた。

 「残りは1800万発もあっけどよ、あんたのことだ、きっと宇宙規模のド派手な事に使うんだろうよ。保管費用とかも馬鹿にならないのに懐具合も宇宙規模だぜ。大いに期待しているぜ、ミスマル元帥殿!」

 と衝撃的な告白を残して通信が切れる。取繕う暇もない。

 ユリカの顔の前をいるはずのない黒い鳥が横切った。


 ちょ、ちょとぉぉぉ!!! 残り1800万発ってどういうこと? じゃあ、全部で2000万発も花火をつくったってことなのぉ?


 かろうじて声に出すことはしなかったが、リアクションは派手だった。幸いにも艦橋にいるオペレーター達はハイネセンの様子に見入っており、ユリカの異変に気がついた者はいなかった。

 2000万発の花火!

 なにそれ? 私が頼んだのは200万発のはずだけど……

 ユリカは、急いで指揮シート周辺を遮断フィールドで覆い、直通の個別回線を使ってハイネセンのキャゼルヌを呼び出した。

 「よう、ミスマル元帥。急にどうしたんだ?」

 キャゼルヌの顔は多少赤い。いい具合にほろ酔いのようだ。肩を組んでいるプロスペクターも同じように赤みを帯びている。ユリカは苦笑いしつつ、事務処理のプロに花火の発注数をさりげなく尋ねた。

 キャゼルヌは書類を片手に、

 「ああ、ええと…2000万発だけど。ほら、この通り。苦労したんだぞ、バーラト星系にあるすべての花火プラントのラインをフル稼働させたり、さらに周辺星系から譲ってもらったり、そりゃあ……」

 プツンと通信が切れた。

 いや、ユリカが切った。

 「ちょっとぉー、書いちゃってたよ…ものすごくまずくない?」

 完全に計算外の出来事だった。

 3日間で使用する花火は200万発だった。調印式のある当日が一番盛り上がると予想して80万発、2日目は70万発、飽きの見えてくる3日目は50万発で計算していたのだ。これらを5箇所の打ち上げ場所から運用することになっていた。

 その通りに計画は順調に推移している……

 「はずだったのにぃ! キャゼルヌさんもプロスペクターさんもおかしいと思ってよ!」

 後日の事情聴取で判明したことだが、「後方勤務トリオ」はユリカの要求をまったく疑っていなかったという。なぜなら、

 「一万隻の無人艦隊をおとりに使って派手に爆破したり、巨大な要塞を邪魔だといって粉々にしたり、あの女性ならやりかねない」

 という主張だった。妙に納得してしまった「ヤン調査官」も頭をかいて笑うしかなかったとか……

 「うーん、一日100万発打ち上げても20日もかかる計算だよ。80万発だって前代未聞なのに…」

 本気であと一日延長して3日で終わらせるとなると、一日700万発の花火を打ち上げればよいのだが、ユリカは精神的常識と物理的正常度をかなぐり捨てたわけでもないので考え直すことにした。

 今ひとつ、ユリカが気になっていたのは「保管費用とかばかにならない」というウリバタケの言葉だった。残り1800万発の花火……もちろん危険物扱いであり、厳重なとり扱いとそれなりの保管用施設が必要になるのは当然だった。あまり考えたくないのだが、キャゼルヌやプロスペクターはいかほどの期間を想定して保管費用を計上しているのだろうか?


 心配になったユリカは再び直通通信でキャゼルヌを呼んだが、「家族サービス中」というメッセージに慌て、急遽プロスペクターに尋ね、さらに血の気を引くことになった。

 「やばいよぉー、今週中に残りの花火をどうにかしないと私に費用が回って来ちゃうよ」

 嘆くというよりは「泣く」に近い状態のユリカの下に、専用回線でヤンから「微力な助け舟」が伝えられた。もちろんヤンが事情を知るのは後日であり、通信はまったくの偶然だった。
 
 「やあ、ミスマル元帥、おつかれさま。週末までにそっちに戻ると思うんだけど、カイザーもハイネセンに来ることになったので、なにか適当に歓迎の準備を頼むよ」

 ユリカの中でなにかが弾けた。

 よっしゃあ!! これで花火を全部放出できるわ!

 ユリカは、良心も常識もかなぐり捨てて狂喜したが、実現していれば人類史上初の

「テロとしか思えないはた迷惑な打ち上げ花火」

 と後世に笑いを以って伝えられたであろう。

 しかし、破壊的にはならず、物理レベルというより倫理レベルで実現することはなかった。カイザーを迎えるために300万発の花火を打ち上げるに留まり、なお「1500万発の玉の芸術」が管理施設に残り、借金の数値でミスマル・ユリカを押しつぶすはずであった。

 そうならなかったのはカイザーの案により、残りの花火を希望する星系や自治体に無償で分配することになったからである。まことに幸運なことに、「アイドル元帥」は「太っ腹の美人元帥」とあらたな異名を得て「珍事の主犯」より外れ、公人としての危機を脱することになる。


 こうして後世でいう

 「ミスマル元帥の2000万発花火製造騒動」

 は、一応の収束を迎えたのだった。




 ──追伸──

 後日、ミスマル元帥はキャゼルヌ、プロスペクターとともに、ヤンより「罰」として希望する星系に「花火の配達」を命じられることになる。



 「ばかばっか」の歴史がまたまた1ページ。


 終わり

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 あとがき

 どうも、空乃涼です。今回はシルフェニアの「2000万ヒット記念」に贈る為の二次小説を書きました。ある意味、理想と妄想が支配した作品ですが、いま連載? している本編のクロス作品とは違うものとしてお読みくださいw
 
 わりと長文になってしまいました。2000万ヒット記念ですからご容赦くださいませ。
流れ的におかしなところがあるかもしれません(謝)

 それでは、感想などいただけますと、作者もとても励みになります。外伝とか書くかも。

2008年7月20日 涼

誤字脱字、文の修正をしました。若干の追記をしました。
2009年4月21──涼──

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