―――真実は行為で示される。それを飾るべき言葉は無い。
逆説的に言えば、行為を封じられたならば真実を示すことは出来ない。
だがその行為を得る為に、言葉を使うのは有効である。






「デューク隊より入電! 我、奇襲に成功セリ。
ブリタニア軍総司令ジョセフを討ち取りましたッ!」

「いよしっ!」

 EU軍司令官であるカールは思わず咆えた。
 基地の悉くを潰され、今やブリタニアの侵攻を待つだけとなったアイスランド。
 明日の朝には此処はアイスランドではなくブリタニアの植民エリアの一つにでもなっているのかと諦めきった表情を浮かべていた。

 しかし今の彼に諦めはない。
 あるのは、なんとしても勝利を掴み取ろうとする獰猛な笑み。

 切欠はブリタニア軍内部からの情報漏洩から始まった。
 なんでも『アースガルズの指揮官ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが総司令ジョセフとの言い争いの末、銃で撃たれ重傷』と。それだけじゃない。
 基地内部におけるジョセフの所在地までが詳細に送られてきた。

 これは天意だと、そう思った。
 黒の騎士団より送られてきたゲフィオンディスターバーのステルス性とガヘリスと月下の戦力があれば、油断しているブリタニア軍基地に奇襲を慣行し総司令ジョセフを討つことが可能なのではないか。
 もし首尾よくジョセフを討てれば残るのは戦に関して何の実績もないに等しいユーフェミアだけ。
 唯一の懸念事項であるのはナイトオブツーだが、虎穴に入らなければ虎の子を得る事は出来ない。

 そして奇襲は成功した。
 成功できた。

「全軍出撃! さぁ我等の逆襲の始まりだ!」

「「「了解!!」」」
 
 声を掛けると直ぐに威勢の良い返答が返ってきた。
 いい顔をしていると思った。
 何気なしに空を見上げると満月。

「さて勝利の美酒は満月と共に、だ」



『ブレーン隊全滅!』

『レイキャビクよりEU軍主力の出撃を確認!
決戦を仕掛けてくるようです!』

『こちらトーマス隊! グェンがやられた!
至急援軍、援ぐ、うわあああああああああああああぁぁぁあ!』

『畜生! EUの糞野郎共め!』

『司令部、ジョセフ殿下が討ち死になさったというのは真実なのですか!?』

 本陣への奇襲、それにおける総司令の死亡。
 ブリタニア軍司令部は混乱の極みであった。
 総司令ジョセフと一緒に主だった指揮官が死亡し、今のブリタニア軍には全軍の指揮を執れる人物がいない。
 一応、司令部の生き残りで最も階級の高いジーンという少佐に総指揮権があるが、彼に全軍を指揮した経験などはない。

