私は格納庫にいます
格納庫では、ちょっと前に騒動が起こってました
ポプラン少佐がウリバタケさんに怒られながら
少佐専用のエステバリスを強制メンテナンスしていたのです
「まったく、無茶しすぎなんだよ!」
ウリバタケさんはけっこうカンカンでした
ポプラン少佐は渋々従っているようでした
そんな喧騒は今は過ぎ去り、ポプラン少佐は一旦ヒューべリオンに戻っていきました
私は自分のエステバリスを見上げます。黄色に塗装された愛機です
初陣からはや3年が経過しました
戦場は地球周辺から、信じられない経過を経て
いつの間にか銀河規模に及んでいました
そんな途方もない虚空をエステバリスで駆け巡っているのです
戦場は拡大し、戦力は増大し、敵の艦載機は大型で超高速の機動力を誇ります
エステバリは通用するの? 不安はありました。けれど私たちの誇る機動兵器は
銀河規模の戦いの中、その完成されたポテンシャルをさらに高めることで
兵器として十分通用する性能を発揮したのです
そして今は、次の戦場に向け、その機体を休めています
果たして次は首都星か第11艦隊か、後方の鎮圧か……
私はもともと軍人です。他のみなさんは葛藤があったようですが
私は軍人としての覚悟をもって戦場に身を置いています
それが味方と戦うことになっても、責務を全うするだけ……
何か重大なことが発生したようです
艦内スピーカーから、艦橋に集合がかかりました
私は去り際、愛機に語りかけました
「また、きますね」
──イツキ・カザマ──
闇が深くなる夜明けの前に
機動戦艦ナデシコ×銀河英雄伝説
第十二章(中編・其の二)
『賢者の消沈/勇者の結末』
T
プロスペクターが、ラピス・ラズリとシラトリ・ユキナを伴って再び要塞事務総監室に戻ってきたのは、およそ30分後だった。彼が協力を求めた電脳世界に強いラピスは当然として、本来なら出番のないユキナが同行しているのは、正義感の強い少女が危機的な状況を放って置けるはずがないからである。
「ゴートくん、何か動きはありましたか?」
プロスペクターは、入室するなり出迎えてくれた警備主任に変化がなかったか
訊いた。
「ついさきほどですが、変化がありました」
と言ってゴートは端末をプロスペクターに向ける。そこには、司令部に通じる非常用通路から台車に載せた何かを運び込む工作員たち数名が映っていた。
「何でしょうかねぇ?」
副事務総監が首を捻ると、ショートカットの明朗そうな少女が脇から端末を覗き込む。傍らの
黄金色の瞳を持つ愛らしい容姿の少女はつまらなそうな顔をしていた。
「まさか、爆弾とか?」
ユキナの発言に、その場の全員が一瞬にして凍りついてしまった。
しかし、プロスペクターが冷静にその可能性を否定した。もともと要塞を粉々にするなら入港した時点で船ごと爆破するだろうし、そもそも司令部ではなく動力部に爆弾を仕掛けるはずであると。
「それに私としては一般市民を巻き添えにするまでとは考えたくないですしねぇ……」
では何なのか? ということになるが、疑問はすぐに解決した。映像を見たゴートの部下の一人が教えてくれたのだ。
「食糧だというのか?」
「はっ。非常用通路の先には緊急時に備えて食糧や飲料水の備蓄があります。その運ばれている密閉ケースはそれらを保管しているものです」
なるほど。映像を拡大して側面に記載されている文字を解析すると
「stockpiling food」とあった。
これにはプロスペクターもうっかりだった。
「となると、単純に考えられることは司令部に籠城ということでしょうかねぇ……」
ゴートは専門家として疑問を口にした。
「しかし、この状況で籠城と言うのはいささか意味がないと思われますが?」
「そこなんですよねぇ。私もここに戻ってくるまでにいろいろと考え直していたのですが、彼らが要塞司令部の占拠と言う単純な目的だけでここまでするのかと思いまして。イゼルローンを駆け引きに使うにも、彼らは完全に掌握できていませんし……」
「それは駐留艦隊に対しての後方への脅威を煽るためとは考えられませんか?」
「ええ、それはもちろんだと思われ……」
そこまで言ってからプロスペクターは慌てて端末を操作し始め、イゼルローンからとある場所に向けて超光速通信が25分前に発信されている事実を確認して表情を険しくした。
「外部に向けて発信されてましたねぇ……」
「やはり駐留艦隊を揺さぶるためですか?」
いいえ、とプロスペクターは頭を振った。
「通信はエル・ファシル星系方面に向けて発信されていました。内容まではわかりませんが……」
しかし、その通信が何を意味するのか、プロスペクターという男には十分推理することができていた。彼は椅子から立ち上がった。その表情には焦りさえ窺える。
「ゴートくん、みなさん。どうやら私が予想している以上に解決を早める必要があるようです」
プロスペクターがその理由を説明すると、室内の温度が瞬く間に低下したように思われた。否、敵の本気度を疑っているようでもあった。
しばらく絶句した状態から、ようやくゴートが口を開いた。
「ミスター、そういうことならすぐにでも作戦を開始しましょう。我々はどうすれば?」
「そうですねぇ……」
そのとき、ゴートの部下の一人が別の下士官を伴って室内に飛び込んできた。
「
大変です! 中枢CPフロアにて異変が発生した模様です」
「えっ!?」
中身はこうだ。警備フロアに司令部から指示があった。先日拘束した工作員が逃亡を図り、周辺に潜伏中している可能性が高く、憲兵隊と協力して身柄を拘束せよというものだった。警備の責任者は半分ほどの守備隊を送り出したのだが、その直後に何者かがフロアに侵入し、次にフロアは隔壁で閉鎖されてしまったという。
応援に行くはずだった兵士たちは司令部に3度も通報したが繋がらず、4度目に繋がったのだが待機命令に不審を抱き、一人が直接、司令部に赴く途中で警戒中のゴートの部下と遭遇したのだった。
立て続けの非常事態に一気に動揺が広がった。工作員は司令部の15名だけのはず。まさか内部に協力者がいるというのか!?
プロスペクターは、思わず天井を仰いでしまう。
「いけませんねぇ。私としたことがもう一つ重大な事実を見逃していました」
「と言いますと?」
「ゴートくん。15名のほかにも5名が憲兵隊に拘束されてます。おそらく司令部から留置所の鍵が開けられたに違いありません。
指示の通りですよ」
そうなると憲兵隊は何をしていたのか! と言うことになるが答えは簡単だった。見張りは虚を突かれて逆に留置所にぶち込まれ、偽の指令で詰め所に集められた憲兵たちは室内をロックされたあげくに周囲を隔壁で取り囲まれて隔離されてしまっていたのだ。
手動ではまず開けられないので、彼らはしばらくそのままだろう。
「完全に先手を打たれました。守備隊は帝国軍時代より手薄です。彼ら5名が
手練であるなら全滅もありえます」
最初に5人が捕まったのも、もしかしたらこれを狙った作戦だったかもしれなのだ。実行部隊を目的別に切り離すことで、司令部占拠が成功した場合には速やかに中枢CPフロア制圧を目論んでいたのだろう。
とすると、オフィスであっさり捕まったのも合点がいく。
(おやおや、一体彼らはどこまで想定してこの作戦を立案したんですか!?)
