『人々よ! 我らを恐れ、求めるがいい!
我らの名は、黒の騎士団!!
我々黒の騎士団は、武器を持たない全ての者の味方である!
イレヴンだろうと、ブリタニア人であろうと…。』

ゼロが河口湖から流した演説。
これを俺が最初に聞いたのは、ナナリーを送り届けて政庁へ行った時だった。
これを聞いて俺は漸く、ゼロがブリタニア人の人質を救出した理由が分かった。

『日本解放戦線は卑劣にもブリタニアの民間人を人質に取り無残に殺害した。
無意味な行為だ。故に、我々が制裁を下した。
クロヴィス前総督も同じだ。武器を持たぬ、イレヴンの虐殺を命じた。
このような残虐行為を見過ごす訳にはいかない。 故に制裁を加えたのだ。』

ゼロの主張をそのまま受け取るならば、黒の騎士団とは"正義の味方"だ。
だが俺が考えるゼロの真意は、恐らく違う。

『私は戦いを否定はしない…しかし…
強いものが弱いものを一方的に殺す事は、断じて許さない!
撃っていいのは…
撃たれる覚悟のあるやつだけだ!!』

被征服民であるイレブンの意見は主に、ブリタニアへの"恭順派"、"反体制派"、そして中道派に分けられる。
このうち恭順派というのは戦前から裕福だった者達、形式上はあのNAC、キョウトとかいうグループもこれに含まれる。
そして反体制派、これは説明の必要もないだろう。
あのゼロや日本解放戦線のようなレジスタンス、ブリタニアの支配を良しとせず抗おうとする者達。
まあこの中にもゼロのような比較的理知的な者や、草壁などの野蛮な者もいるのだが。

『我々は、力あるものが、力なきものを襲う時、再び現れるだろう。
例えその敵が、どれだけ大きな力を持っているとしても… 』

そしてイレブンの中で一番多いのが中道派。
つまり今の支配は良くないと思うが、テロという手段は肯定出来ないという者達だ。
だからこそ、ゼロは反体制派だけじゃなく、中道派の支持も得る為に組織の根幹に"ブリタニア打倒"ではなく"弱者保護"を置いたのだ。
民衆とは愚かなもので、正義という言葉に酔いやすい。
事実、調査の結果でも大半のイレブンや一部のブリタニア人までもが、黒の騎士団に対して好意的な視線を送っている。
ゼロはこれらを全て計算して行っているのだろう。
正直、面白い男だと思う。

『力あるものよ、我を恐れよ!
力なきものよ、我を求めよ!
世界は!我々黒の騎士団が、裁く!! 』

こうして、彼の演説は締めくくられる。
ゼロ、得体の知れない男だが得体の知れない強さを持っている。
もしかしたら、今後の敵は日本解放戦線ではなくて、黒の騎士団になるかもしれないな。








SIDE:レナード


黒の騎士団の河口湖での演説から三日。
一度は呑気に面白い奴だな〜、と思いもしたが、そんな気持ちは直ぐに吹っ飛んだ。
黒の騎士団と名乗ったレジスタンスグループは、有限実行とばかりブリタニア人、イレヴンを問わず不法な手段で利益を上げるものや、民衆を苦しめる者達を次々と捕らえていった。
お陰でこちらの仕事はてんてこまい。
本来、客将の筈の俺まで作業に当てられる始末だ。

そして、そんな仕事を漸く終えて四日目の今日。
遂に学校に来ることが出来た。
なんかマスコミが取材をしようとマイクを向けてきたが、ドスの聞いた声で「あぁ!」と言ってやると散っていった。
…………俺って、そんなに怖いのだろうか。

「だけど、二時間目には間に合わなかったな。」

ボヤキながら教室へ行く。
さて、三時間目は一体どの教化だったろうか。
その答えは教室に入って直ぐには、分からなかった。

「…………なにしてんだ、これ?」

「あ、レナードくん!今日は来れたんだ!」

「まあな、なんとか仕事が片付いてさぁ〜。
まあスザクの方はまだ色々とあって来れないらしいけど。
ところで、」

そこで俺は教室にいる生徒。
正確にはエプロンやらなんやらを着用している生徒達を指差す。

「これ、なに?」

「ああ、それはね―――――――――」

「調理実習だよ。」

シャーリーの横からルルーシュがやって来て答えた。

「調理実習?なんだ、それ。」

「文字通りの意味だ。
この三四時間目を使って、生徒が個々に持ってきた食材で料理を作るんだよ。」

「ふ〜ん。でも俺食材なんて持ってきてないけど。」

「それは困ったな。
今から買いに行っては間に合わないし。」

「なんなら私のやつをあげようか。
なんか多めに持ってきちゃって。」

さて、どうしようか。
シャーリーはそう言ってくれているが、余り迷惑を掛けるのも悪いだろう。
それに食材のアテならば………。

「気持ちだけ受け取っとくよ。
俺は俺で準備するから。」

「おい、授業はもう五分後だぞ。
大丈夫なのか?」

「任せとけ。
多くて二十分もあれば問題ない。」

「ならいいが………。」

さてと、時間も無いし早く調達しに行くとするか。
だぶん、目当ての食材は直ぐに見付かるだろう。




 目当ての食材を手に入れた俺は、意気揚々と家庭科室に向かっていた。
心なしか足が軽い。
久し振りの学校に少し心が浮かれてるのかもしれない。
家庭科室の扉の前に立つと、勢い良く扉を開け中に入った。

