とある魔術の未元物質
SCHOOL59 怪物 二人
―――暗いから、小さな星が見える。
周囲が明るいと小さな光は埋もれてしまう。周囲が暗ければ小さな光は耀くだろう。人間社会でもそれは同じ。人類全てが天才ならば天才は目立たない。人類の中に平凡があるからこそ、一握りの天才が輝くのである。平均がなければ最高はない。最高しかなければ、それが平均となるだけだ。
大覇星祭というのは学園都市で行われる運動会や体育祭のようなものである。というよりまんま体育祭そのものだ。各学校が各競技を競い合い優勝者を決める。やや変な内容の競技もあるにはあるが、基本的には普通の体育祭…………なのだが。
体育祭こと大覇星祭が行われるのは学園都市である。人口の殆どを学生が占める学園都市においては、一口に体育祭といっても規模が全く異なると言っていい。極め付きには「能力者同士の大規模干渉のデータを収集する」ということで学園都市側が能力使用を推奨しているので、高位能力者同士の激突なんかが起きた日にはそれこそ戦争のような激しさになること間違いなしだ。
ただ学園都市のLEVEL5である垣根帝督は、なにもそんな馬鹿騒ぎに参加するために学園都市に戻る訳ではない。というより幾ら祭りの最中だろうと、垣根なんかが大っぴらに戻れば、直ぐに暗部連中に捕まり大覇星祭が大虐殺祭になることは想像に難しくはない。
垣根の目的は学園都市内にあるであろう『脳科学』関連の資料と技術である。
インデックスの『首輪』を完全破壊することは難しいが、それによる脳の圧迫だけならばどうにかなるかもしれないと最初に言ったのはエリザリーナで、垣根自身そのことに一縷の希望を見出していた。
だが学園都市の逃亡者である垣根が、そう安々と学園都市に戻れる訳がない。そこで問題となってくるのが大覇星祭である。大覇星祭開催中においては普段は中々入れない学園都市にも生徒の関係者や一般人も簡単に入れるようになるので、どうしても学園都市の警備LEVELが落ちる。
奇しくもオリアナとリドヴィアも学園都市への侵入を策謀していたのだが、垣根はそれを止めるつもりは毛頭なかった。
学園都市がローマ成教のものになったとして、垣根に何のデメリットがあるのだろうか。寧ろ追っ手がこなくなりメリットの方が高い。
特に学園都市に戻る必要もないし、学園都市が永住の地である訳でも愛国心染みたものがあるのでもない。滅びるなら滅びればいい。それでアレイスターが死んでくれたら万々歳。今の垣根にとって学園都市なんてものはその程度の存在でしかない。
尤も目下、一番の要所というのは、
「ていとく、私を置いて学園都市に行くっていうのはどういうことなのかな!」
インデックスにどう説明するかだろう。
「どうもこうもねえ。テメエの頭の中の爆弾をどうにかするのに、学園都市にある資料が必要になるかもしれねえから取りに行く。簡単な理屈だろうが」
「むぅ。また、ていとくが危ない事を……」
またこれだ。
垣根はいい加減うんざりしてきた。
インデックスは垣根を心配そうに見ているが、それこそが余計なお世話だ。
自分がインデックスの『首輪』にあくせくしているのはインデックスの為じゃない。ただ自分がインデックスを助けたいからしているだけなのだ。ならインデックスは大人しく救われろ、そう思う。インデックスにデメリットはない…………筈なのに、なぜかインデックスは垣根のことを心配している。
それがどうにも、慣れない。
「どっちにしろ魔術関連なら兎も角、俺が行くのは学園都市、科学サイドの総本山だ。ケータイ一つまともに扱えねえテメエが役立つ訳ねえだろ」
「失礼なんだよ! これでも私はあのピコピコで『めーる』っていうのを送ることに成功したんだもん!」
「……おい。メールって、誰と?」
「わしりーさが『ばかばっか』って一日最低でも五通は送ってくれって言ってたから練習したんだよ!」
「―――――――――――――」
変態の魔手はイタリアまで伸びていたらしい。
インデックスの機械音痴が多少なりとも緩和することは有り難いが、素直に喜べないのは何故だろうか。
(今度、会ったらあの変態の顔面をミンチにしてやろうか?)