プロスペクターは、工作員たちに対して心の油断があったことを認識し、強く後悔した。
(反省している場合ではないのですが……)
プロスペクターは、ラピス・ラズリを中枢CPフロア連れて行き、全機能を掌握させるつもりでいた。もしそこも占拠されたとなれば解決する時間が長引き、対応を誤れば最悪クーデター側の増援が間に合ってしまう事態になりかねない。
「ゴートくん、あなたは増員を引き連れ、残った守備隊のかたたちと合流し、彼らを指揮統率後、しばらく中枢CPに続く通路近くで待機願います」
ゴートは、滅多にないプロスペクターの気迫を感じ、自然と気を引き締める。
「了解いたしました。それで警報を発令しますか?」
非常に難しい判断だ。あまり
公にしすぎると混乱を招き、かといって警戒しないと相手に付け入る隙を更に与えることになってしまう。
「限定的にしましょう」
それがプロスペクターの判断だった。状況をむやみに切迫させる必要はない。むしろ彼らが時間稼ぎをするために起こした限定的な有事を利用するつもりでいた。
工作員たちが騒ぎ立てしないならば、こちらはそれを逆手にとって密かに奪還作戦を進めようというのだ。まだ指揮系統に不安が残るものの、キャゼルヌなら事後承諾で済ましてくれるだろう。
プロスペクターは追加の指示をした。
「そうそう、ゴートくん。あなたは守備隊の方たちと合流をはたしたら、中枢CPフロア周辺の通路を緊急メンテナンスとして封鎖すること。そして待機としてください」
「了解しましたが、ミスターは?」
「私は、うちの提督のオフィスに彼女たちを連れていきます」
プロスペクターが狙っているのは極めて困難な過程ではない。慎重に行うべき手順が一つ増えてしまっただけである。
そのためには、まず中枢CPを奪還しなければならないが、直接アクセス可能な端末は限られていた。
そう、ヤンとユリカのオフィスだ。イゼルローンと駐留艦隊を統べる二人のオフィスには司令部や中枢CPにアクセス可能な専用回線が存在する。いわゆるリスク回避のために分散されているわけだが、個人によっては扱いきれないのも事実である。もしかしたらヤンは存在自体知らないかもしれないし、よほどの事がなければ使用することはないはずだった。
「その事態が起こってしまいました。他の端末からも出来ないとは言えませんが時間を短縮したい」
ただ、「利用」するにしても副司令官の専用端末を簡単に使えるわけではない。要は解除コードが必要になるわけだが……
プロスペクターは、軽く笑みを浮かべて言った。
「提督に教えていただいていますのでご安心を」
思わず
瞬きを繰り返してしまったゴートだが、彼は納得がいっていた。ユリカは緊急事態が発生した場合に備え、彼女の「代理」となっているプロスペクターに解除コードを教えていたと言うだけであろう。
「ねぇねぇ、早く行こうよ」
そういってプロスペクターの腕を引っ張ったのはユキナだった。いつも元気一杯の健康美少女だが、このときばかりは表情に緊張と不安と決意が複雑に混ざり合っていた。
プロスペクターは、安心させるように少女の頭を一撫でし、室内に残留する部下に指示を与へ、作戦開始の口火を切った。
「さて、夕食までにはなんとか解決するといたしましょうか」
U
中枢CPフロアを占拠したのは、プロスペクターの推察どおり正体を見破られて拘束されていた五名の工作員だった。彼らにとって半減した守備隊を制圧した後、技術士官や下士官で構成されるフロアを掌握するなど朝飯前であった。
とはいえ、むこうも全くの無抵抗とはいかず、銃で反撃した二名を射殺、五名が負傷。彼らは一名の軽傷者を出すにとどまった。
降伏した兵士を縛り上げた後、リーダー格の工作員は作戦成功をハンニバルに報告した。
『ご苦労だった。少佐、引き続き封鎖をたのむぞ』
「はっ! それでイゼルローンの動きはいかがでしょうか?」
『そうだな、まだ本格的ではないな』
ハンニバルたちが命令系統を押さえたために異変に気づいた者が存在したとしても、どう事態を収拾するべきか、きっと右往左往していることだろう。その証拠に要塞司令部のモニターに映る各フロアに目立った動きはない。
つい数10分前とは異なり、暫定的に司令部としての機能を復活させている。散発的に入ってくる問い合わせには対応していた。これはイゼルローン要塞が帝国への侵攻の拠点となっていた当時の記録や、グリーンヒル大将から提供されたこれまでの運用報告書を参考にしている。もちろん、彼らの対応の能力もたいしたものなのだが……
とはいえ限界はある。中枢CPに通じるフロアを守る守備隊を出し抜いてしまった以上、彼らが何らかのリアクションを加えてくることは明白だった。司令部宛に3度通報があり、4度目は返信したが、きっとその待機命令を怪しんでいることだろう。
『ハンニバル大佐。ということは、下手をすると予想より早く不審が拡大してしまうのではありませんか?』
部下が抱く懸念を放っておくほどハンニバルは無策ではなかった。
「妙手はある。まあ、任せておけ」
◆◆◆
プロスペクターとユキナ、ラピス・ラズリ一行がユリカのオフィスに繋がる通路に差し掛かったとき、突然スピーカーから警報が鳴り響き、直後に全将兵に対して命令が発せられた。
『代理のアレックス・キャゼルヌです。哨戒艦からエル・ファシル管区警備艦隊に不穏な動きアリとの情報を受け、これより三交代による第一級警戒態勢を発令します。繰り返します。第一級警戒態勢発令、各部隊部署は速やかに警戒態勢をとってください』
これを聞いたユキナは、ラピスを背負いながら早歩きをするプロスペクターに疑問の声を向けた。
「プロスさん、一体どういうことかな?」
明朗闊達な美少女の疑問は二つあった。
一つ なぜキャゼルヌが命令を出したのか
一つ どうして工作員たちはわざわざ自分たちが不利のなるような指令をだしたのか?