「すみません、レナード・エニアグラム。
食材確保のため遅れました。」

「これはレナード卿。
どうぞ、あちらの席に………って、それは一体……。」

「へ、何がですか?」

「おい、レナード。
お前はその手に何を持っている………?」

「それって間違いなく、そうだよな。」

ルルーシュとリヴァルが少し顔を緊張させて訊ねてきた。
そういえば、女子達の顔も引きつっている。
可笑しいな。
たぶんルルーシュ達は見覚えのある食材の筈なんだけど、忘れてしまったのだろうか。

「なにって、どっからどう見ても"アーサー"だけど。」

「だから!どうしてお前が今!この瞬間に!アーサーを持っているかと聞いているんだ!?」

「え………だってこの猫って食材だろ?」

「「「「「「「「「「違う!!!!」」」」」」」」」」」」

何故かクラス中から反論された。

「おいおい、何言ってるんだ皆。
この猫、非常食のために飼育してたんじゃないのか?」

「違うな、間違っているぞレナード・エニアグラム!」

ルルーシュが妙に迫力のある言い回しをする。
それはまるで、どっかの仮面の男みたいだ。

「その猫は断じて食材でも、ましてや非常食などではない。
それは………ペットだっ!」

「ペット?」

「そう、食用ではなく鑑賞、愛玩を目的として飼い主によって飼育される動物。
それこそがペット!」

「つ、つまりこの猫は食べちゃ駄目なのか?」

「駄目に決まってるだろう!」

ルルーシュだけじゃない。
教員も生徒も含めて全員が同じ意見のようだ。
仕方ないので、アーサーを放す。
あれ、丸焼きにしたら結構美味そうだったんだけどな。

「では、気を取り直してっと。」

エプロンは準備する暇がなかったので、隣のクラスの生徒から借りた。
ちなみに食材は結局シャーリーやリヴァルなどの生徒から要らないものを貰った。
しかし戦場以外で料理というのは初めての経験だな。
本国では何時も料理人に任せてたし。

「え〜と先ずは砂糖を少々…………少将?
俺は准将だぞ……なんていうオヤジギャクはおいといて、この少々とは一体どのくらいなんだ。」

……考えても分からない。
ならここは、

「適当に手掴みで入れておくか。
まあ失敗しても毒性のあるもんはないし、なんとかなるだろ。」

そうだ、このエリア11にはNABEという料理があるそうだな。
確かNABEに食材を入れまくって食べるやつ。
幸い貰った食材は一杯あるし、それにしよう。

「さぁ、てめえら覚悟しやがれー
このレナード様が たっぷりと料理してやるぜ!!」

「おい、レナード何を…」

「情熱の〜赤い薔薇〜♪
そして、ジェ〜ラシィ〜♪」

「だから何を歌っているんだ、お前は。
確かに両方とも素晴らしい作品だとは思うが、混ざってるぞ。」

「え〜と、ここらで隠し味に白ワイン、と。」

「待て!それはどう考えても鍋に入れる食材では!」

「なになに、乾特性野菜汁?
ま、いれちゃえ。」

「おい!」

「残ってる食材は、ココア、ドリアン、パイナップル、秋刀魚、トマト、ブロッコリー、チーズ、ピザ、鮪の刺身、味噌、ラー油、か。
面倒くさいから全部入れちゃえ!」

「やめろおおおおおおおおおおお!」

俺が食材の全てを入れた途端、ルルーシュがまるで俺を親の敵を見るような目で見る。
何故か、瞳が赤く染まっているように見えるのは気のせいだろう。

「ど、どうしたんだ。
そんな大声を出して……。」

「違う…違うぞ。」

「なにが違うんだ?」

「それは、もやは料理ではない……。
いや料理といっては、料理に失礼だな。
お前の作っているのはもはや、料理への冒涜に等しい!」

「失敬な。ちゃんと食えれば大丈夫だろう。」

「言ったな。では食してみろ、その料理もどき!」

「おうっ!」

そしてNABEを熱していた火を止める。
最初は透明だったお湯が今では、紫色に変色していた。
そう、まるでサツマイモみたいに。

「では一口。」

NABEにある秋刀魚を摘んで食べる。
味は……………うん、少し苦いが食べれない程ではないな。

「ルルーシュ、これ結構いけるぞ。」

「なにっ!」

そんな驚いた声を出さなくてもいいだろ。
見た目は少しアレだが、前に食べた変なキノコよりは美味いぞ。

「信じられない………。」

「そうか、じゃあ俺も一口。」

「よせ、リヴァル!」

リヴァルが一口くれというので、小皿にとって渡してやる。
別に量なら沢山あるし問題はない。
リヴァルは少し戸惑っていたが、

「では……………んんんんんっ!」

口に含んだ途端、リヴァルの顔が紫になる。

「どうだ、美味いか?」

「き………」

「き?」

「キキキきききキキッキ――ぃぃぃぃぃぃィィィイイイィ―――ッ!!!」

奇妙な奇声をあげて倒れる、リヴァル。
一瞬の静寂。そして、

「大変だ、救急車を!」

「りょ、料理で人が死んだ!」

「死ぬな、リヴァル!」

「なんてこった!」

……一体何がどうなったんだ?

その後、病院に運ばれたリヴァルは前後の記憶を完全に失っていたそうだ。
なんでも想像を絶する恐怖を忘れるための防護本能だとかなんとか。

ちなみに、こののち家庭科の授業で『調理実習』の授業はなくなったそうだ。
なんでだろうか。
あんなに上手くいったのに。
俺には理由が何時まで経っても分からなかった。



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