「少佐! EUの一個小隊が包囲網を突破しました!」

「バーン隊全滅!」

 総指揮官の経験なんてジーン少佐には一度としてない。
 当然、指揮の乱れたブリタニア軍は動きが鈍くなり、士気旺盛なEU軍に付け入る隙を与える。だが、

「うろたえるなっ!!」

 背後からの怒声。
 ジーン少佐を始めとしたブリタニア軍人達が振り返る。そこには、

「ルルーシュ殿下!」

「ジョセフ殿下に撃たれ重傷と聞いたが……」

 いや、どうやら撃たれたのは間違いないようだ。
 その証拠に立っているのは少し辛いらしく、緑色の髪の女性が介助している。

「ジョセフが死亡したとは既に聞いている。
よって指揮は私が執る! 依存はあるか?」

 軍人達にルルーシュの華々しい戦果が脳裏に過ぎる。
 次にルルーシュ本人を見た。
 溢れる自信、威厳。それ等は彼らの心を一つにするのには十分であった。

「「「イエス、ユア・ハイネス!」」」

「感謝する。情報を出せ」

「は、……はい!」

 ルルーシュは現在の戦況などの情報に目を通すと、微笑すら浮かべて見せた。

『ブリタニア軍総員に告げる!』

 ルルーシュの声がスピーカーや通信でブリタニア軍全員に伝わる。

『敵の奇襲により我が軍はジョセフ総司令を失った』

 ジョセフの死は間違いなかった。
 その事実がブリタニア軍の士気を下げる。

『だが恐れることはない。
奇襲により誤魔化してはいるが、EU軍の戦力は我が軍の三分の一以下である!
粉砕せよ! EUを! そして我が軍の矜持を示せ!』

 全軍への交信を終える。
 しかし勿論、ルルーシュの役目はそれだけじゃなかった。

「N4、ポイントβにて待機。
十三秒後に敵がそこを通過する。一斉射撃で仕留めろ。
C6、対戦車ミサイルを送った情報通りに。Y6はそのまま前進」

 軍人達はルルーシュの次から次へと出てくる指示に唖然としていた。
 アースガルズの華々しい戦果。
 それをルルーシュの才覚よりナイトオブツーの実力が主だと認識していたのだ。
 しかし今のルルーシュを見れば、その事実が偽りであることが理解できる。
 其々の隊に変なコードネームをつけるのは少し頭を捻ったが。

「K9は囮に、T4、J7は誘い出された敵を殲滅」


 その頃、EU軍司令部も混乱していた。
 最初は統制のとれていなかったブリタニアが、この僅かな間に完璧なる統制を取り戻していたからだ。


「くっ、ドミンゴの部隊を下がらせろ。
追ってきた敵を殲滅」


「Y3それは囮だ。追う必要は……いや、逆手にとる。
Y3はそのまま敵を追撃。B4、D9。敵は自分達が罠を張ったと思い油断している。
その隙をつき殲滅しろ」


「ドミンゴの部隊が全滅!? 囮が読まれていたのか……。
くそっ。そうだ、ガヘリスはどうなっている!?
あれならば多少の敵は片付けられる筈だ! 通信を繋げ!」

 ディスプレイにデュークの姿が映し出される。
 直ぐに司令官は指示を出したが、デュークは首を振った。

『申し訳ありません、司令。
現在、敵と交戦中。援軍には行けそうにありません』

「敵だと、何機だ」



「一機です」

 丁度その頃。
 ルルーシュからの援軍の要請を、奇しくもデュークと同じ言葉で断ったレナードがいた。

『一機だと、それならば直ぐに撃破して――――――――』

「それが例のガヘリスでして。
流石に他の雑魚と同じように、とはいきません」

『ガヘリス、だと。
…………そうか、分かった』

 交信が途絶えた。
 時間の無駄だと判断したのだろう。
 正直ありがたい。
 この敵と会話しながら戦うというのは些かきつい。

「思えば腐れ縁だな。
これまでの人生で、同じ敵と此処まで邂逅するというのは余りなかったぞ。
大抵の敵は、俺と会う事すらなく死ぬからな」

『もう逃がさん。ここで終わらせてやる』

「恋人の仇を討つために軍に入る、か。
健気なことだ」

『貴様ァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』

 ガヘリスが放ったハドロン砲を避ける。
 お返しにとばかりにヴァリスを撃った。
 だがルミナスが受け止め、敵に決定打を与えられない。



「お前は俺から全てを奪った!
母さんも! 親父だと思った人も! フランカまで!」

『俺の殺したのは、フランカとテオ・シードだけのはず。
貴様の母のことは知らんっ!』

「お前が二人を殺したのが原因となって死んだ!
そしてフランカ! お前はフランカを犯しつくして殺した!
これが人間のやることかァ!」

『全ては過去。終わったことだ』

『過去っ!?』

 全て、過去、だと……?
 そう言ったのか、こいつは。
 
 フランカが一体何をした?
 テオ・シードが一体何をした?
 ただ自国を、母国を守りたくて必死に戦っただけ。
 それをこの男は、自分達の国の勝手な都合で。
 
『お前も軍人としてブリタニアの兵士を殺しているだろう。
軍人なら命令に従い、敵を殺すのは当然のことだ』

 ふざけるなっ。
 お前はそうやって人から奪い続けるのか。
 他者の命を、他者の宝を。そんな軍人だからという言い訳で、後悔も懺悔もなく――――――。

――――――――――――――殺してやる。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。

 死すら生ぬるい。
 が、それしか与えられないからくれてやる!