──以上である。
しかし、プロスペクターは神妙な顔つきのまますぐには答えなかった。彼がユキナの疑問に答えたのは、ユリカのオフィスに足を踏み入れ、ラピスを背中から下ろし「歳はとりたくないですねぇ……」とぼやいてからである。
「ユキナさん。私はある程度自分の才覚には自信を持っていますが、やはりここでは唸らされることばかりですよ」
それはきっとラインハルト・フォン・ローエングラムであり、ヤン・ウェンリーであり、シドニー・シトレであって、
「工作員さんのこと?」
そうです、とプロスペクターは苦笑交じりに答え、ラピスのために解除コードを入力して端末を使用可能にすると、少女にいくつかのお願いをしてユキナに振り返った。
「まず、人質になっているはずのキャゼルヌ少将がなぜ命令を発したのかという疑問ですが……」
あれはキャゼルヌの声であってそうではないだろう。工作員側が音声を作成して流しているか、実際に声帯を変換する器機を身につけた誰かがしゃべっているにちがいない。
「でも少将が脅されて話しているってこともあるわけよね?」
ユキナの言うことも一理あるが、この場合、プロスペクターは否定した。少女は想像できないとばかりに首を
傾げる。
副事務総監は自信あり気にちょび髭をひとなでした。
「ちゃんと理由はありますよ」
キャゼルヌとプロスペクターがやりとりした時と違って事態は刻一刻と変化している。現在の状況に最も危機感を抱いているのは他ならぬキャゼルヌ自身だろう。彼の頭の中ではどうにかして緊急事態を明確に外部に知らせようと思案をめぐらせているはずだ。
「キャゼルヌ少将のような責任感の強いめげない方なら、先ほどのような放送をする機会が巡ってきたとしたら、
唯々諾々として従うはずがありませんからね」
おそらく、承諾したフリをして実際には己の身を危険にさらすリスクを犯しても要塞司令部で起きている出来事をマイクの前で訴えるに違いない。
「じゃあ、工作員の人たちはそれを知っていて、プロスさんの言う別の方法で命令を出しているってこと?」
「ま、そうなりますねぇ……」
正確には、工作員側の指揮官が人物観察能力にも長けていると言うべきだろう。他人の心理を把握できる人物が敵にいるとは厄介なことである。
「そしてもう一つの疑問ですが……」
それこそがプロスペクターが最も唸ったことだった。
「一見、要塞全体に警戒態勢を発令したことは整合性を欠いたように思われますが、彼らが少しでも時間を稼ぎたいと言うならば非常に理にかなっていることなのです」
思いっきりユキナは首を
捻った。すでに彼女の次元からははるか遠くにある事象らしい。プロスペクターはわかりやすく説明した。
「つまり、徐々に広まるはずだった疑惑や不審を命令一つで収拾してしまったということですよ」
あっ、とユキナは声を上げた。司令部にて予想外の事態が起こったと認識しているのはわずか20数名にも満たないはずだ。彼らの目的から騒動を助長しないことが最善の策である。
とはいえ、完全に秘匿し続けるのも無理な話である。司令部への問い合わせや連絡、勤務交代、何よりも中枢CP奪取のためにひと騒動起こす羽目になっている。放っておけばもっと疑惑と不審は拡大し、最終的に増援が駆けつけるまでに彼らは少数による圧倒的不利な守勢に立たされ、ついには奪還を許してしまうだろう。
それをたった一つの命令で一気に統制してしまったわけである。放置しておくよりはるかに時間稼ぎとなるだろう。命令によって司令部への入室も制限できるし、命令系統が「仮」にでも機能していれば、なおのこと効果は絶大だ。
上層部の命令に忠実であれ、という軍人のウィークポイントを巧みに突いた見事な対応と言わざるを得ない。
「なんとなくおかしいと感じている兵士たちも、これで任務に集中してしまうでしょうしねぇ……」
しかし、最もプロスペクターが恐れ入ったのは、警戒態勢を発令した理由が「事実である」という点だった。このイゼルローン要塞を完全制圧すべく、エル・ファシルから警備艦隊が向かっていることは現在進行形なのだから。
哨戒艦からの報告は、その事実をより絶対的な情報として将兵たちに受け止められ、集団心理も働いて迷うことなく軍務を忠実に果たすだろう。
完全占領される直前まで……
ユキナは言葉もなかった。というより現実味を欠いた。プロスペクターの言う内容を半分しか理解できなかったからである。どうにか工作員たちの行ったことが策略にも長けた男も絶賛することであると理解はした。
「でもプロスさんも向こうの意図を見破ったわけですよね? それってさすがだと思いますけど」
ユキナの励ましに、プロスペクターは謙遜抜きで大きく肩をすくめた。
「私が彼らの意図を察したのは命令があった最中のことですよ。事前に読めていたらもっとやりようはありましたが、私もまだまだダメですねぇ……」
言ってからプロスペクターは頭を振った。読めていたとしても防ぐ手段はなかった。司令部を押さえられている以上、「あれは偽の命令です」と要塞中にはっきりと理解させる事もできない。
いや、可能だったかもしれないが、逆に混乱を招く可能性もあった。
「結局は後手に回ざるを得なかったというわけですが……」
急にプロスペクターの目の色が変わった。憂いたというよりも日常彼がみせる静かな闘志が浮かび上がっていた。
「しかし、彼らにとって誤算だったのは──」
「私たちがいたことよ!」
正義のヒーローが名乗りを上げるがごとく、ユキナの凛とした声がユリカのオフィスに響き渡った。その勇ましくも頼もしい姿は大昔のカリスマ美少女アニメキャラのようである。
「そ、そうですね……」
決め台詞を奪われてしまった副事務総監は残念がる暇もなく、彼に注がれる強烈な視線を感じ取っていた。
「あっ……」
男の視線の先には、黄金色の瞳を持つ愛らしい容姿の少女がふくれっ面でプロスペクターを睨みつけていた。
「これはこれは失礼しました。もしかして終わりましたか?」
プロスペクターが心からすまなそうに尋ねると、ラピス・ラズリはふてくされたようにちょっとだけ顔を背けた。
「ずっと前に終わってた」
少女にはあと2、3回ほどハッキングをがんばってもらわないといけないのだが、いきなり機嫌を損ねてしまったことになる。
しかし、ユキナが絶妙なフォローを入れてくれたので、ご機嫌はすぐに直る。プロスペクターがイゼルローンで話題のスイーツをご馳走するという、いささかありふれた手段ではあったが……
それにしても、とプロスペクターが感心するのは、ラピス・ラズリのIFS強化体質者としての能力だ。彼がユキナと会話を交わしていたのは3分にも満たなかったはずだ。実際にはIFSを通していないとはいえ、中枢CPフロアの警備プログラムの一部だけだとしても、実質1分もかからずに掌握してしまったことは驚異的といわざるを得ない。
それも相手に全く気づかれずに……
(ルリさんとラピスさんの能力を公にしないことは彼女たちを守る上でも正解ですが……)
この際、知られていないことが最大の切り札となるわけである。
「ラピスちゃん、すみませんがそのまま待機願いますね」
そうお願いすると、プロスペクターはコミュニケを操作してゴートを呼びだす。3秒後、いかにも堅物そうな男の顔がやや大きめの二次元スクリーンに映った。
「ゴートくん、たいへんお待たせいたしました。準備の方はよろしいですかな?」
『はっ、準備整っております。内部の情報をいただければすぐにでも突入可能です』
「さすがですね。ただ、その前にちょっとやっていただき事があるのですよ。よろしいでしょうか?」
ゴートは、わずかに
怪訝な顔をした。
『はっ、何なりとどうぞ』