いや待て。ワシリーサが死んだらサーシャが…………悲しまないだろう。寧ろ泣いて喜びそうだ。変態から解放されたことを。
だがワシリーサには本当に残念ながら借りがある。アックアにやられた垣根を治療したという、謂わば命の恩人と認めざるを得ないほどの借りが。そうアックアに。
「そうだっ!」
「わっ!? い、いきなり大声を出されると驚くんだよ!?」
大変な事を忘れていた。
もし垣根が学園都市にいる間にアックアのようなゴリラがインデックスを奪取に来たらどうするというのだ。
ローマ成教のお膝元だから安全とは限らない。科学サイドはまだしも魔術サイドは案外簡単に侵入してくるかもしれないし、リドヴィア曰く、最近インデックスの所属していたイギリス清教とローマ成教との間が険悪になってきたそうなので、最悪ローマ成教がインデックスを狙うということすら考えられる。
全く。イギリス清教はどこまでも邪魔をしてくれるものだ。
なにもこの時期にローマ成教との仲を拗らせる事もないだろうに。なんでも中を拗らせた原因の一つは、学園都市内における学生が関わっているそうだが、もしそいつを見つけたら一度血祭にしてやろう。今、決めた。
「仕方ねえ。インデックス、お前も来い」
「本当!?」
「ああ、本当も本当。マジだ」
結局はこういう事になる。
インデックスを護衛するのが事実上『歩く教会』と『垣根帝督』しかいない以上、垣根がインデックスから離れすぎるのは出来れば避けるべきだ。学園都市にしても、どうやら学園都市側はインデックスに危害を与えるのを病的に避けているようであるし、『歩く教会』もあるので大丈夫だろう。垣根自身は、学園都市が超兵器なり超能力者なりを借り出しても対処できる自信があるので問題ない。垣根帝督と唯一戦える超能力者である一方通行にしても、暗部に関わっていても暗部の人間ではないし、ましてや学園都市の手先でもないので問題ない。最強の第一位様は今頃、クローン二万体を殺す実験に精を出していることだろう。だが……、
(エイワス)
あの全身が妖しく光り輝いていた未知の生命体だけがどうしても気にかかる。
超能力とは違う魔術というオカルトの世界に浸かったからこそ、より分かってきた。あれは出鱈目だ。アックアよりも、もしかしたらインデックスよりも。魔術とか科学とか、そういう括りで決めつけられるような生易しいものではない、そんな気がする。
エイワスは一度、垣根にロシアへ行けというアドバイスをした。
学園都市側が第二位である垣根帝督に学園都市脱出を唆す筈がないので、学園都市の犬ということはないと思う。というよりあんな化物が、統括理事会の連中に飼いならせる筈がないと確信していた。それだけの存在なのだ、エイワスは。恐らくこの世界で一番巨大な国家の大統領でも、この世界で一番巨大な宗派のトップでもアレを使役できないような気がする。
「どうしたの、ていとく?」
「ぁ、いや」
いけない。どうやら少し考え込んでいたらしい。
インデックスがまた要らぬ心配をしてきた。
「なんでもねえよ、それよりリドヴィアに言わねえとな。インデックスの分も用意してくれって。たく、学園都市から出てこっちまで、多方向に借りを作りまくってる気がする」
ここらで少しでも解消しておかないと窮屈だ。
学園都市での用事もそう長引かないだろうし、事が終わればリドヴィア達の援護に回るのも良いかもしれない。そうなれば少なくとも学園都市という面倒臭い存在は終わってくれるし、垣根もより自由な行動がとれるようになる。
「目指すは学園都市だな」
そして、アレもまた予感していた。
垣根帝督の一時的な帰還を。
「アレイスター、垣根帝督が戻ってくるぞ。私が扇動し私が送り出した」
学園都市の高層ビルの屋上で、その金色の怪物『エイワス』が虚空に語りかける。
『エイワス。貴方は何を考えている?』
そして虚空より学園都市で最も偉い『人間』の声が響き渡ってきた。
学園都市内でありながら、このような超常現象が起きたのに科学的な要素はない。
それは紛れもなくアレイスターという存在が○○○である証ともいえた。
「何のことはない。つまらないzongew哀pnikagだよ。アレイスター。ふふふ。垣根帝督、彼がこの短期間にどのようなものにへと化けたのか、或いはcikngia皇nikwnaしたのか、興味深い」
『……………………』
「私は私として、アレイスター。君の方こそどうする。今の垣根帝督に並大抵の相手を宛がっても人材の無駄遣いに等しい」
『外部より一人、「ブロック」が招いた者がいる』
「違うだろう、アレイスター。彼等は招いたのではない。何処かの誰かにより『招くよう誘導された』のだろう」
『―――――――――――――』
アレイスターは応えない。
だがエイワスは知っていた。
『ブロック』の招いた男の名は「劉白起」。少し前に垣根帝督と戦い、そして敗れ去った万年に一度の可能性である『聖人原石』であった。
後書きというか近況というか、Fate/zeroのアニメがかなり好クオリティーですねー。それに触発されてか、にじファン内においてもFate/zeroの二次創作が結構生まれてきてます。特に原作で悲惨過ぎたせいか雁夜救済話が多いです。そんな中で、その雁夜を更なる地獄へと叩き落とした私は一体なんなんだろうかとw 救済どころか殺人鬼を召喚したという汚名まで着せてますねw おまけに色々と原作で生存するはずのキャラが死にまくるしw
まぁFate/zeroのことは置いておきましょう、長くなるので。
禁書の方も映画化が決定したので目出度い限りです。そしてコードギアスは亡国のアキトどうなった! モニカとかモニカとかモニカとかモニカとかついでにルキアーノとかが出るかも、と期待してたのに!!
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