「罪を償え!
自国の都合だけ考えて、好き勝手に他国を侵略する帝国ブリタニア。その尖兵!
お前の存在が間違っていたんだッ!」

 そうだ、この男の存在を許してはいけない。
 人を殺すことを何の罪とも思わず、平然と奪い続ける男を。
 これからも奪うであろう、奪い続ける。
 そんな男に生きる価値があるはずがない。
 世界に害悪しか撒き散らさない男はっ!

「お前は世界から弾き出されたんだッ!」

 それをレナードは、何の感情も映す事無く受け止めた。

『悪いが、私はお前のように一パイロットでいる訳にはいかないのだ。
――――――――――――――やれ』

 短い号令。
 周囲からサザーランドやグロースターの放った砲弾がガヘリスに当たる。
 ブレイズルミナスの展開は間に合わなかった。
 ガヘリスの重装甲も大威力の砲弾の直撃を喰らっては無傷ではいられない。
 飛行の要であるフロートすらやられたガヘリスは、重力に引かれ墜ちていく。
 それは太陽の熱で翼を溶かされ墜落するイカロスに似ていた。

「レナード! 貴様は最後まで卑怯で、人を騙してッ!」

『偽善なる遊びに付き合う暇はない。さらばだ、デューク・デバイン』

 マーリンの銃口が向けられる。
 無理だ。あそこから放たれるハドロン砲を防ぐ術は、ない。

「くそおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 デュークは迫る赤黒い光を前にして、なにもすることが出来なかった。



「レナード卿より入電。
ガヘリスを撃破、これより援護に向かう、と」

「そうか」

 短くルルーシュは頷いた。
 しかし、少し遅かった。
 既にEU軍はずたずた。レナードの手を借りるまでも泣く決着はついている。
 所詮EUは奇襲の勢いでブリタニアを押していたに過ぎない。
 その勢いがなくなれば、こんなもの。

「さて、では仕上げだ。スザク」

『イエス、ユア・ハイネス』

 ルルーシュはこのアイスランドの戦いに決着をつける命令を、枢木スザクに下した。



―――――――ガヘリスがやられた。
 EU軍にとって最高の戦力であるガヘリスの喪失は、旺盛だった士気を低下させるのには十分すぎる効果を発揮してしまう。
 司令官であるカールも、当初の獰猛さは消えうせ、あるのは敗軍の将の疲れ切った顔のみ。
 その時、司令を更なる絶望へ突き落とす声が響き渡った。

「司令! 背後より敵機接近!」

「なんだとっ!」

 司令が驚いた声をあげる。
 背後ということは奇襲か。

「急ぎ守備部隊を出せ! ここが落とされればアイスランドは終わりだ!」

「司令!」

「今度はなんだ!」

「接近する敵機が分かりました。敵はZ-01ランスロットです」

 ランスロット、その名を聞いた瞬間司令は力が抜けていくのを感じた。
 それは他の者も同じ。
 映像にはフロートを装備したランスロット・コンクエスターが次々とEUのKMFや戦車を駆逐している光景が映っていた。

「ブリタニアの白き死神が……奇襲の成功に喜び失念していた。
よもや奇襲を仕掛けた我々が奇襲を受けるとはな」

 ランスロットが司令室に銃口を向けた。
 確かあれはハドロン砲だったはず。
 もしそんなものを喰らえば司令室はお終いだな。
 他人事のように司令はそんなことを感じた。

『警告します。既に勝敗は決しました。投降を』

「ふざけるなっ! 誰が投降など!」

「そうだ、最後の一兵になるまで――――――――」

「待て!」

 血気盛んな兵達を一喝する。
 カールは通信機をとり、ランスロットのパイロット枢木スザクへと繋いだ。

「投降した際に、私は兎も角。部下の命を保障して貰いたい」

「司令!?」

『…………約束します。ルルーシュ殿下は投降してきた者を殺したりはしません』

「感謝する」

 交信を終えると、他の軍人達に向き直る。

「司令! 我々はまだ戦えます!」

「そうです、どうか死ぬまで戦えとご命令を――――――」

「ならん! 責任は全てEU軍総司令である私、カール・レンフィールドがとる!
これ以上、我が将兵達を死なす事はない。全軍に通達しろ。武器を捨て投降する。
――――――――アイスランドは敗れたのだ」



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