プロスペクターは説明を始める。彼もゴートも可能であれば穏便に事を解決したかったのだが、催眠ガスを流したりという等の方法が取れない以上、実力をもって奪取するしかない。
であるから今度はこちらが向こうを欺く必要があった。
『──了解しました。おまかせください』
「頼みます。成功次第、中枢CPフロアの情報を送ります」
『はっ、それでは』
ゴートの通信スクリーンが消えると、プロスペクターはユキナとラピスに視線を走らせてニッコリと笑った。
「さて、作戦を始めましょう」
V
ほぼ時を並行し、騒ぎの拡大を防いだハンニバルが部下に細かい指示を終えたとき、アレックス・キャゼルヌが再び声を掛けてきた。
「何のようかな?」
ハンニバルが応じると、キャゼルヌは手錠の具合が気になるのか、やや両手を振り上げる。
「緩めてほしいというなら断るぞ。縛っているわけでもないし、俺にそっちの趣味はないからな」
ハンニバルのグレーの瞳が冷ややかにキャゼルヌを見据える。司令官代理はわずかに苦笑した。
「もちろん小官もだ。用があるのは手錠云々じゃない。もっと別のことだ」
キャゼルヌが問いたかったことは、ハンニバルがなぜクーデター側に組したのかという理由だった。
「そんな事を知ってどうするつもりだ?」
「どうもしない。ただ知りたい。貴官ほどの男が軍事クーデターがもたらすその後の影響がわからないわけがない。決死の任務といい、故国の未来を憂いたという単純な動機だけじゃない気がしたのさ」
二人の非凡な男の視線が数秒間ぶつかりあった。
視線を先に外したのは意外にもハンニバルだった。
「ふん、意外に単純な動機かも知れんぞ」
その台詞こそ、そうでないことを暗示していた。大佐はキャゼルヌに背中を向けかけたが、再度振り返って逆に問う。
「キャゼルヌ少将、貴官こそなぜ同盟政府の肩をもつ?」
「小官が答えたら貴官は答えてくれるのか?」
「本音ならばな」
相手は乗ってきた。ハンニバルの立場なら無視してもいいはずだが、そうしなかったのは自分たちの主張を聞いてほしいという心理作用に他ならない。そこに一人の男が不可能ともいえる任務にあえて挑んだ真実が隠されているはずなのだ。
キャゼルヌは、似たような男を一人だけ知っている。残念ながら年季と仕事に対するまじめさには数倍以上の開きがあるものの……
「そうだな。しいて言えば女房や子供を悲しませたくないからかな」
ハンニバル大佐の灰色がかった眉が弓なりになった。キャゼルヌは一瞬焦ってしまったが、非凡な工作員は虚を突かれたように笑い出した。
「なるほど。家族思いと評判の貴官らしい本音の一つだな」
どうやら任務のために事前学習してきているらしい。キャゼルヌとしては「女房の尻に敷かれている」などという不本意な噂話まで切り出されないか心配だった。
「それだけか?」
冷たい声だった。噂話のお披露目は杞憂に終わったが、ハンニバル大佐という隠れた逸材の心の本音を引き出すには説得不足であることをキャゼルヌ自身も十分承知していた。
もちろん「それだけ」ではないからだ。
ここからはやや危険を伴う発言となってしまうものの、本音を引き出すには本音で語らねばならない。
「言っておくが、小官は同盟政府──我ら元首殿の肩を持っているわけじゃない。そこのところだけは勘違いしないでくれ」
「ほほう」
「貴官やグリーンヒル大将が国家の未来を憂いたのは当然のことだと思う。アムリッツァやそれ以前で苦労させられたのは私も同じだからな。しかし──」
しかし、その元凶となったトリューニヒトをはじめとする腐敗した政治家や軍人を裁くのに
「武力」という強硬な手段を用いて成功したとしても、その後スムーズに再度民政に移行するという保証がどこにもない。
「貴官やグリーンヒル大将ならあっさりと身を引くかもしれないが、物分りのいい軍人たちばかりじゃないだろう? 彼らが一度手に入れた権力をやすやすと市民に渡そうとするかな?」
それこそヤン・ウェンリーが評したように、軍事政権と専制国家の救いようのない戦争となってしまうことだろう。
ハンニバル大佐は黙って聞いている。
「欠点だらけの体制であることは重々承知している。だからと言って武力で体制を変えても結局は同じことが繰り返されるだけだ。小官もどこかの誰かさんと同じで市民の手による民主的な改革というものを信じているのさ」
キャゼルヌは、一息置いてからもう一つ付け加えた。
「それに、娘たちにどうしてあのときパパは共和制を裏切ったの?≠ネどと言われるのはまっぴらごめんなんだよ」
「なるほどな……」
妙に納得したような響きがハンニバルの声質に表れていた。いや、彼自身が語るために納得しようとしたのかもしれない。
グレーの瞳がキャゼルヌを再び見据えた。
「少将の言っていることは、おそらく正しい」
意外な返答だった。しかし、とハンニバル。
「しかし、市民の手による体制の変革を待っていられるほど同盟の体力は続かない。いたるところで破錠をきたしつつある。経済などはその最もたる一つだ」
銀河帝国に侵略される以前に同盟が崩壊する、と言うのがハンニバルの意見だ。
これは、よほど世間と経済に疎い者でなければ予想可能な「結末」であり、独創性があるわけではないが、客観的であるがゆえに万人に対して説得力を持つ。
「貴官は同盟の弱体化と崩壊を早く食い止めたい、そういうわけか?」
数瞬だけ両者の間に沈黙が降りる。ハンニバルが先に口を開いた。
「キャゼルヌ少将。貴官は後方を預かる身として特に予算や物資、人材についてよく知っていると思う。私もアスターテ直後まで長くフェザーンで諜報活動に従事していたから故国の置かれた状況を第三者視点から冷静に見ることができたのだよ」
経済の次に深刻なのは、人的資源の枯渇だ。軍隊に人材が搾取され続けた結果、同盟では熟練者が激減し、その影響もあって多方面の分野において日々事故や故障が相次いでいる。ヤンが以前、交通管制システムの不具合により、首都で渋滞に巻き込まれたことなどはその典型的な一例だった。
「当初は、ごく単純な動機だった。あの事故が起こるまではな」
「なに?」
その事故とは、クブルスリー大将暗殺未遂事件後に起こった地上基地爆発事故のことだった。原因は古くなった惑星間ミサイルの絶縁不良であったが、痛ましかったのは即死した犠牲者の整備兵14人全員がまだ十代の若者だったということだ。
「……その中には俺の息子もいた」
あまりにも衝撃的な告白だった。キャゼルヌは絶句してしまう。
「軍隊を糾弾したジェシカ・エドワーズ議員の言ったことは正しい。未来を担う少年たちを戦争の犠牲にするような社会などあってはならない。繰り返される悲劇を止めるためにも現在の腐敗した政治体制と軍人どもは一掃しなければならないんだ」
「大佐…………」
キャゼルヌは理解した。ハンニバル大佐がこれほど短期で作戦を練り、困難な任務をやってのけた最大の原動力が「復讐」であったことだ。手段と行動は異なるが、ジェシカ・エドワーズ議員が反戦派として活動するきっかけに似ている。社会体制の不備不当が引き起こした肉親の死が、一人の男の眠れる獅子の魂を呼び起こしてしまったのだろう。
「話は終わりだ」
ハンニバルは、今度こそキャゼルヌに背を向けた。
W
中枢CPフロアを占拠している同志たちからの定時連絡から約40分後、要塞司令部に籠もるハンニバルたちを異変が襲った。突然、メインスクリーンを立体TVで放送されるようなSFロボット風のアニメ映像に切り替わったのだ。
「なっ!?」
思わずあっけにとられた大佐に向けられるよう、ロボットの赤い拳が雄たけびとともに巨大なスクリーンの中で炸裂した。
「ゲキガーーンパァァァンチ!!」
画面から飛び出してくるわけではなかったが、メインスクリーンを埋め尽くしたロケットパンチに工作員全員が思わず身体をのけ反らせてしまう。
(しまった!)
ハンニバル大佐は、誰よりも早く状況をとっさに判断し、二丁のブラスターを素早く引き抜いて振り返ったが、彼を迅速に半包囲したのはゴート率いる完全武装した第一班の奪還部隊30名だった。
さらに1階フロアからも怒声が上がった。ハンニバルが二階フロアから肩越しに覗き込むと、同志たちが武装兵20数名にあっという間に制圧されていた。
「ふう、やれやれ……」
プロスペクターは、ようやく自由の身になったキャゼルヌに歩み寄った。
「長い間、窮屈な思いをさせてしまい、大変申し訳ありませんでした」
副事務総監が差し出した右手を掴み、キャゼルヌは立ち上がった。
「いえいえ、あなたなら気づいてくれると信じてました。私が不甲斐ないばかりに大変なご苦労をおかけしました」
「とにかく、ご無事でよかったです」
再び固い握手を交わすと、キャゼルヌはハンニバル大佐に振り返った。傍らのゴートが一歩進み出て平凡ならざる工作員に勧告した。
「貴官の作戦は失敗した。すでに中枢CPフロアも奪還している。武器を捨てて降伏せよ」
ハンニバル大佐は内心で驚愕したものの顔には出さない。不遜な笑みを浮かべ、勧告ごときで降伏するような特殊任務のプロではなかった。彼は2階フロアの壁面に背を向け、ブラスターを構えたままプロスペクターたちと睨みあった。
ようやく……
「フフフ、奇蹟の完全再現とはいかなかったか」
と低い声でつぶやく。少なくともあと一日半占拠し続けていれば、彼らの勝利とともに軍事史に燦然と輝く快挙になったかもしれないのだ。
それが入念な準備をしたにも関わらず、わずか5時間という短い時間で潰えてしまったのだ。これは笑うしかない。
「いいえ、あなたの作戦は見事としか言いようがありませんでした。警備艦隊が最初から近くに潜んでいたら私たちは負けていましたよ」
そう言ったのはハンニバルから見ても、とても軍人とは思えない商人風の男だった。
プロスペクターという男をあらためて目に留めた工作員は、グリーンヒル大将の言葉を思い出していた。
「彼は頭の切れる男だ。十分注意するように」
全くその通りになってしまったわけだが、ハンニバルはプロスペクターという謎の多い男を軽視していたわけではなかった。
しかし、「二兎を追うもの一兎も得ず」、ということわざに
倣い、対象を絞ったことは確かであった。司令官を狙う──
──当然だ。目的と目標を混同するような愚行を犯せば初歩の段階で失敗は目に見えていた。
緻密でありながら目標を一点にさだめたことにより、イゼルローン要塞の要所を占拠するという戦術レベルの奇蹟をヤン・ウェンリー以外で実現することができたのだ。
ハンニバルにとっての「最良」とされるシナリオは、アレックス・キャゼルヌとプロスペクターという要人を同時に拘束せしめることだったかもしれない。
しかし、そんな悠長な機会を待っていられるほどハンニバルに偶発的かつ時間的余裕があったわけではない。司令官代理たるキャゼルヌを拘束し、司令部と中枢CPを押さえ、命令系統を分断ないし掌握するとことで「プロスペクター」という男の取りえる選択肢と手段を狭めることにより、時間稼ぎは十分可能であると散々吟味していたのだ。
それがどうだろう? 時間稼ぎにもならず、逆に入念な反撃準備をされた上で隠密に奪還の機会を虎視眈々と狙われていたのだ。
「甘く見ていた」
と言うよりも、相手の能力がハンニバルの予測を大幅に上回ったということだろう。
(まあ、それはそれで仕方がないか……)
ハンニバルは、幾つか確認したい謎があった。彼は二丁のブラスターを注意深く構えたまま、グレーの瞳を商人風の男に向けた。
「あんたに二、三ばかり聞きたいことがあるんだが?」
プロスペクターは悠然と応じた。
「私に答えられる範囲でしたら何なりと。質問に答えた後に降伏してくだされば、なおよいのですが」
「考えよう。貴官の答え次第だな」
一つ目は、中枢CPをこちらに知られずに、どうやって奪還できたのか。
「それはですね、定時連絡の直後に何が起こりましたか?」
ハンニバルは鮮明に記憶の糸をたぐり寄せる。ちょうどその直後、キャゼルヌに対して重大な案件が直接あるということで、二人の士官が守衛を務める同志二人に詰め寄ったときだ。あまりにもしつこいので、ハンニバルたちも難儀して軽く守衛二人と話し合ったほどだった。
「そのときに中枢CPフロアを監視する警備モニターに細工をさせていただきました」
プロスペクターがそこまで説明したとき、ハンニバルはおおよそ理解してしまった。
「そうか、あの一瞬で映像を切り替えたな?」
声には軽く賞賛の響きがあった。
「ええ、まぁ……」
とすると、司令部への急襲も同様の手口が考えられる。ここに通じる通路は幕僚用とオペレーター用と非常用の三つ存在するが、いずれも途中に警備モニターとセンサーが複数台設置され、オペレーター用と非常通路は完全に封鎖している。
そうなるとメインの通路を通ることになるはずだが、警備システムをどうにかした上で、守衛二人にも騒がれなかったことになる。
ハンニバルに、一つの出来事が浮かび上がった。
「そうか、あの婦人兵だな?」
急襲を受ける15分前、15歳前後の婦人兵が司令部に勤務する父親に用があるということで押しかけてきたのだ。今は緊急の警戒態勢が敷かれて、簡単には入室することはできなから持ち場に戻るよう追い返したのだが……
その婦人兵というのは言わずともユキナの事であった。プロスペクターはなるべく隠密かつ穏便に犠牲者を出さないよう作戦を考えていた。
ただ、一度目と同じ人選だと守衛に警戒され、最悪、大事になりかねない。
そこで志願したのが元気いっぱい正統派美少女のシラトリ・ユキナだった。少女の意志の強さはプロスペクターもよく知っているので反対はしなかった。入念な打ち合わせの後、来年に着用することになるであろう同盟軍軍服を一足早く身につけ、ユキナは颯爽と作戦を実行した。
追い返されたフリをしたユキナは、映像細工完了の連絡をイヤリングに仕込んだ通信機で確認すると再びきびすを返し、困り果てた二名が事前協議を始めて注意を逸らした瞬間、遠慮なくショックガンをぶち込んだのだった。
その後はハンニバルたちが体験した通りである。
凡庸には程遠い特殊工作のプロは、グレーの瞳に畏怖さえこめて商人風の男を見やった。
「すさまじいハッキング能力だな。司令部からは全くわからなかった。あんた人間か?」
その問いにプロスペクターは曖昧な笑みを浮かべただけである。真実を知る者は、その場ではわずか三名。グリーンヒル大将がまだ知りえないことを、ハンニバルが知るはずもなかった。
(失敗してしまったか……)
一瞬だけ両目を閉じたハンニバルは内心で敗北を認めた。
しかし、要塞の完全占拠という目標は達成できなかったが、戦略面には十分効果がある。警備艦隊は追い払われてしまうが、駐留艦隊にとってはイゼルローン要塞司令部の一時占拠という事実は相当の脅威となって認識されるに違いないだろう。
あとはハンニバル自身の進退だ。家族の命を奪った同盟の政治体制に裁かれるなど、彼には耐え難いことだった。
ハンニバル大佐はわずかに口元を吊り上げる。その微笑にこめられた感情の全てを理解できた者は、おそらく彼自身だけであったろう。
ハンニバルは、キャゼルヌとプロスペクターをそれぞれ一瞥した。
「部下には寛大な処置を切望する」
ブラスターを構えたハンニバルの右腕が瞬時にこめかみを捉え、己にけじめの裁定を下した。
◆◆◆
事態収拾から一日。イゼルローン要塞は再び緊迫した。同盟領のイゼルローン回廊を抜け、200隻前後の艦隊が接近してきたのである。
「こいつは危なかった。予想よりはるかに早かったですね」
「まったくです。私もこんなに早いとは思いませんでした」
司令部では、二人の男がメインスクリーンを睨みながら会話を交わしていた。
というのも、ハンニバル大佐の示唆した日数そのものが二人を欺く発言ではなかったかと疑ったのだ。管区警備艦隊がエル・ファシル星系から発進していれば、確かに二、三日程度だっただろう。
しかし、実際には問題を解決してからわずか一日でイゼルローン回廊に艦隊が姿を現していた。
「考えすぎかもしれませんけど、死してなお大佐の幻影に惑わされるとは、鬼謀というのは恐ろしいことです」
「まったくですねぇ……」
キャゼルヌとプロスペクターはお互いに肩をすくめあってうんざりしたが、すべてはまだ終わっていなかった。接近する艦隊に警告が発せられたものの、向こうは信じていないのかさらに接近。仕方がないので「雷神の鎚」を脅しに使用し、ようやく艦隊は一斉に退却していった。
「これで最悪の事態は回避できたってわけね」
安堵の空気が司令部に流れる中、事態収拾の功労者の一人であるユキナがプロスに向かって呟くと、アレックス・キャゼルヌが思い出したように言った。
「プロスペクター。あなたのおっしゃっていた最悪の事態と私の予想していた最悪とはかなり差異があったと思うのですが、その内容をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
プロスペクターは承諾し、彼が予想していた最悪の事態を二人に説明した。キャゼルヌとユキナの表情がみるみうちに青ざめていった。
「なんと、そこまで彼は考えていたのというのですか?」
「なんかもう、私ついていけないんだけど……」
プロスペクターの思考は一歩先んじていた。ハンニバルたちの最終目標が要塞主砲による駐留艦隊の撃滅であったことである。
「ありえないとは言い切れませんね。彼らが要塞の完全制圧に成功していたら十分考えられます」
「ええ、帝国軍が攻めてきた、警備艦隊に攻撃を受けているなど、この状況ならいくらでも艦隊を呼び戻すことは可能ですからねぇ……」
「たしかに。ヤンのやつは今頃、いろいろと悩んでいることでしょうし」
「そうですねぇ、ただでさえイゼルローンとの連絡線は遮断されたままですし、今回の事もありまから……」
イゼルローン要塞では、事態収拾後も駐留艦隊との通信の回復を図っている。ヤンの選択肢を狭める結果になってしまうかもしれないが、報告しないわけにはいかないのだ。銀河帝国というさらなる脅威が反対側の銀河にある限り、とんでもないことが起こってしまった以上、後方の混乱をこのまま放置しておくことは絶対にできないのだった。
キャゼルヌとプロスペクターは、再び同時に肩で息をした。このまま何事も起こらずに過ぎ去るのか、それとも隠し手が存在するのか、家族の不当な死をきっかけに現在の政治体制を打倒しようとした工作員が残した影響は決して小さいものではない。気が重くなってしまうのも当然だった。
そんな二人の精神状態を察知したのかどうかはさておき、ユキナは本気で訊いた。
「ねぇねぇ、私の今回の活躍って単位にプラスされたりするの?」
「ないと思う」 「ないでしょう」
素っ気ない即答に、少女は瞬時にうなだれてしまったのだった。
X
──ごく一部を例外として、イゼルローンで起こった有事の全貌が超光速通信に乗って駐留艦隊に届いたのは、宇宙暦797年標準暦5月8日のことである。
ヤンをはじめとする幕僚連中は一様に驚愕した。特殊工作員の手腕もさることながら、救国軍事会議側がそこまでの手を打ってくるとは完全に意表を突かれていた。ヤンも通信越しに、その場で辞意を表明しかねないアレックス・キャゼルヌをなだめるのに精一杯だった。
「私も考えが甘かったようです。どうか落ち込まないでください。私が戻るまでイゼルローンを頼みます」
と言って先輩を励ましたヤンだったが、駐留艦隊を取り巻く状況はいよいよ切迫してきた。「前門の虎」か「後門の狼」か、いずれを先に手を打つべきかである。
それは、より困難な選択に他ならなかった。
◆◆◆
ミスマル・ユリカと第14艦隊の幕僚たちは、敵艦隊の情報収集中にイゼルローンを襲った出来事を艦橋に集まった際に知ることになった。彼らにとってはエル・ファシルの武装蜂起そのものが精神的負担として重く圧し掛かっているのに、さらに強力な一撃が加えられたことに大きな衝撃が広がった。元祖ナデシコメンバーたちはユリカに向かって不安そうな視線を注いだものだった。
「それにしても、いやーなタイミングだよね?」
誰よりも早くそう口にしたのはタカスギとともにナデシコに戻ってきているテンカワ・アキトだった。この状況に違和感を持つあたり彼も成長している証だろう。続けてツクモやルリが同意を示すと、俄然艦橋はその内容に興味が集中した。答えたのは当然ユリカである。
「結局のところ、イゼルローンの占拠が成功しても失敗しても、こうなることは決まっていたんでしょうね」
というのは、それまで通信妨害が激しくてイゼルローンとの交信そのものが困難であったのに、今日になってから突然通信が回復したのだ。そうしてもたらされたのが要塞司令部の占拠事件である。
「ユリカ、ということはクーデター側はわざと通信妨害を解いたってことなのか?」
「うん、そうだよ。イゼルローンで起こった事を私たちに分からせるためにね」
ここまで手際がいいと、グリーンヒル大将はこの作戦が失敗した時の戦略的効果についても十分検討を重ねていたとしか思えない。
第一の段階で作戦がすべて失敗したとしても「連絡線の遮断+重要拠点における有事の発生」、という極めて深刻な事態は必ず報告されると踏んでいたのだろう。もしキャゼルヌたちが報告しなければ、計画に沿ってクーデター側が情報を流したに違いない。
結局のところ、駐留艦隊がカッファとミドラル鎮圧のために出撃した時点で、その後の策謀が発動する手はずが整ってしまっていたといえる。
「グリーンヒル大将がどこまで作戦に関わったのかは分かりませんが、実行部隊を指揮統率したハンニバル大佐は相当に綿密な計画を練ったはずです。純戦略的に見ても、とてもマネのできない優秀な作戦ですね」
どっちに転んでも駐留艦隊のとるべき選択が狭まるというのが、この作戦の恐ろしいところだった。グリーンヒル大将のような、実は謀将タイプの軍人に後方から全体に及ぶ手腕を発揮されてしまうと、ユリカやヤンの立場では後手に回ざるを得なくなる。
事実、総司令官たるヤン・ウェンリーは、あらためて今後の対応を見直す必要性に迫られていた。強いて言えば、その決断にあまり時間をかけてはいられない。
後方であらたな武力叛乱が発生した4月29日以降、駐留艦隊はクーデター側に組したとされる二個艦隊の「真偽」を探るとともに、並行してシャンプールとエル・ファシルの情報収集、イゼルローン要塞との通信回復に努めていた。
ヤンは、後方との通信が遮断されたことに危惧を抱きつつも、敵艦隊の正確な情報を集め、みんなを納得させるだけの真偽と艦隊の位置を特定した段階で一気に各個撃破を目論んでいた。
しかし、バグダッシュ中佐が吹きこんだように「正面から堂々と」いうわけではなかったのだ。
アキトは、考え込むようにして言った。
「そういえば敵は後退したよね?」
「うん。そこがすごい問題なのよねぇ」
あらゆる手段を用いた情報収集によって、敵機動戦力の全容が明らかになっていた。ヤンの推察どおり第12艦隊の参加は虚偽だと判明したが、第11艦隊の参加は真実だった。しかもその戦力はおよそ17000隻と推定されたのだ。
これは、再建途上にあった第11艦隊の既存戦力を軽く5000隻ばかり上回っていた。その理由も簡単だった。
「艦隊がいなかったか、それはそれは……」
とヤンがミドラル攻略直前に疑問視していたように、叛乱が起こった星系に駐留する幾つかの警備艦隊が加わっているものと推察された。
それでも駐留艦隊20,000隻に対して第11艦隊は17,000隻。数の上では前者に軍配が上がり、しかも率いているのが銀河に名高い「
奇蹟のヤン」と「白亜の戦姫」である。敵が正面から挑んでくれば勝利は確実となっていたはずだった。
しかし、そうはならなかった。第11艦隊の位置を突き止めたヤンは全艦隊を迅速に進めたが、勇猛と評される敵将ルグランジュ中将は戦わずして艦隊を後退させてしまったのだ。
嫌な予感がしたヤンは試しに艦隊を後退させ、次に前進させた。すると予感は的中し、第11艦隊は前進し、次に後退したのである。しかも挑発に乗らず、奇襲を警戒しているのか絶妙な距離を保ったまま付かず離れず状態だった。
これはヤンが最も恐れていた相手側の対応の一つだった。グリーンヒル大将とルグランジュ中将の意図は駐留艦隊を疲弊させることにあるのだ。
ユリカにとっても、グリーンヒル大将の意図は別として、勇猛果敢とキャゼルヌから聞いているルグランジュ中将が忍耐強く対応していることはかなり意外だった。
「グリーンヒル大将もルグランジュ提督も本気で勝ちにきてるってことだよね?」
アキトの感じた通りだ。グリーンヒル大将は二人の名将を相手に己の意志と信念を貫くつもりなのだろう。ルグランジュ中将の覚悟も生半可ではない。
ユリカは端末を操作して星系図を空間に表示させた。ケリム、ジャムシード、リューカス星系を緑の線が囲み、ケリム星系寄りに青い点が浮かんだ。さらにケリム、バーミリオン、ジャムシード星系を赤い線が囲み、黄色い点滅がその中心近くに表示された。青い点は駐留艦隊であり、黄色い点滅は予想される第11艦隊の位置だった。
ユリカは星系図を拡大し、駐留艦隊の置かれた状況をみんなに説明した。
「私たちがイゼルローン要塞を出撃したとき、その目標は単純明快でした」
しかし、現在は三通りの選択のいずれかを迫られている。
@ 第11艦隊を撃破し、しかる後に反転して後方の脅威を取り除く
A まとまって後方の脅威を先に取り除き、後に反転して第11艦隊を撃破する
B 艦隊を二分し、前面と後背にそれぞれ充てる
@とAは、今のところ実現が困難な部類に入るだろう。クーデター側が消耗戦術を徹底することが明白だからだ。特に、駐留艦隊が前進し続ければ第11艦隊は後退し続け、エル・ファシルとシャンプールに展開する警備艦隊が連絡・補給ルートを撹乱ないし破壊しつつ前進してくる可能性が高い。
駐留艦隊としては目も当てられない。
つまり、せっかく鎮圧したカッファとミドラルの武装叛乱が再び息を吹き返す危険性があった。
Bは、戦力の集中という用兵学の根本から論じれば最初から選択外となるはずだが、後方で起こった有事を考慮するならば苦肉の対応となる。
また、艦隊の比率を偏らせる方法で第11艦隊と後方の鎮圧に当たらせるという手段もなくはないが、敵艦隊はそれこそ後退し続け、首都星を守護する「アルテミスの首飾り」を支援兵器として決戦を挑んでくるだろう。そうなると戦力分散が裏目に出てしまうのだ。
「それって……」
アキトは気がついたようだった。
「それって四面楚歌状態ってことか?」
「正解でーす」
とはクラッカー片手のルリであり、ユリカも「よっくできましたぁ!」と婚約者を褒め讃えた。アキトはあきれてしまう。
「いやいや、褒めてる場合じゃないよ。膠着状態が長引けばもっと後方が危険になるんだろ?」
銀河帝国の内乱が早期に終結し、同盟の混乱に乗じて侵攻してくるという可能性である。ローエングラム候陣営は緒戦に勝利したというから、ユリカたちの視点では、自尊心だけは稀有壮大な貴族連合軍が完全敗北するのも時間の問題と思われていた。
そんな懸念が付きまとうだけに、帝国に対して備えるためには何としても短期間で内乱を終結させねばならない。エル・ファシルで引退生活を送っているフクベ・ジンの身の安全も心配だった。
アキトは、これまでの学習と経験を踏まえて何か妙手はないかと考え込むが、ものの1分くらいでギブアップした。肩で息をしてユリカにぼやく。
「ねぇ、ユリカ。ユリカは何かいい作戦思い浮かばないの?」
「一つあるよ」
「ふーん、あるんだ……」
一瞬、艦橋中が沈黙した。
「「「えええええっ!? あるのかよ!!」」」
ルリを除く、ほぼ全員から激しい突っ込みを受けた美貌の艦隊司令官は涼しい顔をしていたが、忠実であるはずの傍らの参謀長と副官も若干非難めいた視線を送っていたことには気づいていない。
しばらく唖然としていたアキトが言った。
「どうしてあるなら言わないんだよ?」
当然の疑問である。ルリを除く全員がうんうんと同意していた。ユリカは少し困った顔をする。
「うーん、どうしてって言われても、それを思いついたのはみんなが艦橋に集まる前だし……」
「ということは15分くらい前か?」
「うん。ルリちゃんとこの状況を打開する方法を話し合っていたのよねぇ」
「思いつたなら、なんでヤン提督に言わないんだ?」
「だって、ヤン提督がよりよい作戦を思いつくかもしれないでしょ? それに提督が考え込んで3時間くらいかな? そろそろ来ると思うし」
「えっ?」
それが絶妙のタイミングで訪れたらしかった。メグミがヒューベリオンからの通信を伝えた。二次元スクリーン映ったのはヤンの副官であるヘイゼル色の瞳も美しいフレデリカ・グリーンヒル大尉だった。
『ミスマル提督、たいへんお待たせいたしました。ヤン提督が方針を決定されました。ご足労ですが20分後に会議を始めますのでヒューベリオンまでいらしてください』
ユリカは明るく返答したが、急にまじめな顔になって大尉に
言伝を依頼した。
「ヤン提督にお伝えください。会議の前に私から重大なお話がありますので、一旦オフィスで待っていてくださいと」
グリーンヒル大尉が敬礼して通信スクリーンが閉じると、アキトがおあずけを喰らった子犬のような顔をユリカに向けていた。
「きゃ! アキトったらかわいい!!」
「じゃねーよ! 一体、ユリカの作戦って何なんだよ。もったいぶらずに教えてくれよ!」
ユリカは、アキトを見つめたままニッコリ笑うと、
「だめでぇーす!」
とあっさり拒否した。アキトはもちろん理由を問う。
「んー、だって話してもヤン提督に却下されたらかっこ悪いし、この作戦には自信があるけど幾つか条件が満たされないとだめなのよねぇ……」
「どういうことだ?」
アキトは思いっきり首を傾げ、参謀長のツクモに視線を走らせたが、彼も思い至らないらしかった。
ユリカは、興味津々の一堂を見渡した。
「ヤン提督が作戦を許可してくれたら、アキトやみんなにもお話します。ねぇ、ルリちゃん」
「そうですね。許可されたらお話してあげます」
ブルーグリーンの瞳と黄金色の瞳が絡み合うと、美人提督と美少女オペレーターはくすくすと笑い出した。
そして会議終了から数日後、前代未聞の作戦は発動する。
──宇宙暦797年標準暦5月10日、標準時8時50分──
イゼルローン要塞駐留艦隊は突然急速に後退し、第11艦隊の索敵範囲から姿を消した。
……TO BE CONTINUED
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あとがき
イゼルローンの問題は今回で解決です。タイトルがしっくりこないかも……
司令部占領という重大事態に対し、なんとかこの章で終わらせることができてよかったです。
そして、久々の大容量! でも10キロバイトくらいは削りました。次回で12章を終わらせたいので、話数が増えないようにした結果です。
ユリカが提案し、了承された作戦とは何か? 次話をお待ちいただければと思います。
ちょうどこれを投稿したところで世間では黄金週間に突入です。私も、頭を休ませたいと思います。
それから、以前話していた各部屋の機能が追加されまして、WEB拍手にも返信機能がつきました。これまでは感想のお返しがずいぶん後になってましたが、今話より、WEBメッセにいただいた感想には、直接、そちらに返信いたします。
また、WEBの返信機能は文字数が500文字に制限されていますので、長文はTOPページにある「感想掲示板」までお願いいたします。
2012年4月26日 ──涼──
修正履歴
誤字および用語ミスを修正しました。
2012年5月16日 ──涼──
プロスとラピスの呼称を修正いたしました
2012年8月25日 ──涼──
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WEBメッセージ返信コーナー
ここからはメッセージの返信とさせていただきます。
メッセージをくれた方、ありがとうございます!
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◆◆[147]投稿日:2012年04月08日15:38:5 氷剣士
誤字発見
>>第五章(中編・其の三)
これはユリカやアキトが必死なったからでもあるが⇒これは、ユリカやアキトが必死になったからでもあるが
ディストーションフィールドの性能に頼っって⇒ディストーションフィールドの性能に頼って
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◆◆[149]投稿日:2012年04月08日17:23:11 氷剣士
誤字発見
第二部 第八章(前編・其の一)
テクノロージ⇒テクノロジー
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◆◆[150]投稿日:2012年04月08日17:52:36 氷剣士
誤字発見
第九章後編(其の一)
ランハルト⇒ラインハルト
ですが私としては多くの将兵たちを生きて故郷や家族に帰してあげられるという一点おいても捕虜交換には大きな意義があると思います⇒ですが、私としては多くの将兵たちを生きて故郷や家族に帰してあげられるという一点においても、捕虜交換には大きな意義があると思います
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◆◆[151]投稿日:2012年04月08日21:46:30
誤字発見
誤:パーティーでいった
正:パーティーでいったい
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◆◆[152]投稿日:2012年04月08日22:13:29
ポプランイラネ( ゜д゜)、ペッ
博愛主義者(笑)。どう見ても転生オリ主です、本当にありがとうございました。
作者は面白いと思ってるんだろうが、こっちからみればKYのウザいやつにしか見えない
第十章(後編・其の一)
金髪の孺子の傀儡なって⇒金髪の孺子の傀儡になって、
ユリかたち⇒ユリカたち
ユリンア⇒ユリアン
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◆◆[153]投稿日:2012年04月08日22:32:35
なんだかつまらなくなってきた……。
ユリカの檄にみんな反応せず、何だって転生オリ主の励ましで元気が出るんだ?
あからさまな差別はやめてほしい、不愉快です。
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◆◆[154]投稿日:2012年04月08日23:5:27
いいかげん、ポプランという名の転生オリ主を引っ込めてください。奴が出現するたびにストレスがたまります。
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◆◆[155]投稿日:2012年04月08日23:8:7
いい加減、クズのポプランを退場させてください。イライラしてストーリーに集中できません!
>>>
氷剣士さん、[NO,147〜152]までの訂正とメッセージをありがとうございます。
誤字脱字、変換ミス等の指摘に関しては、最新話投稿が終わりましたので、順次修正させていただきます。
そしてNO,152〜155までの感想に関してですが。
氷剣士さんと私との間では、「オリビエ・ポプラン」というキャラについてかなりの認識差があるものと思われます。彼がナデシコキャラと絡む場面でピンポイントに感想が入っているものでして。
氷剣士さんは、かなりナデシコ寄りと思われます。
同盟軍と戦う羽目になることに悩むナデシコの面々。そこの喝を入れるポプラン。あの場面の意味は、当事者たちよりも第三者のほうが時に説得力を持つ、というありふれた一面の描写というだけなんですが?
オリビエ・ポプランという男は原作でも作中のような感じです。まして、美人ぞろいのナデシコ連中と関わることになった時点で回避できない絡みともいえます。ポプランらしい行動というわけです。彼は軽いようで、筋を通す男でもあります。
また、銀英キャラたちの中でもっともナデシコ寄りというのは彼以外存在しません。またその逆も然りです。ポプランはいわば銀英伝側とナデシコ側の橋渡しをする重要な役です。感情論のような降格はないと断言しておきます。
それから、ポプランが優遇されているわけではないので懸念する必要はありませんよ。彼の出番があるから出ているだけです。
厳しい感想をいただきましたが、首を捻る内容でもあったので、銀英とナデを両方知っていて、ナデ寄りの創作仲間に吟味していただきましたが、「ゲキを飛ばすシーンはなんとなくわかるが、不愉快になるほどではない。それ以外は特に問題があるように思えない」、という回答でした。
なるべく、助長を抑え、バランスを取るようにしているつもりですが、それがもっとも難しいのも確かです。そのあたりに頭を悩ませつつ執筆を続けています。
感想ありがとうございました!
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